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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.639 6点 ノンストップ!
サイモン・カーニック
(2012/02/10 23:16登録)
21世紀の英・クライムノベルをリードする新鋭、S.カーニックが2006年に発表した第5長編。
たった2日間に巻き起こる、まさに「ジェットコースター・サスペンス」。

~電話の向こうで親友が殺された。死に際に僕の住所を殺人者に告げて。その瞬間から僕は謎の集団に追われ始めた。逃げろ!
だが、妻はオフィスに血痕を残して消え、警察は無実の殺人で僕を追う。走れ、逃げろ、妻子を救え! 平凡な営業マンの決死の疾走24時間。サスペンス史上最速の体感速度を体感せよ~

サスペンスとしては上出来かな。
旧友の死をきっかけに、謎の犯罪組織に追われる羽目になった男・トムと秘密警察組織のチーフ・ボルトの2人が視点人物となり、ストーリーが進んでいくわけですが、殺人やら銃撃戦やら誘拐やらが次々と矢継ぎ早に起こっていく展開は、まさに「ジェットコースター・サスペンス」の名に相応しい。
このスピード感こそ、サスペンスとしての面白さを助長しているのだろうと思う。
サブキャラの造形にも工夫が凝らされ、単なる「流行の」作品ではない。

事件は警察組織や財界の大物などを巻き込んで、徐々に広がり、複雑化していくわけですが、最終的な収束の仕方にやや不満が残ったかなぁ・・・
ラストがややオリジナリティに欠ける(=よくある展開ってやつね)ような読後感になってしまうのは、中盤以降でやや風呂敷を広げすぎたことが原因なのだろう。
そういう意味では、もう一捻りあっても良かったかなという気持ちにはなった。

ただ、まぁ全体的には十分に及第点を付けれる出来にはあるでしょう。この手の作品が好きな方にはお勧め。


No.638 7点 陽だまりの偽り
長岡弘樹
(2012/02/10 23:14登録)
「傍聞き」でプチ・ブレイク(?)した作者の作品集。
作者らしい「味わい」のある作品が並んでます。

①「陽だまりの偽り」=主人公は「自分はアルツハイマーかもしれない」と怯える老人。その事実を認めたくないばかりに、つい生じる出来ごころ・・・。そして、最後に気付くある「思いやり」。いい話です。
②「淡い青のなかに」=夫と別れ1人で育てた息子が不良少年に・・・。そして、巻き込まれる交通事故。職場の管理職としての立場と母親としての立場。こういう急な場面で問われるのが、その人の本質って奴だねぇ。
③「プレイヤー」=主人公はとある市役所の課長。自身のちょっとしたミスからある男性が死亡してしまう。そして、そこから始まる苦悩の日々。確かに、社内の人事ってある意味面白いけどね、そればっか気にしてるとロクなことないよ!
④「写心」=主人公はある事件で会社を辞めた元カメラマン。家業を継いだがうまくいかず、追い込まれた男が選択した道は幼児誘拐。だが、幼児の母親との交渉の中で、自身を取り戻していく・・・。
⑤「重い扉が」=主人公の息子が巻き込まれた暴力事件。息子に負い目のある主人公の男性が真相を知ったとき取った行動に人間の「弱さ」を感じる。でもこの息子はエライ。

以上5編。
全て独立した作品ではあるが、人間の「保身」というものを共通のテーマとして感じた。
何か自分にとって都合の悪い事件に巻き込まれたとき、人間としてどのような行動をとるべきなのか。これが、作者が本作で言いたかったことなのだろう。
でも、何か分かる気もするなぁ。大人になればなるほど、肩書や立場が上がれば上がるほど、人間ってやつは自分がかわいくなってしまうものだろう。
そういう意味では、ついつい自分を本編の主人公に重ねながら読んでしまってました。

さすが、新たに誕生した「短編の名手」に相応しい作品だと思います。ラストで「ホッ」とさせられるのもいい。
個人的には「傍聞き」よりも上という評価。
(全て水準以上だと思うが、敢えていえば⑤が好みかな)


No.637 6点 切り裂きジャック・百年の孤独
島田荘司
(2012/02/10 23:13登録)
伝説の猟奇殺人鬼「切り裂きジャック」の謎解き(?)に取り組んだ意欲作。
実は影の「御手洗モノ」では・・・

~初秋のベルリンを恐怖のどん底に叩き込んだ、娼婦連続猟奇殺人。喉笛を掻き切り、腹を裂き、内臓を手掴みで引き出す陰惨な手口は、19世紀末ロンドンを震撼させた高名な迷宮入り殺人・切り裂きジャック事件と酷似していた。市民の異様な関心と興奮がつのる一方で、捜査は難航を極めた。やがて奇妙な人物が捜査線上に現れた・・・百年の時を隔てた2つの事件を完全解明する長編ミステリー~

