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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.1459 6点 敗者の告白
深木章子
(2018/08/12 21:09登録)
2014年発表の長編。
弁護士・睦木怜(むつぎれい)シリーズの一作目に当たる(とのこと)。

~とある山荘で会社経営者の妻と八歳の息子が転落死した。夫は無実を主張するも、容疑者として拘束される。しかし、関係者の発言が食い違い、事件は思いもよらない顔を見せ始める。残された妻の手記と息子の救援メール。事件前夜に食事をともにした友人夫婦や生前に妻と関係のあった男たちの証言。容疑者の弁護人である睦木怜が最後にたどり着く衝撃の真相とは? 関係者の告白だけで構成された衝撃の大逆転ミステリー~

作者の初読みになる。
先日、某○屋書店に立ち寄った際、店員のポップ付きでお勧め本として紹介されていたのが本作。
前々から気になっていた作家だったのと、前述の紹介文に惹かれて手に取った次第なのだが・・・予想していたのとはやや違う方向性の作品だった。

紹介文の最後に“大逆転”なんていう言葉あるくらいだから、てっきりそれまでの世界観がひっくり返されるような叙述系トリックを考えていたんだけど、そういう一発逆転大トリックではなく、どちらかというと細かすぎるくらいに積み重ねられた伏線を丁寧に回収していくプロットとでも言えばいいのか、とにかく「生真面目さ」が目立つ印象。
確かにちょっと重たいし、回りクドイところは無きにしも非ずなんだけど、なんて言えばいいか、「読ませる」力は十分に感じられる作品ではあった。
特に「旨い」と思ったのは、主人公のちょっとした経歴がある事実に繋がっていく伏線。こういう仕掛けを施していける作者なら、今後も注目に値すると思う。

本作はもうひとつ「法廷ミステリー」としての顔も持つ。
作者の深木氏は東京大学卒の元弁護士ということで、本作は裁判が持つ特徴というか、現在の裁判制度が孕んでいる矛盾というものが大きく関わってくる。
この辺りはさすがの経歴というべき。
生真面目すぎて退屈と取る読者もいるかもしれないけど、作者の力量は伺える作品だと思う。
他の作品も是非読んでみたい。


No.1458 7点 幻夜
東野圭吾
(2018/07/28 08:55登録)
あの名作「白夜行」が蘇る!!
文庫版で800頁を超える大作は、再び、ある男とある女の哀しい物語・・・
2007年の発表。

~阪神淡路大震災の混乱のなかで、衝動的に殺人を犯してしまった男。それを目撃した女。ふたりは手を組み、東京へ出る。女を愛しているがゆえに、彼女の指示のまま、悪事に手を染めてゆく男。やがて成功を極めた女の思いもかけない真の姿が浮かび上がってくる。彼女はいったい何者なのか? 名作「白夜行」の興奮が蘇る傑作長編~

いきなりネタバレで申し訳ないが、新海美冬=唐沢雪穂である。
作中では確かに明示されてはいない。明示されてはいないが、十二分に仄めかされている。
(ネタバレサイトでも確認したが、明らかにそれと分かるヒントが作者によってそこかしこに撒かれている)

物語はまさに「白夜行」と相似形のごとく進んでいく。
誰をも虜にする美女にして、稀代の悪女・・・それが新海美冬。そして、彼女の下僕にして「影」となり働く水原雅也。
これは「白夜行」での雪穂=亮司の関係と完全に被る。
ただ、「影」である亮司サイドからは一切描かれなかった前作に比べ、本作では「影」=雅也サイドからの描写がむしろメイン。
そこが大きく異なる点。
美冬のため徐々に悪事に手を染めていく過程やそれでも美冬を手放したくないという雅也の苦悩が読み手の心に嫌でも突き刺さる。

やっぱり只者ではない。東野圭吾という作家は!
中盤から終盤、章が進むごと、美冬の強烈な悪意が読者の頭の中で膨らんでいく仕掛け、そして、美冬という存在が、自然に雪穂と一体化していくように計算された仕掛け。
このプロットはもう「秀逸」のひとこと。
こんな大作を息もつかせず読了させるなんて、並みの作家にはできない芸当だ。
巻末解説には第三部を構想中とのコメントもあるが、是非とも実現させて欲しい。
いかん! これでは雅也と同じで、美冬の虜にされているようだ・・・
(ラストについては、評価の是否が分かれるだろうね・・・。呆気なさすぎと言えば、確かにそうだから・・・)


