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ミステリの祭典

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ALFAさんの登録情報
平均点:6.65点 書評数:204件

プロフィール| 書評

No.144 5点 名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件
白井智之
(2023/09/07 15:08登録)
ミステリーの謎解きは現実のロジックに則ってほしい。
この世に存在しない特殊設定を持ち出して謎解きをするなら、それはミステリーを離れた一種のパズラーノベル。
そのつもりで読めば楽しめるかもしれない。


No.143 6点 動機
横山秀夫
(2023/09/05 08:22登録)
切れ味鋭い「第三の時効」は連城を思わせたが、この「動機」は清張風味。
重く暑苦しい人物造形はまさに昭和。携帯電話が出てこなければ清張短編に紛れても違和感はない。
読み応えはやはり表題作「動機」と「逆転の夏」。


No.142 6点 臨場
横山秀夫
(2023/09/02 08:43登録)
終身検視官の異名を持つ倉石調査官を主人公にした8編の短編集。一般人には縁のない検死の世界を覗けて面白い。
複雑なプロットで読ませる「真夜中の調書」、丁寧な伏線が埋め込んである「赤い名刺」などが本格味。

殺伐としたモチーフが続くなか、各編ともに人情の隠し味が仕掛けてある。ベタだが「餞」の人情味も捨てがたい。


No.141 8点 第三の時効
横山秀夫
(2023/08/29 08:47登録)
6編からなる警察ミステリー。

以前親族にちょっとした事故があって警察署に出向いた時、対応してくれた部署が「強行班」と聞いてギョっとしたが、そうか強行班は刑事の花形部署なんだ。そうするとあの時お目にかかった背筋の伸びたお兄さんは花形刑事だったのか。

この作品、三つの強行班長のキャラが立っていて面白い。それぞれを主役にした三篇がやはりいい。どれも読者が推理する余地はあまりなく、作者のドラマティックなネタ割りを楽しむ作品だろう。中でも表題作「第三の時効」と「沈黙のアリバイ」が読みごたえある。

連城の短編とも比較されるが、あちらがカミソリならこっちは出刃包丁の切れ味。血と汗の匂いがする。乾いた文体もよく似合う。


No.140 7点 返事はいらない
宮部みゆき
(2023/08/23 08:36登録)
日常の謎から殺人事件まで6話からなる短編集。いずれも社会派風味。
この社会派風味の頃合いがちょうどいい。
カードローンをモチーフにした「裏切らないで」は、欲望の虚像都市「東京」の罠に嵌まった女性を主人公にした秀作。シンプルなミステリーだが、声高に社会派を振りかざした有名長編より味わい深い。逆トリックによるドライなエンディングは清張を思わせる

お気に入りは表題作「返事はいらない」と読後感のいい「ドルシネアにようこそ」。


No.139 7点 桜ほうさら
宮部みゆき
(2023/08/22 10:35登録)
タイトルのイメージ通りほんのり優しいサイドストーリーを読み進めていくうちに、やがてダークな真相が明らかになってエンディングへ。とても読みごたえがある。

犯人(敵役)の人物造形や意外性は申し分ないのだが、唯一残念なのはその行動というか話への出し入れが何だかギクシャクしていること。真相開示がスムースでドラマチックな構成になっていたら、時代ミステリーの代表作になっていただろう。


No.138 6点 青瓜不動 三島屋変調百物語九之続
宮部みゆき
(2023/08/12 08:40登録)
今回の四話はいずれもお伽噺風のホラーファンタジー。
お気に入りは「針雨の里」。
人ならぬもののコミュニティと人里との交流や、産物の流通までストリーに組み込んだ、いわば社会派ホラーファンタジー。妙なリアリティがあって面白い。
タイトルが微妙な伏線にもなっていて、謎解きの味わいもある。

それにしても聞き手の小旦那富次郎もこれで4集目となる。先代のおちかは第5集でバトンタッチしたのだからそろそろ富次郎も同じパターンで続けるのは難しいのでは?
どうする宮部❗


No.137 6点 よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続
宮部みゆき
(2023/08/09 10:06登録)
百物語が初期の緻密なホラーから次第におとぎ話風ホラーファンタジーへと変わってきている。そのため、作中リアルの三島屋を舞台とする人情話と百物語との繋がりが悪くなってしまった。

