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ミステリの祭典

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ロマンさんの登録情報
平均点:8.08点 書評数:177件

プロフィール| 書評

No.157 8点 女囮捜査官  触姦
山田正紀
(2015/10/24 23:23登録)
開幕の第1巻。お題は痴漢、通り魔、そして“見えない人”。続巻に比べるとおとなしめだが、連続通り魔事件を「囮捜査」という飛び道具的な捜査方法と巧く絡め、尚且つ二転三転するフーダニットとして演出している点は流石。何より、横溢するサスペンスが素晴らしい。一部、登場人物や警察組織の描き方が紋切型だが、まあ看過できるレベル。ただし、犯人像はその定型にちょっとしたエッセンスを加えることで読者に印象付けており、そこら辺のさじ加減がまた巧い。


No.156 8点 悪女パズル
パトリック・クェンティン
(2015/10/24 23:21登録)
大富豪ロレーヌの邸宅に招待されたダルース夫妻、しかし離婚危機の3組、婚約者、異父兄、その恋人など曰くありげな人たちも集い険悪な雰囲気立ち込める中一人また一人と死者が、ピーターとアイリスは素人探偵として推理をするがさらに犠牲者が……第四弾、登場人物が多く最初は混乱したものの、章ごとに出る被害者の構成、徐々にパズルのピースが嵌るように明らかになる真相と真犯人、伏線もキチンと回収、ラストはいつものテイストで良かった。


No.155 8点 ナイルに死す
アガサ・クリスティー
(2015/10/24 23:18登録)
徹頭徹尾読み手を飽きさせないリーダビリティの良さ、シンプルでありながらも細やかな登場人物たちの人物描写、無数の伏線と手掛かりが散りばめられたストーリー展開、納得の動機、アッと驚かされる真犯人と結末、愛あるポアロの名推理、どれを取っても素晴らしいとしか形容できない。ポアロの灰色の脳細胞と洞察力が登場人物たちそれぞれの胸に秘められた欲や愛情を見抜き、真相へと収束していく様は緻密で美しく圧巻。手の込んだトリックの作品も確かに面白いのだが、自分が本当に好きなのはこういったミステリなのだと改めて実感できた傑作。


No.154 8点 ケンネル殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2015/10/24 23:15登録)
今度の薀蓄は中国美術とスコッチテリア。意外性の連続により、解析不能となった事件が、ほんの小さな亀裂から解決されていく。変数が多いほど、その連立方程式は解きづらくなるが、これほど変数が多いのも珍しい。というより、常人には完全な解決は不可能な物語。少なくとも犯罪に対する知識を多種多様持ち合わせている人間が、下手な鉄砲方式で打ち続けて、やっと解答に到達する、そんな途方も無いミステリだ。ただ、テリアから犯人を特定する方法は(それが殺人犯の特定とは言えないけれども)実に論理的。


No.153 7点 陽気な容疑者たち
天藤真
(2015/10/24 23:12登録)
山奥の旧家を舞台に社長急死事件に遭遇した主人公の計理事務所事務員。社長と対立していた従業員たち、社長に複雑な感情を抱く身内たち。自然死か?他殺か?いずれの可能性もある推理小説。とにかく自然死なのか他殺なのかが終盤までわからない。最後の結末は少々意外だった。まさかあの人が関わっていたとは!物事の答えは1つではないこと。常識にとらわれ過ぎてはいけないことを実感した小説だった。


No.152 9点 99%の誘拐
岡嶋二人
(2015/10/24 23:10登録)
時効となった誘拐事件、逃げ切った犯人と解決できなかった警察への意趣返し。無謀だし無意味にも思えるが、そうせざるを得なかった犯人の心境を思うと哀しい。 事件の根底にあるのは、家族のために苦渋の決断をした男の悔しさで、彼に対して1人は罪の意識を抱いて生き続け、もう1人はその無念を晴らすために孤独な戦いを挑んだ。 2つの犯罪の犯人に寄り添っているが、逃げ切ったことへの喜びよりも過去への苦い思いの方が強いようにみえる。 時代背景やITの描写にはさすがに時の流れを感じるけれど、事件そのものは今読んでも面白い。


