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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.968 5点 蟬かえる
櫻田智也
(2021/05/09 10:46登録)
 能力のある人が能力通りのものを書いた、との印象。いや、それは全然悪いことじゃないよ。作者の狙いはそれなりに読み取れたと思う。その狙いは充分に小説として具現化されていると思う。ただ、出来の良さに感心はしたが、心はそこまで弾まなかった。なんかもう一つ欲しいな~。虫のネタは色々面白かったけれども。


No.967 7点 けものたちは故郷をめざす
安部公房
(2021/05/07 10:35登録)
 敗戦と満州国崩壊を背景に、少年の苦行のような道行き。心身が蝕まれ歪になって行くさまや、執拗に描かれる荒野が、読者をも苦しめ苛立たせる。その筆頭は指を切る場面か。
 私なんぞは山田正紀の秘境冒険小説を思い浮かべて全然負けてないと呟いたりする。ん? どっちがどっちに?


No.966 6点 舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵
歌野晶午
(2021/05/07 10:26登録)
 ひとみが推理しているわけじゃなくて刑事が勝手にヒントを読み取るのは赤川次郎“三毛猫ホームズ”方式? 小粒ながら良質な短編を巧みに並べて中粒くらいにはランクアップさせている。子供の描き方の匙加減も上手く、雰囲気の良さで勝ちだ。
 『名探偵、初心者ですが 舞田ひとみの推理ノート』として再刊。新作かと思った。こういう改題はやめて欲しいな。


No.965 5点 出版禁止
長江俊和
(2021/05/04 12:05登録)
 こういう入り組んだ構成も今となっては一つのスタイルとして確立されちゃっているので、先行例を踏まえた上での工夫が求められると思うのだ。前半のルポ部分は素直に楽しめたが、風呂敷を最後まで畳み切らないまま放り出してしまったような結末だ。
 取材の依頼者って誰。私が見落とした?


No.964 5点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている ジュリエットの告白
太田紫織
(2021/05/04 12:01登録)
 鹿やブレーキの雑学が面白いのでもっと引っ張ってもいいのに。第弐骨の殺伐とした心象なども、ワン・パターンながら微妙な差別化を図っているようで、話の転がし方としては悪くない。


No.963 5点 親友記
天藤真
(2021/05/03 13:21登録)
 書き方が巧みなので、途中でネタが割れても最後まで楽しく読める。一方で、品の良さが災いしてか、強いインパクトには欠ける。
 そんな中では「誓いの週末」が、ジュヴナイルの枠組みに作風が上手く嵌まった佳作か。


No.962 7点 カンタン刑 式貴士 恐怖小説コレクション
式貴士
(2021/05/01 12:50登録)
 第一作品集と同題で紛らわしいが、こちらは著者の没後に編集された傑作選。短編「カンタン刑」が代表作なのは間違いないだろうし、目を引く字面なので止むを得ないか。さりげなく示される“刑の作り方”が怖い。かつて一通り読んだ身で言うと概ね妥当なセレクトだと思う。
 “怪奇小説”と謳ってはいるが、一般的に言われるところのそれではない。不快感を楽しむ小説? 奇天烈な設定やそれを深化させる展開部と比して、オチがあまり利いておらず、“物語”と言うより“絵”を見せるような芸風だ。幾分かの吐き気と共に拍手を送ろう。


No.961 9点 暗闇坂の人喰いの木
島田荘司
(2021/05/01 12:39登録)
 島田荘司作品で一番好きかも。
 私は、物理的な偶然には寛容なので、あのトリックはOK。但し位置関係が把握出来ず、あまり驚けなかったきらいはある。あと、水の溜まった空間が火事で熱せられたら水蒸気で破裂しない?
 死刑談議がいいね。私も将来ギロチンに掛けられることがあれば実験に協力したい。
 もとより名文美文の人ではないが、英国紀行はなかなか健闘していると思う。


No.960 6点 黄金の烏
阿部智里
(2021/04/30 12:10登録)
 悪役の血を吐くような叫びが胸に刺さった。浜木綿の何でも見透かしたような物言いも嫌な感じで良い。世界の謎を提示だけして全く畳まず、導入部の怪しい薬の件もいつの間にか吹っ飛んだのは物足りないが、まぁミステリじゃないからね。雑食性のファンタジーって感じで、そこも良い。


No.959 7点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 蝶の足跡
太田紫織
(2021/04/30 10:58登録)
 第弐骨。いつになく‟他人の事件に鼻を突っ込んでいる”感が強い。放っておけば某が巻き込まれて死ぬことは多分なかった。‟そういう事にもっと無関心になった方がいいよ”と言う台詞には胸を突かれた、良い意味で。
 このシリーズ、いつの間にか、語り手の揺れ動く心情の描写が鼻に付かなくなってきたな~。


No.958 7点 蒼海館の殺人
阿津川辰海
(2021/04/30 10:53登録)
 語り手の揺れ動く心情の描写が四角張った感じで煩わしい。ユウトの家での一幕は良かった。あなたが蜘蛛だったのですね。
 幾らかの齟齬と言うか記述の不備が含まれる気はするが、これだけ長々と読まされた後ではなんかもう検証する気力も失せた。この分厚さの狙いはそれか? とりあえず一点:文中とタイトルとで館名の表記が違うのは何故?


