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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1408 6点 特別料理
スタンリイ・エリン
(2023/03/09 12:07登録)
 表題作。初読の筈だがオチを知っていた。何処で知らされてしまったのだろうか。
 実物はなかなか控え目な、仄めかすだけの終わり方。予備知識無しだと意味が判らない読者もいるのでは? いや、そもそも共通の “正解” を見出すことが読書の目的では必ずしもないしね。これをいきなり読んで自分がどう感じるか知りたかった。
 作品が優れている → 知名度が上がる → ネタバレする → 知名度が上がる前の素直な読み方が出来なくなる = “名作ゆえに名作としての良さを維持出来ない” パラドックスはどうすればいいのか。久々に悔しい。

 基本的に “起承転結” ではなく “起 → 承 → 転結” と言う三部構成で、真ん中の “承” が退屈、が言い過ぎなら、長過ぎる。その長めの部分を楽しめる程の “語り口の妙” だとはそれほど感じなかったなぁ。


No.1407 6点 赤いべべ着せよ…
今邑彩
(2023/03/09 12:06登録)
 良く出来てはいるが、型通り。ただ、この作者の場合、それが個性の一部みたいになっているかも。そら来た! 待ってました! と掛け声が出てしまう。歌舞伎の様式美の世界である。今邑屋ァ!


No.1406 5点 8の殺人
我孫子武丸
(2023/03/09 12:05登録)
 ユーモアの要素は、作品を戯画化し、細かなリアリティはどうでもいいと感じさせる効果がある。三きょうだいのキャラ立ちも、その世界の中でなら有効と認めていいだろう。

 第一の事件。目撃の絶妙なタイミングを鑑みれば、共犯者が誰か容易に見当が付いてしまう。作中の探偵役は “犯人にあやつられた可能性” とか慎重な意見を述べたが、素直に考えれば明白である。共犯者本人は、自身のその危ういポジションに気付かなかったのか。普通あんな計画には乗らないだろ。
 この点、一捻りを期待していたんだけど……。

 第二の事件。磔が成立するには、被害者が扉を背に或る程度まっすぐ立つ必要があるけれど、あの状況でその姿勢はポーズを取るようで不自然。まるで狙ってくれと自ら的になっているようだ。具体的にイメージしてみると、凄くカクカクした動き。道を直角に曲がる人? 細かなリアリティはどうでもいい?

 あと解決編。“この犯人はダミーで、あっちが真犯人だ” とする論理的な根拠は無い(よね?)。本棚の中身で探偵役がショックを受ける展開は作者の苦肉の策に思える。


No.1405 8点 愚者の毒
宇佐美まこと
(2023/03/02 12:44登録)
 全体の構図の予測が付いても、エピソードの肉付けがしっかりしていて消化試合のような感じは無い。確かに解説に書かれている通り、犯人に同化してしまうな~。
 強いて文句を言えばラスト。妻が何故か方言で呼びかけ、それが夫の心の糸を切った。この部分、どちらの気持もピンと来ない。


No.1404 7点 烏の緑羽
阿部智里
(2023/03/02 12:43登録)
 感想をまとめにくい展開になって来た。群像劇の登場人物を一人一人丁寧に編み込んでいる。互いが互いの鏡として対立するキャラクターに説得力があるし、エピソードの作り方も巧みで、面白いことは間違いない。しかし、ピース集めに既に三巻を費やして、軸になる物語はあまり進んでいない。
 このペースだと完結に何年かかるか。いや、ここまでで未だ10年しかかかっていないし、焦りは禁物。浜木綿はちょっとしか出番が無かったな~。


No.1403 6点 24時間の男 一千億円を盗め
山田正紀
(2023/03/02 12:41登録)
 種々のピースを上手く組み合わせているが、全体的に趣味的と言うか、切迫した動機付けがもう1ポイント欲しい気がした。
 コンピューター攻略の部分よりアナログなアイデアの方が面白い。れい子が無色透明なキャラクターにして妙に蠱惑的だが、それ故に出番が限られるのは仕方ないか。要所々々を締める役だから泣くな私。
 30年以上前の “最新技術” なのに、それほど古くは感じなかった。アップデートされていない私。


No.1402 5点 つきまとわれて
今邑彩
(2023/03/02 12:39登録)
 「帰り花」は別の短編集の某作と同じネタ。見せ方が多少違うとは言え如何なものか。
 「生霊」をこのシリーズに加えたのは失敗では。読者の立場としては、世界設定が共通なのだから、最終話でいきなり超自然現象がアリになることは無い(筈)。物理的に説明が付く前提で読み進むと、真相は簡単に判ってしまった。
 