「企み」としては面白い。
狂気以外で人間の体をここまで切り裂く理由を「合理的に」考えるのなら、まぁこういう所に落ち着くのだろうなというのが率直な感想。
本家の「切り裂きジャック事件」に対する考察は、もちろんフィクションなのだが、こういう安手のドラマのような展開に仕立てたところがちょっと微妙な感じ。
(どこまでフィクションで、どこまで事実なのかがよく分からん)

で、ベルリンの方の部分なのだが、「動機」的にはちょっと弱いよなぁー。
ロンドンの方は100年前ということで、まだ信憑性が保てているが、今の世の中でこの動機でここまでする奴いるかなぁ・・・?
ロジック的には納得したのだが、やっぱり心理的には抵抗のある真相だろう。

全体として、作者初期の作品としてはやや小粒にまとまりすぎたかなという印象が残った。
(やっぱり、最後に登場する「東洋系の人物」が御手洗なのだろうか)


No.636 6点 ブラウン神父の秘密
G・K・チェスタトン
(2012/02/05 22:30登録)
「童心」「知恵」「不信」に続く、ブラウン神父の作品集第4弾。
さすがにここまでくると、過去の作品の焼き直し的なものが増えてきた印象はある。

①「大法律家の鏡」=殺人現場に2時間も留まっていた1人の詩人が容疑者にされるが、「詩人というものは同じ場所に2時間留まっても何ら不思議はない」というブラウン神父の解釈がきれいに嵌まる。
②「顎ひげの二つある男」=過去の作品でもよく出てきたプロットのように思える。まぁ短編らしい切れ味は感じるが・・・
③「飛び魚の歌」=これは確かにチェスタトンらしさ全開の作品で、ロジックがきれいに嵌った印象はある。ただ、いくら夜目&先入観ありとはいっても、そこまで感ちがいするかなぁーというのが現実的感想では?
④「俳優とアリバイ」=これは一応「密室殺人」を志向した作品なのだろうか? アリバイトリックというほどのものではないが、架空の人物の使い方はさすがにうまい。
⑤「ヴォードリーの失踪」=この殺害方法は相当大胆なもので、大胆なだけに死角をついていると言える。最後に明かされる動機もなかなか・・・
⑥「世の中で一番重い罪」=これも度々登場するプロット。要は「入れ替わり」なのだが、ブラウン神父が現場の些細なことからそれに気付く辺りが作者のうまさ。
⑦「メルーの赤い月」=これは何だかよく分からなかった。ブラウン神父は結局何が言いたかったのか? 本筋とは関係ないが、「東洋」に対するこの時代の欧米人の捉え方が垣間見えるのが興味深い。
⑧「マーン城の喪主」=プロットの肝はまたまた「入れ替わり」なのだが、本作はそんなことより、ブラウン神父が最後に力説する宗教感とでも言うべき主張が読み所。これって、要はチェスタトンの宗教感ってことだよね。

以上8編。
本作は上記の8編について、ブラウン神父がフランボウとアメリカ人観光客・チェイス氏に語って聞かせるという形式になっている。
冒頭では、事件を決して外面から見ず、内面から感じるのだというブラウン神父の「推理法」が語られるのが面白い。
そして、終章「フランボウの秘密」では、ラストの1ページが何とも気が利いてる。

ただ、1つ1つの作品のレベルは、やっぱり前3作よりは劣後してるのは否めないかな。
(中では①③辺りが、「らしさ」を感じられる作品だとは思う)


No.635 7点 どこまでも殺されて
連城三紀彦
(2012/02/05 22:27登録)
1992年発表のノンシリーズ長編。
実に連城らしい、用意周到に張り巡らされた伏線が見事な作品。

~「どこまでも殺されていく僕がいる。いつまでも殺されていく僕がいる」。七度も殺され、今まさに八度目に殺されようとしているという謎の手記。そして高校教師・横田のもとには、ある男子生徒から「僕は殺されようとしています。助けてください」という必死のメッセージが届く。生徒たちの協力を得て、殺人の阻止と謎の解明に挑むが・・・~

とにかくプロットが見事。
冒頭からいきなり『七回も殺された』という男の手記が登場し、早速作者独特の作品世界に引き込まれてしまう。
ファンタジーか妄想としか考えようのない話なのだが、きっと合理的解決が成されるのだろうと、ついつい期待してしまう。

そして、ある高校を舞台に、1人の優等生の心の闇があからさまにされていく展開に・・・
『七回殺された』という不合理については、ほぼ「そうだろうなぁ」という推理が行われるが、実はそこからがこの作品のスゴイところ!
確かに伏線はいろいろと張られてあったんだよなぁ、と気付いたのは読了後。
とにかく「見せ方」が秀逸なのでしょう。
同じようなプロットは他の作家でも十分に捻り出せるとは思うが、作者の何とも言えない「ジメジメした筆致」にかかると、独特の読みごごちと読後感を持ってしまう。

