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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.69点 書評数:1304件

プロフィール| 書評

No.704 8点 タイムマシン
ハーバート・ジョージ・ウェルズ
(2017/05/26 00:28登録)
有名過ぎて最早手に取らないようなジャンル草創期の超古典も、何かの機会にいざ読んでみたらガッツリ満足面白い、って事はままある。本作もその典型。やっぱ完成度も高い挑戦作ってのは輝きを失わない(ホームズやビートルズの様に)。 歴史に残るどころか歴史を作る奴はコアが違うね! 今は無い近所のディスカウント屋で買った50円の創元古本も想い出。


No.703 5点 絶叫城殺人事件
有栖川有栖
(2017/05/22 12:27登録)
黒鳥亭
ほのかーーなミスディレクションが幸せに覆される瞬間が好きよ。ところがそれで全てじゃないってのもほんのり苦くて良いよ。「二十の扉」が絶妙だね。

壺中庵
トリックも物語もつまらんが、、建物の雰囲気はちょっとだけ好み。でもやっぱ俺の好きな物理トリックってのはこういうんじゃなくてなあ、島荘の得意なそれの方なんだなあ、全然違うわ。でも最後の沁みる観念台詞はちょいと好き。やっぱ心理ですよ心理のナニ。

月宮城
このタイミングでの前提変化球はジャストザ立派!と思えば普通水流に素早く呑まれ込み過ぎ。しかし真相はともかく物語の締めは、ダメでしょ。

雪華楼
ミステリ的に深みのない真相にがっくり。物語の雰囲気、その心理劇っぷりはまァ悪くもないが。。どこまでも童貞くさい有栖川よ、いい意味で。

紅南荘
ミソであろうサブ事象の動機が(推理小説として)シケってる。。だがそれを含む事件全体の構図は興味深い。もう一捻り半して長篇にすりゃあ良いものを! そしてラストの本筋動機で一気におじゃん。この青くささは本当どうにかならんのか、いい意味で。 さて、プロローグだが。。。。

絶叫城
変化球は肩透かし。。おぞましい真相にはまずまずの機軸感と感慨有り。
スコット・ロス登場には萌えた!


No.702 6点 夢野久作全集 4
夢野久作
(2017/05/20 00:22登録)
ちくま文庫の全集より。
福岡県福岡市生まれの作者にとって馴染みの深い九州北部地帯を舞台とした作品集。良い意味で統一感無し。


いなか、の、じけん
旧い時代の九州北部に起きた実在の事件に材を取った、何とも田舎風味のおからクッキーみたいな小品集廿篇(にじっぺん)。
言ってみりゃシーラッハの「犯罪」を思いっきりイナたいスリーコードのカントリーソングで唄い直したような。。冗談です。
「一ぷく三杯」のまさかの真相、笑える凄まじさ!
「蟻と蠅」の変なオチ。。アリバイって言葉がその意味って。。アリバイ破りとか(笑)?
個別コメントはわざと中途半端に上記二作と控えさせていただきますが、他にも掌編から短い短篇までたくさんよ。てか小説以前感満載のメモ書き風も結構ありますが。。昔の田舎の空気が吸えて良いです。

巡査辞職
良い意味でビットが粗い風太郎みてえな結末披瀝。探偵小説と犯罪実話のアイの子の様な。。
ラジオで三晩続けて探偵小説の講話ですって!!! ← 萌える
‘泣きの涙のまま永患いの床に。。’ ‘お蔭で青空が広くなった。。’

笑う唖女
本格色の強い時代イヤミス(昭和初期)。

眼を開く
泣ける日常のサスペンス、時代篇(昭和初期)。

空(くう)を飛ぶパラソル
なんザこれァ 前半本格、後半無惨実話?? ええっッ。。。

山羊髯編輯長(女箱師/両切煙草の謎/真実百%の与太)
二方の探偵役というか化かし役(?)のスッとぼけた関係性も愉しいショート連作。暗く小汚いムウドの第一作冒頭から徐々に明るく快活に推移、これがイイ。新聞見出しの趣向もスンバラシイ。まるで下品になった山田風太郎の様な味わい。

