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ミステリの祭典

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ひとりで歩く女
ウリサール警察署長

作家 ヘレン・マクロイ
出版日1998年09月
平均点6.29点
書評数7人

No.7 7点 ROM大臣
(2021/07/29 12:58登録)
「以下の文章は、わたしが変死した場合にのみ読まれるものとする…」と書き出される正体不明の文章が物語の幕を開ける。
そして綴られる、不可解で異様な出来事の数々。不条理な夢にも似た展開はやがて現実の殺人を引き起こす。ただただ翻弄され、惑乱する。しかし、終わってみれば物語はとことん理性的に収束し、伏線は回収され、すべてきれいに割り切れて、結末にはおよそ剰余を残さないこの優れたサスペンスは、優れた本格として決着する。

No.6 5点 ボナンザ
(2019/11/09 09:21登録)
サスペンス要素と本格要素がうまい具合に当てはまっている。
とはいえ読み慣れた人なら中盤で真相を見抜くとは思う。

No.5 6点 E-BANKER
(2014/09/22 22:35登録)
1948年発表。マクロイの第十長編が本作。
最近創元推理文庫で復刊がなされた「小鬼の市」と同じく、西インド諸島が舞台のひとつとなる作品。

~西インド諸島を発つ日、私は滞在していた屋敷で存在しない庭師から手紙の代筆を頼まれた。さらに、白昼夢が現実を侵食したようにNYへ帰る船上で生起する蜃気楼めいた出来事の数々。曰く有りげな乗客たち、思いがけず出現した十万ドルの札束・・・。誰かが私を殺そうとしています・・・タイプライターで打たれた一編の長い手記から始まる物語は、奇妙な謎と戦慄とを孕んで一寸先も見えない闇路をひた走る・・・~

マクロイらしく本格ミステリーとサスペンスの良さを融合させたような作品に仕上がっている。
まずは冒頭が「手記」から始まるというところからして、企みに満ちていて読者をワクワクさせる。
その後は船上ミステリーの味わいそのものに、一癖も二癖もありそうな乗客や乗組員たちがつぎつぎと怪しい行動を示していく・・・
(しかも殺人の凶器が「毒蛇」!っていうのが心憎い)

そしてNYに到着し、船から降りたところから物語は急展開を見せる。
それまで読者に示されていた姿が仮の姿でしかなく、正体は別の姿をしているのだ・・・
この辺の展開はサスペンス性十分で、作者の後期作品群を彷彿させるところ。
まぁ真相はやや分かりやすいという弱点はあるかもしれないが、それでも作者のストーリーテリングの確かさは十分に認められる。

本作の探偵役ウリサール警部は常に冷静沈着。
ウィリング博士もそうだが、癖のある登場人物たちを冷静な観察眼でとらえ、ラストには見事に事件を収束させるキャラとしてはもってこいの造形だろう。

ということで、作者の良さが出た作品ということは言えるのだが、個人的な好みとしてはウィリング博士登場作品の方に軍配を上げたい。
途中ちょっとダレるんだよねぇ。でも高水準の作品。
(船上ミステリーというのはやっぱり翻訳ものに限る。国産ミステリーだとどうしても無理がある・・・)

No.4 6点 蟷螂の斧
(2013/08/04 19:53登録)
(タイトル・女26)前半は、何が起こっているのかよくわからない状況で、混乱させられます。謎の提示の仕方はうまいと思いました。後半は、金の亡者が多数登場し、その中に犯人は?という展開です。解決篇は、どちらかというと動機、殺害方法、証拠等が簡単に片づけられていますので、本格色が強いサスペンスといえると思います。

No.3 7点 mini
(2013/01/29 09:55登録)
本日、創元文庫からヘレン・マクロイ「小鬼の市」が刊行される
これは「家蠅とカナリア」の翌年に書かれており、マクロイが楷書体な本格から行書あるいは草書体風のサスペンス色を取り入れた作風に変化する過渡期の作とのことだ
戦後に「暗い鏡の中に」などサスペンス風本格に完全移行する前段階での最初の時期らしく、御馴染みの探偵役ウィリング博士と、後に単独出演となるウリサール警察署長との競演というのが珍しい
ウィリング博士は作風が変化した戦後作にも何作かは引き続いて主役を務めることにはなるのだが、マクロイが方向性を見定めようとして迷ってた時期なんだろうかね

さて「小鬼の市」ではウィリング博士と競演したウリサール署長が、単独出演として再登場するのが「ひとりで歩く女」である
過渡期の作らしく、まず異色なのは事件が起きて捜査してという普通の本格のパターンを採っておらず、前半などはある女性の視点を通した一人称サスペンス小説そのもののような設定になっている事だ
一人称の手記というと読者はどうしても叙述トリックを疑ってしまうが、マクロイは流石だなと思うのは、序盤で手記の執筆者に、”この手記を読まれる方はわざとこれを書いたのでは?とお疑いになるかもしれませんが”、みたいな事を書かせている
つまり作者は読者側の疑いなど先刻承知なのだ
この為、読者からすると単純な叙述トリックかどうか疑心暗鬼に陥ってしまい、叙述トリックに見せかけたトリックなのかと裏の裏を読もうとするが、さらにそれすら作者の罠なのではないかとも思えてくる
「ひとりで歩く女」の優れているところは、最初から”この手記は怪しいわよね”と書いた人物自身に言わせているところで、すれからしな読者ほど作者の意図が見抜けなくなってしまうところで、書かれた時代を考えるとやはりマクロイってのは時代の先端を行ってたなぁと思わざるを得ない

No.2 6点 kanamori
(2010/06/16 18:41登録)
著者が従来の本格から作風を転換する契機になったサスペンスミステリ。
物語はいきなり女性の手記で始まります。
大金の運搬を依頼された女性が、西インド諸島からワシントンに向かう客船上で身の危険を感じ、警察署長宛てに手記を残すというプロットですが、作者が意図した仕掛けが序盤で察せられたため、期待したほど読了時のカタルシスは得られませんでした。
「地の文章で虚偽の記述をしてはならない」というミステリのルールの境界線を狙ったような感じですが、クリステイならもっと上手く騙せたように思います。

No.1 7点
(2010/05/11 22:46登録)
解説によれば「アメリカ女流サスペンス御三家のひとり」と呼ばれていたマクロイですが、本作は書き出し2ページぐらいはそれらしい感じがあるものの、その後全体の2/3ぐらいまでは不可解な謎が錯綜するいかにもパズラーらしい話です。手記の部分が終わった後の意外な展開も、知的な興味を引くようになっています。
その後、一気にサスペンス調になる構成もおもしろいところです。このサスペンス部分に入って、作者の基本的な企みにはほぼ確信が持ててしまいました。とは言え、事件の全貌に説明をつけることができたわけではないので、文句はありません。最終章の推理は、若干決め手に欠けるところはありますが、きれいに事件を解明してくれます。
解説の最後で天地逆に印刷してある〈謎〉(疑問点)と〈解決案〉については、少なくとも私が読んだ初版では〈解決案〉は示されていないのですが。ただしこの〈謎〉は簡単に説明がつくと思います。書き出しにこだわる必要はないのですから。

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