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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:1159件

プロフィール| 書評

No.319 6点 OUT
桐野夏生
(2015/04/07 21:47登録)
 この本に関しては、これまでの書評者が概ね同じような感想を抱いていて面白い。そして私もそれに同意。
 弁当工場で働く年増の女グループが、あるい日を境に一線を越えていくという設定に入り込み、リーダビリティの高さに引き込まれていくが、ラストに行くにつれ雲行きが怪しくなる…という感想。日常的な設定の中で非日常が描かれていく様相により、「あり得ないこと」を、何となく「誰にでもあり得ること」のように錯覚させているのがこの話の面白い所だと自分は感じる。が、ラストに行くにつれだんだんブッ飛んでいってしまい、共感的要素がまるでない、やはり「あり得ないこと」になってしまっているため、話が大味になってしまっている感じがして残念だった。
 ただ読み進めることが面白かったので、損した感じはない。
 そんなこんなでこの点数。


No.318 3点 被害者を捜せ!
パット・マガー
(2015/04/07 21:31登録)
 うまく言えないけど、題名からもっと違う話を想像していた。現場と離れた所で推理合戦をするという話とは思っていなかった。「当時は斬新」とかそういうことではなく、例えばバークリイの「毒入りチョコレート」などは今読んでも十分力があり面白い。結末も平易で、自分としては正直期待外れだった。


No.317 9点 本陣殺人事件
横溝正史
(2015/04/07 21:14登録)
 トリックは「なんとなく」イメージできる程度だが、まぁそれでいいんじゃないか。むしろ密室とされた動機や、「三本指」の真相、猫の墓の関わり方など、緻密なまでの作者の仕掛け・策に脱帽。確かに「探偵小説」と呼ばれていた時代の、策ありきの様相は色濃いが、本格ミステリの王道をいく、世評の高さに偽りなしの作品と感じた。
 3作目の「黒猫亭事件」が光っている。これに類似の発想で描かれた短編は現在多くあるのではないか。表題作があまりにも有名だが、2編目の「車井戸はなぜ軋る」も含め、非常にクオリティの高い、贅沢な一冊である。


No.316 7点 悪魔が来りて笛を吹く
横溝正史
(2015/03/08 19:36登録)
密室トリック,なかなか納得◎。しかもこの厚みと展開の中ではそれはあまり重要ではなく,純粋なフーダニットで◎。しかしこの人の作品を読んでいると,華族とか名家とか,そういう高尚な家柄の人間は何か歪んでいるという偏見をもってしまう。
後半怒涛の勢いで分かってくる新事実が多く,飛躍的な想像やなんとなくの勘でしか真相を事前に看破できる感じはないとも思うが,「悪魔が来たりて…」のフルート曲に隠されていた真実には思わずうなった。そこで+1点してこの点数。
横溝作品にしてはすらすら読める印象が強かった。


No.315 6点 ベスト本格ミステリ 2014
アンソロジー(出版社編)
(2015/03/08 19:27登録)
「水底の鬼」(岩下悠子)…テレビドラマのロケ場所にある鬼の面に纏わる伝説に隠された真実。よく考えられたオチ。
◎「ボールが転がる夏」(山田彩人)…ユーモアミステリになると思うが、トリック解明のくだりは本格的。
「狼少女の帰還 Return of the wolf girs」(相沢沙呼)…教育実習生が遭遇した日常の謎。ロジックは面白いが終わり方がもうひと押し。
◎「フラッシュモブ」(遠藤武文)…ストーカーの犯罪とされた一年前の事件の真相を、キャリアとそれに付き合わされる刑事が解決。
「あれは子どものための歌」(明神しじま)…お伽話みたいなミステリ。「絶対に賭けに負けない」力と引き換えに声を失った女。
「ディテクティブ・ゼミナール 第三問 ウェアダニット マリオネット」(円居挽)…水槽の中で死んだ男がどこで死んだかを当てるゲーム。
「黄泉路より」(歌野晶午)…練炭自殺をするグループに突如起こった異変。どんでん返しが面白い。
「紙一重」(深山亮)…土地の相続登記に関わる遺言書紛失の謎を、司法書士が解く。各登場人物の人間らしい本音が肯定的に描かれているところが好ましかった。
「犯人は私だ!」(深木章子)…ちょっと変則的なダイイング・メッセージもの。明かされた真相はなかなか面白かった。

