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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.459 5点 黒猫・アッシャー家の崩壊 -ポー短編集Ⅰ ゴシック編-
エドガー・アラン・ポー
(2011/04/24 19:52登録)
ポー生誕200周年を記念して新潮文庫から出版された作品集の第1弾。
第1弾は「ゴシック編」として、ミステリージャンル以外の作品が集録されています。(第2弾のミステリー編はすでに書評済)
①「黒猫」=ポーといえば「この作品」という方も多いのかもしれません。はずみで殺してしまった黒猫と妻。そして、ラストでは黒猫の祟りとでも言うべき現象が起こる・・・実にブラック&詩的です。
②「赤き死の仮面」=? 「赤き死」というのは、「黒死病=コレラ」を想起させるとのことですが・・・
③「ライジーア」=これも詩的ですが・・・解説によれば、「美女再生譚」の1つとのこと。
④「落とし穴と振り子」=実は、個人的にはポーの作品で一番面白いと思ってるのが本作。ラストに救いがあるのがいいね。
⑤「ウィリアム・ウィルソン」=これも難解な話。正直なにが言いたいのか理解できませんが、オチは他の作品でもよく見られるサプライズ・・・
⑥「アッシャー家の崩壊」=これもポーといえば本作というべき作品の1つ。ここでも、突き放したようなオチが何ともブラックだし、尾を引く感じなんだよねぇ・・・
以上6編。
タイトルどおり、いわゆるミステリーというジャンルに含まれる作品ではないですが、さすが「珠玉の名作」と思わせるものはあります。
文学的すぎて、小市民の私では理解できないところもありますが、たまにはこういう作品に接することも貴重な機会かもしれません。
解説では、ポーの生涯にも触れてますので、ポーという作家のバックボーンを理解したうえで本作を読むことをお薦め!
(個人的には④が大好き。もちろん、①や⑥も名作)


No.458 6点 遠きに目ありて
天藤真
(2011/04/24 19:50登録)
脳性麻痺を患う信一少年を探偵役とした連作短編集。
成城署の真名部警部が持ち込む事件を信一少年が解き明かすという完全なアームチェア・ディテクティブものです。
①「多すぎる証人」=ポーの歴史的名作「モルグ街の怪事件」を思い起こさせるプロット。多くの証人がいろいろな証言をしているが、一体真犯人はどういう人物なのか? 
②「宙を飛ぶ死」=奇術でいう「人間大砲」の仕掛けをモチーフにした作品。東京にいたはずの被害者が、なぜか諏訪で死体となって発見される? ただ、関係者がゴチャゴチャしていてやや分かりにくい。
③「出口のない街」=1つの街を舞台にして、衆人監視の準密室で殺人が起こる謎。「密室」ものの変格であり、お手本のような作品。アリバイも絡めたプロットはなかなかの出来だと思います。
④「見えない白い手」=中篇というべき分量。肝心の犯行時の描写がやや分かりにくいのが難。メイントリックも現実的に可能なのかやや疑問。
⑤「完全な不在」=タイトルからするとアリバイものっぽいですが、要は「○○○○り」トリック。登場人物が役者という時点で、まぁ気付くよなぁ・・・
以上5編。
出来はなかなかいいと思います。
アームチェア・ディテクティブですから、現実性云々というよりは、ロジック重視の純粋パズラー小説。
主人公にハンディキャップを持つ少年を配して、障がい者にも優しい社会を願う作者の思いも作品の端々から伝わってくる・・・そんな作品。
(③が一番の好み。①もまずまず。他はちょっと落ちる印象)


No.457 6点 緑衣の鬼
江戸川乱歩
(2011/04/24 19:48登録)
フィルポッツの名作「赤毛のレドメイン家」を翻案した小説として有名な本作。
明智小五郎ではなく、乗杉龍平という素人探偵が登場。
~銀座の街頭で奇禍に遭ったところを救われ、連日の不穏な出来事を訴える可憐な女性、芳枝。人妻と知りつつも探偵作家大江の胸は騒ぐ。その翌日、緑衣の怪人物に襲われる芳枝夫妻。1か月後、夫を喪い伊豆で傷心を癒す芳枝から便りが届くが、またも緑衣の影が・・・~

