YMYさんの登録情報 | |
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平均点:5.91点 | 書評数:386件 |
No.146 | 5点 | ドクター・ステルベンの密室 桂修司 |
(2021/04/01 23:21登録) 理不尽な要求をするモンスター患者に対し、血液内科医が行った復讐がテーマ。 ハムラビ法典には、目には目をとありますが、モンスター患者には何をぶつけるのか。読めば病院が怖くなる一冊。 |
No.145 | 7点 | 天使は黒い翼をもつ エリオット・チェイズ |
(2021/03/23 23:09登録) オーソドックスなれどストーリーテリングの妙と叙情的な筆致が素晴らしい。脱獄班の主人公が運命の女である娼婦とともに、完全犯罪のはずの強盗計画を実行し、破滅していくまでを描く、いわばノワールとしての物語の典型である。女への愛憎のファンタジーと破滅の美しさを描くノワールのお手本のような作品。 |
No.144 | 5点 | ホテル・ネヴァーシンク アダム・オファロン・プライス |
(2021/03/13 21:20登録) 1930年代に開業したリゾートホテル。やがて隆盛を迎えるものの、少年の失踪事件が人気に影を落とす。その裏には何があったのか。 半世紀にわたる、多彩な人々の視点から綴られる連作。バリエーション豊かな群像劇から、徐々に真実が浮かび上がる。隠れた真相もさることながら、丁寧な人物造形による緻密な語りが印象深い。 |
No.143 | 5点 | ナイト・エージェント マシュー・クワーク |
(2021/03/06 23:33登録) 米国政府に渦巻く陰謀の物語。 ホワイトハウスの危機管理室。緊急電話を取り次ぐ係のFBI局員が、ある夜に受けた電話をきっかけに、国家レベルの謀略に巻き込まれる。 五里霧中の状況から展開する、一気に読ませる謀略スリラー。内容は直接関係ないとはいえ、米国政府をめぐる描写に、近年の大統領選挙の混乱を連想した。 |
No.142 | 8点 | 11の物語 パトリシア・ハイスミス |
(2021/02/26 20:20登録) 全作品が代表作にしてベスト級の逸品と言われる作者の、ほぼすべてが詰まった短篇集。 不条理な現実、理不尽な暴力、いわれなき不安と焦燥感。日常に潜む恐怖を描ききった作者の凄さを、改めて思い知らされた。 |
No.141 | 5点 | 洪水 フィリップ・フォレスト |
(2021/02/20 20:55登録) 100年前に起きた川の氾濫の痕跡、アパートの周囲から消えた猫、火災、失われた娘の命。主人公は「流謫の感覚」に幾度となくさらされ、個人の生が脅かされる。公のカタストロフと個人的なそれが接続する瞬間を、物語は丹念に捉える。 カタストロフの幻視。人類の想像力は破局の到来を恐れつつもどこか準備している。人智では太刀打ちできない自然の猛威による破局を、この上なく抒情的に描き出している。 |
No.140 | 5点 | KIRICO@シブヤ 牧村一人 |
(2021/02/13 20:14登録) 東京の繁華街、渋谷で起こった無差別連続殺人事件をめぐる異色活劇。 人であふれかえる日曜日の渋谷センター街にワゴン車が突入した。次々と歩行者がはね飛ばされたうえ、運転していた男はナイフを持ち人々へ切り付けていった。だが最後に駆け付けた警官により男は射殺された。 それから3年後、女子高生の宇佐美希莉子は、事件で姉を失った海東皓介や元警官の水野霧子ら、さまざまな関係者と出会いを重ねた。やがて思いもしない新たな大事件に巻き込まれていく。 琉球空手を使うヒロインのアクションものであるとともに、ネット社会の暗部やストーカー男が描かれるなど現代社会の歪んだ先端部を渋谷の街に集約させている。際立ったキャラと鮮やかな対立関係、そして大胆な虚構性を生かし、殺人というテーマに迫る、ぐいぐい読ませる一作。 |
No.139 | 5点 | 正当なる狂気 ジェイムズ・クラムリー |
