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ミステリの祭典

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青い車さんの登録情報
平均点:6.93点 書評数:483件

プロフィール| 書評

No.23 10点 シャーロック・ホームズの冒険
アーサー・コナン・ドイル
(2016/01/27 15:47登録)
角川から出た新訳で読了。以前、新潮の延原訳でも読んでいましたが、すっきりと現代的で読みやすい文章となっていて、より楽しい読書でした。ただ、ネット上で他の人も指摘していましたがワトスンの一人称は「ぼく」より「わたし」の方があっているような気も。
収録作の中で特に気に入ったのはユーモラスな謎が面白い『赤毛連盟』。ついでホームズの人情味が微笑ましい『青いガーネット』やまさに冒険小説として秀逸な『ぶな屋敷』が好きです。アイリーン・アドラー登場の『ボヘミア王のスキャンダル』や有名なトリックを用いた『まだらの紐』といったシャーロキアンから人気の作品もあり、充実した短篇集です。


No.22 9点 空飛ぶ馬
北村薫
(2016/01/25 11:43登録)
何といっても『砂糖合戦』が秀逸です。論理の心地よい飛躍によって、些細ではあるものの魅力的な謎が解かれるのが実に快感。最後に苦い後味を残す結末も物語にコクを加えています。短篇集としての流れで見ると、人間の温かさを描く表題作で締めるのがまたいいです(甘っちょろいという方もおられるかもしれませんが)。


No.21 6点 すべてがFになる
森博嗣
(2016/01/25 11:30登録)
トリックには確かに驚きましたが、個人的にこの動機は納得しがたく大きなマイナスポイントです。S&Mシリーズは4作目の『詩的私的ジャック』まで読みましたがいずれも似た感想を持ちました。どこか「天才だから」や「哲学的」という言葉で丸め込まれてしまっているような気分になります。僕は普段は動機は後づけでもいいと考える方なのですが、何でも許容できるわけではないようです。原作は未読なもののドラマ版で観た『封印再度』や『数奇にして模型』でもその印象はぬぐえず、つまらなくはないけど自分には合わないというのが正直なところです。


No.20 5点 氷菓
米澤穂信
(2016/01/25 11:10登録)
デビュー作にして、すでになかなか端正で読みやすい文体になっていることに感心したのを覚えています。また、いわゆる「日常の謎」系ながらしっかり論理的な推理を展開しているのも好感が持てます。それだけに肝心の謎が他愛のない地味なもの(閉じ込められたえる、図書館の本など)が多いのが非常に惜しいところです。本筋にあたるカンヤ祭の真相も駄洒落に近いもので若干期待外れであり、ちょっと厳しめに評価します。この先に大躍進する作者としてはまずまずのスタートといったところでしょうか。


No.19 6点 ラットマン
道尾秀介
(2016/01/25 00:27登録)
はじめての道尾秀介作品です。僕は現代的でリアルな人間の悪意や心の闇を見るのはつらくて苦手なので、冒頭から陰気なオチになってしまうのではないかと心配しながら読みました。結果、ハッピーエンドとはいかずとも少しの救いがあるラストで良かった、というのが第一の感想です。それ以外は可もなく不可もなくといったところ。作品の内容を集約したタイトルはとてもいいと思います。


No.18 9点 異邦の騎士
島田荘司
(2016/01/25 00:12登録)
リアリティに関して言えばかなりやりすぎでありえません。それでも読んでる間はまったく気にならず最後まで一気読みしてしまうほどの面白さ。間違いなく『占星術殺人事件』と双璧をなす傑作です。今更言うことではないかもしれませんが、このとんでもない発想に説得力を付加して夢中で読ませる小説に仕立ててしまうあたりが、作者が大家とされる所以だとわかりました。


No.17 7点 赤い博物館
大山誠一郎
(2016/01/24 23:59登録)
『アルファベット・パズラーズ』の頃と比べて作者の筆力が格段に進化している印象です。一番大きな進歩はぎこちなかった伏線の張り方が巧みになっているところでしょう。『死が共犯者を別つまで』など、トリックもキレが良くなっている作品が多いです。個人的にベストはホワイダニットととして意外性のある『死に至る問い』なのですが、abc1さんの指摘を読んでなるほど、確かにキツイところもあるな、と苦笑してしまいました。それでもサプライズに徹した作者の心意気は素晴らしいのでこの点数。


No.16 9点 第二の銃声
アントニイ・バークリー
(2016/01/24 23:45登録)
図書館で借りるなどして今まで読んだバークリー作品は7作で、まだ『試行錯誤』『ピカデリーの殺人』などは未読です。そのため現時点で断定すべきではありませんが、今までの中で最高傑作は本作と思います。バークリーの騙しの技巧が冴えた作品で、意外でないようで意外な犯人の設定です。しかし普通探偵は名推理で必ず犯人を当てて見せるものですが、ロジャー・シェリンガムはことごとく外していますね。そこがアンチ・ミステリー的というやつなのでしょうか?


