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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.69点 書評数:1304件

プロフィール| 書評

No.924 8点 フロスト日和
R・D・ウィングフィールド
(2020/01/09 12:00登録)
「犯人の野郎をパクったら,五分だけでいい,ふたりきりにしてほしいもんだ」

愛される理由がよく分かった。こりゃ愉しいわ。一読うれしいたのしい大好きになっちゃう向きも多かろう。今さら言うのも照れますが所謂モジュラー型警察小説、のほとんどパロディの領域かも知れませんな、ここまでやられると。
ライヴァルらしき警部が実はそう嫌な奴でもない(フロストと違ってまともなだけ)ってのも素敵です。

エンディング、というより締めは確かに何だかじんわり来る。 子供たちが大好きなワード’ちんぽこ’が時折現れるのも素敵。翻訳も本当に上手ですね、この’ちんぽこ’含めて。

ピーナツ、まだあったのかよ(笑)。


No.923 9点 黒革の手帖
松本清張
(2020/01/04 23:07登録)
「おぼえておれ、この性悪女! 人の恨みがどんなものか」   

ここまで引き裂き尽くしたらもはやイヤミスではない。 本格のホの字も見せないくせに、この大きく間をとった謎ふりまきの手早さ。 手探りの 憶測促す 悪い奴.。。。 灼け付くストーリーで最高に読ませる、これぞ悪女クライムの絶唱。

“世の中がこんなに面白いものとは思わなかった。なんと変化に富んであることか”

いんやあー、嫉妬なる強くも粗いもん相手に、いや、それに保身なる確固たる細則あるもん引き連れてだけど、緻密にして大胆な計算だねえー   「あなたには、女のほんとうの気持ちがわかってないわ」   オネエ獣医の魅力が後に行くほど伸びてくる。篠井英介が浮かんでしかたがない。  “通りすがりの人が、病人かと思ってふり返って見る” 

まるで「マル鷹」最終章のように畳み掛ける、冷んやり気持ちいい急所突きっ放しの容赦瞬間唾棄、最高過ぎて唾も呑み込めねえ。。。。  結局、善意の”破壊者”一人に最後まで踊らされた。。本当の暗闇はそこにありそうだ。。。通俗ながらこりゃ強烈!! オチも凄まじい!!(本気で、笑うしかない?)   それにしても「ヴァンス」がこれだけ頻繁に出てくる話もヴァン・ダイン以来だ。   

さて、現新潮文庫下巻裏表紙のネタバラシは獄門級の酷さです。上巻はまだストーリーレベルのネタバレでギリ許せる人もいるかも知れないが、下巻は完全にミステリレベルでやっちゃってる。。。。。。神経疑います。まじめにやりなさい。


No.922 7点 幽体離脱殺人事件
島田荘司
(2019/12/26 11:23登録)
“女の問題は、単純な理屈では割り切れない。あらゆる把握解決法が複雑に絡み合った化合物のようなものだ”

ゆきずりの友情を守り抜く話。と書くとまるで(題名にそぐわぬ)ハードボイルド調みたいだが、、こんなドタクタ嫌ミスに加賀、じゃなかった吉敷を当てましたか。もしや元祖トラベルイヤミスですか。評判悪いのは納得で、私は嫌いじゃありません。この、ほど心地良い狂気の轍に浮かぶ時折の演説のくすぐり、しまそうならではのざらつく撫で付けにうっとりします。掴みっから強烈過ぎて、運が悪けりゃ撃沈する裏表紙あらすじ一言もチェゲラでけへんです。 しっかしずいぶん意外な展開を意外なバランスで見せるもんだな。そしてそこに、表題の持つ方向知れずの痛い圧力が。。見え隠れ、、奇妙に後ろのめりの遅いタイミングで待っていたのは本格推理の落とし前。挙句まさかのドタバタ終結に急襲されるまさかの吉敷(男のファン減らしたかな)。泣けたり何なりで忙しく満ち足りた終章。(終章の晒し表題がそそるのよね) 森誠先輩の大演説癖には苦笑するのが愉しいが、しまそう先輩の演説は素敵にくすぐってくれる。 メインのトリックはありきたりであからさまだが、しまそうの筆致に翻弄されてから明かされると、面白く豪快に思える。 しかしバランス悪い小説だね。

