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ミステリの祭典

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平均点:6.01点 書評数:1812件

プロフィール| 書評

No.912 5点 まどろみ消去
森博嗣
(2013/08/25 14:02登録)
1997年に発表された作者初の短編集が本作。
全11編から成る作品集のうち、2編だけがS&Mシリーズの流れを汲むものになっている。

①「虚空の黙祷者」=これはいきなりエグいシュートボールを放られたような感覚。田舎ののんびりとした光景のなかに、二人の悪意というか心の闇が最後に明らかにされる。
②「純白の女」=一応、ラストにサプライズが用意されてはいるのだが、正直肩透かしのように思えたのは私だけだろうか。ミステリーというよりはファンタジックな作品。
③「彼女の迷宮」=いわゆる「作中作」とでもいうべきガジェットが盛り込まれた作品。作中作で採り上げられた「謎」はかなり魅力的なのだが(何しろ、死体から髪や足が生えるんだから・・・)、これ自体は本筋ではなく、置いてけぼりにさせられる・・・
④「真夜中の悲鳴」=これはサスペンス的な味わいの作品なのだが、そういう意味での盛り上がりには欠ける。まぁ小洒落たラストが用意されてはいるのだが・・・
⑤「やさしい恋人へ僕から」=これは「叙述トリック」なのだろうか?? 
⑥「ミステリイ対戦の前夜」=ここにきて初めて萌絵が登場。いつもの研究室ではなく、ミステリ研の一員としてなのだが、これも真相自体は腰砕け気味。
⑦「誰もいなくなった」=本作で唯一、犀川&萌絵が登場するのが本編。踊る30人のインデイアンが忽然と消失する・・・と書くと、いつもの森ミステリーらしいトリックを期待してしまうのだが・・・これって、遠目でも分かるんじゃないかなぁ(?)
⑧「何をするためにきたのか」=これって、森先生自身がモデルなのだろうか?
⑨「悩める刑事」=さすがにラストのオチは予想がついてしまった。まぁ、合わない仕事ほどキツイものはないよね。
⑩「心の法則」=このタイトルの意味って? ちょっとよく分からなかった。
⑪「キシマ先生の静かな生活」=これも作者らしい価値観を感じる作品。文系の人間はこうはなれない。

以上、全11編。
他の方も書いているとおり、「実験的」とでも言いたくなる作品集。
作品を通して、作者の考え方や価値観、物の見方・捉え方のようなものが見え隠れしていて、作者のファンにとっては「いかにも」という思いを感じられる作品だろう。
トリックやロジックの効いた作品はないが、ラストの反転やツイスト感はさすがという感じ。

でもまぁ長編よりもこっちがいいとは決して思わないけどね。
(飛び抜けていい作品はなし。好みとしては①と⑦になる。)


No.911 6点 見えないグリーン
ジョン・スラデック
(2013/08/25 14:01登録)
本業はSF作家である作者が著したミステリーがコレ。
1977年に発表され、本格ファンの絶賛を浴びた長編作品。

~ミステリー好きの集まり「素人探偵会」が35年ぶりに再会を期した途端、メンバーのひとりである老人が不審な死を遂げた。現場はトイレという密室・・・。名探偵・フィンの推理をあざ笑うかのように、姿なき殺人鬼がメンバーたちを次々と襲う。あらゆるジャンルとタブーを超越したSFミステリー界随一の奇才が密室不可能犯罪に真っ向勝負! 本格ファンを唸らせる奇想天外なトリックは?~

本格ミステリーとしてファンの心をくすぐる道具立ては揃った!
そんな感じの作品。
被害者も加害者もある特定の集団のなかにいて、被害者が増えるごとに容疑者の範囲も狭まっていく。
要はCCモノの面白さを備えてるということかな。

密室やアリバイトリックも出されているけど、どちらかというとそれよりも真犯人絞込みのロジックの方にキレを感じる。
意味深なタイトルが最終的に効いてくるところも好ましい。
この辺りは、巻末解説で鮎川哲也&法月綸太郎の両氏も述べているとおり、いわゆる「新本格」に似たテイストと言えそう。
(意外な真犯人、意外な動機も含めてそういう雰囲気あり)

難を言えば全体的にちょっと分かりにくいところか(訳文のせいかもしれないが・・・)。
登場人物についての書き込みも不足気味なので、スムーズに読めるというよりは、引っ掛かり引っ掛かりながら・・・という感じになった。

まぁ本格好きなら、一度は読んでおいて損はない作品といえそう。
でも個人的にはそれほど高評価すべきとは感じなかった。
(鮎川氏が本作と「ホッグ連続殺人事件」を激賞しているけど、どっちも個人的には今ひとつって感想なんだよなぁ・・・)


No.910 6点 追悼者
折原一
(2013/08/25 13:58登録)
文藝春秋社で折原といえば・・・かれこれ10年以上続けて新作が発表され続けている「○○者」シリーズ。
というわけで、今回は現実に起きた「東電OL殺人事件」をモチーフとした、その名も「追悼者」。
主人公が”売れないノンフィクション・ライター”という設定は拘りなのでしょうか?

~東京・浅草の古びたアパートで絞殺された女性が発見された。昼間は大手旅行代理店の有能な美人OL、夜は場末で男を誘う女・・・。被害者の二重生活に世間は注目した。しかし、ルポライター・笹尾時彦は彼女の生い立ちを調べるうち、周辺で奇妙な事件が頻発していたことに気付く。「騙りの魔術師」が贈る究極のミステリー~

世間的な評価は他のシリーズ作品と比べて高いようなのだが・・・
処女作品以来、数多く作者の作品に接している身としては、「並み」という評価になるなぁ。
とにかく既視感アリアリなのだ。

インタビュー記事や手紙などをプロットの軸に据え、主人公のノンフィクションライターが事件関係者の過去や周囲をほじくっていく、という展開は、これはもう「○○者シリーズ」の定番。
そして、次第に主人公の周囲に怪しい事件が頻発するようになり、謎の人物が次々に登場してくる。混沌とした中盤を経て、「これどうなってるの?」と思ってるうちに、終盤~ラストで鮮やかにひっくり返される・・・
これもいつもの流れだ。
本作では、OLを殺した真犯人探しのほかに、彼女自身の正体までもが謎の中心にあり、読者は最後まで作者の罠に引きずり回されることになる。

