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ミステリの祭典

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前夜祭

作家 連城三紀彦
出版日1994年12月
平均点7.40点
書評数5人

No.5 7点 ALFA
(2023/07/22 08:54登録)
ミステリー(不思議)はいつも犯罪を伴うとは限らない。人の心、その動きそのものが大いなるミステリーだから。クリスティはウェストマコット名義で名作を残したが、連城は筆名を変えることなく愛憎のミステリーを多く残している。
「前夜祭」は夫婦や家族間の謎を描いた8編からなる心のミステリー短編集。

お気に入りは表題作のほか「それぞれの女が」「薄紅の糸」。かなりアクロバティックなプロットが荒唐無稽に堕ちないのは登場人物の造形が確かだからか。

No.4 8点 take5
(2022/07/16 04:55登録)
基本、恋愛の当事者は主観的盲目に陥る訳で、
視点が変われば捉え方が変わる、
そんな反転する小説の題材に最適なことは当たり前。
その当たり前が連城氏にかかると
これ程人間を描く名作だらけになるのだと
改めて氏の筆力に感嘆。
90年代中盤の作品集

No.3 6点
(2020/06/25 20:41登録)
 『紫の傷』に続く、著者二十七番目の作品集。1992年2月から1994年2月までの二年間に雑誌「オール讀物」中心に掲載された、捻りの利いた恋愛小説寄りの短編八篇を収録。長編では『明日という過去に』『愛情の限界』『牡牛の柔らかな肉』『終章からの女』『花塵』などと同時進行。短編では『落日の門』『顔のない肖像画』『背中合わせ』『美女』所収の諸作と、一部執筆時期が被る。
 連城の〈浮気をテーマにした短編集〉には他にも『夜のない窓』『年上の女』『夏の最後の薔薇(嘘は罪)』等があるようだが、おそらくそちらよりも〈精算〉要素が強く出ている。
 各篇の登場人物はいずれも成人した子供を持つ熟年以上の世代か、ある程度若いにせよ、愛人との関係に行き詰まりを感じている者たちばかり。直木賞受賞作『恋文』の初々しさとは異なり、己の人生を振り返りながらどこか醒めた視線で家族や夫、恋人などを見つめている。当然、嫉妬を押し隠す老獪さや、感情の爆発は比較にならない。熟練の仕掛けで各人の立ち位置がガラリと入れ代わる毎に、秘められたそれがぶつかってくる。
 サイトの趣旨的に優れているのはおおむね kanamori さんが挙げた三篇。それに最後に落としてくる「黒い月」を加えてもいいかもしれない。個人的には巻頭の「それぞれの女が・・・・・・」と、十三年前に妻子を捨てて出て行った夫を許そうとしない妻、立派に成長したものの父親と同じ行為を繰り返そうとするその息子、二世代に渡る登場人物四人の想いが絡み合う「夢の余白」を推したい。この二篇は創元推理文庫『落日の門 連城三紀彦傑作集2』にも採られている。
 1995年ごろ実母の介護のため、郷里の名古屋へ戻る少し前の時期の短編集。淡々とした筆致だが『紫の傷』『美女』とも重なるため、普通小説でありながらミステリ要素も強くなっている。

No.2 10点 danke
(2019/08/06 22:17登録)
ひとつのテーマでこんなにも多彩な話を書けるのかと衝撃を受けた短編集
ミステリから距離を置いていたと言われていた時代だが、全編ミステリの作法を用いて技巧が冴えにさえわたっている
日の目を見てほしい隠れた名作

No.1 6点 kanamori
(2014/02/14 18:45登録)
浮気(不倫)という共通したモチーフを用いて、夫婦、親子、嫁姑、本妻と愛人、上司と部下など、様々な人間模様を描く短編集。内容紹介文には正面切って”ミステリ”とは謳っていませんが、8編いずれもが表面上の人間模様が、結末でガラリと別の模様に変転する騙し絵ミステリです。

本妻と夫の愛人の心理劇と、入院中の母と娘の会話という2組4人の女性の物語が、ラストで思わぬ結合を見せる「それぞれの女が....」は、騙りの技巧という点では編中のベスト。また、本作ではカットバックでめまぐるしく視点を変える手法に、ちょっとした実験的な試みがなされています。
ほかにも、息子の結婚を反対する父親の秘密「薄紅の糸」、浮気がばれ妻に去られた主人公が知る意外な事実「普通の女」など、いずれも強引ともいえる仕掛けで構図が反転するという連城マジックは健在です。

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