(2021/01/30 19:59登録) 作品の冒頭、かすかに諦念をにじませたシュグルーの姿には、老いの兆しすら感じられた。だが凄惨な犯罪現場に次々に遭遇するにつれ、犯人に対する怒りをたぎらせ、執念深い猟犬さながら謎を追跡し、タフな探偵に変身する。 まさに狂気と紙一重の無謀さで危険に挑んでいく彼の姿には、鬼気迫るものすら感じられた。 暴力と血と裏切りと哀しみを編み込んだストーリーの疾走感は、一気読み必至。お約束の女性たちも、いずれも個性的。とりわけ、シュグルーとの友情と欲望のあいだで揺れ動く女性弁護士は印象的だった。 |
No.138 | 5点 | 真実ふたつと噓ひとつ カトリーナ・キトル |
(2021/01/21 20:26登録) 主人公のデアは、嘘ばかりついている舞台女優。夫のペイトンは妻の癖を承知していて、笑い飛ばしている。だが、実はデアは結婚前に許されない嘘をついていて、夫にいつかばれるのではないかという不安にさいなまれていた。 嘘にもいろいろあるが、ひとつの嘘もなく生きている大人は稀でしょう。ストーリーに動物とのコミュニケーションというテーマが濃密に絡んでくるが、ごまかしのない動物たちに比べ、嘘をつかざるを得ない人間の弱さが身にしみる。試練の先に光明を見いだそうとするデアと、彼女を助ける忠実な飼い犬の姿は読後に深い余韻を残した。 |
No.137 | 6点 | 暗闇にレンズ 高山羽根子 |
(2021/01/11 18:36登録) 監視カメラだらけの平穏な日常に潜む、見えにくい闘争を描いている。 女子高生の「私」は友達と街を歩き、携帯端末で世界を切り取る。それは記憶と記録の私有の試み。映画は感情を操り、記録映像は人々を行動へと駆り立てる。映像機器が情報機器として発展してきたこの架空世界では、撮ることは「取る」であり、時に「盗る」でもある。 組織的情報管理を図るあらゆる権力に、個のレンズで対抗してきた女性たちの、細やかで軽やかな思考と行動には、現代を生きる上で大切な、多くの知恵が見いだされる。 |
No.136 | 4点 | サークル 北島行徳 |
(2021/01/07 19:48登録) 三田村友樹は、中学の時の事故が原因で希望の高校に進めず、やがて引きこもりになってしまった。精神科医の東山と出会ったことで立ち直ろうとしていたが、友人の起こした事件に巻き込まれてしまう。 猟奇殺人が出てくるサイコものなどとは違って、ごく会ありふれた人たちの心の病の問題が扱われており、治療法をはじめ何が正しいのか不確かな世界が巧みに描かれている。静かな日常のサスペンスを生み出しているのは、独特のゆらぎの感覚。 |
No.135 | 5点 | 薪の結婚 ジョナサン・キャロル |
(2020/12/31 18:33登録) キャロルらしい幻想的な作品。老いたミランダは過去を振り返り、思い出を語る。とりわけ、妻子あるヒューとの運命的な愛。物語の前半はヒューとの恋愛を軸に進んでいく。この部分は恋愛小説として素晴らしい。 だが、後半になると一転、キャロルお得意の超自然現象が繰り出され、迷宮のような物語世界で翻弄される。愛とは、人生とは、罪とは、そして償いとは。じっくりと読みたい作品。 |
No.134 | 5点 | KATANA 服部真澄 |
(2020/12/21 19:31登録) 米国では銃の関係する死亡事件が毎年三万件を超えるという。作者は深刻な銃の問題を正面から扱いつつ、日本史における有名な出来事を重ねた上で、予想できない近未来の現実を提示してみせた。当然、題材に関する情報がこれでもかと盛り込まれ、興味深い。 フィクションとはいえ、さまざまな思惑が絡んだうえで生まれる陰謀の恐ろしさ。米国の「戦争」が今後どういいう形になっていくのか、そんなことを注目せずにはおれない情報サスペンス。 |
No.133 | 6点 | 唇を閉ざせ ハーラン・コーベン |
(2020/12/11 18:12登録) 冒頭から大きな秘密が示唆され、次から次へと謎が謎を呼ぶ本作は、プロットだけではなく、心理的にも驚きやどんでん返しがいくつも用意されている。 愛と忠誠心を重んじる主人公の心情にも惹かれ、最後まで飽きさせない。 |