“私はついにそうつぶやいた”


No.921 8点 毒猿 新宿鮫II
大沢在昌
(2019/12/18 18:09登録)
「軍隊でいちばんの友だち。」

鉄則は脆い。命を超えた優先順位の金剛則を命に刻み込んだ奴の決断は捷い。国際警察でもグローバル警察でもユニバーサル警察でさえない、男と男の警察事業を軸に据えた万感の一篇。 相次いで台湾から渡って来た、復讐に滾る病気持ちの過激な職業兇手(殺し屋)と、それを追う職務外の武闘派刑事。歌舞伎町の仕事場を舞台に二人と関わりになる男や女。東京の魔都新宿でヴェトナム戦争勃発なるか。 シリーズ二作目でいきなり通し主人公の鮫島が一歩引いた準脇役の位置に(だが主役級との友情譚で大いに盛り立て沸かせる)、副主の晶に至っては三四歩下がったチョイ役扱い(鮫島とのラブシーン、緩むなァ..)という斬新な展開。 野暮の極致を承知で言えば、『毒猿』の正体明かすのをもうちょっと遅く(なんなら最終章にでも)してミステリ度合いを少し高めに設定って手は無かったか、なんてね。 このままで充分イケるから何の問題でも無いんですが。

御苑がメイン舞台の一つということで、いま話題の「桜を見る会」が’何の問題もない例年行事’としてさり気なく登場して来たのはちょっと笑ったス。


No.920 8点 真実の10メートル手前
米澤穂信
(2019/12/10 21:10登録)
「表題作」 辛すぎる思索エンディング(考えオチとは違う)に至るまでの名推理 7点
「正義漢」 ショートショート社会派 6点
「恋累(こいがさね)心中」 連城っぽい。パズルのためのやり切れなさなら、まあ耐えられるか。プロの嘘付きは九の本当に一の嘘を忍び込ませると言うが。。反転の場所は、そこかァ!! 8点
「名を刻む死」 真犯人捜しの謎と、被害者の心の謎。 二つの謎がリンクした一点から多くの事実が解き放たれ、解き解されなかった或る登場人物のわだかまりを、年長者が或る一言で解き解さんとする。 7点
「ナイフを失われた思い出の中に」 あまりの深淵街道まで突き飛ばされてぐうの音も出ません。やばすぎます。流石の俺様も歯ァ喰いいしばって泣きました。翻訳と原語のあいだの何処かにある第三の何かに寄り添い雪崩打つような謎事象の解放。だんだん微妙にパスティーシュの粉砕香が漂い始めるのもたまらない趣向。 連城っぽい。 10点(最初14点付けっちゃって、思い直しました)
「綱渡りの成功例」 しんみりの風景。非日常行為の中に潜んだ、日常心理の謎ですね。 しかし、現代日本人なら玄米フレークだろがあ!! 7点

通底する、謎めいた静謐と、さり気ないきれいさに惹かれる一冊です。 最初、主人公のヴィジュアルに日本共産党のあさか由香さん的なものを何となく思い浮かべたんですが、文章よく読むとちょっと違うみたいですね。


No.919 7点 ボーン・コレクター
ジェフリー・ディーヴァー
(2019/12/01 20:30登録)
“障碍者スポーツには他人を相手にする種類のものが多い”

ラノベ力漲る、明るい重度身障サスペンス。 ハサミ男を彷彿とさせる自殺志願探偵。 自殺を軸に置いた泣ける論戦シーンもあった。 あまりに美しい、とある眠りに落ちるシーン。。 眩しい希望と厭わしい苦味が相次いで炸裂し、前者が僅差で勝つラストシークエンス(まさか、そこにどんでん返しが。。)は本当に最高。 甘えなあと思いつつ、かなり高水準の面白さは否めない。 犯人、アッチじゃなくて、そっちだったか。。アッチだったら暗闇謎感4倍増しだったろうに、でもこれは(グロシーン多いくせに)明るいラノベだからいいの。

ところでジェットコースター・サスペンスと言えばMDMAじゃなくてMDA(もう誰も愛さない)の再放送をさいきん観てるんですが、本作への影響はたぶん無い、、かな??