コンパクトな分量で余計なサイドストーリーへの寄り道などがないのも好評価。
(とにかくうまいねぇ・・・)


No.634 5点 プリズン・トリック
遠藤武文
(2012/02/05 22:25登録)
第55回江戸川乱歩賞受賞作。
今回、問題の「ある人物からの手記」が巻末に収められた「完全版」として文庫化。

~市原の交通刑務所内で、受刑者・石塚が殺され、同所内の宮崎が逃亡。遺体は奇妙にも「前へならえ」の姿勢をとっていた。完全な密室で起きた殺人事件は、長野・安曇野を舞台にした政治汚職事件にまで波及していく・・・。「乱歩賞史上最大級の問題作」(!)とも言われた作品だが・・・~

確かに、巷の評価通り「瑕疵の目立つ」作品なのは間違いない。
ただ、全体的な評価としては、乱歩賞選考委員である恩田陸氏のコメントどおりで「ひとことで言うと、志が高い。描こうとしている絵の大きさや、やろうとしていることのハードルの高さに惹かれた。」ということになるのだろう。

中盤以降、視点人物がつぎつぎ入れ替わるというのは、やっぱり「いただけない」。
特に「中島」(登場人物ね)などは、果たして視点人物として必要だったのか、たいへんに疑わしい。
また、探偵役として事件を推理&探究するのは、結局誰だったのか? それっぽく登場している武田警視にしても、自身の立場や家庭環境に憂うという役回りばっかりで、事件の探求はさっぱり・・・
「傷だらけ穴だらけの中盤」という東野圭吾氏の選評も「そうだなあ」と頷かざるを得ない感じ。
(「密室」の処理の仕方もちょっとヒドイ)

そして、単行本では「衝撃のラスト」だったろう、最後の1行。
これも、ミステリー好きなら十分に「予想範囲内」じゃないかな?
今回追加された「ある登場人物の手記」で、一応は作品全体に貫かれる動機や構図が明らかにされたのはまぁよかった。

というわけで、どうしても「穴」を付く書評になってしまいますが、処女作品ということを考えれば、それはそれでスゴイこと。
(交通刑務所の様子が詳細に描かれた「序章」が、個人的には本作の白眉だったなぁ。)


No.633 6点 愛は血を流して横たわる
エドマンド・クリスピン
(2012/02/01 22:02登録)
名探偵・フェン教授登場作品。
全部で9作しか長編を書いてない作者ですが、本作はちょうど脂の乗った中期の作品。

~化学実験室からの薬品盗難、終業式の演劇に出演する女子生徒の失踪という不祥事の連続に、スタンフォード校長は頭を抱えていた。だが事態はそれだけに留まらず、終業式前に2人の教師が殺されるという惨事まで発生するに至り、校長は来賓として招待していた名探偵・フェン教授に助力を求めた。早速赴いた犯行現場で、鋭い推理を披露するフェンだが、なんと翌日には第3の殺人が・・・
卓越した着想とユーモアに溢れた英国探偵小説の傑作~

本格ミステリーとしてのプロットはよくできていると思った。
「学校」を舞台とした連続殺人事件というのは、英国の本格物ではよく目にするが、本作も何となく既視感のある展開。
当初は連続殺人をつなぐ「環」が見付からないが、「○○ーク○○アの○○」という大きな「動機」が判明してからはほぼ一直線。
フェン教授の推理は、物証などから丹念に演繹していく推理方法で、なかなか読み応えがあった。
軽いタッチの文章は好みは分かれそうだが、読みやすさはかなりのもの。

ただ、この真犯人はどうかなぁ・・・
特定されたロジック自体には何の不満もないが、この人物に対する描写があまりにも少ないので、いざ「こいつが真犯人だ!」と指摘されても、「こいつ誰だっけ?」というのが個人的には最初の感想だった。
犯人が弄したアリバイトリックも、ちょっとお粗末な気がするのも事実。

などという不満もあるのだが、全体的には好感の持てる作品なのは間違いなし。
欲を言えば、もう少し登場人物を絞って、人物造形に深みを持たせてくれればなおいいのだが・・・


No.632 7点 メルカトルと美袋のための殺人
麻耶雄嵩
(2012/02/01 22:00登録)
銘探偵・メルカトル鮎登場の作品集第1弾。
メルカトルのキャラはかなり強烈でブッ飛んでますが、プロットそのものは短編らしい作品が並んでます。