斜坑
旧い時代の炭鉱を舞台に、二人の男の、奇妙に緩い対立を巡る趣き深い物語。
最後の、幻想に支配された一連のシーンとその現実照射の結末は。。

骸骨の黒穂
フランク・ザッパの様に偽悪的な差別の拡大再現に勤しんだのか、それとも本気の差別意識発露なのか。。問題作として大の物議を醸した一品。田舎の居酒屋風景が愉しい導入から、意外にうねる展開と、激しく揺さぶる反転、そしてその後に。。。。。。。。。

女坑主
しようが無えなあ、凄いなあ
最後にもう一落とし無いのが却って怖い。

名君忠之
いいねえ、これぞ豪快。 エンディングが最高に沁み渡ります。


息子さんがあとがき書いてます(上記の「問題作」についても切々と)。 ファンは必読ってやつですか。
全体通すと、ミステリファンてよりは旧い小説好きな人向けですかね。


No.701 8点 五瓣の椿
山本周五郎
(2017/05/17 21:15登録)
「あたしに力を貸してください。。」

この小説は構成が上手いです。目くらましが仄めかしを僅差で凌駕する「序章」のエネルギーは磨耗を知りません、自ら勢いを落として着地する最終章まで。。
舞台は江戸の天保期。「両親と共に火事で死んだ筈の商家の娘」らしき若い女が繰り広げる「父の仇たち」への連続復讐劇です。

緊迫の序章、重く鮮烈な抒情に摑まれる第一章滑り出しを経て、第一のクライマックスをスピンアウト形成する数ページ、起伏の三段跳びには思い切り呑み込まれました。。この激しさはそのまま、物語の終結を容易に見透かさせない煙幕でもあり。。
中盤より、攻めまくりと追い詰められの折半予見も却っていじらしいほどの水際立ち。悍(おぞ)ましいようでいて凛々たるクライマックスには瞠目、探偵役のシャッキリした格好良さも印象に残ります。

読中、ジャプリゾ「殺意の夏」と東野「白夜行」を少しずつ思い浮かべるようなところもあり、、などと余計な仄めかしを最後にしておきます。 この如何にも渋そうな時代作品に、少しでも皆さまの興味を惹くことを期待し。


No.700 9点 招かれざる客たちのビュッフェ
クリスチアナ・ブランド
(2017/05/12 00:30登録)
事件のあとに
劇団員間の犯罪を、劇中劇応用篇の趣向を微かに混ぜこみ展開。最後は「反転の逆転」で一瞬わからない方角へぶん投げられる。こんな分厚い悲劇のミルフィーユをよくもここまであっさりと! そして後からじんわりどんわり。 8.5点

血兄弟
サイコ双生児のイヤミス小噺が何故、これほど心に響く! 7.6点

婚姻飛翔
しっかしコッキーのスッとぼけテクニシャン風情にはヤラレる。今季ガンバからフロンターレに来てくれたアベちゃんもコッキーの様ないやらしさ満開でいてくれん事を!! 大瀧詠一さんの最期をも思い出させてくれちゃって、少しだけしんみりも出来ましたよ。ありがとう。イヤーな感じの導入、動きの豊かな中盤から最後はきれいなドタバタ劇(?)へ。。 原題を見れば当然、HORNETさんを思い出さずにいられない、人気の一品。 8.8点

カップの中の毒
イヤミス的爽快復讐成功劇から、すれ違い証言のユーモラスな悲喜劇へ。シャーリー・ジャクスンがたまには本格でキメてみたかのような不思議な意欲作。最後の「一言」は、それ自体がオチってんでなく、それまで●●てた、てのがオチというか、キレだけでなく分厚さでも同時に勝負のツイストってヤツなんでしょうなあ。 9.2点

ジェミニー・クリケット事件
謎の密室殺人!! 閂がどうしたとか!! おまけに如何にもMO(ミステリオタク)受けしそうな構成の魅力じゃないか!!? 蹴球ワールドカップ絡みの重要エピソード、それも英国内の話、こりゃ萌える。 込み入った真相とシンプルな真相をこんな形で噛み合わせられたら最高の破壊力。参った。 10点!