No.1457 6点 暗闇にひと突き
ローレンス・ブロック
(2018/07/28 08:53登録)
アル中探偵マッド・スカダーシリーズの四作目。
シリーズ最高傑作と言われる次作「八百万の死にざま」への橋渡しとなる作品。
原題“A Stab in the Dark”。1981年の発表。

~若い女性ばかりを狙った九年前の連続刺殺事件はNYを震撼させた。犠牲者はみな、アイスピックで両眼をひと突きされたいたのだ。ブルックリンで殺されたバーバラも、当時その犠牲者のひとりと考えられていた。が、数週間前に偶然逮捕された犯人は、バーバラ殺しだけを頑強に否定し、アリバイも立証されたという。父親から真犯人探しを依頼されたアル中の探偵スカダーが、困難な調査の結果に暴き出した驚くべき真相とは?~

普段、“シリーズ作品は順番に読む方がベター”と信じている私なのだが、なぜかバラバラに読んでしまっている本シリーズ。
最近は「お酒をやめたスカダー」の方に接する機会が多かっただけに、本作は逆に違和感を覚えた。
とにかく“呑む”のだ。
ビールは食前酒感覚、バーボン、スコッチ、果てはブランデーまで・・・(しかも基本ストレート)
本作ではシリーズ初期でのスカダーの相手役となるジャニスも登場。アル中に苦しむ彼女を前にして、自分自身の酒、そしてアル中に強い不安感を抱く彼の姿が印象的。
(しかし、ラストではまたしても酒に溺れることになる・・・)
『八百万・・・』以降、ストイックなほど禁酒生活を送る彼の姿を見ているだけに、何となく酒に溺れている彼が愛おしく感じてしまう。

さて、本筋はというと・・・
猟奇的な連続殺人という派手な設定の割に特段強調することはない。
いつものように、事件関係者たちに地道に聞き込みを続けるが、なかなか光明が見えてこない展開。
しかし、終盤、突然説明のつかない「齟齬」を発見してからは一直線。意外な真犯人が浮かび上がってくる。
今回はNYの地理が事件解決のヒントになるので、土地勘のない一般の日本人にはちょっと分かりにくいかも。
(動機は結構分かる気もするけど、う~ん、やっぱり分からん!)

シリーズ未読作はあと数作品を残すのみとなった。
できる限り、大切に、芳醇なワインを味わうように読んでいきたい。


No.1456 6点 ヨギ ガンジーの妖術
泡坂妻夫
(2018/07/28 08:51登録)
後の「~心霊術」、「~透視術」に続くヨギ ガンジー・シリーズの一作目に当たる本作。
数々の超常現象をに対して現実的な解決を付けていく作品集。
1984年の発表。

①「王たちの恵み」(心霊術)=うん。これが一番ロジカルというか、まともな解法に思えた。『あるはずのものがない』ということは、実は・・・というのが逆説的でいかにもミステリーっぽい。佳作だろう。
②「隼の贄」(遠隔殺人術)=これ以降ガンジーのパートナーとなる参王不動丸が初登場。妖術で遠隔殺人を実演するという、何とも胡散臭い設定なのだが、もちろん最終的には現実的な解決が付けられる。ただし結構ショボイ・・・
③「心魂平の怪光」(念力術)=この辺りからますますオカルティックに、そして胡散臭さが増していく・・・。これも「怪光」自体は何のことはないトリック。
④「ヨギ ガンジーの予言」(予言術)=一家全員に向けられた不吉な予言。その予言を避けるために全員でハワイにやって来た家族に対するガンジーと不動丸、という設定。問題の予言については、よくある「手」で解決が付けられる。でもプロットそのものは面白い。
⑤「帰りた銀杏」(枯木術)=“枯木術”ってなんだ? 本筋は・・・あまり面白くない。
⑥「釈尊と悪魔」(読心術)=ある旅芸人一座に雇われることとなったガンジーと不動丸。その一座に所属する絶世の美男をめぐる事件に巻き込まれることに・・・。
⑦「蘭と幽霊」(分身術)=いわゆるドッペルゲンガー現象をテーマとする一編。ドッペルゲンガーに関するトリックは現実的だし面白いと感じたけど・・・