なんと言うか、実に「乱歩らしい」作品ですよねぇ。
①美しい女性が登場し、主人公がその美しさにまいる。②その女性が何らかの犯罪に巻き込まれる。③周りの人間は殺されていくが、その女性はなんだかんだいいながら殺されず助かる。④もちろん真犯人は「○○○」・・・
もはや分かりきった展開で、分かりきったラストを迎えます。
トリックは恐らく成立しないんじゃないかというものも多い。特に「腹話術」・・・普通、気付くだろ!(乱歩を読んでると、「腹話術」万能かと思わされる)
などと貶してしまいましたが、もちろん乱歩らしい「ハラハラ・ドキドキ感」を堪能できるという長所もありますし、ラストに向け徐々に盛り上げ、読者を惹き付ける展開にも唸らされます。
ロジックで凝り固まったパスラー小説に飽きたら、こんな作品を読んでみるのも一興かもしれませんね。
(全身緑ずくめの男・・・本当にいたらかなり怖い!)


No.456 7点 七回死んだ男
西澤保彦
(2011/04/19 23:11登録)
作者の代表作(と言えるかな?)。
ギャグも散りばめた、お得意の「SF系本格ミステリー」。
~どうしても殺人が防げない!不思議な時間の「反復落とし穴」で、甦るたびにまた殺されてしまう、渕上零次郎老人。「反復落とし穴」を唯一認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためあらゆる手を尽くす。孤軍奮闘のすえ、少年が思いついた解決策とは?~

これぞ「西澤作品!」とでも言いたくなる、変な設定です。
作者あとがきを読むと、「デジャブ」を主題にした映画を見て、本作のプロットを思いついたとありますが、普通の感覚なら本にしないですよ。
ただ、さすがに「計算」されてます。伏線の設定は見事。(まあ、それがないとそもそも成立しないプロットではありますが・・・)
要は「時間軸」なんですよね。
「時間軸」をズラすのは「叙述系トリック」の王道なわけで、それをかなり「大技」かつ「荒唐無稽」にしたのが、本作の「反復落とし穴」ということでしょう。
でも、さすがに「久太郎が○○○いた」のには気付かなかった! まさかね、そういうオチとは・・・
未読の方がいらっしゃいましたら、騙されたと思って一度読んでみてはいかがでしょうか。
(「久太郎が年齢よりも大人びて見える」ことにも何か仕掛けがあるのかと思いきや、スルーされてましたね。そこがちょっと残念。)


No.455 6点 ウッドストック行最終バス
コリン・デクスター
(2011/04/19 23:10登録)
モース警部シリーズの長編第1作目。
人間味溢れるキャラクターで、ニヤリと笑わせてくれるシーンも多い作品。
~夕闇の迫るオックスフォード。なかなか来ないウッドストック行きのバスにしびれを切らして、ヒッチハイクを始めた2人の娘。その晩、ウッドストックの酒場でヒッチハイクをした娘の1人が死体となって発見された。もう1人の娘はどこに消えたのか。なぜ名乗り出ないのか?~

本シリーズと言えば、「仮説」を立てては壊し、立てては壊し・・・というイメージでしたが、本作はそれほどのクドさはありません。
ヒッチハイクをしたもう1人が分かりそうで分からないというもどかしい展開が続き、ダミーの犯人も次々に容疑者から消えていく・・・
ただ、個人的には前評判ほど面白いとは感じませんでしたねぇー。
なにか、単純な問題をわざと分かりにくく紆余曲折させているような感じといえばいいのか・・・モース警部の推理法も、読みながら今ひとつ伝わってこなかったんですよねぇ・・・
文庫版解説を読むと、作者は安楽椅子型の探偵を理想としており、指紋等の科学捜査やアリバイといった従来の警察捜査に関するくだりを敢えて省略しているとのこと・・・
まぁ、それはそれでいいんですけど・・・何かワンパンチ足りないようなモヤモヤ感が残ってしまいました。
(モース=ルイスのコンビのやり取りはなかなか面白い。)


