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ミステリの祭典

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アリ・ババの呪文
ピーター卿、モンタギュー・エッグ、他

作家 ドロシー・L・セイヤーズ
出版日1954年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 弾十六
(2020/07/07 02:19登録)
日本オリジナル編集(1954年、日本出版協同株式会社) 編者は翻訳者の黒沼 健だと思われる。「異色探偵小説選集④」となっているシリーズの一冊。中央公論社版『アリ・ババの呪文』(1936年)から2篇削除し、4篇追加(*で表示)。
部屋を整理してたら見つけました。100円で入手した紙質の悪い古書。でもモンタギュー・エッグがまとめて読めるのは、今のところこの本だけです。
収録7作目「バッド君の霊感」(これは中公版の題。本書の訳題「緑色の頭髪」は当初訳者がつけたもので中公編集者に変えられたから今回戻した、というのだが、どーゆーこと? 全く困った人だ。『新青年読本』によると雑誌掲載時(昭和8年10月増大号)も「バツド君の霊感」感覚がオカシイのは訳者だけのようだ)を原文と比べて読んでみたところ、都築道夫が忌避したような新青年式の翻訳で、面倒なところはパス、意が通じれば良しで、原文からちょっと離れても気にしない自由調。日本語としては読みやすいんだけど、ところどころ大丈夫?な感じ。大意は通じるが、雰囲気がスカスカになっています。創元さん、セイヤーズ探偵小説全集の完結をお願いしますよ!(少なくともピーター卿全集は完成させて欲しい…)
初出はいつものようにFictionMags Index(FMI)調べ。原題はAga-search.comの情報を元に、原書短篇集のものを採用。カッコ付き数字は本書の収録順、ここでは初出順に並べ替えています。ピーター卿シリーズには創元①②として創元文庫版『ピーター卿の事件簿』の番号を表示。黒丸数字は作品が収録されている原書短篇集❶= Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928、❷= Hangman’s Holiday, Gollancz 1933、❸= In the Teeth of the Evidence, Gollancz 1939を示しています。

⑺ The Inspiration of Mr. Budd (初出: Detective Story Magazine 1925-11-21, as “Mr. Budd’s Inspiration”)❸「緑色の頭髪」: 評価6点
ノンシリーズ。TVシリーズOrson Welles' Great Mysteries(1973)の第15話として放映されている。タイトルは原題と同じ。日本では1977年テレビ朝日系で『オーソン・ウェルズ劇場』第10話「理髪師の第六感」として放送されたようだ。(私はたぶん未見。ただし有名なCMを見た記憶がぼんやりあるから外国ミステリ・ドラマ大好きだった私はこのシリーズを観てたか?)
なかなか良く出来た話ですが(緊張と弛緩のユーモア感が良い)、翻訳タイトルで台無し。読むときには忘れること!って無理な注文… FMIにより上記の米国Pulp誌初出(今回、調べてて気付いたのだが、この雑誌の1925-5-30号から5回分載でCloud of Witnessが連載されている。単行本出版1926年なのでこれが初出?掲載タイトルはGuilty Witnesses。単行本ではおかしなことになってる事件発生の日付と曜日が、連載時にどう記されていたのか、非常に気になる)としたが、英国雑誌(当時セイヤーズを掲載してたPearson’sなど)の初出の可能性もありそう。FMIには1920年代のPearson’s情報がほとんど無い。有名な雑誌なのに…
p130 五◯◯磅♣️英国消費者物価指数基準1925/2020(61.20倍)で£1=8086円。500ポンドは404万円。
p130 顔色稍々黒味を帯び銀鼠色の頭髪を有す。髭、鬚、眼とも灰色(complexion rather dark; hair silver-grey and abundant, may dye same; full grey moustache and beard, may now be clean-shaven; eyes light grey, rather close-set)♣️翻訳の調子を見ていただくため、少々長く引用。手配書の人物描写なのだが、後の方で木霊のように響く重要表現”dye same”を含め、”clean-shaven”、”close-set”はばっさり削除。文章は引き締まるけど、忠実とはとても言えない。全篇、こんな感じの翻訳です。浅黒警察として注目は、まず肌の色に言及していること。そして頭髪、口髭、あご鬚、目の色の順。単独で出てくるdarkを「浅黒い肌」と解釈するのも一理ある、という例証か。(まー私は単独のdarkはfairの対義語と考えてますが…) こういう触れ書きの容貌描写に決まった順番ってあるのだろうか?
p132 七志六片(seven-and-sixpence)♣️シリング、ペンスの漢字表現。毛髪染めの値段。3032円。原文では前段で「9ペンスの客、いやチップ込みで1シリングにはなるか」と踏む描写があるのだが、この翻訳ではばっさりカット。散髪代(場末の理容店という設定)が9ペンス(=303円)とは随分安い感じ。2020年英国の記事では安い店で平均£5(=661円)だという。1940年米国では35セント(=690円)という情報あり。
(2020-7-7記載)

