斎藤警部さんの登録情報 | |
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平均点:6.69点 | 書評数:1305件 |
No.345 | 7点 | イヴが死んだ夜 西村京太郎 |
(2015/10/23 01:56登録) ふとももにバラの刺青が印象的な若い女性が殺された。続いて同様の刺青を持つ女性が自殺。渦中に十津川警部の婚約者が巻き込まれるが、彼女と亡くなった二人を結ぶのは或る一人の男。。。悩める十津川警部はなんとインターポール(國際警察)への派遣が終わったパリ帰り(!)。いつにも増して、表情は苦い。警視庁と岐阜県警の合同捜査は躍動的。十津川警部の私生活を侵す影に悶々としつつ、スピーディーな展開の果てに見出した結論は如何。 暗く重い読後感をもたらす、サスペンスフルなハード本格長篇。 初期京太郎が好きなら、行け。 |
No.344 | 6点 | 殺人処方箋 リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク |
(2015/10/22 12:34登録) これはTVで観るよりノベライズが先だった。中学の頃読んだ。周りに好きな奴も多かった(土曜のドリフを負かしたのはひょうきん族よりコロンボが先)。借りても読んだがこれは自分で買った。よく言われるように”異色の処女作”。だが土屋隆夫の「天狗の面」ほど極端じゃあない。その後のコロンボと違う、とされるラスト近くからのストレートな言葉攻めシーンはTVよりむしろ小説のほうが激烈でヒリヒリ来る。ミステリの骨格だけ取ったらどうって事も無い話なんだけど、やっぱり、達人コロンボ警部が魅力の底なし沼なんだよね、最初のほうのおとなしいシーンも、最後の荒々しい見せ場も。ここが永遠の始まりだ。 |
No.343 | 7点 | 構想の死角 リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク |
(2015/10/22 12:21登録) 「自白のホヮイダニット」ですよねえ~、これはちょっと、切ないです。 厳密に言うと「何故犯人は、第一の殺人の方を自白したのか」というなかなかの趣向。 遡ればコロンボによる(第一の殺人も第二の殺人も同時に)「自白させのハウダニット」だね。こっちはちょっと、優しくないと言うか、辛辣だねえ。 凡庸な書き手なら”第一と第二の殺人方法に違和感が云々。。”でプロット完成に満足してしまいそうな所、この作品が温存する’もう一押し’は、”倒叙ミステリが如何にして結末まで謎を秘め通すか”という問いに対する回答のお手本だね。 全体通して見ればオリジナルTV版のスピルバーグ演出が光ってるとも思えますが、上記の自白を巡る機微の描写はね、小説の方がより胸に刺さると思います。 時々「高層の死角」や「抗争の刺客」と混同する人がいますが「香草のパクチー」と間違える人は多分いませんね。 しかし第二の被害者の殺され損ぶりと来たら! 長いコロンボ・シリーズの中でも記憶に残る側杖被害者。 |
No.342 | 7点 | チャイナ蜜柑の秘密 エラリイ・クイーン |
(2015/10/22 11:52登録) 賑々しく華があって楽しい本。ストーリーが愉快に弾け飛ぶよな最後のひっくり返しがまた痛快。これは面白かったな。 (これよりネタバレ) 物語の構造で見ると、例の「安部公房」いや「あべこべ」趣向が単に現場偽装の手段なわけでもなく、ちょっと興味深い多重構造の仕掛けになっていますよね。 |
No.341 | 5点 | アメリカ銃の秘密 エラリイ・クイーン |
(2015/10/22 11:41登録) 国名シリーズ第6作にして晴れて母国開催。 殺しの舞台は派手だが、読み物として何処か地味だな。 隠し場所トリックにゃ驚かないが、犯人設定はなかなかのもの。それを突き止めた手掛かりとロジックの交差ぶりも悪くないぜ。 |
