home

ミステリの祭典

login
E-BANKERさんの登録情報
平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.179 6点 八つ墓村
横溝正史
(2010/01/24 16:23登録)
金田一耕助シリーズの超有名作。
冒頭の「津山三十人殺し」と彷彿させるシーンはまさに戦慄ものです。
主人公の周りで次々と殺人事件が起こる謎、「なぜ殺されるのか?」という部分が本作のキモでしょう。
これまでの書評でも書かれていますが、本作にはロジックというものはなく、金田一も事件当初から一貫して「傍観者」的な立場であり、最後になって「実は・・・」という展開です。
まぁ、これをどうこういう気はないのですが、本作については映像の方がうまく世界観を表せるような印象です。


No.178 7点 11枚のとらんぷ
泡坂妻夫
(2010/01/24 16:09登録)
奇才、泡坂氏の処女長編作品。
マジックに絡んだ短編集を作中作として挟み込むなど、処女長編とは思えないほどの技巧を凝らしてあり、「さすが・・・」と思わせます。
作中作はいわゆるミスリード的な使われ方ですが、あまり本筋には関係ないように感じますし、単純にマジックをテーマにしたショート&ショートとして読めば面白い出来です。
最後の解決シーンで、○○○症について伏線を指摘され、第1部(マジックショーのくだり)を読みながら感じていた違和感に思い至り、「成る程ねぇ・・・」と納得。
「乱れからくり」より好きかもしれません。


No.177 6点 頼子のために
法月綸太郎
(2010/01/16 23:14登録)
悩めるリンタローの契機となった長編。
久々に再読。
初読した10数年前は「ロジックをこねまわしているだけ」や「なんか、優柔不断な作風」と感じ、即座に「駄作」と思い込んでいた本作ですが・・・
今回再読してみると、「それ程悪くはないなぁ」という評価に変わりました。
手記や日記の仕掛けは作者の得意とするところですが、その点でも本作はよくできている部類だと思います。
個人的には真犯人の考え方や動機については、全然納得できないのですが、タイトルはいいですね。
まさに「・・・のために」なんですねぇ。


No.176 4点 湯煙りの密室
中町信
(2010/01/16 23:03登録)
叙述の名手の放つ中途半端?な長編。
本作、「叙述物」としても「密室物」としてもクオリティーは低いと言わざるを得ません。
受験生である被害者が、大雪の試験日に偶然乗り合わせた1台の車・・・その「同乗者」が誰か?というのが本作の「仕掛け」に繋がっていくのですが、魅力的なプロットに比して、解答は陳腐な出来です。
温泉場での準密室トリックも、○○(そんなの知らない!)が伏線になってますし、ちょっと肩透かしですねぇ・・・
捻りも少ないので、ミステリー好きなら真犯人はすぐに分かってしまうかもしれません。


No.175 9点 網走発遙かなり
島田荘司
(2010/01/11 23:43登録)
シリーズ外の作品。作者には珍しい連作短編集。
「丘の上」「化石の街」「乱歩の幻影」そして表題作の全4作の構成。
久々に再読して、地味ですが味わいのある「名作」だという思いを新たにしました。
それぞれは独立した短編ですが、ある人物とある一家が共通して登場しており、途中まではそれがどういう関係を持っているのかが謎になっています。そして、最終作ですべての関係・謎が明らかになり、感動・・・
全体的には、「都市論」や「徐々に狂気に支配される女性」といった島田氏らしいテイストも盛り込まれており、特に最終作は、名作「奇想、天を動かす」を思い起こさせます。
氏の作品に関しては、派手なものより、本作のような”しみじみ系”の方にむしろ良作が多いと思いますね・・・


No.174 7点 銀行狐
池井戸潤
(2010/01/11 23:26登録)
作者の処女短編集。
表題作のほか、「金庫室の死体」「現金その場限り」「口座相違」「ローンカウンター」の全5作。
本作は、氏得意の連作短編集ではなく普通の短編集ですが、どれもなかなかの”切り口”で、短編の醍醐味が味わえます。
中では「金庫室・・・」が一番面白いですかねぇ・・・
被害者の預金通帳一つでさまざまな推理が展開されるシーンは、「銀行ミステリー」の第一人者(他にいませんけど)たる作者の面目躍如といった感じですし、ラストのどんでん返しも効いています。
やっぱり、「人間の欲望」と「金」「事件」は切っても切れない関係なんでしょうね。


