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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.68点 書評数:565件

プロフィール| 書評

No.325 6点 ナイルに死す
アガサ・クリスティー
(2017/04/28 17:21登録)
第一の犯行までに、やたら紙幅が割かれ、一見冗長に見えるものの、至るところに伏線とミスディレクションが仕掛けられており、ボリュームは多いものの無駄のない構成。
ただし、作者の作品の常として真相解明プロセスはロジカルではなく、または説明が尽くされておらず、飛躍を感じさせる印象が強い。
トリックも一定の堅牢さを備えているものの、結果として明かされる真相には意外性が乏しい


No.324 7点 甲賀忍法帖
山田風太郎
(2017/04/28 17:19登録)
まずもって、伊賀・甲賀の忍者の里を舞台に、手に汗握るバトルロワイヤルを通じて、「ロミオとジュリエット」を描き出すというプロット自体が、余人の追随を許さない、常人離れした奇想と言えよう。
そのうえで、それぞれの忍法が非科学的・非現実的なまでに強力である一方、必ず致命的な弱点が存在することで、その勝敗が単なる戦闘能力の高低ではなく、対戦相手との相性に大きく左右されるというバランスが絶妙。
これにより、単なる力勝負にはない面白さとサスペンスを演出することに成功している。
淡々とした筆致にも作者の高い力量と余裕を感じさせ、一読の価値のある佳作


No.323 7点 ユダの窓
カーター・ディクスン
(2017/04/21 21:54登録)
ビジュアル映えするものの、小粒でフィージビリティに難のあるトリックを「ユダの窓」というキャッチーなネーミングで演出したアイデア、犯人たり得る人物が限定されたなかで、サプライズを演出した人物造形・ストーリーテリングを評価


No.322 7点 黒い画集
松本清張
(2017/04/14 21:00登録)
乾いた、淡々とした筆致でありながら、各作品に暗然たる雰囲気を濃厚に漂わせる筆力の高さはさすが。
舞台設定や人物造形にリアリティがあり、プロットの完成度が高く、真相判明時の鮮やかな反転も印象的。
ミステリとしてはロジック・フィージビリティに甘さが見られるが、すべての作品が水準以上というアベレージの高さも含め、一読の価値のある佳作


No.321 3点 嫉妬事件
乾くるみ
(2017/04/10 19:22登録)
作品としての掴みは強烈であり、真相を究明するための推理合戦にも、ある程度の見どころはあるのだが、この比類なき仕掛けを納得させるだけの真相とは言えない


No.320 3点 雀蜂
貴志祐介
(2017/04/10 19:21登録)
著者の本領は、作品世界の構築力と、それに読者を引き込んでいくストーリーテリングにあると考えるところ、本作では残念ながらそのいずれも発揮されていない。
まず前者だが、本作の最大の謎である「なぜ雪山の山荘で殺人を犯すのに、大量のスズメバチを使うのか」さえ説明していない。
次に後者だが、スズメバチの怖さが十分に表現できていないうえ、ストーリーテリングにコメディ色が強すぎ、サスペンスを演出できていない。
ミステリとしての趣向も、あまりにも安易であり、サスペンスとしてストレートに完結させた方がよかったことは明らか。
私が読んだ著者の作品として、初めて、かつ大きく期待を裏切られた作品


No.319 6点 龍は眠る
宮部みゆき
(2017/03/30 19:45登録)
サイキックゆえの悲哀と孤独を抉り出す筆力に加え、プロット全体が高い完成度を備えており、最終盤まで読者を引っ張っていく力は評価。
それだけに、明かされた真相があまりにも平凡な点は非常に残念。
サスペンスとしては紛れもなく佳作だが、ミステリとしては平凡と言わざるを得ない


No.318 5点 依頼人の娘
東野圭吾
(2017/03/29 17:22登録)
意外に本格度が高い作品が揃っている印象。
ただ、2時間ドラマ的なセオリーの域を出ないプロットとトリック、ご都合主義でやや雑な運びが散見される点も否めない


No.317 5点 町長選挙
奥田英朗
(2017/03/23 20:56登録)
各短編の主人公の人物像を造形するにあたり、「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」とは一転して、著名人をモデルに採用したのは、単純にネタ切れであろうと推測。
これ自体はやむを得ないことだが、そのことで本シリーズの際立った美点である読者の共感性やテーマの普遍性が失われている。
その結果、「イン・ザ・プール」はもちろん、「空中ブランコ」にも遠く及んでいない。
本シリーズは明らかに限界に達しており、本作をもってシリーズを打ち切った(?)のは英断と言えよう


No.316 5点 蝶々殺人事件
横溝正史
(2017/03/23 20:54登録)
犯行プロセスに合理性を欠く面が散見され、また全体としてインパクトに乏しい点から、この評価。
ここまで世評が高い点に鑑みれば、私の嗜好の問題と理解


No.315 7点 震度0
横山秀夫
(2017/03/17 16:04登録)
警察組織の幹部が、組織の防衛と自己の栄達のみを至上原理とすることで、その思考回路が部分最適に陥り、遵法意識が磨滅していくさまは、これほどまでにコンプライアンスやコーポレート・ガバナンスが叫ばれながら、企業不祥事の続発が止まらない硬直的な官僚制組織の病魔を見事に抉り出している。
視点人物を刻々と変えながら、サスペンスを盛りあげる筆致の妙も評価。
ミステリとしては平凡な真相に終わっているが、著者の本領がいかんなく発揮された佳作


