カリ・モーラ |
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作家 | トマス・ハリス |
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出版日 | 2019年07月 |
平均点 | 5.50点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 4点 | バード | |
(2021/11/15 16:10登録) トマス・ハリスは個人的に好きな作家だが、本作は作りが雑な気がした。 終盤の金塊奪取からシュナイダーとの直接対決のあたり(文庫本ラスト100P分くらい)はサクサク読めて楽しかったが、そこまでの内容は展開が遅い上に余計な描写が多く散逸的、今一つ物語に集中できなかった。ワニの視点の章とかどう考えても要らないでしょ。 途中まで3点、ラスト100ページは5点で、好きな作家補正も込みで4点。作者のニッチなファンでなければ態々読まなくていいレベルだな。 |
No.3 | 6点 | 雪 | |
(2020/02/09 11:32登録) 2019年発表。レクターシリーズ最終作「ハンニバル・ライジング」以来13年ぶりの新作は、フロリダ州マイアミ・ビーチを舞台に繰り広げられる金塊争奪戦。「~ライジング」は映画監督ディノ・デ・ラウレンティスにケツひっぱたかれてムリヤリ書かされたそうですが、本書の場合レクター博士のようなビッグスターは出なくてもいい感じです。 麻薬王パブロ・エスコバルの隠し財産を奪い合う変態嗜好の臓器密売人VSコロンビアマフィアの構図に、アメリカでの平穏な生活を夢見る反政府組織FARC(コロンビア革命軍)の元女兵士、カリ・モーラが絡む展開。ビスケーン湾に臨む鳥獣保護センター、シーバード・ステーションに勤め獣医を志望するカリですが、美貌なので当然猟奇おじさんの粘着対象にされます。 インタビューによるとフロリダ在住の作者ハリス氏自身も自然愛好家で、シーバード・ステーションの常連。お写真を拝見すると福々しいヒゲ達磨ですが、漫画家つくしあきひとといい、創作家でこのタイプはおおむね性癖ヤバい気がします。 クライマックスで主人公カリと全身無毛のド変態ハンス・ペーター・シュナイダーが対決する野生動物生息地バード・キーはエド・マクベイン「白雪と赤バラ」でもそうでしたが、地元名所なんでしょうか。きっと絵になる場所なんでしょうね。これも同じくワニに食われた死体もご登場。 人体液化装置その他のおどろおどろしいガジェットや首チョンパ、内臓嗜食などありますが、筆致が硬質なせいかあまりグロくないのでその点は安心。過大な期待を持たなければ、アクション小説として普通に楽しめます。サイコスリラーよりはソッチ寄り。 銃撃事件により記憶障害となった妻を抱えるマイアミ・デード警察殺人課刑事テリー・ロブレスの存在や、カリとはいい距離の老犯罪者ベニートの行動など続編を想定した伏線もありますが、作者が80歳と高齢な上に寡筆なので、出ればめっけものというところ。そのへんは今後に期待しておきます。 |
No.2 | 6点 | YMY | |
(2019/11/16 13:56登録) トマス・ハリスといえば、ハンニバル・レクターの生みの親。この作品は、レクターを登場させずに、軽快な犯罪小説に仕上がっている。 マイアミに麻薬王が残した豪邸。コロンビア移民の女性カリ・モーラは、邸宅管理のアルバイトがきっかけで、麻薬王が残した金庫の争奪戦の渦中に飛び込むことに。 レクターが登場する作品に比べれば小粒だが、タフなヒロインと、怪しげな悪役たちの織りなす犯罪活劇を堪能できる。 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2019/09/25 12:25登録) (ネタバレなし) マイアミ。コロンビア移民で複数のバイトをしながら、獣医を目指して勉強に励む25歳の美女カリ・モーラ。彼女はバイトの一環で、20年以上前に死亡した麻薬王パブロ・エスコバルの遺した大邸宅の管理人をしていたが、実はその屋敷の周辺には、莫大な価値のある金塊を納めた金庫が巧妙に隠されていた。そしてその金庫の存在を知った裏社会の各方面の人間が金塊を狙うが、肝心の金庫はヘタに扱うと大爆発を起こす仕掛けに守られており、誰も手が出せないでいた。だがこの金庫の秘密を知る老人ヘスス・ビジャレアルに複数の裏の世界の人間が接近。緊張の事態は、何も知らないカリを巻き込んで動き出す。だがそのカリもまた、日常の顔からは窺い知れない凄惨な過去を秘めていた。 本年2019年のできたてホヤホヤのアメリカ作品。巨匠ハリスの13年ぶりの新作だそうで、世の中はあのハリスにしては物足りない、とか非難囂々だが、本書がたしか初めてのハリス作品となるこっちには、普通にじゅうぶん面白かった。 いやハリスは『ブラックサンデー』のハードカバー版から、ちゃんと新刊で買っていたんだよ。ただしその際にはなんとなく積ん読で歳月が経ってしまい、その後の話題作群も十二分に守備範囲ながら、なぜか全く読んでない(笑・汗・涙)。まあレクターものは、シリーズが進む内に、どうせなら最初から読もうと思ってそれが枷になり、引っ張られた感じなんだけど。評者の場合、似たような関係性の作家って、少なくないし。 それで本書の話題に戻って、裏表紙には「傑作サイコサスペンス」と書いてあるが、実際には金庫を狙う悪党どものクライムノワール+半ば巻き込まれ型の女××もの。ただし確かにサイコサスペンス要素もあり、その辺は金庫を狙う悪党の中で一番の外道筋で、本業は臓器密売人の全身無毛男ハンス・ベーター・シュナイダーのキ○ガイぶりに甚だしい。グロくて残虐で悪趣味な描写が続出する(こいつと取引する客も同等かそれ以上のキチ○イ)。まあ乾いたブラックユーモア的な筆致はさすがにこなれているので、胸糞が悪くなる程度で済むけれど。 次第に明らかになる主人公カリの過去、少女時代の彼女がアメリカに逃げ込むまでの描写(助けてくれる某キャラがとてもいい)、さらに悪党ではありながら、そこそこ仁義を守る(けどかなりおぞましい事もしている)暗黒街のボス、ドン・エルネストと、その部下の一味の描写など、それぞれがフツーにエンターテインメントとして巧みでひと息に読ませた。特にエルネスト一味の末端の部下、アントニオ青年とベニートじいちゃんとカリの交流の図などは悪くない。(さらに終盤にもうひとり、もうけ役のキャラが出てくるが、これはナイショ。) 良い意味で、シリーズ化はしてもしなくてもいい感じではある。 |