No.15 8点 新参者
東野圭吾
(2016/01/24 21:51登録)
人々の人情を絡めてストーリーを紡いでいく上手さに東野さんの筆力を感じます。ミステリーとしては小粒なものの後味のいい終わり方も手伝って、「面白かった」と素直に言える作品です。ぼくの好物はガチガチの本格ものですが、人に薦めるならこういう作品ですね。数年前やっていた連続ドラマが無性に観たくなりました。


No.14 6点 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件
麻耶雄嵩
(2016/01/24 21:40登録)
破天荒にもほどがある密室トリックに唖然。このトリックを認めてしまったら、それはもうファンタジーと変わらないでしょう。でもそう言いつつ、なぜか結構楽しめてしまいました。過剰すぎる装飾は麻耶さん節炸裂といった感じ。何よりもあの古典本格の名作シリーズを読んだ上で本作を読むことができたのは幸せでした。


No.13 8点 亜愛一郎の狼狽
泡坂妻夫
(2016/01/24 21:28登録)
どの作品もユニークなアイディアが盛り込まれた佳品なのですが、やはり『DL2号機事件』がシリーズ最初の作品という意味で特別な位置づけといえます。不可思議な謎、どこに向かうかわからないストーリー。それらが人間の心理を読み解く異形のロジックにより急転直下に解決するさまに驚嘆しました。次点は『G線上の鼬』あたりでしょうか。冒頭の何気ない描写が伏線として機能している絶品です。


No.12 10点 首無の如き祟るもの
三津田信三
(2016/01/24 21:12登録)
現時点で刀城言耶シリーズは『厭魅』『凶鳥』『首無』の三作を読んでいますが、やはり世評と同じくその中では本作が一番傑出していると思います。首無し死体といえば絶対あれでしょ、と殆どの読者が予想するであろうトリックの斜め上を行く真相が鮮やかで、600頁を超える分量を支えるのに十分な魅力を備えています。前二作同様文が重たくて読みづらいパートもありますが、後半に行くほど面白くなり頁をめくる手が止まらなくなりました。作者お得意のどんでん返しの連続も炸裂し、ホラーテイストでありながら悪くない余韻を残す結末も含め、かなりの傑作です。


No.11 6点 密閉教室
法月綸太郎
(2016/01/23 18:57登録)
文章がこなれておらず、ストーリー・テリング、トリックやロジックのキレもまだもうひとつといった感じで、後の作者の作品より相対的に評価は辛くなってしまいます。ただし、けして失敗作と切り捨てていいい作品とは思いません。『雪密室』でタイトル通り古風な密室殺人に挑戦したり、『誰彼』で入れ替わりトリックをひねりまくったりと、初期の法月さんはいろいろなテーマの新機軸を生み出そうと実験を重ねていたように思えます。その実験の延長線上に『頼子のために』や『一の悲劇』が生まれたと考えれば本作は単なる凡作ではありません。作者の成長過程を見守る感じで読むのが正しいのではないでしょうか。作品単体で見ると6点が妥当と思いますがファンなら押さえておくべきです。


No.10 7点 月光ゲーム
有栖川有栖
(2016/01/23 18:33登録)
閉鎖空間を舞台にした割りには地味な造りですが、デビュー作にして随所にパズラーを書くセンスの片鱗が見て取れる良作だと思います。さり気ないながらも堂々とした伏線の張り方は実に見事です。ダイイング・メッセージも程よくひねりが利いていて僕は高く買います。それにしても綾辻さんによるインパクト大の十角館ならわかりますが、沢山あったであろう応募作のなかで比較的派手さに欠ける本作を発掘した鮎川哲也氏の眼力はさすがといえます。