No.454 6点 崩れる 結婚にまつわる八つの風景
貫井徳郎
(2011/04/19 23:07登録)
「結婚」に纏わる男女あるいは女性同士などの「感情のもつれ」をテーマにした短編集。
既婚者にとってはなかなか考えさせられるお話が満載。
①「崩れる」=表題作。夫と息子の両方が無職のごくつぶし・・・そんな状態に耐えられなくなった妻は・・・
②「怯える」=しつこいモトカノに悩まされる男。確かに、いくらカワイくてもこんな女は嫌だ。
③「憑かれる」=ラストは軽~いホラーめいた話に・・・
④「追われる」=今で言う「ストーカー」の話。確かに、「草食系男子」が増加するなか、こんな奴は結構いるんだろうな。そして、変に勘違いする女も。
⑤「壊れる」=ひと昔まえに流行った「W不倫」の話。まぁ、因果応報ってことですね。
⑥「誘われる」=最近、これをテーマにしたフジTVのドラマも始まった・・・「ママ友」。男には分からん世界だねぇー
⑦「腐れる」=ちょっと日本語おかしくない? サスペンス系によく出てきそうなプロット。
⑧「見られる」=これもストーカーっぽい話。ラストを締めくくるにはやや弱い作品。
以上、8編。
いやぁ、なかなか身につまされる話もあって面白く読まさせていただきました。
大半がバッドエンドになっていて、若干ムズムズ感が残るのが作者の狙いなんでしょうね。
男女の愛情だけではない、損得勘定やプライドやエゴ、その他人間の諸々の感情が集積されるのが「結婚」や「結婚生活」ってやつですから、こういうテーマも十分ありですね。「読み物」としてもなかなか面白いと思います。
(①③⑥辺りがおすすめでしょうか。他もまあまあかな。)


No.453 7点 三幕の殺人
アガサ・クリスティー
(2011/04/15 23:09登録)
ポワロ物としては9番目の作品。
かなり以前、確か新潮文庫版で読んで以来の再読。
~引退した俳優が主催するパーティーで、老牧師が不可解な死を遂げた。数か月後、あるパーティーの席上、俳優の友人の医師が同じ状況下で死亡した。俳優、美貌の娘、演劇パトロンの男などが事件に挑み、名探偵ポワロが彼らを真相へと導く~

個人的には、非常に高いレベルで、出来のいい作品だと思います。
もちろん、「動機」の問題はいろいろな方々が書評しているとおりで、まぁ「問題あり」ではありますが・・・
「こんな理由で殺人を犯すか?」というのは正常な感覚ならば当然なのですが、そこは推理「小説」なのですから・・・
プロットとしてはよく練られていると思いますし、いかにもクリスティらしさに溢れた作品だと感じますね。
本物の「劇」の如く、ラストで鮮やかにある人物の姿が反転させられる、ましてやその人物とは「○○」なのですから、舞台効果は満点でしょう。
というわけで、作者の格調高い作品の1つとして、十分にお薦めできる作品です。
(相変わらずポワロは最後までもったいぶってくれますが、今回は本当に第1の殺人の「動機」が分からなかったんですね・・・)


No.452 9点 私が彼を殺した
東野圭吾
(2011/04/15 23:08登録)
加賀刑事シリーズ第5弾。
「どちらかが彼女を殺した」に続く、"最後まで犯人の名前が明かされない”究極のフーダニット!
~婚約中の男性の自宅に突然現れた1人の女性。男に裏切られたことを知った彼女は服毒自殺を図った。男は自分との関わりを隠そうとする。醜い愛憎の果て、殺人は起こった。容疑者は3人。事件の鍵は女が残した毒入りカプセルとその行方~

いやぁ、これはスゴイ作品ですね。
「どちらかが・・・」にもかなり感心させられましたが、今回はそれ以上。
前回の「三人称一視点」から、「一人称一視点」に変わったことも、読者をさらに煙に巻く効果を発揮しているようです。
加賀刑事シリーズには何かしら毎回感心させられてますが、今回の「毒入りカプセル」の推理もかなりのもの。
毒入りカプセルを被害者に仕掛ける機会ばかりを考えているところへ、「○○物」自体の伏線まで張られていたとは・・・(袋綴じ解説を読んで初めて気付いた)
ネタバレサイトもいくつか閲覧したため、一応真犯人については理解しましたが、個人的にはもうちょっと飛躍して考えてたので、やや拍子抜け感はありますけど・・・
とにかく、ミステリー作家としての作者の「腕」の確かさを改めて感じることのできる「必読の書」という評価で間違いなし。
(そんなに短いわけでもないのに、あっという間に読了してしまいました。さすが東野圭吾・・・)