◎印が自分はお気に入り。


No.314 6点 退出ゲーム
初野晴
(2015/03/01 23:13登録)
ラノベテイストの甘酸っぱい設定、雰囲気だがミステリとしてしっかりしている。私は表題作より前の2作の方が好きだ。青春ミステリのカテゴリに入っているが、「日常の謎」の秀逸作とも言えるのでは。無理に長編にせずに仕掛けのサイズに合った中編にしているのも好ましい。


No.313 5点 !(ビックリマーク)
二宮敦人
(2015/02/28 16:28登録)
ラノベテイストの軽い文章で、現代風ホラーが描かれている読みやすい作品。メルカトルさんが書いているように、乙一が好きな人はきっと気に入るだろう。
 個人的には2作目「穴」が展開としても、オチのありかたも一番良かった。全体として奇抜な発想・着想が勝負、というスタイルで、細々と伏線に目を凝らすのが苦手なタイプの読者にも受け入れられると思う。


No.312 3点 有限と微小のパン
森博嗣
(2015/02/28 16:08登録)
 評価が分かれるのがよく分かる。自分は△のほう。こんなトリックはアンフェアだと思う。長く読まされて、この結末には「なんじゃそりゃ」と思った。森博嗣を読んでみようと思い、このサイトでもっとも評価が高いのでまずはこれを読んでみたが、順序を誤ったのもあるかもしれない。
 ただ、登場人物のキャラクター設定は気に入った。特に真賀田四季。きっとこのシリーズファンには彼女のファンも多いのだろう。突き抜けた人物像は、作品の色をそれだけで決めてしまう力がある。
 とりあえず懲りずにこのシリーズ他を読んでみたい。


No.311 6点 養鶏場の殺人/火口箱
ミネット・ウォルターズ
(2015/02/28 15:58登録)
 読みやすさなら「養鶏場の殺人」、ミステリとしての面白さなら「火口箱」。
 「養鶏場の殺人」はイギリスで実際に起きた殺人事件についての作者の推理が描かれている作品と言えばよいだろう。それも1990年代に起きた事件ということで、現代にも通じる人間の感情が描かれていて読みやすい。
 「火口箱」は閉鎖的なムラ社会の海外版のような話。事件の真相解明だけでなく、今にもまだあるらしい人種による同族意識、敵対意識の様相が作品の主要な要素になっていて面白い。終末はそちらのこともよい方向に向かう結末で、読後感もよかった。


No.310 7点 アルモニカ・ディアボリカ
皆川博子
(2015/02/28 15:50登録)
前作を読んでから時間が経っていたので登場人物の相関を思い出すのに時間がかかり、前半はやや読みにくかったが整理できてきてからは一気に読めた。オックスフォード郊外で発見された身元不明の死体と、その体に書かれた「ベツレヘムの子よ、よみがえれ! アルモニカ・ディアボリカ」という言葉。ジョン・フィールディング判事とダニエルの弟子たちによる真相究明から、そこにはかつての同僚、ナイジェル・ハートの生い立ち、彼が入所していた精神病院の過去、さらにその背景に当時のイギリス皇室事情が絡んでいることが見えてくる。
 18世紀のイギリスを舞台とした歴史的要素を含みながらも、ユーモアも交えた軽快なストーリー展開の魅力は筆者ならでは。このシリーズは今後も続くのだろうか。注目していたい。


No.309 7点 さよなら神様
麻耶雄嵩
(2015/01/18 16:51登録)
 「全知全能の神様」という設定や,同じ小学校でこんなに立て続けに人が死ぬなんて、というあたりは漫画のような非現実的さだが、割り切って楽しんでしまえるのが麻耶作品のよさ。こんな大人の会話をする小学5年生なんてありえない(笑)。
 「貴族探偵対女探偵」のように、短編集ではあるが一冊を通したシリーズ的ストーリーになっており、こういう仕掛けは相変わらずうまいなぁと感じる。その流れの中での第4話「バレンタインと昔語り」は秀逸。ここから神様・鈴木の託宣が、真相にも深く深く関わってくる段階性は絶妙。毎回、主人公・桑町たちだけが真相らしきものにたどり着き、現実では未解決や別解決で終わっているダークさは麻耶作品らしさだが、すっきりしたい人には消化不良の思いが残るかも。私もどちらかといえばそうかな。でもこれが氏らしさでもあるので…気にしないことにしている。
 ラストは予想通りだった。これもある意味ダークだが、そのままぽん、と投げて終わってしまうあたりは「さすがだな」と思った。