No.918 5点 黒いアリバイ
ウィリアム・アイリッシュ
(2019/11/28 06:30登録)
“殺し屋の中の殺し屋、夜、を待ち受けた。 夜は、四六時中、くりかえしくりかえし、情け容赦なく昼を追いかけ、殺戮する。 処罰もうけず、妨害もされずに”

題名からアリバイ崩し本格モノっぽいのを想像すると、珍妙な角度で裏切られましょう。 連作短篇と見紛う不思議な味わいの小説構成。 犯人、まさかあいつ、、じゃないほう!? 最終章の表題、その名も「黒いアリバイ」。 一体何が「黒いアリバイ」なのか、せめて思いを巡らせてみる。。(つまり、真犯人の絶対的(?)アリバイ(?)が如何に真っ黒な先入観(?)のもとに成立していたか、とか??) 引いては押しのサスペンス醸造はなかなかキマってるね。 巡り巡って何とも独特な犯罪構造とその詩情。 南米の某都会にて。ローカル女優の思い切ったプロモーションに駆り出された黒豹が逃亡し、潜伏しながら巻き起こしていると目される若い女性の連続虐殺事件。 我が偏愛バンド、ザ・スミザリーンズのBLUES進行を使わないBLUESナンバーを思い出す名前の香水登場には萌えた。 


No.917 8点 闇に香る嘘
下村敦史
(2019/11/20 23:14登録)
「盲人を装えば、●●●●●●●●●●ない●●」

精神安定剤をストレート焼酎で呷り呑むような荒んだ暮らしに沈む中途失明の主人公は、別れた家族の深刻なトラブルにより表へ引き出された或る事をきっかけに、自分の兄が悪質な”偽”中国残留孤児ではないかとの疑惑にかられ始める。。。中身詰まって思わせぶりの機微も忘れない最高級のプロローグ。自分は信用出来ん、かも知れん、と自覚のある、何とも頼り無いがミステリ的には最高に適材適所の、信用できない語り手さん、最後まで引っ張ってくれてミステリ的に本当に有難う!最後まで謎のみっちり詰まり具合は丁度いい腹九分八厘でしたよ。大きな反転で詰めてなお残った違和感を切っ先鋭い別の反転でバッサリ処理、クーッ、スィヴィレるねえ。序盤からず~っと強烈な社会派サスペンス押しで来たのが、終盤で幻のように本格銀河鉄道のレールに乗って爆走を始めるあたり、んもう胸をトキメかせ過ぎで〆の白子スープチャーハンは別腹です!

参考文献一覧こそが強烈無比な本当のエピローグ、かも。そのジャンル別の並べ順にも泣けた。アリスアリスの文庫解説も、やるでねえだが。 ”(前略)小説とはそういうものであるから、全盲の人物の<視点>を取った場合、読者と登場人物の間にいつもは存在しない回路が開ける”

これ言うとネタバレになるでしょうが、tider-tigerさんがプロフィール中で仰っている
> ありふれた設定をかつてないような形で提示しているもの。
> 例えば「記憶喪失」「双子」「夢オチ」などを斬新な手法で料理している作品なんかがあればいいですね。
いや、やっぱり何でもありません。。

これもネタバレかな。。 一部イヤミスばりの唐突な無理やりハッピーアップセットに、記憶障害〈疑惑)がいったん廻ってなんも無しよ、みたいな弄ばれはちょぃと鼻ムズムズもしたのだが、まあいいさ。 点字俳句の立ち位置があっさり流されるあたり、掴みの強烈さと締めの奥深さの間に闖入してしまう違和感のヌラヌラも少しあったが、すぐ消えたぜ。 そのへんの一瞬で蒸発しちまうアラを直視した上でミステリとしてはほぼほぼペキの勘太郎(完璧)だけど、人間ドラマとしたらアラだらけかも知らん、だが感動する。  