今回は三島屋の富次郎、伊一郎やおちかの話が盛りだくさんで、その点はシリーズファンとしては楽しめるのだが・・・


No.136 6点 黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続
宮部みゆき
(2023/08/06 15:10登録)
聞き手がおちかから三島屋の次男富次郎にバトンタッチ。

お気に入りは第三話「同行二人」。ひねりのないストレートな人情ホラーだがロジックが通っている上に、語り手にも怪異にも妙に共感できる。
表題作は「そして誰もいなくなり」そうな閉ざされた屋敷もの。とても面白い趣向だが、いかんせん長すぎる。330ページでほとんど長編。この半分でいい。

まだ聞き手としては頼りない富次郎だが、周辺エピソードも盛りだくさんでシリーズ物の楽しさが味わえる。


No.135 5点 赫衣の闇
三津田信三
(2023/08/03 14:58登録)
第二章まではプロローグ。終戦直後の闇市を描いて読みごたえがある。
その数年後を描く第三章からが本編。
ミステリーとホラーのハイブリッドが作者の真骨頂だが、この作品では肝心のミステリー部分が継ぎはぎで弱い。
シリーズ第一作のような重厚な本格謎解きが欲しかった。この動機と時代背景なら深い作品になり得たのに残念。

同年に出版された別作品は、ミステリーとホラーを見事に融合させた傑作である。そちらのシリーズの探偵らしき若者がチラッと登場するのは面白い。


No.134 5点 魂手形 三島屋変調百物語七之続
宮部みゆき
(2023/08/03 07:54登録)
宮部みゆき安定の百物語。シリーズファンなら安心して楽しめる。
ただ、三十四話までくるとどうしても同工異曲は免れない。
構成の変化や、聞き手である富次郎の周辺エピソードで盛り上げたいところだが、おちかほど屈託を抱えていないため深みがでない。

第二話、父親そっくりに見えていた三兄弟が、実はそれぞれ似ても似つかない顔だったというのは、ホラーのロジックとして面白い。


No.133 7点 Iの悲劇
米澤穂信
(2023/08/02 08:06登録)
「限界」を超えて無人になってしまった集落の再生を図る南はかま市。
そこに移住してきたIターン組に起こる事件をテーマにした6+1編の連作短編集(風)。各章とも多少シリアスな日常の謎。
なるほどそれで表題が「Iの悲劇」か、シャレてるけどちょっと大げさな、と思っていたら最終章でひっくり返された。
ここをイヤミス風反転ととるか、重量級の社会派への変身ととるか。
私は後者。その方が面白い。人形浄瑠璃のガブ(姫がいきなり鬼になる)みたい。
ボンクラ課長が時折り見せる強面が気にはなっていたんだ・・・


No.132 9点 木挽町のあだ討ち
永井紗耶子
(2023/08/01 11:47登録)
掛け値なしに面白い。
ミステリーとしてはオーソドックスなプロット。クリスティの「5匹の子豚」のような構成美。
語り口は宮部みゆきにも似ているがさらに薄口で滑らか。とても読みやすい。

委細は人並由真さんの丁寧な書評に尽くされているのでそちらを・・・


No.131 7点 炎に絵を
陳舜臣
(2023/07/30 16:41登録)
初めは穏やかにゆっくり、中盤少しずつ加速して終盤は怒涛の真相開示。
めでたしめでたしとはならない不穏な結末がいい。タイトルも象徴的。
文体はさすがにスムースで読みやすい。ただ、清張や宮部みゆきのような語り口で読ませるタイプではないから地味な印象は否めない。
(少しネタバレ)


たいていのご都合主義には目をつぶることにしているが、そもそも主人公の神戸転勤は偶然だよね。そして同姓?あと、悪徳会計士の始末もつけといてほしかったなあ。でないと本当に富豪になれたかどうかわからないでしょ?