こう書くと、何だか褒めてるような、すごく面白いようにも思える。
でもなぁ、全体的な(叙述)トリックの出来栄えは「やや小粒」って感じではないか。
ある登場人物に仕掛けられた「○○」なども、面白いとは思うが、これってどこかに伏線が撒かれていたのか?
何となく風呂敷を大きく広げた割には、回収したモノは少なかったように思える。
中盤の冗長さもやや気になった(これも本シリーズの特徴ではあるが)。

同シリーズ作品でいえば、個人的には「冤罪者」「逃亡者」あたりの方が上とみた。
でも、さすがにまとまっていて、水準以上の面白さはあると思う。
(残るは「潜伏者」か・・・)


No.909 7点 心ひき裂かれて
リチャード・ニーリィ
(2013/08/16 15:20登録)
1976年発表。作者10作目の長編作品。原題“Madness of the Heart”
作者の中では、最も著名かつ出来のいい作品という世間的評価であるが、さて(?)・・・

~精神病院を退院したばかりの妻がレイプされた! 夫のハリーは犯人逮捕に執念を燃やすショー警部補に協力する。そんなハリーを嘲笑し、陥れようとするかのように、その身辺で続発するレイプ事件。心病める者の犯行なのか? だが、ハリーもかつて恋人との間に妻には決して知られてはならない秘密をつくろうとしていた・・・。二転三転する展開と濃密な心理描写。サイコ・スリラーの元祖・ニーリィの最高傑作~

このラストはさすがに衝撃的だ。
今回、角川文庫版で読み進めていたのだが、終盤までは、まだるっこしいというか何ともジリジリした展開が続いて嫌気がさしてきたところが、事件全体の構図がいよいよ明らかになる400ページ目以降は、がぜんスピードアップ&ヒートアップ。
ショー警部補VS主人公・ハリーの心理戦ともいえる問答を経て、いよいよ炸裂するラストの大技がにくいくらい決まっている。
これくらいメガトン級の衝撃度が来れば、中盤までの冗長さは吹き飛んでしまった、っていう感じ。
(伏線はちょっと微妙だが・・・)

でも、惜しむらくはやっぱり中盤のグロリアとのくだりだろうなぁ・・・
ハリーの“心の歪み”までの道筋、経緯を辿るという意味では必要なのかもしれないけど、それにしても長すぎ。
終盤の捻りが強烈なだけに、ここの冗長さで損をしている気がした。

まぁでも、これが恐らくニーリイの特徴なのだろう。
登場人物たちの何とも言えない距離感や微妙に歪みのある性格、会話など後のサイコサスペンスに与えた影響は大きいんだろうと推察する。
他の作品も読みたくなってきた。
(本作の映像化って難しいだろうなぁ・・・。アレをバレさせずに映像化するわけだから・・・)


No.908 6点 夜行観覧車
湊かなえ
(2013/08/16 15:18登録)
今や、次々とヒット作を飛ばす売れっ子となった作者の作品。
TBS系でドラマ化もされたのが本作。

~父親が被害者で、母親が加害者・・・。市内随一の高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。遺された子供たちはどのように生きていくのか。その家族と、向かいに住む家族の視点から事件の動機と真相が明らかになる・・・~

相変わらず「湊イズム」というか、作者独特の味を感じる作品。
とにかく、全員一筋縄ではいかない登場人物ばかりが描かれている。
一見まともなようで、「ひばりが丘」という高級住宅地に住むことに固執する母親、その母親にとにかく反目する娘、その二人の修羅場をみて、とにかく無関心を決め込む父親。
そればかりではない、隣人のいざこざに積極的に関与するおせっかいなオバサン・・・etc
まぁ、こういうどこかねじ曲がった人物を書かせると、とにかくウマイ。
(この辺りがウケル理由なんだろう)

序盤から加害者がはっきりしており、一見「動機探し」が本筋に思えるが、結局それについては明確にされないままラストを迎えてしまう。じゃあ「真犯人探し」が本筋なのかというと、それも脇道扱い。
本作の趣旨は、やっぱり「人の心の危うさ」ということになるのではないか。
他から見ると、幸せになる環境が十分に整っているのに、それが決してそうはならない。
エゴ、妬み、自分本位など、「人の心」そのものがミステリアスな存在だもんなぁ・・・

そういうことで、油ののった作者の技を堪能できるレベルにはなっていると思う。
ラストはちょっとモヤモヤが残ってしまうのが玉に瑕だけど。
(結局「観覧車」って、何をシンボライズしているのだろう?)


No.907 5点 パラダイス・ロスト
柳広司
(2013/08/16 15:15登録)
「ジョーカー・ゲーム」シリーズも重ねること第三弾。
今回も結城中佐率いるD機関のスパイたちが世界を股にかけ暗躍する。

①「誤算」=舞台はパリ。ナチスドイツにより首都パリが陥落し、一部の市民がレジスタンスとして抵抗している・・・そんな時代背景。記憶喪失となってしまったD機関のシマノ(?)がレジスタンスの男女三名に囚われるが、彼らの隠れ家にドイツ兵が現れたとき・・・。それ程のサプライズ感はなし。
②「失楽園」=舞台はシンガポール・ラッフルズホテル(モームの小説で有名なホテルだな)。戦火の欧州と違い、ある種の平和ボケ状態となってしまったこの街にもD機関のスパイが現れる。ある殺人事件を軸にストーリーは展開されるが、真相は闇の中へ・・・
③「追跡」=日本に駐在している英国資本の新聞記者。彼はD機関の噂を聞きつけ、結城中佐の正体に迫ろうとする。その過程で、ある人物に辿り着くのだが、ここで官検の手が・・・。そして、結城中佐の正体は結局(?)
④「暗号名ケルベロス」=これは前編と後編に分かれた中編作品。舞台は、サンフランシスコ~横浜を結ぶ客船の船中。謎の英国人が毒殺されるのだが、真犯人は意外な人物(っていうかこんなの分からん!)。