“母さん、◯○◯○○◯○◯○○○ありがとう”


No.916 7点 電話魔
エド・マクベイン
(2019/11/16 08:56登録)
偏差と確率を語る●●●(今はもうない)。。。妙に説き伏せられるその数学的犯罪論演説。 ●●●と言えば思い出す、有楽町ガード下の古い焼きとん屋(今もまだある)。稚拙なようでいて雪崩をも呑み込みそうな謎の深み。始まりは、立ち退き迫る 脅迫電話、逆・●●組合めいた予感。。終わりが近づくにつれ、まさかの犯罪ハイパーインフレ大会には唖然となりました。最後のバカスペクタクルとその抹消無しに、クールな数学推理小説としてしっとり締めるって手はなかったのかしら?なんて思いもしますが。。この過剰な味は捨て難い。呆気ない幕切れを尻目の最高に痺れるエピローグ。ハヤカワ文庫あとがきがまた良い。昭和三十年代中盤のサンデー毎日に連載されてたって、つまり’エプロンおばさん’としばらく同時で本邦初訳が載ってたって事じゃないですか、こりゃ萌えます。(どっかで古雑誌、安く売ってないかなあ) 


No.915 6点 沈黙の檻
堂場瞬一
(2019/11/14 10:42登録)
十七年前の運送会社社長殺害事件は、犯人と目された社員がいたものの、迷宮入りした。。。。。。。冒頭から流石に面白い、このドライヴ力は格別なものがある。トリッキーな話の枠組も素敵だ。清張だったら下書きで破棄してそうな出だしさえ抱きしめたい。だが、心をガッツリ押さえてくれる分厚い中盤に比べ、あまりにすんなりそのまんまの結末かい。。。 ●●どころか■■■■拒否のホヮィダニットまでそのまんまかいやー!!事件の全容も人物の掘り下げもミステリとして浅い(物語としては。。。。それなりに深かろう)が、それでも圧倒的な読ませ力が勝り、5点まで滑らず。


No.914 8点 IQ
ジョー・イデ
(2019/11/08 18:50登録)
沁みた。。。 還暦過ぎて新人賞三冠は伊達じゃねえ、こんな胸熱なシットはそう無い。 終戦直後東京のように殺伐としたL.A.貧民街&高級住宅街を軸に繰り広げられるラップ業界ドタバタ哀愁アクション。今どきクラシックソウルを好む兄を持ったガキにとって、初めて出遭う”叙述トリック”はマイ・ガールのイントロかも知れねえなあ。

ミステリとは縁の深い歴史的人物名をもじった”BLACK THE KNIFE”(←すみません、匕首マックと切り裂きジャックがごっちゃになりました)なるラップチームを解散し、今やその旧チーム名を乗っ取って(元チームメイトを手下に従え)自らのソロ芸名にした、ラッパーとして絶大な人気を誇る本名Calvin Wright氏。なんとか言う架空の音楽雑誌で特集された「オール・タイム・ラップ・アルバム200」だかでは一位のNotorious B.I.G.に続き二位に付けたとか!どんだけビッグやねん!! んでそのCalvinが謎の闘犬を使った遠回りな殺人未遂に遭ったと訴え、仕事は若い無免許探偵I.Q.(Isaiah Quintabe アイゼイア・クインターベイ)の所に転がり込んで来たってえ寸法だ。元妻やら弁護士やらマネジメント社長、正体不明の殺し屋だか何だか、危ない白人もチカーノも(時にエイジャンも)入り混じって騒がしいことキナ臭いこと。

