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ミステリの祭典

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バードさんの登録情報
平均点:6.17点 書評数:333件

プロフィール| 書評

No.273 7点 7人の名探偵
アンソロジー(出版社編)
(2022/01/20 20:25登録)
帯の煽りに「7人のレジェンド作家の競演」とあるように、新本格ファン大興奮のメンバー勢揃い。豪華なお祭り感に非常にワクワクし手に取った。しかし意外と手堅い話ばかりという印象で、正直、読む前のワクワク感 > 実際の面白さだった。もっと遊んでくれても良かったのに。
平均点は6.14。大好きな作家達のお祝い本なんで全体ではおまけで7点です。

<以下個別の書評>

麻耶雄嵩 「水曜日と金曜日が嫌い-大鏡家殺人事件-」 6点
麻耶さんのセンスはこのメンバーの中でも特に尖ってると思うが、本作は案外読みやすかった。小部屋の被害者が○○という真相を難なく受け入れられたのは、それだけロジックが良かった証と思う。オチは酷い(笑)。

山口雅也 「毒饅頭怖い 推理の一問題」 8点
本短編集で個人的なNo.1。下手人と嘘つきを切り分けており、拗らせたミステリ好きらしさ全開のめんどくささが面白かった。(めんどくさいは誉め言葉です。)
あとオチがくだらなすぎて好きなので+1点してます(笑)。

我孫子武丸 「プロジェクト:シャーロック」 5点
正直微妙だった。我孫子さんは当たり外れが大きいイメージだが、今回は外れ側かな。

有栖川有栖 「船長が死んだ夜」 6点
手堅い印象の火村シリーズとしても地味な作品。量産型火村短編の一つで特筆点無し。

法月綸太郎 「あべこべの遺書」 6点
謎の提起段階では短編集の中で一番凝ってて面白い。ただ短編なのでしょうがないのかもしれないが、綸太郎の発想力がすご過ぎる気がする。探偵の推理が飛躍気味というのは、本作に限らず短編ミステリが抱える普遍的な課題だがね。

歌野晶午 「天才少年の見た夢は」 7点
人間は合理性の無い行動をとり得るという主張が見所だと感じた。経験を積んだミステリ作家が言うと結構重い主張よね。
叙述トリックに関しては、本作家達の過去作を読んできた多くの読者にとっては物足りないだろう。

綾辻行人 「仮題・ぬえの密室」 5点
読み物としては面白かったが、名探偵というテーマに沿っていないような。他作家が一応名探偵を出している中で一人逃げを感じた。ちと残念。
内容に関しては登場人物達(我孫子、法月、綾辻、小野)の著書を読んだ状態の方が小ネタを拾えて面白さアップかも。


No.272 9点 戻り川心中
連城三紀彦
(2021/12/23 06:52登録)
平均点の高い作品であることを承知で読んだが、期待以上に良い出来だった。
特に表題作は複数のミスリードからの真相到達で、インパクト大の満点。短編集としても9点です。

古い時代の話にもかかわらず非常に読みやすく、文章力の高さも伺えた。謎と薄暗い舞台が上手く溶け合っており、面白さを高めあっている。もしどちらかが欠けていたら良くて7点だったろう。

最後に面白さとは別の感想だが、全体的に動機で謎を盛り立てており、連城さんの得意な手法なのかしら?と感じた。


<各話の書評>
・藤の香(7点)
真相をミスリードっぽく見せて驚かせるって構造は、他作品にもありそうだが案外パッと思いつかないな。まあまあ面白く好調な滑り出し。

・桔梗の宿(7点)
非常にむなしいお話。収録作の中で一番鬱度が高い。

・桐の柩(8点)
動機が面白く、物語に引き込む導入も上手い。表題作以外では一番好き。

・白蓮の寺(7点)
収録作の中で唯一読みづらさを感じた。やはり他人の夢の話にはのめりこめないっす。夢説明パートが終わり事件の核心に迫ってからは一気に面白くなった。例の犯行によって母の目的が達成できるかは相当綱渡りだがその分印象的だった。犯罪関係以外にも蓮に役割がある点には推理小説の枠を超えた上手さを感じた。