以上4編。
シリーズの三作目ともなると、だいたい予定調和っていう感じが強くなる。
特に本作では、結城中佐は実際の出番はほとんどなく、英国を中心とした敵対国が彼の幻影に怯えて・・・というプロット。
ただ、前二作に比べると、プロットのキレが今ひとつ(ふたつ)落ちる。
シリーズ随一のボリュームとなった④も、逆に言えば中盤がやや冗長に思えた。

面白いシリーズだけに評価は厳しくなるけれど、相変わらず作品の雰囲気自体はいいし、大人が楽しめるスパイ小説として続編を期待したい。
(ベストはやはり③かな。②もマズマズ。)


No.906 7点 ブラック・アイス
マイクル・コナリー
(2013/07/25 23:13登録)
L.Aハリウッド署の凄腕刑事ハリー・ボッシュの魅力を堪能できるのが本シリーズ。
シリーズ初編「ナイト・ホークス」に続くシリーズ第二弾。

~モーテルで発見された麻薬課刑事ムーアの死体。殺人課のハリー・ボッシュはなぜか捜査から外され、内務監査課が出動した。状況は汚職警官の自殺。しかし検屍の結果、自殺は偽装であることが判明。興味を持ったボッシュは密かに事件の裏を探る。新しい麻薬ブラック・アイスをめぐる麻薬組織の対立の構図を知ったボッシュは、鍵を握る麻薬王ソリージョと対決すべくメキシコへ・・・。ハリウッド署のはくれ刑事ボッシュの執念の捜査があばく事件の意外な真相とは!~

前作よりも面白さが増した。
素直にそう思えたし、さすがに人気シリーズという感想。
何といっても、出てくる登場人物のすべてが魅力的だ。同僚の刑事や警察上層部は実に嫌らしく、ボッシュへの協力者たちは魅力的に、そして女性はなぜかボッシュとメイク・ラブに陥る・・・

本作は、新型麻薬をめぐる殺人事件が謎の中心だが、死体に残された“ミバエ(蠅)”から、アメリカと国境を接するメキシコの街に徐々に焦点が当たっていく。
ハリウッドですらはぐれ者のボッシュが、見知らぬメキシコの地でさらに孤独な闘いを強いられることに・・・
そして、終盤には本シリーズらしいドンデン返しが待ち受けているのだ。
このドンデン返しは、ミエミエのようで、うまくミスリードが成されているため、本格志向の読者にとっても満足できるのではないか。
とにかく、ストーリー展開のうまさは「さすが」のひとこと。

トータルでみて、突き抜けるほどの面白さや疾走感はないが、十分に評価できる作品。
シリーズは続くが、やはり続編も読んでしまうんだろうなぁ・・・
(孤高の男ハリー・ボッシュに幸あれ!)


No.905 7点 太陽黒点
山田風太郎
(2013/07/25 23:12登録)
1963年発表。「忍法帖シリーズ」で著名な作者が著したミステリー。
東西ミステリー等のランキングでも高評価を誇る作品でもある。

~昭和30年代の東京。才気に満ちた美貌の苦学生・鏑木明は、アルバイト先の屋敷で社長令嬢の多賀恵美子と出会い、偶然にも特権階級への足掛かりを手にする。献身的だが平凡な恋人・容子を捨て、明は金持ち連中への復讐を企て始める。それが全ての悲劇の序章だとは知らず・・・。“誰カガ罰セラレネバナラヌ”・・・静かに育まれた狂気が花開くとき、未曾有の結末が訪れる。戦争を経験した作者だからこそ書けた奇跡のミステリー長編~

これは久々に「唸らされた」作品。
「死刑執行一年前」という思わせぶりな章題から始まり、読み進めるほどにカウントダウンされていく。
そして、「死刑執行当日」の章とともに、今まで隠されていた驚くべき奸計・真相が読者の前に示されるのだ。
なるほど・・・こういうことかぁ・・・。
だからこそ本作がこんなに高評価なんだなぁーと納得。

あまり書くと思いっきりネタバレになりそうで難しいが、
ビスマルクの外交術がまさかミステリーのプロットに応用されようとは、本人もまさか予想もしなかっただろう。
(まさに「プロバビリティーの犯罪」の極致)
そして本作を彩るもうひとつの鍵が、この強烈な動機だ。
これは読者にはなにも伏線が与えられてなかったし、後出しといえばそうなのだろうが、時代性を勘案しても、戦争を全く知らない世代にとって、これは胸に深々と突き刺さるようだった。

本作については、正直最近まで存在すら全く知らない作品だった。
東西ミステリーへのランキングは伊達ではない、そう感じさせられた次第。
他のミステリー作品も機会があれば是非手を伸ばしてみたい、そんな気持ちにさせられた良作。


No.904 5点 バイバイ、ブラックバード
伊坂幸太郎
(2013/07/25 23:11登録)
星野一彦の最後の願いは何者かに<あのバス>で連れて行かれる前に、五人の恋人たちに別れを告げること。そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」・・・これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美・・・
伊坂といえば実に伊坂らしい、とも言える連作短編集。

①「Bye Bye Black BirdⅠ」=最初に別れる女性の名は廣瀬あかり。そして、なぜか別れるために一彦が挑戦するハメになったのがラーメンの大食い(○○分で完食すればタダ、って趣向ね)! なぜ??
②「Bye Bye Black BirdⅡ」=二番目に別れる女性の名は霜月りさ子、子持ちのバツイチ。何といっても、本編で笑うべきポイントは不知火刑事だろう。なにせ白新高校出身!ってドカベン世代じゃないと分からんだろ!
③「Bye Bye Black BirdⅢ」=三番目に別れる女性の名は如月ユミ。こいつが一番ケッタイな女かも。なぜか、夜中にロープをかついで忍び込む部屋を探す、女・・・。付けた異名が「ひとりキャッツアイ」ってこれも古いな。
④「Bye Bye Black BirdⅣ」=四番目に別れる女性の名は神田那美子、何でも計算してしまう女。乳がんの疑いの濃い彼女に代わり、検査結果を病院へ聞きに・・・という展開だが、なかなか笑える。
⑤「Bye Bye Black BirdⅤ」=最後に別れる女性の名は有須睦子、美しき大女優。この女性は今までの四人とは「格」が違う、っていう感じ。彼女が大事にしていた子供時代の思い出。その思い出が一彦に重なるとき・・・結構グッときた。
⑥「Bye Bye Black BirdⅥ」=そして、ついに<あのバス>に乗るために、バス停へ向かう一彦と繭美。だが、途中でなんだかんだと邪魔が入り、ついにバスへ乗り込む一彦。だが、ラストに思わぬことが・・・起こったのかどうか?