一方、上記の現在進行ストーリーにカットバックで割り入って来るのが、超優等高校生時代のI.Q.が如何にして超不良同級生ダッスン(本作のワッスン役、と呼ぶにはかなり異色)とツルんで悪の道に片足突っ込んでしまったか、の詳述。転落のきっかけはある重要人物の死。そしてこの過去ストーリーがいつになったら、どうにも小説上の泣かせどころらしく匂う、あのX時刻に、いったいどんな形でたどり着くのか、、という謎を抱えた、想定される号泣のゼロ時間へと向かう物語でもあります。

ちょうど2PAC全盛になる頃から徐々にHIPHOP界から心が離れて行ったおいらですが(ワシは今でもPE周辺がNO.1)、それ以降のシーンにもギリギリの素養は保たれてたお蔭で、本作で描かれる固有名詞を含む諸々もスイスイ入って来ました。が普通の読者にとって、そのへん訳注無しでは年齢層問わず厳しいかも知れません。“リルキムみたいな女云々”ってw でも雰囲気伝える和訳は全体通して結構うまく行ってるんじゃないでしょうか。 

んで、一体どこがシャーホゥやねん、と鼻白んだもんだが、ある場面で逆赤毛趣向みたいな(マクベインの「電話魔」はちょっと違うんだったか?)のが出てきてニヤリ。まホゥムズ要素はむしろスパイスですかね。恋愛に興味無さそうなのは同じだけどI.Q.はセックスはするみたいだし。ドラッグも楽器もやらないようだし(音楽は好き。割とハイブラウなの中心)

最終局近くのあのショートショートもどきのI.Q.探偵事始めはなかなかクリスピィなチェンジオヴペース。”TKはまるで変わっていなかった”ここでまた号泣だ。泣かせておいて最後の。。。。。。。。。最後の最後の謝辞がまた最高。ある登場人物が「本物のアーティスト」の例としてジョン・リー・フッカーを挙げてたのは、よしんば半分ジョークだったとしても(んなこたねえか)、嬉しかったねえ。。ダッスンがガンボ作るのも良かった。しかしI.Q.がQファックと呼ばれる度にQティップ(ATCQ)を思い出さずにいられんかった。 あのクソ変質者。。は続篇にまた顔出すんだろうか。

バカだなぁ、IQ。。 と思うシーンも一回だけかな、ありましたよ。


No.913 6点 失踪症候群
貫井徳郎
(2019/10/28 13:25登録)
シンプルな対称形のようでいて事は複雑また複雑。まるで世の中。と言って集約を唆る要素もよく見りゃ点在。まるで世の中。気づかせが露骨なだけにかのか大して重みを発揮しない叙述トリックもありました。割と重厚な心理描写や行動シーン(暴力大いに含む)でぐいぐい引っ張っておきながら、最終盤で急にご都合の誘惑に確信犯で負けてさっさと簡単に終わらせた、ような気もする。 まあ、ひたすら吸引力ある途中経過を楽しむのが良い娯楽小説ですね。それにしては作者らしくちょっと重い文章、ってのも悪かない。こんな勧善懲悪イヤだーって読者も数多おろうが、たまにはいいじゃないですか(でも完全にスッキリ終わるわけじゃないから)。 しかし、ドラムスの他にパーカッション、ギターも二人いて専任ヴォーカルを置いときながらベースレスのバンド(しかも素行が超凶暴)って。。。。。


No.912 7点 男の首
ジョルジュ・シムノン
(2019/10/25 06:39登録)
あるものの占有率が異様に高い騙し絵ストーリーのような。ギリ本格ミステリの形式を借りパクしたクライムストーリーであるような。出だしの意外性がピカイチですね。或る種の不可能犯罪を扱ったお話でもありますね。

この頃のアメリカ人(で経済的に成功してる人)って、今のIT企業家(で経済的に成功してる人)みたいなイメージだったんですかね。ラデックのような野郎、ネット社会でもいるよな、と思ったらますますそんな気がして。