・戻り川心中(10点)
文句の付け所無し。完全に余談だが苑田の動機って『ネウロ』の世界観にマッチしそう。


No.271 6点 幻惑の死と使途
森博嗣
(2021/12/19 18:34登録)
『詩的私的ジャック』、『封印再度』に比べるとまとまっているように感じ、割と好きな話だった。SとMのラブコメパートはコテコテで正直しつこいが、個人的には許容範囲かな。

ただ一番肝心なところは『笑わない数学者』の焼き直しだね。本作を読む人は前のシリーズ作を読んでる場合がほとんどだと思うので、この焼き直しは少し印象悪く一点引いた。
ただ、有里匠幻はなぜか笑っていた天王寺博士より好きなキャラだな。最後もちゃっかりと脱出決めてたりしないかなぁ。


No.270 8点 パーカー・パイン登場
アガサ・クリスティー
(2021/12/06 11:19登録)
始めの方は地味な話が続き物足りなさを感じたが、中盤以降は豊富なギミックが登場し読み応えアップ。終わってみれば非常に満足度の高い短編集だった。
ポアロ、ミス・マープルに比べると知名度で劣るが、クリスティが嫌いでなければ本書もぜひ読んでいただきたい。


<各話の書評>

・中年夫人の事件(5点)
ほっこりする終わり方で好みだが、ミステリとして特筆すべき点は無し。パーカー・パイン氏の紹介的な話で、可も無く不可も無い出来。

・不満軍人の事件(6点)
全てはパーカー・パイン氏の手のひらの上。オチは予想できる範囲だが退屈しない。

・困った婦人の事件(6点)
本短編集の中でも後味悪めな話。悪党にこのままでは不幸になると忠告するも無視されるところに嫌なリアリティを感じる。ミステリ的な部分ではなくストーリーの見せ方が光る話だね。

・不満な夫の事件(6点)
オチが全て。自分的にはまあまあ。

・サラリーマンの事件(5点)
悪くはないが、特にコメントする点も無し。

・富豪婦人の事件(7点)
まあ臭い話といえば臭い話だが、本作の如しシンプルな人情話?は嫌いじゃない。人間何が幸せかはいつも考えておかないとね。自分の稼ぎだとまだまだお金は必要なので、ライマー夫人のように割り切れないですが。

・あなたはほしいものをみな持ってますか?(8点)
海の上という共犯者を使えない状況で宝石を盗むとなると作中の方法しか無いのだが、真相を上手く隠して面白くしていると思った。本短編集はこの話から一気にエンジンがかかったという印象。

・バグダッドの門(8点)
犯人特定の方法が古き良き探偵という感じで大好き。小技の効いたいい短編と感じた。

・シラーズの家(9点)
本短編集で一番好きな話。別の作家の長編でほぼ同じネタを見たことがあるが、あちらは早々にボロが出ているのに対し本作は短いページで見事にトリックを決めている。ラストに明かされる伏線も巧妙でアガサ・クリスティの実力を堪能できる素晴らしい短編。

・高価な真珠(6点)
前三話の出来が良かっただけに少しトーンダウン。つまらなくはないが話の構成的にボケっと読んでても犯人が分かってしまうのが傷。

・ナイル河上の死(4点)
パーカー・パイン氏が旅に出てからの話の中でワースト。犯人の見通しも甘く、まともなトリックもないのでイマイチ。

・デルファイの神託(9点)
露骨な伏線が張ってあるので正直オチは誰でも予想できると思う。その上でわずか20ページでこのトリックを採用し面白くまとめているのは見事。また、最後を本トリックのような変化球で締めるという短編集の構成も褒めたい。というのもラストにインパクトの大きい話があると短編集自体が強く記憶に残るからである。


