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ミステリの祭典

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書類百十三
ルコック/別題『ファイルナンバー113: ルコックの恋』

作家 エミール・ガボリオ
出版日2017年08月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 弾十六
(2020/11/22 15:51登録)
『ファイルナンバー113: ルコックの恋』牟野素人さん訳、kindle販売の日本語完訳版。
原作は1867年出版。連載Le Petit Journal 1867-2-7〜5-14。連載時には献辞があり« A mon ami Maurice Delamain » いとこだという。
構成に時間をかけず、書き飛ばした感じ(前作の連載終了の翌日から連載開始… これじゃあねえ)。語り口を工夫すれば、もっと上手くサスペンスを盛り上げられたのでは? 第二部がかなり冗長。ルコックの活躍も中途半端。前作『オルシバル』の構成が良かっただけに、なおのこと残念な感じ。シャーロックが批判した「哀れなルコック」は本作のことだろう。(訳者あとがきでドイル『緋色の研究』が1867年出版と堂々と間違っており、ガボリオとドイルがほぼ同時に探偵小説を書いてることになっている…)
当時のフランス社会の階級意識がほんのり感じられる作品だが、探偵小説としての面白味はあんまり無い。人物造形、ネタともにパッとしない。
ルコック次作『巴里の奴隷たち』(1868)も牟野さんが完訳されておられるので、読むつもりだけど、自己模倣ぶりが目立ってきてるので期待せずにゆっくり読んでゆきます。
トリビアは後で。
p35 186*年2月28日火曜日
(おっさん様が疑問を呈しているラストシーンは、完訳版でもカタスカシ。カタルシスには程遠いナンジャコリャ?でしたのでご安心を。)

No.1 5点 おっさん
(2013/03/18 16:06登録)
1867年に『プチ・ジュルナル』紙に連載され、同年に単行本化された、ガボリオの第三長編 Le Dossier N○ 113 の、田中早苗による戦前抄訳、概算五百七十枚です。
筆者が読んだ、博文館文庫版(昭和十四年)の訳題は『書類第百十三』ですが、どうも、「第」の無い『書類百十三』(博文館<世界探偵小説全集> 昭和四年)のほうが一般的なようなので、そちらで登録しておきました。
ちなみにタイトルの由来は、作中の事件の取り調べを予審判事がまとめた、一件書類の整理番号です。

パリの銀行の金庫室から、顧客の引き出し要請を受けて用意されていた、現金三十万フランが盗まれた。金庫にこじ開けられた形跡はない。鍵を持ち、文字合わせ錠の合言葉を知っているのは、頭取と出納主任だけであるが、二人はともに事件への関与を否定し、お互いへの疑惑をぶつけあう。
結局、捜査責任者により犯人と目され拘引されたのは、身分の低い出納主任のほうであった。経緯に納得のいかない刑事ファンフェルローは、独自に調査を続けるが行きづまり、警視庁の凄腕「探偵部長」ルコックに助言を求める。
ルコックは、金庫に残された痕跡から推理を組み立て、ファンフェルローに新たな捜査方針を示すとともに、得意の変装を用い、自身も水面下で動き始めた・・・

全四十五章立ての本書の、第二十一章までで、例によって事件当夜のいきさつは、犯人も含めてほぼ明らかになります。しかし、その背景にはもっと深い謎があって――
第二十二章から第三十七章までは、それを補完すべく南仏に飛んだルコックが調べあげてきた、二十年以前にさかのぼる「実に恐ろしい因縁」の物語です。

長編のメインとなる事件が、殺人ではなく盗難というあたりで、ウィルキー・コリンズの『月長石』を思い浮かべましたが――とはいえ『月長石』が世に出るのは、翌1868年ですが――フラッシュバックの過去パートからは、悪党の背後に、もっと奸智にたけた大悪党が控えていてというあたり、むしろ同じ作者の『白衣の女』(1860)に近いものを感じました。ジャンル分けの難しい本書を、えいやっと「スリラー」で登録したのも、そのへんの印象の強さによります。前作『河畔の悲劇』の犯人が、ただ逃げているだけだったのに対し、こちらは夜道でルコックに凶刃を振るったりもしますしねw

犯罪メロドラマの紡ぎ手としての、ガボリオのストーリーテリングは健在ですし、“犯罪共同体”が一枚岩ではなく、呉越同舟の様相を呈してくる後半の展開もうまいものだと思います。
ただ『ルルージュ事件』や『河畔の悲劇』に比べると、本書の読後感はスッキリしません。ミステリとしてどうこうではなく、小説としての「解決」に共感できないのです。

まず。
いったん逮捕された出納主任は、冤罪であったことが分かり、無事に復職し結婚までして「ハッピー・エンド」を迎えますが、客観的に見たら、この人のふたつの過失が盗難の契機になったわけで、その重大な責任がまったく問われないのは変です(本人もろくに反省していない)。

そして。
裁判になって真相があからさまにされると、傷つく人がいるから、という理由で、ルコックは悪党の一人の逃亡を黙認しますが(もう一人、主犯格のほうは、露見の恐怖から発狂。ちと安易ですな)、これはアマチュア名探偵ならともかく、司法サイドの人間としてはいかがなものか。

さらに。
じつは今回、事件に関与するルコックには、最後まで明かさない秘密があって、それがラストのちょっとした意外性を生んでいるわけですが――“相手役”のキャラクターがきちんと書けていないので、余韻も無く、なんじゃそりゃ? ですよ。
このへんは、抄訳のせいなのか?
う~ん・・・完訳が出たら読みなおしましょうw

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