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ミステリの祭典

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弾十六さんの登録情報
平均点:6.13点 書評数:459件

プロフィール| 書評

No.259 5点 教会で死んだ男
アガサ・クリスティー
(2020/02/15 18:38登録)
早川オリジナル編集。1923年にSketch誌に連載された25篇のポアロシリーズのうち『ポアロ登場』に未収録の9篇と、1928年のポアロもの2篇、怪奇もの1篇、ミス・マープルもの1篇(1954)を収録。クリスティ文庫で読んでいますが、ポアロとヘイスティングズの会話は、同文庫の『スタイルズ荘』や『ゴルフ場』みたいにバカ丁寧であるべき、と思うので、会話の調子を訳し直して欲しいですね。
初出順に読んでゆく試み。カッコつき数字は単行本収録順です。英語タイトルは初出時を優先しました。

⑴戦勝記念舞踏会事件 The Grey Cells of M. Poirot I. The Affair at the Victory Ball(初出Sketch 1923-3-7): 評価5点
アガサさんの短篇として発行された初めてのもの。最初に8作完成させ、後に4作を追加したという。(初出誌には12週連続掲載) 後年、何度も使われるコメディア・デラルテのモチーフが初登場。映像的なイメージが良い。
p9 ロンドン市内のアパートでポアロと同居: ホームズとワトスンのような関係。
p10 戦勝記念舞踏会: Victory Ballは1918年11月にRoyal Albert Hallで開催されたのが始まりか。(実は同会場で1914年6月14日に米英戦争終結100周年を祝う仮装舞踏会が大成功しており、これをヒントにしたらしい) 戦傷者へのチャリティー目的で同様の企画があちこちで開かれたようだ。この話は春のことだが時期を問わず開催されていたのだろうか。
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TVドラマのスーシェ版(1992, 3期10話)ではラジオが活躍。コメディア・デラルテの服装が再現されてて良い。犯人がわかる決定打がちょっと違ってたけど、あまりアレを目立たせたくなかった、ということかな? Royal Albert HallのVictory Ballは11/11夜開催のようだが、このドラマでは11/10夜から開催のような描写。
(2020-2-15記載)

⑶クラブのキング The Grey Cells of M. Poirot III. The Adventure of the King of Clubs(初出Sketch 1923-3-21) 単行本タイトルThe King of Clubs: 評価5点
コントラクト・ブリッジのネタが少々。知らなくても問題なしですが、ルールが解るとなお話が理解出来ます。
p97 母と組んで、『切り札なしの1組』と宣言したとき(I was playing with my mother and had gone one no trump): 母とペアを組んでる、ということは母の席はテーブルの反対側。ダミーの手が開かれており、ビッドは終わっている状況なので「宣言」は判断を誤らせる翻訳の間違い。(ここを読んで明らかにこの証言は嘘だと判断してしまいました) 試訳「私の『切り札なしの1組』でゲームが進んでいたとき」
p98 目鼻だちや肌の色が似ている(in actual features and colouring they were not unalike): 髪と目の色のことでしょうね。dark同様、何故、肌の色だと誤解するのか?(黒人が社会進出をはじめた頃は、確かに容貌のcolorはまず第一に肌の色だった。それが強い印象として結びついているのかも)
p104 スペードの3組(made a mistake in going one no trump. She should have gone three spades): スペードを切り札にすれば、3+6=9トリック勝てる手のはずだが… ということ。(この箇所は「宣言」でも問題なし。ここに引っ張られてp97の訳語となったのか)
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TVドラマのスーシェ版(1990, 1期9話)でもブリッジを小道具にしています。手札は全部裏返しになっており、ビッド中だったという設定。隣の家、というので間近に思ってたらかなり距離があり、日本のイメージで読んでいたと気づきました。
(2020-2-16記載)

⑻プリマス行き急行列車 The Grey Cells of M. Poirot V. The Mystery of the Plymouth Express(初出Sketch 1923-4-4) 単行本タイトルThe Plymouth Express: 評価5点
長篇『青列車』(1928)の素らしい。アガサさんは列車好きです。この事件は『ゴルフ場』(初出1922年12月号から連載)に引用されてるので、書いたのは結構早かったのでは?ジャップとの関係などの描き方もそんな感じ。
あまり好きな感じの犯人像ではないのですが、上手な構成の話。工夫して一生懸命書いています。
p238 十万ドル(a hundred thousand dollars): 米国消費者物価指数基準1923/2020(15.09倍)で1億6千万円。
p240 通廊つき(a corridor one): 各コンパートメントがそれぞれ独立していて行き来するには一旦地面に降りる客車と、各コンパートメントが通路で繋がっていて列車進行中でも行き来出来る客車の二種類があった。通廊つきは後者。
p245 鋼青色とかいう色に近いもの(the shade of blue they call electric): electric blueは落雷、電気火花、イオン化アルゴンガスのイメージで1890年代に流行。sRGB(44, 117, 255) (以上wikiより) steel blueは空色でくすんだ感じだが、electric blueは明るい空色。企業ロゴで言えばLAWSONの看板の水色。(Webでelectric blue dressを検索するとANAのロゴみたいな濃い青色が主流… ファッション用語なら濃い青の方なのかも)
p253 三ペンスつかって、リッツ・ホテルに電話(expend threepence in ringing up the Ritz): 英国消費者物価指数基準1923/2020(60.87倍)で110円。公衆電話料金でしょうか。当時の電話は交換手を必ず通す仕組み。当時の3ペンス貨はジョージ5世の肖像で1920年以降は純銀から.500 Silverに変更、重さ1.4g 直径16mmは変わらず。
p256 半クラウン: 上述の換算で1080円。新聞売り子への法外なチップ。当時の半クラウン硬貨はジョージ五世の肖像で1920年以降は純銀から.500 Silverに変更、重さ14.1g 直径32mm。重くてデカいので印象抜群ですね。(2020-3-11追記)
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TVドラマのスーシェ版(1991, 3期4話)では服の色は空色。列車が出てくる映像は大好きです。鉄道ミステリ傑作選の映像版があったら良いですね。
(2020-2-16記載)

⑷マーケット・ベイジングの怪事件 The Grey Cells of M. Poirot, Series II IV. The Market Basing Mystery(初出Sketch 1923-10-17): 評価5点
密室の謎… は残念ながら単純に解明されちゃいます。後のポアロものの中篇「厩舎街の殺人」Murder in the Mews(1936)と設定が似てるらしい。
p119 植物好き(an ardent botanist): ジャップの趣味として紹介されてるが、ここだけか。
p121 ウサギの顔は可憐だが(That rabbit has a pleasant face,/ His private life is a disgrace./ I really could not tell to you/ The awful things that rabbits do): ヘイスティングスが口ずさんだ唄。作者不明の詩らしい。原文quoteなのでオリジナルではない。調べつかず。
p133 水兵はハンカチを袖にいれる(A sailor carries his handkerchief in his sleeve): Webにワトスン(グラナダTV版)が袖からハンカチを見事に取り出す画像がありました。
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TVドラマのスーシェ版は無し。
(2020-2-29記載)

⑵潜水艦の設計図 The Grey Cells of M. Poirot, Series II VII. The Submarine Plans(初出Sketch 1923-11-7): 評価5点
軍事機密の設計図もの。状況が面白いが中途半端な感じ。後に「謎の盗難事件」(The Incredible Theft 1937)として改作。
p45 官庁の公文書送達係(special messenger): 訳文のような意味があるのか調べつかず。郵便局の電報配達少年の「特別版」(至急便など)のような気がするが…
p46 デイビッド・マカダム現首相(David MacAdam):「首相誘拐事件」(Grey Cellシリーズ1第8話)に登場。
p46 大型のロールスロイス(A big Rolls-Royce car): Silver Ghostかな。
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TVドラマのスーシェ版は無し。
(2020-3-5記載)

⑼料理人の失踪 The Grey Cells of M. Poirot, Series II VIII. The Adventure of the Clapham Cook(初出Sketch 1923-11-14): 評価4点
作りものすぎて筋が通っていない。夫人のキャラだけが目立っている。The man on the Clapham omnibus(普通の男の典型例)という言葉があるようにクラパムには普通感が漂うようだ。(メイドとコックがいる家庭は今では普通とは思えないですね)
p270 くだらない失業手当(wicked dole): National Insurance Act 1911で失業手当が初導入された。最高額は週7シリング(=3023円、月額13098円)だった。
p270 マーガリン: 19世紀末の発明。
p285 相談料1ギニー: 9068円。普通っぽい謝礼金額。
(2020-3-7記載)
TVドラマのスーシェ版(1990, 1期1話)は実に納得のゆく話になっています。原作もそういう意図だったのかも。(ポイントは、当座の間だけ誤魔化せば良いと犯人が考えてたのが明白かどうか) 銀行のシーンで客(ポアロ)がティッカー・テープを読んでるシーンがチラッと映るのだが、株式市場の最新情報を提供するサービスなのかな?
(2020-3-20記載)

⑺コーンウォールの毒殺事件 The Grey Cells of M. Poirot, Series II X. The Cornish Mystery(初出Sketch 1923-11-28): 評価6点
アガサ的ミステリ世界がコンパクトにまとまってる印象。典型例として使えそう。
p197 管理人のおばさん(our landlady): この連作の“ハドスン夫人”なんだけど、いつも客の到来を告げるだけの役目でキャラづけ無し。ポアロたちの部屋は二階にあるので一階の管理人が来客を迎え、店子に到着を知らせる仕組みのようだ。名前(Mrs. Murchison)が出てくるのは1923年発表の25篇中では一回だけ。(『西洋の星』)
p204 年に五十ポンド: 43万円。若い娘の収入。
p211 安っぽいイギリス製のベッド(the cheap English bed): ポアロが感じる田舎の宿の恐怖。
p212 肌の浅黒い長身の青年(a tall, dark young man):「黒髪の」
p212 コーンウォール地方特有のタイプ(the old Cornish type): dark hair and eyes and rosy cheeksと表現。詳細はCornish people(wiki)参照。ローマ侵攻前のブリトン人(ケルト系)の末裔らしい。
(2020-3-11記載)
TVドラマのスーシェ版(1990, 2期4話)はかなり原作に忠実。サンドウィッチが美味しそう。『易経』をミス・レモンとヘイスティングズが試してるシーンあり。(有名な英訳は1882年James Legge訳のようだが、ドラマで使ってる本は違うようだ)
(2020-3-22記載)

⑸二重の手がかり The Grey Cells of M. Poirot, Series II XI. The Double Clue(初出Sketch 1923-12-5): 評価5点
この知識、英国人には一般的ではなかったのかな?(似たようなネタがアガサ作品のどこかで使われてた記憶あり) Vera Rossakoff伯爵夫人はこの作品が初登場。
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TVドラマのスーシェ版(1992, 3期7話)は未見。見終わったら追記します。
(2020-3-13記載)

⑹呪われた相続人 The Le Mesurier Inheritance (初出The Magpie1923年Christmas号) 単行本タイトルThe Lemesurier Inheritance: 評価4点
Magpieは1923-1924の夏と冬に4号だけ発行されたSketch誌の特別増刊号、2シリング96ページ。
語りのテクニックが稚拙だが、陰影のあるラストがアガサさんらしい感じ。
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TVドラマのスーシェ版は無し。
(2020-3-22記載)

(10)二重の罪 Double Sin (初出 週刊紙Sunday Dispatch 1928-9-23)

(11)スズメ蜂の巣 Wasps' Nest (初出Daily Mail 1928-11-20)

(12)洋裁店の人形 The Dressmaker's Doll (初出[Canada]Star Weekly 1958-10-25、トロント・スター紙の週刊版)
怪奇もの。

(13)教会で死んだ男 Sanctuary (初出This Week 1954-9-12〜9-19, 2回連載, 挿絵Robert Fawcett、連載タイトルMurder at the Vicarage)
ミス・マープルもの。