以上6編。
「ゆうびん小説」という変わった趣向で発表された本作。
どういうことかというと、連作の一編が書かれるごとに50名の方に、あえて郵便で送って読んでもらう、っていう趣向だったのだ。
まぁそれは置いといて・・・
作品自体については、正直「どうかなぁ・・・」という感想。
もちろん、他の作家には書けない、いかにも伊坂らしい味わいはあるのだが、ちょっと「キツイ」感覚にはなった。
ラストも余韻はかなり残るが、逆に言えば残尿感がある、ということなのだ。
(好きな人には堪らないかもしれないが・・・)


No.903 5点 ジェリコ街の女
コリン・デクスター
(2013/07/17 22:28登録)
1981年発表。モース主任警部を探偵役とする作者の第五長編。
前作に続き、英国推理協会のシルヴァー・ダガー賞を受賞した作品でもある。

~モース警部がジェリコ街に住む女性・アンに出会ったのは、あるパーティーの席上だった。すっかり意気投合した二人は再会を約束するが、数か月後、彼女は自宅で首吊り自殺を遂げた。果たして本当に自殺なのか? モースにはどうしても納得がいかなかった。やがてアンの自宅の近所で殺人事件が起こるにおよび、モースの頭脳はめまぐるしく動き始めた・・・~

う~ん。微妙だなぁー
何となく書評しにくい作品、というのが正直な感想。
他の方も書いているとおり、いわゆるモース警部シリーズの良さはあまり感じられなかった。
モースが好き勝手に仮説を立てては壊し、立てては壊し・・・という展開にはならないのだ。
これがないということが、作者のファンにとっては恐らく物足りなく映るのだろう。

確かに、終盤に入るまでは事件の構図がまるで分からず、割に淡々と捜査過程が描かれる。
いよいよ最終章(第四部)に入ってから、思いもよらぬ推理がモースの口から開陳され、「おぉ、こういう仕掛けだったのかぁ!」と唸っていると、実はこれが捨て筋と判明してガックリさせられるのだ。
でも、最終的な真相がコレなら、捨て筋の方がよっぽど魅力的な解法に見えたんだけどなぁー
(まさか、ギリシャ神話が絡んでくるとは思わなかったし・・・)
一応、本筋でもサプライズが用意されてはいるのだが、あまり納得できなかった、ということもある。

ということで、あまり高い評価はしにくい。
これまでデクスターも数作読んできたが、まだ“本当に面白い”という作品には出会えてない。
まぁでも、出す作品出す作品が、何らかの賞を受賞している大作家なのだから、未読のものにまだ面白いのがあるんだろう(と思いたい)。
(モース警部のキャラ自体は好きだしなぁ)


No.902 6点 水魑の如き沈むもの
三津田信三
(2013/07/17 22:27登録)
ホラーとミステリーを融合させた人気シリーズ・刀城言耶シリーズの第五長編。
三年連続のノミネートのすえ、(やっと)受賞の日の目を見た「第十回本格ミステリ大賞」受賞作。

~奈良県の山奥、波美(はみ)地方の“水魑様”を祀る四つの村で、数年ぶりに風変わりな雨乞いの儀式が行われることになった。儀式の当日、この地を訪れていた刀城言耶の目の前で起こる不可思議な犯罪。今、神男(かみおとこ)連続殺人の幕が切って落とされた。ホラーとミステリーの見事な融合で、シリーズ集大成と言える本作!~

いやぁー長かったなぁ。さすがにシリーズ最“長”編だけはある。
ただ、どうしてもこれまでのシリーズ作品との比較では、満足感で今一歩(二歩)という印象が強く残った。
そう感じた方も多いのではないか?(そうでもない?)

刀城言耶の事件解明の章では、本シリーズらしい犯人絞込みのロジックは健在だし(特に本作は「犯人足り得る七つの条件」が読者に示されるなど、本格好きには堪らないサービス・・・)、その後もドンデン返しに次ぐドンデン返しで、怒涛のように迎えるラスト、そして、その驚愕のラストを支える前半の精緻な設定の数々・・・
こういう点では、確かに相変わらず高いクオリティだなと思う。
ホラーテイスト云々というのは、最初から殆ど気にしていないのだが、本作の「水魑様」に関しては、その半端ない作り込みに敬意を評したくなった。
(村の起こりや左霧母娘の設定なども含めて、下調べの苦労が偲ばれる)

でもなぁ・・・今回はそれにも増してモヤモヤ感が残ってしまったという印象なのだ。その理由を列挙するなら、
①真犯人の動機・・・特に「連続」しておこす必要性。神器との絡みなのかもしれないが、説明不足に見える
②一つ目蔵の秘密・・・結局、“○”という一言で片付けられたが、時代性を勘案してもかなり荒唐無稽に見える
③フーダニット・・・クローズドサークルものの宿命かもしれないが、かなり唐突感あり(潜水服について偶然○いていた、などはやはりご都合主義だろう)
なによりも、(これは言葉では表しにくいのだが)、今回はホラーテイストの設定と、ミステリーがそれほど有機的に結びついていない、ということに尽きるのだと思う。

