home

ミステリの祭典

login
kanamoriさんの登録情報
平均点:5.89点 書評数:2426件

プロフィール| 書評

No.486 5点 魔法人形
マックス・アフォード
(2010/06/16 21:06登録)
悪魔学研究家の屋敷を舞台にした古典本格ミステリ。
たしかに豪州のディクスン・カーと称されるように怪奇趣味と不可能犯罪が描かれていますが、トリックが平凡な上に偶然を利用していたりで本家ほどのテクニックが感じられませんでした。
伏線がこまめに張られていますが、描写が正直すぎて真相が分かりやすくなっています。


No.485 8点 狙った獣
マーガレット・ミラー
(2010/06/16 20:52登録)
米国の三大女流サスペンス作家のひとりマーガレット・ミラーの代表作といわれる作品。
巨額の遺産を相続した女性宛に架かってきた死を予言する電話で物語の幕が開きます。
マクロイやアームストロングのサスペンスとの一番の相違点だと思うのは、心理描写が執拗で重厚な点で、単にミステリの道具となっていないと思わせるところです。そのため結末のサプライズに欠ける作品もありますが、本書は文学性とミステリ趣向のバランスがとれた名作だと思います。


No.484 5点 技師は数字を愛しすぎた
ボアロー&ナルスジャック
(2010/06/16 18:57登録)
不可能犯罪を扱った正統派の本格ミステリ。
従来のような登場人物の心理の綾を絡めたサスペンス風のテイストは全くありませんので、ボアローの単独作と言われても違和感がない作品です。
これでもかというぐらい密室殺人が連続して起こりますが、淡泊な描写で物語が味気なく感じられ、内容の割に緊張感がないですね。


No.483 6点 ひとりで歩く女
ヘレン・マクロイ
(2010/06/16 18:41登録)
著者が従来の本格から作風を転換する契機になったサスペンスミステリ。
物語はいきなり女性の手記で始まります。
大金の運搬を依頼された女性が、西インド諸島からワシントンに向かう客船上で身の危険を感じ、警察署長宛てに手記を残すというプロットですが、作者が意図した仕掛けが序盤で察せられたため、期待したほど読了時のカタルシスは得られませんでした。
「地の文章で虚偽の記述をしてはならない」というミステリのルールの境界線を狙ったような感じですが、クリステイならもっと上手く騙せたように思います。


No.482 7点 無実はさいなむ
アガサ・クリスティー
(2010/06/15 21:58登録)
冤罪がテーマのノン・シリーズ長編ミステリ。
慈善家の老婦人殺しの罪で逮捕され獄中死した養子ジャッコの冤罪疑惑を巡る物語。
本書は著者自身が好きな作品の一つに挙げているようですが、一般的な人気はさほどないようです。テーマが重たく物語が暗いトーンに覆われていることと、シリーズ探偵が出てこない点が理由じゃないかと思います。
クリステイを読むのは約20年ぶりなので、思ったより新鮮な感じを受けました。犯人の設定方法は女史の得意のパターンなんですが、普通に面白かったですね。


No.481 6点 泥棒は哲学で解決する
ローレンス・ブロック
(2010/06/15 21:20登録)
泥棒バーニイ・ローデンバーが探偵役を務めるシリーズ第4弾。
泥棒に入った先で死体に遭遇したり、関係者が殺されバーニイが容疑者になるという同じパターンで巻き込まれ型探偵を演じます。一人称形式で語られるバーニイの軽妙なアメリカン・ユーモアも楽しみの一つですが、毎度きっちりフーダニットものの本格ミステリになっていて、今回も大団円では関係者を集めての謎解きが見られます。
本作は特に犯人特定のロジックがきれいに決まっているように思いました。


No.480 6点 嘘は刻む
エリザベス・フェラーズ
(2010/06/15 20:58登録)
射殺死体が発見された家の100個以上の時計が全て誤った時間を刻んでいたという謎に素人探偵が挑むというストーリー。タイトル通り「嘘」がテーマで、時計だけでなく事件関係者たちの供述も嘘で固められています。
時計の謎はあまり感心できませんでしたが、プロット上の仕掛けはなかなか意表をつきました。
トビー&ジョージシリーズのような軽妙な語り口は影をひそめていますが、まずまずの本格ミステリでした。


No.479 7点 事件当夜は雨
ヒラリー・ウォー
(2010/06/15 20:31登録)
警察小説の大家ヒラリー・ウォーの看板シリーズ、フェローズ署長ものの第3作。
著者の代表作といわれる「失踪当時の服装は」は、捜査状況をリアルに描いていて確かに読み応えが充分ですが、ミステリとしての趣向が弱い印象でした。
本書は遅々として進まない捜査状況や捜査官の人物造形の書き込みが弱いという欠点もありますが、フーダニットとして優れていると思います。真犯人像も発表年次を考慮すれば非常に現代的で、今読んでも違和感がない点が評価できます。


No.478 6点 魔王の足跡
ノーマン・ベロウ
(2010/06/15 18:58登録)
魔女が縛り首になった樹の伝説とか雪野原途中で消えた足跡など、怪奇趣味と不可能興味溢れるプロットはまさにディクソン・カーを彷彿とさせます。
不可解な事象に対して、色々と推論を重ねていくスタイルをとっているのもいいです。探偵役のスミス警部の印象はいまいち薄いですが、怪奇現象研究家の女性が面白いキャラクターで補っている感じです。
傑作とは言えないかもしれませんが、他の作品もこのような作風ならもっと読んでみたい作家です。


