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ミステリの祭典

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愚者(あほ)が出てくる、城塞(おしろ)が見える
旧訳『狼が来た、城へ逃げろ』

作家 ジャン=パトリック・マンシェット
出版日1974年01月
平均点7.40点
書評数5人

No.5 7点 メルカトル
(2022/01/03 22:27登録)
精神を病み入院していたジュリーは、企業家アルトグに雇われ、彼の甥であるペテールの世話係となる。しかし凶悪な4人組のギャングにペテールともども誘拐されてしまう。ふたりはギャングのアジトから命からがら脱出。殺人と破壊の限りを尽くす、逃亡と追跡劇が始まる。
『BOOK』データベースより。

正直、訳者あとがきにあるような、こんなすごい作品がこの世にあったのかというほどの傑作とは思いません。それでも、キャラが立っているのが良いですね。アルトグや悪役達はアクが強く一癖ある連中ばかりで、それをクールに描いているのがいかにも暗黒小説といった雰囲気を醸し出しています。そしてジュリーとペテールの二人は反目し合いながらも、どこか気持ちが通じていると思わせる辺り上手いなと。直截的な描写はなくても行間に滲み出ている感じがします。

何となく読んでしまうと飽き足らない思いがするかも知れませんが、よくよく読んでみるとなかなか良く描かれているし、計算されている作品だと云う気がします。ストーリー自体は至ってシンプルですが、その中にも一捻りしてあり、乾いた暴力や殺戮がぴったりとフィットしています。

No.4 8点 YMY
(2020/07/21 20:21登録)
精神病んだ娘とアメリカ人の殺し屋と凶暴な誘拐犯が三つ巴の破壊劇を展開するさまを冷酷に綴って、悪夢と暴力の「不思議の国のアリス」みたいな異様な空気を生み出す。感情移入ゼロの薄い本だからこその非現実感が、本書をロマン・ノワールの極北たらしめている。

No.3 4点 蟷螂の斧
(2020/03/05 17:38登録)
あらすじは、誘拐された二人が、犯人たちから逃げるという単純なものです。登場人物たちの心理・感情がほとんど描かれない(これが特徴?)。よって、何故誘拐したのか、何故逃げなければならないのか(何故助けを求めない)、何故殺そうとするのか?が不明のまま物語が進行します。ミステリーとしての謎ではないので、かなりのストレス(苦笑)。さらに登場人物の行動が常軌を逸しています。結局、感情移入できないため、追いつ追われつのハラハラドキドキ感が湧いてこなかった。残念。

No.2 9点 八二一
(2019/10/16 21:01登録)
ロマン・ノワールの頂点。クールな狂気という作風がより鮮明になった新訳により傑作がよみがえった。中条氏の解説が丁寧。もっといい題名がありそう。これでもギリギリ許せるけど。

No.1 9点 クリスティ再読
(2017/06/11 23:34登録)
「地下組織ナーダ」が良かったので、現行で手に入る本作を読みたくて読んだ。さすがに「狼が来た、城へ逃げろ」は読んでないんだよ。
精神病院に入院していたヒロイン・ジュリーは、大企業の経営者にその甥である少年の世話係に雇われた。しかしジュリーと少年はギャング4人組に誘拐されて...という話である。おもちゃ箱をブチまけたような死と破壊がジュリーと少年の後に残される、血なまぐさい童話のような作品だ。
まあヒロインが精神病院から直接雇われて...というあたりからして尋常じゃない(反精神医学とかそういうあたりの背景があるようだ)。本当に周囲からしたら大迷惑な破壊(逃亡するために積極的な人殺しさえしちゃう)の限りを尽くすことになるのだから、陰惨な話なのか...というとまったくそうじゃない。カーニヴァルめいた陽気さで派手な逃走劇を繰り広げるのだ!
だから追う側のギャングたちが胃潰瘍に苦しんでたりするのにもバカバカしいような納得感がある。本作、ホント読んでいて昂揚する...ちょっと評者も野性の血が騒いじゃったようだ。

空気が澄みきって、すごくいい天気だ。撃ちあいのせいで家に帰るのが遅れたことを喜んでいた。耳に触るとひどく痛かったが、アルコールで消毒されるのはご免だ。それでまた、インディアンごっこに出発した。

本作は光文社古典新訳文庫なんてところから、1972年の作品だけど出ている。それにふさわしい、新しい古典の名に恥じない傑作である。邦訳全作読みたくなったなぁ。評者もインディアンごっこにレッツゴー。

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