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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:2011件

プロフィール| 書評

No.1571 5点 諏訪龍神伝説
紀和鏡
(2023/11/10 15:54登録)
 宇宙線と隕石、古代国家から連なる系譜、と言った月刊ムー的素材にロマンスをトッピング。きちんと混ざり合わずに凸凹が残る不恰好なプロットで、そっちに気を取られたせいで殺人事件のことをすっかり忘れていて意外な犯人は意外だった。
 但し一番問題なのは、この話を自然に読ませるには文章力が足りないことではないか。胡散臭さがメタ的ギャグになっちゃうのは本意ではないよね。


No.1570 7点 幸せの国殺人事件
矢樹純
(2023/11/04 13:55登録)
 手堅くピースを積み上げて、軋轢や暴走や和解を描いていると思う。登場人物がみんなコミュニケーション不足で自分勝手だな~。
 青臭い純粋さと欲が交錯する真相、遠い所へ行ったあの人の気持は、ちょっと回りくどい気がして充分納得出来たとは言えない。謎解きの勢いに押されて、詳細の説明が曖昧な部分もある気がする。
 太市の “じゃね?” は鼻に付く。そういえば無断拝借したゲームソフトは返したのか?


No.1569 5点 知床岬殺人事件
皆川博子
(2023/11/04 13:53登録)
 前半と後半が別のプロットみたい。二重人格と事件の絡みが希薄。当人が何も言わないのに、人格の状態や程度を他者が推察出来ると言うのは納得しづらい。
 とは言え、筆力があるので読まされてしまう。犯人のキャラクターをもっと深く掘り下げると魅力的だったのではないか。
 映画監督の鬱屈する様は、作者も “書きたいものと売れるものとの乖離” で苦闘したようだから、それが反映された憂さ晴らしなのだろうか。


No.1568 5点 弓弦城殺人事件
カーター・ディクスン
(2023/11/04 13:52登録)
 心理戦は面白かった。ピストルを外套のポケットに隠すくだりなど、“偽の手掛かり” だと考えれば後期クイーン問題みたいである。1933年と言えばEQは国名シリーズの頃。
 “どうせ使えない無記名式債券” についても、単純ながら盲点を突かれた思い。ところがこっちは、使えるのは一人だけ → その人に疑いをかける為に、使えない債権をわざと盗んだ = 偽の手掛かり、かと思いきや本物だ。二重基準(笑)?

 もしやこの作者については “不可能犯罪の巨匠” 的なイメージを捨てた方が楽しめるのだろうか。


No.1567 7点 陰陽師
夢枕獏
(2023/11/04 13:51登録)
 これやこの名にし負う夢枕、寝屋処まで文を繰る手止むに能はず、ぬばたまの小夜更けにけり。殊に、主の命かしこみ身を鬼に啖わせる女、女陰より出でる蛇鬼など、いと怪し。我、あなやとぞ言いけるも、寝てか醒めてか思ほえず。


No.1566 7点 血と夜の饗宴
山田正紀
(2023/11/04 13:50登録)
 “電脳ゴシックホラー” だそうです。
 主人公ポジションの人がバタバタ逝く流れは “犠牲の上に成り立つ戦争” っぽくて、妙に強い一般人が登場するより説得力がある。個々のエピソード(と言うか “死に方”)は短くも鋭くまとまっていて飽きさせない。パターンの繰り返しがジワジワ来る。でも前哨戦で終わっちゃうのね。此処からが本当の戦いだ……!


No.1565 7点 トッカン the 3rd おばけなんてないさ
高殿円
(2023/10/28 13:55登録)
 巻を追うごとに事例がグレードアップして、それこそ徴税イメージアップキャンペーン教則本みたいになっていて可笑しい。守秘義務おそるべし。
 グルメ小説じゃないけど読後三日連続餃子を食べてしまった。栃木の人って、××食べるんですか……。


No.1564 7点 超新星紀元
劉慈欣
(2023/10/28 13:54登録)
 序盤は、こういうテーマを中国の作家が自国の上層部を舞台に描く、と言うのはなかなか興味深いな~、と余裕があったのだが、途中からどんどん悪夢のような方向へ傾き、その容赦の無さについて行くだけで精一杯に。『バトル・ロワイヤル』か『蠅の王』か?
 そしてミステリ的と言えなくもない着地。え~、たった30年で? あれがもっと気の利いたオチであれば。いや、そもそもエンディングに捻りが求められるタイプの話じゃないのだから、蛇足に思える。
 厳井くんが一貫して “メガネ” 呼ばわりされるのには苦笑。眼鏡男子のイメージって万国共通なんだろうか?