No.451 6点 バラ迷宮
二階堂黎人
(2011/04/15 23:05登録)
二階堂蘭子シリーズの作品集。
第1作品集「ユリ迷宮」に続く第2弾です。
①「サーカスの怪人」=人間大砲というのがかなり血生臭い。こういう奇術的トリックは作者の得意技ですね。
②「変装の家」=トリック自体は普通。「盲目」の人物が出てきた時点で想像がつく。
③「喰顔鬼」=ホラーじみた話だが、真相には特に捻りがなかった・・・
④「ある蒐集家の死」=ダイニング・メッセージもの。推理クイズのようなストーリー&プロット。なんかスッキリしないなぁ・・・
⑤「火炎の魔」=ある化学物質を使えば人間を簡単に焼死させられる・・・ということ。
⑥「薔薇の家の殺人」=フーダニットについては読み応えあり。最後の捻りもなかなか効いている。まあまあの秀作。
以上6編。
蘭子シリーズとしてはちょっと喰い足りないような印象。やっぱり長編向きの探偵&シリーズだと思います。
クドイくらい大時代的で、薀蓄やドロドロした展開で、というんじゃないと満足できない!
これぞファン心理。
(⑥はなかなか面白い。他はどれも今ひとつの出来ですねぇ)


No.450 8点 幻の女
ウィリアム・アイリッシュ
(2011/04/10 21:43登録)
450冊目の書評は、サスペンス界の巨匠が贈る不朽の名作で。
「ファントム・レディ」の追走劇がNYの街を舞台に繰り広げられます。
~1人街を彷徨っていた男は、奇妙な帽子をかぶった女に出会った。彼は気晴らしにその女を誘い、自宅に帰ると喧嘩別れした妻の絞殺死体を発見してしまう。刻々と迫る死刑執行の日、彼のアリバイを証明してくれる唯一の目撃者"幻の女”はどこにいるのか?~

さすがに「不朽の名作」と冠されるだけはあります。
事件の日以降姿を消してしまった「幻の女」の謎、そして幻の女を追い掛ける中で、次々と消されていく関係者の謎・・・読者の煽り方がうまいですね。
そして、ラストの大ドンデン返しはサプライス感たっぷり!
○○○○の言動は確かに不自然なんですよねぇ・・・「謎」の部分が、そのまま「仕掛け」に直結しているわけで、読者は「なるほどねぇ」と思わされるわけです。(ちょっと分かりにくい書き方ですけど・・・)
もちろん、論理的にみておかしなところはいろいろ目に付きます。
特に、「真犯人が危険を冒してそこまでやるか?」というのは感じるところですし、単に買収しただけですから、警察関係者が少しでも疑問を持てば、犯人側の目論見が瓦解するのは明らかなわけで、かなり結果オーライな計画には違いありません。
ただ、本作にそういう目線は不必要でしょう。
ロジックなんて脇に置いといて、「小説」としての何ともいえない雰囲気や香りを楽しむべき作品だと思います。
本作のほかにも、氏の作品に多大なる影響を受けた作家は大勢いるでしょうし、そういう意味も含めて、”敬意を表すべき作品”という評価で間違いなし!
(「夜は若く、彼も若かった。夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」・・・確かに名フレーズかも)


No.449 7点 ソロモンの犬
道尾秀介
(2011/04/10 21:35登録)
ごく初期に書かれた青春3部作の1つ。
作者に対する個人的なイメージとは真反対の爽やか系ミステリー。
~秋内たち大学生4人の平凡な夏は、まだ幼い友の死で破られた。飼い犬に引きずられての事故。だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい助教授に相談に行く。そして、予想不可能な結末が・・・~

これは、「予想外」に面白かった!
そんな大したトリックやら、叙述的仕掛けがあるわけじゃないですが(多少はありますけど)、なぜか引き込まれるものがある・・・そんな作品。
特に「犬」の生態に関してはなかなか興味深かったですね。
「事故」に付随して起こった「犬」の不可思議な行動・・・それを動物生態学から解き明かしていくというのも割りと新鮮な感じがしました。
「叙述系のトリック」はちょっと上滑りしているかなぁー いわゆる「○○オチ」に近いので、ちょっとレベルが低い気がする・・・
フーダニットもややいただけない。ラストまでに真犯人の情報がなさすぎるためちょっと唐突。
というような欠点も垣間見えますが、トータルでは十分お薦めできる水準の作品かと思います。
後味も爽やか・・・
(こんなウブな大学生、今どきいるのかな?)