まぁ、これは期待の高さの裏返しということだし、他作家よりも高いハードルを課されている作者もツライところだろう。
評点としては、どうしてもシリーズ他作品との比較になっちゃうよなぁ・・・
(相対評価になっちゃうのはシリーズものの宿命かな。このままいくと、本シリーズの山はやっぱり「首無」「山魔」ということに落ち着くのだろう)


No.901 7点 ぼくのミステリな日常
若竹七海
(2013/07/17 22:25登録)
1991年に発表された作者デビュー作。
ある建設会社の社内報に連載された短編という形式を借りた、企みに満ちた連作短編集(と呼ぶべきか、連作長編と呼ぶべきなのか)。

①「桜嫌い」=4月号。変な形のアパートで起こる火事がテーマなのだが、この文書だけでは建物の様子(部屋割りとか)が想像できなかった。でも、これが謎の鍵となる。
②「鬼」=5月号。両親を亡くした姉妹が主人公。妹を狙っているらしい怪しい風体の男から、妹を守ろうとする姉。しかし、姉の留守をつき、妹が襲われてしまう(?) しかし、最後は反転・・・
③「あっという間に」=6月号。町内の野球チームに持ち上がる「ブロックサイン漏れ」事件(のんびりしてんなぁ)。フランス料理に引っ掛けた暗号かと思いきや、まさか「○○え歌」が解読の鍵になるとは・・・(しかも絵付き)。
④「箱の虫」=7月号。大学のサークル仲間と出掛けた箱根旅行。「箱」とは芦ノ湖ロープウェイのことなのだが、その箱の中から男の子が消えてしまう。ただ、このオチはなぁ・・・
⑤「消滅する希望」=8月号。これは大事な「号」だな。ついに「殺し」までが登場して、ミステリーっぽい一編。謎の鍵は「朝顔」。作中にも触れられているが、実は謎の多い花なんだなぁ。
⑥「吉祥果夢」=9月号。事件の舞台は和歌山・高野山。宿坊で出会った一人の中年女性は、実は・・・という展開。これは確かに不思議な感覚の良作。
⑦「ラビット・ダンス・イン・オータム」=10月号。これも一種の暗号を扱った作品。最近読んだアシモフの「黒後家蜘蛛の会」なんかで頻繁に登場するプロット。そういえば、作者は「黒後家蜘蛛」シリーズのファンらしいし・・・
⑧「写し絵の景色」=11月号。大学時代の仲間が久し振りに集まった飲み会で、昔女傑と呼ばれていた女性が職場での失敗で暗く沈んでいた・・・。その失敗談に係る謎がテーマなのだが、オチは結構脱力系。
⑨「内気なクリスマスケーキ」=12月号。これはラストに炸裂する、いわゆる典型的な「叙述トリック」が決まっている。ただ、動機はイマイチ納得できないのだが・・・
⑩「お正月探偵」=1月号。「無意識に大量の買い物をしてしまう病」にかかってしまった友人からの依頼で、後を付けることになった主人公。この買い物にはある大きな謎が隠されていたことが判明するのだが・・・
⑪「バレンタイン・バレンタイン」=2月号。家庭教師の男性と、女生徒との電話での会話。何となく違和感を感じていたが、そういうオチか・・・
⑫「吉凶春神籤」=3月号。ラストはよい話に・・・。

以上の12編が、各号に掲載された短編。
ただし、本作の仕掛けは終章の「編集後記」にて明らかにされる。
本作がこういう仕掛けになっているという予備知識を持って読み進めていたのだが、それでもよくできてると思ったし、こういう「企み溢れる作品」は好きだ。
こういうミステリーがあっても全然いいのではないか。そんな感想。


No.900 8点 犬神家の一族
横溝正史
(2013/07/10 21:50登録)
900冊目の書評となりました。
今回は、国内ミステリーの大家・横溝正史の代表作の一つ「犬神家の一族」をチョイス。
これまで何度も映像化されている作品であり、もちろん私自身も有名な市川崑監督のヤツをはじめ様々なバージョンにて接してきた有名作なのですが、実際に書籍として読むのは今回が初。

~信州財界の一巨頭、犬神財閥の創始者・犬神佐兵衛は、相続人を驚嘆させる条件を課した遺言状を残して永眠した。佐兵衛は正室を持たず、女ばかりの三人の子があったが、それぞれ生母を異にしていた。一族の不吉な争いを予期し、金田一耕助に協力を要請していた顧問弁護士事務所の若林が何者かに殺害される。だが、これは次々と起こる連続殺人事件の発端に過ぎなかった! 血の系譜を巡る悲劇、日本推理小説史上不朽の名作~

今さら言うことはありません。
ということで、書評を終わってもいいのですが・・・一応、以下感想まで。

やっぱり、これはエポックメイキングな作品なんだなぁーと思わされた。
なによりも、冒頭にある佐兵衛の遺言状公開の場面。
これはもう、ミステリー史上に残る名場面だろう。
映像を見た方なら、松・竹・梅の三姉妹とゴム仮面の佐清、金田一、緊張感みなぎる中で遺言状を読み上げる古舘弁護士・・・らの姿が目に浮かぶかもしれない。
そして、遺言状に託した、死せる巨星の猛烈な「悪意」・・・etc
この作品が後世の作品に与えた影響は、やはり計り知れないと言っていい。

今回は、この序盤を読んだだけで、本作のスゴさを体感させていただいた。
で、ミステリーとしての本筋はどうなのかって・・・?
まぁいいではないですか。
真犯人はともかく、従犯の動機はどうだろう? とか、「見立て」の意味は? とか、ご都合主義とか、相変わらず金田一の気付きが遅すぎるとか・・・
いろいろと疑問は尽きぬところですが、そこは言わぬが華という奴でしょう。

他の代表作との比較でいうなら、「獄門島」よりはこちらの方に軍配をあげたい。
(一番好きなのは、「悪魔が来りて・・・」だったりする)
評点はこんなものかな。


No.899 6点 俳優パズル
パトリック・クェンティン
(2013/07/10 21:48登録)
1939年発表の長編。
東京創元社より復刊されている「パズルシリーズ」としては、邦題「迷走パズル」に続く二作目となるのが本作。