No.308 6点 中途の家
エラリイ・クイーン
(2015/01/17 20:48登録)
 国名シリーズ以外の作品では最も有名(?)なカンジだから国名シリーズ制覇を待てずに読んだ。不可解性満点の事件の発生からクイーンワールド全開で、もちろん大いに楽しめた。
 がしかし、自分が真相を看破したからそう思うのか、クイーン作品の中でも評価の高い作品、という期待に見合う「そういうことだったのか!」はなかった。いわくありげな部分をやたら量産して読者を煙に巻くようなことをせず、無駄のない展開でありながらきちんと伏線が隠されているのがクイーンのうまさ。だが、今回は真相に結び付く場面ではすぐにピンときてしまった。それがわかればそのことから直接示される人物は一人しかいないので、犯人はすぐにわかってしまった。
 まぁ、ロジカルな仕掛けが最大の魅力のように言われるクイーンだが、私はそれだけでなく作品世界自体が好きなので、期待外れとかは全く思わなかったが。


No.307 7点 九月が永遠に続けば
沼田まほかる
(2015/01/17 20:34登録)
 何かの賞をとったらしいが、「そう聞いて読んだら期待外れ」という評価が各所で多く、Amazonで¥1でたくさん出品されている、典型的な「評判で売れたが、イマイチで手放す人多し」の作品らしい。何を隠そう私も他の本を買ったついでに、「¥1だからついでに・・・」と同じ出品もとから買った。
 だが、私としては意外によかった。というかこういう話好き。きっと好みが分かれるのだろう。ゴミ出しに行ったまま姿を消した息子の行方を捜し回るのが主人公のバツイチ女性。この女性自身も決して清廉潔白な生活を送っているわけではなく、若い男と逢瀬を重ねている(離婚しているのだから別に悪いことではないのだが)。まぁどろどろした色欲やら人間関係やらがうずまく、ある意味著者の得意分野。結局「魔性の女」オチのような感じだったが、1日ですぐに読めるし、その割にはいろいろ入り組んでいるしでお得な買い物だった。


No.306 5点 殺人鬼フジコの衝動
真梨幸子
(2015/01/17 20:19登録)
 とにかく救いようのないダークな話だが、割り切って読めばこういうのは嫌いではない。主人公中心に話が進められ、余計な伏線もないので1日であっという間に読める。
 がやはりミステリとしての仕掛けはややチープ。最初に人称が変わった時点で、初めから疑っていたし、読んだうえで感想は「やっぱりね」だった。


No.305 8点 虚ろな十字架
東野圭吾
(2015/01/17 20:09登録)
娘を強盗殺人で失い、それがもとで離婚してしまった男が、その離婚した妻までも殺害されたという知らせを受け、真相を探る。調べていくうちに、娘の事件をただ忘れようと目を背けていた自分に比べ、その苦悩に向き合い乗り越えようと歩んでいた元妻の姿がわかってくる。さらに、ただの通り魔的強盗殺人のように思われた元妻の事件だったが……。
 久しぶりに読み応えのある東の作品に出会ったというのが正直な感想。冒頭の部分が物語にどうかかわってくるのかというのもずっと気になっていたが、自分にとっては意外で面白かった。そんなふうに「何がどうつながってくるのか?」という疑問と期待でずっと読み進められた。


No.304 6点 その女アレックス
ピエール・ルメートル
(2014/12/30 16:04登録)
路上で突然拉致され、狭い木枠の箱に全裸で閉じ込められたまま放置される女、アレックス。あまりにも残酷で痛ましい扱いの描写に、アレックスへの同情と犯人への憎悪が否が応にも高まる第一章。ところが、物語は意外な展開へ―
 序盤を読んでいくと、昨今よくある誘拐猟奇犯罪ストーリー、サイコサスペンスの典型のように思うが、その予想が見事に覆される。アレックスの視点と、事件を追うカミーユ警部の視点との部分が交互に描かれて物語が進行するが、カミーユ側で明らかになってきたことに合わせてアレックス側で新展開に入る構成もよい。カミーユ警部をとりまくルイ、アルマンら捜査員の面々のキャラクターも面白く、複線的に描かれている有名画家の息子としてのカミーユの人生もよい色を添えていた。
 ただ、第三章で一気に真相に迫るのだが、そこまでの丁寧な展開に比べるとやや飛躍的すぎる気はした。そこで示される事実が、第一章、二章でもう少しうまく伏線として描かれているとよいと思う。(鈍感な私が気付いていないだけか?)