⑵ The Abominable History of the Man with Copper Fingers (初出: 短篇集Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928)❶-1「銅指男」
ピーター卿もの。創元①収録。創元文庫の書評を参照願います。

(12)* The Vindictive Story of the Footstep That Ran (初出: Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928)❶-7「嗤う蛩音」
ピーター卿もの。創元未収録。HMM1984年1月号の書評を参照願います。

⑷ The Bibulous Business of a Matter of Taste (初出: 短篇集Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928)❶-8「二人のピーター卿」
ピーター卿もの。創元②収録。創元文庫の書評を参照願います。

⑴ The Adventurous Exploit of the Cave of Ali Baba (初出: 短篇集Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928)❶-12「アリ・ババの呪文」: 評価6点
ピーター卿もの。創元未収録。直近の翻訳は『嶋中文庫 グレート・ミステリーズ12: 伯母殺人事件・疑惑』(2005)に収録されたもの。
冒頭にはワクワクするが、急に安っぽいスリラー調になっちゃう。セクストン・ブレイク大好きなセイヤーズなので致し方ないところ。話の展開は結構面白い。
p7 鳶色の頭髪… 濃い目の山羊髭(with brown hair … a strong, brown beard)♣️こちらの人物描写では頭髪、髭の順
p8 五十万磅♣️英国消費者物価指数基準1928/2020(63.24倍)で£1=8356円。 50万ポンドは41億円。37歳(1928年1月時点)のピーター卿の資産。
p14 二年の歳月♣️この設定だとピーター卿不在期間は1927年12月から1930年1月まで。確かに第4作『ベローナ・クラブ』と第5作『毒』の間には、そのぐらいの空白がある。
p17 拳銃(ピストル)(a revolver)♣️ここは英国伝統のブルドッグ・リボルバーで。(←個人の妄想です)
p18 蓄音機から洩れるジャズのメロデイ(A gramophone in one corner blared out a jazz tune)♣️当時BBC放送で活躍してたFred Elizaldeを聴くとニューオリンズ風のジャズ。ここでかかってるレコードは米国のものだろうか。
p28 臀ポケットから自動拳銃(オートマテツク)を取出すと…(took an automatic from his hip-pocket)♣️尻ポケットに収まるサイズの小型ピストル。ブローニングFN1910の38口径仕様を持たせたい。(←個人の妄想です)
(2020-7-7記載)