以上7編。
さすがに達者である。やっぱり短編は名人芸ともいえる出来栄えだ。
本作も一見、超常現象に見えるものをお得意のマジックを流用したトリックで解決してしまう。
マジックと同様、読者の目を本筋とは別の方向に向けさせ、そのうちにトリック仕掛ける。そして、最後には鮮やかなオチを見せられるんだから、これはもう「さすが泡坂」っていう感想しかない。

ただ、手放しで褒めてるけど、作品ごとのレベル差はある。
どちらかというと後にいくほど出来が落ちてる感はあるので、全体としての評価はまぁこんなものかな。
でも、まぁ必読の作品集といっても差し支えはない。
(上記のとおり、①が断トツ)


No.1455 6点 我が家のヒミツ
奥田英朗
(2018/07/13 22:19登録)
2013年以降、小説「すばる」誌に断続的に掲載されてきた短編をまとめた作品集。
日頃の何気ない家族の姿を切り取った名短編集「我が家の問題」の続編的位置づけの作品。
2018年の発表。

①「虫歯とピアニスト」=確かに、プランBの人生でもプランCの人生でも、自分が納得して幸せだったらNo Problem。間違いない! でも何かと他人と比較してしまう弱い自分がいる。
②「正雄の秋」=ライバルとの出世競争に負け、子会社に都落ちすることとなった正雄。よくある話、世間にはこういう男性は吐いて捨てるほどいる(に違いない)。そんなとき、なぐさめてくれるのが何と奥さん!(我が家だったら有り得ない!)
③「アンナの十二月」=幼い頃に別れて顔も知らない実の父親が著名人! しかもかっこよくて金持ち・・・当然心動くよなぁー。で、心は動いたんだけど、よ~く考えてみたら・・・って話。
④「手紙に乗せて」=今度は妻に先立たれて猛烈にふさぎ込んでしまった悲しき中年男の話。息子の上司が同じ経験をしたとのことで、いろんな心使いをするうちに・・・。もし自分の身に同じことが起こったら、ここまで悲しむか?(決して・・・)
⑤「妊婦と隣人」=妊婦になってずっと家にこもっている主人公。隣に引っ越してきたいかにも怪しい夫婦。時間を持て余した主人公の想像力はどんどん膨らんで・・・ついに!っていう展開。既視感ありあり。
⑥「妻と選挙」=シリーズ前作(「我が家の問題」)、前々作(「家日和」)にも登場したある直木賞作家の物語。今度はついに市会議員選挙に出ることになった妻と、妻にまたまた振り回される某直木賞作家。でも意外な展開に・・・

以上6編。
読んでてしみじみ感じたけど、「作者も老成したねぇ・・・」
もちろん旨い。日常の何気ないヒトコマっていうか、どこにでもありそうだけど実はない、っていう絶妙なストーリーテリング振り。
これはもう他の作家の追随を許さないほど。
でも、老成したよね・・・
本作はどれも最終的にはハッピーエンドというか、どれも後味がよい作品ばかり。
「毒」らしきものは何一つなし!
それぞれが小さな幸せを得て、明るい希望を抱いて終了してしまうのだ。

それの何が悪い!って言われればそのとおり。皆さんも本作を読んで、何とも言えないほのぼのとした幸福感を味わってください。
(好みで言えば⑥。次点は②かな)


No.1454 7点 月明かりの男
ヘレン・マクロイ
(2018/07/13 22:17登録)
「死の舞踏」に続いて発表された、精神科医ヴェイジル・ウィリング博士シリーズの二作目。
創元文庫にて続々と刊行される同シリーズだが、順番が滅茶苦茶なのがいいのか悪いのか?
1940年の発表。原題は“The Man in the Moonlight”

~ヨークヴィル大学を訪れたフォイル次長警視正は、構内で風が運んできた紙片を拾う。そこには「殺人計画」と書かれていた。決行は今夜8時。犯行現場に指定された建物に赴いたところ、心理学の実験に用いた拳銃の紛失騒ぎに立ち会う。言い知れぬ不安を覚え、八時に再度大学を訪れたフォイルは死体の発見者となる。被害者は亡命者のコンラディ博士。月明かりの中を逃げる不審人物が三人の男に目撃されていたが、彼らの証言する外見はすべて異なっていた!~

冒頭に書いたとおり、最近読む機会がかなり増えてきたマクロイ作品。
違う作品の書評でも書いたと思うけど、作品ごとの出来不出来が少なくて、どれも一定水準以上と思わせる作品ばかり。
で、シリーズ第二作となる本作も期待にたがわぬ作品という評価。