No.258 6点 顔のない男 ピーター卿の事件簿2
ドロシー・L・セイヤーズ
(2020/02/08 23:52登録)
日本での編集版(2001年4月)、ピーター卿短篇集の第2弾。最近『大忙しの蜜月旅行』を出すんだから、ついでに第3弾も是非。解説は真田啓介さん、いつものように素晴らしい。
先に第1弾を読むつもりでしたが、本棚のどこかに潜り込んでるらしく行方不明。
例によって少しずつ読んでゆきます。暫定評価点は6点で。
トリビア中の[BP]はBill PeschelのサイトAnnotating Wimseyからのネタ。

⑴ The Unsolved Puzzle of the Man with No Face (初出 短篇集”Lord Peter Views the Body” Gollancz 1928): 評価7点
素晴らしい語り口。流れるように物語は進み、キレの良い結末で幕。BBC1943年のラジオドラマ、残ってるかなあ。是非聴いてみたいです。レギュラー・キャラでは新聞記者のサルカム・ハーディが姿を見せます。
p10 公定休日(バンク・ホリデイ): Bank Holidayは英国議会でBank Holidays Act 1871により定められた公定休日。1928年時点のイングランドでは当初制定のEaster Monday(3月~4月)、Whit Monday(5月~6月)、8月第1月曜日、Boxing Day(12/26)の四日のみ。作中時間は泳げる季節の「暑い週末(p54)」なので「8月第1月曜日」ですね。1927年なら8月1日が該当。
p10 三等車の客も一等車になだれ込んで(overflow of thirdclass passengers into the firsts): もともとの客が貸し切る予定で余分のお金を払った(paid full fare for a seclusion)のに、そのコンパートメントにもとの客を含め8人の乗客を詰め込んでるが、良いのだろうか。後で返金されるのかな?
p25 ネグレッティ&ザンブラ商会(Messrs Negretti & Zambra): [BP] 1850年創業の科学機器販売会社。このくだりは商会の温度計で観測した記録的な猛暑(rocketing thermometrical statistics)のニュースだろうと言う。(宮脇さんは商会の株価が温度計のように急上昇したニュースとして訳している) ニュース素材として考えると[BP]の解釈が合っている感じ。Webに1901年1月15日この会社の政府公認温度計がカナダのYukon準州Dawsonで-68℉(-55.5℃)を記録した時の写真がありました。
p27 好評な広告、クライトン(Crichton’s for Admirable Advertising): 広告会社のキャッチ・フレーズ。もちろん架空。セヤーズさんが当時(1922-1931)働いてた広告業界の人々が描写されてます。
p33 猿も木から落ちる(Bally old Homer nodding): ことわざeven Homer nods(ホメロスの居眠り)より。
p49 戦争のどさくさで出世(pushed into authority during the war): 日本で言う「三等重役」ですな。
p53 あまたの波の笑い声(the innumerable laughter of the sea): ギリシャ語が出てくるのに潔く訳注なし。Aeschylus PV89-90より。アイスキュロス作『縛られたプロメーテウス』(Prometheus vinctus, c470BC 偽作らしい)からの引用のようだ。
p55 ツグミのごとく…(I sing but as the throstle sings,/Amid the branches dwelling): こちらも訳注なし。[BP] ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』(1796) 第二巻 第11章より。
p58『真実とは何ぞ?』とからかい半分にピラトは言った(“What is Truth?” said jesting Pilate): 引用だと気づきませんでしたが、[BP]Francis Baconのエッセイ“Of Truth”(出版1601)からの引用とのこと。元々はヨハネ福音書18:38 Pilate saith unto him, What is truth?(KJV) 文語訳: ピラト言ふ『眞理とは何ぞ』
(2020-2-8記載)

⑵The Fascinating Problem of Uncle Meleager’s Will (初出Pearson’s Magazine 1925-7): 評価6点
妹メアリも登場して賑やかな感じの楽しい作品。クイズ部分はあっさり読み飛ばしました。
忠実な執事バンターですらハマっているクロスワードパズルは1913年米国で発明、英国初上陸はPearson’s Magazine 1922年2月号、新聞紙ではSunday Express 1924-11-2が最初らしい。Daily Express紙は同年1924年、Daily Telegraph紙は1925年からだという。
さて、翻訳の難しい本作ですが、原文ではp79-97の答えはもちろん別ページに完成図を収録。それぞれの答えについてるコメントは訳者の親切で、原文にはありません。p98以降の会話にも答え関連の単語は一切出てきません。(「賛美歌」,「CANTICLE」,「旧約のソロモンの雅歌」,「31番目」は訳者の付加) なので、クイズ部分を飛ばして物語を読みおわっても、後から解く楽しみが残っている、という次第。作中時間は『雲なす証言』後の6月、ということは1924年か1925年。英国の新聞紙へのクロスワード初登場以降である1925年6月が有力か。
p60 かすれた軽いテナーの声(In the husky light tenor): ウィムジイの声質。
p60 ママン、ディット・モア(Maman, dites-moi): 作者不詳のフランス伝統歌。J. B. Weckerlinの編曲で知られているようだ。
p61 石鹸がない(‘No soap’): 原文はバンターの発言(か内心の声)。「もしかして石鹸が無かったかも」と自分の手落ちを疑ったのか。
p62 アルフレッド(Alfred): 鍵は「六文字で最後がredで終わる無関心な料理人」(indifferent cook in six letters ending with red) 「下手な料理人」の意味かも。ピーター卿シリーズにこの名のコックは出てこないようだが… 調べつかず。
p62 名探偵(Sherlock): 素直に「シャーロック」と訳せば良いと思います。
p62 ソヴィエト・クラブ(Soviet Club): 『雲なす証言』でお馴染み。「友人ゴイルズ」云々のシーンも出てきます。
p67 25万ポンド(£250,000): 英国消費者物価指数基準1925/2020(61.20倍)、£1=8683円で換算すると約22億円。遺産。
p71 ラジオ(his wireless)… サヴォイ楽団の演奏(the Savoy bands): Savoy Hotelの楽団、という意味か。Debroy SomersのSavoy Orphans(1923-1927)などが有名。
p71 デイリー・イェル紙の… 懸賞で十ポンド(£10 prize in the Daily Yell): 86831円。新聞は架空。懸賞金もクロスワード流行の一因だった。
p77 おお、素晴ら楽しき日よ!カルー!カレー!(O frabjous day! Callooh! Callay!): frabjousはルイス・キャロルの造語。fair, fabulous, joyousを混ぜたものらしい。最新の高山宏訳(2019)では「なんたるふらぶる日か、軽う!華麗!」、宮脇訳の方がずっと良いですね。叫び声は「キャルー、キャレー」(角川文庫 岡田忠軒訳だったかな)が狂気じみてて好き。
p98 俗称(Vulgate): ウルガタ聖書(ラテン語訳)で「ソロモンの雅歌」(KJV: Song of Solomon)はCanticum Canticorumと訳される。この英語直訳がCanticle of Canticles。
p98 少しうしろを見よ(look a little further back than that): やや古いのを見よ、の意味か。(ウルガタ聖書は5世紀初めに成立し、15世紀に公認された)
p99 おお、わが鳩よ…:
改訳聖書(p99)English Revised Version(旧約は1885年出版) O my dove, that art in the clefts of the rock, in the covert of the steep place
宮脇訳: おお、わが鳩よ、汝は岩間におり、断崖の隠れどころにおる
欽定訳聖書(p100)King James Version(1611年出版) KJV (略) in the clefts of the rock, in the secret places of the stairs
宮脇訳: (略) 岩の裂け目のあいだに、階段の秘密の場所に
前半は同じに訳して良い気がします。なお、文語訳は「磐間にをり 斷崖の匿處にをるわが鴿よ」
p101 九か月ほど前(about nine months previously): 隠した時期。となるとクロスワードの英国での流行と時期が若干ズレるが、クイズは隠した後で作成した、とも考えられる。(以前はアクロスティックに凝ってたというので、当初はそっちでクイズを構成していたのかも)
p102 南アフリカの四足動物で、Qで始まる六文字(a South African quadruped in six letters, beginning with Q): 締めのクイズには作者からの答えなし。[BP]に回答案がありました。(多分正解)
(2020-2-15記載)

⑶Beyond the Reach of the Law (初出Pearson’s Magazine 1926-2 挿絵John Campbell) 単行本タイトルThe Unprincipled Affair of the Practical Joker: 評価5点
Practical Jokerと言えば『いたずらの天才』The Compleat Practical Joker(1953) by Harry Allen Smithをすぐに連想してしまいます。子供の時、読んで非常に感銘を受けた名著。(変ですか?) どうやら絶版らしい… (乱歩物件でもありますよね。)
本作は、企みが単純で、ピーター卿に余計な属性を付け加えてる。スーパーマンの主人公は読者の興味を確実に減退させます。前段の女性の説明を聞いてどういうシチュエーションかよくわからないのは私だけ?
レギュラーキャラはバンター、マーチバンクス大佐、フレディ・アーバスノット、インビィ・ビッグズ。フレディに「私」は似合いませんが…
p104 ピーター・ウィムジイ卿(従者1名)(Lord Peter Wimsey and valet): 宿帳の記名。従者の名前は不要なのか…
p107 ソブラニー(Sobrany): 王室御用達のタバコ(1879年創始)
p106 アッテンベリーのダイヤモンドの事件(Attenbury diamond case): エメラルドとも書かれているピーター卿の語られざる初事件。
p107 ピーター卿の容貌(the sleek, straw-coloured hair, brushed flat back from a rather sloping forehead, the ugly, lean, arched nose, and the faintly foolish smile): 詳しい描写はここが初めてかも。
p108 顎の下にひげ(grew a Newgate fringe): [BP] 顎の下部、又は顎と首の間のヒゲ。絞首刑のロープがあたる部分なのでこの名がある。
p108 アルジーなんて間抜け名前をつけられた者みたいに(always to look as if one’s name was Algy): Algernonの愛称。Bulldog Drummondシリーズに戦友のAlgy Longworthというレギュラーキャラ(1922年の映画などにも登場)がいるが…
p109 新軍の軍人で、正規軍に移った(New Army, but transferred himself into the Regulars): New Armyはキッチナーの主導(例のポスターが有名)による1914年からの志願兵。あまりに多くの新兵が集まったので装備も訓練も行き届かず、待遇も正規兵とは違うものだったようだ。
p111 わたしは捨てられたのです: 気持ちがこもってる感じなのはセヤーズさんの実体験から?
p114 ここら辺のやりとりはContract bridgeのビッド。ピーター卿とビッグズ、フレディと大佐がペア。このビッドはワン・ノートランプ(切り札無しで7トリック勝つ)で成立、ダミーはビッグズ、最初のプレイヤーはフレディ。最初のトリックはピーター卿がハートのエースで勝ち、次のトリックが始まる前にメルヴィルが登場。(ブリッジはアガサさんの『ひらいたトランプ』を読んでから、ちゃんとしたことが知りたくなって勉強したなあ…)
p114 ぼくとメルヴィルの組(Melville and me): ピーター卿は対面して座りたかったようだ。
p117 二十シリングのリミット(a twenty-shilling limit): レイズの幅£1=8730円(1926年基準)、結構な額だと思うが、ギャンブラーには不満。
p120 メルヴィルの部屋(Melville in his own room): 舞台はクラブだが、メンバーには自室が用意されるものなのか。
(2020-2-15記載)

⑷The Bibulous Business of a Matter of Taste (初出 短篇集”Lord Peter Views the Body” Gollancz 1928): 評価4点
なんでこんなの書いたんだろう。作者本人が執筆したファンアート(二次創作)。おまけに銃の名手という属性までつけて… 呆れます。
p129 お馴染みのウィムジイ面: narrow, beaky face, flat yellow hair, and insolent dropped eyelidsと表現。
p131 ボンネットばかりが目立つ巨大なルノーのスーパー・カー: Renault Reinastellaか。(1928年なので、モーターショー出品時の名称Renault Renahuitが正確か) 前のモデル40CVならそれほどボンネットのお化け感は無い。
(2020-3-10記載)