No.340 | 8点 | 九マイルは遠すぎる ハリイ・ケメルマン |
(2015/10/21 20:12登録) 表題作の大胆緻密なロジック交響詩にゃぁ感服横丁千鳥足ってなもんよ!! ちっともロジッカーじゃない評者もこのお話単体には満点を投げ銭せずにいられないね。展開される一連は決して気丈な苦労人、もとい机上の空論なんかじゃなくってね、じゅうぶん実生活に適用出来るリアリティのあるナニですよね。あン? 余計な事は言わないように、他人の余計な事は聞き漏らさず解釈し漏らさないように、ってなわけでね。最後、しっかりちゃっかり現実の事件を見事に引き当てる所がまた最高だね! 他の作品は記憶に無い! 悪くなかったと思うが? |
No.339 | 8点 | りら荘事件 鮎川哲也 |
(2015/10/20 18:37登録) 物語の導入から雰囲気キラキラですよね。CCM(クローズド・サークル・ミステリ)の良い所ばかりさり気ない細部にそこかしこ。 MRJ(魅力的な女子)が出て来ないという不満をお持ちの向きもありましょうが、そこは「朱の絶筆」の方で埋め合わせしていただくとして、好みはあれどひとまずイケメン探偵HRZ(星影龍三)で我慢していただきたい。って意味分からねえ。 さて現実性とか人間性とか全く意識の埒外にすっ飛ばしてしまう本格の筆力は流石です。と言うよりちゃんと書けてると思いますけどね、書き過ぎて雰囲気壊さない所まで。 ただ、結末にもっとQTDC(驚天動地)のひっくり返しがあったなら。。と個人的には惜しまれます。それと犯人の意外性にもう一ひねり欲しかった所。終盤にかなり迫る所まで堂々の満点候補作でしたが、「SDNN(そして誰もなくなった)」と同様、その二つの大きなマイナスが採点に響きました。が、言うだけ野暮ながらSDNN同様RSJの方も必読の激烈快楽作です。ATの胆力をひしと感じていただきたい。 お花のUCK(薀蓄)も美味しくいただきました。 |
No.338 | 9点 | 罪と罰 フョードル・ドストエフスキー |
(2015/10/20 18:03登録) 本格じゃないですよね。直接心理描写の塊でハードボイルドじゃ有り得ないし、叙述の仕掛けも無けりゃ(あ、ネタバレ言っちゃった)時刻表トリックも、針と糸の密室さえ出て来ない、あれ、出て来るっけ? ま社会派っちゃあ社会派かな。とてつもなく重い作品ですけどね、若き犯罪者の徹底的葛藤地獄とそこからの救済を描いた、最高に良い長篇小説ですよ。終盤近くから、頭の中で名も知らぬ雄大な交響詩が滔々と流れ続けますよ。 |
No.337 | 5点 | ドーヴァー4/切断 ジョイス・ポーター |
(2015/10/20 17:55登録) うっかり読み流して「元祖・日常の謎」かぁ、なんておかしな結論付けないように! 「奇妙な味」短篇向きの素材を扱っている様な気もしますが、これをわざわざ長篇に引っ張った故のまさかの結末意外感ですよね。 ネガティヴユーモアもなかなかで、まずまずのなかなかのまぁまぁな読み応えでした。 |
No.336 | 6点 | メルトン先生の犯罪学演習 ヘンリー・セシル |
(2015/10/20 02:08登録) これが存外面白くてねえ。。。 先生のスットコ講義録を一章々々集めただけの古臭いオムニバス短篇集だと思ったらこれがトんだ大違いの見立て違いの見当違い。(余談ですが真面目な席で「種違い」を間違えて「竿違い」と言っちまうほど恥ずかしい言い間違いは他になかなか無いですな、特に女子だと)ま予想してた通りの犯罪小噺集には変わり無いんですが、小噺だけじゃなく「地」の部分もね、単純に先生が講壇に立って一席ぶつ、というだけじゃなくてちょっと事が入り組んでるの。先生の「頭の事情」もあるし。。意外と不道徳で危険なスリルも漂う作品集ですよ。多少は退屈する場面もあるけど、決してありふれちゃいない素材と切り口で、辛口なのから甘いのから、ふざけてるのやちょっぴりふざけてるのや大いにふざけてるのまでバラエティに富んだ短い物語がいっぱい詰まっているわけでありますし、ミステリの人なら読んで損は無いと思いますよ。 |
