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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.68点 書評数:570件

プロフィール| 書評

No.310 6点 ABC殺人事件
アガサ・クリスティー
(2017/02/20 20:22登録)
他の追随を許さないキャッチーなプロットに加え、それを活かすポアロへの挑戦状や、「あて先の間違い」を利用したトリック等にはさすがの手際を見せている。
一方、犯行自体の合理性とフィージビリティの欠如(特にカスト氏の利用)、真犯人の特定プロセスにおける論理性の欠如、露骨に怪しすぎるカスト氏の人物造形等の点で大きな減点があり、この評価に止まった


No.309 6点 毒入りチョコレート事件
アントニイ・バークリー
(2017/02/20 20:20登録)
多重推理・多重解決(無解決とも解し得るが)の先鞭を付けた作品とされており、読み応えもあるのだが、推理合戦の過程で、当該推理者しか知り得ない新たな証拠が続々と提出される展開は、極めていただけない。
各推理が、いわば犯人を特定するための証拠調べのプロセスとなっており、これでは「各推理が独立した推理合戦」というよりは「推理合戦全体が1つの推理プロセス」と解すべきであるように思える。
多重推理として構成するのであれば、前記証拠の全体像を先に示したうえで、それ以降は新たな証拠が提出されることなく、証拠の取捨選択と解釈だけで各推理を誤導させてほしかった。
冒頭に発生する犯行の態様と結果は極めて興味深く、その貯金で逃げ切った作品


No.308 3点 名探偵の呪縛
東野圭吾
(2017/02/01 16:06登録)
世上、前作「名探偵の掟」は高く評価されており、その続編たる本作はそれよりかなり低い評価となっている。
この点については同感であり、私自身は前作もそれほど高くは評価していないので、本作の評価は推して知るべしということになる。
作者の本格ミステリへの郷愁や、執筆にかかる心労が綴られた私小説であるが、素直な反面、圭角が全くなく、意外性も爽快感も感じられない。
また、本格ミステリの概念がないという舞台設定であるが、本格部分にそれが全く活かされていない。
全体として工夫が足りない印象が強い


No.307 4点 陰摩羅鬼の瑕
京極夏彦
(2017/01/26 21:38登録)
作者に本格ミステリを執筆する意思がないのは、もとより承知しているが、それでもなおミステリとしては強く不満が残る作品。
冒頭に提示された謎の不可解性は十分であるが、明かされた真相は衝撃的というより、乱暴な印象が強く納得感がない。
その真相を成立させるための構築力の高さはさすがだが、そのために膨大な紙幅を割くことを余儀なくされ、そのボリュームが読後の不満に拍車をかけている。
榎木津・京極堂が犯行を阻止しなかった理由も、前者は安易、後者は不可解であるし、この真相が関係者の間でこれほど長く露見しなかったというのも無理筋の印象が強い。
読物としての面白さは引き続き一定水準を保持しているが、本作の本質的なあり様を考えれば、批判的な評価とならざるを得ない


No.306 5点 空飛ぶ馬
北村薫
(2017/01/20 14:06登録)
「可もなく不可もなく」を一歩超えて、「悪くはないが良くもない」の評価。
収録作品ごとの評価では、本サイトの大勢と同様に「砂糖合戦」が断然。
ただ正確に言えば、それ以外の作品は推理のプロセスにおける論理の飛躍が大きすぎる。
主人公の人物造形も魅力とリアリティに乏しく、発表当時に覆面作家と言われていた点や、鮎川哲也氏が著者を女性と誤認した点には首を傾げる。
悪い作品とは思わないが、世評が高すぎるだけに裏切られた印象を拭えない


No.305 5点 壺中の天国
倉知淳
(2017/01/10 19:54登録)
犯行プロセスと登場人物の丹念な描写を通じて、現代人の精神の病理(壺中の天)を抉り出した構成力と筆力は高く評価。
一方で本作は、「限られた登場人物の中から犯人を消去法的に特定する」通常のプロットではなく、「不特定多数の中から突如犯人を特定する」異色のプロットを採用しており、それを成立させた力業と力量は認めるものの、ミステリとしては明らかに裏目に出ていると言わざるを得ない。
こうしたプロットを採用した場合には、犯人特定のロジックが余程に強固でなければ、読者の納得感やカタルシスが得られない。
その点、本作は各所に張り巡らされた伏線を巧みに活かしているものの、やはりそのロジックは弱い。
非常によく考えられた意欲的な作品であり、1個の読物としての完成度も高いだけに、極めて惜しい作品