⑸The Queen’s Square (初出 短篇集“Hangman’s Holiday” Gollancz 1933)
⑹ In the Teeth of the Evidence (初出 短篇集“In the Teeth of the Evidence” Gollancz 1939)
⑺Striding Folly (初出Strand Magazine 1935-7)
⑻犯罪実話The Murder of Julia Wallace (初出Evening Standard 1934-11-6, 加筆して研究書“The Anatomy of Murder: Famous Crimes Critically Considered by Members of the Detection Club” Bodley Head 1936に収録)
⑼探偵小説論 “Great Short Stories of Detection, Mystery, and Horror” Gollancz 1928の序文


No.257 7点 三つの栓
ロナルド・A・ノックス
(2020/02/08 10:33登録)
1927年出版。ブリードン第1作。読みやすい翻訳。解説は真田啓介さんの力作。
冒頭近くにブリードンと妻との馴れ初めが書かれています。戦争中につかまったのね。謎は小粒ですがなかなか考えられており、出てくる登場人物の会話が良い。夫婦の茶々も微笑ましい。起伏ある展開で、程よいスリルもあり、解決も納得です。(三つの栓の図は第25章じゃなくて第4章で示すべきだと思います)
グロい要素は全く無く、穏やか過ぎて、全カトリック推奨図書みたいなのが欠点? お子様にも安心して読ませられますね!(でも子供にはこの面白さはわからないだろうなあ。某社ジュニア・ミステリってなんか方向性が違う… ハック・フィンがトム・ソーヤより受けなかった故事を思い返して欲しい)
以下トリビア。
作中時間は、p34で六月十三日がブリードン夫妻の到着の2日前と記載され、1日前が火曜日(p35)で事件発生日だという。日付と曜日から1927年6月14日火曜日が該当。(1921年も候補だが、ちょっと遠い気がする。)
現在価値は英国消費者物価指数基準1927/2020で63.24倍、1ポンド=8916円で換算。
副題がA detective story without a moral(教訓なしの探偵小説)となっています。なぜわざわざmoralに言及してるんでしょう?
献辞はDEDICATED TO Susan and Francis Baker / ONLY HE MUSTN'T SIT UP TOO LATE OVER IT(でも彼はこの本で夜更かししちゃ絶対駄目) Francisだけに対する注意って、夫の方が重度のミステリ・ファンなのか。それとも子供なのか。
p9 安楽死保険(Euthanasia policy):「安楽死保険」は商品としてありえないネーミングだし、意味がずれて違和感あり。ギリシャ語εὐθανασία(eu+thanatos)の英語直訳はwell or good death。いつ死んでもいいように準備しておく保険なので「平穏長眠保険」、「安心往生保険」あたりでどう?(と思ったら「あとがき」p253、p275でも違和感が表明されてます。普通、そう思うよね。)
p10 答えは明らかに否である(Apparently not): apparent(明白、明瞭)を副詞形にして文頭に使うとニュアンスが変わって「一見、そー見える(けど違う)」の意味になる。前文を受けApparently he does not feel thatで試訳「外見上はそんな風でもないが、実際にはそう感じているはずだ。」(2020-2-8修正及び以下追記) “Apparently not” means that you originally thought something was right but it’s actually wrong. Web上でネイティブがこう記しているのを考慮すると、前文を受けるのではなく、Apparently notを成句と解釈して「そうも考えられるが、実際には違うだろう。」という意味が適切か。
p19 三十そこそこ(still in the early thirties): かろうじて三十前半、というニュアンスではないか。
p20 戦争: 1914年に22歳くらいか。(大学卒業ごろに戦争が勃発し、進路に悩む必要がなくなった、という風にも読めるので) とすると1927年には34〜35歳、p19の英語表現に合う。(事件発生1921年説は28〜29歳なので合わず)
p25 災厄の積み荷(Load of Mischief): あとがきp275に解説あり。understateを通り越した自虐は英国趣味のような気がする。
p26 ロールス(Rolls): ロールス・ロイス。ブリードン夫妻は結構良い暮らしをしているようだ。
p26 小麦で育てるものだから、手に負えなくなってきている(You've been feeding him corn, and he is becoming obstreperous): コーン・フレークなんか食べさせるから我儘になってるんじゃないか、という意味か? 英国にKelloggのCorn Flakesが上陸したのは1920年代だという。
p32 古風な感想帳(old-fashioned visitors' book): 客が感想を書き会う日誌。発祥はいつ頃からか。
p38 電灯が引かれていなかった… アセチレンガスを供給する装置… ランプをともす…(no electric light… was lighted by acetylene gas from a plant): 全英を網羅する高圧電力網(National Grid)が完成したのは1933年。アセチレンは人体に無害なので死ぬとしたら酸素不足による窒息死ですね。(2020-2-8訂正)
p44 五ポンド賭ける(having a fiver on it): 44578円。なんでも賭けちゃう英国人。あとがきp275にも解説あり(日本円への換算は無し)。
p47 土地から名前をつける習慣は妙に英国的(this habit of naming the man from the place is curiously English): 多くの民族(ウェールズ人やロシア人など)は祖先の苗字を名乗り続けるがイングランド人は移住すると土地の名を苗字とする、という。調べていません。
p48 ある物語で、年中、友人に池を浚いに来てくれと頼む人物が(who was the character in Happy Thoughts who was always asking his friend to come down and drag the pond): Happy Thoughtsは原文イタリック。調べつかず。(2024-07-16追記: "Happy Thought" by F. C. Burnand(Boston 1873) 第六章のあたりか)
p58 タモシャンタン帽(tam-o'-shanter):「タモシャンター帽」の誤植か。スコットランドの民族帽(tammie)。19世紀にRobert Burnsが流行してから、その詩Tam o' Shanter(1790)にちなんで言われるようになった。
p59 几帳面な人間なら八日巻き時計は日曜に巻くものだ(A methodical person winds up his eight-day watch on Sunday): 1900年代初頭のスイスで発明。週に一度巻けば良い、ということで、1931年のロレックス自動巻きが現れるまで流行。フロントダイアルにfly wheelが見えているデザインが多いらしい。
p60 安物の大きな聖書… 配布する団体… 各部屋に一冊ずつ(a large, cheap Bible… a Society which provides those… one for each room): ホテルの各部屋用に聖書を無料配布したのは米国のGideon Societyが最初(1899)らしい。
p73 電報: 急ぎの用事は電話ではなく電報の時代。
p85 司祭は教区から教区へ転々としない(our priests don't swap about from one diocese to another): カトリックではそうだ、と登場人物(カトリック司教の秘書)がいう。だがブラウン神父も、そのモデルとなったJohn O'Connor神父も結構教区を変わってるようだが… ノックスが間違えるとは思えないのでdioceseの解釈が違うのか。詳しく調べていません。
p92 五十万ポンド: 44億円。莫大な遺産。
p105 カリポリ(Callipoli): この煙草ブランド名は架空と思われる。
p107 ディナー用のドレス(dress for dinner): イブニングドレスよりも肌を出す部分が少なく、丈も極端に長くなくスカートもさほど大げさではない。全体的にくつろいだ感じのものが多く見られる。(ファッション用語は全然わからないのでfashionseni.blog.ss-blog.jp/2013-03-25から引用) なるほどね。
p108 ピュージ(Pusey): 訳注 1800-1882 英国の神学者、宗教改革指導者。Edward Bouverie Puseyのことらしい。「最後の審判の日を絶景と呼んだ(calling the Day of Judgement a fine sight)」のかな? 調べつかず。
p110 探偵の口は堅いというのは、小説家の作り事(The strong silence of the detective… is a novelist's fiction): 探偵小説への言及。黄金時代の特徴。
p113 本物の銀にはライオンが刻印されている(every genuine piece of silver had a lion stamped on it): アンジェラが子供の頃に教わったトリビア。純銀を示すHallmarkのthe lion passantには17世紀からの伝統があるらしい。
p121 宿の女中(barmaid): ここでは宿のメイドを指す語として使っている。バーがある場合に使う語のように思われるが… (この宿にはバーがある感じではない)
p121『喜んで』(Raight-ho): right-ho, rightoの訛りか。英国のinformal(くだけた)用法でan expression of agreement or compliance、yes, certainlyの意味。
p159 いつも[カードを]二組持ち歩いています(I always travel with two [pack]): 2組のカードを使うソリティア(Spiderなど)があるから?
p180 千ポンド… すべてイングランド銀行の紙幣(a thousand pounds..., all in Bank of England notes): 892万円。当時(1925-1929)のBank of England noteは5, 10, 20, 50, 100, 200, 500, 1000ポンド札の8種類。デザインはいずれも白地に文字だけ、裏は無地の札(White Note)、サイズは5ポンド紙幣が195x120mm、10ポンド以上は同じ寸法で211x133mmとかなり大型。(1945年4月までWhite Noteの体系は変わらず、古い英国映画などに出てきます。) わざわざ「イングランド銀行の」と言ってるのは、当時(1914-1928)は1ポンド札以下の小額紙幣を財務省(Treasury)が発行しており、あったのは全て高額紙幣だよ、という意味か。
p186 映画: 牧師館の裏納屋で開かれる、この村の金曜夜のお楽しみ。牧師館にも電気は来てない設定なので映写時の電気をどうやって確保したのか。自動車のバッテリー?映写機って結構パワーを必要とするように思うのだが。
p195 車椅子(invalid's chair): Web検索するとwheel chairとは違うタイプがある。どうやって動かすのだろう?後ろから押す専用か?
p196 玉転がしのゲームが終わるまで戦は待てと命じたドレイク(Drake insisting on finishing his game of bowls): Sir Francis Drake(1543頃-1596)は1588年無敵艦隊との戦いで、開戦前にPlymouth Hoeでlawn bowlsを楽しんでいたところにスペイン艦隊接近の報せが届いたが、ゲームをすませて奴らをやっつけるのに充分な時間があるから、このゲームが終わるまで待てと言った、という伝説(目撃証言なし) 。(wiki)
p197 中国語のタイプライター(Chinese typewriter): 1917年に上海のHou-Kun Chow(周厚坤)が最初に発明。4000文字用だったという。(wiki)
p199 時代遅れのミュージカルの一節(an out-of-date musical repertoire)… 娘たちはみな泣き出した…(All the girls began to cry, Hi, hi, hi, Mister Mackay, Take us with you when you fly back to the Isle of Skye): 調べつかず。明らかにスコットランドねた、Harry Lauderあたりか。
p205 火が地に向かって走った(the fire ran along the ground): Exodus 9:23 (KJV) “And Moses stretched forth his rod toward heaven: and the LORD sent thunder and hail, and the fire ran along upon the ground; and the LORD rained hail upon the land of Egypt.” (文語訳: モーセ天にむかひて杖を舒たればヱホバ雷と雹を遣りたまふ又火いでて地に馳すヱホバ雹をエジプトの地に降せたまふ)
p210 八マイル[少々]を十二分で: 平均時速97キロ。
p211 そこがむかつく点なのさ—失礼、奥さん(That's the devilish part of it—I'm sorry, Mrs Bredon): 罵り語を使ったら、その場にいる女性に詫びるのがエチケット。
p212 郵便列車(mail train): 最優先というルールなのでしょう。
p212 女中に渡すチップの二シリング(a tip of two shillings for the barmaid): 891円。
p236 反転する立方体の錯覚(the optical illusion of the tumbling cubes): Rhombille tiling(Tumbling Blocks)は寄木細工模様として古代ギリシャのデロスや11世紀のイタリアの床タイルに見られる連続模様。私はこの部分を読んでて単独の線画立方体Necker cube(1832)の方を連想してました。