No.911 8点 今はもうない
森博嗣
(2019/10/17 12:24登録)
認知や伝達についてのレトリック豊かなエッセイを、こんだけ豊潤な本格ミステリの装丁で世に放ったってんだからこりゃあ気持ちがいいですよ。本作の表題が或る会話の中に初出したのを見たとき、ときめいたなあ。。胸躍る安否探索シーン、’語り手の殺人舞台での数日間’が空白、という前提の魅惑。絶対的どころか絶対に疑い得ない特別の座におわします登場人物を疑い得る対象にサラッと置き換えるスライハンド、諏訪野さんのビジュアルイメージを間一髪で固定化から救いつつも一定方向への優しい誘導も見せた仄かなワンサブシーン。まさかの反感請負キャラがアンチミステリの新地平をも開きそうな激ヤバほぼ一言セリフを吐出。密室構成の可否を問うディープな仕訳け論議、いいねえ。“言葉とは、本来の意味に解釈されるのが原則だからだ”クィー 来るねえ

このまえカラオケで久しぶりに一青窈「ハナミズキ」を聴いてたら、なんとなくこの作品を思い出したんです。 アッチの意味で二度読みじゃなく、普通の意味でいつか再読したくなります。 犯人の意外性(って言っていいですよね)にも少しは目を向けてあげて!? ってかこれほど真犯人の影が薄い本格ミステリ(って呼んでいいですよね)もなかなか。。 んで●●に纏わるめっちゃ光る違和感伏線の置き場所が絶妙で絶妙で。。

シリーズ通して見たら、箸置きが立派過ぎる箸休めと呼ぶ事も出来ましょう。だけど、同じ番外作でも「人形館」とは性質が違いますね。

「現象は並列でも、言葉は直列に並ぶ。その並び換えのプロセスに、発信母体の意図が介在するだろう。」
↑ これいつも思ってたこと よくぞ言葉にしてくれました 

※パンダさんの(もう17年も昔の)コメント、本当にその通りと思います!


No.910 8点 殺人鬼
浜尾四郎
(2019/10/15 13:56登録)
心理トリック剛速球、戦前の奇蹟。余裕ある総ページ数なのに展開速いこと!時折現れる’一本のAirship’が呉れる最高の旨味。『X番目の被害者が何故それほどに意外極まりないと、両雄(探偵二人)から、目されたのか?』このあたりの機微も凄まじく素晴らしいね。最も深刻な、最も趣き深い復讐方法。。。これ程までの換骨奪胎乱反射であらぬ方向へ何箇所も突き抜けられたら、しかもそれを目線の高い知の制御のもと完遂されたら、最早これはヴァン・ダインをどうした言う域の作品じゃあないね。最高に頭のいい若禿上流エリートさんがアラフォー晩年期にものした最佳の充実作。必読度A、長大さAだが読みやすさもA。怖れる事は無い。(ただちょっと、豪快アリバイトリックで無理し過ぎの所が。。。笑)


No.909 8点 呪い
ボアロー&ナルスジャック
(2019/10/07 21:20登録)
“そしてすべてを一緒にひとつの封筒に入れたのです”

あからさまに太すぎる、物語の前提そのものであろう隠喩群の縺れ合い。ふんだんな情景描写が冗漫でないのも、そこに隠喩が充分に染み込んでいるから、のみならず映画の美しい風景シーンそのものの心地よさがあるから。 ダークスウィート抒情詩の解説散文のようなもので満たされているのは前半。後半は、先に進むにつれ胸を締め付ける心のサスペンスの坩堝に墜ちて行くための地図。。。 あまりにプレシャスな、限りある沈黙のシーンが心に残る。

“けれども私はこの偽りない深い愛情のあらわれをここに書けるのがうれしいのです”

獣医を営む夫が、ある日現れた胡散臭い医者の男に紹介され、患者である”或る獣”を飼うアフリカ帰りの画家の女と情を交わす。女は獣医の妻をアフリカ仕込みの(?)呪いの力で葬り去ろうとしている、、、としか思えない超自然犯罪現象(?)と、或る特殊な自然現象 。。。。のぶつかり合いなのか、そこは?!