~アルコール依存症の治療を終えたピーター・ダルースは、素晴らしい脚本に巡り合い、名プロデューサーとして華々しい復活を遂げるべく奮闘していた。だが、いわくつきの劇場で興行を打つ成り行きにリハーサル初日からぎくしゃくした空気が漂う。この劇場は嫌だとごねる俳優、離婚の爪痕浅からぬ女優、飛行機事故のリハビリ途上にある主演男優など不安の残る役者陣に加え、横紙破りの所業に及ぶ部外者の出現にピーターの苛々は募る一方。ついには複数の死者を出して官憲の介入を許す事態に陥ることに・・・~

これは作者のストーリーテリングの旨さを味わうべき作品ではないか。
タイトルからすれば、本格パズラーとしての面白さを予想してしまうのだが、そちらの方の印象は正直薄い。
未遂を含めて三件の殺人事件が起こるものの、派手なトリックがある訳でもないし、特別ロジックが効いてる訳でもない。

舞台プロデューサーで主人公のダルースをめぐり、一癖も二癖も持つ怪しい俳優陣やスタッフたちが、それぞれの復権を目指してひとつの舞台に賭ける姿を通じて、その隙間に巣食う「悪意」が事件を引き起こす・・・この辺りの展開が見事に読者を引き込むのだ。
巻末解説で法月綸太郎氏が、合作者ウィーラーの脚本家としての才能について触れており、思わず納得させられた。
そして、ラストに探偵役のレンツ博士が披露する真犯人と動機が本作の真骨頂。
なる程・・・
その動機にしては、ちょっと大掛かりだなという気がしないでもないが、うまく収束させたなと思わせるのはさすが。

ただ欲を言えば、もうワンパンチあればなぁ・・・というのが本音かな。
「うまいのはうまいんだけど・・・きれいに丸め込まれた」という感覚になるせいかもしれない。
でも確かに「迷走パズル」に比べれば、格段に面白いのは間違いないな。
(舞台が成功裏に終わるラストは感動的ですらある・・・)


No.898 5点 密室殺人ゲーム2.0
歌野晶午
(2013/07/10 21:46登録)
前作「密室殺人ゲーム王手飛車取り」に続く、連作短編集第二弾。
第10回の「本格ミステリ大賞」受賞作(作者としては、「葉桜の季節に君を想うということ」に続き二回目となる)。
「頭狂人」「ザンギャ君」「伴道全教授」「aXe」「044APD」というハンドルネームを持つ四人が今回も登場。

①「次は誰が殺しますか」=まるで五人の殺人ゲームを真似たかのような殺人事件が発生する。本当に「真似」なのか? 不測の事態に戸惑う四名のメンバーと冷静沈着な一名・・・。
②「密室などない」=前作と同様、伴道全教授がお贈りする“脱力系(癒し系)密室殺人事件”が本編。今回も脱力系というか、無理矢理つくった密室・・・。
③「切り裂きジャック30分の孤独」=「ザンギャ君」出題の密室殺人に関する問題。現場に一箇所だけの出入り口は、鍵で施錠されているわけではなく、バラバラにされた被害者の両脚がバリケードのように犯人が現場から出るのを拒んでいる・・・というのが謎の中核。要は「出られない」密室なのだが・・・やっぱり解き明かしたのはあの人物。
④「相当な悪魔」=今回は「頭狂人」がお贈りするかなりハードな問題。アリバイ崩しがメインとなるのだが、東京~横浜・綱島~大阪間の移動について、新幹線や航空機の時刻表を横にアリバイが語られるなんて、中盤までは今までの本作とは異なる肌合いだったが・・・終盤は相当ハードっていうか、ここまで「凝るか?」っていう真相だな。でもまぁ、これは騙された。
⑤「三つの閂」=これはズバリ物理トリックを使った「雪密室」が扱われた問題。被害者を収容する(?)専用の箱が雪の現場に残されていた訳なのだが、要はこの「箱」の仕掛けが分かるかどうか。これは推理クイズっぽい。
⑥「密室よ、さらば」=いよいよ真打ち「044APD」が出題するのが本編。密室&アリバイの両トリックが複雑に絡み合い、容易には真相に近付けない。出題者以外の四人がタッグを組み、真相究明のための調査&ディスカッションを行うが、真相はかなり意外な方向に・・・。でも、このオチはどうかな?? ちょっと納得できず。
⑦「そして扉が開かれた」=ボーナストラックっていうか、全体のオチ。

以上6編+α
ハンドルネームこそ前作と同一だが、中身は全員入れ替わっているという趣向(それぞれの性格なんかは、前作を踏まえているが)。
それぞれが実際に起こした殺人事件を出題者以外のメンバーがコンペ式で解き明かすという趣向も不変。
そして、結局「044APD」がいつも真の探偵役となって、真相を暴くというプロットも同様。

ただ、他の多くの方が書評で書かれているとおり、前作のパフォーマンスと比較するとやや落ちたかなという感想になってしまう。
要はネタ切れというか、良質なネタは前作で出し尽くしましたということなのだろう。
個人的には、前作読了からかなり経過してしまったので、その点ちょっと後悔。
未読の方は、あまり日を開けず続けて読むほうがベターかな。


No.897 6点 ゴルフ場殺人事件
アガサ・クリスティー
(2013/07/03 22:04登録)
「スタイルズ荘の怪事件」でデビューした作者&ポワロの長編二作目がコレ。
「ゴルフ場」というタイトルではあるが、単なる死体発見現場というだけで、ゴルフそのものは無関係なので悪しからず。

~南米・チリで巨万の富を築いた富豪・ルノーが、滞在中のフランスの別荘地で無残に刺殺された。事件発生前にルノーから依頼の手紙を受け取っていながら悲劇を防げなかったポワロは、プライドをかけて真相究明に挑む。一方、パリ警視庁からは名刑事・ジローが乗り込んできた。互いを意識し推理の火花を散らす二人だったが、事態は意外な方向へ進んでいく・・・~