No.256 6点 火曜クラブ
アガサ・クリスティー
(2020/02/04 23:16登録)
1932年6月出版。深町 眞理子さんの創元新訳(2019)で読んでます。訳注は各篇の最後にまとめず同じページに収めて欲しいです。
40年前に読んでいますが、もちろん全然覚えていません。(昔の創元文庫の方だったと思います…)
本当は第2作『秘密組織』を読む予定でしたが、偶然、書店で見つけて思わず買っちゃいました。
冒頭を読んで、ああ、この設定、バークリーはパクったな、と感じました。バックグラウンドの違う数人が犯罪をネタに語り合う、という雰囲気がとても似ています。シェリンガムの犯罪研究会の方は週一回月曜日の会合。(アガサさんのこの設定の元ネタも探せばあるのかな?) 本書収録短篇の初出は最初の6篇がThe Royal Magazine 1927-12〜1928-5なので『毒チョコ』(1929年6月出版)がヒントにするにはちょうど良い時期。バークリーがこの連載を知らなかったとは思えません。
英国初出順に少しずつ読んでゆきます。全体の暫定点は6点で。なんだかとても懐かしい感じ。(なんせアガサさんは私の故郷なので…)
以下、カッコつき数字は単行本収録順。単行本(The Thirteen Problems, 米題The Tuesday Club Murders)では若干順番を変えています。タイトルは初出のもの(FictionMags Index調べ)を優先しました。
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献辞は「レナードとキャサリン・ウーリーに」
Leonard Woolley(1880-1960)は英国の考古学者で妻はKatharine Woolley。Leonardのassistantの一人がMax Mallowan。アガサさんは離婚直後の1928年にロンドンのディナー・パーティで熱心にバグダッドとウルについて語る若い海軍夫妻に偶然出会い、その影響で二日後のジャマイカ行きをキャンセルし、オリエント急行に乗って初めて中東旅行をすることにした。ウルで出会ったウーリー夫妻は『アクロイド殺人事件』の大ファンで、初対面にもかかわらず丁重にもてなしてくれた。マローワンに初めて会ったのは、2回目のウル旅行の時(1930年3月)で、彼とは1930年9月に結婚。(Agatha Christie Wikiより、クリスティ自伝により2020-2-5修正)
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⑴ The Tuesday Night Club (The Royal Magazine 1927-12): 評価6点
6ヵ月連続連載のThe Royal Magazineはピアスン発行のイラスト入り雑誌。(このシリーズのイラスト担当はGilbert Wilkinson)
ミス・マープル初登場。登場人物たちのさらっとしたスケッチが上手い。まずは小手調べ、といった内容。第1回目は元警視総監サー・ヘンリーの話。
p20 コンパニオン♠️訳注によると「良家の女性が就いて恥ずかしくない、数少ない職業だった」とのこと。なるほどね。アガサさんの小説には結構登場してた記憶があります。
p21 すこし前に、ある夫が妻を毒殺するという事件が(there had recently been a case of a wife being poisoned by her husband)♠️この事件発生(語ってる時点の「一年ほど前(p19, a year ago)」なので1920年代前半ごろか) 実在の事件を指してる?調べつかず。
p22 八千ポンドの遺産♠️英国消費者物価指数基準1927/2020で63.24倍、1ポンド=8916円で換算すると8000ポンドは7132万円。
p26 バンティング療法♠️William Banting(1796-1878)有名な葬儀屋。初めて食事制限による痩身法を広めた人。炭水化物、特にでんぷんや砂糖の摂取を控える方法だった。
p30 毎日マットレスを裏返す… もちろん金曜日は別♠️スプリング式ベッドマットレスの発明前、羽毛マットレスは毎日ひっくり返してふっくらさせる必要があった。金曜日に(場合によっては日曜日にも)マットレスをひっくり返すのは不吉だという迷信があった。(The Penguin Guide to the Superstitions of Britain and Irelandより)
(2020-2-4記載)
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⑵ The Idol House of Astarte (The Royal Magazine 1928-1): 評価5点
クリスティ自伝を読むと、⑴〜⑹を書いた頃のアガサさんは離婚しようか悩んでた時期。そして⑺〜(12)を書いた頃は、中東に魅せられ新しい人生が始まる予感たっぷりの時期。多分それがクリスティ再読さまが指摘する作品の出来となって現れているのだろうと思います。そして私が⑴で感じた「懐かしさ」というのは悲しい時には心地良い話を書きたい、という作者の当然の心理のなすところでしょう。
本作は老牧師ペンダー博士の語り。(登場人物が次々と語るのは『カンタベリー物語』っぽい感じですね。) 運命を受け入れる話。
p37 “幽霊”… 元気盛んで、はた迷惑な(‘ghosts’… robust personality)◆くっくと笑いながら元警視総監が言う。ghostは犯罪関係の隠語か? 調べつかず。(Hammersmith Ghost murder case 1804というのがあるが関係ありかなぁ)
p38 ダートムア(Dartmoor)◆といえばシャーロック・ホームズのバスカヴィル家ですね。今回調べるまでずっと北のほう(スコットランドの近く)だと思っていました。
p60 クロックゴルフ(clock golf)◆1905年の用例(Miamiのホテルで行われた)が残っている。円形のグリーンの周りに時計の文字盤のように番号をセットし、ボールを番号のところに置き、中心のカップに向けてパットする。番号順に回って次々とパットするゲームらしい。
p63 南極探検(an expedition to the South Pole)◆Robert Falcon Scott(1868-1912)の南極探検は1回目が1901–1904、2回目は1910-1912。
(2020-2-5記載)
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⑶ Ingots of Gold (The Royal Magazine 1928-2): 評価5点
語り手はレイモンド。こちらも不吉なムードが支配する話、内容は他愛のないもの。
p86 かの有名なプリンスタウンの刑務所: PrincetownにあるのはHM Prison Dartmoor 1809年の創設。この作品の頃にはsome of Britain's most serious offendersを収容していた。(wiki)
(2020-2-6記載)
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⑷ The Bloodstained Pavement (The Royal Magazine 1928-3): 評価5点
画家ジョイスの語り。コーンウォールは「むかしなつかし」の地で、観光バス(p91, charabanc)で観光客が押し寄せるようなところらしい。(wiki: Culture of Cornwall参照) この話自体は暗いトーンで単純なもの。
(2020-2-7記載)
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⑸ Motive vs. Opportunity (The Royal Magazine 1928-4): 評価5点
事務弁護士ペザリックの「地味」な話。クローズアップ・マジック風味。でも昔読んだこのトリック何故か覚えていました。読者の気をそらす演出が不足してるので驚きも半減。
(2020-2-7記載)
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⑹The Thumb Mark of St. Peter (The Royal Magazine 1928-5): 評価5点
ミス・マープルの話。謎は単純。執筆の頃のアガサさんが「無分別な行動」で世間から噂のまとになっていたのはご承知の通り。(そのため海外旅行が好きになり、中東の美を発見することになる。) 「うわさ話ほど残酷なものはない… 闘うこともまたむずかしい…」
ミス・マープル第1シリーズはここまで。確かに皆さんご指摘の通り、大したことない話ばかりです。
p138 お手伝いのクララに食事宿泊特別手当を(put Clara on board wages)♣️通いのお手伝いに泊まって貰う時の食事等の日用品代として上乗せする賃金のようだ。色々調べてたら1909年の住み込みメイドの年収が20ポンドで、平均(いつのものか不明)の£20 13s 4dに近い、というデータがありました。英国消費者物価指数基準1909/2020(119.82倍)で、それぞれ337848円、349038円。月収29000円ほど… Samuel & Sarah AdamsのThe Complete Servant: Being a Practical Guide to the Peculiar Duties and Business of All Descriptions of Servants(1825)によると、16000ポンド(英国消費者物価指数基準1825/2020(94.07倍)で約2億円)の収入があった郷紳一家のハウスメイド(住み込み)の年収は15ギニー(21万円)で、board wageは女性が週10シリング(6631円)、男は12シリング(7957円、酒手分?)だった。執事は50ギニー(70万円)、フランス人コックは80ギニー(111万円)で使用人中一番の高級取り。(二番目は猟場管理人70ギニー、三番目が執事) 当時の使用人の情報満載のこの本Google Playで無料です。
p138 家宝のチャールズ王時代の把っ手蓋つきジョッキ(タンカード)を銀行に預け(the King Charles tankard to the bank)♣️原文に「家宝」無しだが値の張るもの、というニュアンスで付加したのでしょう。不在時の泥棒対策でこーゆーものを銀行が預かってくれるというのは便利ですね。(いや、もしかして「金庫」の意味か?)
(2020-2-8記載)
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⑺ Miss Marple, No. I. The Blue Geranium (The Story-teller 1930-12): 評価5点
The Story-tellerはピアスン発行のイラスト無しの小説誌。チェスタトンの作品を良く載せています。
1928年(1929年説のほうが妥当か)10月頃の第1回中東旅行で、アガサさんには様々な良い出会い(キャサリン・ウーリー、兄モンティを良く知る老軍人、ダンの著作『時についての実験』を貸してくれた英印混血の男などなど)があり、すっかり中東好きになって帰国。1930年3月には第2回目の中東旅行を行い、そこでマローワンに出会います。ミス・マープル第2シリーズは、この旅行の前に書き上げたもの。
バントリー大佐の話。作者の語り口が全然違う。会話としてのうねりがあります。犯罪研究っぽい第1シリーズに比べ、普通の人たちによる他愛無い噂話な感じ。(ディナーに集まった六人の話、と言う設定なので、第1シリーズとは違い一晩で六話が語られます。) 今回の謎自体は大したものではありません。クリスティ自伝を読んで、夫を支配する妻のキャラはわがままな女王タイプだったキャサリン・ウーリーの影響があるのかも、と思ってしまいました。
p167 ジェーン(Jane)♠️女優の名。ミス・マープルと被っています。大体ジェーンってパッとしない名前という印象があるんですが… ところでミス・マープルのファースト・ネームが初めて明かされたのは第1シリーズではなく1929年12月発表の本書⑽「クリスマスの悲劇」(p290)です。(本当は雑誌を確認する必要がありますが…) 本書では他に(12)「バンガローの事件」(p372)に出てくるだけで、それ以外は全て「ミス・マープル」(『牧師館』初出はChicago Tribune紙1930-8-18〜10-30では名前が呼ばれてたかなあ。未調査。2022-1-15に再調査したら本書(1)冒頭に“His Aunt Jane’s house”とありました。反省… なお『牧師館』でもちゃんとAunt JaneとかJane Marpleとか記載がありました)
p168 舞台顔より素顔のほうが一段と美しい(というようなことがありうるならば、だが)♠️最初読んで意味が取れませんでした… 原文more beautiful (if that were possible) off the stage than on 深町さまに対抗するなんておこがましいですが試訳「舞台より素顔がさらに美しい(「さらに」は困難なほどの美しさだが)」
(2020-2-9記載; 2022-1-15追記)
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⑽ Miss Marple, No. II. The Hat and the Alibi (The Story-teller 1930-1) 単行本タイトルA Christmas Tragedy: 評価6点
ミス・マープルの語り。クリスマスの話なので掲載が繰り上がったのかも。(本来は⑼が先に掲載される予定だったのでは?) 雑誌版では冒頭がカットされてたのでしょう。鮮やかな解決になるのは語り口が上手なため。
p274 ハイドロ◆1926年アガサ失踪事件で発見された場所が、Swan Hydropathic Hotel in Harrogate。うわさ話に対する反応も第1シリーズ⑹とは違う感じです。
p277 キッチンのシンク(a sink)◆ロマンティックでないものの代表。若者のそういう言い方があったのか。
p280 市電(a tram)◆電車のtramwayは1900年代に各地で開設されていた。(それ以前は馬車や蒸気のtramway、19世紀末に設置) 一番早く市電が走ったのはBlackpool(1885)。この話に出てくる二階建て車両も当時から結構あったようだ。
p285 二度あることは三度ある(Never two without three)◆フランス語のことわざJamais deux sans troisが起源らしい。フランスでは13世紀に遡るという。(当時は3回目は成功する、という意味だったようだ。)
p286 持病のリューマチ(my rheumatism)◆ミス・マープルはリューマチ持ちだったのか。
(2020-2-9記載、p274は2020-2-11追記)
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⑻ Miss Marple, No. III. The Resurrection of Amy Durrant (The Story-teller 1930-2) 単行本タイトルCompanion: 評価5点
語り手は村の医師。筋立ては単純ですが悲哀を感じます。コンパニオンの心理ってどうなのだろう。雇われてるのに友人みたいな関係。かなり卑屈になりそう… 「仕事」として割りきれるような作業もないのでは、と思う。
p202 タンゴ… 踊り♣️艶かしく絡み合うようなダンス。ヨーロッパでは1915年くらいからの流行。
p203 ホランド・ロイド社の客船(a Holland Lloyd boat)♣️Royal Holland Lloyd(Koninklijke Hollandsche Lloyd)はAmsterdam〜Buenos Aires間の客船を運行(1899-1935)、確かに途中Las Palmasに寄る航路です。
p203 化粧品のたぐいはいっさい用いてない(innocent of any kind of makeup)♣️四十代の育ちの良さそうな英国女性の描写だが「派手な化粧とは無縁」のニュアンスでは?
p204 べデカー旅行案内(Baedeker)♣️Karl Baedekerが1827に創業したドイツの出版社。四代目の社長Fritz Baedekerのもとで世界各地(73カ国)の案内書が発行され、英語版は21カ国(1872-1914)を用意していた。
p207 黒のメリヤスの水着(in the black stockinet costume)♣️どんな感じの水着なのか。WebにCotton or stockinette? Old and new swimming costumes at the Arlington Bathsという考察がありました。
p221 十万ポンド♣️英国消費者物価指数基準1930/2020(65.79倍)で9億円。遺産。
p226 老齢年金(the old age pension)♣️英国ではOld-Age Pensions Act 1908により創設。一人週5シリング(1908年だと4295円、月額18612円)が70歳以上に支給された。(夫が70歳以上の夫婦には週7シリング6ペンス=月額27918円)
(2020-2-15 記載)
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(11) Miss Marple, No. IV. The Herb of Death (The Story-teller 1930-3): 評価6点
語り手は大佐夫人。その人っぽい語り口を工夫するのは結構大変だと思うのだが、それっぽく上手に作っている。キャラが作者の中で生きてるためだろう。ミステリ的にも好きな作品。
p308 ミセスB… 前にも… 安っぽく聞こえる(Mrs B. …. I’ve told you before …. It’s not dignified)♠️ヘンリー卿のしつこい「ミセスB」呼びの意味がわからない。「前にも」と言ってるが、本短篇集には出てこない。
p308 カタログ♠️これ(9)p259に繋がるネタだが、短篇集の順番が連載時と逆なので効果が弱まっている。
p312 クイズの<二十の扉>(Twenty Questions)♠️米国ラジオ番組(1946-1954)やTV番組(1949-1955)で有名になったが、当時はparlour game。1829年にスコットランドの教師William Fordyce Mavorが “Game of Twenty” は冬の夜長に相応しいゲーム、として書いている。そこでの第一問はIs it animal, vegetable, or mineral; or in other words, to which of the three kingdoms of nature does it belong?というもの。また”Twenty Questions”というゲームを英国外務省のGeorge Canningが1823年に紹介した、と米国人の記録(1845)がある。そこでの第一問はDoes what you have thought of belong to the animal or vegetable kingdom? (Blog記事”How the 20 Questions Game Came to America”より)
p313 浅黒い肌で、顔だちもととのっているとは言えない(one of those dark ugly girls) ♠️darkは「黒髪」だろうし、uglyとはっきり言ってるのだから、ここまで婉曲に言わんでも、と思いました。「不細工な」でどうでしょうか。
p314 中年の猫(プッシー)みたいな(one of those middle-aged pussies)♠️上の表現と構造は同じ。
p316 目にものをいわせる(having the come hither in your eye)♠️セックス・アピールの古い言い方、だとミス・マープルがいう。直訳すると「外見に引きつけられる魅力がある」くらいか。翻訳はずいぶんズレている。江戸風に「見惚れるほど婀娜っぽい」でどう?
p318 年100ポンドか200ポンドそこそこ♠️英国物価指数基準1930/2022(69.65倍)で£1=10867円。
p320 旧式な大型ピストル(an ancient horse pistol)♠️horse pistolは騎士が使うピストル。英Wiki “Pistoleer”参照。ロンドン塔で作られたもの(1722-1860)が有名らしい。主として71口径。馬上で使うのでサイズは大型ではない。「古い騎士ピストル」でどう?
p324 肉(フレッシュ)♠️ベジタリアンが使う表現だという。
p328 限嗣不動産権(entail)♠️最近見始めたTVドラマ『ダウントン・アビー』でも大きく取り上げられている問題。土地の分割を防ぐための方法。
(2022-1-15 記載)
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(9) Miss Marple, No. V. The Four Suspects (英初出The Story-teller 1930-4) [初出は米雑誌Pictrial Review 1930-1 挿絵De Alton Valentine]: 評価5点
サー・ヘンリーの話。この手の話はなんか微妙な気がする。人間心理の綾が作者らしくて良いけど。
冒頭で、サー・ヘンリーだけ犯罪の話題を提供してない(The one person who did not speak)とあり、雑誌掲載順でも短篇集でも状況と相違しているが、当初の作者の構想では最後の話だったのかな?でも(12)は会合の締めとして外せないので、何か納得がいかない。
p239 天網恢々疎にして漏らさず(every crime brings its own punishment)◆George Herbert編の引用句集Jacula Prudentum (1651)に 756番Every sin brings its punishment with it.があった。ルーマニアの俚言としているものもある。
p242 黒手組(Schwartze Hand)◆有名なのは英Wiki “Black Hand (Serbia)”によるとセルビアの民族主義者により1901年に結成された秘密組織。この小説のは「ドイツの秘密結社」ということで名前だけ借りた架空のものだろう。
p263 11時のお茶(elevenses)◆庭師の楽しみ。elevensesは英国表現で「(通常複数)お茶の時間, 午前の休憩:通例,11時ごろ」
p267 favoursの訳註◆なるほどね。原文だとミス・マープルは結構あけすけに言ってる感じ。それでサー・ヘンリーがウフっとなったのだろう。(こーゆーネタは知的階層に限らず伝わりやすいものだと思う)
(2022-1-15 記載)
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(12) Miss Marple, No. VI. The Affair at the Bungalow (The Story-teller 1930-5): 評価6点
第二シリーズの最後を締めるのに相応しい作品。女優が語り手、その特性を生かした導入部が非常に効果的。でも知ってるので、進んだら真相がわかっちゃうよね…
(2022-1-16記載)
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(13) Death by Drowning (Nash’s Pall Mall Magazine 1931-11 挿絵J.A. May): 評価6点
掲載は第二シリーズの約一年後。マローワンとは1930年9月に再婚している。短篇としては再婚後の初作品のようだ。
オマケだけど全体の締めとして効果的。構成が素晴らしい。ミステリの長さってこれくらいがちょうど良いのでは?と最近思うようになった。長いといろいろボロが目立つ。
p376 朝食… 10時15分… キドニーとベーコンの皿(breakfast … ten-fifteen … a plate of kidneys and bacon)♠️ゲストとしては、その時間に朝食に降りてくるのが良いマナーのようだ。
p389 製図などに使う鉛筆(a kind of artist’s pencil)♠️StaedtlerやFaber-Castellみたいなものだろう。
p390 外科手術用の椅子(surgical chairs)♠️どんなのをイメージしてるのだろう?
p408 ハッピーになろうぜ(I wanner be happy)♠️Vincent Youmans曲、Irving Caeser詞の "I Want to Be Happy" (ミュージカルNo, No, Nanette、初演デトロイト1923の挿入歌)のことか。英国でもこのミュージカルは1925年に上演され、665公演の人気だった。
(2022-1-16記載)


