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ミステリの祭典

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YMYさんの登録情報
平均点:5.89点 書評数:372件

プロフィール| 書評

No.132 6点 数学的にありえない
アダム・ファウアー
(2020/12/01 18:23登録)
破天荒な設定の痛快なサスペンス。ギャンブルの借金で破滅しかかった数学者ケインは、金のために人体実験に参加することになった。だが、その実験によって、ケインの持っていた信じられないような潜在能力が花開いた。
ケインを追う政府の秘密機関、ケインを助けようとするCIAの女性工作員。息詰まる追跡劇はケインの能力によって、とんでもない連鎖反応を呼び起こしていく。確率論が頻繁に登場するが、小難しい論理はさておき、ジェットコースターに乗った気分で楽しんでいただきたい小説。


No.131 5点 タイタニックを引き揚げろ
クライブ・カッスラー
(2020/11/24 18:43登録)
豪快なホラ話と爽快なアクションで読ませる作者の代表作。
時は冷戦下、米ソの希少物質の争奪戦から、沈んだタイタニック号の引き揚げに至る怒涛の展開。大風呂敷を広げて見事に畳む、カッスラーの楽しさが詰まった作品。


No.130 5点 三分間の空隙
アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム
(2020/11/18 18:47登録)
北欧の警察小説シリーズの作品でありながら、物語は北欧にとどまらず、南北アメリカ大陸に広がりを見せる。
コロンビアで、麻薬を扱うゲリラ組織への潜入捜査をするペーテル。その運命は、アメリカの介入によって大きく揺り動かされる。
グローバルな視点で社会の暗部を描く、重厚にしてスリリングな物語。


No.129 6点 事件の予兆 文芸ミステリ短篇集
アンソロジー(出版社編)
(2020/11/11 19:16登録)
1950年代から1980年代に発表された非ミステリ作家によるミステリに光をあてている。
鮮やかなどんでん返しが人間の精神の闇を照らす大岡昇平「春の夜の出来事」、狂気と恐怖へと誘い込む山川方夫「博士の目」、床屋の主人が客の首を切る志賀直哉の「剃刀」(1910年)へのオマージュともいうべき野呂邦暢「剃刀」、死の床につく母親が息子に復讐する野坂昭如「上手な使い方」、崖から転落死した2人の女性の謎を探る大庭みな子「冬の林」など10編。
「博士の目」や「冬の林」がいい例だが、解かれる謎よりも解かれない謎のほうが魅力的で、混沌たる深層意識をのぞかせるだけで、ドキリと衝撃的であることを伝えている。純文学作家たちのアプローチの新鮮さがここにある。


No.128 5点 赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。
青柳碧人
(2020/11/03 19:56登録)
赤ずきんがシンデレラとカボチャの馬車でお城の舞踏会に出掛ける時に男をひき殺してしまう「ガラスの靴の共犯者」、ヘンゼルとグレーテルによる犯罪を赤ずきんが解明していく「甘い密室の崩壊」、お城で眠り続けるお姫様のもとで殺人事件が起きる「眠れる森の秘密たち」、マッチ売りの少女が社長になり世界に不幸をもたらす「少女よ、野望のマッチを灯せ」の4作。
アリバイ、密室、ダイイングメッセージなどを用いた緊密なミステリ劇だった前作に比べると謎解きの面白さはやや薄いが、そのかわり童話を大胆奇抜に作り替えて、悪意と皮肉をまぜた大人の残酷劇にして秀逸。ピカレスクものとしてのシンデレラやヘンゼルとグレーテルの話も面白いが、マッチを夢見る麻薬になぞらえる「少女よ、野望のマッチを灯せ」が薬物依存を主題にして、なかなか鋭く現代的。