僅か二作目としては「スゴイ」とも言えるし、「やっぱり二作目だなぁ」とも言える・・・そんな感覚。
要するに、ちょっと惜しいなという作品なのだ。
ミステリーとしてのプロットは“さすがクリスティ”という水準で、もう安定感十分。
一人の富豪の殺人事件に端を発する事件、関係者の態度や発言に隠された欺瞞から、思いもかけない事件の構図&背景が明らかにされる。
被害者は単なる被害者でなく、過去の事件と現在の事件が有機的に結び付いていく・・・
この辺りの展開はもう名人芸だな。
特に本作では、ヘイスティングスとの会話のなかで、ポワロが自身の推理法というか事件への取り組み方を詳しく解説(?)している場面がところどころ挟まれていて、こういう点でも興味深く読ませていただいた。

プロットとしての問題点は、冒頭から登場するある女性の存在&立ち位置だろう。
この登場人物は果たして必要だったのか? 
一応ミスリードとしての役割なのだろうが、あまりにも白々しくて、正直ミスリードとしてはあまり機能していない。
作者としてはラストのドンデン返しのための「前フリ」が必要だったのだろうが・・・
(ヘイスティングスとの絡みが書きたかったということなのかな?)

作者としてはマイナーな作品扱いだけど、それほど遜色は感じないし水準以上の作品だと思う。
まぁ、敢えて「クリスティならコレ!」ということにはならないだろうが・・・
(ひたすら物証に拘った捜査を行うジロー刑事をこき下ろし、人間心理に基づく推理を行うポワロ。二作目で探偵役のパートナーが登場人物と恋に落ちる展開・・・って何か意味深だな)


No.896 6点 白戸修の狼狽
大倉崇裕
(2013/07/03 22:02登録)
史上最大級のお人好し、白戸修を主人公とする連作短編集。
「白戸修の事件簿」に続く第二弾作品集。

①「ウォールアート」=要するに「落書き」がテーマの作品。中野駅近くの町が落書き魔たちの手酷い犯罪のターゲットになってしまう。そして、今回も巻き込まれる白戸修・・・。プロットとオチは今ひとつかな。
②「ベストスタッフ」=大学時代の先輩・仙道からの「断れない」依頼は、アイドルのコンサートの搬入バイト。別のアイドルのファンからの妨害工作で窮地に陥る現場。そして、白戸が犯人の罠に気付くとき奇跡が!? ミステリー的な仕掛け云々より、とにかく白戸をめぐる人々の動き&会話が抜群に面白い。
③「タップ」=盗聴ハンターの女性になぜか引っ張られることになった白戸。ある女性の部屋が盗聴されていることに気付いた二人が巻き込まれる犯罪。ラストのドンデン返しは想定内。
④「ラリー」=今回巻き込まれるのは、あるグッズを優勝賞品とした“スタンプ・ラリー”。しかも、都内全ての電車&地下鉄を使った大掛かりなヤツ。しかも、なぜか暴力スリチームからも頻繁に狙われ・・・。このオチも想定内だけど好き。危険なのは嫌だけど、こんなスタンプラリーやってみたいな。
⑤「ベストスタッフ2 オリキ」=②に続き、またまた仙道からの無理やりなフリでバイトさせられるはめになる白戸。今度はアイドルグループのコンサート会場での警備。なんだけど、なぜか一人のファンの行動に巻き込まれることに・・・。オチそのものはつまらないものだけど、ドタバタ振りが面白い。

以上5編。
前作もそうだけど、本シリーズは謎解き云々なんて関係なく、白戸と彼をめぐる人々との絡み合いそのものを楽しむべき作品。
タイトルからすると、泡坂の「亜愛一郎シリーズ」を意識しているのだろうが、探偵役のキャラはオーバーラップするものの、ミステリー的な味付けは薄められてる。

まぁ、気楽に薄笑いを浮かべながら読むのがちょうどいい作品でしょう。
あまり高い評点ではないけど、決して嫌いではない。
(ベストはやっぱり④かな。②⑤もかなり楽しい)


No.895 6点 そして夜は甦る
原尞
(2013/07/03 22:00登録)
1988年発表。私立探偵・沢崎シリーズの第一作目。
作者の作品なら、もちろん直木賞を受賞した「私が殺した少女」なのだろうが、やはりまずはこちらから、というわけで読了。

~西新宿の高層ビル街のはずれに事務所を構える私立探偵・沢崎のもとへ海部と名乗る男が現れた。男はルポライターの佐伯という男がここへ来たかどうかを知りたがり、二十万円が入った封筒を沢崎へ預けて立ち去った・・・。かくして沢崎は行方不明となった佐伯の調査に乗り出し、事件はやがて過去の東京都知事狙撃事件の全貌へとつながっていく・・・。活きのいいセリフと緊密なプロット。チャンドラーに捧げられた記念すべき長編デビュー作!~

『チャンドラーに捧げる』という心意気が何よりも素晴らしいではないか?
個人的にも、トップ・オブ・ハードボイルドといえば「チャンドラー」だと思っているので、そこは素直にうれしいのだ。
セリフ回しや表現方法などは、チャンドラーっていうか訳者・清水俊三の文章を読んでいるような錯覚に陥った。
まるで、F.マーロウが新宿の裏通りで跋扈しているような感覚・・・いいよねぇ、痺れた。

ただし、そういう風に感じたのは中盤まで。
紹介文のとおり、沢崎は、あるルポライターの蒸発事件に始まる陰謀に徐々に巻き込まれているわけなのだが・・・
中盤以降は、複数の事件が絡み合いながら複雑化していく過程が描かれる。
この辺から、スピーディーで活きのよかったテンポが鈍ってしまい、それに伴って読む方のテンポも降下していく。

まぁ、単なるハードボイルドではなく、謎解きミステリーとしてのプロットも十分に加えているという点は評価していいのかもしれないが、ちょっと複雑化しすぎたかな。
特に終盤~ラストは、急展開やらドンデン返しやらが続き、ドタバタして終わったなという感じがした。
せっかくの作風&雰囲気なのだから、もう少し落ち着きのあるラストを味わいたかったなぁ・・・
それがやや残念。