①「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」=密室トリックとアリバイトリックの融合自体は「よくある手」ですが、まさか「○○学習」がトリックの鍵になっているとはねぇー。そういやぁ、むかし、雑誌の巻末広告なんかでよく見たよな・・・
②「化粧した男の冒険」=「木は森に隠せ」とはブラウン神父から脈々と受け継がれているトリックの1つですが、本作もいわばその変形(メルカトルもそう言ってますが・・・)。これは、非常にシンプルなプロット。
③「小人間居為不善」=メルカトルが自身の探偵事務所に事件を呼び寄せるために出したDM(ダイレクトメール)。それに掛かった1人の富豪が、彼に身辺の警備を依頼しますが、実は・・・という流れ。これはプロットからして面白い。
④「水難」=ちょっとオカルトめいた作品だし、トリックそのものはなかなか大掛かり。ただ、事件現場の状況が美袋らの説明だけではやや分かりにくいのが難。真犯人特定のロジックはいいと思うが・・・
⑤「ノスタルジア」=メルカトルが「犯人当て小説」を書き、美袋に挑戦するという変わったプロット。まぁ、メルカトルが小説を書くという時点で普通じゃないわけで、やっぱり真相も普通じゃなかった。
⑥「彷徨える美袋」=学生時代の友人を巡った事件に巻き込まれ、殺人犯の疑いをかけられてしまう美袋。当然ながら、メルカトルに真相究明を依頼するわけですが、真相はとんでもないことに・・・
⑦「シベリア急行西へ」=これも珍しい。シベリア鉄道の列車の中で発生する殺人事件って、まさかトラベルミステリー(!?) これも一種の密室を取り扱っているが、トリックそのものはよくある手だと思う。

以上7編。
最初にも書いたように、キャラの奇天烈さ以外は、実に正調なミステリー短編作品と言っていい。
ロジックもシンプルだが、よく効いてる作品が多く、作者のミステリー作家としての資質&力量が推察できる。
まぁ、長編ほどのクドさがないので、逆に「麻耶キチ」(そんな言葉あるのだろうか?)にとっては物足りないのかもしれないが・・・
(①~④はどれも水準以上。逆に⑤~⑦は水準以下のように感じた)


No.631 5点 名探偵に薔薇を
城平京
(2012/02/01 21:58登録)
第8回鮎川哲也賞最終候補作であり作者の長編処女小説。
2部構成で独特の味わいを持ったミステリー。

~始まりは各種メディアに届いた『メルヘン小人地獄』だった。それは途方もない毒薬を作った博士と毒薬の材料にされた小人たちの因果を綴る童話であったが、やがて童話をなぞるような惨事が発生し、世間の耳目を集めることに。第一の被害者は廃工場の天井から逆さに吊るされ、床には血文字、そして更なる犠牲者・・・。膠着する捜査を尻目に、招請に応じた名探偵の推理はいかに?~

正直、評価が難しいなぁ。
ただ、思ったより世間的な評価が高いのは驚いた。
2部構成のミステリーで、第1部では『メルヘン小人地獄』という童話の見立て殺人をめぐる謎。
それは、名探偵・瀬川みゆきの卓越した推理力であっけなく解決される。そして、第2部では更なる殺人と、名探偵たる瀬川の苦悩が書かれる・・・

うーん。あまり興味ないんですよねぇ・・・、名探偵の「苦悩」などというテーマには。
第2部は、途中から真相が二転三転しますが、第1部であれだけ快刀乱麻の活躍をした名探偵としては、何だかお粗末な気がしてしまう。
それがまぁ「苦悩」なんだということかもしれないが、「ふーん」という感想しか湧いてこない。
こういう作品を「後期クイーン問題」などというお題目で評価するのもどうかなぁという感じ。

何だが全否定のような書評になりましたが、作者の「読ませる力」というのは十分に感じることはできた。
(やっぱり鮎川哲也賞のレベルは高いね)


No.630 6点 エラリー・クイーンの冒険
エラリイ・クイーン
(2012/01/28 00:01登録)
名探偵E.クイーンが大活躍する作品集。
短編になり、ますますロジックの冴えた作品が並んでるなあという印象。

①「アフリカ旅商人の冒険」=エラリーが大学の教授となり、3名の学生に探偵術を指南するという趣向が面白い。学生が示した解答を全て退け、エラリーが解き明かす解答は、まさに「意外な真犯人」っていうやつ。
②「首つりアクロバットの冒険」=他に手っ取り早い殺害方法があるにも拘わらず、無理やり首つり殺人という方法を選んだ謎。ロープの結び目という1つの事象から全てが解き明かされる。
③「一ペニイ黒切手の冒険」=こちらは、ホームズものの名作「六つのナポレポン像」を思い起こさせるプロット。貴重な古切手が盗まれるが、ばら撒かれた証拠は全て○○○だったということ。
④「ひげのある女の冒険」=これは一種のダイイング・メッセージもの。それはいいのだが、この真相はあまりにもリアリティがないのではないか? いくら隠ぺいしたとしても、普通気付くよ!
⑤「三人のびっこの男の冒険」=殺人&誘拐現場に残った3人分の靴の跡。しかも全てが「びっこ」のような跡だった・・・。真相は短編らしい逆転の発想。ありがちといえば、ありがちだが。
⑥「見えない恋人の冒険」=本作のエラリーはなかなかアクロバティック。墓あばきにより、死体の検分を行った結果、「意外な真犯人」が判明する。これは切れ味のあるロジックが決まった作品。
⑦「チークのたばこ入れの冒険」=殺人現場に残された「たばこ入れ」から導かれるエラリーの明快なロジック。これも「意外な真犯人」というプロットなのだが、ちょっと分かりにくい印象。
⑧「双頭の犬の冒険」=旅の途中のエラリーが事件に巻き込まれていく様子がなかなか面白い。ただ、中身そのものはあまり感心しないが・・・
⑨「ガラスの丸天井付き時計の冒険」=これもダイイング・メッセージものだが、やや変化球気味。「閏年」をテーマにしたロジックがなかなか珍しい。ただ、そこまであからさまなことするかなぁ・・・という疑問は残る。
⑩「七匹の黒猫の冒険」=猫嫌いのはずの老婦人が、なぜか毎週黒猫を1匹ずつ買い求める謎。これは「謎」としてはかなり魅力的。
事件は殺人&殺猫(!)事件に発展するが、これもラストは「意外な真犯人」が華麗に指摘される。

