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ミステリの祭典

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和時計の館の殺人
森江春策シリーズ

作家 芦辺拓
出版日2000年07月
平均点5.89点
書評数9人

No.9 6点 人並由真
(2020/06/28 05:20登録)
(ネタバレなし)
 27年前のその夜。愛知県の中堅企業「天知興業」の社長で72歳の天知時平と、その長男で同社の社員でもある31歳の鐘一(しゅういち)。この2人がそれぞれ離れた場所で、この世を去った。そして現在、時平の次男で、父の相応の財産を受け継いだ当年53歳の圭次郎が、今また逝去した。青年弁護士で名探偵でもある森江春策は知人の同業者・九鬼麟一の代理として、とある特異な建物の中で、圭次郎の遺言を執行しようとする。だがそれは、彼がまたも遭遇した連続殺人事件の序章でもあった。

 う、う、う……。ミステリとしての手数の多さ、そして何より『犬神家の一族』オマージュで仕立てた作品全体の意匠。この作者なりの入魂の力作なのは十分に理解できるんだけれど、全編の叙述が淡白なのと、ひとつひとつはゆかしいハズの複数のネタが、互いにミステリとしての面白味を相殺しあっている感覚。そこら辺の弱点まで踏まえて、なんか非常に芦辺作品らしい一冊であった。

 海外の某・古典名作ミステリの有名なトリックを作者なりに因数分解して、新規のものにあつらえ直したような密室の真相にはなかなか創意を感じるし、『犬神家』リスペクトの「包帯男」ネタの料理の仕方にも謎解きミステリとしての意欲を認める。ただそれらの工夫の数々が一向に相乗しなくて、秀作・傑作パズラーにあるはずのダイナミズムに繋がってこない感じ。

 昔、存命中の仁木悦子が自作(『殺人配線図』だったか)を自分で外側から客観視して「ゾクゾク感の足りないミステリなんか、ワサビのきいてないスシのようなもの(大意)」と嘆息・自嘲するのを読んだような覚えがあるが、この作品もまんま、そういう感触なんだよね。
 
 これまでも芦辺作品を読んでいて、そこにあるポテンシャルは認める一方、なんでこうもノレないんだろ? と思うことがしばしあるんだけれど、今回は正にソレでした。
 クライマックスの森江の金田一ごっこも、これだけ作者のマジメで不器用な地の方ばかり目立つ作品の中でやると、単にイタいだけだったり(涙)。
 名探偵を敬遠する現職警官というステロタイプを逆手にとった、坪井警部のキャラクターなんかは新鮮で楽しかったけれど。

 面白いとは素直に言えない、よくできているという評価とも違う。ただし、力作なのはたぶん間違いないので、その辺を一顧してこの評点で。

No.8 5点 斎藤警部
(2015/10/16 06:52登録)
和時計の薀蓄は愉しく取り込ませていただきました。そこが面白さの本命で、肝腎の物語の印象は深く刻まれておりません。折角ギミックに溢れるポテンシャルを持つ素材を得ていながら。。上手に立ち回れば悪魔領域のアリバイトリックも創出可能だったろうに。。トリックを可愛がるあまり物語を副次的な存在に追いやった結果、折角のトリックまであたら犠牲にしてしまった、、という構図かも知れませんね。 かの『時計館』が放った、人の時間観念への睥睨力に比肩し得る省察もこけおどしも説得力もスペクタクルも、ここには見当たりません。

是非、驚愕の新作として大胆に再構築していただきたいものでございます!!!!

No.7 6点 測量ボ-イ
(2011/09/04 19:33登録)
雰囲気はなかなか良い作品。
肝心の中身もまずまずですが、謎の解決の一部が題名通
り和時計の知識がないと判らないのは高評価しずらいか
も。

(ここから少しネタばれ)
病死した前当主の遺書が暗号になっていますが、これは
とても判らない(苦笑)。
和室の中であった密室トリックは納得のいくものでした。

No.6 5点 nukkam
(2009/04/06 16:49登録)
(ネタバレなしです) 2000年発表の森江春策シリーズ第8作は横溝正史の「犬神家の一族」(1950年)へのオマージュ的な本格派推理小説で、横溝作品を読んだ読者なら楽しめる趣向があちこちに仕掛けてあります(読んでいなくても鑑賞上の支障はありませんが読んでおくことを勧めます)。綾辻行人の「時計館の殺人」(1991年)を意識したかのような舞台も印象的です。ということで背景や雰囲気についてはなかなか面白いネタが揃っているし、ストーリー展開もスムーズで読みやすいのですが謎解きが(私には)複雑過ぎるのがやや惜しまれるところです。

No.5 5点 いけお
(2009/03/07 00:24登録)
すんなり理解はできなかったが、上手く和時計を使った大小のトリックは好感。
ただプロットがスムーズじゃないというかバランスがよくないので読みにくい感じ。

No.4 5点 イッシー
(2008/01/27 19:34登録)
トリックが複雑でわかりにくい。

No.3 7点 ギザじゅう
(2004/08/10 01:36登録)
犬神家へのオマージュ作品。ラストの謎解きなんて金田一を意識しすぎ。
和時計の薀蓄は読んでて非常に楽しめたし、非常に念の入ったトリックもなかなか。ただし、和時計の(というか昔の暦の)素養が無いためか、トリックを聞かされても、理解しがたいものがあった。それだけでなく、事件の構図自体が何とも複雑なため、よけいに混乱してしまう。だから、このトリックを元にシンプルに仕上げた方が良かったのかもしれない。
あとは、遺産をめぐる争いはもっとドロドロしたほうが楽しめたし、包帯男ももう少し効果的に使えたのではないかとも思える。

No.2 8点 三毛猫
(2002/04/13 01:54登録)
実は、館モノは苦手なのですが… これは、例外でした。

No.1 6点 クニプニ
(2001/08/31 18:19登録)
 題名に心躍らされて買いましたが、期待してしまった分少々物足りなさがありました。
 舞台などの装置は良かったのですが、もう少しオドロオドロしさがほしかったです。

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