物語は序盤から魅力的な展開を見せる。
「殺人計画」なる紙切れを拾い、誘われるように事件の渦中に飛び込むこととなるフォイル次席警視正とウィリング博士。
まずは紹介文にも書かれた、三人の男が逃げ去る犯人をすべて違う外見で捉えるという摩訶不思議な謎に遭遇する。
(この真相は他の方も書かれたとおりで、やや肩透かしなものだが・・・)

嘘発見器による実験や夜中誰もいないはずの部屋から響くタイプライターの音など、マクロイらしい道具立てが用意されている本作。
こんなに風呂敷を広げて大丈夫か?と若干の心配をしていたが、それを嘲笑うかのように終盤以降、ウィリングの頭脳によってひとつひとつ、真実が白日のもとにさらされていく。
最終章での真犯人とウィリングの対決がまさに物語のクライマックス。実に端正な本格ミステリーという満足感を得られる(だろう)。

動機の件(特に第三の殺人)は気にはなったし、ウィリングが真犯人を特定するきっかけとなった第一の事件現場での証言の齟齬については、せめて現場の見取り図を入れて欲しかったなど、細かな不満はあるけど、総合的に評価は高い。
けど、コレが一番かと問われると、YESという答えにはならないかな・・・
ちょっと未整理な部分も見え隠れするのが初期作品らしい。


No.1453 7点 さよならの手口
若竹七海
(2018/07/13 22:16登録)
前作「悪いうさぎ」以来、十三年振りに“葉村晶”シリーズ新作として発表された本作。
作者あとがきでは、出版社や読者からせっつかれたけどどうしても書けなくて・・・というような嘆きの台詞が書かれてたりします。
2014年に文庫書き下ろしとして発表。

~探偵を休業し、ミステリー専門書店でバイト中の葉村晶は、古本引取りの際に白骨死体を発見して負傷。入院した病院で同室の元大女優・芦原吹雪から、二十年前に家出した娘の安否についての調査を依頼される。だが、かつて娘の行方を捜した探偵は失踪していた・・・。有能だが不運な女探偵・葉村晶が帰ってきた!~

やっぱいいわ! 葉村晶シリーズは。
前にも書いた気がするけど、作者の筆が乗っている様子が窺えてきて、読んでいる方もグイグイ頁をめくってしまう。
(本当は艱難辛苦しながら書いてるんだろうけど・・・)
晶をはじめ、シリーズキャラクターもそれぞれの役割(?)を全うして、とにかく作中で生き生きと活躍してくれてる。
そんな感覚なのだ。

で、本筋はというと・・・
メインテーマは「失踪人捜し」という、私立探偵小説の定番中の定番。(確かにロス・マク風プロット)
失踪人を捜している途中にも、彼女を困らせる数々の困難やら脇筋やらが待ち受けていて、特に今回は不運と不幸の連続。何回怪我するんだ?と心配になるほどの障壁が立ち塞がる。
「家族の悲劇」という、これまたロス・マク作品定番の背景が明らかになる終盤。
大方の謎にも道筋が付いたかと思いきや・・・ここから更なる闇と困難と怪我(!)が彼女に襲いかかる・・・
そして、ラストは怒涛の展開。ばら撒いてきたあらゆる謎や伏線をバッタバッタと回収していく!

前作ではまだ三十代前半の若さだった彼女も、はや四十路の独身女性。(十三年経ってるんだから・・・) 体力も気力も低下するなか、それでも地に足付けて踏ん張ってる姿は、性別の枠を超えてシンパシーを感じてしまう。
年代の進行とともに作中の登場人物も年齢を重ねていく本シリーズ。
平成の世も終りを告げようとするなか、次は何歳の彼女と会えるのだろうか?
とにかく、今後も大切に続けてくださいと切に願う。
(巻末の「富山店長のミステリ紹介」も実に楽しい・・・)


No.1452 5点 あぶない叔父さん
麻耶雄嵩
(2018/06/25 21:27登録)
~寺の離れで「なんでも屋」を営む俺の叔父さん。家族には疎まれているが、高校生の俺はそんな叔父さんが大好きだった。鬱々とした霧に覆われた街でつぎつぎと発生する奇妙な殺人。事件の謎を持ちかけると、優しい叔父さんは鮮やかな推理で真相を解き明かしてくれる・・・~
2017年発表の連作短篇集。