No.269 5点 邪馬台国はどこですか?
鯨統一郎
(2021/11/23 19:27登録)
こんな妄想の垂れ流しは小説じゃねぇって一蹴したい一方で、宮田の説に妙な説得力があり「そうかも・・・。」と思わせられる部分もある。
話作りの部分が史実に頼り過ぎており釈然としないというのが私の率直な感想だが、歴史素人の自分には作中の話が学術的にどれだけディフェンスできる話か分からないので、この評価が適切かも分からない。きちんと歴史を勉強した人がどう感じるかが本書の正しい評価だろうね。

個人的に好きな話の順番は
「謀叛」=「維新」>「奇蹟」>「聖徳太子」>「悟り」=「邪馬台国」で、
表題作が一番退屈だった(笑)。
あと静香(才女に見えない)、三谷(置物感あり)の二人の書き方はもう少し頑張って欲しかったかな。とはいえ全体的にリーダビリティは高く、私のような歴史素人でも読めるように書けているのは見事。変則的なミステリを楽しみたい場合、選択肢に入れても良いかと。


No.268 8点 りら荘事件
鮎川哲也
(2021/11/23 19:26登録)
(ネタバレあり)
細かい点まで練られており、館物のお手本+αの出来と感じた。
個人的に気に入ったギミックは

・トランプによる殺人順誤認 : 自分は複数人での犯行を連続的な事件と誤認させる目的でトランプを使っていると思ったので、この使い方はシンプルながら上手いと思った。最後は逆に利用されてしまったが・・・。
・色盲に関する伏線 : 新規性は薄くとも上手く機能した仕掛けと思う。それで殺された彼は気の毒だが。
・ココアへの毒の仕込み方 : 砒素の性質は知らなかったが大胆にやったなぁ。これは現場にいたら疑えないだろうね。現実的かどうかはさておき良いトリックだ。

あたりである。また、初心者にも勧めやすい読みやすさも加点ポイント。
最後に気になった点であるが、流石に人殺しすぎじゃないかとは思った。あれだけ容疑者が減ると消去法である程度犯人が分かってしまうからフーダニットの点が苦しかった。と軽く苦言を呈したが、余計な容疑者候補を増やして作品を無駄に太らせるくらいならこれで良かった気もする。本書は伏線回収やハウダニットの点で十分良いと思えたので。


No.267 4点 カリ・モーラ
トマス・ハリス
(2021/11/15 16:10登録)
トマス・ハリスは個人的に好きな作家だが、本作は作りが雑な気がした。
終盤の金塊奪取からシュナイダーとの直接対決のあたり(文庫本ラスト100P分くらい)はサクサク読めて楽しかったが、そこまでの内容は展開が遅い上に余計な描写が多く散逸的、今一つ物語に集中できなかった。ワニの視点の章とかどう考えても要らないでしょ。

途中まで3点、ラスト100ページは5点で、好きな作家補正も込みで4点。作者のニッチなファンでなければ態々読まなくていいレベルだな。


No.266 4点 シャーロック・ホームズ最後の挨拶
アーサー・コナン・ドイル
(2021/11/06 14:56登録)
私の既読短編集『冒険』、『帰還』、『回想』に比べて、ミステリの華であるトリックが雑な話が増えてきており、なんなら無い話も多い。率直に言うと物足りない短編集だったね。主語が大きいかもしれないが、非シャーロキアンのミステリ好きならそう感じる人は多そう。

と少し辛くなったが、5点以上付けた話は結構面白かったです。

<各話の書評>

・ウィステリア荘(5点)
ホームズものに精巧な組み立てなどは期待していないので、雰囲気が良ければOK。無関係な紳士が奇妙な体験と称してホームズ達(と読者)を事件へと誘うので、出来の良い怪談の如く引き込まれた。

