home

ミステリの祭典

login
いいちこさんの登録情報
平均点:5.67点 書評数:541件

プロフィール| 書評

No.261 6点 鏡の中は日曜日
殊能将之
(2016/06/14 17:13登録)
本格ミステリへの深い愛情や、その愛情故にミステリの破壊に向かうスタンスには好感。
もはや作家の立場を超え、評論家の立場から著された作品とさえ感じる。
トリックの二番煎じに対する指摘も散見されるが、作品の性格やプロットにおける位置付けを考えれば、有名すぎる代表作よりは高く評価したいところ。
トリックの副作用であるご都合主義があまりにも強すぎるため、大きく減点してこの評価とするが、上記性格から本格ミステリとしての評価に相応しい作品とは言えない


No.260 6点 長いお別れ
レイモンド・チャンドラー
(2016/06/09 16:15登録)
ハードボイルドとは端的に言えば、主人公の一人称視点から登場人物の行動を描くことに主眼を置き、直接的な心理描写を極力廃した作品群と理解。
その点、本作は事実関係を掴み切ることができず、ハードボイルド作品を翻訳で読むことの限界を感じた読書であった。
私が読んだ清水俊二訳とは別に、より逐語訳寄りの村上春樹訳が存在するとのことだが、当該作の評価も賛否両論が分かれている状態。
英文で読むべきであろうが、表面的には意味を取れても、真の意図を過たず汲み取れるとも思えない。
結局、ネイティヴスピーカー以外には、真に理解するのは困難な作品なのだろうか。
当方の理解力不足に起因しており申し訳ない気もするが、格調高い叙述の一端を垣間見たことと、ミステリとしての不完全燃焼を相殺してこの評価


No.259 6点 九マイルは遠すぎる
ハリイ・ケメルマン
(2016/05/24 11:13登録)
安楽椅子探偵モノの宿命とは言え、真相解明に至る推理にかなりの飛躍を感じるし、収録作品数が多いこともあり、手際にやや単調さも感じるところ。
あまりにも有名な表題作は正直期待を超える水準とは言えないが、当該作よりも高い水準にある作品も散見。
全体として一定のクオリティは維持しているが、世評ほどの作品とは感じなかった


No.258 10点 そして誰もいなくなった
アガサ・クリスティー
(2016/05/17 18:35登録)
舞台設定とプロットの奇想が余人の追随を許さない。
多数の登場人物の描き分けと心理描写の手際、スピード感とサスペンスに満ちた筋肉質な骨格、登場人物の合理性を欠く行動、納得感に欠ける動機等々、そのディテールには毀誉褒貶があろうが、大胆極まる着想がそれらを問題にさえしていない。
明かされる衝撃の真犯人とそのトリック、印象的で美しいラストシーンを含め、ミステリの歴史における1つの金字塔


No.257 8点 皇帝のかぎ煙草入れ
ジョン・ディクスン・カー
(2016/05/17 18:33登録)
ご都合主義的な展開が散見されるのは事実。
しかし、後世の叙述トリックにも通ずる前半部分の綱渡り的な叙述・伏線、些細な手掛かりから犯人特定に至る真相解明プロセス、明かされた真相の衝撃度が際立っている


No.256 5点 猫丸先輩の空論 超絶仮想事件簿
倉知淳
(2016/05/10 10:20登録)
前作の「猫丸先輩の推測」は、真相の飛躍がリアリティと衝撃の絶妙なバランスを保持している点を高く評価した。
一方、本作は真相が予測可能な範囲にとどまり、その衝撃を大幅に減じている点で、凡庸なデキと言わざるを得ない


No.255 4点 手紙
東野圭吾
(2016/05/10 10:19登録)
加害者の家族に光を当てるテーマの設定は実によいと思う。
一方、人物造形や描かれている現実、とりわけ加害者兄弟の能天気な姿勢や生きざまが、エンターテインメントであることを前提にしても、あまりにもマンガ的で陳腐。
彼らの境遇がもたらす、残酷な現実やそれに立ち向かう絶望的な悲壮感が全く伝わってこない。
作者の主張に対しては、その当否の評論は避けたいが、差別を無原則に肯定し、しかもそれに対する救いを全く用意していないのであれば、作者の主張とは結局何なのかという思いは残る。
以上、重すぎるテーマを消化し切らないまま、振り回されている作品という印象