①「失くした御守」=“失くしてしまったウサギの御守と心中事件”が描かれる第一作。ラストへ来て、いきなり訪れる衝撃! 『なんじゃ、この真相&結末は!?』
②「転校生と放火魔」=小学校時代に付き合っていた元カノが再び転校生として現れる第二作。放火魔に狙われる転校生を守ろうとする主人公なのだが、ここでも衝撃(?)の真相&結末が!
③「最後の海」=“海の絵と首吊り殺人”がテーマとなる第三作。密室からの被害者の脱出方法が問題となるのだが、何とも脱力系の真相・・・。そして、またしても○じようなカラクリが・・・
④「旧友」=“犬神の祟りと旧友”の第四作。これもある種の密室状況が懸案となるのだが、トリックっていうか真相は「そんなこと!」的なヤツ。そしてまたしても・・・。これは・・・どういう狙い?
⑤「あかずの扉」=“温泉の死体とあかずの扉”がテーマの第五作。これまた死体はあるが、誰も現場に入れなかったという密室状況が繰り返されるのだが、この真相には怒り出す人もいるのではないか? いくら温泉の湯煙があるといっても、見たら分かるだろ! そして④までと同じことが・・・
⑥「藁をも掴む」=“学校の七不思議と投身自殺”が描かれる最終譚。今回は違うのかと思っていたが、最後にはまさかの展開! またもやなのか! ラストも何の余韻もないまま唐突にFin。

以上6編。
これは・・・一体なに? 狙いは?
冒頭の紹介文では、叔父さんがまるでアームチェア・ディテクティブとして事件の謎を解き明かすかのように書いているが、実際には大きく違う!
ネタバレになってもいけないけど、こんなミステリーには今まで接したことがない。
何せ、探偵役が推理をしないのだから・・・

「貴族探偵」「神様ゲーム」はまだ十分にまともだったけど、「化石少女」といい本作といい、ミステリーという概念を大きく歪めるような作品だな・・・
別に非難しているわけではないんだけど、この試みが素晴らしいと賞賛する気持ちは一切起こらない。
作者の“遊び心”だということで、いい意味に解釈しておこう。


No.1451 6点 六人の超音波科学者
森博嗣
(2018/06/25 21:26登録)
「恋恋蓮歩の演習」に続くVシリーズの第七弾。
2001年の発表。

~土井超音波研究所・・・山中深くに位置し、橋によってのみ外界と接する。隔絶された場所。所内で開かれたパーティーに瀬在丸紅子と阿漕荘の面々が出席中、死体が発見される。爆破予告を警察に送った何者かは実際に橋を爆破、現場は完全な陸の孤島と化す。真相究明に乗り出す紅子の怜悧な論理。美しいロジック溢れる推理長編~

同じ“流れ”の中にあった前作(「恋恋蓮歩の演習」)と前々作(「魔剣天翔」)から一転、今回の舞台は「陸の孤島」と化した超音波研究所という何とも怪しげな設定・・・
しかも、巻頭から思わせぶりな館見取り図が挿入され、中途には首切り死体も現れるなど、本格ファンの心をくすぐるガジェットに溢れた作品となっている。
Vシリーズも巻を重ねるごとに“超変化球”的な仕掛けが目立ってきたと思いきや、初期作品に近い直球の本格ミステリーに先祖返りしたかのような趣向?いう感覚だったが・・・

ただ、どうも、本作、作者が新しいアイデアを捻り出して・・・というわけではなく、自作や他作のトリックの焼き直し或いは流用っぽいものが目立つ気がする。
例えば、首切り+手首まで切られた死体っていうと、Why done it?⇒ 被害者の入れ替わり、というのは見え透いてるから、当然“捻り”があるんだろうと読者は予想するんだけど、今回のトリックはなぁ・・・作者としては安易すぎるのではないか?
Who done itも分かりやすすぎて、瀬在丸紅子もすぐに看破してしまったし・・・
どうもその辺り、敢えての安直さなのか、単なるネタ切れなのか、気になるところだ。

ド直球の本格ミステリー志向の作品にするんだったら、もうワンパンチもツーパンチも欲しかったなというのが偽らざる思い。
ただし、次作(「朽ちる散る落ちる」)も本作と同様、「土井超音波研修所」が舞台ということで、作者らしい仕掛けがあることを期待したい。
(いよいよVシリーズも佳境に入ってきたのかな?)