No.1563 7点 七人の証人
西村京太郎
(2023/10/28 13:54登録)
 証言が崩れて行く様がなかなか面白い。テーマがこれでも、重厚な社会派作品にならないところも良い。直線的な文章なのに(典型的な人物設定とはいえ)各キャラクターが上手く表現されていると思う。

 ところで、立場的に最も怪しまれず動き回れるのは十津川ではないか。冤罪つまり警察の不祥事を隠蔽する為に、彼が証言を翻した者を消した可能性は? 最後の場面の後で残りも全員始末されたかも(だからあんなぶった切ったようなラストなのかも)。


No.1562 5点 ジュークボックス
山田正紀
(2023/10/28 13:52登録)
 ランガーそして意味不明な戦争。基本のアイデアは魅力的なのだが、五人の死について順番に描く構成がやや単調。ジャンクな雰囲気は当然意図的なものだろうが、エピソード自体に全力で楽しむのを引き戻すような変な抗力があって乗り切れず。生成AIを先取りしたような最終章の種明かしの先に、もう一波乱欲しかった。


No.1561 3点 複数の時計
アガサ・クリスティー
(2023/10/28 13:52登録)
 これはバーナビー・ロスのパロディ(盲人も登場するし)?
 わざわざ死体を運び指定の時間に発見させるメリットが判らないが、それも原本に書かれていたのだろうか。主犯は “発見者の知人” と言う立場なのだから、そんなことしなければそもそも捜査陣の視界に入らなかったのに。
 犯人と被害者をつなぐ糸はごく細い。自動車を使えるなら、遠くに捨てて来れば “余所の事件” として無関係でいられたのではないか。
 身許を偽装しても、そのごく細い糸を辿られる僅かなリスクは変わらない。偽装で共犯者を増やすデメリットの方が大きそう。

 もっと上手に書ければ “不可解な小道具が残された犯行現場” そして “余計なことをして自滅する犯人” パターンに対する批評になったかもしれないが……。


No.1560 7点 怪物の町
倉井眉介
(2023/10/20 12:49登録)
 前作の文章がスカスカだと貶されて一念発起したのだろうか。ちゃんと小説になっているよ。ごみ袋おばさんとの対峙は怖くて笑ってしまった。主人公の一言が事件を招いてしまう因果関係の絡ませ方も、遣る瀬無くて良い。御見逸れしました。まぁ本来はここまで来てからデビューすべきなんだけどね。


No.1559 7点 ひかりごけ
武田泰淳
(2023/10/20 12:47登録)
 新潮文庫版。「流人島にて」「異形の者」「海肌の匂い」「ひかりごけ」収録。
 目当ての表題作をまず読んでしまう。そんな軽薄な解釈をするなと怒られそうだけど、終わってみるとこれは奇妙な味の法廷劇。もっともほぼ被告人の告白のみに頼って論争している裁判は茶番っぽい。“光の輪” は見事な効果を上げており、“読む戯曲” と言う形式は必然的な選択なのだなぁ。
 ところで人肉食って何罪? それしかないなら私は人肉でも食べると思う。

 勢いが付いたので「流人島にて」を遠慮無くサスペンスとして読む。オチは弱いが、薄皮を一枚一枚剥くような語り口がスリリング。
 あとの2編はまぁ純文学、なのだろうが、水面下の波乱を必死で抑えているような緊張感はミステリ要素の無いサスペンスとでも言えそうで、どこまで書くか、どこで切るか、作者と戦っているような気分だった。


No.1558 6点 復讐の女神
アガサ・クリスティー
(2023/10/20 12:45登録)
 何が起きているのか良く判らず、水面から顔を出した岩の頭を見て岩場の全体像を想像せよ、との命題。現れた深層/真相は人の思いが絡まり合った、なかなか読み応えのあるもの。
 しかし、これは犯人サイドを掘り下げて書けば、もっと深みを出せたのではないか。例えば犯人が某に注いだ思いの深さ等が、単に言葉による説明にしかなっていない。
 と考えると、“ミス・マープルに謎のミッション” と言う間接話法みたいな設定に使うにはちょっと勿体無いかな。