No.151 7点 ビロードの爪
E・S・ガードナー
(2015/10/24 23:07登録)
ペリイ・メイスンのシリーズ一作目。ロスに事務所を置き、美人秘書のデラ・ストリートと共に依頼人のためなら、違法すれすれの手段をとってでも闘う行動派弁護士。このシリーズの特徴に、人間的に好きになれないタイプの依頼人が多く、周りの人達は有罪を決めつけている中で、ひたすら論理的に無罪を勝ち取って行く。そう言う意味で、今回の依頼人は最初にして最高に嫌な依頼人だ。ビロードの爪とは、美しい人妻の見た目と攻撃手段を隠し持っている処から想像がつくと思う。シリーズを通してのメイスンの弁護姿勢が、分かる作品。


No.150 8点 曲った蝶番
ジョン・ディクスン・カー
(2015/10/24 23:05登録)
二人のファンリー、動き出す人形、魔術への傾倒、先行して起こった殺人、屋根裏の秘書、自殺と判断するのが妥当な状況での殺人事件。そのどれもが狂言的な雰囲気を創りだし、氷山にかかる晴嵐の如く真実を覆い隠す。真相は聞いてしまえば不思議すらも覚えないものでありながら、不可能犯罪とホラー的雰囲気を作り出すカーのストーリィテリングは流石。曲がった蝶番とは。動機は。犯人は。フェル博士の真意は。その全ての謎に対して斜め45度前方への飛躍が必要である今作は、何も分からずとも読ませてしまう文章の上手なカーだからこその作品。


No.149 8点 人格転移の殺人
西澤保彦
(2015/10/24 23:03登録)
人格が入れ替わるという複雑なSF設定ながらも思っていたよりも登場人物達が描き分けられているので読みやすかった。とはいえ、事件が起きてからの展開は素早く、マスカレードという人格の入れ替えが頻繁に起こるのでやはり複雑ではあるけれど。その後に登場人物が推理を繰り広げるのは西澤保彦らしい。そして、最後の最後に明らかになる設定を巧く活かした真相は秀逸。ある程度予想できる部分もあるが、それらを成立させるための構成や伏線が「七回死んだ男」と同様に素晴らしい。動機の歪みも西澤保彦らしく、結末についても絶妙。傑作。


No.148 8点 不連続殺人事件
坂口安吾
(2015/10/22 21:30登録)
開始数ページで10人以上の人物が登場し、その人間関係が紹介され、しかも、全てが事件関係者になり、追うだけで精一杯の状態で、殺人事件が連続して9件も起きるという始末。警察が登場して、容疑者も拡大して、30人近くの人間が名を挙げるに至っては混乱必至。しかし、皮肉なことに事件によって人が減り、対象が絞られることで、明確で論理的なミステリに収束していく結構は実に見事。金持ちと文士達の淫乱極まる男女関係をベースに、一種軽薄とも言える独特な文体、ロジカルな真相と、懐かしき探偵小説の趣にして、ミステリとしても良作。


No.147 8点 列車に御用心
エドマンド・クリスピン
(2015/10/22 21:26登録)
さすがクイーンの定員に選ばれただけのことはある正統派。謎→検証→解決が手際良く構成された、これぞ短編ミステリーの醍醐味。特に良かったのは、ありえない事を消していった先に前提条件が間違っていると解き明かすクイーン的な『列車に御用心』。たった一通の手紙のトリックの巧妙さが幾重にも光る『人生に涙あり』。著者のカー愛好度合がみてとれる密室と思わせた非密室の『窓の名前』。特色であるユーモアを無くし青春の苦さを謎解きによって描いた『デッドロック』。


No.146 8点 はなれわざ
クリスチアナ・ブランド
(2015/10/22 21:24登録)
スコットランドヤードのコックリル警部が休暇でイタリア近郊の某国観光ツアーに参加するも、殺人事件が起きる。まさに「はなれわざ」。トリックの大胆さもさることながら、この綱渡りのように危うい欺瞞を成立させた作者の手際に舌を巻いた。伏線とミスディレクションの配置が芸術的で、特に作中人物の“ある属性”が真犯人から嫌疑を逸らす役割と真犯人を暴露する役割の双方を時間差で果たす趣向には感動…


No.145 8点 フォックス家の殺人
エラリイ・クイーン
(2015/10/22 21:22登録)
推理小説としては非常にシンプルかつ地味。クイーン流の論理的な推理は確かに見られるのだが、初期~中期の作品ほど緻密であるものとはとてもじゃないがいえない(19章結尾の訳注が特にそれを印象づけている)。ただ結末の意外性は良い意味で期待を裏切らなかった。犯人のいない殺人。結局のところフォックス家に救いがあったのかなかったのかは読者に委ねる、というのがクイーンの真意なのかもしれない。