No.335 | 7点 | ミステリー総合病院―医学推理小説傑作選 アンソロジー(国内編集者) |
(2015/10/20 01:41登録) このアンソロジーにはヤられましたねえ、若い頃。 編者がまた、佐野洋と来ちゃうわけですよ。 医学知識とミステリ執筆、両方の専門家が(ほんとは医学の専門家は一部ですが)医学素人読者の興味を唆って止まない体乃至心のダークサイドに纏わる興味津々の犯罪物語達は暗闇の中の閃光を垣間見る様なスリルの連続で、夜中おトイレに起きるのをちょっとだけ怖いものにしてくれます。 思えば不木師匠、木々師匠、風太郎師匠に出遭って心奪われたのも全てこのアンソロジィの暗い病棟の中の出来事でした。記憶違いでなければ。 小酒井不木「直接証拠」 木々高太郎「網膜脈視症」 山田風太郎「眼中の悪魔」 岩田平太郎「渦の記憶」 結城昌治「影の殺意」 三好徹「潜在殺人」 佐野洋「満月様顔貌(ムーン・フェイス)」 渡辺淳一「血痕追跡」 夏樹静子「暗い玄界灘に」 菊村到「悪魔が忍び込む」 草野唯雄「甦った脳髄」 森村誠一「鈴蘭の死臭」 (カッパ・ノベルス) やっぱり医学系はね、まるで心理トリックの様な虚を突く物理トリックの可能性が広くてね、愉しいですよ。精神医学を応用する場合だと、心の在り様や動きがまるで物理トリックの様に扱われたりする、そんなスリルもあるしね。 |
No.334 | 6点 | 太鼓叩きはなぜ笑う 鮎川哲也 |
(2015/10/20 01:07登録) 相当に遠い昔、気まぐれで初めて手に取ってみた鮎川哲也。徳間文庫の新刊だったと思う。 ところが相性いま一つ、次の一冊に手を出すまで優に十余年を費やしてしまった無念の一冊目。 と言うか鮎川さんの中でもこの「三番館シリーズ」は今でもさほど強く心惹かれるものではありません。流石に詰まらなくはないものの、「ああ、なるほどね」、とそれなりに感心する止まりで感動へ至らず。堂に入ったユーモアはなかなかのものだけどね、物語がなんかチマチマしてますね、チマチマの振りして実際の所はデーーンと構えてるぞ、みたいな、鮎川氏の特にノンシリーズ短篇によくある空気感は無くて、本当にこじんまりしてる寂しい風情。 私立探偵氏がいちいち自分の心情を面白おかしく吐露する(本当の探偵役であるバーテン氏は違うけど)というあまりに逆ハードボイルドな文章が抵抗あるのかも。いえ何も私は鮎川氏にハードボイルドを求めちゃいませんがね。 まあ、立ちっぱなしなのに安楽椅子探偵役のバーテンがいて、伝統的本格推理で言うところの足で稼ぐ警察役の私立探偵がいて、依頼人には既に間に一枚入った形の仲介役である弁護士がいて、更にその後ろにやっと大元の依頼人がいる、というなんだか皮肉でややこしい体制は面白いですよね。更に言えばこのシリーズの真の主役は探偵役ヒーローのバーテンではなく、ワトソン役(=「わたし」)にして間抜けな警官役の私立探偵(へんな言い方)の方じゃないですか? もし彼が「引き立て役クラブ」に加入したら「オマエ本当は主役だろ!」って追い出されるんじゃいかって心配しちゃいます。 ところでこの徳間文庫は巻末解説が(当時は名前を知りもしなかったが)かの中町信氏! 氏が病床にあって出遭った「黒い白鳥」を、古本屋のおやじのせいで犯人はおろかメイントリックまで大いにバラされて憤慨中だったにも関わらず大変面白く一気読してしまった、それが起爆剤となり推理作家を目指し始めた、みたいな文章は何度目を通しても本当に魅力的です。ここで遭遇した「黒い白鳥」なる長篇名がずっと記憶の片隅(よりも少し中央寄り)に在って、十数年の歳月を経て私もやっとそれを読むに至ったという事の次第であります。嗚呼。 色々言いつつ6点も付けちまった。 この第一集はやっぱり悪くない。 |
