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ミステリの祭典

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ALFAさんの登録情報
平均点:6.67点 書評数:190件

プロフィール| 書評

No.130 6点 白魔の塔
三津田信三
(2023/07/27 08:03登録)
シリーズ第2作。
今回ははじめから怪異続き。しかもイレコ構造なのでほぼ同じ話が繰り返される。
テンションが変わらないため怖さに慣れてしまう、というかそもそもあまり怖くない。

終盤のタネ明かしはホラーのロジック。しかしとてもパーソナルな「事情」とでも言うべき真相なので、むしろファンタジーとして読むのがいいかもしれない。

それにしても同一シリーズで第一作はガチの本格、第二作はホラーファンタジーというのはどうなんだろう。
終戦直後の混乱と猥雑、地に足のついたストイックな主人公というシリーズキャラを生かして、言揶シリーズとは違うホラー風味本格ミステリーを続けてほしいなあ・・・
さてこれから読む第3作はどうなるかな。


No.129 8点 黒面の狐
三津田信三
(2023/07/26 08:14登録)
満州帰りの青年物理波矢多は筑豊の小駅にあてもなく降り立つ。汽車の黒煙越しに見える茜色の夕焼。まるで映画のような書き出しである。

前半三分の一は事件も怪異も起きない。坑夫として働く主人公や周辺の人々、過酷で猥雑な炭鉱町が生き生きと描き出される。短いセンテンスによる情景描写や人物造形は清張さながら。考証にもとづく戦中戦後の炭鉱事情はとても詳細だが、言耶シリーズでの民俗学の蘊蓄ほど煩わしくはない。巧みに物語に織り込まれている。
そして落盤事故をきっかけに事態は急変する。
以下少々ネタバレ


作者らしい緻密な伏線が張られている。ただ最も重要な伏線は、読者が受ける「印象」としか言いようのない感覚的なものである。
最後の反転もいい。
時おり感じる雨月物語のようなストイシズムとよく響きあう。

メイントリックの強引さを芳醇な物語が補って余りある名作。



No.128 5点 異邦の騎士
島田荘司
(2023/07/25 08:37登録)
改訂完全版で再読
大胆なトリックを強い文体で読ませる力業が島田荘司の真骨頂。
ところが
(以下ネタバレしますよ)



この作品では主人公の記憶が戻らないことを前提にトリックが組み立てられている。これでは砂の上に精密な建物をたてるようなもので、トリック以前にミステリーのロジックとして無理がある。
他に読みどころを探すとすれば、良子との虚構の愛情物語とその悲劇的な結末、そして主人公の目覚め部分など。ただ残念ながら作者の文体は力強さはあってもラフなので、ラブストーリーや心理描写には向かない。
多くのご指摘通り、本格謎解きではなくサスペンスとして読めばまずまず楽しめる。

作者の「改訂完全版のための後書き」は楽しい。


No.127 6点 アミュレット・ホテル
方丈貴恵
(2023/07/22 16:07登録)
「上級」犯罪者御用達の高級ホテルを舞台にした4編からなる短編集。
まず舞台設定が魅力的。さらにキャラもプロットも変化に富んでいて楽しい。

残念なのは地の文も会話もあまりに説明的なこと。
真相開示でホテル探偵が長々と「解説」するのは興ざめ。
状況説明も真相開示ももっと自然な叙述が欲しかった。


No.126 8点 世界でいちばん透きとおった物語
杉井光
(2023/07/22 12:15登録)
直接の犯罪は出てこないが骨格はまちがいなく本格ミステリー。
唯一の肉親である母をなくした青年の清潔感のある人物造形がいい。

ミステリーらしい興趣に満ちた物理的な仕掛けを面白いと思えるかどうかが評価の分かれ目かな。
つけられたタイトルもベタでいい。
最後、義理の兄が妙にいいヤツになっていて笑える。


No.125 7点 前夜祭
連城三紀彦
(2023/07/22 08:54登録)
ミステリー(不思議)はいつも犯罪を伴うとは限らない。人の心、その動きそのものが大いなるミステリーだから。クリスティはウェストマコット名義で名作を残したが、連城は筆名を変えることなく愛憎のミステリーを多く残している。
「前夜祭」は夫婦や家族間の謎を描いた8編からなる心のミステリー短編集。

お気に入りは表題作のほか「それぞれの女が」「薄紅の糸」。かなりアクロバティックなプロットが荒唐無稽に堕ちないのは登場人物の造形が確かだからか。


No.124 6点 桜宵
北森鴻
(2023/07/19 09:12登録)
香菜里屋シリーズ第2作。

謎を肴に酒を飲むといった風情の短編5話。謎が次第に重くダークになっていく。
読み応えがあるのは第5話「約束」。
辛口の真相はいいが開示がやや説明的になったのが惜しい。よりドラマチックなエンディングが欲しかった。