評価はちょっと辛口かもしれないけど、期待の裏返しということ。
でも、まぁ読み応えは十分の作品。


No.894 5点 追分殺人事件
内田康夫
(2013/06/27 22:20登録)
1998年発表の長編作品。
浅見光彦シリーズではなく、“信濃のコロンボ”こと竹村警部と警視庁の岡部警部の二大探偵(?)が活躍する珍しい作品。
(この二人の共演は処女長編の「死者の木霊」以来となる)

~信州・信濃追分駅のほど近くで、人形やアクセサリーを売る店をひとりで営む女性・丸岡一枝。東京大学農学部の前、本郷追分の角の酒屋に嫁いだ女性・小野初子。互いに面識のない二人は、ほぼ同時期にまったく見ず知らずの男性の変死に遭遇する。信濃のコロンボこと竹村警部の秘密裏の捜査は難航したが、皮肉にも新聞にスッパ抜かれたことにより得た糸口があった。昭和史の裏に追いやられた、光と影の分岐の物語は北海道から始まる・・・~

ここにきて、なぜか内田康夫である。
なぜだか分からないけど、久々に読みたくなってきたのだ・・・
もう10年以上も前、気ままな旅を愛する若者(表現が古いな)だった頃、旅のお供として作者の作品はよき相棒だったのだ。
当サイトに書評しているのは、本作で10作目だが、実際はその三倍以上は作者の作品を読んでいる。

なぜ、そんなに読んでいたのか?
とにかく「読みやすい」のである。もうスイスイ読める。
列車に乗って、窓外の景色を楽しみながらも余裕で読め、ストーリーも頭に入ってくる。
やはり、これはある意味「名人芸」というべきではないだろうか。

ということで本作である。
さすがに浅見光彦シリーズは、TVの二時間ドラマで死ぬほど見てるので、今回は“信濃のコロンボ”シリーズとした。
軽井沢在住の作者らしく、長野県を舞台とした作品が多いが、本作は軽井沢~東京・本郷~北海道・夕張を結んでかなり広域で展開される事件。
浅見光彦シリーズには付き物の、美女とのビミョーな絡みや軽いラブストーリーはないので、純粋に作者の「名人芸」を味わうことができる。

ということで、旅に出るという方にはお供として一考していただきたい一作。
まぁ、かなり軽い作品ではありますが・・・


No.893 5点 黒後家蜘蛛の会4
アイザック・アシモフ
(2013/06/27 22:17登録)
安楽椅子型探偵シリーズとしてお馴染みの本シリーズの四作目。
六名の正規メンバーと真の探偵役たる給仕人のヘンリーが織り成す大いなるマンネリズムが今回も展開される。

①「六千四百京の組み合わせ」=本シリーズでは頻繁に登場する暗号モノの一作。ただし、暗号を解く鍵は相変わらず日本人にはキツイもの。こんなことまで分かるなんて、ヘンリーって超人か?
②「バーにいた女」=見知らぬバーで出会った美女が、男たちに囲まれ助けを求めている・・・なんて状況に遭遇した男。こんなとき武士道、いや騎士道精神に溢れる男ならこういう態度に出るが、しっぺ返しに遭う。
③「運転手」=科学者たちの集まる、あるシンポジウムが開催される町。依頼人たち専属の運転手が巻き込まれた殺人事件。これも英語-ロシア語間の相違が事件を解く鍵となっている。(このパターン多いよね)
④「よきサマリア人」=女人禁制の「黒後家蜘蛛の会」。その禁を破る女性(老婆だが)の依頼人が登場する本作。NYの危険エリアで不良たちから救ってくれた男を探す女性のために人肌脱ぐヘンリー。この解法も日本人には無理だな。
⑤「ミカドの時代」=著名な戯曲家ギルバート・サリバン(?)。彼のある戯曲の時代設定をめぐって二人の若者が起こしている諍いが本編の謎。謎の鍵は「閏年」にあるのだが、ヘンリーが指摘した真相は根本的なものだった。
⑥「証明できますか?」=初めての国に旅行し、見知らぬ街中で巻き込まれたいざこざ。身分を証明する一切のものがないまま、警察官に自分の身上を証明できるか? 冒頭に出てきたある“小物”が作者のうまい仕掛け。
⑦「フェニキアの金杯」=今回もダイニング・メッセージならぬ、残されたメッセージが何を表しているのかが謎の鍵となる一編。このパターン多いな! そして、今回も言語にまつわるちょっとした仕掛けがヘンリーにより開陳される。
⑧「四月の土曜日」=これもメッセージと言語に関する謎。これも日本人には馴染みのない話なのだが・・・
⑨「獣でなく人でなく」=エドガー・アラン・ポーを愛する女性が発する言葉が今回の謎。とはいっても、ミステリー作家としてのポーではなく、詩人としてのポーを知っているかどうかが鍵となる。
⑩「赤毛」=これは一種の人間消失を扱った一編。燃えるような赤毛を持つ妻を追って、とあるレストランへ入った夫だが、わずかの時間に妻が忽然と消えてしまう。でも、この真相はかなり脱力もの。そこ、最初から探せよなぁ・・・って思う。
⑪「帰ってみれば」=へべれけに酔って自宅に帰り着いたと思った男・・・だったが、見知らぬ男たちが只ならぬ雰囲気で話している最中だった! いったいどこへ帰ったのか? 酒ってコワイね。
⑫「飛入り」=これも④同様変化球の作品。ゲストの依頼人ではなく、突然飛び込んできた男による依頼をメンバーとヘンリーが解決する一編。でも、パターンは一緒。

以上12編。
さすがにシリーズ四作目ともなると、同じパターンの繰り返しが気になってくる。
作者としては、いろいろと変化を付けてきているのは分かるのだが、プロット自体のキレが鈍ってきたのは否めないかな。
まっ、それでも楽しい読書ができることは確か。
(どれも水準級という感じで、突出した作品はなし。あと、鮎川哲也による巻末解説が興味深い。「三番館シリーズ」って本シリーズの影響を受けてないんだなぁ・・・)

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