No.254 7点 Xの悲劇
エラリイ・クイーン
(2016/05/06 18:48登録)
些細な物的証拠から真相解明に至る、緻密で堅実なロジックが光っており、とりわけ第三の犯行における真相解明のプロセスは評価に値する。
一方、第一の犯行において、個性的すぎる凶器の特性から容易に犯人が特定し得るにもかかわらず、その点に警察が気付かなかったとするのは大いに疑問で、本作の数少ない瑕疵と言えよう。
ただ、新本格を渉猟してきた立場からすれば、プロット全体や個々の仕掛けにやや地味な印象を受けるのは否めない


No.253 7点 暗いところで待ち合わせ
乙一
(2016/05/02 10:56登録)
ミステリとして至って弱いのは事実。
ただ、トリッキーな舞台を活かして、抑制の利いた叙述でありながら、主人公2人の心の交流とサスペンスを描き出した筆致に、確かな筆力を伺わせた。
無駄のない硬質なストーリーテリングと高いリーダビリティも加点材料


No.252 5点 ガラスの麒麟
加納朋子
(2016/05/02 10:55登録)
各短編は、真相自体がサプライズに乏しく、解明に至るプロセスも直感的で、全体に平凡なデキ。
一方、連作短編集としては、その解明プロセスで非常に巧妙な本格ミステリとしての仕掛けを見せているが、淡々と描かれているため、気づかない読者が多いと思われる点が残念。
犯行プロセスの一貫性の欠如や、被害者の不可解な行動原理は大きな減点材料


No.251 7点 最悪
奥田英朗
(2016/04/27 10:47登録)
年齢も仕事もバラバラ、どこにでもいそうな平々凡々とした3人が、ちょっとしたトラブルに刹那的・場当たり的に対応するうちに、大きなトラブルに巻き込まれ、最終盤にその3人が1点に収斂するドタバタ劇。
スピード感とサスペンスを維持しつつ、現実味のあるストーリーを展開しながら、人物像を深く掘り下げていく手際、高いリーダビリティは見事。
盛りあがりに欠ける結末だけが残念ではあるが、犯罪小説の佳作と評価


No.250 6点 塗仏の宴
京極夏彦
(2016/04/20 14:34登録)
明かされた真相の衝撃はある程度認めるものの、ミステリとしての核はその1点で、拡げられた風呂敷と本作のボリュームに比して、かなり物足りないというのが正直なところ。
真相解明のプロセスは、京極堂が「知っていた」要素があまりにも強く、解き明かすカタルシスは弱い。
犯行プロセスは、大掛かりすぎ、手間が掛かりすぎ、難易度が高すぎで、めざす効果(犯行動機)との関係で強い違和感。
ストーリー展開は、キャラクターの個性を活かしたキャラ小説の色彩を強め、それがミステリとして評価したときに、前作までにない夾雑物(無駄)と映った。
以上、水準はクリアしているものの、佳作揃いの本シリーズの中では最低の評価とせざるを得ない


No.249 5点 名探偵 木更津悠也
麻耶雄嵩
(2016/04/04 20:16登録)
作者としては珍しいオーソドックスなフーダニット。
当然一定の水準には達しているものの、他作と比べればパンチ力に欠け、凡庸な印象は拭えない。
ホームズ・ワトソンの関係に新たな地平を切り開く試みが味付けをしているものの、作品としての面白さにダイレクトにつながっているとは感じられなかった


No.248 6点 魔術はささやく
宮部みゆき
(2016/03/31 17:14登録)
サスペンス大賞受賞作であるから、サスペンスにカテゴライズされるのであろうが、盛り沢山の構成の副作用として、作品の主題は拡散気味でどっちつかずの印象。
まずサスペンスとしては緊迫感に乏しく物足りなさが残る。
サブリミナル広告・ピッキング・後催眠といった飛び道具の存在にもかかわらず、ミステリとしては真相が意外性に欠ける。
主人公を攻撃・擁護する友人との人間関係に相当の紙幅を割きながら、青春小説として十分に活かし切れていない。
加えて、犯人が最も殺害すべき必然性の高い人間の殺害を中止し、社会正義のための犯行としながら犯行の露見を恐れて無関係な人物を殺害し、それでいて主人公を全面的に信用して犯行を明かすなど、その行動に合理性・一貫性が感じられない。
筆力・リーダビリティは評価しても、これ以上の評価は難しい