以上10編。
さすがにクイーンは短編になってもクイーンってことかな。
どれも徹底したロジックが特徴的ですが、何となく「ロジックのためのロジック」というような作品も混じっている印象。
まぁ、でも読者が推理していくには楽しい作品が揃っているので、そういう意味ではやはり読む価値有りでしょう。
(①⑩が中ではお勧めかなぁ。ダイイング・メッセージものはちょっといただけない気がした)


No.629 5点 天使の眠り
岸田るり子
(2012/01/27 23:58登録)
2006年発表の長編第3作目。
女性ならではの視点が生かされた独特のミステリー。

~京都の医大に勤める秋沢宗一は、同僚の結婚披露宴で偶然13年前に別れた恋人・亜木帆一二三(ひふみ)に再開する。不思議なことに、彼女は未だ20代の若さと美貌を持つ別人となっていた。昔の激しい恋情が蘇った秋沢は、一二三の周辺を探るうちに驚くべき事実をつかむ。彼女の愛した男たちが、次々と謎の死を遂げていたのだ。気鋭が放つ、サスペンス・ミステリー~

プロットは面白いが、無理やり感が漂う気がした。
例えるなら、最初に「入れ物」があって、そこに何とかして「中身」を押し込んだ・・・とでも言えばいいのだろうか。
謎の中心は、「一二三が本物かどうか」という点と、「過去のパートナー(夫)が殺されたのどうか」という2点に絞られる。
が、最初から如何にも怪しげな人物が、さも関係ありそうに登場しているので、途中でだいたいのカラクリには気付いてしまった。
文庫版あとがきで解説の千街氏が、本書について「心理トリックとストーリーの融合の見事さ」に触れてますが、確かに秋沢の視点と感情がうまい具合にミスリードを誘うように工夫されてるのが、作者のうまさだとは思う。

ただなぁ・・・動機はまぁいいとして、こんな犯罪そもそも思いつくか??
相当割に合わない犯罪のような気がしてならないし、この「連続殺人」は背景から考えても真犯人にとって危険性が高すぎるのでは?
この辺りが「入れ物」に無理やり詰め込んだような感覚、言い換えれば「プロットのためのプロット」のような気にさせられるのだ。
これがやっぱり気になった。

トータルの評価ではこんなもんかなぁー
(因みに、「致死性家族性不眠症」は実在する病気で、その原因は本当にプリオンのようです。)


No.628 6点 ジェネラル・ルージュの凱旋
海堂尊
(2012/01/27 23:55登録)
田口&白鳥シリーズの3作目。
2作目の「ナイチンゲールの沈黙」とほぼ時を同じくして東城大病院で巻き起こる事件の顛末が描かれます。

~伝説の歌姫が東城大学医学部付属病院に緊急入院した頃、不定愁訴外来担当の田口のもとには匿名の告発文書が届いていた。「将軍(ジェネラル)」の異名をとる救命救急センター部長の速水医師が特定業者と癒着しているという。高階病院長から依頼を受けた田口は仕方なく調査に乗り出すことに・・・~

ちょっと失敗したなぁー
前作(もしくは並作というべきか)「ナイチンゲールの沈黙」を読んでから時間が経ってしまったため、その辺の関連性が若干よく分からなかった。(まぁあまり関係ないとも言えるが・・・)
でも、相変わらずのスピード感&プロットの妙って言えばいいのか、とにかく見事な医療エンタメ小説だと思います。
ミステリー要素云々でいうなら、「謎解き」部分は皆無に等しいのであるが・・・

今回のテーマである「救急医療」というのは、確かに現代医療にとっても重要課題の1つであり、この作品の主人公である速水医師のような存在がなければ、恐らく救急医療は崩壊してしまうのだろう。
個人的には、佐藤医師がリスクマネジメント委員会で言い放った台詞(速水医師に対するヤツね)と、その後の速水の佐藤に対する態度が最も印象的だった。
これこそ、ワガママで独善的と言われながらも、その肩に重い責任を負って生きている男の矜持なんだろう。