⑶ The Man Who Knew How (初出: Harper’s Bazaar 1932-02)❷「殺人第一課」
ノンシリーズ。

⑹ The Fountain Plays (初出: Harper’s Bazaar 1932-12)❷「噴水の戯れ」
ノンシリーズ。

⑸ The Poisoned Dow '08 (初出: The Passing Show 1933-02-25, as “The Poisoned Port”)❷「エッグ君の鼻」: 評価5点
モンタギュー・エッグもの。シリーズは全11作。最後の1作を除き、全て週刊誌The Passing Show掲載(最初の6話は毎週連続掲載。この雑誌、表紙絵が英国版Saturday Evening Postといった感じで当時の英国風景を見事に描いてて好き)。最初を飾るのがこの作品だが、主人公に華がなく、話もパッとしない。いつもうんざりさせられる古典などの引用が無いのが良いところか。エッグ君は酒のセールスマンという設定。セイヤーズはお酒大好きだったんでしょうね。偶然なんですが先日馴染みのイタリア料理屋で食べてたら目の前にDow’s Fine Ruby Portの瓶が!早速試してみたら、しっかり葡萄味ですが甘々〜でした。
p101 (ダウ)葡萄酒でしたら私の手で六ダースほど納めましたが…(the Dow ’08. I made the sale myself. Six dozen at 192s. a dozen.)♣️「ダウ1908年もの」「1ダース192シリングで」という大事な情報は削除。1本16シリング(=7614円、1933年英国物価指数基準72.04倍) もちろんこっちはVintage Port、私の飲んだ年代すら入ってない普及品とは違う… Dowのホームページによると1908年ものは"Light, Delicately Flavoured Wines" Declared by all producers, 1908 was a great vintage with light, delicately flavoured wines.ということらしい。
(2020-7-7記載)

(11)* Sleuths on the Scent (初出: The Passing Show 1933-03-04)❷「香水の戯れ」: 評価5点
モンタギュー・エッグもの第2話。第1話同様、パッとしない話。
p203 「大瓶(large bottle)の方を… 僅か三シリング六ペンスで—」「それじゃ原料の酒精税(the duty on the spirit)にも足らんでしょう」♣️3s.6d.=1666円。香水の大瓶の相場を当時の広告から拾うとYardleyが21シリング、No.4711が30シリングくらいか。
p203 三十五歳、中肉中背で頭髪はブロンド。青目勝ち、短い口髭(age thirty-five, medium height, medium build, fair hair, small moustache, grey or blue eyes, full face, fresh colour)♣️ラジオで流れた指名手配の容貌描写。翻訳では最後の「丸顔、明るい肌色」をカット。
p205 モリス(Morris)を運転して来た男… ひょっとするとオースチンかウォルスレー(Austin or Wolseley)であったかも♣️この宿には、モリスの男が4人もいた。国民車なんだね。ところでこのくだり、この翻訳では「素人の」証言は当てにならない、という書き方だが、原文では「若い女(メイド)の言ってることだから」車種は当てにならない、となっている。
(2020-7-7記載)

⑽* Maher-Shalal-Hashbaz (初出: The Passing Show 1933-04-01)❷「メール・シャラール・ハッシュバッス」: 評価5点
モンタギュー・エッグもの第6話。何故かAga-searchさんちではエッグものに入れていない。この作品から考えてセイヤーズさんが猫好きじゃないのは間違いないと思います。タイトルはイザヤの二番目の息子の名。聖書中で最も長い名前、という称号があるらしい。
p187 ミイコ♣️原文ではpussとかkitty。猫撫で声でネコを呼ぶときの言い方。
p189 十シリング♣️4759円。この値段で人が集まるかなあ。まあ何処かで捕まえて持ってくれば良いが…
p191 なんでも跳びついてはすぐに毀すので(because he ‘make haste to the spoil.’)メール・シャラール・ハッシュバッスという名をつけた♣️イザヤ書8:1に出てくる名前。ヘブライ語で "Hurry to the spoils!" or "He has made haste to the plunder!"という意味らしい。この翻訳では訳注とか説明は全く無い。
p192 電車賃… 半クラウン♣️2s.6d.=1190円。
(2020-7-7記載)

⑻ The Image in the Mirror (初出: 短篇集Hangman’s Holiday, Gollancz 1933)❷「鏡に映った影」
ピーター卿もの。創元①収録。創元文庫で読む予定。

⑼ The Queen's Square (初出: 短篇集Hangman’s Holiday, Gollancz 1933)❷「白いクイーン」
ピーター卿もの。創元②収録。 FMIでは初出1932(雑誌等の言及なし)。コピーライトがそういう表記なのか。短篇集収録前に何処かに発表されてた可能性あり。創元文庫で読む予定。

(13)* The Incredible Elopement of Lord Peter Wimsey (初出: Hangman’s Holiday, Gollancz 1933)❷「妖魔遁走曲」
ピーター卿もの。創元①収録。創元文庫で読む予定。

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