No.448 8点 幸福荘の秘密―新・天井裏の散歩者
折原一
(2011/04/10 21:32登録)
「天井裏の散歩者」の続編。
前作と共通する登場人物が"ハチャメチャ”に暴れる・・・妙な連作短編集。
~偉大な推理作家を慕い、多くの推理作家の卵たちが集まったかつての「幸福荘」を訪れた"わたし”は、花束を抱えた怪しい女性を目撃。その直後、1枚のフロッピーを手に入れた・・・~
①「密室の奇術師」=オチは脱力系。ただ、盛り上げ方はさすが・・・
②「後ろを見るな」=まさに「折原トリックの王道」といえば登場人物が途中で気絶させられるパターン。
③「最後の一人」=一人称の「僕」の正体は? これも折原叙述トリックの王道。
④「作者の死」=またも"魔性の女”登場(前作にも登場する例の彼女)。③のオチがつくが、またしても脱力系。
⑤「ファンメール」=さすがにここまでくると、オチは途中で想像できる。
⑥「実作者」=クドいほど畳み掛けられる「叙述トリック」・・・慣れない読者は、「いったいどういうこと?」と思わされるでしょう。
⑦「パラレルワールド」=まさにタイトルどおりのパラレルワールド。折原好きなら、これで最後のオチは想像がつくはず。
⑧「幸福荘の秘密」=最後の最後でまたしても脱力系のオチとは・・・こんなネタでここまで引っ張る作者の「心意気」に拍手。
以上8部に分かれてますが、連作短編というよりは、変格の長編という方が合っているかもしれません。
まぁ、これは「バカミス」ですよねぇ・・・でも、好きだなあ・・・これ。
折原ファン以外の方が読んだら怒り出すかもしれませんが、こんな遊び心たっぷりの作品、そう滅多にお目にかかれないような気がします。
(細かいアラ探しは禁物。ひたすら作品世界を楽しみましょう)


No.447 6点 密室に向かって撃て!
東川篤哉
(2011/04/05 22:52登録)
烏賊川市シリーズの第2弾。
「謎解きはディナーの後で」で超意外なブレイクを果たした作者が贈る「お笑い系本格」ミステリーです。
~烏賊川市警の失態で持ち逃げされた拳銃が次々と事件を引き起こす。ホームレス射殺事件、そして烏賊川市きっての名家の屋敷では一人娘の花婿候補の1人が銃弾に倒れる。花婿候補3人の調査を行っていた名探偵鵜飼は、弟子の流平とともに密室殺人の謎に挑む~

う~ん。相変わらず"お笑い系ミステリー”が冴えてます。
今回は、衆人環視の準密室で起こる殺人事件の謎がメインテーマ。
ただ、サプライズがあるかと思っていた真犯人については、意外なほど「普通」・・・
「銃弾の数」がアリバイトリックの鍵となるわけですが、ちょっと強引というか、現実味が薄いのが気になるところ。先に起こったホームレスの事件や「肉」の件も、必要性あるんですかねぇ? 伏線にしたかったのは分かりますが、これもちょっと現実性が薄い・・・
まぁ、分かりやすいといえば、分かりやすいと思いますので、鵜飼よりも先に真相解明も十分可能ではないでしょうか。
本格ファンにも「お笑い系」ファンもある程度満足できる作品かとは思います。
(しかし、これほどブレイクするとは、まさかねぇ・・・)


No.446 5点 髑髏城
ジョン・ディクスン・カー
(2011/04/05 22:50登録)
アンリ・バンコランシリーズの3作目。
ガチガチの本格好きの読者が泣いて喜ぶような設定&仕掛けで一杯の作品。
~ライン河畔に聳える古城、髑髏城。その城主であった稀代の魔術師が謎の死をとげてから十数年。今また現在の城主が火だるまになって城壁から転落する事件が起きた。この謎に挑むのは、ベルリン警察のフォン・アルンハイム男爵と宿命のライバル、アンリ・バンコラン~

この紹介文を読めば、期待せずにはいられませんよねぇ・・・
河畔に聳え立つ2つの謎多き古城、不審な死を遂げた魔術師、火だるまで落下する死体、独仏2人の名探偵対決・・・etc
いったいどんなオチを付けてくれるのかという期待を一心に読み進めましたが、結論は「裏切られた」の一言。
もったいぶって、こんな大層な設定を持ち出すほどのトリック&プロットではありませんでした。ロジックが薄弱すぎ。
名探偵対決も意味あるんですかねぇ?
本作にインスパイアされ書かれた、加賀美雅之の「双月城の惨劇」や二階堂の「人狼城の恐怖」のインパクトがあまりにも大きいため、悪い部分だけが目立ってしまったところもあるかもしれません。
まぁ、カー&ガチガチ本格好きの方ならいいけど、それ以外の方にはちょっと・・・っていう評価です。
(バンコランものは初読ですが、やっぱり中期以降の良作の比ではない感じ・・・)