スケープゴート
エモーションとロジックの対自核スピード有り気な鬩ぎ合い最高! フラーティな気まぐれと、一変して活字体のロジカルな言説、この二者間の間のエロティックにして精妙過ぎる推移マジック。。 マーゲリートの存在感が途中から増し増しソフト緊迫状態になるのも最高。 そして、、 少年よ。。。
「動機が欲しいんだろ?」
真相暴露で一瞬にしてイヤミス爆心地へ。。。 8.5点

もう山査子摘みもおしまい
のどかな風景に癒されながらも暗黒地帯。証言たちの凭(もた)れ掛かり合いの構図は興味深し。この骨格でシャラい作者に書かれても5.5点行きゃいいとこかも知らんが、ブランドの魔手に包まれたが最後、、 8.2点

スコットランドの姪
時にはフレドリック・ブラウン風のダッパーな小品でも物したかと思えば。。 いえ、梗概だけ掠り取れば確かにそんな作りなんだが。。 8.3点

ジャケット
こんな思慮も導線も投げ捨てたような屁みなたいなチャンチャン掌編が、何故、胸を。。。。 理由は分かってまシュけどねマシュケナーダ。 たしかにプチフールの幕開けに相応しかろ。 7.6点

メリーゴーラウンド
ルイーザ? これも毒の染みたプチフール。嗚呼、底意よ。。。。 分かってくれますか、この煌びやかな澱の存在。 8.3点

目撃
美味しいパンの耳砂糖菓子のようなライトグレイッシュファンタジー どこか習作っぽい蒼い剃り跡が見えたかも。 7.2点

バルコニーからの眺め
破滅と救いと孤独が微妙なアンバランスで支え合い、微かに虹色の風が吹くエンディング。 ただのオチ見えサイコ話じャアないのヨ、ワかってヨ。。 7.5点

この家に祝福あれ
静かなる絶句。。。。。。。。 8.9点
ネタバラシに近い蛇足を言うと、○○○は決して●●を持っていなった、という、、「ドンデン返し」の寸前で微妙に減速した「ドンデ返し」みたいな趣向がアルからこそ、たまらナイのヨ。劇薬匙加減だね。。

ごくふつうの男
まさかのノン・ミステリ(犯罪絡み)登場。ごく短いが胸に残るものは大きい。 8.3点

囁き
心理の機微に軸足置いた論理演算漆黒絵巻。重ねてこの溢れ出る、構成の美ならざる、万感の、されど一触れのたくらみ。。。いろんな意味でファック野郎どもの跳躍する道幅の消失点は。。結局、俺の心は揺さぶられ潰され一気に再生させられた。。。。。。。 10点を大きく超えたのは嬉しき珍事だがここでリミッターが働き10点留りさ、ハハハ 嗚呼、俺はこの小説かJBのセクスマシンかどちらかと最期は爆死したい、なんて思っちまいそうだ。 こんだけ余韻周波数のリーチが遠大百年計画の短篇、来世の終わりまで響き続けるんでないか???????? 危なすぎて心の発禁本確定だぜ。久しぶりに生(キ)のボンベイサファイアでキメたくなる小説。君は読むな。。

神の御業
逆イヤミス(と呼ぶのは許されるのか!?)! 8.2点。


No.699 7点 妖婦の宿
高木彬光
(2017/05/09 01:05登録)
卑怯と思わせない圧倒の詐欺力!! それは名高い表題作!! 
他はどれも、旧い昭和を偲ぶに良いノンビリ作品たち。

殺人シーン本番/紫の恐怖/鏡の部屋/妖婦の宿
(角川文庫)

それにしても、日本探偵作家クラブの正月恒例「犯人当てゲーム」って、、そのテキスト朗読の風景を想像したらもうたまりません。タイムスリップ出来たら是非、居合わせてみたい場所、吸ってみたい空気と、煙草の煙。。


No.698 7点 人間動物園
連城三紀彦
(2017/05/05 21:31登録)
誘拐、とは何か。。。 所々凝った表現など在るが、大きく見れば連城ならではの文学深淵に遠く届かず。それでもこの複雑系イヤミス活劇は、道尾秀介っぽい展開混じりの磐石の面白さで問題無し! とか言っといて実は微妙に、やはり文学要素故のブレーキが掛かる所があんだよな、折角の娯楽活劇に。 とは言えあの衝撃の『構造反転』を浴びせられた後に振り返ればこの中途半端な文芸臭さも実は意味ある叙述装飾のうち、、と見えて来る。 誘拐、とは何か。。 そんな伏線、確かにあったよ堂々と。。と納得させられるまさかのインフレ高騰○○○真相! 表題の意味が明確に叩きつけられるラスト近くの一節がある種の反転含みで清々しい! 微妙にバランス欠いた危うさがチラつくのも魅力のうち。 誘拐、とは何か。。