No.127 6点 さむけ
ロス・マクドナルド
(2020/10/27 18:51登録)
ある事実をアーチャーに気づかせるある発言は、ハヤカワ・ミステリ文庫版で四一一ページあるこの小説の、実に四〇六ページ目になって登場sる。
読者にも探偵にも考える時間を殆んど与えない。急転直下のラストの展開によって不自然さを免れようとしているかに思える。


No.126 5点 ユー・アー・マイン
サマンサ・ヘイズ
(2020/10/20 20:32登録)
物語は妊婦が次々と襲われるという凶悪犯罪を軸に、三人の女性の視点で展開されていく。
視点人物の交代によって真実を読者の目から覆い隠す技巧が冴えている。仮に真犯人は見破られたとしても、怒涛のような伏線回収には驚かされるはずだ。


No.125 5点 神の値段
一色さゆり
(2020/10/12 18:32登録)
専門知識に彩られた美術関連のディテールには厚みがあり、人物造形を含め、筋の運びも巧み。
美術界をめぐるエピソードの数々が興味深く、それらを生かした不可解な謎をめぐりサスペンスとしていい味を出している。


No.124 7点 破滅のループ
カリン・スローター
(2020/10/02 19:41登録)
米ジョージア州捜査官ウィル・トレントが活躍するシリーズの第9作。
爆破テロの現場近くで、ウィルの目の前で恋人サラが凶悪犯に拉致されてしまう冒頭から、彼が重い決断を迫られるクライマックスに至るまで、目まぐるしく展開する。
全体の構図はシンプルだが、事件のスケールと展開の激しさはシリーズでもトップレベル。分厚いけれども一気に読ませる作品。


No.123 4点 神と罌粟
ティム・ベイカー
(2020/10/02 19:36登録)
長年にわたって女性を狙った殺人が続く、メキシコの国境近くの街。地道な捜査を続ける刑事、女性の地位向上のために働く活動家を中心に、さらにジャーナリスト、神父、麻薬カルテルの首領らの視点から、人々の権力と思惑が絡み合った事態が描かれる。
意外性ではなく、重さと激しさを印象に残す作品。決してスピーディーに読ませる小説ではない。結末も唐突な印象は拭えない。だが、事件の向こうに浮かび上がる絶望は生々しい衝撃を残す。


No.122 5点 ボストン・シャドウ
ウィリアム・ランデイ
(2020/09/21 19:31登録)
一九六〇年代のボストンを舞台にして、長男警官、次男検察官、三男空き巣犯という個性的な三兄弟を主人公に据えている。
実際にあった絞殺魔事件を軸にしているが、読みどころは三兄弟の生き方とその微妙な関係。警察の腐敗に染まりマフィアと関係を深める長男。絞殺魔事件を担当させられる次男の苦悩。恋人を殺された三男の絶望。さらに警官だった父親が殉職して残された母親と、父の同僚の交際。それに反感を抱く息子たち。愛憎こもごもの複雑な感情が、重層的に描かれ読み応えがある。


No.121 9点 ゴーレム100
アルフレッド・ベスター
(2020/09/14 19:35登録)
一九八〇年に発表した幻の奇書。そのとんでもなさは本をパラパラめくるだけで一目瞭然。楽譜、ロールシャッハ・テスト、写真、漫画などなどが縦横無尽に入り乱れ、テキストとビジュアルがキメラ状に融合している。
物語の舞台は二一七五年のメガロポリス。八人の有閑マダムが悪魔召喚ごっこでうっかり本物の怪物を生み出してしまい、やがて凄惨な連続殺人事件が...。いかにもB級ホラーじみたこの筋立てがどんなにすさまじい小説になっているか、ぜひ実物で体験してほしい。


No.120 6点 粘膜戦士
飴村行
(2020/09/08 18:01登録)
グロテスクな描写と意外な展開、ブラックな笑いを散りばめて読者を魅了する「粘膜」シリーズの第四弾は驚きの詰まった短篇集。
気持ち悪いのにやめられない。残虐なのに噴き出してしまう。そして最後には自由な空想力と緻密な構成力に驚かされる。短篇集なので「粘膜」初心者でも読みやすいかもしれない。