No.173 8点 テロリストのパラソル
藤原伊織
(2010/01/11 23:13登録)
史上初の乱歩賞&直木賞のダブル受賞作。
さすが、その看板に偽りなしで、面白い小説だと思います。
途中、なかなか事件の全体像や背景が見えにくくなっていて、ちょっとモタモタ感があるのが玉に瑕かもしれませんが、ラスト、黒幕の○○と対決する場面は名シーンですね。
それまでの謎が一気に解決していきます。(そんな偶然が重なるか?という気もまぁしますけど・・・)
処女作としては、浅井や塔子といったサブキャラの造形も魅力的ですし、やはり、つくづくも作者の早すぎる死が惜しいなぁと思ってしまいます。


No.172 7点 死体を買う男
歌野晶午
(2010/01/07 23:16登録)
「作中作」の中で、乱歩と萩原朔太郎を探偵役とした珍しい設定の作品。
「双子トリック」をはじめ、細かい部分については特段見るべきところはないような気はしますが、作品全体の設定というか”試み”がいいですね。
「~家の殺人」シリーズでは、まだまだ”若さ”が目に付いていましたが、氏が作家として成熟していくきっかけとなった作品なのでしょう。
しかし、新本格の作家って「アナグラム」が好きですね・・・個人的にはあまり魅力を感じないんですけど。


No.171 6点 三重殺
奥田哲也
(2010/01/07 23:06登録)
埋もれた作家? 奥田哲也(英朗ではありません)の作品。
「同じ名前の人物が3回殺された」というのが本作の大きな謎です。
事件関係者も主に3名しか出てこないため、この3人がどういう組み合わせで加害者と被害者になっていったのかがポイントになります。
ただ、仮説がいろいろと検討されるため、読んでる途中でだんだんこんがらがってきます。
面白いプロットなのですが、設定にムリヤリ感があるため、ロジックだけの解決は無理で、「偶然」に頼っている部分が大きいのがちょっと残念ですね。
”名なしの刑事”キャラは、なかなか味があって良いです。


No.170 9点 Xの悲劇
エラリイ・クイーン
(2010/01/03 21:45登録)
ドルリー・レーン4部作の記念すべき第1作。
”ニコチン原液を塗った無数の針”という恐ろしい凶器が有名な作品です。
さすがというか、グレードが高いですね。
最終章、第1~第3の殺人までレーンの推理の過程が述べられるわけですが、その徹底したロジックには唸らされるばかりです。特に、○○傷跡の誤謬には気付きませんでした・・・
正直時代性もあり、第2の殺人については、いくら何でも現代では通用しないでしょうし、今ひとつ人物像が浮かびづらいという翻訳物の宿命は感じますが、まさしく「稀代の名作」という評価で間違いありません。


No.169 5点 メビウスの殺人
我孫子武丸
(2010/01/03 21:27登録)
速水三兄妹シリーズ第3作。
いわゆる「ミッシング・リンク」がテーマになっていますが、デビュー間もない頃のシリーズだけあって、何となく筆致が安定してないというか、”若さ”が目に付く作品だなぁという印象が残ります。
その辺、作者もあとがきで書いてますが、本作を書いている最中に「殺戮にいたる病」のプロットを思いついたとのことで、それが本作の中途半端さの理由かもしれません。(本作に全力投球じゃなかったわけですよね・・・)
速水三兄妹自体はなかなかのキャラクターだと思うので、是非復活させて欲しいものです。


No.168 4点 天河伝説殺人事件
内田康夫
(2010/01/03 21:17登録)
浅見光彦シリーズの1作。
映画化もされた作品なので、氏の作品群の中でも名の知られた一作かもしれません。
展開はいつもの浅見シリーズを踏襲しており、「能」宗家にまつわる殺人事件の謎を追って「天河」の地へ・・・といった具合。
ちなみに「天河」とは奈良県の吉野にあるそうです。
普段のシリーズ作よりは若干なりとも「重厚さ」があり、後年の「文芸シリーズ」に通じる部分が感じられます。
しかし、毎回思いますが、「浅見」のキャラは何とかなりませんかねぇ・・・男性の読者にとっては、全く感情移入できないような設定だと思うんですけど。


No.167 6点 僧正殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2009/12/30 22:54登録)
ファイロ・ヴァンス探偵譚の4作目にして、「グリーン家」と並ぶ氏の傑作です。
ただ、読了後まず感じたのは、「読みにくかった」ということでしたが・・・
当然ながら、マザーグースの歌詞を元にした「見立て殺人」が本作のハイライトですけれど、必然性のない”見立て”は個人的にはちょっと否定的です。
まぁ、「古き良き探偵小説」を体現しているのは事実だと思いますし、一応?読んでおくべき作品という評価で良いと思います。
「グリーン家」よりは落ちるかな・・・