 作中の一文を引用すると “確かに巧さは感じるものの、心に響くというほどではなかった”。自虐で書いたわけじゃなかろうが、そんな感じ。


No.1401 5点 イノセントブルー 記憶の旅人
神永学
(2023/03/02 12:38登録)
 昔のジュヴナイルSFみたいな素朴さ。一応アップデートされてはいるが、あまりにスッキリしていて、毒が無い。殺伐としたラノベばかり読んでいる自分には物足りないが、2010年代でこういうのもアリかと思うと妙にホッとしたりして。


No.1400 8点 逆まわりの世界
フィリップ・K・ディック
(2023/02/24 14:45登録)
 まず、宗教絡みの三つ巴プラス恋の鞘当ての物語として良く出来ていて、そのまま普通のスパイ・スリラーとして成立しそう(過言?)。ところがそこに、“中途半端に逆まわり” の世界設定が背景として重なり、例えばオペラのバック・トラックを玩具のピアノに差し替えたようなミスマッチで失笑必至。ではあるのだが、読み進むうちに何故かそれらが上手く融合して、しんみりした余韻を残す感動作にも思えて来た。なかなかの魔法である。


No.1399 6点 壺の町
望月諒子
(2023/02/24 14:41登録)
 壮大な復讐譚と言うには妙に醒めている。見知らぬ男の手を使って理由も知らせず殺してしまい、そんなやり方で復讐心は満たされないだろう。
 “人工物” と言う点で壺に例えるのは的を射ている。この物語自体、“存在感があり目を惹くけれどどこまでも不自然な造形物” って感じ。種々工夫が見られてそれは面白いんだけど、土台の歪みを隠し切れてはいない。“町の風土” を持ち出す論旨は強引だと思う。

 相続について。相続内容は死亡した順番に左右される。
 作中では:父・母・娘・娘婿の家族。父母娘がまとめて死亡。厳密な死亡の順番は不明。
 この場合、“同時死亡の推定” が適用され、死亡者間の相続は発生しない。娘の財産は娘婿に行くが、父母の財産は娘に相続されないので娘婿には行かない。独り占めみたいに書いてあるのは作者のミス。


No.1398 5点 「裏窓」殺人事件 tの密室
今邑彩
(2023/02/24 14:40登録)
 真相を知ってみると成程なかなか上手く捻ってある。しかしそこに至るまでの事件の展開にはあまり乗れなかった。
 この人の作風に警察官の主人公は合わないのではと思ったが、事件がこれなら必然だ。警察の視点ゆえに成立してしまった謎。

 確認:
 犯人と本命被害者をつなぐ糸は、他者から見ればそれほど太くはない。“被害者を恨んでいた者はいますか?” との質問に、即座に名前が挙がるポジションではない。
 しかし、アリバイ工作は、例えば1ヶ月後に覚えていたら却って不自然な内容である。つまり犯人は、自分の名前が即座に挙がり取調べを受けることを想定していた。
 その想定は犯人に有利な側に外れた。ところがアリバイ工作から偶然、少女の “事件目撃” が生じてしまった。犯人にしてみればそれは別件だが、警察官が部屋を訪れ、そこで或る物を見た。
 “つなぐ糸” がいずれ露見した可能性はあるが、作中の展開ではそれ以前に “或る物” が真相解明の決め手となっている。従って、結果的に、余計な想定からアリバイ工作をした為に犯人は捕まった、と言うことになる。皮肉な成り行き。


No.1397 4点 明智卿死体検分
小森収
(2023/02/24 14:38登録)
 魔術のある世界設定とか階級社会の勢力図とか、本来は “背景” である要素が大量に前面に出て来て、その隙間で物語が辛うじて進行した感じ。貧弱なネタを複数抱き合わせて作品を仕立てること自体は否定しないが、あまり成功したとは思えない。 
 ぶっちゃけ、“明智” の名前が無ければ手に取らなかった。ハッタリに引っ掛かったな~。

 併録短編中の “売れに売れた書物” って直木賞のあの本? メタネタ?