No.255 4点 弓弦城殺人事件
カーター・ディクスン
(2020/02/04 01:09登録)
1933年出版。ハヤカワ文庫で読了。
探偵役のジョン・ゴーントってJohn of Gaunt(1340-1399)と関係あり? JDC/CDの背の高い痩せ型の探偵役は長続きしませんね。建物の図面がないので何が起こってるんだかさっぱりわからない物語。p117で探偵自身が「この家の略図を書いてくれ」と言ってます。ということはオリジナル版には図面があったのか。全体的に中途半端な印象。謎に魅力が無いし、サスペンスも無い。頭のオカシイ城の主人の造型も作りものめいています。解決篇の途中で寝ちゃいました。
以下トリビア。原文は入手出来ませんでした。
作中時間は1931年9月10日(p9)と明記。
現在価値は英国消費者物価指数基準1931/2020で68.57倍、1ポンド=9667円で換算。
銃は「ブラウニングの.22口径… ぴかぴかする玩具… 山羊の足型の引き金のついた小さなピストル」と「.三二口径のスミス・ウェスン」と「.四五口径の標準型のウェブリイ・スコット社製軍用自動拳銃… 挿弾子をみると3発なくなっていた」が登場。.22口径でBrowningの名を冠するポケットピストルは見当たらず。ブローニング・デザインのポケットピストルなら最も成功したFN モデル1906 Vest Pocketの.25口径。(人気銃だったのでColt M1908をはじめ沢山の亜流あるが全て.25口径です。) 「山羊の足型の引き金」は不明。.32口径は詳細が書かれてないので特定不可。.45口径ウェブリイ・スコット社製で自動拳銃(automatic)なら私の大好きなWebley Self-Loading Pistol mk1(1910)、弾丸は.455 Webley Auto弾。「挿弾子」はmagazine clip(7発収納)のことかな?「元ごめのピストル」(p194)は原文breech-loadingだろうけど、普通ピストルには使わない言い方。文脈からリボルバーの事だと思います。(英国の当時の軍用リボルバーは.455 Webley Mk II弾のWebley & Scott社製Webley Mk. VIでトップブレイク式なので「元ごめ」のイメージにふさわしい。)
p7 図書室にあるいわくつきのドイツ製の時計… 弾の痕が残っている: 冒頭のネタ振りはp255で回収されます。(わかりにくい文章なので読み返してやっと気づきました。)
p10 冒険ってどんなことだ?… 小声で… ダイヤモンド6個… オルロフに用心して…: JDC/CDのイメージはいつもこんなの。
p12 スリッパ探し: 輪になる遊戯hunt-the-slipperとは違うようだ。後半(p225)で出てくるが、ここのはスリッパを家のどこかに隠して他の人が探すゲーム。
p15 映画でベン・ハーの役: Lew Wallaceの小説Ben-Hur: A Tale of the Christ(1880)をもとに、戦車レースを中心とした短篇映画Ben Hur(1907 サイレント15分)、長篇映画Ben-Hur: A Tale of the Christ(1925 サイレント143分)が製作されている。
p15 エルストリ: ElstreeはElstree Film Studiosで有名。さまざまな会社の撮影所がHertfordshireのBorehamwoodとElstreeあたりに点在している。Neptune Film Companyが1914年にBorehamwoodに撮影所を開設したのが最初。(英wiki)
p15 外人部隊の士官に扮装: French Foreign Legion(Légion étrangère)が出てくる当時の有名映画はBeau Geste(1926 サイレント、原作P. C. Wren 1924)、Morocco(1930 トーキー、原作Benno VignyのAmy Jolly, die Frau aus Marrakesch 1927)。
p16 サマセットあたり… 西部の人間だもんで、恐ろしく迷信深い: 後ろの方(p167)には「ナイフを十字に置く… 手鏡を落として割る」などの例が出てきます。WebサイトHISTORIC UKにBritish Superstitionsを簡潔にまとめたページあり。
p17 五百年もかかって幽霊ひとつ出せないなんて、この城もまったく能なし: 英国人は幽霊好き。
p38 スティルトン: Stilton cheeseにはPenicillium roquefortiを加えたBlueと普通のWhiteがあるが、ここはBlueの方か。
p40 あの頃は、食後は男ばかりで席を移して、女たちをさんざん心配させたもんだが…: 女性たちの方がDrawing Roomに引っ込む習慣だと思っていましたが…
p40 朝食に… 牛肉とビール… 立派な英国の習慣: 胃もたれしそう。Henry Fielding作の英国の愛国歌The Roast Beef of Old England(1731)を連想しました。
p65『モルグ街の殺人』: 本作にはポオが他にも『盗まれた手紙』(p225),『大鴉』(p239)
p82 電蓄: 12枚のレコードを次々と自動的にかける(p84)機能あり。レコード16枚表裏対応のCapehart Amperion Record Changer(1930)が動いてメカニズムが分かる某Tubeの映像あり。
p82 進め、キリストの兵士たちよ: 賛美歌Onward, Christian Soldiers、作詞Sabine Baring-Gould 1865、作曲Arthur Sullivan 1871。
p91 千ポンドの無記名債権: 967万円。
p91 口述録音器(ディクタフォン): 録音メディアは蝋管。再生しても自然な声には聞こえないようだ。(p103) 「くだらん噂」云々は有名作を批判してる?
p104 一万五千ポンド: 1億4500万円。知人への遺贈額。
p112 ちん: 夫人の犬。名前は呼ばれない。
p125 軍隊ではスエーデン体操と言っていた: Swedish Gymnastics (別名the Swedish Movement Cure)は1800年代初期に詩人でゲーテ、シラー、エッダを研究していたPehr Henrik Ling(1776-1839)により創始された。1880年代に英国陸軍のW. B. G. Cleather大佐が興味を持って導入を計画し、後任のGeorge Malcolm Fox大佐の尽力もあって1900年代に採用された。
p140 ロシヤ小説: Constance Garnett訳The Brothers Karamazov(1912)が英国でのロシア文学流行の嚆矢だという。
p141 グーズベリーののった安皿: ハメットがBlack Mask誌のショーを嵌めたgoose-berry lay(The Maltese Falcon 1929)を連想したのですが、テニスンを作曲家だと思ってるような若者の適当な戯言なので関係ないか。
p142 かくて消えにけり(シク・トランジト): Thomas à Kempis作De Imitatione Christi(1418-1427)に"O quam cito transit gloria mundi"とあるのが早い例らしい。(wiki)
p145 いわしの入った箱: Canned Sardine(イワシの缶詰)のことか?
p163『導け、やさしき光よ』: 賛美歌Lead, Kindly Light、作詞Saint John Henry Newman(1833)、作曲John Bacchus Dykes(1865) 他の作曲家も曲をつけているようだ。
p177 捕手はミットの一枚革の下に厚い牛肉(ビフテキ)を入れ… : 昔の野球のキャッチャーの工夫。豪速球で手が痛くなるのを防ぐには一番良い詰め物らしい。(何かで読んだ記憶があるが、誰のエピソードだったかな… ) ここら辺はJDCの子供時分の思い出か。
p180 イングルズビイの怪談: Richard Harris Barham作、Ingoldsby Legends(1837)、可笑しみある創作伝説集らしい。セイヤーズ にも結構言及あり。
p211 ユンクの『言葉の連想試験』… 嘘発見器: どちらも誤魔化せるし、くだらん、というJDCの結論。
p218 スログ・タブズ: 訳注 呪い言葉の一種。調べつかず。
p224 ウッドハウスの物語: 盗品を自室で発見して、また別の人の部屋に押し込むシチュエーション。どの作品のことか。


