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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:2100件

プロフィール| 書評

No.1220 6点 ただし、無音に限り
織守きょうや
(2022/06/20 11:52登録)
 人死にを扱っていても優しいまなざしを感じるところが良い。ただし、霊関係のルールが未整理なので、ミステリだかホラーだかどっちつかず。


No.1219 5点 錬金術師の消失
紺野天龍
(2022/06/20 11:51登録)
 ファンタジーだと、“何が出来て何が出来ないか” の線引きが曖昧なのである。文中で説明した範囲に収めないとアンフェアだろと思う反面、ファンタジーならではの飛躍したアイデアに期待もしてしまう。私は “水銀を操作して木の壁を自在に動かせる” と推測したが……。
 殺人事件の真相より、最終章で明かされる塔の存在意義、更にその後に示唆される設定が驚きでとても良かった。


No.1218 5点 猫派犬派殺人事件
本岡類
(2022/06/20 11:51登録)
 警察の捜査がテキトーな感じ。これがユーモアってことだろうか。“罠の偽装” はなかなか見事なコロンブスの卵。しかし “何故こんな高価な肉を?” は謎のままだ。

 ネタバレするが、別解を思い付いた。元ピッチャーの死は事故または自殺。従って密室は問題ではない。部屋で発見された証拠品は、彼に罪を着せる為に、捜索に入った警察関係者が持ち込んだもの。そいつは逸早く真犯人の正体に気付き、金目当てで協力関係を結んでいた。どう?


No.1217 9点 方舟さくら丸
安部公房
(2022/06/14 12:10登録)
 今一つ盛り上がらなかった『飢餓同盟』の雪辱戦か。おかしな仲間達の珍道中(嘘)は、昆虫屋とサクラのキャラクター/役割がきっちり分かれていない嫌いはあるが、異様に読み易く面白い。新潮社の〈純文学書下ろし特別作品〉として世に出たのに、安部公房作品中エンタテインメント性はトップクラス。キャリア30年を超えて、ついに何かに開眼した? 結末も『砂の女』より遥かに説得力あり。


No.1216 6点 さよならに反する現象
乙一
(2022/06/14 12:08登録)
 愛読者の求めるものではあるが、代表作になる程ではない作品集か。余白の多い書籍の構成がマッチする作風は得だね。一番好きなのは「悠川さんは写りたい」。乙一らしい坦々とした変な話。でも読み返すと、伏線らしきものが不発? 意外におとなしいまま終わっちゃったか。
 元ネタがある2編は、どうなんだろう?“書ける” 人にこんな企画は必要は無いと思う。


No.1215 7点 不可視の網
林譲治
(2022/06/14 12:06登録)
 流石は組織論SFの第一人者。デジタル時代を背景に警察組織や貧困層の群像劇を判り易く読ませてくれる。
 “あたしのために……殺ってくれたの! ありがとう” なんて台詞で情をほだされちゃって、私もちょろいな~。
 ただ、それなりのキャリアに見合わず、文章が雑。あっ、近未来の架空のシステムが物語の基盤にあるってことは、厳密にはSF?


No.1214 6点 掟上今日子の忍法帖
西尾維新
(2022/06/09 14:24登録)
 忘却探偵ニューヨーク編。それ何語で喋ってるの? って突っ込みは野暮だが、会話のメタネタが際立つ。
 手裏剣のトリックは馬鹿みたいだが感心した、と言うかテクノロジー的には充分可能だよね。つまり “バカミスに見えてもOK!” な書き方の勝利?


No.1213 7点 ハッピーエンドにさよならを
歌野晶午
(2022/06/09 14:20登録)
 「玉川上死」が傑作。後半は少々不自然だが、犯行自体がパーフェクトなので、どうやって種明かしをするか作者も困ったのではないか。加害者の捨て身っぷりに私はグッと来た。それを高く評価するのは、法月綸太郎の最高傑作を「身投げ女のブルース」だとする気持と共通のものかも。
 「 In the lap of the mother 」と言う題はクイーン(エラリーじゃないよ)の曲名「 In the lap of the gods 」に由来する。旧作にも幾つか同バンドのネタを使っているし間違いない。
 掌編も含め、粒は揃っていると思う。“殺人の時効成立” は過去の話になっちゃったねぇ。