No.333 | 7点 | 天狗の面 土屋隆夫 |
(2015/10/20 00:20登録) 処女長篇ですが、その後の氏の作品とは全く異質な文体(いちいちユーモアで突っ掛かる&なんと読者に呼びかける!)で書かれており、いわゆる土屋文学の味に馴れていた私としては本当に驚きましたよ。 純度の高いパズラーに土着因習の匂いが被さって、魅力的なムードですね。 ちょっとメンタルマジックの企みを思わすトリックはね、すぐ勘付いちゃったどね、それが眞犯人像とも絶妙にリンクしてるわけでね、答合わせが愉しくて愉しくて。 |
No.332 | 7点 | 影の告発 土屋隆夫 |
(2015/10/20 00:10登録) 良き旧き昭和のデパート、エレベーターの中で殺人、声のダイイングメッセージ。。 いいなあ、昭和の殺人。 俺も往時にタイムスリップ出来たら一人くらいこの手で、キャバレー帰りにでも。。(悪すぎる冗談) 何気に盛りだくさんな内容を、緊張感ある文章で隅々まで端正に描き切っています。 アリバイトリックの風化など全く構わんですよ、とにかく犯罪捜査物語が面白くてね、読まされちゃうの。 |
No.331 | 6点 | 折々の殺人 佐野洋 |
(2015/10/19 12:24登録) 東大文学部卒の浮雲エリート仲間、大岡信が朝日新聞(佐野氏の勤めた読売のライヴァル)に連載した 文芸コラム”折々のうた”で紹介された古今の和歌・俳句にインスパイアされた小品を収めた後期短篇集。インスパイアと言っても核心部分では元の”うた”から離れている作ばかりで、小説と和歌との共鳴し合いをしみじみ玩味する様な代物ではないのがちょっと企画の浅さを感じるが、各作の前に置かれた、大岡氏による元のうた紹介とそのオリジナル解説、佐野氏による元のうた及び大岡氏の解説に対する感想と自分の小説に対する前書き、という都合五段構えの各プロローグ(長くはありません)を読むのも新奇で愉しく、また肝心の小説部分がじゅうぶん読書に堪えるのはやはり手堅い業師の仕事。めちゃ軽いですけどね。 中に一つ、氏にしては珍しいほど笑いに直結させる下ネタ押しで驚いたのがあった(品の有る艶笑っぽいのは氏によくあるけど)。と思ったらそれがミスディレクションだったってのかまさかの重い終盤展開に目を白黒、、とあっけに取られていたら最後は。。と意外なストーリー展開で飛びぬけて印象に残ったのがあったなあ。他に、老父の娘への切実な愛情がちょっと凄い形で具現化された、なのにどういうわけか心温まる殺人物語(?)もちょっと忘れがたい。とは言え全体で見ると質の高い読み捨て用といった趣き。悪くはありませんが、ファン向けだね。 最後に余計な事を言うと、本作連載の頃(平成に切り替わる前後)、氏は男性機能の衰えに煩悶されていたのではないかな、と窺える表現や主題が所どころ鼻に、いえ目に付きましたかな。中にはもう、そういうテーマの軽医学エッセイ(?)を照れ隠しにミステリの蓑を被って書いてるような作もありました。それはそれで興味深い。 その時の2人/固い背中/盛り上がる/階段の女生徒/夢の旅/衰える/ひそかな願い/意地悪な女 |
No.330 | 7点 | 模倣の殺意 中町信 |
(2015/10/19 11:47登録) 推理作家の卵による盗作を巡る紛糾と犯罪のストーリーは面白くて読みやすい。登場人物の絡み合いも適度に複雑で興味を唆る。 そして「あの」メイントリックが明かされた瞬間、驚き! に半拍遅れてしゅうぅ~と空気が抜けて物語の体積がしぼんでしまう感覚。振り返れば意外にも浅い内容。。しかしその内容を実際以上に膨らまして見せること自体に本作の勝負トリックが掛かっているのだから一種のアンチクライマックスも当然の帰結。やっぱり推理小説として豊かな作品と私には思える。ましてこのトリックをビートルズ解散からさして間もない日本で世に問うたってんだから(私の採点には影響しませんが)。 鮎川氏の書評「じっくり腰を据えて読みすすんでいくと、やがて、どうみても中町氏の書き誤りではないかと考えざるを得ない結論に達するのだが云々」は唆られますね。氏がこの傾向のトリックを自分でキメてくれてたらなあ(たとえば幻の「白樺荘」で、とか)と妄想せずにいられないじゃないですか。 忘れられていた作家「中町信」が再び脚光を浴びられたのは本当に良かった。 創元推理文庫の表紙、秀逸と思います。レジでびっくりする人も続出したとかしないとか。 |