No.697 8点 上を見るな
島田一男
(2017/04/30 18:12登録)
クリスティか、ディヴァインか、島田一男の「上を見るな」か。

親族会議の必要は無くなりました。。。 それでも何や彼やで主人公、南郷弁護士には留まって欲しいと言う”彼”。。 「そんなに沢山仕事かありそうですかね?」

さあ、その殺人に、動機と言う名の帰還点は?! 或る重要登場人物が死ぬタイミング。。シビレさせていただきました。
結末へにじり寄るに連れ、予想外の圧縮が八方から抱きすくめに掛かります。 すげえアリバイトリック(ブラウン神父のアレの思い切った応用篇だ)。。。。でありながら、その!?!? ソ連だかアメリカだか。。 この周到にして鉄壁な犯人隠匿魂は、、まさか数年あとのD.M.なんとかさんに影響与えてないか?? 或る事の動機には「レーン最後の事件」にも通ずる清冽さが。。

脆弱な憶測を爆砕する瞬間冷凍の迫撃ラストと、それを冷静に見下ろすかの様な表題の機微、あるいは意味、または発言権! 本作をアガサかD.M.の翻案だと騙されて読んだら真犯人当てたかも知れない、そんなハッタリふかしといて結局は騙されるに違いない、猛毒含んだ意欲作。本は薄いが中味は分厚い!!


No.696 6点 エッジウェア卿の死
アガサ・クリスティー
(2017/04/29 01:45登録)
エェイなんだえ、このメタ仄めかしの何やらギラつく技法! しかし終わってみればその真相は一抹の物足りなさを引き摺ったまま。。カッチリした企画に演出の肉付けが薄かったとでも申しましょうか。“やや雑に破かれていた手紙の一枚”に関わるトリックは小味演出ながら忘れ得ぬ。ここにロジック側からもいっそクイーン風にガッツリ重く対応してもらったら更に良かった。 執事の正体。。。 この中途半端げな物語にひと捻り半を加えて理想形に仕立てたのがディヴァインの諸作であったりアガサの名作群だったりするのではないかな? なんて思っちゃいます。しかし決して詰まらなくはない、離したくはない(T-BOLAN)。 最後に置かれた手記は良かった。これで1点上がった。


No.695 6点 休日の断崖
黒岩重吾
(2017/04/26 00:11登録)
上等な紙巻き烟草の如く味わい深い造形の探偵役川草。物語の根幹は、社会派より所謂「会社派」の匂いが強い本格ミステリだが、この川草の立体的に苦い存在感には鮮やかな社会派フラグが遠望出来る。

最後、物理的にはともかく心理的に唐突感有りの微妙にバカなアリバイトリック推測&自白暴露になだれ込んじゃって。。ミステリのスケール感が縮んで大きく減点だなあ、惜しくも7点に届かない6.43まで落ちました。なお余裕の合格点ですけどね。


No.694 10点 ようこそ地球さん
星新一
(2017/04/25 01:47登録)
『ボッコちゃん』と双璧を成しちゃっている感がありますね。後年にも傑作がいっぱいありますが、短篇集の括りで見るとやはりこの二作こそ胸にずっしりです。言ってみりゃ『冒険』と『童心』が一緒になって盆と正月にやって来たみたいなもんでしょうか。(『ボッコちゃん』同様オリジナル短篇集じゃないんだけど、今やこの文庫版が定本でしょう)

デラックスな拳銃/雨/弱点/宇宙通信/桃源郷/証人/患者/たのしみ/天使考/不満/神々の作法/すばらしい天体/セキストラ/宇宙からの客/待機/西部に生きる男/空への門/思索販売業/霧の星で/水音/早春の土/友好使節/螢/ずれ/愛の鍵/小さな十字架/見失った表情/悪をのろおう/傲慢な客/探検隊/最高の作戦/通信販売/テレビ・ショー/開拓者たち/復讐/最後の事業/しぶといやつ/処刑/食事前の授業/信用ある製品/廃墟/殉教
(新潮文庫)