No.119 5点 ベンハムの独楽
小島達矢
(2020/08/29 11:21登録)
第5回新潮エンターテインメント大賞受賞作。九つの綺想による作品集。現実離れしたブラックな世界とトリッキーな仕掛けがうまく融合している物語や、青春小説風、幼い子供の文体による物語、SFショートショートとバラエティーに富んだ異色短編が並んでいるが、9作が揃うと単なるアイデア、ストーリーをこえた独自の世界の広がりが見える。そこが魅力の一冊。


No.118 5点 コックファイター
チャールズ・ウィルフォード
(2020/08/17 19:28登録)
主人公はプロの闘鶏家。この競技に人生を懸ける男が、勝負に敗れてすべてを失い、文無しになる。男は放浪の旅に出て、やがて復活へと向かう。ミステリとしては弱い作品だが、戦いに取りつかれた男の、熱に浮かされたような物語として印象深い。


No.117 7点 ボンベイ、マラバー・ヒルの未亡人たち
スジャータ・マッシー
(2020/08/17 19:24登録)
1921年のボンベイ(現ムンバイ)で、差別に直面しながらも毅然と生きる女性弁護士が、依頼人の邸宅で起きた密室殺人の謎を追う。
謎を解く過程も十分に読ませるが、主人公の半生もまた記憶に残る。女性への抑圧が作中で大きな位置を占めているが、温かみのある人物描写のおかげもあり、必ずしも重苦しい作品ではない。


No.116 6点 紳士たちの遊戯
ジョアン・ハリス
(2020/08/02 10:36登録)
伝統的な英国の男子校を舞台にしたミステリ。
学園を愛する老教師と新任教師として学園に潜入した謎の人物の二つの視点によって、物語は進んでいく。
やがて謎の人物が学園に復讐を企んでいることが分かり、いくつもの事件が起き始める。犯人による回想部分は、思春期のナイーブな感性が痛々しい。かたや、同じ人物でも、現在の語り口は悪意に満ち、刃のように冷酷。そのコントラストの妙が興趣を添える。


No.115 5点 アメリカン・ゴッズ
ニール・ゲイマン
(2020/07/28 19:54登録)
主人公は、傷害罪で服役中の男、シャドウ。愛する妻との再会だけを夢見て刑期を務めあげたのに、出所の直前、妻が浮気の末に交通事故死。途方に暮れるシャドウに、ミスター・ウェンズデイと名乗る詐欺師が仕事を持ち掛ける。彼こそは、北欧神話の最高神、オーディンの化身。移民と共にアメリカにやってきた古い神々を団結させ、新しい神々に戦いを挑もうとしているのだという。
かくて、世界各地の神々や妖精たちが総登場し、果てしないドタバタ劇を繰り広げる。作風はさしずめ、村上春樹とスティーヴン・キングが合作したような感じ。(邦訳版のみの特典として巻末に懇切丁寧な神様辞典つき)


No.114 8点 愚者(あほ)が出てくる、城塞(おしろ)が見える
ジャン=パトリック・マンシェット
(2020/07/21 20:21登録)
精神病んだ娘とアメリカ人の殺し屋と凶暴な誘拐犯が三つ巴の破壊劇を展開するさまを冷酷に綴って、悪夢と暴力の「不思議の国のアリス」みたいな異様な空気を生み出す。感情移入ゼロの薄い本だからこその非現実感が、本書をロマン・ノワールの極北たらしめている。


No.113 6点 ねじまき少女
パオロ・バチガルピ
(2020/07/15 20:11登録)
本書はプロットよりも世界観が重要なSFで、環境問題やグローバリゼーション、科学倫理などについて深く考えさせられる。
文章そのものは特に難解ではないが、登場人物が非常に多く、多国籍の名前や利権をめぐって陰で争う多くのグループを理解するのには努力を要する。

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