No.303 4点 密室の神話
柄刀一
(2014/12/25 00:35登録)
 「密室トリック」という、昨今は専ら扱われなくなったテーマを前面に出した本格ミステリ。時にこうしたコテコテの本格にどっぷり浸りたくなる。そんなタイミングだったので、読み進めるのはとても楽しかった。
(以下ネタバレ気味かも)
 がしかし、結末があまりに消化不良…。
 まず、「四重密室」。ネットユーザーたちがあの手この手でその謎に挑む推理合戦が本編中繰り広げられるが、そこで開陳される機械的なトリックをひっくり返すような真相がほしかった。結局真相もその延長線上のような、言葉は悪いがちまちましたトリックのように感じた。
 次に、動機が非常に観念的な感じがしてしっくりこない。真犯人、あるいは真犯人の人間像について最後にもうひと返し欲しかった。てっきりそうなるのかと思っていたのに、そのまま終わってしまったのが一番の消化不良。
 あとは、5年前の事件の黒幕は結局誰なのか、とか、最後のほうにあった記者と管理人とのひと悶着はどうなったのかとか、解決されないまま終わってしまった部分が多すぎる。
 続編はないのかな。というか、あってほしいと願う一冊だ。


No.302 6点 自覚
今野敏
(2014/12/25 00:25登録)
 大森署長・竜崎伸也を主人公とした、「隠蔽捜査」シリーズのスピンオフ短編集。シリーズではおなじみの、野間崎管理官、貝沼副署長、畠山美奈子、戸高刑事、久米地域課長、関本刑事課長、小松強行犯係長、伊丹刑事部長らがそれぞれ主役となった話。
 このシリーズのファンであり、作者の筆力を知っている人ならばこれを見ただけでわくわくするだろう。その期待に違わずさすが今野敏、一編ずつのクオリティも高く、満足のいく内容だった。個人的には畠山美奈子の出てきた「疑心」はシリーズの中でもあまり好きではなかった(「恋」などという要素により竜崎らしさが半減してたから)が、今回の話ではそんな要素もなくよかった。
 3.5「初陣」は伊丹が主役の短編でまとめられていたが、今回は野間崎管理官など、本編では悪役のような存在も主人公に据えて書かれているのが面白い。書き方ひとつなのかもしれないが、本編でのキャラはあくまで崩れずに、しかし共感できる存在に書き上げられているのはさすがである。


No.301 5点 ○○○○○○○○殺人事件
早坂吝
(2014/12/20 15:55登録)
 これはバカミスの部類に入るのではないか。タイトルあてという試みや、トリックには確かに斬新なものを感じたが、各ランキングや書評でそこまで高評価になるのはいささか面食らう。一日であっさり読める、軽~い、ユーモアと一読に値するアイデアありの作品、といったところ。
 館、クローズドサークル、仮面、といった本格ミステリアイテムをちりばめながら、あくまでユーモアと下品を入り混ぜた姿勢で書き上げた面白さはある。上に書いたように簡単に読めるので、広い読者に受け入れられそうな作品ではある。


No.300 6点 悪魔パズル
パトリック・クェンティン
(2014/12/20 15:48登録)
 クェンティン作品は初読なのだが、ここまでの書評を見る限り、代表作「パズルシリーズ」とはいえその中でも特殊なものを最初に読んでしまったようだ。まぁ、ピーター・ダルースがピーター・ダルースでない状態ですべてが進む体なので、読んでいてそういう感じがしたが。
 記憶喪失になり、ゴーディという人物にさせられたピーター・ダルースが、その背景は何なのか、自分の味方は誰なのかを探っていく中で恐ろしい企みが暴かれていく。登場人物がそう多くなく、物語の舞台もお屋敷だけなので、シンプルで読みやすく混乱はない。よって推理もしやすい話で、古き良きミステリという感じがした。

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