間違っても「日本のフレドリック・ブラウン」なんて喩えられない個性の突出は素晴らしいね。ここまで突き抜ければもう『個性派』なんたァ呼ばれない。ミフネや裕次郎と同じです。


No.693 10点 ボッコちゃん
星新一
(2017/04/25 01:07登録)
そこにミステリファンがいたら、この本も当たり前の様に一読を薦めるでしょう。
あっさりしながらとてもカラフルな語り口で紡がれる物語は、時に楽しい気分を演出し、時にちゃっかり悪夢を提供し、豊かな残像と後味をその後何十年にも渡って残してくれることでしょう。

悪魔/ボッコちゃん/おーい でてこーい/殺し屋ですのよ/来訪者/変な薬/月の光/方位/ツキ計画/暑さ/約束/猫と鼠/不眠症/生活維持省/悲しむべきこと/年賀の客/ねらわれた星/冬の蝶/デラックスな金庫/鏡/誘拐/親善キッス/マネー・エイジ/雄大な計画/人類愛/ゆきとどいた生活/闇の目/気前のいい家/追い越し/妖精/波状攻撃/ある研究/プレゼント/肩の上の秘書/被害/なぞめいた女/キツツキ計画/診断/意気投合/程度の問題/愛用の時計/特許の品/おみやげ/欲望の城/盗んだ書類/よごれている本/白い記憶/冬きたりなば/なぞの青年/最後の地球人
(新潮文庫)


No.692 4点 モーツァルトの子守歌
鮎川哲也
(2017/04/23 12:12登録)
鮎川さん最後のオリジナル単行本作品。鮎川作品でも三番館シリーズだけはやはり私の好みを上滑り、まして世評も低かろう最終作は。。氏への哀悼を誘う特別な作である事は間違いありません。最後の力を傾けながらこの薄味こそが泣けます。今思えば「モーツァルトの子守歌」で作家人生を〆るなんて素晴らし過ぎ。どうぞ安らかに。


No.691 7点 悪魔の手毬唄
横溝正史
(2017/04/20 23:23登録)
現代(いま)となってはコージーに過ぎる序盤と中盤、ところが思いのほか深い穴に何段も落とされる終盤、ケロッと爽やかなエピローグ。まるで「長過ぎる、人物多過ぎるブラウン神父」のような疾風の結末は読み応え大いに有り。現在(いま)となっては「青池リカ」が「青酸カリ」に見えて仕方ない、老眼ヨキカナ。それにしたって何やら因縁有り気な人物群が矢継ぎ早の大盤振る舞い桜吹雪で、こりゃ登場人物一覧表を敢えて付けないのが叙述トリックの一部ではないかと疑いも挟まずにはいられませんですのう。どことなく往年のチョン・ジヒョンを思わせるグラマー・ガールさんの専門がシャンソン歌手ってのは。。不思議な時代性を感じますのう。。 このわた、からすみ、のりの佃煮、きゅうりの酢揉みと来ましたか。。ワシゃったらノレソレ、赤貝ひも、ギバサ、月見ってとこかい。


No.690 7点 シャドウ
道尾秀介
(2017/04/20 04:13登録)
ふうううー ふうううー        遺書をめぐるくだり、唐突に現れた現代利器版クイーンみたいでとても面白い。 カットバックとオーバーラップの併用など割と普通だろけど、この小説でのそいつの活かし方はなかなか。。。。 いいよ、好きだよ、竹内。。 彼女絡みのまさかのダブルミーニングだかミスディレクション(瞬殺技!)には驚きと深みが籠もって忘れられないね。 ところで「犯人」ってあの人でいいの? 本当にハッピーエンドなの? 片耳イヤホンで聴くステレオ盤ビートルズのように、何気に釈然としないところが残るんだけど、面白いからいいノ。 本格なんでスかねエ? それにスても、スイスイ読め過ぎて困ったス。 表題の意味が、イメージ勝負だけでなくきっちり定義付けされているのも(本作の場合は)好印象。 the shadow knows…


No.689 6点 寝台特急六分間の殺意
西村京太郎
(2017/04/12 00:52登録)
こういうキラキラした魅力をふりまく京太郎が好きだ。

「列車プラス・ワンの殺人」「死への週末列車」「マスカットの証言」「小さな駅の大きな事件」「寝台特急六分間の殺意」
(講談社文庫)