No.9 8点 十角館の殺人
綾辻行人
(2016/01/23 15:54登録)
はじめて読んだ本格推理小説として思い出深い作品です。日常的に本を読む習慣があまりなかった僕をミステリーの世界に引き込んでくれた綾辻さんは、個人的に別格の存在と思っています。これを読んだことがポウやアガサやクイーンやダインやカーを読み始めるきっかけだったんだよなあ。そして「トリックってこんなタイプのものがあったのか!」と例の一行を読んで驚愕したものです。ただし、本来なら10点付けるのですがその他の更に好きな作品と差別化するために8点とします。


No.8 7点 D坂の殺人事件
江戸川乱歩
(2016/01/22 22:50登録)
先日、NHKで表題作のドラマ版を視聴しました(明智小五郎役はなんと満島ひかりさんです!)。真相は動機の異様さ意外にあまり見るべきところがないように思えますが、僕が感心したのは明智が語り手のダミー推理を否定をする手法です。実際に行われた実験を書物から引用し、人間の記憶がいかに曖昧で頼りにならないものかを証明しています。そこが現実の殺人事件からの分析を多用したヴァン・ダイン作品を思わせ、当時の日本では非常に先鋭的なものであったでしょう。
表題作以外では、ツイストの利いたすり替わりものの『石榴』が印象的でした。


No.7 9点 曲った蝶番
ジョン・ディクスン・カー
(2016/01/22 22:30登録)
カーはまだまだ未読のものも多いですが、今まで読んだ中ではベストと考えるのは本作です。はっきり言ってトリックはかなり無茶です。クイーンがこれをやったら読者は怒り出すでしょう。しかしカーはそれをケレン味たっぷりな筆致で最大限魅力的に演出しており、僕は不思議と許せてしまえます。最終章で語られる真相には大袈裟でなく驚愕し、犯行シーンを想像すると背筋が凍りました。他のカー作品ではあまり見られないパターンの幕引きも印象的です。


No.6 6点 黄色い部屋の謎
ガストン・ルルー
(2016/01/22 20:25登録)
これまでの僕の五つの書評はいずれもミステリー・ファンなら誰もが知っている古典名作ばかりで、実際素直に面白いと思いすべて10点を献上してきました。そして本作もまた世界的評価を得ている名作です。ただ、どういうわけか僕にははまれませんでした…。
何といってもとにかく読みづらい。一回では意味が呑み込めず二頁読んでは一頁戻るという繰り返しで、読書として楽しめたとは言い難いです。なんだかんだ言ってもやっぱりリーダビリティって大事だなぁ、と実感した次第です(僕の読解力の問題も当然あるのでしょうが)。またトリックもあまり感心できませんでした。それがありなら何でも許されるのでは…、と思ってしまった部分もあります。
ただ不満ばかりではありません。犯人の意外性は当時としては革新的なものだったのでしょうし、僕はあの人物は容疑者リストにすら入れておらずすっかり騙されました。この意外性の面白さを汲んで6点とします。


No.5 10点 獄門島
横溝正史
(2016/01/21 10:54登録)
 金田一耕助もので最も本格度が高い作品。連続殺人ではありますが、おどろおどろしさは控えめな代わりに華やかなイメージを与える点がシリーズでは異彩を放っています。大小のトリックや伏線を駆使しており、フー、ハウ、ホワイすべての要素も含んでいる完成度の高さ、そして読み易さから、初めて横溝を読むという人にオススメです。
(以下、ネタバレ気味)

 犯人の設定の特殊さもさることながら、和尚の呟いた言葉、ハリボテの釣り鐘、首絞めのトリックと各事件それぞれに魅力があり、一つとして無駄のない造りとなっている所が完成度を高めています。映像化向きの作品ですが、上記で触れた和尚の言葉「季(気)違い」のネタが放送コードの問題で使えないのは面白さが半減してしまい残念です(この位いいと思うのですが…)。




No.4 10点
F・W・クロフツ
(2016/01/21 10:16登録)
二度読みに堪えうる名作。犯人はほとんどわかりきっていますが、緻密な捜査で少しずつ核心に迫るその過程の面白さでぐいぐい引きつけられます。樽の移動を巡ってイギリスとフランスを股にかけたスケール感も魅力的です。トリックは知ってしまえばそれほど凝ったものではないかもしれません。しかし、その分読者にも推理可能と考えれば、けしてマイナスポイントではないでしょう。リストを作りながら読むと更に面白いかもしれません。
新訳版の海道、有栖川両氏の解説も愛が感じられて良かったです。

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