・ボール箱(4点)
あまりコメントすることが無い微妙なお話。

・赤い輪(5点)
この話は好きな方。下宿人の入れ替わりは予想通りだけど良く言えば奇をてらわず王道の話でそれなりにまとまっている。ひねりが無さすぎる気もするけどね。

・ブルース・パティントン設計書(6点)
単純に好きな話だったので本書の話の中で最高点。犯人像の推理には説得力もあり一応ミステリとしての体裁がとれている(?)のが良し。

・瀕死の探偵(3点)
探偵が仮病使って犯人がアホみたいな自供。くだらない。

・フランシス・カーファクス姫の失踪(5点)
本書で二番目に好きな話。推理要素は無いが、先が気になるハラハラ感があり冒険もの的な良さは十分。

・悪魔の足(4点)
謎の演出は良かったが、謎を作り出した手法が特殊な植物というのが好みでない。不出来というよりはあくまで私の琴線に触れなかったという感じかな。あくまだけに・・・・・・。

・最後の挨拶(4点)
ホームズの掲載順について詳しくないのだが、これも区切りの話なのかな?普段と違う空気の話だったという位しか感想が出ない。


No.265 6点 キングを探せ
法月綸太郎
(2021/11/06 14:53登録)
(ネタバレあり)
スマートに洗練された話ではなく、中盤以降も複雑に混ぜ返していくのが実に法月さんらしいと感じた。(『密閉教室』、『誰彼』などからそのような印象を持っている。)

本作一番の売りは綸太郎からの手紙を利用した、りさぴょんの犯行偽装である。後の話を踏まえるとりさぴょんの策は逆転の一手ではなく応急対策であり、カネゴンの「ーこんな切り札を~」という台詞はオーバーな気がする。勿論愚策ではなく機転も利いたいい手ではあり、上手いとは感じた。しかし、どんでん返しの大逆転ではなく今回の修正策レベルだと読者目線での盛り上がりがそこそこで落ち着いてしまう。
評価は6点か7点かで迷ったものの、以上の感想なので6点。


No.264 6点 奇科学島の記憶 捕まえたもん勝ち!
加藤元浩
(2021/10/24 18:53登録)
前情報無しで衝動買いした本だったが、各所表現にそこはかとなく漫画風味を感じ調べたところ作者の本職は漫画家だった(笑)。

漫画描きなだけあってか読者への情報の伝え方は上手く、第一事件の密室、第二事件の犯人消失、第三事件の違和感の正体、別犯人を仕立て上げるという真犯人につながる伏線など重要情報がスムーズに頭に入ってきた。全体的にいい意味でシンプルなトリックや書き方で好印象。
一方、見立て殺人の要素やストーリー構成がテンプレ的で、ややオリジナリティに欠けるのがマイナス点。そこが少し残念で惜しくも7点に届かずです。


No.263 6点 ガラスの密室
森村誠一
(2021/10/18 13:34登録)
当初どの辺がガラスの密室なのか見当もつかなかったが、終盤でようやく意味を理解。つまり長い長い序章だったわけだ。

ストーリー展開は分かりやすく、一部稚拙と感じる箇所もあるものの好みだった。ガラスの密室の魅せ方は悪くなくオーソドックスなミステリとして楽しめた。ただし決め手となる証拠を犯人側が対策してないのはあまりにお粗末だし、トリックも単純で優秀なミステリとは思えなかった。
まとめるとミステリとして肝心な点が弱く、良作と呼ぶにはあと一歩足りない作品。


No.262 5点 往復書簡
湊かなえ
(2021/10/16 23:48登録)
嫌いでないが好きでもない。
語り手が一方的にまくしたてるスタイルは『告白』に似ているが、あちらの方が人の悪意という点で振り切れており、それに比べると本作は日和り気味。『告白』の肝だった長所が薄まっている。
また、一応各話で仕掛けはあるものの、驚かすにはもっとパンチ力が必要かと思う。手紙という色々と仕掛けを盛りやすい形式を使っている以上、読者も身構えるわけでね。