初期のガッツリしたのも素晴らしいが、量産期もまた良い。才能ってのは凄いね。


No.688 7点 ゼロの罠
ポーラ・ゴズリング
(2017/04/10 12:17登録)
スキナーと言えば体育教師レナード・スキナー。‘ティミー&スキナー’なんてハンドル名も良いかな、なんて思いましたよ。

中東富裕国発、スマートな手筈でハイジャックされた小型飛行機はどうやら、乗客が眠らされてるあいだ北極圏のどこかに着陸したらしい。手厚くもてなされ、時折アラビア語の新聞を手にした写真を撮らされる人質9人。。。
抑えようのないお気楽さが支配する、それでもやはりサスペンス+スパイスリラーの娯楽良作。ちょっと雑なユーモアの会話文が時折明るい苦笑を誘います。騙したり、ヒントをやったり、分析したり、、極の数はいったい幾つだ??

基本は人質側と捜査側のカットバックだが、時折不可解な接点も見せる。伏線なんだか違うんだかネタばらしだか、楽しい不安がぽってりした固まりで断続的に登場。そしてプロットは何気に迷路。とてもカラフル。ユーモアと残酷さが逐一お互いを引き立て合う、目が離せない筋運び。そして対照の妙はそこだけじゃない
嗚呼、その(また逢えた)謎の登場人物よ。。。 嗚呼、今さらのその状況時差。。かと思えばあっさりと。。
ちょっとしたユーモア冒険譚の趣きも適時展開。 その泣けそうな優しさは、まさか。。。 スパイの習慣なのか。。

セイジ、チャールズ、アンドレ、ズビン、、 まさか『太陽を盗んだ男』にインスパイアされてないか!?(どちらも1979か。。)と胸が騒いだ伏線もどきは放ったらかしか。。俄然興味津々の洞窟内へ放り込まれたかと思ったら。。。でもいいんだ。 それにしても、ベーゼンドルファーの辿った運命。。

「最後の一撃」めいたラストのおかげで物語は随分引き締まりました。このどんでん返し(?)がミステリ側の領域にもう一歩踏み込んでいたら、ミステリとしてのみならず物語自体がより味わい深い地平に着地していたかとは思うが、、 いえ、これで充分です。


No.687 8点 野性の証明
森村誠一
(2017/04/02 22:18登録)
おお、未だ見えぬ物語の終結部に浮かび上がる、遥かなる接点の蜃気楼よ。。。

「セックスした」の意味を、泣けるほどミステリ文脈で意義深い遥かなる遠回しに言い放った森誠の心意気には震えさせてもらった。しかも、それに続く文脈のスリルへの連繋よ。思えばその直前には敵陣どうしの旨味ほとばしる暴露合戦が最高の人肌で併走させられていたんだっけ。更に。。 やばいぜ、このへんの森誠。 しかしそこには同時に如何にも青臭い露骨さへの危うい傾斜面も潜んでいるのだが。。。構わんさ。見た所、一方の探偵役らしき者が或る事件の犯人でもあるような気がするムズムズが持続。更に、その容疑人を泳がせるために。。。。。参った。。

岩手は北上山地の寒村で起きた、一集落十数名鏖殺(みなごろし)事件。ところが、被害者全て集落民と思いきや、一人明らかに外地から観光客の若い女性が混じっており、その代わり地元側で一人だけ行方不明の幼い少女<<映画では薬師丸ひろ子>>。。 章が切り替わり、その双方(観光の女性と少女)に繋がりを持つ一人の屈強にしてジェントルな男<<同じく高倉健>>が主人公としてようやく現れる。彼は鏖殺事件の強力な容疑者だ。
一方で同じ東北の福島(らしき架空の県)内陸の某大都市では、市の治安と発展を暴力の恐怖で采配する一族がその磐石の基盤を揺るがされかねない事態が、徐々に侵攻を見せ始めるのだが。。。

まさかのオカルト性を見せ付ける飛び道具と、地道ながらスリル有る植物学調査。
章が切り替わる毎の視点の交差ぶり、交錯ぶりも旨き味わい。
戸籍の告白。。、、これは怖い。 おとうさん。。 か。。。

中盤よりこりゃ意外と通俗サスペンスの味わいかな、と思ってたら最後はずっしり社会派魂で締められた。

ピコ太郎や棟方志功と同じ青森県青森市生まれの彬光先生、病床での決死の解説檄文は泣きました!!