No.123 4点 葉桜の季節に君を想うということ
歌野晶午
(2023/07/18 12:41登録)
寛い心でエンタメノベルとして読めばそれなりに楽しめる(かもしれない)。
このミス1位の本格モノのつもりで読んだらカベ本。
騙すところはそこですか・・・


No.122 4点 ロートレック荘事件
筒井康隆
(2023/07/13 13:44登録)
読みやすい文体といい巧みな人物造形といいさすがの練達。
しかしミステリーとしては叙述トリック一発で芸がない。
エンディングもあまり好みではない。ここでシミジミとさせてどうしようというのか。

見取り図をあらためて見ると笑える。


No.121 7点 作者不詳 ミステリ作家の読む本
三津田信三
(2023/07/13 09:53登録)
なんだか乱歩風味で楽しい。

作中作の「迷宮草子」は純然たるミステリー短編集。ところがそれを読む者は怪異に襲われ、ミステリーの謎を解くと無事救われるという仕掛け。
作者らしいミステリーとホラーのハイブリッド構成になっている。
ミステリーのキッチュ感と襲われる怪異のベタさ加減が乱歩風味を出しているのか・・・
作中作のなかでは「朱雀の化物」が作者の某有名長編を思わせる叙述で読みごたえがある。

無限地獄を思わせるエンディングは余計だったかも。


No.120 8点 双頭の悪魔
有栖川有栖
(2023/07/08 14:30登録)
冒頭からクリスティの「春にして君を離れ」を思わせるマリアの内省的な叙述が続く。200ページあたりまで異変は起こらず冗長にも感じられる。しかしこれは読者を熟成させるのに必要な長さなのだろう。
やがて事態は動き始める。川の向こうとこちらでそれぞれに。
テンポは速からず遅からず、あちらこちらに張り巡らされている伏線を探りながら読み進めることとなる。
精緻なロジックを堪能できる新本格の大作。
しかし残念ながら・・・



以下ネタバレ
唯一にして最大の問題はXを仲介者とするxx殺人であること。両犯人ともにXが仲介者ではなく当の契約相手であると信じている。しかしこれはXの属性を考えるとまずあり得ない。
動機(Xにとっての)の脆弱さも減点要素。


No.119 7点 生霊の如き重るもの
三津田信三
(2023/06/26 09:30登録)
「魔偶」「密室」を含め刀城言耶シリーズの短編はどれもホラー風味のミステリーとして気軽に楽しめる。ただこれはという傑作には行き当たらなかった。この作者の世界観で刃のように鋭い短編を読みたいものだ。

中編「顔無」はなかなかの読みごたえだが、この真相は無理がある。これはむしろダミーの捨て解として使った上で、ある想定外の人物を犯人にしたら面白いと思うが・・・


No.118 5点 ヨモツイクサ
知念実希人
(2023/06/25 13:48登録)
洗練されたプロット、なめらかな文体。とてもよくできた正真正銘のバイオホラー。
これ以上は何も書けない。
相性のいい読者なら満点間違いなしだが、私にはどうにも馴染まなかった。


No.117 7点 密室の如き籠るもの
三津田信三
(2023/06/20 10:07登録)
短編三作はホラー風味に合理的な解決をつけるお馴染みのパターンだが、なかでは「迷家」が楽しめる。行商の風俗描写も時代感が味わえて面白い。

長編ともいえる表題作は重厚。精緻な伏線とその回収がダミー解決のために使われるとは何とも贅沢というべきかもったいないというべきか。
先妻の変死や開かずの箱などのおどろおどろしいトピックが回収されないままというのが何とも残尿感に・・・


No.116 7点 魔偶の如き齎すもの
三津田信三
(2023/06/15 08:48登録)
シリーズ長編ほどのねっとりとした重厚感や緻密さはないけど、ホラー風味の謎解きが楽しめる。ただ、本格視点で読むと少し物足りないかも・・・
横溝や清張を思わせる独特の昭和感もよく出ている。
その昭和感についてイチャモンをひとつ。「敗戦」「敗戦後」というワードはあの時代にそぐわない。『終戦』、そして敗戦後でも終戦後でもなくただの『戦後』こそがあの時代の固有名詞なのだ。


No.115 3点 十角館の殺人
綾辻行人
(2023/03/09 08:46登録)
「まだミステリの読書量が少ない頃に読んでいたら、それなりに楽しめただろう。」しかし私の場合、そんな時期はこの作品が世に出るはるか以前なので、この仮定法過去完了は事実上意味をなさない。
スレッカラシになってからの初読ではアラが目立って楽しむどころではない。
以下ネタバレします。