No.304 8点 イン・ザ・プール
奥田英朗
(2017/01/06 11:53登録)
各短編の主人公は、平々凡々とした人物でありながら、わずかに精神的不調を抱えており、直面する事態に、真摯かつ懸命に対処しようとすればするほど、事態の悪化を招いてしまう。
そうした彼らのあり様を、医師である探偵が徹底的に肯定することによって、苦悩から救い出す物語が並んでいる。
本作は、主人公たちの等身大の人物造形と、取りあげられた精神的不調の極めて高い今日性が、強烈なリアリティと読者の共感・感情移入を生んでいる。
また、彼らの苦悩を決して批判・嘲笑することなく、どこまでも肯定する探偵の行動原理が、本作を無味乾燥な現代社会への風刺に陥らせず、好感の持てる喜劇的な人生の賛歌に仕立てあげている。
やや手放しで褒め過ぎた気もするが、嗜好を超えて誰にでも勧められるという点では、近来稀に見る作品。
ミステリ以外の作品としては最高級の評価を献上したい


No.303 5点 殺しへの招待
天藤真
(2017/01/06 11:51登録)
手紙を使った犯行予告のアイデア自体は、インパクトが極めて強いのだが、犯人がこれほどまでに迂遠な手段を取った理由への納得感が十分とは言えず、サスペンスにも乏しい。
捻りの効いた壮大なプロットを一応破綻なく着地させている点を評価


No.302 6点 グリーン家殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2017/01/06 11:50登録)
多くの方が指摘されているとおり、本作の「意外な犯人」が現代の読者にとって非常にわかりやすいのは事実だが、これは本作の着想があまりにも優れていたが故に、多くの作品に模倣されたことの何よりの証左と言えるだろう。
ところが、登場人物を皆殺しにするプロットを選択したことで、この着想を十全に活かせておらず、この点でまず大きな減点。
また、犯人を隠蔽するトリックにおいて、物理的な手段のみならず、化学的な手段も使用しているが、これは失敗してしまう蓋然性が高く、犯行プロセスのフィージビリティと合理性の点から、やはり大きな減点。
その他、足跡、拳銃消失、物理的なアリバイトリックは凡庸な水準で、最終盤のドライブに見られるように、登場人物の行動が合理性を欠く点は否めない。
以上を総合して6点の下位


No.301 8点 Yの悲劇
エラリイ・クイーン
(2016/12/22 18:20登録)
薬物に関する造詣の深さや、緻密な犯行プロセスから知的な犯人像が窺われるところ、毒が混入された傷んだ梨、床にまき散らされたパウダー、凶器に選択されたマンドリンと弱すぎる殴打、甘いバニラの匂い、犯人のすべすべしたやわらかな頬など、チグハグな犯行プロセスを想起させる数々の伏線が、もやもやとした違和感を惹起する展開。
その違和感ゆえに、こうした伏線が一点に収斂する真相解明時のカタルシスは強い。
登場人物の造形がことごとくトリッキーすぎることが、犯人候補の限定に作用している点は、本作のわずかな瑕疵。
作者の抜きんでた構成力の高さ、プロットの完成度の高さを称賛せざるを得ない


No.300 2点 不可能楽園 〈蒼色館〉
倉阪鬼一郎
(2016/12/20 17:20登録)
もとよりバカミスであることを認識し、期待して手に取っている以上、本格として極めて凡庸である点をもって、低評価するつもりはない。
しかし、バカミスとしての仕掛けについて、本格部分との関連性や必然性がほとんど感じられず、その仕掛けが明かされた時に、「新世界崩壊」のような衝撃を全くもたらしていない点で評価することはできない。
投入された莫大な労力は認めるが、著者の自己満足との印象が強い


No.299 4点 仔羊たちの聖夜
西澤保彦
(2016/12/14 15:43登録)
舞台設定の説明があまりにも冗長であるだけに、なおさら拍子抜けの真相と言わざるを得ない。
また、その解明プロセスは、客観的な証拠に乏しい、あまり合理的とも言い難い推論の積み重ねでしかなく、論理性の欠如が決定的。
さらに、人物造形についても、探偵側は過剰なほどよく描けているが、犯人・被害者は掘り下げが非常に不足しており、犯行動機の説得性も乏しい。
以上、ミステリとしての骨格は極めて脆弱であり、キャラ小説の域を脱していない