No.686 6点 2分間ミステリ
ドナルド・J・ソボル
(2017/03/30 02:07登録)
ご存知(?)ハレジアン博士と、彼の研究室に事件話を持ち込むナントカ青年のヴェリー・ショート・ミステリーズ。ウェバーの「5分間」より各作ぐっと短くお気楽。
英語教材としたら9点は行きますね! 私は実際そういう用途でこれの原書を使ってました。その後、英語を勉強してるっていう友人にあげたもんです。たしかに推理クイズとしちゃチョロいもんだけど、極めて短いながら物語興味も不思議と豊か、そういうのこそ外国語教材には一番いいんだよ、ってとこで。


No.685 8点 夕潮
日影丈吉
(2017/03/29 06:57登録)
‘凄まじき精神の沈滞からようやく浮かび上がる。。。’

何とも癖の疼く、至る所で安定失う文体。。小説を飛び越え作者の心のサンドキャッスルが随時胸に迫るが如し。この読みづらさは却って大きな魅力。 昔の伊豆諸島を舞台に、眼に浮かび匂いも漂うリアリティたっぷりの得難い文章。 理由あって島へと遅い新婚旅行に出た主人公夫婦だが、夫はやり残したアフリカ言語研究の都合で本土との間を往来。あらためて島に戻った夫は折悪しく、殺人現場近くの海岸で容疑者と目される。。 こんな舌触りも滑らかに豊潤至極な文章海鮮尽くしの末にもしや気絶を誘うようなミステリの悪魔がぬっそりと待機を決め込んでいるかと期待すれば、こりゃあもう。。

同じ島でその昔、若くして謎の死を遂げた夫の伯父と、歌人として隠遁生活を送る年の離れたその未亡人(この歌たち、日影氏自作、がまた良いの)。因縁は島の怪奇伝説に姿を変え、時を経た主人公夫婦を危なげにつつみ込まんとす。。。。 物語の手触り推移は、思わせぶりながら、本格⇒純文学⇒サスペンス⇒?? 最後は何処へ向かう。。 それでも長編推理小説は成立するのだろう。そして、怖ろしく深い穿ちを見せる’いまでも’なる何気ない言葉。或る人物から放たれる突然の”告白論”!

福永武彦さんのような『推理小説はパズルが全て』論者には最早ナンセンスの極みで耐えられなかろう程の、何しろ小説全体に渡って深甚玄奥過ぎる文芸意図の浸透っぷりですが、私は大いに好みです。 
終わってみれば、そこに見えたのは土屋隆夫の「危険な童話」に一脈通じる、パノラミックに壮大な誰かの意志に基盤を置く、人を呑み込む類の大きな心理トリック。。 ただその真相が、意外とクライマックス感も希薄に通り過ぎてしまったのは、、小説実体の過度の(?)濃密さこそが罪なのかも。終結部にこそもう一段踏み込んだ大クライマックスが埋め込んであったなら、滅多に無い10点にも及ぼうかという、確かな重みある手応えを長い中盤がずっと与え続けてくれていたのは確かです。

この長編のおかげで今さら、リチャード・ハルさん(Murder of My Aunt)はリチャード・ヘルさん(Blank Generation)に名前がよく似てるって、気付いたんです。
危うく後半原稿が永遠に失われ幻の長篇になる所だった、数奇な運命の一作でもあります。命拾いの経緯についてはここでは敢えて触れませんが、今や伝説の雑誌「幻●●」が大きく関係している、とだけヒントを出しておきましょう。

なかなかの内容(上記の’命拾い’について)をあっさり語るエッセイ「小説の運命ということ」 をちょうど良い緩衝材に挟み、またエッセイのような幻想短篇「壁の男」。 不可もなく、まずまずの置き土産。

未完のごく短い遺稿「黄(服+鳥)楼」は風格鋭い台湾もの幻の第三長篇。惜しまれる。

それにしても、大阪場所の夕潮決定戦は劇的でしたなあ、稀勢の里と照ノ富士。なんちゃって。

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