No.957 7点 ツングース特命隊
山田正紀
(2021/04/27 10:48登録)
 はみ出し者の愉快で不機嫌なチームの珍道中、と御馴染みの設定ながら、エンタテインメントのツボを押さえた書きっぷり。主人公のカラーが薄い気はするが、死に行くキャラクターをドライに描いて切なく読ませる技に酔いしれた。異国や魔境の旅情も満載。ところがこれでも山田正紀作品群の中では地味な方なのである。


No.956 4点 敗者の告白
深木章子
(2021/04/27 10:17登録)
 素人は論理的ではないダラダラした話し方で証言するものだなぁ、対して法曹関係者は正確を期して回りくどい説明をするものさ、と言うジョーク? 
 足引きの山鳥の尾の垂り尾の長々しい文書を読まされたけれど、それに見合う結末(主眼はトリックではなくホワイダニットだと思う)ではなかった。
 いかに子供とはいえ、手書きではなくPCを使っているのだから、あのメールの文章の設定(中途半端な漢字変換)は噓っぽい。わざわざ“山なし”とか、却って面倒だろうに。


No.955 7点 掟上今日子の鑑札票
西尾維新
(2021/04/24 11:47登録)
 ミステリとしては“書かないことで書く”みたいな感じで、ジャンルの枠組みを批評、と言うのはこの作者が何度もやっていることだが、今回は深読み必至。ただ、他のシリーズと重複しそうなネタを承知の上で書いたっぽいのはどうなんだろう。私は愛読者なのでニヤリと出来るけど。あーでも羽川翼みたいなキャラクターが『十二大戦』に出て来たりもしているから、単なる手癖?


No.954 5点 幸せスイッチ
小林泰三
(2021/04/24 11:46登録)
 短編集。まぁ面白いんだけど、“ハードウェアとしての小林泰三”と言う感じ。ソフトを厳選はしなかったんだな。イコライザーの変調で何をかけてもサイケに聴こえるCDプレーヤーである。しかしおかげで私は世界の秘密に気が付いてしまった。短編集。まぁ面白いんだけど、“ハードウェアとしての小林泰三”と言う感じ。ソフトを厳選は


No.953 5点 火喰鳥を、喰う
原浩
(2021/04/22 13:09登録)
 夢の中の情景が繰り返し語られるが、夢=何でもありの設定で怖がるのは難しい。文章が、却って怖さを遠ざけてしまう種類の上手さである気がする。着地点が読めてからは消化試合みたいで、取り返しのつかない領域に踏み込んでしまった怖さが無い。
 但し、そうやって“怖さ”にこだわってしまうのはホラーと言う先入観があるからで、現実改変SFとして読めばまた違った楽しみがあったかもしれない。
 ところで、“ヤムヲエズ”とか書いてあるし、“火喰鳥”ってアレのこと? その点を敢えて作中では伏せ、しかしタイトルに掲げるってのはなかなか強気じゃないか。


No.952 4点 ブラウン神父の知恵
G・K・チェスタトン
(2021/04/20 10:42登録)
 核になる謎や逆説を、こういう風な物語にまとめたい、という“意図”だけを提示して、あとは読者に放り投げたよう。第一集より随分落ちる。断片的な興趣があちこち散らばってはいるが、一編の小説として素直に楽しめたのは「紫の鬘」のみ。


No.951 6点 エンデンジャード・トリック
門前典之
(2021/04/16 12:40登録)
 相変わらず文章は硬く、人物の動きは大味だが、建築の話題に限って饒舌になるあたりにはニヤリ。妙な芸風が確立されてはいる。こういう書き方だから成立するトリックだと言う側面もあるし、この人は“本気かどうか判別しがたい大技を使うヘタウマな作家”として自らの道を邁進してもいいのかもしれない。


No.950 7点 あいにくの雨で
麻耶雄嵩
(2021/04/16 12:39登録)
 初読時は刊行順だったので4冊目に読んだ麻耶雄嵩作品。麻耶らしくないな~と思った。
 最新作まで一通り読んでまた読み返すと、いやいやこれは非常に麻耶らしいじゃないかと正反対の印象になった。らしいと言うか、ダミーの真相を丸ごとああいう位置に配するのは某作も某作もそうじゃないか。大技を繰り返し使い過ぎじゃないですか?
 学園群像劇の体裁を取りつつ、中心の3人以外はノンプレイヤーキャラみたいで、しかしそんな割り切りが寧ろ作品の雰囲気を高めているあたりも麻耶らしい。


No.949 9点 竜の眠る浜辺
山田正紀
(2021/04/10 12:48登録)
 ほのぼの系山田正紀の最高峰。最高峰も何も、こういう味わいの山田作品はほぼこれだけか。しかし作品リストにこの一冊があるだけで或る種のバランスが生まれている。異色作なのに代表作。
 エピローグに至っても事態は全く解決していない。にもかかわらず妙な安堵感に満たされるのは、登場人物を落ち着くべきところに落ち着かせる手際の良さ故か。

 但し、今回読み返して、“男女の役割分担”が作品全体を覆っている、とは感じた。勿論そういう時代の作品だからなのだが、普遍的なテーマの中でそれが目立つような。ああいう“ワイルド・ライフ”に於いては役割分担制に回帰してしまうものだろうか。

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