No.1396 4点 マンアライヴ
G・K・チェスタトン
(2023/02/24 14:36登録)
 うーむ、これは……解説を読んでも何だか良く判らない。降参です。 

 ウォーターベイビー云々は邦題『水の子』、岩波少年文庫で読んだなぁ。


No.1395 6点 恍惚病棟
山田正紀
(2023/02/17 13:38登録)
 大まかな謎は二つある。“病棟で何が起きているのか?” は、ミステリの柔らかい部分と硬い部分の予想外の混ざり方と言う感じで驚かされた。一方、その舞台で発生した悪意による出来事については、曖昧な部分が多くスッキリしなかった。

 主人公のキャラクターについて。読者視点で読み取れる印象と、作中で他の人達が彼女に接する時の評価にギャップを感じた。“過大評価されている人” と言う意図的な設定なのだろうか。
 研修医・新谷のノートは、発表当時のセンスとしても失笑ものである(筈)。それこそ痴呆老人からのメッセージかと思った。


No.1394 6点 大絵画展
望月諒子
(2023/02/17 13:38登録)
 5分の4まではページを繰る手が止まらない面白さ、だったんだけど真相がなぁ。
 共犯者の人数多過ぎでしょ。人海戦術で包囲網を敷けるなら、騙しは何でもアリじゃないか。こういうのは蟻が象を手玉に取るからこそいいのである。
 
 五章。警官がフェイクなら、仕掛け人がプラン変更について言い争う場面があるのは変では。


No.1393 5点 由仁葉は或る日
美唄清斗
(2023/02/17 13:37登録)
 読み終えてみると、成程プロットや見せ方は悪くないかもしれない。
 しかし、好感を持てる登場人物が殆どいない(強いて挙げれば、えにっぺ)。かと言って売りになるようなドロドロ劇でもない。
 おっさん達が若い女性に鼻の下を伸ばすのと、特別に誰が誰を好き、と言うのは違うと思うが、同じように書かれているので、“えっ、これってそんなマジな気持だったの?” と戸惑った。
 せっかく “由仁葉” なのに平仮名表記じゃネーミングが報われないじゃん。助詞と混じって読みづらいし。


No.1392 5点 盗まれて
今邑彩
(2023/02/17 13:37登録)
 「情けは人の……」「ゴースト・ライター」は、捻って更に捻って、それがやり過ぎでなく決め手として上手く嵌まっていると思う。因みに、カーネーションの色の意味は初めて知った。

 全体的には、上手さが却って仇になったか、どうも印象が弱い。“ミステリ的には駄作でもこの人の世界に浸れて心地良い” と言える空気感みたいなものが無いので、短編集は単なるアイデアのカタログになってしまった。文体のせい、だけじゃないよな……。


No.1391 4点 列車消失
阿井渉介
(2023/02/17 13:35登録)
 阿呆かッ! 読了後まずそんな言葉が私の口を突いて出たのだった。
 無駄に外連味の強い演出と、泥臭い捜査行や民営化問題との食い合わせの悪さよ。トリックには笑うべきか呆れるべきか(特に “歩く胴体”)。共犯者多過ぎ。誘拐に比べて殺人事件が軽視されている印象もある。
 これ、ラノベ系の愉快犯として書けば良かったのでは。

 第二章の7。列車が十三分遅れで富山に到着。
 犯人:福井までに時刻表通りの運行を回復せよ。
 刑事:福井までに、しかけてくる気だ。
 これはおかしい。この指示では、福井までのどの時点で回復するか判らない。ギリギリで追い付いても指示に反したことにはならない。
 犯人の作戦に時刻表通りの運行が必須なら、“福井で回復した後、しかけてくる” と予測すべき。と言うかこの場合は犯人の指示がおかしくて、たとえば “金沢までに” とすべきだった。


No.1390 8点 キドナプキディング
西尾維新
(2023/02/09 12:41登録)
 首をくくって待ってた、シリーズまさかの続刊。あの二人にまさかの娘。あたしを名字で呼ぶなとか言わない丸くなったまさかの潤さん。同窓会にはちと淋しいが新しい設定もガンガン加わって嬉しい。
 肝心のミステリ面だが、このキャラクターでこのホワイダニットなら説得力はあると思った(“丸投げ” ってのが特に)。いや、肝心なのはキャラか? 竹さんのイラストも絶好調で年増哀川潤が素敵。


No.1389 7点 呪い人形
望月諒子
(2023/02/09 12:38登録)
 社会派サスペンス。罪と罰、正義と悪について、登場人物達それぞれの視点で重層的に語られる群像劇。どの意見にも相応の説得力が感じられ読み応えがある。取材が殺人を引き起こしてしまう観察者効果(?)は怖いね。
 しかし、これだけ書いておいて肝心のホワイが不明なままなのは、ホラー的な後味を醸し出してはいるが、はぐらかされたような思いをやはり拭えない。あと、“六千万円” とは妙に半端な金額に思えるがどういう基準?

 木部美智子シリーズの一冊で世界設定は前2作と共通。と言うことは、超自然現象的な本物の “呪殺” はあり得ない、と読者は最初から諒解せざるを得ないわけで、ノン・シリーズとして書いた方が良かったのでは(本物を期待する本書の読者なんていないか?)。

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