せっかく久々に本シリーズを読了したので、次作以降も早めに読んでおこう。
(姫宮がこの後桜宮病院に潜入するということは、「螺鈿迷宮」に続くわけですよね・・・)


No.627 7点 消えた奇術師
鮎川哲也
(2012/01/21 21:33登録)
名探偵・星影龍三登場作品をまとめた光文社文庫版の作品集。
名作の誉れ高い「○い密室」シリーズも収録した「お得」な1冊。

①「赤い密室」=やっぱりこれは名作中の名作。ごく短い作品だが、逆に余計な部分は一切なく、ロジックに徹しているところがいい。
「密室」トリックとはこうあるべきだし、これこそ「困難は分割せよ」の見本。
②「白い密室」=これは「雪密室」の見本。とはいえ、赤・青に比べると落ちるよなぁ・・・ロジックはまぁ分かるのだが、それ以外の動機やら何やらが弱いので、何となく全体的にグラグラしている印象。
③「青い密室」=ロジックが見事な密室。ラストの星影の推理は戦慄すら感じた。今現在から見れば、ありふれたサプライズではあるのだが、短いだけに切れ味が鋭い。
④「黄色い悪魔」=これはどうかなぁ・・・ まぁ思惑とは違う「密室」という視点は面白いが、やっぱり若干こじつけ感はある。アナグラムも本筋とあまり関係なく、単なるお遊び程度。
⑤「消えた奇術師」=短い作品だが、これも逆転の発想が見事に決まっている。ただ、トリックそのものはすぐに想像がつくレベルではあるが・・・
⑥「妖塔記」=①~⑤とは若干趣の異なる作品(田所警部も出ないしね)。トリックの要点はこれまでと同様、逆転の発想。ここまでくると、トリックはほぼ予想どおり。

以上6編。
さすがに秀作が揃ってるっていう感じ。今さら改めて書評する必要はないかもね。
『田所警部=星影龍三コンビ』って、そのまんま『名なしの私立探偵=三番館のバーテン』と同じイメージ。
(①は言わずもがなの名作。あとはやっぱり③でしょう)


No.626 7点 さよならドビュッシー
中山七里
(2012/01/21 21:31登録)
第8回「このミス」大賞受賞作。
ミステリー・プラス・音楽スポ根(?)とでも言うべきか・・・

~ピアニストからも絶賛! ドビュッシーの調べに乗せて贈る音楽ミステリー。ピアニストを目指す遥、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、一人だけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが、周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生するが・・・~

素直に楽しめしたし、面白かった。
他の方の書評のとおり、ミステリーとしては確かに稚拙かもしれないし、オチも分かりやすい。
それは認めます。
特に火事の場面の伏線があまりにも分かりやすくて、ラストの大オチもミステリーを読み慣れた読者なら予想はつくはず。
「殺人」についても、これでは無理やりミステリーっぽくするために、取ってつけたような感じが拭えない。

それでも、作者の筆力というか、読者を引き込む力というものは確かに感じた。
「クラシック音楽」は全くの門外漢だが、いつの間にか頁をめくる手がやまなくなるような感覚・・・これこそやはり読書の醍醐味だろう。
(まぁ、ミステリー的評価とは本来別かもしれないが・・・)

次々と新作を発表する作者の力量はやはり確かだったということかな。
(全身皮膚移植というのは、現代の医学的に見てもリアリティのあることなのだろうか?)


No.625 7点 赤毛のレドメイン家
イーデン・フィルポッツ
(2012/01/21 21:29登録)
ミステリーランキングには必ず名前を挙げられる1922年発表の名作。
江戸川乱歩が激賞し、自身が「緑衣の鬼」として翻案した作品としても有名。

~1年以上の月日を費やして、イギリス・ダートムア地方からイタリア・コモ湖畔に起こる三重四重の奇怪なる連続殺人事件。犯人の脳髄に描かれた精密なる「犯罪設計図」に基づいて、一分一厘の狂いもなく着実冷静に決行されていく。三段構えの逆転と、息もつかせぬ文章の味は、万華鏡の如く絢爛として、緻密であり、サスペンスに富み重厚なコクのある世界的傑作~

う~ん。さすがですねぇ・・・
数多のランキングで上位に押される作品だけはある。
それだけの気品というか、オーラを確かに内包している。
「緑衣の鬼」を既読のため、フーダニットについてはほぼ最初から予想がついていたものの、それでもプロットの妙は十分に味わえた。
もちろん90年近く前の作品だし、古めかしさは隠せず、純粋なミステリーとしての評価よりは、ミステリー部分+文学的要素としての評価をすべきなのでしょう。

しかしまぁ、ジェニーこそ「毒婦」の極みだねぇー
ジェニーに手玉にとられるブレンドンの哀れなこと・・・他人事とは思えなかった(!)
真犯人の造形の見事さも本作のグレードを高めている要因なんだろう。