アラその1.設定が「そして誰もいなくなった」と同じであるだけならまだしも、犯人のトリックがアガサ・クリスティの別の有名作と「同じ」であること。ミステリのメイン要素である設定とトリックが同じ大家からの引用となると、これはもうオマージュや本歌取りでは済まされない。

アラその2.動機とその背景が後に出版される自身の有名作と「同じ」であること。複数の人物による悪ふざけが一人の死を招き、ある人物がそれに復讐するというパターン。

アラその3.クローズドサークルの中と外でそれぞれの話が展開されるという構成が上に述べた作品と「同じ」であること。

アラその4.小瓶の中の手紙という使い古されたネタ。真相開示の後に登場するのだから劇的な効果はないしエピローグとしても蛇足。

舞台設定、トリック、動機とその背景、構成といったミステリとしての要素のほぼすべてが過去の有名作の使いまわし、もしくは後に自身の作品で使いまわすミステリ作法をどう評価できるのだろう。
人物の造形や情景の描写が深ければまだそれなりに小説として楽しめたのだろうが、パズルミステリに肉付けをした程度ではそれも無理。

あえて誉めどころを探すとすれば、例の一文の置き方。まことに効果的ではある。
なお、新本格のムーブメントを起こした歴史的意義はここでは評価の対象外とした。


No.114 7点 黒真珠 恋愛推理レアコレクション
連城三紀彦
(2023/03/07 08:37登録)
数か月前に出たばかりの、連城最後の新刊と銘打たれた単行本未発表の拾遺集。短編6編とショートショート8編。どれも連城らしいというか連城しか発想できないような作品ばかり。

お気に入りは恋愛ミステリ「黒真珠」と、ミステリ風味の「ひとつ蘭」。
「黒真珠」は真相が明かされると、それまでのセリフの一つ一つが一瞬にして色合いを変える、連城お得意の反転もの。
「ひとつ蘭」はあるきっかけでOLから旅館の若女将に転身した女の「恋愛根性ものミステリ風味」。昭和の人気ドラマ「細腕繁盛記」を連想する。と思ったら、掲載時の副題が「新・細うで繁盛記」だった。長編のような読みごたえ。
続く「紙の別れ」はその7年後を描く続編で面白い趣向だが、まあ余計かな。

ところで短編とショートショートでは小説作法が違うことに気づいた。
いい短編は起承転結あるいは起承結が手際よくまとまっているのに対し、いいショートショートは起承転としてあとは余韻となっているように思う。短歌と俳句の違いみたいなもんか。

ショートショートではあえてオチらしきもののない「花のない葉」が面白い。
どれも連城ファンなら読んで損はない。


No.113 5点 小さな異邦人
連城三紀彦
(2023/03/04 17:36登録)
表題作を含む8編の短編集。

どれも連城らしい短編だが、本画ではなく習作を見るような感じがする。
着想に比べて話の展開がいまいち切れ味に欠ける。
中でも表題作はとても面白いアイデアなのだが、プロットが説明的になってしまっているのが残念。

いつもの流麗な文体と大胆な構成で読みたかったなあ・・・


No.112 2点 草原からの使者
浅田次郎
(2023/03/03 08:41登録)
わざわざ登録をして酷評というのもいかがなものかとは思うが、シリーズ第2弾なので、つられて読む人のために書評。

前作とは雲泥の差。あちらはミステリー風味の人情噺として楽しめたが、こちらはその風味もない。
この作者の俗っぽさが裏目に出ている。エスタブリッシュメントにはリアリティーがないし、下ネタはユーモラスというよりただ下品。暇潰しにもならないが、よほどヒマならまあ表題作くらいか。


No.111 7点 沙高樓綺譚
浅田次郎
(2023/02/25 07:56登録)
都心の高層ビルに設けた謎めいたサロンで語られる、百物語形式の奇譚5編。
あえて分類すればミステリ1編、スリラー2編、ホラー1編、倒叙クライム1編となるが、いずれも「~ 風味」とつけたほうがふさわしい。

お気に入りはヤクザの大親分が語る「雨の夜の刺客」。大出世のきっかけになったチンピラ時代の出入りを語る倒叙クライムだが、人情噺として読ませる。
泣かせの浅田として知られるが、ここでもたった一つのセリフで涙腺を不意打ちするワナが二か所仕掛けられている。
他には刀剣の真贋を主題にしたミステリ風味「小鍛冶」。真贋物は清張が得意だが、もう少しドライな持ち味で面白い。
もう1編、「立花新兵衛只今罷越候」。撮影のたびに現れる侍姿のエキストラ・・・ 暗くないホラー。

以上3篇は高得点だが他の2編がピンとこないのでこの得点。読んで損はない楽しい短編集。

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