No.298 6点 死者が飲む水
島田荘司
(2016/12/06 18:55登録)
犯行プロセスのあざとさや偶然性の介入、人物造形の弱さ等に難を感じるところだが、メイントリックが相応のサプライズを演出しているのは確かでこの評価


No.297 5点 羊たちの沈黙
トマス・ハリス
(2016/11/30 16:30登録)
収監中の連続殺人犯を探偵とし、主人公を助手とした変則的な安楽椅子探偵形式であり、その着想は評価。
また、サイコ・サスペンスの金字塔と謳われるだけあって、サスペンスにも一定の評価はするものの、真犯人や犯行動機を小出しにするプロットの影響で、衝撃的なサプライズは演出できていない


No.296 5点 天帝のやどりなれ華館
古野まほろ
(2016/11/25 18:35登録)
メイントリックは、アイデア自体は平凡であるものの、テクニカルな点では評価できる。
一方、前作よりマシではあるものの、やはりリアリティの欠如、つまり舞台設定が奇抜すぎ、登場人物の特殊能力が万能すぎるのが決定的に難点。
本シリーズ自体が、言わばドラゴンボール化していて、シリーズ序盤の緊迫感が顕著に失われている。
視点となる登場人物の変更から、個性的でリズミカルな独特の叙述が影を潜めている点も減点材料


No.295 5点 どんなに上手に隠れても
岡嶋二人
(2016/11/22 17:34登録)
う~ん、微妙。悪くはないが良くもない。
多くの登場人物の思惑を絡みあわせ、サスペンスとしての盛り上がりや、プロットとしての妙味を高めている点は買うのだが、その結果として犯行計画の偶然性が高まり、フィージブルでない点が大きな難点。
それでいて、真犯人が思わせぶりすぎて直感的にわかってしまう点や、アリバイトリックの破綻も大きな減点材料。
「あした天気にしておくれ」はもちろんのこと、「99%の誘拐」にも遠く及んでいない印象


No.294 4点 13階段
高野和明
(2016/11/15 15:32登録)
叙述自体が決して上手くないこと、司法制度に対する問題認識の踏み込みが浅いこともさることながら、依頼人の不可解な行動やプロットの前提における破綻が、致命的なレベルであるように思われる。
ミステリにおいて、その舞台設定や事件の展開がご都合主義的になるのはやむを得ないところだが、本作は許容範囲を大きく超え、かつそれに対して読者を説得する努力・工夫が見られない。
テレビの2時間ドラマのような表層的な作品という印象が強い


No.293 4点 本所深川ふしぎ草紙
宮部みゆき
(2016/11/08 11:51登録)
私の宮部みゆき読書のいつものパターン。
一個の読物としては相応の完成度であり、特に不満もないが、ミステリとしては淡泊すぎて高い評価はできない。
作者が、どの程度ミステリであることを意識して、本作を執筆したのか不明であるが、本サイトではミステリとして評価


No.292 4点 GOTH リストカット事件
乙一
(2016/11/08 11:48登録)
各処で高評価の本作。
ダークな内容にもかかわらず、胸焼け感が残らない乾いた筆致に、筆力の高さをうかがわせるのは確か。
一方、ミステリとしては、仕掛けのテクニックの巧緻さは光るものの、誤導の手法が極端にワンパターンなのは大きな減点材料。
また、その効果として世界を反転させるような鮮やかな衝撃がなく、「安易」な印象を強く残したため、やや批判的な評価となった


No.291 8点 オリエント急行の殺人
アガサ・クリスティー
(2016/10/27 20:37登録)
クリスティ再読さんの書評に共感。
本作の真相が比類なく独創的で衝撃的であることに疑いの余地はなく、これだけで9点・10点の評価に値する。
また、12名の乗客を書き分ける筆力と、それに起因するリーダビリティにも最高級の評価。
ただ、探偵の真相解明プロセスにおいて、多くの巧妙な伏線が活かされているものの、大筋としては極めて直感・情緒的なもので、論理性を欠く点は大きな減点。
その結果、作品中盤で多くの紙幅を割いた乗客への尋問や調査が十全に活かされたとは言えない。
犯行時間が極めて長くなることで、容疑者が抵抗し、また探偵が察知する可能性がある点等、犯行のフィージビリティにも疑問が残る。
以上を加減算してこの評価

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