No.445 5点 チルドレン
伊坂幸太郎
(2011/04/05 22:48登録)
"変な男”陣内や全盲の男、永瀬らを主人公とする連作短編集。
相変わらずの「伊坂ワールド」で、独特のストーリーが紡がれます。
①「バンク」=タイトルどおり、銀行強盗の話。この話で、陣内・鴨居と永瀬・ベスが出会う。それで、結局強盗は狂言だったのかどうか分からぬままなんですけど・・・
②「チルドレン」=①から12年後の話。家裁の調査員となった陣内と一人の少年が織り成す不思議なストーリー。で、結局何が言いたい?
③「レトリーバー」=ゴールデン・レトーリーバーの本当の意味は「・・・」。真相はミステリーっぽいオチになってます。
④「チルドレンⅡ」=ラストのライブハウスのシーンが印象的ですが、「それは非現実的でしょう?」って感じ。
⑤「イン」=これもよく分からない話。要は、全盲なんて全然関係ないじゃん!ってことを言いたいのか?
以上、5編。
作者自身、「短編の形をした長編」と解説しているとおり、年代を行ったり来たりしながら、変な男「陣内」を中心として、ほんわかしたストーリーが続きます。
決して嫌いではないのですが、本作については、さすがに「ちょっと・・・」っていうほど方向性のはっきりしない雰囲気のため、高い評価はしにくいよねぇ・・・
(作者の作品のほとんどは仙台が舞台となってますが、今回の大震災がどのように影響するのかちょっと心配・・・)


No.444 7点 星を継ぐもの
ジェイムズ・P・ホーガン
(2011/03/30 23:18登録)
ゾロ目444番目の書評はこの作品で。
伝説のSF大作。読み応えありです。
~月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後5万年を経過していることが分かった。果たして、現在の人類とのつながりはあるのか? やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された~

さすが、前評判にたがわぬ面白さ。ハードSFという取っ付きにくさを通り越して、グイグイ引き込まれました。
壮大な謎、ミステリーですよねぇ・・・
月面で発見された5万年前の「人間」は、何と現代の人類以上の科学力を有していますし、木星の衛星で発見された宇宙船はさらに太古のもの・・・
現代の常識ではまったく計り知れない事実ですし、真相も実に面白い。
類人猿とホモ・サピエンスとのミッシング・リンクという大いなる謎にも、1つの解答を示しています。(本当にそうならロマンチックですねぇ)
文章は何だか科学論文を読んでる感じがして、読みにくさは感じますが、たまには、宇宙や人類のルーツといった壮大なミステリーに触れてみるのもいいのではないでしょうか?
(この作品の舞台は21世紀半ば頃で、すでに宇宙旅行が当たり前になっているという設定になってます。しかし、現実は原子力の制御に四苦八苦しているのが現実なわけで・・・)


No.443 7点 闇の底
薬丸岳
(2011/03/30 23:15登録)
乱歩賞受賞後の長編第2弾。
今回のテーマは「性犯罪」・・・
~子供への性犯罪が起こるたびにかつて同様の罪を犯した前歴者が殺される。卑劣な犯行を、殺人で抑止しようとする処刑人サンソン。犯人を追う刑事、長瀬。そして、過去のある事件が2人を結びつけ、前代未聞の劇場型犯罪は新たな局面を迎える~

処女長編「天使のナイフ」でも感じたことですが、この作者は盛り上げ方がウマイ。
結末に向かって「ドキドキ感」がどんどん高まっていくというのは、ミステリー作品にとって非常に重要なことだと思います。
途中で「いかにも」というダミーの容疑者が想起されるように書かれてますが、これは「きっとミスリードだろう」と思いながら読み進める・・・じゃあ誰がサンソン? というドキドキ感がたまりません。
真相はサプライズ感十分なのですが、今回はラストが割りとあっさり書かれてるのがちょっと残念。
いずれにしても、読み応えは十分の佳作という評価でいいでしょう。
(重いテーマですが、その辺はあまり気にならず・・・一気読みできます)