No.132 | 6点 | 数学的にありえない アダム・ファウアー |
(2020/12/01 18:23登録) 破天荒な設定の痛快なサスペンス。ギャンブルの借金で破滅しかかった数学者ケインは、金のために人体実験に参加することになった。だが、その実験によって、ケインの持っていた信じられないような潜在能力が花開いた。 ケインを追う政府の秘密機関、ケインを助けようとするCIAの女性工作員。息詰まる追跡劇はケインの能力によって、とんでもない連鎖反応を呼び起こしていく。確率論が頻繁に登場するが、小難しい論理はさておき、ジェットコースターに乗った気分で楽しんでいただきたい小説。 |
No.131 | 5点 | タイタニックを引き揚げろ クライブ・カッスラー |
(2020/11/24 18:43登録) 豪快なホラ話と爽快なアクションで読ませる作者の代表作。 時は冷戦下、米ソの希少物質の争奪戦から、沈んだタイタニック号の引き揚げに至る怒涛の展開。大風呂敷を広げて見事に畳む、カッスラーの楽しさが詰まった作品。 |
No.130 | 5点 | 三分間の空隙 アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム |
(2020/11/18 18:47登録) 北欧の警察小説シリーズの作品でありながら、物語は北欧にとどまらず、南北アメリカ大陸に広がりを見せる。 コロンビアで、麻薬を扱うゲリラ組織への潜入捜査をするペーテル。その運命は、アメリカの介入によって大きく揺り動かされる。 グローバルな視点で社会の暗部を描く、重厚にしてスリリングな物語。 |
No.129 | 6点 | 事件の予兆 文芸ミステリ短篇集 アンソロジー(出版社編) |
(2020/11/11 19:16登録) 1950年代から1980年代に発表された非ミステリ作家によるミステリに光をあてている。 鮮やかなどんでん返しが人間の精神の闇を照らす大岡昇平「春の夜の出来事」、狂気と恐怖へと誘い込む山川方夫「博士の目」、床屋の主人が客の首を切る志賀直哉の「剃刀」(1910年)へのオマージュともいうべき野呂邦暢「剃刀」、死の床につく母親が息子に復讐する野坂昭如「上手な使い方」、崖から転落死した2人の女性の謎を探る大庭みな子「冬の林」など10編。 「博士の目」や「冬の林」がいい例だが、解かれる謎よりも解かれない謎のほうが魅力的で、混沌たる深層意識をのぞかせるだけで、ドキリと衝撃的であることを伝えている。純文学作家たちのアプローチの新鮮さがここにある。 |
No.128 | 5点 | 赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。 青柳碧人 |
(2020/11/03 19:56登録) 赤ずきんがシンデレラとカボチャの馬車でお城の舞踏会に出掛ける時に男をひき殺してしまう「ガラスの靴の共犯者」、ヘンゼルとグレーテルによる犯罪を赤ずきんが解明していく「甘い密室の崩壊」、お城で眠り続けるお姫様のもとで殺人事件が起きる「眠れる森の秘密たち」、マッチ売りの少女が社長になり世界に不幸をもたらす「少女よ、野望のマッチを灯せ」の4作。 アリバイ、密室、ダイイングメッセージなどを用いた緊密なミステリ劇だった前作に比べると謎解きの面白さはやや薄いが、そのかわり童話を大胆奇抜に作り替えて、悪意と皮肉をまぜた大人の残酷劇にして秀逸。ピカレスクものとしてのシンデレラやヘンゼルとグレーテルの話も面白いが、マッチを夢見る麻薬になぞらえる「少女よ、野望のマッチを灯せ」が薬物依存を主題にして、なかなか鋭く現代的。 |
No.127 | 6点 | さむけ ロス・マクドナルド |
(2020/10/27 18:51登録) ある事実をアーチャーに気づかせるある発言は、ハヤカワ・ミステリ文庫版で四一一ページあるこの小説の、実に四〇六ページ目になって登場sる。 読者にも探偵にも考える時間を殆んど与えない。急転直下のラストの展開によって不自然さを免れようとしているかに思える。 |