No.477 6点 証拠は眠る
R・オースティン・フリーマン
(2010/06/15 18:36登録)
ソーンダイク博士ものの長編ミステリ。
倒叙形式ではなくフーダニットですが、犯人はある程度見えやすくなっています。ミステリとしての一番のキモは砒素による毒殺方法がなかなか分からない点で、(実際に実行可能か判然としませんが)この真相はなかなか意外でした。
作者に対しては古臭くて退屈というイメージでしたが、本書に関してはいい意味で予想を裏切ってくれています。


No.476 5点 フレンチ警部の多忙な休暇
F・W・クロフツ
(2010/06/15 18:16登録)
旅行会社社員モリソンがイギリス列島巡行の豪華船事業計画に協力するうちに船長の殺人事件に巻き込まれるというストーリー(「フレンチ警部と賭博船」という別題があったようです)。
前半のモリソン視点の物語は例によって少々退屈で、初期の重厚さはありませんが、フレンチ登場後のアリバイ崩しはまずまず面白かった。写真の工作によるアリバイトリックとしては、この作品が先駆かもしれません。


No.475 4点 虚空から現れた死
クレイトン・ロースン
(2010/06/15 18:00登録)
奇術師探偵ディアボロが登場するミステリ中編2本収録。
探偵の職業やデビュー長編に似たタイトルから、グレート・マーリニもののようなガチガチの本格編を期待しました。たしかに2編とも密室殺人を扱っていますが、テイストはバットマンなどの米国漫画を彷彿とさせるヒーローものの通俗ミステリでした。
不可能興味満点の発端に対して解決が腰砕けなぶん落胆は大きかったです。


No.474 5点 さかしま砂絵
都筑道夫
(2010/06/14 22:26登録)
なめくじ長屋捕物さわぎシリーズ第11弾。
まとまったシリーズ本としては最終巻となる本書も、本格ミステリとしてはあまり読みどころのない作品集でした。「退職刑事」もそうですが、シリーズものは作者自身が飽きてしまって目先を変えるため、本来のコンセプトを捨ててしまうパターンが多いですね。


No.473 4点 いなずま砂絵
都筑道夫
(2010/06/14 22:13登録)
なめくじ長屋捕物さわぎシリーズ第10弾。
人間消失などの不可能興味でハウダニットもののミステリとして構築できる話もありますが、アイデア枯渇の感じが明確に覗われて残念な出来です。
前作に続いて、長屋のアウトロー仲間が容疑者となるパターンが続くのも気になるところ。


No.472 4点 ときめき砂絵
都筑道夫
(2010/06/14 22:01登録)
なめくじ長屋捕物さわぎシリーズ第9弾。
マンネリを感じさせる作品が多いのですが、クリステイ某作を彷彿させる設定の「待乳山怪談」とか、下駄常視点で砂絵のセンセーの安楽椅子探偵もどきの「水見舞」などはまあまあかなと思います。


No.471 6点 林の中の家
仁木悦子
(2010/06/14 18:50登録)
沈着冷静な安楽椅子型の兄・仁木雄太郎とあわて者で行動型の妹・悦子が探偵役を務めるシリーズ第2弾。
電話で呼び出された兄妹が、ある家で死体を発見するという発端で、オーソドックスなフーダニットですが、今作も何気ない描写に隠された伏線が最後にきれいに回収されます。
現在、乱歩賞のデビュー作以外は比較的手に入り難いシリーズ作ですが、いずれも端正な本格編で読みやすいのがいい。


No.470 5点 デパートへ行こう!
真保裕一
(2010/06/14 18:21登録)
自殺志願の中年男や家出した若いカップルなど、いずれも訳ありの男女4組が閉店後の深夜の老舗百貨店に忍び込んで引き起す騒動を描いた群像劇。
作者の生真面目な性格の表れなのか、期待したドタバタ・コメデイではなく、デパートを巡る陰謀話からステロタイプな人情話に終わっています。しかし、このあらかさまなデパート賛歌、業界からいくらか貰っているのか?


No.469 5点 震えない男
ジョン・ディクスン・カー
(2010/06/13 16:39登録)
フェル博士が古い屋敷に招かれた客人の密室殺人に挑むという著者定番のストーリー。創元推理文庫からは「幽霊屋敷」の邦題で出ていますが、ともに絶版のようです。
機械的密室トリックはちょっと推理するのは難しそうで、証言者の嘘が関与している点もマイナス要素です。
面白いのは、フーダニットに関してプロット上のある仕掛けをしているところ。これは、バークリーの某作を思い浮かべました。


No.468 6点 不自然な死
ドロシー・L・セイヤーズ
(2010/06/13 16:17登録)
ピーター・ウィムジイ卿シリーズ第3作。
料理屋で知り合った医師の話から、ピーター卿がある老譲の不審死を追求していくストーリー。
真犯人は序盤からほぼ明らかになっていますが、自然死に見せかけた殺人方法の謎と第2の殺人のアリバイが壁になって遅々として物語が進展しない。例によってシェークスピアなどの古典からの引用癖にはもどかしく感じましたが、終盤ある偶然から、次々と謎が明らかになる展開はなかなかスリリングです。
殺人者の肖像はある意味現代的で古さを全く感じさせないのはさすがです。最後の日蝕のエピソードはピーター卿の心情を表現したものでしょうか。


No.467 6点 殺人者は21番地に住む
S=A・ステーマン
(2010/06/13 15:49登録)
何らかの秘密を抱えた住民たちを中心に下宿屋(もしくはアパート)を舞台にしたサスペンスというのは、ミステリの一つのジャンルといえるでしょう。本書は、連続殺人鬼は下宿人のうち誰か?を問うシンプルながらサスペンスに溢れた本格編で、読者への挑戦を挿入するという稚気が楽しい。
この意外な真犯人の設定には、フランス語圏の本格ミステリ特有のむちゃがありますが、ひょっとしてこの作品はクリステイのアレを意識しているのではないかとも思います。

2426中の書評を表示しています 1941 - 1960