最後は優しく哀しい反転で見つめられるように終わる物語。沁みます。

“人間は自分自身の心からはずっと離れた所で動いているのだから”


No.908 8点 火の接吻
戸川昌子
(2019/10/03 18:56登録)
「時には小便がかかっていたようです」

幼馴染三人の再会は放火事件が契機となった。一人は消防士、一人は刑事、一人は放火魔。 趣向に癖のあるプロローグ/エピローグに挟まれ、三者の視点回しで大胆な幻想の霧をふりまきつ、それぞれの男女の沈痛な物語は絡み合ったりほぐれたり。ごく初期段階から燦めく混乱の中、いきなりの魔法が!!証拠物件が○イ◯ンの●袋から見つかったって、どういうこと。。。 途中からどうも、ダビデの星のイメージが、その一箇所だけぼやけた形が、浮かび上がって来るんですよ。なぜなら。。。 と思ってたらほらもう次の。。 

“いったい私は真実を告白しているのだろうか”

さて本作はMTV華やかなりし’80年代中盤(昭和末期)の長篇。作者にとっては17年振りの本格ミステリとのことですが、いっやー錆び付いてないこと、鈍ってないこと!! シュールな道具遣いと惑わせ上手な筋立て。日本人らしいこだわりでフランス以上にフランセーズなこの感覚は同年発表の連城三紀彦「私という名の変奏曲」を連想させます。 「◯ン◯レ◯の●」の対位法による変奏曲ではあるまいか? と思い当たるのは物語後半の後半に差し掛かる潮。 更には凍りつく名シーン「生命維持装置」。 終盤近くからピチカート・ファイヴ「神の御業」が頭の中を流れて行きました。

見事です。まるで物語の遠心力で振り飛ばされるが如くの新事実が次々に現れても「いやーー、まーだ何か隠してるだろ」って感覚の持続性が半端ない。 真犯人像は、、えっ、そっち行く!? ってちょっと慌てますけどね。

“この人は誰なんだ・・・なぜ、なにもかも心得ているような口をきくのだろう”


No.907 6点 魔のプール
ロス・マクドナルド
(2019/09/24 23:52登録)
「朝飯だ。きっとそうだ」

会話に較べて旨味の落ちる地の文が場所取り過ぎ。これが欠点。終盤近くの雰囲気に染まる頃、やっと比喩やら真心やら、言葉の八面六臂で五臓六腑を追撃しまくりのグレイヴィスワンプがやって来た。。が時すでにやや遅し。でも挽回はした。

“メリオテスの頭文字がそこに描かれているのだった”

HBらしいストーリー錯綜はいっこうに構わんが、幹となるのであろうメインストーリーと、それをガッチリ支えるかと思われた太枝サブストーリーズが、互いにねじれの位置というか、全体で謂わば建築の体を成していない。そのこと自体はいいけれど、折角のこの物語のムードには合ってないんじゃないかしら。。違和感の源泉はそこかな。

「どんな場合でも、部分よりは全体のほうが大きいもんだ。」 リュウよ、決死のダイバーよ。 白いドアよ。。。

しかし、なかなか心に沁みるラストシーンです。 暗闇の中なのに映像的、というのがまた素晴らしい。


No.906 7点 黒い軍旗
アンソロジー(国内編集者)
(2019/09/16 10:45登録)
山前譲 編 飛天文庫  

十五年戦争を背景にした入魂の八短篇。

生島治郎/腹中の敵 8点
第二次国共合作前の上海。硬派な歴史ハードボイルド充実の中でこそ光る、ささやかなトリックの旨味。

佐野洋/某液体兵器 6点
太平洋戦争後期の追憶。戦争譚なのに氏らしい軟派なんちゃって社会派、良質の読み捨て短篇。

結城昌治/紺の彼方 7点
太平洋戦争後期から現在(つっても大昔)へ。戦争がダシに使われた犯罪への追想と、戦争が人間ドラマに繋がる現在視点のスケッチ。作者らしい仄暗さが良い。

日影丈吉/焚火 7点
占領下の割と平穏な台湾。あからさまに非ミステリ。妙に心に残る不思議な兵士への追想。皮相なようで芳醇な内容。(微妙に褒めすぎか?)