No.247 5点 天帝のあまかける墓姫
古野まほろ
(2016/03/28 18:42登録)
作を重ねるごとに風呂敷が巨大化し、舞台設定が奇抜化しつつあるのはよいのだが、無粋な大量殺人への傾斜により緊迫感や不可能興味は低減している。
ご都合主義の散見や大味なトリックから、本格としての骨格を成す推理の論理性と、犯行のフィージビリティには疑問。
どんでん返しの連発にも、ストーリーの成立性や登場人物の行動の合理性の観点から苦しさを感じるところ。
筆力の高さを評価しても5点の最下層であり、期待を裏切るデキと言わざるを得ない


No.246 6点 花の下にて春死なむ
北森鴻
(2016/03/14 18:46登録)
叙述が高度に洗練されている一方、登場人物に際立った個性がないことも相まって、ストーリーテリングは淡々とした印象が強く、評価が分かれそうなところ。
ミステリとしては、真相解明時の反転の手際が光る一方、真相を捻り過ぎ、推理のプロセスに大きな飛躍が感じられるなど、短編・安楽椅子探偵の限界を感じさせた


No.245 3点 列車消失
阿井渉介
(2016/03/10 15:50登録)
物理トリック系のバカミスは嗜好にフィットしているのだが、本作は中途半端なプロット、拙劣な叙述、無理筋極まるトリック等、あらゆる面で強く不満を残す仕上がり。
冒頭に提示される謎の不可解性は申し分ないのだが、一旦フーダニットに展開したところ、作品中盤でお粗末にも声で真犯人が特定されてしまう。
その後、犯行の概要を特定するため、当該真犯人を追及するのではなく、さまざまな周辺の人物に捜査の手が及ぶ。
ところが、叙述が全くこなれておらず、登場人物の書き分けが不徹底であるため、読者を混乱に陥れている。
肝心のハウダニットについては、検視官や鑑識が信じ難いほど無能で、かつ被害者全員が昏睡でもしていなければ、まず露見は避けられないというデタラメなトリックを乱発。
敵前逃亡することなく、1個の作品として完結させている点を最低限評価


No.244 6点 臨場
横山秀夫
(2016/03/07 18:55登録)
探偵役の性格付けや尺の短さもあり、真相解明に至るプロセスの論理性で唸らせる作品は少ないが、抒情性の高さに加え、トリックのキレと鮮やかな反転の手際は実に見事で、本格短編として高水準のデキ


No.243 6点 二の悲劇
法月綸太郎
(2016/03/04 19:47登録)
明かされた真相と仕掛けられたトリックはシンプルで、男女の恋愛にまつわる悲劇を二人称叙述や日記を駆使して捻った異色のプロット。
ロジカルに真相に到達することが難しく、トリックがややアンフェア、真相に安易さを感じさせる面など、本格ミステリとして高い評価はできないが、プロットがキレイに収斂している点は評価。
執筆当時の作者の懊悩をそのまま反映したような叙述(とりわけ名探偵の存在意義を巡る箇所)、登場人物のきめ細かい心理描写は、あまり他作に見られないもので強く好感。
さまざまな意味で異色作であり、毀誉褒貶が分かれそうな作品だが、好意的に評価したい


No.242 6点 御手洗潔の挨拶
島田荘司
(2016/03/03 14:20登録)
「紫電改研究保存会」が残す抒情感、「ギリシャの犬」における暗号の合理性の高さが見どころ。
「疾走する死者」はメイントリック自体が長編作品で複数回使用したトリックの使い回し、かつ使用方法で明らかに見劣りする点で強く推せない。
「数字錠」では確率に関する欺瞞が目を覆うレベルで、数学の素養が乏しいのかと思わざるを得ない。
いずれの作品も本格としての骨格はやや脆弱で、長編に比してかなり小粒な印象だが、作品の完成度・水準のブレは小さく、確かな力量を垣間見せた

541中の書評を表示しています 281 - 300