No.130 6点 白魔の塔
三津田信三
(2023/07/27 08:03登録)
シリーズ第2作。
今回ははじめから怪異続き。しかもイレコ構造なのでほぼ同じ話が繰り返される。
テンションが変わらないため怖さに慣れてしまう、というかそもそもあまり怖くない。

終盤のタネ明かしはホラーのロジック。しかしとてもパーソナルな「事情」とでも言うべき真相なので、むしろファンタジーとして読むのがいいかもしれない。

それにしても同一シリーズで第一作はガチの本格、第二作はホラーファンタジーというのはどうなんだろう。
終戦直後の混乱と猥雑、地に足のついたストイックな主人公というシリーズキャラを生かして、言揶シリーズとは違うホラー風味本格ミステリーを続けてほしいなあ・・・
さてこれから読む第3作はどうなるかな。


No.129 8点 黒面の狐
三津田信三
(2023/07/26 08:14登録)
満州帰りの青年物理波矢多は筑豊の小駅にあてもなく降り立つ。汽車の黒煙越しに見える茜色の夕焼。まるで映画のような書き出しである。

前半三分の一は事件も怪異も起きない。坑夫として働く主人公や周辺の人々、過酷で猥雑な炭鉱町が生き生きと描き出される。短いセンテンスによる情景描写や人物造形は清張さながら。考証にもとづく戦中戦後の炭鉱事情はとても詳細だが、言耶シリーズでの民俗学の蘊蓄ほど煩わしくはない。巧みに物語に織り込まれている。
そして落盤事故をきっかけに事態は急変する。
以下少々ネタバレ


作者らしい緻密な伏線が張られている。ただ最も重要な伏線は、読者が受ける「印象」としか言いようのない感覚的なものである。
最後の反転もいい。
時おり感じる雨月物語のようなストイシズムとよく響きあう。

メイントリックの強引さを芳醇な物語が補って余りある名作。



No.128 5点 異邦の騎士
島田荘司
(2023/07/25 08:37登録)
改訂完全版で再読
大胆なトリックを強い文体で読ませる力業が島田荘司の真骨頂。
ところが
(以下ネタバレしますよ)



この作品では主人公の記憶が戻らないことを前提にトリックが組み立てられている。これでは砂の上に精密な建物をたてるようなもので、トリック以前にミステリーのロジックとして無理がある。
他に読みどころを探すとすれば、良子との虚構の愛情物語とその悲劇的な結末、そして主人公の目覚め部分など。ただ残念ながら作者の文体は力強さはあってもラフなので、ラブストーリーや心理描写には向かない。
多くのご指摘通り、本格謎解きではなくサスペンスとして読めばまずまず楽しめる。

作者の「改訂完全版のための後書き」は楽しい。


No.127 6点 アミュレット・ホテル
方丈貴恵
(2023/07/22 16:07登録)
「上級」犯罪者御用達の高級ホテルを舞台にした4編からなる短編集。
まず舞台設定が魅力的。さらにキャラもプロットも変化に富んでいて楽しい。

残念なのは地の文も会話もあまりに説明的なこと。
真相開示でホテル探偵が長々と「解説」するのは興ざめ。
状況説明も真相開示ももっと自然な叙述が欲しかった。


No.126 8点 世界でいちばん透きとおった物語
杉井光
(2023/07/22 12:15登録)
直接の犯罪は出てこないが骨格はまちがいなく本格ミステリー。
唯一の肉親である母をなくした青年の清潔感のある人物造形がいい。

ミステリーらしい興趣に満ちた物理的な仕掛けを面白いと思えるかどうかが評価の分かれ目かな。
つけられたタイトルもベタでいい。
最後、義理の兄が妙にいいヤツになっていて笑える。


No.125 7点 前夜祭
連城三紀彦
(2023/07/22 08:54登録)
ミステリー(不思議)はいつも犯罪を伴うとは限らない。人の心、その動きそのものが大いなるミステリーだから。クリスティはウェストマコット名義で名作を残したが、連城は筆名を変えることなく愛憎のミステリーを多く残している。
「前夜祭」は夫婦や家族間の謎を描いた8編からなる心のミステリー短編集。

お気に入りは表題作のほか「それぞれの女が」「薄紅の糸」。かなりアクロバティックなプロットが荒唐無稽に堕ちないのは登場人物の造形が確かだからか。

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