 過去をほじくり返したせいで新たな死者が出たことについて、もう少し何か言及があっても良い。
 また、“丘の斜面に丸石を転落させて歩行者にぶつける”――これに関して作中では “故意にやったのでなければ成功するわけがない” とされているが、私は逆に、狙ってもそうそう命中するものではないだろうと思う。


No.1557 5点 不実在探偵(アリス・シュレディンガー)の推理
井上悠宇
(2023/10/20 12:45登録)
 近年のミステリ界の時流に乗っかっている感じはするが、それなりに独特の世界を纏め上げていると思う。

 ただ問題は第四章だ。
 要は、罪をなすりつけ、そうと知りつつ犯行に及んだと言うこと。なすり付ける相手は、或る程度の条件を満たすなら誰でも良かったわけで、これは無差別殺人に準ずるものだと思う。犯人の心理をじっくり描くサイコ・スリラーならともかく、(変則的とは言え)本格ミステリの真相としては理不尽でがっかり。台詞でサラッと説明されちゃって実感が得られないし。
 それに、ピースを積み上げて最後に犯人の名に至る論理展開なら、“無実と知りつつ、なすりつけた” というロジックは確実性に欠ける。“無実なんだから、奴には被害者を殺す動機が無い” と判断するほうが自然。最初に犯人を確定しちゃったからこそ、辻褄合わせの為にアリになる推測だよね。しかし当然ながら、探偵法に合わせて犯行がなされるわけではない。そのへんがズルいと思う。


No.1556 4点 アガタ
首藤瓜於
(2023/10/20 12:44登録)
 書くべきことを書いてないミステリ、それともミステリに見せかけて別の意図を持つ断片集のようなものなのか。見極めが難しい。しかしきちんと書かれたとしても、果たしてこのプロットは面白いのだろうか? 特に最後のどんでん返しは唐突過ぎて効果が無い。森博嗣の出来の悪い長編みたい。


No.1555 7点 人影花
今邑彩
(2023/10/12 12:54登録)
 厳選したと言うだけあって、“没後の落穂拾い” と言うエクスキューズは不要な高品質作品集(そういうのって玉石混交になりがちじゃない?)。どれも良くありそうなパターンながら、上手く料理している。他愛のないショートショートで一息つくことさえ必然的な流れに思えたりする。

 「疵」にはすっかり騙された。“目の前のビルと互いに丸見え” と言うのが伏線になるかと思ったけど……。
 「いつまで」は予想を微妙に裏切り続けて、“可愛いという気持ちさえも~” に辿り着く展開に共感。ストレートに感動してしまった。


No.1554 7点
劉慈欣
(2023/10/12 12:54登録)
 ヘヴィな現状認識に基づく作風が多い中、「円円のシャボン玉」のポジティヴィティが際立っている。
 全体的に、メインのアイデアは破天荒だけど結末が弱い傾向があり、オチと言う点では「鯨歌」「栄光と夢」「円」が良い。「円」はブラウン神父ものの某作みたいな歴史ミステリだと思う。


No.1553 6点 終末の海 Mysterious Ark
片理誠
(2023/10/12 12:53登録)
 ミステリの文脈で読むとアンフェアな真相だと思う。しかし冒険SFとしてはそれなりに手に汗を握りつつ、ホワイダニット(?)の飛躍で笑えるのもナイスだ。自動車ネタが伏線になっている点など上手いと思う。


No.1552 6点 犬神館の殺人
月原渉
(2023/10/12 12:52登録)
 “犯人の自殺” を前提にするとトリックの可能性は広がるけれど、反面それ相応の特異な心理状態について納得させてくれる必要がある。冷徹な傍観者たるツユリシズカの立ち居振る舞いは、今回そこにブレーキを掛けてしまった気がするのだ。この犯人の気持は “説明” では説明し切れない。もっと情緒的で演出過多な方が読者を巻き込めたのではないだろうか。

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