No.314 5点 さらば愛しき女よ
レイモンド・チャンドラー
(2017/03/17 16:03登録)
ご都合主義と論理性の欠如が散見されるうえ、読者にとって筋が追い辛いプロット。
平凡な印象が強く、これ以上の評価は難しい


No.313 6点 ダレカガナカニイル・・・
井上夢人
(2017/03/07 19:03登録)
これだけの長尺にもかかわらず、読ませ切るリーダビリティは一定程度評価。
また、プロットの性質上、ポワの説明と恋愛描写に一定の紙幅を割く必要性も理解。
しかし、ミステリとしての核であるトリックと真相は小粒であり、描写は丁寧な反面、クドさも目立つ点から、やはり長すぎるという評価にならざるを得ない。
完成度の高い作品ではあるが、突き抜けた点がなくパンチ力不足の印象


No.312 5点 セーラー服と黙示録
古野まほろ
(2017/02/28 11:58登録)
「世界の破壊」に重きを置く天帝シリーズとは対照的に、「世界の構築」に丹念に注力しようとしている姿勢は好感。
ただ、その副産物として、舞台設定の説明に紙幅の3分の2を費やし、本格部分が余技程度というバランスは至って悪い。
フーダニット・ハウダニット・ホワイダニットを個別に担当する3人の探偵を置くアイデアも斬新だが、肝心の真相は拍子抜けの印象が強い


No.311 6点 空中ブランコ
奥田英朗
(2017/02/23 19:12登録)
やむを得ないことだが、本作はシリーズ2作目であるが故に、1作目のような新鮮なインパクトは備えていない。
また、各短編の主人公の人物像を造形するにあたり、イン・ザ・プールより特殊な職業を選択したことから、前作の際立った美点であった等身大の人物造形と、取りあげられた精神的不調の今日性が大きく後退している。
結論として、水準は大きく超えているが、イン・ザ・プールには遠く及ばない印象


No.310 6点 ABC殺人事件
アガサ・クリスティー
(2017/02/20 20:22登録)
他の追随を許さないキャッチーなプロットに加え、それを活かすポアロへの挑戦状や、「あて先の間違い」を利用したトリック等にはさすがの手際を見せている。
一方、犯行自体の合理性とフィージビリティの欠如(特にカスト氏の利用)、真犯人の特定プロセスにおける論理性の欠如、露骨に怪しすぎるカスト氏の人物造形等の点で大きな減点があり、この評価に止まった


No.309 6点 毒入りチョコレート事件
アントニイ・バークリー
(2017/02/20 20:20登録)
多重推理・多重解決(無解決とも解し得るが)の先鞭を付けた作品とされており、読み応えもあるのだが、推理合戦の過程で、当該推理者しか知り得ない新たな証拠が続々と提出される展開は、極めていただけない。
各推理が、いわば犯人を特定するための証拠調べのプロセスとなっており、これでは「各推理が独立した推理合戦」というよりは「推理合戦全体が1つの推理プロセス」と解すべきであるように思える。
多重推理として構成するのであれば、前記証拠の全体像を先に示したうえで、それ以降は新たな証拠が提出されることなく、証拠の取捨選択と解釈だけで各推理を誤導させてほしかった。
冒頭に発生する犯行の態様と結果は極めて興味深く、その貯金で逃げ切った作品


No.308 3点 名探偵の呪縛
東野圭吾
(2017/02/01 16:06登録)
世上、前作「名探偵の掟」は高く評価されており、その続編たる本作はそれよりかなり低い評価となっている。
この点については同感であり、私自身は前作もそれほど高くは評価していないので、本作の評価は推して知るべしということになる。
作者の本格ミステリへの郷愁や、執筆にかかる心労が綴られた私小説であるが、素直な反面、圭角が全くなく、意外性も爽快感も感じられない。
また、本格ミステリの概念がないという舞台設定であるが、本格部分にそれが全く活かされていない。
全体として工夫が足りない印象が強い


No.307 4点 陰摩羅鬼の瑕
京極夏彦
(2017/01/26 21:38登録)
作者に本格ミステリを執筆する意思がないのは、もとより承知しているが、それでもなおミステリとしては強く不満が残る作品。
冒頭に提示された謎の不可解性は十分であるが、明かされた真相は衝撃的というより、乱暴な印象が強く納得感がない。
その真相を成立させるための構築力の高さはさすがだが、そのために膨大な紙幅を割くことを余儀なくされ、そのボリュームが読後の不満に拍車をかけている。
榎木津・京極堂が犯行を阻止しなかった理由も、前者は安易、後者は不可解であるし、この真相が関係者の間でこれほど長く露見しなかったというのも無理筋の印象が強い。
読物としての面白さは引き続き一定水準を保持しているが、本作の本質的なあり様を考えれば、批判的な評価とならざるを得ない


No.306 5点 空飛ぶ馬
北村薫
(2017/01/20 14:06登録)
「可もなく不可もなく」を一歩超えて、「悪くはないが良くもない」の評価。
収録作品ごとの評価では、本サイトの大勢と同様に「砂糖合戦」が断然。
ただ正確に言えば、それ以外の作品は推理のプロセスにおける論理の飛躍が大きすぎる。
主人公の人物造形も魅力とリアリティに乏しく、発表当時に覆面作家と言われていた点や、鮎川哲也氏が著者を女性と誤認した点には首を傾げる。
悪い作品とは思わないが、世評が高すぎるだけに裏切られた印象を拭えない

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