No.144 8点 思考機械の事件簿Ⅰ
ジャック・フットレル
(2015/10/22 21:20登録)
とっても仰々しい肩書きをお持ちの、《思考機械》ことオーガスタス~中略~ドゥーゼン教授が探偵役の、推理小説短篇集その1。短編では『情報漏れ』がベスト。ここまで工夫されたトリックはなかなかお目にかかれない。次いで斬新すぎる凶器が見所の『謎の凶器』、盲点からさらに一歩奥に進んだ盲点を突いた『茶色の上着』が良作だった。ドゥーゼン教授のキャラクターは何となく《探偵ガリレオ》こと湯川准教授に似ている。どこかレトロでメカニカルなトリックが多く使われている部分がそう感じさせるのかもしれない。


No.143 6点 連続殺人事件
ジョン・ディクスン・カー
(2015/10/22 21:19登録)
ユーモアに恋愛と、カーにしては珍しい要素が多く盛り込まれている。スワンが哀れ過ぎて笑いが止まらなかった(黒笑)。第一の密室の●●●●●●を用いたトリックは、現代人の感覚からすればやや疑問だが、それらを差し引いた純粋なる意外性という面では非常にレベルが高いものだった。第二の密室は少し単純過ぎか。ただ全体的に伏線がしっかりと張られているので完成度は高い。締めくくりは決して後味の良いものとは言えないが、それまでのユーモア溢れる明るい話の流れにきっちとした対比が立てられているのでこれはこれでアリなのかもしれない。


No.142 8点 ウィチャリー家の女
ロス・マクドナルド
(2015/10/22 21:17登録)
重厚なプロットは確かに推理小説的な色彩を帯びている。トリックめいたものも確かにある。しかしこの作品を名作たらしめているのはもっと重厚な何かだ。犠牲者が殺された理由を問われたときに「人生」と返す等、アーチャーをはじめ登場人物の台詞回しが悲しきウィットに富んでいる。それはロスマクが確かにハードボイルドの継承者であることを証明しているように思えた。それは虚無的なラストにも通じている。


No.141 8点 だれもがポオを愛していた
平石貴樹
(2015/10/22 21:15登録)
『アッシャー家の崩壊』、『ベレニス』、『黒猫』と、ポオの名作をモチーフにしたかのような殺人事件が次々と起こる。日本からボルティモアへはるばるやってきたポオファンの女性(少女?)ニッキは、この殺人事件の謎を解こうとするが……。謎解きや展開はもちろんのこと、キャラクターが魅力的に描かれている。先述のニッキはもちろんのこと、やたらコーヒーを進めたがる捜査官、「予期せぬ~」が口癖の女性捜査官など、くすりとさせられるユーモアが効いているのもこの作品の魅力のひとつだろう。しかし寡作なのが惜しい作者だと思う。


No.140 9点 『アリス・ミラー城』殺人事件
北山猛邦
(2015/10/22 15:49登録)
所謂本格ミステリの要素が多く詰め込まれていた。密室、顔無し死体、クローズド・サークル、見立て、インディアン人形、ミスリードなど、そのどれもがミステリで多用されているものでありながら陳腐なものではなく、その奇形さに驚かされた。トリックについて、全ては作中では明かされないため、情報を整理してから読み返さないとトリックの本質を暴く事は出来ない。それらと、このシリーズの世界観を捉えたうえでもう一度犯人の名を考えたとき、悪寒に襲われることは請け合いだ。


No.139 9点 九マイルは遠すぎる
ハリイ・ケメルマン
(2015/10/22 15:43登録)
「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」ふと耳にした言葉だけを頼りに推論を重ねた先に炙り出される意外な事件の真相。「謎」の提示に対して予想だにしなかった「解」に至る。その発想のアクロバットが実に見事に決まっている。純粋な論理の思考実験が引き出す結末の驚き。もちろん、起こりうる可能性を精妙に見極めていく過程の面白さも見逃せない。


No.138 7点 エッジウェア卿の死
アガサ・クリスティー
(2015/10/22 15:41登録)
エッジウェア卿が屋敷で殺害され、夫人が離婚問題で揉めていた為に、犯人ではないかと思われる。しかし夫人は同じ頃、知人の晩餐会に出席していたのが確認され、アリバイが成立する。犯人は誰なのか、それとも夫人のアリバイはトリックなのか。この時期のクリスティ氏は、様々なパターンに挑戦していて割と複雑であり、ポアロの失敗例の一つとして描いている。謎解きが偶然による事も、そこから犯人の仕掛けた罠が一気に剥がれていく流れも、他に無いパターンで楽しめる。

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