No.166 6点 叔母殺人事件 偽りの館
折原一
(2009/12/30 22:43登録)
まさに「ザ・折原」とでも言うべき作品。
主人公視点の「地の文」(現在)と、日記(過去)部分が交互に書かれ、徐々に2つがシンクロしていきます。
オチについては、収まるべきところに収まったという感じで、良く言えば「正統派叙述トリック」ですし、悪く言うなら「ワンパターン、二番煎じ」というところでしょう。
個人的には、ここ最近の氏の作品の中ではまとまっていて、ある程度”読める”作品なのではないかと思いました。
少なくとも、”姉妹品?”の「叔父殺人事件」よりは数段良い出来なのは間違いありません。


No.165 5点 猪苗代マジック
二階堂黎人
(2009/12/30 22:29登録)
水乃サトルを探偵役とする「・・・マジック」シリーズの第3作。
本作は、ラストの2~3行でどれくらいサプライズを感じるかに尽きます。ただ、真犯人の印象が作品中であまりにも薄いので、「驚いたなぁ・・・」というより、どうしても「それはないんじゃないの・・・」という感想になってしまいます。伏線にも全く気付きませんでした。
アリバイを絡めた密室トリックも低レベルですし、事件の背景になっている過去の「処刑魔」による犯罪についても、今ひとつ効果を発揮できていません。
まぁ、プロット自体はそんなに悪くないと思うので、点数はこれくらいにしておきます。


No.164 7点 本陣殺人事件
横溝正史
(2009/12/26 00:02登録)
言わずと知れた、金田一耕助の初登場作品。
私自身、機械仕掛けの密室に初めて触れた作品です。
何よりも、作品世界の雰囲気がいいです。琴や水車といった小道具や雪景色が何ともいえない「和」のテイストを感じさせます。
動機については、確かに現代の価値観からすれば異常ですが、逆にそれが文学的な後味を引いているような気はしますね・・・
グレードの高い一作という評価で間違いないでしょう。


No.163 6点 どんどん橋、落ちた
綾辻行人
(2009/12/25 23:51登録)
軽~い雰囲気の短編集。
読んだ後脱力するような作品でした。
表題作と「ぼうぼう森・・・」は、まぁ面白い趣向でしょうね。ただ、後者の方はいくら伏線はあったとはいえ、ちょっとズルイような気はしましたが・・・
問題作!「伊園家・・・」は設定だけは面白いですが、どうですかねぇ・・・ 浮気相手と気だるい時間を過ごすマス○さんなんてあまり想像したくないですけど・・・
それにしても、リンタローさん、これ以上悩まないようにしてください!


No.162 5点 夜行列車(ミッドナイト・トレイン)殺人事件
西村京太郎
(2009/12/25 23:39登録)
光文社文庫の復刻版「西村京太郎アニバーサリーフェア」の第4作目で超久しぶりに再読。
”謎の提起”はいいですね。
国鉄(!)総裁宛に「夜行列車の爆破」を予告する匿名の手紙が届きますが、どの列車がいつ爆破されるのか不明なまま十津川警部が捜査を開始して・・・という展開。
まぁアリバイトリックについては、今となっては子供だましのようなレベルですし、「○○駅」が2つあるというのはファンならば周知のことでしょう。
ただ、400頁超の話をこれだけスラスラ読ませるのはやっぱり作者の力量でしょうか? それとも軽いだけ?


No.161 6点 黄色い部屋の謎
ガストン・ルルー
(2009/12/21 23:00登録)
ある意味「密室物」の元祖的作品。
何かの書評でも読みましたが、ポー「モルグ街」やドイル「まだらの紐」という”人知を超えた密室”ではなく、いわゆる「心理的密室」というか一種の「欺瞞的密室」を最初に持ち込んだ功績は大でしょう。
やはり、最初に読んだときは、密室もですが真犯人の意外性にまずはサプライズでした。と同時に「そんなのありか?」というふうにも感じましたが・・・
まぁ、今読めば古臭さは如何ともしがたいですが、時代性を考えれば「名作」ということで間違いありません。


No.160 9点 狼花 新宿鮫IX
大沢在昌
(2009/12/21 22:52登録)
新宿鮫シリーズ第9作。
ハードカバー版の帯どおり「桁違いの濃度と感動、一気に炸裂するクライマックス」という言葉がまさにピッタリです。
本作では、パートⅤ「炎蛹」以降、鮫島の好敵手となっていた仙田勝と、キャリア組同期入庁でありながら常に対立していた香田警視という重要なキャラクター2人について、一定の決着が図られます。
今回の鮫島もピンチの連続、緊張感のある展開が続きますが、刑事として人間として、鮫島の心は決して揺らぐことなく自身の任務・正義を遂行しようとします。
シリーズも9作目を数えますが、面白さは全く色褪せません。ただ、鮫島がどんどん孤独になっていくような気がして、今後の展開が何となく心配です。せめて、桃井警部と藪だけは殺さないでください。

1859中の書評を表示しています 1681 - 1700