No.1212 7点 たまさか人形堂物語
津原泰水
(2022/06/04 13:52登録)
 ミステリと呼ぶには謎の輪郭が曖昧だし、きちんと着地もしていない。しかしそういう、ジャンル的に割り切れないところこそ、この作家の持ち味なのだと判って来た。人と人との間の湿り気が上手く文章化されていて、かと言ってべた付かないその程好さが良い。創元推理文庫版は書き下ろし短編を追加収録。


No.1211 6点 かくして彼女は宴で語る 明治耽美派推理帖
宮内悠介
(2022/06/04 13:51登録)
 登場する明治の文人達については知識が乏しく、また特に最初の2話の謎が妙に観念的なせいもあって、どうも無理に背伸びしながら読んでいるような居心地の悪さを感じた。
 作者もそれを感じたのか3話目からは即物的なミステリに変化し、やはりこっちの方が良い。核がしっかりあれば文芸趣味も美味いスパイスなのである。でも作者の意図は逆(ミステリがスパイス)かな? 北原白秋は清家雪子『月に吠えらんねえ』の白さんのイメージそのままだ。


No.1210 6点 貴族探偵対女探偵
麻耶雄嵩
(2022/06/04 13:47登録)
 ネタバレするけれども、「白きを見れば」 の殺人のきっかけになった行動は何故その状況で行われたのか? 容疑者は限定されるし、動機は周囲に知られている。
 それに “伝承に倣って死体を井戸に投げ込もうとした” のは何故? ロジカルに位置付け出来ていない。単にノリでやろうとしたとしか思えず、ちょっと説明不足だ。

揚げ足取り:「幣もとりあへず」の女将。“足音には敏感で、誰かが枕許まで来れば直ぐに気づく”。しかしコレは、気付かなかった場合、気付かなかったことを自覚出来ないから、証言を真に受けてはいけない。

 玉村依子。真面目にポリアモリーに邁進する御嬢様。いいなぁこのキャラクター。


No.1209 5点 ホロー荘の殺人
アガサ・クリスティー
(2022/06/04 13:45登録)
 殺人以前は流れに乗り切れなかった。この手の作品は、そこでキャラクターを把握しておかないと、後半の機微も読み取れないんだよね……。
 要するに、犯人としてはしっかり考えたつもりでも、実際は隙のある計画だったと。そういう設定は作者の匙加減でどうにでもなり、私は好きではない。しかし本作、キャラクター的にソレをやりかねない犯人だと言う気はする。
 原題は The Hollow だから“うつろな人々”。うむ、確かにそういう話だ。“わたしたちはみんな、ジョンに比べれば影なんです”。
 
 5章(クリスティー文庫版81ページ)。“二叉路”とあるのは誤訳、と言うより日本語のミス。
 6章。“小さな田舎の駅だが、前もって車掌に言っておけば急行を停めてくれる”。牧歌的で素敵なシステム!


No.1208 4点 呪縛の家
高木彬光
(2022/06/04 13:44登録)
 あまりに型通りで困る。新興宗教ネタで期待してたんだけどそれもフツーだ。苦杯を舐める名探偵をサディスティックに眺めて楽しむ為の話、ってことでいいのかな。
 しかし犯人の演説、そして最後の一撃はなかなか効いた。


No.1207 7点 自来也小町
泡坂妻夫
(2022/05/27 15:46登録)
 前巻よりはミステリ度が上がったか。とはいえどれも小ネタで、現代ものなら短編に仕立てるのも苦しかろう。このシリーズは、そこを江戸情緒の演出で如何に包むかと言う挑戦なのだろう。人情話的な要素も上手く絡めて、収録作いずれも失望はしなかった(が、大傑作も無かったな)。


No.1206 7点 少年トレチア
津原泰水
(2022/05/27 15:45登録)
 表題に掲げられた “少年トレチア” は幾つかある柱のうちの一つであって、中心を貫くのは “緋沼サテライト” と言う “場” だと思う。そこに山海の珍味を吟味せずぶち込んだごった煮のスープ。灰汁は取り切れず、美味ばかりではないが、思いがけず澄んだ一杯を掬えることもある。かき混ぜていたら丸のままの怪魚が浮かんできた。誰だこんなもん入れたの。あたったらどうする。


