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ミステリの祭典

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太鼓叩きはなぜ笑う
三番館シリーズ

作家 鮎川哲也
出版日1974年01月
平均点6.33点
書評数6人

No.6 5点 虫暮部
(2023/09/14 13:25登録)
 切れ味やや鈍い地味な本格、だと感じた。本格のとある方向性に邁進すると、外連味が薄れてそうなりがちなのはまぁ判る。
 語り手のキャラクターがあまり好きになれなかった。ユーモアも効きが悪い。これは “ユーモアのセンスが無い語り手” と言う設定を巧みに描いているのだろうか。
 この世界線にはゆすりが多いな。ゆすりとアリバイは食い合わせが悪いんだけどな。

No.5 6点 クリスティ再読
(2022/10/30 15:34登録)
評者今回徳間文庫版で。「竜王氏の不吉な旅」はこの本には収録されていないから要注意(評者は推理小説年鑑'73「殺しの一品料理」で評済み)。言うまでもなく三番館シリーズの第一集。

鮎哲さんらしいアリバイ系トリックを、安楽椅子探偵が話だけで推理して解明する話。だから鮎哲ミステリの骨格部分だけを取り出したような短編、ということになるから、長編に親しんでいるとパターンが読める...という印象がある。この長さだとミスディレクションを仕掛ける余地があまりない。まあだから、鮎哲入門編にはかなりいい作品集かもしれない。

というか、70年代初期って都筑道夫も「退職刑事」をやるし、ケメルマンとかヤッフェとか安楽椅子って言わなくても、ちょっとした「ホームズ・ライバル」風の短編作風というのが流行ったような印象もある。そう見たら吉田茂警部補もそうかも。ユーモラスなキャラクター小説+切れ味系パズラーというあたりが、都筑道夫の落としどころだったような気もしているんだよ。そんな流れで見たらどうかしら。

このシリーズの探偵役は「三番館のバーテン」で定着しているわけで、イチャモン言うのは何だけども、バーでお酒を作ってくれる人を「バーテン」って呼ぶと、嫌な顔をされることが多いから皆さんお気をつけを。今は「バーテンダー」が正しいから。確かにバイオレットフィズが流行った時代だけどね~バイオレットフィズみたいな甘くて香りの強いカクテルを5杯も飲んだら、気持ち悪くならないかしら(それ以前にオッサンが飲む酒?)

No.4 6点 斎藤警部
(2015/10/20 01:07登録)
相当に遠い昔、気まぐれで初めて手に取ってみた鮎川哲也。徳間文庫の新刊だったと思う。
ところが相性いま一つ、次の一冊に手を出すまで優に十余年を費やしてしまった無念の一冊目。
と言うか鮎川さんの中でもこの「三番館シリーズ」は今でもさほど強く心惹かれるものではありません。流石に詰まらなくはないものの、「ああ、なるほどね」、とそれなりに感心する止まりで感動へ至らず。堂に入ったユーモアはなかなかのものだけどね、物語がなんかチマチマしてますね、チマチマの振りして実際の所はデーーンと構えてるぞ、みたいな、鮎川氏の特にノンシリーズ短篇によくある空気感は無くて、本当にこじんまりしてる寂しい風情。 私立探偵氏がいちいち自分の心情を面白おかしく吐露する(本当の探偵役であるバーテン氏は違うけど)というあまりに逆ハードボイルドな文章が抵抗あるのかも。いえ何も私は鮎川氏にハードボイルドを求めちゃいませんがね。 まあ、立ちっぱなしなのに安楽椅子探偵役のバーテンがいて、伝統的本格推理で言うところの足で稼ぐ警察役の私立探偵がいて、依頼人には既に間に一枚入った形の仲介役である弁護士がいて、更にその後ろにやっと大元の依頼人がいる、というなんだか皮肉でややこしい体制は面白いですよね。更に言えばこのシリーズの真の主役は探偵役ヒーローのバーテンではなく、ワトソン役(=「わたし」)にして間抜けな警官役の私立探偵(へんな言い方)の方じゃないですか? もし彼が「引き立て役クラブ」に加入したら「オマエ本当は主役だろ!」って追い出されるんじゃいかって心配しちゃいます。

ところでこの徳間文庫は巻末解説が(当時は名前を知りもしなかったが)かの中町信氏! 氏が病床にあって出遭った「黒い白鳥」を、古本屋のおやじのせいで犯人はおろかメイントリックまで大いにバラされて憤慨中だったにも関わらず大変面白く一気読してしまった、それが起爆剤となり推理作家を目指し始めた、みたいな文章は何度目を通しても本当に魅力的です。ここで遭遇した「黒い白鳥」なる長篇名がずっと記憶の片隅(よりも少し中央寄り)に在って、十数年の歳月を経て私もやっとそれを読むに至ったという事の次第であります。嗚呼。 

色々言いつつ6点も付けちまった。 この第一集はやっぱり悪くない。

No.3 8点 ボナンザ
(2014/04/07 15:34登録)
やはりシリーズ一作目だけあってどれも完成度が高い。不吉な旅なんかも鮎川氏の別の一面を見せてくれる名作です。

No.2 6点 kanamori
(2011/01/08 17:58登録)
銀座の会員制バー「三番館」のバーテンが安楽椅子探偵を務める連作ミステリの第1集。
このタイプの連作ミステリの不文律?に則り、「隅の老人」「ブロンクスのママ」「退職刑事」などと同様、バーテンの名前はありませんが、私立探偵や弁護士までレギュラー・キャラクター全員が名無しという徹底ぶりです。
ほとんどの作品でアリバイ・トリック(アリバイ奪取トリックも)を扱っているのは、いかにも作者らしい。

No.1 7点 E-BANKER
(2010/09/08 23:02登録)
「三番館」シリーズ。
本作は創元推理文庫版での同シリーズ第1作。
鬼貫警部や星影龍三を探偵役とする長編の重厚な雰囲気と違い、洒落っ気たっぷり、軽いタッチでグイグイ読ませます。
①「春の驟雨」=アリバイトリックとしては基本どおりなのですが、見せ方がうまいですね。
②「新ファントム・レデイ」=W.アイリッシュの名作「幻の女」を下敷きにはしてますが・・・そこはやはり鮎川流のアレンジ。
③「竜王氏の不思議な旅」=短編ですが、鬼貫物を彷彿させるアリバイトリックが炸裂。ラスト1行が効いてます。
④「白い手黒い手」=白い手の人物と黒い手の人物・・・バーテン氏の推理はちょっと強引な気がしますけど・・・
⑤「太鼓叩きはなぜ笑う」=これもやや変格のアリバイトリック物。バーテンの推理法が鮮やかです。
全5編。
短編もうまいですねぇ。バーテン氏をはじめ、私立探偵・弁護士といったシリーズキャラクターの配役も絶妙です。

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