No.329 | 6点 | 翳ある墓標 鮎川哲也 |
(2015/10/16 18:28登録) 私これにはちょっと点が辛いな。それでも6点。 なんか、スカスカなんすよね。 膵臓の弱いチンピラ作家が書いたみたいな。 アイデアというか、ミステリの核は興味惹くモノあるけど、鮎さんの絶妙な文章世界が好きな身としては、粗筋や骨格だけじゃないからね。 ご本人も「通俗小説とは際どい所で一線を画している」なんて意味の弁解(?)をしてるけどさ、それだけ意識してたんでしょうか、隠しきれない安っぽさを。 ところがですねえ、最後の最後の文だけ唐突に文学気取りな締め方をするのよ。これがまた頭に来てね(笑) おっと、言うまでも無いでしょうがファンなら必読ですよ。数が無いからね、鮎さんの長篇は。 |
No.328 | 5点 | ゲームの名は誘拐 東野圭吾 |
(2015/10/16 18:14登録) 誤変換すると「げー無の那覇結うかい」。 その昔、内容浅いなーと思った初めての東野作品だった。氏はモーツァルトの様に軽い文体で深い内容を叩き付けるのが真骨頂なのに、こりゃ軽くて浅くて、でも華やかな味があるヴィヴァルディの様だ。結末も早い段階でまるっと見切れた。それでも面白かったってんだから大したもんだ。 |
No.327 | 5点 | 和時計の館の殺人 芦辺拓 |
(2015/10/16 06:52登録) 和時計の薀蓄は愉しく取り込ませていただきました。そこが面白さの本命で、肝腎の物語の印象は深く刻まれておりません。折角ギミックに溢れるポテンシャルを持つ素材を得ていながら。。上手に立ち回れば悪魔領域のアリバイトリックも創出可能だったろうに。。トリックを可愛がるあまり物語を副次的な存在に追いやった結果、折角のトリックまであたら犠牲にしてしまった、、という構図かも知れませんね。 かの『時計館』が放った、人の時間観念への睥睨力に比肩し得る省察もこけおどしも説得力もスペクタクルも、ここには見当たりません。 是非、驚愕の新作として大胆に再構築していただきたいものでございます!!!! |
No.326 | 8点 | 鍵孔のない扉 鮎川哲也 |
(2015/10/16 06:14登録) 謎の重みに磐石のトリック。 実に押し出しの良い、これぞ昭和高度成長期のA級本格推理。 適度の旅情に音楽話、ほんのオマケと分を弁えつオマケ以上の味わい。これがまた、たまりません。 それにしてもこりゃ良く出来たパズルですなあ、パズラーと言うよりパズルそのもの、密室とアリバイからの、と言うか空間と時間からの脱出パズル。あちらを立てたらこちらが立たず、一体どうした事でしょう?? ところがこれ、小説として読んできっちり面白い! やはり、絶妙にリミッターを掛けた本格流儀の人間ドラマに、抑制の効いたユーモアの底流が上手いこと”つなぎ”の役目を果たしているのでしょうかなあ何かにつけて。言うに及ばずそこはかと無いサスペンスの風圧が常に冷静な目を光らせています。嗚呼、輝ける昭和ミステリの栄光。 鮎川さん、どうして逝かれてしまったんですか。。。(←いつの話だ) 最後にどうでもいい話をすると、大昔この題名をどこかで見て(たぶん小林信彦氏の書評本)しばらくの間「瞳孔のない鍵」なる小説だと思い込んでいたんですよw。何なんだ「瞳孔のない鍵」って!?ふつう無いですよ、鍵に瞳孔も虹彩もつけまつげも、ねえ。 |