No.1205 5点 致死量の友だち
田辺靑蛙
(2022/05/20 14:57登録)
 殺伐としたスクール・ライフが二転三転。残りページが少なくなって流石に落としどころを心配した途端にこの結末はどうなの?
 意図的な逸脱ではなく、フィールドの外側から良く知らないものを手探りで書いたら、図らずも生まれた珍品、て感じ。正直この作者のこの路線には期待しないが、本作に限っては苦笑しつつ否定しきれない私がいる。
 意識的にスマートフォンの類を排したのかな~と思っていたら、後半にインターネットがちょろっと出て来て、しかしさほどの必然性は感じられない。前半の設定を維持した方が良かった。


No.1204 6点 椿姫を見ませんか
森雅裕
(2022/05/20 14:55登録)
 自意識過剰な芸術科の学生達のキャラクターは上手く描かれている。ミステリとしてはさほどでもないかと思いつつ読み進んだが、ラストの “椿姫” 本番の場面はスリリング。ここだけで評価三割増しだ。諸々の事件の要因について、“そんな物の為に何人も死んだのか!” と言う虚しさとか嘆きとかが作中にもう少しあっても良かったのでは。
 再読。水墨画の場面は泡坂妻夫作品だと記憶違いしていた。


No.1203 5点 日曜の夜は出たくない
倉知淳
(2022/05/20 14:54登録)
 ♪日曜の夜は出たくない/日曜の夜は外に出たくない/死体になりたくない(「かなしいずぼん」たま)
 と言うのが表題の元ネタ。
 このシリーズも最初はなかなか鋭かったなぁと再認識。猫丸先輩のキャラクターが鼻に付かないし、ユーモアが意想外のところに潜んでいてちゃんと笑える。

 但し「生首幽霊」は何か変だ。
 ネタバレするけれど、バラバラ殺人を決行した主犯男と共犯女。この共犯女の役割は何か(“殺す際に手足を押さえる” 等の作中言及されていない事柄は考えないものとする)?
 ①被害者を部屋に引き止め、酔った被害者が騒がぬように、殺す頃合いまで監視する。これは “被害者と親しい同性” でないと難しい。②主犯男が死体切断をしている間に、切り取った部分を車に運ぶ。――これだけ。
 ②は主犯男一人でも出来るよね。そして①→被害者を部屋に引き止めて殺したのは、犯行現場を警察に誤認させる為だ。犯行現場を誤認させたかったのは、共犯女のアリバイ工作の為だ。
 すると、“アリバイ工作の為に共犯女を引き入れ、共犯女の為にアリバイ工作をする” と言うおかしな状況になって来る。共犯女って必要?
 主犯男は自身のアリバイは確保していない。それは “被害者とのつながりは水面下のものだから、それを辿って自分に捜査の手が伸びることはない” と高をくくっていたから。ならばトリックを弄さずに通り魔的に殺して逃げるのが最も安全なのである。
 作者のミスの仕方が寧ろ面白かったりして。

 「空中散歩者の最期」について。アレは数値のミスであって、だから大目に見ると言うわけではないが、それを以てしてアイデア自体が不可と言う程でもないと私は思う。


No.1202 7点 凍える島
近藤史恵
(2022/05/15 11:55登録)
 語り手の不安定な部分と物語の流れがリンクしているのは大きな強み。生活感の薄い人物ばかり集めたのも、駄目な大人達が駄目な大人達であるが故に起こってしまった事件と言う感じで、だからこそ動機が説得力を持ち、巧みな選択だと私は思う。


No.1201 7点 貴族探偵
麻耶雄嵩
(2022/05/15 11:54登録)
 再読だが、内容をすっかり忘れていた。おかげで(特に「こうもり」を)丸々楽しめて嬉しかった。忘れっぽいのはステキなことです、そうじゃないですか。
 「加速度円舞曲」で、或る手掛かりに関する情報が犯人の口からもたらされている。嘘を吐いてバレたらアウトだから仕方ない。真相を踏まえて読み返すと、自ら首を絞めざるを得ない皮肉さがポイントの一つなのに、作者はサラッと書いちゃってるな~。

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