No.254 5点 釣りおとした大魚
A・A・フェア
(2020/02/02 09:53登録)
クール&ラム第24話。1963年4月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
無言電話と脅迫状に怯える秘書のため24時間のボディガードを引き受けます。あまり複雑でない筋ですが、登場人物の動機がよくわからない行動が多い感じです。翻訳は「約束を与えたです。」「よくやったです。」など「です」がつくセリフがちょいちょい変でした。セラーズがラム君を呼ぶとき「小瓶さん」なんですよ… (原文Pint size)
(2017年7月16日記載)


No.253 5点 ものはためし
A・A・フェア
(2020/02/02 09:48登録)
クール&ラム第23話。1962年4月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
顔が売れてきた、という事でラム君ご指名の危険な身代わりに高額な謝礼、どんどん深みにはまり罠に陥ります。セラーズ部長刑事にもひどい目にあわされますが、最後は検事補殺人事件を解決して幕。比較的単純な筋の小品です。銃は38口径のリボルバーが登場。
(2017年7月16日記載)


No.252 5点 悪銭は身につかない
A・A・フェア
(2020/02/02 09:43登録)
クール&ラム第22話。1961年11月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
エルシーの新聞スクラップから物語は始まります。自動車事故の被害者を探す依頼。秘書はショーウィンドウの飾り。毎度のことながら女性たちにすぐ好かれるラム君、単純そうな事件が複雑にうねりだし、警察に監視されつつ事件を解決します。でも食い違いの件はいただけないですね…
(2017年7月15日記載)


No.251 5点 無軌道な人形
E・S・ガードナー
(2020/02/02 09:38登録)
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第69話。1963年2月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
短縮版がSaturday Evening Postに掲載(1962-12-8)ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の14作目。この長篇がメイスンもの最後の雑誌掲載ですが、長篇の分載という形式が廃れたためだそうです。上品ぶった嘘つきのデラ。女性の裸の腹を鑑賞するメイスンとドレイクとデラ。トラッグはフェアプレーを宣言しますが、ちゃっかりメイスンを利用。今回のメイスンは究極の黙秘を依頼人に指示。法廷場面(陪審裁判)にスライドが初登場、バーガーは厳格な証拠採用を主張し、メイスンを告発しますが、最後は知ってたなら早く言ってくれと愚痴をこぼします。解決は微妙な感じ。
銃は22口径の小型レヴォルヴァと38口径スミス&ウェッスン製、銃身2インチ、シリアルC48809が登場。このシリアルだとKフレームfixed sight1948-1952年製、該当銃はMilitary&Police(M10)です。(シリーズ4回目の登場のシリアル)
(2017年5月17日記載)


No.250 5点 氷のような手
E・S・ガードナー
(2020/02/02 09:29登録)
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第68話。1962年10月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
競馬で盛り上がるメイスン事務所、ドレイクはドーナツを頬張ります。デラはポテトと国交断絶中。「例のキツネみたいな微笑の」トラッグは電話でもペリーと親しげ、相変わらず優秀です。法廷シーンは陪審裁判、バーガーが新しい判例を作る、と最初から張り切りますが、思い通りにいかず逆上、判事に正気を保てと言われ、メイスンにも慰められます。(メイスンがハミルトンと呼ぶのは多分シリーズ初) 策略にたけた悪徳弁護士ギルモアの法廷戦術が面白く、レギュラーキャラだったら良かったのに、と思いました。(実際には本書だけの登場) 解決は唐突です。60年代メイスンは言わずもがなの説明がちょっと多い感じ。(もしかしたらわかりやすさを重視し過ぎるTVシリーズ1957-1966に関係した影響かも) 銃は38口径のレボルバー、スミス・アンド・ウエッソン製ダブルアクション6連発が登場、詳細不明です。
(2017年5月17日記載)


No.249 5点 ブロンドの鉱脈
E・S・ガードナー
(2020/02/02 09:20登録)
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第67話。1962年6月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
Toronto Star Weekly連載(1962-4-7〜4-14) ボレロ・ビーチに住むデラの叔母。(残念ながらこれ以上の情報なし) デラはメイスンを海水浴に誘います。裏切り合戦が大好きと告白するメイスン。ドレイクは電子尾行器を使用。「行方不明の相続人と隠れた不動産」(Missing Heirs and Lost Estates)という名の会社。暗号はヘイ リューブ(Hey Rube)。デラを南米に売り飛ばす企み。メイスンものではお馴染みの、見張っている部屋に人が次々おしよせ、最後に死体が発見されるというルーティン。法廷シーンは予備審問ですが、担当がリバーサイド郡なのでバーガーは登場しません。最後の最後でメイスンは真実に到達します。解決は鮮やかですが、全体的に冗長な感じは否めません。
(2017年5月15日記載)


No.248 5点 ひとり者はさびしい
A・A・フェア
(2020/02/01 18:28登録)
クール&ラム第21話。1961年3月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
会社のスパイを探る依頼、ラム君は独身の有閑男に化けエルシーと豪華なディナーを楽しみます。電気仕掛けの探偵小物がいろいろ登場、自動車尾行用の発信機や壁越しに隣の様子を探る増幅マイクを使います。何故か会う女性にことごとく好かれるラム君、助けを借りて警察の追及を逃れ、真犯人を見つけ出します。銃は22口径オートマチックが登場。
(2017年7月15日記載)


No.247 5点 あつかいにくいモデル
E・S・ガードナー
(2020/02/01 18:22登録)
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第66話。1962年1月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
短縮版をToronto Star Weeklyに掲載(1961-10-7) 掲載時のタイトルはThe Case of the False Feteet。絵の天才beatnikの登場が時代です。メイスンによるコン・ゲーム(偽造小切手で宝石商荒らし)の解説。デラはTwistを踊り、メイスンはカナリヤの世話、ドレイクはついに安全運転宣言、トラッグは神出鬼没。北上する旅が出てきてカナダへ…というのは掲載誌の楽屋落ち? 予審ではメイスンが掟破りの戦術(前例: 気ままな女)でバーガーを出し抜きます。解決は鮮やかですがモヤっと感ありです。60年代メイスンは喋りすぎでスピード感が失われているように感じます。銃は「センチネル(Sentinel)と呼ばれているハイ・スタンダード(HighStandard)の9連発22口径レヴォルヴァー」銃身2-3/8インチ、シリアル1,111,884が登場。この銃身の長さだと1957年からの製品です。シリアルから詳細な年代がわかる資料は未入手。
(2017年5月14日記載)


No.246 5点 重婚した夫
E・S・ガードナー
(2020/02/01 18:11登録)
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第65話。1961年8月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
Saturday Evening Post連載(1961-7-15〜8-26)ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の13作目。デラの出す科学クイズに全く興味の無いメイスン。電話ではよそよそしい態度のトラッグですが、顔をあわせるとペリーと呼んで親しさを強調、ジムという刑事を連れています。登場人物が読んでいた雑誌中にポスト誌が出てくるのは楽屋落ち。ハイヒールで蹴られるメイスン。予審はバーガーが最初から張り切りますが、メイスンに逆転され、最後には珍しく正義のために素直になります。解決は鮮やかですが、全体的に冗長な感じです。
銃はスミス・アンド・ウエッスン製38口径リヴォルヴァー、銃身2インチが登場。シリアルC232721は、Kフレームfixed sight1948-1952年製、該当銃はミリタリー&ポリスですね。
(2017年5月13日)


No.245 5点 車椅子に乗った女
E・S・ガードナー
(2020/02/01 18:04登録)
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第64話。1961年3月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
Saturday Evening Post連載(1961-1-28〜3-11)ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の12作目。土曜出勤する秘書と支配人の息子と車椅子の大株主、メイスンは第3章から登場。デラが相手から話を上手く引き出します。(このような活躍は意外にもシリーズ初?) 航空会社のクレジットカードを持つメイスン。メイスンからの電話を迷惑がるトラッグですが、事務所ではペリーと呼びかけます。公訴予審は圧倒的にメイスン不利、調子に乗ったバーガーはメイスンをペテン師と呼びますが、最後は気だての良いトラッグの協力で犯人逮捕。解決はあまりスッキリしない感じです。
(2017年5月14日記載)