といった諸々の感想から総合点はまずまず~やや物足りないという感じ。


No.261 9点 幻の女
ウィリアム・アイリッシュ
(2021/10/10 15:31登録)
(軽くネタバレあり)
非常に面白かった。目的は一つ、謎の女を見つけて証言させる事。物語の筋が分かりやすくとても読みやすい。
読者に示されるアリバイがなぜか否定されるという興味深い謎が示される序盤、あと一歩のところで関係者が次々と亡くなってしまう先が気になる中盤、読者予想の裏をかくための素晴らしいギミックが組み込まれ、更にサスペンス的盛り上がりも高水準な終盤。
序盤、中盤、終盤全てにおいて隙の無い面白さで、人気があるのも納得の作品である。

満点でない理由は、話を進めるためにご都合主義なところが散見された点。例えば、キャロルの追っていた側では犯人は動いていないのに人が死に過ぎな点など。ミスリードに必要だったのは分かるが、作者側の都合で話を転がしたんじゃ読者は納得しないぜ。


No.260 7点 終末のフール
伊坂幸太郎
(2021/09/27 06:25登録)
緩やかに人類が終焉に向かう中、色々な人が各々好き勝手生きる話。どうしようもない理不尽さにもかかわらず、登場人物達は懸命に生きており、読んでいて非常に気持ちの良い小説だった。
特に好きな話は『鋼鉄のウール』。苗場さんを見て、明日死んでも後悔の無いように自分も日頃からやれることをきちんとやろうという気になった。

構成面では各話の繋がりを強調せず小ネタ程度にとどめたのが功を奏したのかなと思う。もし結び付けを強く書いていたら、そういった伏線を気にしながら読まざるを得なくなり、結果焦点が登場人物達の生き様からずれて、この作品の良さが薄まっていただろう。


No.259 5点 “文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)
野村美月
(2021/09/27 06:23登録)
ライトさやかわいいキャラで整った味にミステリ要素がスパイスとしてピリッと利いていて、コクのある作品だったわ。ただ、ひと昔前の作品なのでキャラクター造形は少し古めかな。絵も特別良いという訳でもないので、少し鮮度が気になったかも。
シリーズ二冊目以降に手を出すかと言われると・・・、またお腹が空いたらいただくわ。


No.258 5点 猿の惑星: 聖戦記
グレッグ・コックス
(2021/08/14 19:49登録)
各キャラの心情を丁寧に描写しているが、家族愛や仲間意識などの人間(?)関係部のドラマに特別光る個性もなく、残念ながら凡作止まり。駄作というほど悪くはないけどね。猿を善玉、人間を悪玉にしすぎており大味な勧善懲悪もので終わってしまっている。

猿が人間並みの知性で活動する様子を見るのが『猿の惑星』の醍醐味の一つなのだが、猿たちに人間味がありずぎて映像が無いと猿っぽさを感じ辛いというのも残念な点。わざわざ小説で読むメリットを感じなかったな。


No.257 5点 アリス殺し
小林泰三
(2021/05/31 22:39登録)
(ネタバレあり)
多分上手く作りこまれてる作品なのだろうが、独特の世界観に入りこめなかった。アリスと亜理のちょっと変わった二人一役は普通に引っかかったのでそこは良かった。そのトリックの出来を考慮してこの点数。


No.256 3点 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件
麻耶雄嵩
(2021/05/09 16:50登録)
(ネタバレあり)
自分の読解能力が足りないのは承知の上で書くが、つまらない以前に見所がさっぱり分からなかった。残念ながら、目的意識を伝えずに方法論だけを語る、悪い意味で先の読めないダメプレゼンを聞かされたような印象。結局、何が売りの本なんだ?