かなりボリュームのある作品ですが、未読の方は十分一読の価値はありだと思います。
(できれば、本作→「緑衣の鬼」と読むべきだろうなぁ。個人的に逆になったのは失敗だった)


No.624 6点 ミハスの落日
貫井徳郎
(2012/01/15 15:22登録)
すべて外国の都市を舞台にしたノン・シリーズの作品集。
街の魅力的な風景が目に浮かぶようで、トラベルミステリー的な味わいも感じられます。

①「ミハスの落日」=スペインの観光都市・ミハスが舞台。30年前に起こったある密室殺人の謎が明らかにされますが、トリックそのものは超偶然の結果というもの。本作は「後期クイーン問題」とも絡めて描いたと作者は語ってますが、イマイチ伝わらず・・・
②「ストックホルムの埋み日」=主人公は伝説的な刑事を父に持つ男・ロルフ。父の人生を否定しながら自身も刑事となり、気付けば父と同じ境遇と化していた自分・・・既視感はあるが、なかなか味わい深い。
③「サンフランシスコの深い闇」=3人の夫がすべて亡くなり、そのたびに保険金を受け取る美女。当然、保険金殺人の疑いがかかるわけですが、美女の過去や身辺を探るうちにある疑惑が浮かび上がってくる。
④「ジャカルタの黎明」=売春婦が連続して殺される事件が発生しているジャカルタ・コタ地区。ハンサムな夫と別れた主人公の売春婦が夫殺しの疑いをかけられるが・・・。ラストはサプライズある真相が明らかになる。
⑤「カイロの残照」=主人公はツアーガイドの男。あるアメリカ人美女のガイド役を務めることになったが、美女からある事件に関する協力を求められることに・・・そして、男にも危険が及ぶことになるが、意外なラストが訪れる。

以上5編。
5編は完全に独立した話だが、「美女が登場し、それが事件に深くかかわってくる」という共通項がある。
(やっぱり、「事件の陰には女あり」ということなんでしょうね)
貫井氏らしいトリックや練られたプロットなど、ミステリー的なインパクトを期待すると、ややスカされる感じはあるが、どの作品も深い味わいがあり、さすがに作家としての懐の深さを感じさせる。
旅のお供には良い作品でないでしょうか。
(④⑤辺りがお勧め。因みにストックホルムの街中は美女で溢れているらしいです。住んでみたい・・・)


No.623 5点 死刑台のエレベーター
ノエル・カレフ
(2012/01/15 15:21登録)
1956年発表のサスペンス。
元々映画の方で有名だった作品ですが、近年日本でも映画化され話題に・・・

~緻密に練り上げた完全犯罪を実行したジュリアンは、その直後に思わぬことからエレベーターに閉じ込められてしまう。36時間後にようやく外に出た彼を待ち受けていたのは、思いもよらない身に覚えのない殺人容疑だった。エレベーターに閉じ込められていた彼にはアリバイがない。しかも、閉じ込められた理由は決して話せないのだ。偶発する出来事が重なる中で追い詰められていく男の焦燥と苦悩を描き切ったサスペンスの傑作~

決して「つまらない」わけではない・・・という微妙な読後感。
ストーリーは、主人公であるジュリアンのほか、彼の妻や兄、そして2組のカップルと多視点で語られていくが、中盤まではジュリアンが苦境に追い込まれる過程が分かるのみ。
そして、終盤はにっちもさっちもいかなくなり、袋小路に追い込まれていくジュリアンの姿が描かれていく。

個人的には、本作一番の読み所はサスペンス要素ではなく、登場人物たちの「エゴイズムのぶつかり合い」ではないかと思います。
正直、サスペンス的にはたいしたことはない。
「男の欲望」と「女の欲望」が、それぞれ嫌らしく交錯し、1人の人間がついには罪を負ってしまうことの刹那・・・
その辺が、映像化に向いているところなのでしょう。
(とにかく、ジュリアンの妻・ジュヌビエーブが嫌な奴・・・)


No.622 8点 覆面作家
折原一
(2012/01/15 15:19登録)
初期の「叙述トリック全開!」作品。
実に折原らしい、折原にしか書けないストーリー&トリック。

~顔に白頭巾をかぶって、ひたすらワープロを打ち続ける男。行方不明だった推理作家・西田操は7年振りに帰還して長編「覆面作家」の執筆に取り掛かった。それが、憎悪と殺意の渦巻く事件の発端だった。劇中の小説と現実が激しく交錯し、読者を夢魔の世界に誘い込む。真相は覆面作家だけが知っている・・・~

これは好きだなぁ・・・
今回再読なのだが、こういう作品を読んだことがきっかけで「折原好き」になったんだよねぇ・・・
当初、立風書房から出た単行本の帯には、「化けの皮は何枚被っているのか?」というコピーが付いていたらしいのですが、まさにこの言葉がピッタリ。