No.244 7点 死の舞踏
ヘレン・マクロイ
(2020/02/01 15:01登録)
1938年出版。例によってDellのMapbackがあります。翻訳は読みやすいですが、皆さん仰る通り、重要ポイントをスルーしてるのが難点。(解決篇で、えっ何処にそんなこと書いてあった?となりますよね。) あそこは、あからさまになっても強行突破しか方法は無いと思います。
ウィリング第1作。なのでその生い立ちが結構詳しく記載されています。
母親がロシア人(p9) 戦後、パリやウィーンで留学生活… 米国参戦前にジョンズ・ホプキンズ大学で医学を学ぶ(p16) パリ、ロンドン、ウィーンに8年近く滞在(p17) いま40歳から50歳の間(p27) WWI米国参戦前に英国で既に医師として患者を診ている(p77、資格取得を考慮すると1917年に最低でも22歳以上か) フランス語とイタリア語を解し(p108) ロシア語ペラペラで祖父がロシアの有名作曲家ヴァジリィ・クラスノイ(p264、もちろん架空。ベイジルの名は祖父の名を英米っぽくしたものp199) ラフな推測ですが、生まれは1895年以前、出版時点で最低でも44歳以上。後年の作よりやや高年齢設定。(『ささやく真実』(1941)では「43歳」)
本作は、冒頭のシチュエーションが強烈なので、一体どーなる?とハラハラしてたら、中盤は、探偵と刑事が聞き込みをして、証言を集める地道な捜査。でも結構小ネタが充実していて、ヴァラエティに富んだ展開。作中で心理学の初歩を丁寧に説明してるということは、そーゆー考え方が世間に浸透してなかったのか。登場人物がわの独白が抑えられてるので納得のラスト。最後に滲み出る情感も良い。
以下トリビア。原文はOrion ebook “The Murder Room”叢書(2013)を入手。でも、このテキスト(以下「MR版」)、翻訳と比べると、Abridge版と言って良いくらい枝葉がことごとくカットされてて、残念な物件。(2024-07-17追記: Dell のマップバックをeBayで入手した!だけど、残念、ここですでに省略版になっていた… という事は初版ハードカバーのみ完全版なのか…)
作中時間は火曜日(p7)と12月(p19)を基にして、p76, p149及びp296(各トリビア参照)を根拠に、冒頭は1936年12月8日(火曜日)で確定。
現在価値は米国消費者物価指数基準1936/2020で18.49倍、1ドル=2017円で換算。
各章の副題は「絵画・美術」関係の言葉で統一されてるのに翻訳上は全く配慮なし。参考までに原文を掲げておきます。
1 Frontispiece, 2 Grotesque, 3 Nude, 4 Illustration for Advertisement, 5 Study for Family Group, 6 Mask, 7 Detail, 8 Study in False Light, 9 Genre Picture, 10 Still Life With Bottle, 11 Triptych, 12 Caricature, 13 Abstraction, 14 Development of a Bottle in Space, 15 Portrait of a Lady, 16 Composition in Yellow, 17 View in Oriental Perspective, 18 Drypoints, 19 Drawing for Valentine, 20 Vignettes, 21 Rough Sketch, 22 Family Portraits, 23 Illuminated MS. Circa 1930-40, 24 Montage, 25 End-Paper
献辞は「母へ」To my mother。いかにも作家の初長篇らしい。
p8 ジョンズ・ホプキンズ大学時代からずっとベイジル・ウィリングに仕えてきたジュニパー… 穏やかな話し方をするボルティモア出身の黒人(Juniper, a soft-spoken Baltimore negro, who had been with Basil Willing since Johns Hopkins days): 学生時代から従者がついてるとは、ウィリングってかなり裕福な生まれ。Johns Hopkins Universityはボルティモアにある1876年創設の大学。
p10 熱い美女(レッド・ホット・マンマ)(Red Hot Momma): Wells, Cooper, Rose作のRed Hot Mamma(Picara Nena)という1924年のヒット曲を見つけました。(某tubeに数バージョンあり。) サブタイトルがスペイン語で「やんちゃ娘」なので、元は中南米音楽か?
p12 心理的な指紋(psychic fingerprints): ウィリングの常套句。ここが初出。
p15 バザール・ド・ロテル・ド・ヴィル(Bazar de l'Hôtel de Ville): 創業1852年のパリ4区にあるデパート。BHVと略される。(英Wiki)
p17 毒物マニア(ヘムロック・ジョーンズ): ここら辺の煙草の吸殻とマッチ棒のくだりはMR版では全面カット。Hemlock JonesはBret Harteの古典的シャーロック・パロディ(1902)の主人公。
p17 この国じゃ、フロイト学派は医学関係者によって完全に否定されてる(the Freudian theory is absolutely repudiated by the medical profession in this country!): 当時の現実?それとも軽口? まー今も医者は精神科を軽視してますよね。詳しく調べてません。
p22 普通サイズなら10ドル、ポケット・サイズなら7.5ドル(Boudoir Size:—$10.00. Pocket Size:—$7.50): 20174円と15130円。痩せ薬の値段。痩せ薬(Diet Pills)の歴史はlivestrong.com/article/74336-history-diet-pills/参照。
p26 ユスーポフ公爵、カイヨー夫人、ボカルメ伯爵、フェラーズ卿、ブランヴィリエ侯爵夫人… ハーヴァードのウェブスター教授… ハリー・ソー… エドワード・S・ストークス(Prince Youssoupoff, Madame Caillaux, Count Bocarmé, Lord Ferrers... the Marquise de Brinvilliers... Professor Webster of Harvard... Harry Thaw... Edward S. Stokes): 有名な殺人者たち。訳注はあったりなかったり。ここではブランヴィリエ侯爵夫人だけパスして、その他を簡潔に。(主としてwikiより)
Prince Felix Felixovich Yusupov, Count Sumarokov-Elston(1887-1967)はロシアの貴族。1916年12月29日のGrigori Rasputin暗殺に関与。
Henriette Caillaux(1874-1943)は1914年3月16日にフランス首相の夫を批判したフィガロ紙のGaston Calmetteを射殺。
Hippolyte Visart de Bocarmé(1818-1851)はベルギーの貴族。1850年11月20日に義兄Gustave Fougniesをディナーに招き、ニコチンで毒殺。
Laurence Shirley, 4th Earl Ferrers(1720-1760)は英国貴族で絞首刑になった最後の人。1760年1月18日に家産の管理者(steward)John Johnsonを射殺。
John White WebsterはHarvard Medical Collegeの化学と地質学の教授。1849年11月30日に発見された死体の歯からボストンの裕福な医師George Parkmanとわかり、Websterが逮捕され絞首刑となった。
Harry Kendall Thaw(1871-1947)はピッツバーグの富豪William Thaw Sr.の息子。 建築家Stanford Whiteを憎み1906年6月25日に衆人環視のMadison Square Garden屋上で射殺。
Edward Stiles Stokes(1841-1901)はニューヨークの石油精製所社長。1872年1月6日に出資者で恋敵のJames Fiskを射殺、正当防衛を主張し判決は第三級殺人だった。
p27『がっちりガード』… 売り出し中の女性用品のように聞こえる(Carefully guarded... sounds like a well-advertised commodity): 色々探したら以下の広告がヒット。原文は「女性用品」に限定してません。Palmolive Company’s Palmolive Soap – Guarded so carefully...the Dionne Quins use only Palmolive the soap made with Olive Oil (1937) (2020-2-8追記)
p29 1936年製のビュイック(a 1936 Buick sedan): 翻訳では「セダン」が抜けてます。
p33 ペキニーズ(Pekinese)… カイ・ラン(Kai Lung): 開龍はErnest Bramahの中国人主人公、1896年頃の雑誌デビュー、単行本はThe Wallet of Kai Lung(1900)ほか全5冊。ここではペキニーズ犬の名前。中国犬だから付けた名前か。(セイヤーズにもKai Lungシリーズからの引用あり)
p35 第5章 家族関係(Study for Family Group): studyは美術用語で「スケッチ,習作,試作」A Study in Scarletもこちらの意味だ、という説あり。
p35 隣の部屋にいる速記者(stenographer): まだ速記がメインの時代。ポータブル録音機は1953年頃から。(ペリー・メイスン調べ)
p39 二つのオーケストラの指揮者とそのメンバーたち(two orchestra leaders and their men):「二人のバンド・リーダーと楽団員」の方が適切か。タンゴやブルースを演奏するフランキー・シルバーと騒がしいジャズのピート・ウェルウィ。二人とも架空の名前。ここら辺のBGMはArtie Shaw & Benny Goodmanあたりで如何でしょう。
p41 カンヌは楽しむため、ニースは退屈するため、モンテカルロは破産するため、そしてマントンは埋葬されるため(Cannes…Nice… Monte Carlo… Menton): フランス人がよく言う文句らしい。調べつかず。MR版ではカット。
p41 ムリリョが描いたぞっとするほど真っ白なマドンナの絵(the most ghastly marshmallow Madonna there by Murillo): 死人のように白い、という意味か。Bartolomé Esteban Perez Murillo(1617-1682)の具体的な聖マリア像を指してるのではなさそう。
p43 母の古い『ピーターキン・ペーパーズ』: The Peterkin Papers、賢いが常識の無いピーターキン一家のトラブルだらけの日常を描いたユーモア短篇集(1880)、作者はボストン生まれのLucretia Peabody Hale(1820-1900)。こーゆー本を残す母ってきっとお茶目な性格だと思う。(マクロイさんの母親の愛読書か?) MR版では、本の固有名詞をカット。
p46 『悲しみの杯』というタンゴ(tango called The Cup of Sorrow): 英語の曲名からAlberto Vacarezza作詞、Enrique Pedro Delfino作曲、La copa del olvido(1921)というブエノスアイレスのタンゴと思われる。同年Carlos Gardelの録音あり。(スペインWikiより)
p49 第6章 仮面舞踏会(Mask): 単純に「マスク、仮面」で良い気がします。
p60 自分を救ってくれるのは、その犬だ(he saved my reason): 試訳「この犬のおかげで正気を保てました」
p65 十セント硬貨(a thin dime): 当時はWinged Liberty Silver Dime(1916-1945)、90%Silver+10%Copper、直径17.9mm、重さ2.5g、厚さは調べつかず。
p66 一回… 五百ドルから千ドル($500 to a $1000 a throw): 101万円から201万円。広告の出演料。
p74 それは楽しみ(I’d like nothing better)… 高度なチェス・ゲームのように私を惹きつけます: ゲームとしての探偵小説。MR版では「高度なチェス・ゲーム」以降をカット。
p76 第8章 偽りの証言(Study in False Light): false lightは「人工的な光(artificial light)」(p72)のことか。試訳「偽光の習作」
p76 ジョセリン邸はすでに崩れ落ち、いまではその場所に天を突くような高層マンションが建っている。しかし、当時は… : 事件は本書出版時(1938)より少し前に起こったんだよ… という設定のようだ。事件後、高層マンションが完成するくらいの時間が経過しているが、事件当時1936年製ビュイック(p29)が数多く走ってる。とすると1936年の事件か。MR版ではこの文章をカット。
p77 アメリカの参戦前、ネトリィにいたとき… [君は]不眠症と無言症を併発した戦争神経症だった…: 19世紀末「ネトリー軍病院(Netley)で軍医になるために必要な研修を受けた」のはJ.H. Watson(A Study in Scarletより)。ウィリングも研修医だったのでしょう。マクロイさんのシャーロッキアンぶりを知るうえでも重要な場面だが、MR版ではこのあたりカット。
p86 電気椅子: ニューヨークでは1890年が初執行で1963年が最後。ニューヨーク州の執行官は1回の処刑あたり150ドル(同日に追加処刑があれば処刑人数を問わず50ドル追加)の手当で、これは最初から最後まで同額だった。(WikiのNew York State Electricianによる) とすると1890年$150=46万円から1963年14万円まで目減りしていることになります。MR版ではこのあたりカット。
p91 五万ドル: 1億円。パーティの費用
p100 第10章 出てきたボトル(Still Life With Bottle):「ボトルのある静物画」
p116 第11章 三方からの光(Triptych):「三連祭壇画」
p119 自分の家には、ごく普通の働き手が一人と月曜ごとの洗濯女しかいない: フォイルの家庭。「ごく普通の働き手」は妻のこと? でも洗濯女が週一で来るんだ… MR版ではカット。
p124「偶像を作る者は神を信じない」: 訳注 旧約聖書に関連する言葉と思われる。調べつかず。MR版ではカット。
p136 ジョージ・グロースの詳細な人体図: George Grosz(1893-1959)のヌード画集か。MR版ではカット。
p141 探偵小説の刑事: たいていリッツのようなホテルで食事をして、シャンパンが冷えていないとソムリエに文句を言う… 小説の刑事(detective)でそんな裕福なのを思い出せません。ここはウィムジイやヴァンスみたいな「探偵(detective)」をイメージした軽口。MR版ではこのあたりカット。
p142 ビリーブ・ミー・イフ・オール・ゾーズ・エンディーリング・ヤング・チャームズ: "Believe Me, if All Those Endearing Young Charms"(1808)はアイルランドの古い曲にアイルランドの詩人Thomas Mooreが歌詞をつけたもの。(Wiki) MR版ではラジオ番組のくだりを全てカット。
p143 ザ・ギミー・ ギャルズ・アー・ゲッティング・オール・ザ・ダフ: カタカナから復元するとThe Gimme Gals Are Getting All the Duffか? 調べつかず。
p144 第13章 うっかりミス(Abstraction): 「抽象主義、抽象」抽象画としても良いか。
p144 フロイトとその仲間たちの理論(Freud and his followers have a theory): 言い間違いの漫才はナイツ(塙と土屋)の得意技。
p145 子どもがよく言う『わざとだけど偶然』(accidentally-on-purpose): そーゆーものですか。
p146 リンドバーク事件… ドクター・ダドリー・ショーンフェルト: 犯罪者をヘマから分析した例。マクロイさんの発想のタネはDudley D. Shoenfeldの著作The Crime and the Criminal: A Psychiatric Study of the Lindbergh Case(1936)か。Shoenfeldのことはp287にも登場。MR版ではこのあたりカット。
p148 シルバー・スレッズ・アマング・ザ・ゴールド: "Silver Threads Among the Gold"(1873) 作詞Eben E. Rexford、作曲Hart Pease Danks。
p149 ティタートン事件で殺人犯が忘れたロープの切れ端(Like the piece of rope the murderer forgot in the Titterton case): 訳注なし。1936年4月のNancy Titterton強姦殺人事件は、手を縛っていたa foot-long piece of cordとベッドカバーに残されたa single horsehairが手がかりとなり解決した。
p152 第14章 ボトルについての新事実(Development of a Bottle in Space): 未来派Umberto Boccioni作のブロンズ像(1913)。試訳「空間におけるボトルの発展」
p170 恐怖物語(The Tales of Terror): 新聞社の入口にいた警備員が読んでいた。パルプ雑誌ならTerror Talesは1934年9月創刊、Horror Storiesは1935年1月創刊。
p176 ハーパーズとアトランティック(Harper’s and the Atlantic): 上品な雑誌の例。
p190 年収六千ドル: 1210万円。Assistant Chief Inspectorフォイルの年収。
p199 イートンとオックスフォードの紋章が入った装飾品(a product of Eton and Oxford): この原文だと、紋章とは限らず大学柄のネクタイなどの可能性もありそう。本人自身がa productの可能性もあり?
p202 “中国では人間は雑草”(‘In China man is a weed.’): 何かの引用か。調べつかず。
p208 オクシデンタル・ニュース・サービス(Occidental News Service): 『小鬼の市』の架空のニュース社がここに出ていた。
p211 フォイル君(Foyle, mavourneen): アイルランド語でmy darlingのことらしい。ニューヨークの警官でPatrickという名なのでフォイルはアイルランド系か。Kathleen Mavourneenという映画が1919, 1930, 1937と三回も映画化されている。
p218 メレディスの『エゴイスト』: Egoist(1879)の場面、日本なら「間接キス」と言う簡潔な表現がある。(最近では日本のアニメ経由でindirect kissと言うらしい…)
p218 ロシアや日本には、同じグラスの酒を分け合うという結婚の儀式(sharing the same cup of wine is part of both the Russian and Japanese marriage ritual): 同じ盃から飲むのは珍しいのか。
p219 パーティントン夫人... 気のきかない人間の象徴(‘Mrs. Partington,’—a symbol of gaucherie in those days—): Mrs Partingtonがモップで波に立ち向かうエピソード(Reverend Sydney SmithがSidmouthの1824年の洪水の時に書いた)があるらしい。(Mrs Partington mop tideでかなりのイラストあり) 訳注のBenjamin Penhallow Shillaber(1814-1890)作の小説Life and Sayings of Mrs. Partington(1854)などは、この夫人のイメージからか? gaucherieは、モップで波を防ごうとするような、粗野な愚かさの意味でしょう。
p230 週50ドル: 10万円、月給44万円。割と腕の良いゴシップ・ライターの給与。
p231 ベストセラー作家になれなくても、マコイのような作品を書いたり、ドストエフスキーのようにとか…(Not a best seller. The real McCoy. Dostoievsky and all that...): マコイにとても変テコな訳注が付いてます。(間違うならせめてHorace McCoyじゃないの?) the real McCoyで「正真正銘の本物」と言う意味。この慣用句はスコットランド1856年の用例があるThe real MacKayが起源らしい。(wiki)
p233 “嫌々働くのは人間どものかすのため。荒れた筆が陳腐な文句をお紡ぎ出す…”: 訳注なし。なんかの引用か。調べつかず。MR版ではカットしてるので次のフォイルのセリフ(タイプライター使ってるよね?)が繋がらない。
p238 アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler): ジョークのネタになるほど英米で有名になったのは少なくとも1936年3月のラインラント進駐や同年9月のロイド・ジョージとのベルヒテスガーデン会談以降か。
p251 ジョシュア・レイノルズ: Sir Joshua Reynolds(1723-1792) ロイヤル・アカデミーの初代会長。
p254 超現実主義(a sur-réaliste)の大御所であるブレイク: ここら辺、William BlakeがJoshua Reynoldsを“This Man was Hired to Depress Art.”と評したことを指してる?MR版ではカット。
p260 バルザックにそんな話… 情事で商取引を隠した女…(Balzac’s ‘femme-écran’ used to screen a business deal instead of another love affair): 膨大なバルザックの小説群を全然読んでないので、どの作品か分からず。femme-écranはscreen-womanの意味。この言葉はHistoire des Treize(1835)の第3話La Fille aux yeux d'orに出てくるようだが…
p267 作曲家のヴァジリィ・クラスノイ(Vassily Krasnoy, the composer): グラズノフ(Aleksandr Konstantinovich Glazunov, 1865-1936)を思わせるような名前。(『暗い鏡の中に』には祖父の曲も登場します。)
p280 第23章 浮上してきた人物(Illuminated MS. Circa 1930-40): 試訳「解き明かされた手稿 1930-40年ごろ」原語の意味はふつうなら「(中世の)彩飾写本」それっぽい年代表記を模している。
p281 嘘発見器(lie detectors): ウィリングは否定的。
p293 知的好奇心… 考え、苦悩する人間(intellectual curiosity… human beings like himself who could feel and hope, think and suffer…): 問題を解いた時の感覚。表現がセイヤーズさんと似ている気がしました。
p296 十二月四日… 十二月十二日: この間に事件が発生との記述。1936年の火曜日を調べると該当は12月8日。
p299『バイオメトリカ』、『J・A・M・A』、『ランセット』: Biometrikaはオックスフォード出版局1901年創刊の科学論文査読誌。The Journal of the American Medical Associationは米国医師会1883創刊の医学査読誌。Lancetは1823年創刊の医学査読誌。
p316 ストラヴィンスキーの『火の鳥』(Stravinsky’s ‘Fire-Bird’): L'Oiseau de feu(1910)。気の利いたラスト。