No.442 5点 親不孝通りディテクティブ
北森鴻
(2011/03/30 23:13登録)
鴨志田鉄樹と根岸球太の通称カモ・ネギコンビが博多を舞台に暴れる(?)連作短編集。
氏の作品には、「おいしい食べ物」がつきものですが、今回はカクテルの薀蓄が満載。
①「セブンス・ヘブン」=結婚紹介所で知り合った理想の夫婦が心中してしまった理由は? 結構強引な結末。
②「地下街のロビンソン」=テッキ(鉄樹)が頼まれた人探し。それがあらぬ方向へ・・・
③「夏のおでかけ」=のんびりしたタイトルですが、これも「偶然」があらぬ結果へ・・・
④「ハードラック・ナイト」=少女売春絡みの話。「今どきの高校生は・・・」って感想になっちゃいますね。
⑤「親不孝通りディテクティブ」=まさに"親不孝通り”で起こった事件。ありがちと言えばありがち。
⑥「センチメンタル・ドライバー」=2人の高校時代の宿敵が登場。ラストはつらい結果に・・・
以上6編。
凸凹コンビが身の回りで起こるちょっとハードな事件を解決していくストーリー・・・どっかで読んだことあるなぁというプロットが多いような気がします。
全体的にはハードボイルドとしても喰い足りず、純粋な謎解きとしても喰い足りないですね。
博多弁(「・・・たい」「よかろうもん」)もちょっとウルサイ感じ・・・(博多出身の方、すみません!)
(軽~い気持ちで読むのが向いてます)


No.441 7点 恐怖の谷
アーサー・コナン・ドイル
(2011/03/26 23:11登録)
S.ホームズもの最後の長編。
ストーリーは「現在の事件」と「過去の回想」の2部構成。
~モリアティ教授の組織にいる人物から届いた暗号文。その謎を見事に解いたホームズだが、問題の人物はすでに館で殺されていた。奇怪な状況の殺人を捜査する謎解き部分と、事件の背景となったアメリカの「恐怖の谷」におけるスリルとアクションに満ちた物語の2部構成による長編作品~

いやぁ、前評判どおりで、ホームズものの長編4作品の中では抜群に面白い! ホームズもの長編の代表作といえば、今まで「バスカヴィルの魔犬」かと思ってましたが、それは大きな間違いでしょう。
他の方の書評にもありましたが、第一部で起こる現在の殺人事件については、正直たいしたことない。ラストで若干アッと思わされるくらい・・・
ということで、本当に面白いのは第2部。
「緋色の研究」や「四つの署名」も同じような2部構成でしたが、いわゆる「事件の背景」部分は付録的な位置付けに近い感じでした。でも本作は面白いよ。
何だか、昔のB級洋画のような雰囲気なのですが、ラストはなかなか唸らされること請け合いです。
コンパクトなところもGood!
(モリアティ教授を持ち出す必要性はほとんど感じませんでした。まぁ、作者のサービス精神ってところですかね?)


No.440 6点 ネジ式ザゼツキー
島田荘司
(2011/03/26 23:09登録)
御手洗潔シリーズの超長編。
プロット的には「眩暈」に似た感じですね。(ただ、「眩暈」よりは落ちる)
~記憶に傷害を持つ男、エゴン・マーカットが書いた物語。そこには、蜜柑の木の上の国、ネジ式の関節を持つ妖精、人工筋肉で羽ばたく飛行機などが描かれていた。ミタライがそのファンタジーを読んだとき、エゴンの過去と物語に隠された驚愕の真実が浮かび上がる・・・~

相変わらずの「島田節」が炸裂!っていうところでしょうか。
とにかく、一見しただけでは「ありえない」「単なるファンタジー」でしかないと思われたストーリーが、御手洗のロジックで解き明かされる快感!
ただ、そのロジックはいつものとおり「偶然の連続」で起こったという奴・・・
だったら、正直「何でもありじゃん」と思ってしまいますが、そこは他の作家とはスケールが違うわけです。
結局最後には「すごいねぇ・・・」と思わされてしまいます。
特に、今回は「ネジ」にすっかり騙されました。そりゃそうですよねぇ・・・単純に考えれば、そういう「カラクリ」になってるのは自明なのに、他があまりに突拍子ないため、それには気付かない・・・んですねぇ。
まぁ、島田節に酔いたい貴方にはお薦めの一冊です。
(ページ数の割にはスイスイ読めました。)

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