2人(?)の「覆面作家」が織りなす作品世界が徐々に歪んでいき、「いったいこの話は何重構造なのか?」と思わされてしまう。
ここで終わると「メタミステリー」っぽくなるが、本作は一応の合理的解決が付けられるところがミソ。
もちろん、かなりこじつけっぽいところはあるにはあるが、こんな奇想天外な話にオチを付けるだけでも十分満足。
さらに、ラストに2度ほどひっくり返されるが、そこはやや蛇足気味かな・・・

まぁ、もちろん「嫌いな人は嫌い」だとは思いますが、シャレの分かる方には十分お勧めできる作品かと思います。
(「覆面作家」って、モデルはやっぱり北○ ○氏のことなのかな?)


No.621 5点 悪魔に食われろ青尾蠅
ジョン・フランクリン・バーディン
(2012/01/09 21:45登録)
1948年に発表されたサイコ・サスペンス風ミステリー(と言えばいいのか)。
1人の女性音楽家をめぐって、まるでエンドレスストーリーのような展開が・・・

~精神病院に入院してから2年、エレンはようやく退院が許された。愛する夫の待つ家に帰り、演奏活動再開を目指し練習を始めようとするが、楽器の鍵の紛失に始まり、身辺では不穏な現象が相次ぐ。そして、久々の日常に改めて馴染もうとするエレンを嘲笑うがごとく日々増大する違和感は、義姉が連れてきた男を見た途端に決定的なものになる。封印されていた過去がもたらす悪夢の果てに訪れる衝撃の結末とは・・・~

これは正直よく分からん!
他の方の書評どおり、確かに出版された年代を考慮すれば、本作の先進性は明らかだし、賞賛に値するものなのでしょう。
創元文庫版のあとがきによれば、アメリカではこの年代に同種の作品がそれなりに発表されていたようですし、特に「精神分析」というテーマが登場するのもこの頃のようです。
主人公であるエレンの「頭や心の中の深遠」が次々に描かれ、これは現実なのか、妄想なのか、はたまた夢なのか、読者にとっては五里霧中で、とにかく最後まで翻弄され続けます。

ただ、個人的には好みの方向性ではなかったなぁ・・・
再読すればもう少し腑に落ちるのかもしれないが、やっぱり現実と仮想の区別が今一つはっきりしないという状況では、オチの衝撃度も味わいきれてない気がしてならない。
そういう意味では、読み手を選ぶ作品という印象。
(こんなに薄い本なのに、時間かかったなぁ・・・)


No.620 7点 刺青殺人事件
高木彬光
(2012/01/09 21:43登録)
江戸川乱歩の推薦を受け、1948年に発表された作者の伝説的処女長編。
名探偵、神津恭介の初登場や、日本家屋での密室殺人など様々な形容詞を伴って語られる作品ですが、今回はハルキ文庫版にて読了。

~東大医学部標本室に残された100体もの刺青を施された人皮。中でもひときわ目を引くのは、極彩色に彩られた妖術師「大蛇丸」
の妖艶かつ不気味に浮かび上がる刺青であった。そして、この刺青こそかつてそれを巡っての、怪しくも狂おしい一連の殺人事件を引き起こしたものに他ならなかったのだ。巧緻に仕組まれた密室の謎が紡ぎ出す奇怪な惨劇に名探偵・神津恭介が挑む。日本推理小説史上に燦然と輝く不朽の名作!~

今さら私なんぞが書評するべき作品でもないとは思いますが・・・
読了してみて、やはり歴史的な意義の大きい作品であることは間違いと再認識させられました。
もちろん、2012年の現在から見れば、齟齬や不満点もあるにはあるのですが、それを指摘するのは野暮というものでしょう。

(とは言いつつも・・・)
まず「密室」ですが、浴室を舞台にした機械的(初歩的だが)トリック。説明文を読んで一応は納得したが、正直感心はしなかった。まぁこれについては、多くの方が指摘しているとおり、物理的効果を狙ったものではなく、「心理的効果」を狙った密室なのだというロジックでまずは納得。
個人的には、本作一番の白眉は「密室」ではなく、「胴体のない死体」とアリバイトリックとの連動性だと思います。
更に、「双子」と「刺青」という要素も絡んでくるわけですし、ラストで神津によって明かされる「逆転の発想」が後世に与えた影響は大きいと思うなぁ・・・
(個人的には、島田荘司「出雲伝説7/8」のトリックを思い出してしまった・・・)
ヴァンダインの向こうを張った「心理試験」が、囲碁と将棋というのも日本的で何か好感を持った。

「刺青」やら「三すくみ」といった不気味な装飾を施して煙に巻いていますが、真犯人の造形を含め、本作の骨子或いはプロットは非常にシンプルなものではないかと思います。
いずれにしても、紹介文のとおり、日本推理小説史上に欠かすことのできない作品という評価は否定できないでしょう。

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