(2020-2-3追記)
Mike GrostのWebページで類似性が言及されてる映画My Man Godfrey(1936)ウィリアム・パウエル、キャロル・ロンバード主演を見てみました。p50で言及されてる「品ぞろえゲーム(scavenger hunt)」のシーンが冒頭に出てきます。お金持ちのパーティ・シーンが豊富で、この作品のパーティ場面を思わせます。英語版なのでセリフが聞き取れず30%くらいの理解ですが、プレストン・スタージェス調の軽薄なコメディ。当時のイメージ形成にはとても役立ちます。(カラー変換版を見たのですが、技術は進歩してますね… 全然違和感のない色付けでした。)

今更ですが、この本のテーマ(悲劇は現実にもあったようです)を考えると、法律違反ではなかったので正攻法のアピールが難しく、そのため作者は探偵小説の形式を借りて、その危険性(結局1938年に禁止されたようです)と被害のやるせなさを訴えたかったのかも、と思うようになりました。(アレの実在をちょっと強調してアピールしてるのも、そーゆー意図を感じるのです。)


No.243 5点 おめかけはやめられない
A・A・フェア
(2020/01/31 00:20登録)
クール&ラム第20話。1960年9月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
セラーズ部長刑事にトラブル発生ですが、私立探偵の介入を断ります。ラム君は依頼人のために事件に首を突っ込み、エルシーとハネムーン。警察から虐められながらも、カンと推理と素早い行動で事件を解決。探偵趣味の簿記係が活躍します。カメラ店支配人は日本人タカハシ・キサラズ。クール&ラム事務所の事務員の名前がもう一人判明、受付係ドリス・フィッシャー。
(2017年7月15日記載)


No.242 5点 影をみせた女
E・S・ガードナー
(2020/01/31 00:14登録)
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第63話。1960年10月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
スーツケースを持ったわざと身を飾らない女。秘書論が披露されます。60年代メイスンは、依頼人に対して、警察に嘘をつくな、という指示が多いようですが、弁護士の同席なしにしゃべるな、も健在。トラッグはしゃがれたがらがら声、とありますがTVのイメージの逆輸入か? オーランドという刑事が初登場、ホルコム出番なし。男の服にはポケットが多すぎる、という妻の苦情。「電話用の信用カード」というのは何だろう。テレフォン・カードみたいなのがあったのか? 法廷は検屍審、バーガーが終盤に現れ、メイスンを窮地に追い込もうとしますが、結局逆転されて爪を噛みます。シリーズ初、メイスンの最終弁論が披露されます。本作も冗長なところがありますが、解決があまり複雑じゃないので、前作よりスッキリ感ありです。銃は38口径の拳銃が登場、詳細不明です。
(2017年5月13日記載)


No.241 4点 瓜二つの娘
E・S・ガードナー
(2020/01/31 00:05登録)
ペリーファン評価★★☆☆☆
ペリー メイスン第62話。1960年6月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
Saturday Evening Post連載(1960-6-4〜7-23)ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の11作目。ガードナー爺71歳の作品、メイスンも60年代に突入です。
再婚家庭の朝食の風景、父の失踪、メイスン登場は第2章から。嘘発見器、クレジットカードが初登場。勝手にドアを開けて入ってくるトラッグ、でもペリーと呼び親愛の情を示します。(メイスンはアーサーとは呼ばないのですが…) 昔と違い、メイスンは逮捕された被告に検察側の抵抗なく会えます。法廷シーンは予備審問、終盤にバーガーが登場し判事が驚くルーティン、バーガーは赤くなって怒り、ドレイクを脅しつけ、メイスンを証人席に呼びます。解決は複雑でスッキリ感もありません。全体的にスピード感が欠けており、冗長なやりとりが多い印象です。何かピントがぼけた感じ。
(2017年5月13日記載)


No.240 5点 待ち伏せていた狼
E・S・ガードナー
(2020/01/30 23:59登録)
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第61話。1960年1月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
Saturday Evening Post連載(1959-9-5〜10-24)ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の10作目。ガードナー長篇100冊目を記念する本書の裏表紙には面白い図が載っていて、ガードナーの本(1億1千万部)を積み上げた1397200メートルを、エベレスト、エンパイヤステートビル、エッフェル塔の高さと比較しています。(原作本のカバー裏がそうなっているようです)
車の故障、送り狼、メイスン登場は第3章から。すぐに殺人が発覚し、メイスンは危ない偽装工作をたくらみます。トラッグ相手に秒単位の作戦、ホルコムは出番なし。白髪混じりのトラッグ、老けたせいかいつもの鋭さに欠けます。電話ではメイスンと穏やかに会話するバーガー、予備審問では打って変わって牙を剥きメイスンを懲らしめようとしますが、攻撃をかわしたメイスンは何とか真相を突き止めます。解決は鮮やかさに欠ける感じ。
(2017年5月7日記載)

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