森村誠一/神風の殉愛 7点
特攻の頃と、現在(つっても昔)。社会派エッセイめいた戦時人情譚で締めるかと思いきや、後半は本格味の強い倒叙サスペンスへ思い切って転換。最後のほう、主人公が突然ちょっと嫌な奴に描かれるのは、読者が結末にあまり絶望しないようにとの、作者のぬるい優しさ故か?

山田風太郎/狂風 8点
降伏前後。いきなりモノが違う猛烈な文章世界に襲われました。日本の未来を巡って醫学生たちのぶつかり合う主張、重なって弾き合う心情。世代間の不信と、戦勝国達による詰め手の畳み掛け。。。。結末で無理に本格ミステリに擦り寄ったのはいいがその本格要素がいかにも取って付けた風で弱い!それでなお高得点付けざるを得ん!!

膳哲之助/埋葬班長 7点
終戦直後ソ連領。長篇モノクロ映画を思わせる豊かな物語性と、過酷な状況でも”悪いことばかりじゃない”生活描写。消失トリックも味のうち。

石沢英太郎/つるばあ 8点
終戦直後の大連。主人公含む複数の人間ドラマが事件を巡って精妙に交錯、ハードボイルド的センチメントが充満し爆発寸前へと。 序盤に見えた大味な物理トリックへの予感は、絶妙に淡いミスディレクションに片腕絡めた人間ドラマと見事に融合、味わいあるトリック顛末として花を咲かせています。小道具のバター缶も光ります。最後に明かされる「つるばあ」の意味。。。なんかこれ、微妙にタイミングが緩いというかおかしい気もするんだが、、妙に味わい深い。


No.905 7点 夜の蝉
北村薫
(2019/09/12 11:15登録)


朧夜の底 7点
な、何この、痺れ止まらぬサドゥン・エンド。。 まさか 恋、なの(真相の背景が)?! と思ったらあんまりそっちは匂わせず邪悪系暗示の終結なのか。 最後に明かされる正子さん(主人公の友人)のモヤモヤした心理がとても、良い。

六月の花嫁 7点
唯一の不満、ではなく違和感は、苦味ってやつがまるで無いこと。 とは言え、ダークサイド排除で綺麗な日常ミステリをここまで完成させるのは素晴らしい。 これがもし佐野洋だったらあそこの部分は。。と余計なこと考えるのは私の悪い癖。

夜の蝉    7点
“これが最初で最後だろう” 。。。。。。 三作中もっとも心理の揺さぶりを含んだ、ミステリらしい作品。 真ん中あたりの、謎と、謎解きの予感のとこ、ちょっと鮎哲っぽいかも。 最後に明かされる’呼び名’は、分かりやすいからこそ(?)リドル放置のままで良かったような。。


いっけんこんなに淡いしゃぼん玉のような作品集なのに、一遍読み終えるごとに長い冷却期間を置きたくなる深みが各作に宿っているのは確かですね。 全体通して、ミステリ要素より文章世界のほうに魅了される度合いが高いというかそっちが手が早い気がするけど、やはり肩書はミステリが似合う。 作者の得意とするような日常的事象の謎解きが、実はその奥に潜んでいた凶悪意図によるなにものかの解決に寄与。。してこそミステリの本懐じゃないか? とも微かに思わなくはなかったが、日常の謎どうしでそういう二段階ないし多段階奥行き演出をキメてくれたらそれは素晴しかろう。「朧夜の底」にちょっとそういう要素があったが、一段めがいかにも弱い。 表題作はまた似て非なる。。。 いえこれ以上は言いません。

‘純ミステリとしての’ワンシーンから次のワンシーンに移るまでの間、かならずと言っていいほど物語が一服つく(タバコ吸うのではない)。 この一服の間が物語としてのみならずミステリとしても、透明で豊かなまあるい空気感をもたらしていると思います。 表題作なんかは、最後の長い長い一服が、効いているんだよな。。。




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