 純粋な犯人当て?→そこまでキレキレの論理でもない。
 独創的なトリック?→既視感のある密室くらい。
 『毒チョコ』のような多重解釈?→途中の推理は明確にハズレ扱いなので、多重ではない。
 どんでん返し?→探偵役が二人いる時点でひっくり返るのは読めてしまう。
 意外な展開?→タイトルにある探偵が死ぬも、タイトル的に死ぬかなーと思っていたので予想の範囲内。他の展開にも特に意外性を感じず。
 キャラ物?→特にオリジナリティある魅力的なキャラ造形でもない。

結局ここを楽しんで欲しいという点が分からないと、読者としてもノリようがない。ミステリ的技巧に走りすぎて、読み手への配慮を蔑ろにしてる作品かと。


No.255 6点 誰の死体?
ドロシー・L・セイヤーズ
(2021/05/04 17:38登録)
(ネタバレあり)
初のセイヤーズ作品。語り調子や雰囲気は好きだが、惜しい作品だった。

「死体の処理で足がつくかも」→「だったら死体をすり替えて堂々と処理してやれ」
発想は悪くない。むしろシンプルで好き。
ただし、

・すり替えた死体が病院から持ち出されたものだと気づかれたら終わりなわけで、数時間の床屋作業による偽造対策だけでその危ない橋を渡るのはどうかと思う。
・レヴィが移動中に目撃されたのは不運だったと犯人は言っているが、これは対策考えてないのがおかしいレベルのポカ。実際それが命取りになったし。
・鼻眼鏡の役割が結局雰囲気作りだけで、登場意義が弱く面白くない。

と、ケチを付けたい点が多々ある。
楽しめたがマイナス点も気になるので、総合評価は平均くらい。


No.254 5点 黒後家蜘蛛の会2
アイザック・アシモフ
(2021/04/29 11:19登録)
一気に読みたくなるパワーは無いが、相も変わらず毎日一話位のペースでまったりと読み進めたい雰囲気。
点数については、各話の平均が1作目よりも落ちているので、総合で1点引いた。

<収録作毎の書評>
・追われてもいないのに(5点)
初っ端としてはまずます。

・電光石火(7点)
シンプルイズベストなトリックを決めている秀作。あとがきの通り、例の作品の影響が強いとは思った。

・鉄の宝玉(6点)
ラストのヘンリーの気の利いたコメントが好き。

・三つの数字(6点)
これも比較的シンプルな仕掛けで好み。伝言ゲームって難しいね。

・殺しの噂(5点)
『指輪物語』は未読なので、申し訳ないが良さが十分伝わらず。

・禁煙(7点)
うんちくを織り交ぜた小ネタが多めの「ブラックウィドワーズ」ものにおいて一風変わった正統派な探偵話と思う。(マッチの使い方を起点とした推理などは特にそう思う。)

・時候の挨拶(5点)
ゴンザロがやたら色々推理するがコナンのおっちゃんみたいな感じで微笑ましい。謎の面白さは可も無く不可も無くといったところ。

・東は東(5点)
アメリカの地名ネタなので、日本人である自分には少しとっつきにくかったが悪くはない。

・地球が沈んで宵の明星が輝く(5点)
まあまあ。謎は微妙だが、「ブラックウィドワーズ」ものにしてはシリアス成分が強く、短編集の中でストーリーの緩急をつけるという意味でいいかも。

・十三日金曜日(4点)
考え方は小学生でも思いつくレベル。あとがきによるとEQMMは本作を没にしたらしいが、自分はこの判断が妥当だと思う。

・省略なし(6点)
『三つの数字』に続き伝言ゲームの難しさが原因で生じた謎。伯母さんのあの言い換えはちょっと無理矢理な気もするけどな(笑)。

・終局的犯罪(7点)
シャーロキアンの戯れを書いた話。こういう不毛なことについて真面目に議論するのは楽しいですよね。幸い自分の知識レベルでついていける議論だったので、メンバーと一緒に語っているような感覚が味わえた。本短編集の中で一番好きかも。ヘンリーが冠詞を切り口に推理し始めるのも自分好み。

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