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ミステリの祭典

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ゆきなだれ

作家 泡坂妻夫
出版日1985年02月
平均点7.50点
書評数6人

No.6 7点 斎藤警部
(2020/09/11 11:56登録)
「宵待草夜情」(連城)をあまりに優しくしてしまったような短篇集。 一篇一篇が温かく終わるのか冷たく終わるのか分からないスリルもあるが、どれも終わってみればじんわり、次作に移るまでしばらく冷却期間を強いられる。 最初の3/4は美しい文芸世界に浸り、最後の1/4からの急展開に手に汗握る、そんな心憎い構成の作品群。

ゆきなだれ
昔の同僚(後輩で年上)女性と遭遇。 タイトルの意味が解かれた時、その重さに涙。 医学的ポイントがミステリ性を突き上げた。 仄かな叙述ミスリードも効いた。 ショッキングだが救いのある最後の台詞、「a、b、c」の並び順がもし「c、b、a」だったら、怖い、、  
8点

厚化粧
恋愛下手の男(ノンケ)が、昔の隣人男性を偲ぶ。 掃除で出て来た、自分宛の手紙一通と、隣人宛ての未開封の手紙二通。 タイトルにまさかの意外性。 沁みる。 
7点

迷路の出口
謎の女性と年一の逢瀬。 キーワード「都市写真」がそこで効いて来るとは。。 そんな事情で、そんな儀式って! 
7点

雛の弔い
昔の師匠の謎めいた死。 死に方に秘められた経緯と人情もさることながら、破門のホヮイダニットが熱過ぎる。。。 
8点

闘柑
何これ、プロバビリティの解決過ぎひん? 考えオチ期待し過ぎ!? ユーモア過多?! 妻の旧友が昔の悲恋を語るのだが。。 
6点

アトリエの情事
昔の寄食先の奥さんと、展覧会広告の裸体画として再会。 (あからさまなヒントが晒してあるとは言え、) この反転の異様な熱さは。。。 ある種の密室(脱出)トリックも、余分感なくすっきり。 真相は強烈にじんわり来ます。。。。ジンストレートのよう。 
8点 

同行者
大学時代の女友達(ただの芝居仲間)と再会。 ビジネスシーンで活躍する彼女は、仕事で海外に飛ぶと言うが。。 色んな意味でなかなか意地の悪いお話。 
7点

鳴神
少年の頃、疎開先で世話になった年上女性と遭遇。 壮麗たる刺青を纏い山水画を嗜む彼女は、本場中国へ旅に出る途上だと言う。 日本に帰ったら久しぶりに刺青を見せてあげる、と約束してくれたが。。 この狂気に触れる真相はちょっとやばい。
8点

No.5 7点
(2020/03/29 08:51登録)
 『煙の殺意』に続くノンシリーズ第二短編集。昭和五十六(1981)年十一月より昭和五十九(1984)年九月にかけて『小説宝石』『別冊文藝春秋』『週刊小説』他に掲載された八つの短篇を纏めたもので、『喜劇悲喜劇』『妖女のねむり』『花嫁は二度眠る』などの長編を執筆していた時期にあたります。なお表題作は第九十三回直木賞候補作に選ばれたものの、惜しくも賞を逸しました(このとき受賞したのは山口洋子『演歌の虫』『老梅』の二短篇)。
 少し前の第九十一回では連城三起彦の自信作『私という名の変奏曲』が蹴られ、『恋文』が選ばれるという事件が起きており、連城はこれ以降執筆の主軸を大衆小説に移します。どうもこの時代の直木賞は「いくら上手くてもミステリはアカンのや」という声が強かったようです(泡坂はその後も第九十五回『忍火山恋唄』、第九十八回『折鶴』と立て続けに蹴られ、職人小説『蔭桔梗』で晴れて百三回直木賞を受賞)。
 まあそんな事とは関係なしに表題作は傑作。老舗和菓子店の入り婿が、ひたすら店に尽くし続けただけの無残な青春を振り返るようになったちょうどその頃、二十年前にたった一度だけ触れ合った幻想の女性に再会する。相手もずっと自分を想い続けていたことがそこで判明し、二人は今度こそ一緒になろうと誓い合うが――
 叙情性とミステリ要素を絡め、幻想のままに崩れてゆく幸せを描いた作品。「顔は傷一つなくって、観音様みたいに綺麗でしたよ」という〆の台詞が僅かな救いです。
 次点は点描された端役までキャラ立ちした『闘柑』と、壮絶な愛の物語『鳴神』。ネタそのものは他愛ない『闘柑』ですが、もしかすると表題作より好きかもしれません。あと追悼を主題に据えた二編『迷路の出口』『雛の弔い』もなかなか。地味ですがしっとりとした味わいのある作品集です。

No.4 7点 ボナンザ
(2017/01/28 11:57登録)
泡坂妻夫流の人情ミステリの最高峰。どの作品も小さなミステリとしての風格と、それが本筋にしっかりと結びついた男女の機微を描いた良作揃い。

No.3 9点 あさぎ
(2015/06/19 06:11登録)
なぜこれが埋もれているのかわからない、泡坂妻夫の短編集の最高峰たる傑作集。
とりわけミステリとしての解決があまりに哀切な真相に結実する表題作は、傑作揃いの泡坂全短編の中でも最高傑作の座を伺う名作中の名作で、これ一本のためだけにでも読む価値がある。
それ以外も「厚化粧」「迷路の出口」「雛の弔い」「闘柑」など、泡坂恋愛・人情小説とミステリーの技巧が最上級に絡み合った逸品が揃う。
連城三紀彦の『戻り川心中』『宵待草夜情』などと並び、日本的な美意識とミステリーが幸福な結婚を果たした、初期の本格スピリットを残しつつ人情路線にシフトし始めた頃の泡坂妻夫にしか書けなかった傑作集として再評価を求めたい。復刊はよ。

No.2 6点 kanamori
(2010/08/18 17:48登録)
恋愛ミステリ短編集。
同じ幻影城出身の連城三紀彦「恋文」の直木賞に触発されたかのように、著者は80年代半ばから抒情的な大人の恋愛小説を書き始めましたが、本書はそのような作風の最初の短編集だと思います。
「ゆきなだれ」や「鳴神」など、過去の女性の面影と対峙する主人公の思いや生きざまが描かれた作品が印象に残っています。

No.1 9点 Tetchy
(2007/10/16 10:34登録)
泡坂妻夫氏の美意識が詰まった短編集。
純文学風ミステリ短編集。
私は『雛の弔い』と『闘柑』が好きです。

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