No.1450 5点 強盗プロフェッショナル
ドナルド・E・ウェストレイク
(2018/06/25 21:24登録)
一作目「ホット・ロック」、三作目「ジミー・ザ・キッド」と並ぶウェストレイク三部作のひとつが二作目の本作。
1972年発表。原題は“Bank Shot”

~天才的犯罪プランナー、ドートマンダーも近頃ではその仕事に少々嫌気がさしていた。ところが、そこへ親友のケルプがでっかい話を持ち込んできた。銀行強盗だ。しかもただの銀行強盗ではない。その銀行はトレーラーを使って目下仮営業中。そこで、そのトレーラー、すなわち銀行をそっくりそのまま盗もうというのだ。ドートマンダーのプロ根性がムラムラと頭をもたげるが・・・。タフでクールな泥棒ドートマンダー・シリーズの第二作~

さすがに手馴れている。
そんな作品だ。
作者が実際にトレーラーで営業している銀行の店舗を見かけたことが本作執筆のきっかけになっているとのこと。「銀行強盗」をテーマとする作品はたまに見かけるけど、「銀行」そのものを盗むというプロットは確かに斬新。
警備員や警察も、まさか盗まれるとは思ってないから、彼らの慌て振りも結構面白いことになっている。
ドートマンダーを中心とした強盗グループも、奪ったはいいけど、その後に起こるさまざまトラブルに右往左往させられることになる。
“奪った方”も“奪われた方”もどっちもドタバタする・・・そこが本作の読みどころなのだろう。
このシリーズらしくラストも旨いなという感じ。

評価かぁ・・・
本作、実際に強盗を実行するまでの前段が長いんだよねぇ
強盗に参加することになるメンバーひとりひとりを割と丁寧に紹介しているんだけど、いるかな?
なかなか本題に入らないんでちょっとイライラさせられた。
できれば本筋の強盗シーンをもうちょっと膨らまして書いたほうがよかったのではないか。
などと、職人的作家に対して失礼なことを考えたりした。
(あまり気付かかなかったけど、アメリカンジョークが作中結構あったみたい。分かりにくいからなぁアメリカンジョークは・・・)


No.1449 6点 怪盗ニック全仕事(1)
エドワード・D・ホック
(2018/06/10 10:18登録)
「サム・ホーソン」「サイモン・アーク」両シリーズ読破後、次に挑むのは「怪盗ニック」シリーズということで・・・
全八十七編からなる膨大なシリーズを十四~十五編ずつに分け、全六巻に渡っての刊行とのこと(スゲぇ・・・)
まずは第一巻に取り掛かろうか・・・

①「斑の虎を盗め」=まさに本シリーズの初っ端に相応しい一編。要は本シリーズのプロトタイプたる作品なのだろう。最初の依頼は動物園の虎を盗めという無理難題なのだが、盗んだあとでもう一捻りあるのがホックらしい。
②「プールの水を盗め」=今度は何とプールの水だ! これはhow done itを楽しむタイプの一編。確かに水だったらこうやって「盗む」よねぇー
③「おもちゃのネズミを盗め」=おもちゃのネズミを盗みにパリまでやって来たニック。これも単なる盗み以外に仕掛けが!っていうタイプ。
④「真鍮の文字を盗め」=とあるビルに掛かっている真鍮製の企業のロゴを盗めという依頼。本編ではニックの“天敵”としてウェストン警部補も登場。
⑤「邪悪な劇場切符を盗め」=上映が終わったはずの芝居の切符を盗めというかなり風変わりな依頼。半信半疑で依頼を受けたニックを待ち受けていたのは・・・っていうプロット。単純だけど、結構面白い。
⑦「弱小野球チームを盗め」=西村京太郎は長編「消えた巨人軍」で、新幹線の車中から巨人の全選手を誘拐してみせたが、今回作者はメジャーリーグの弱小チームを飛行機の中から盗む(=誘拐?)することに成功! でも終盤の捻りの方が本題。
⑧「シルヴァー湖の怪獣を盗め」=アレをアレに見せるのは相当無理があるんじゃない? お前の目は節穴か!って言いたくなる。バカミス的な面白さはあり。
⑩「囚人のカレンダーを盗め」=今回の依頼はかなりの難題。何せ牢獄の中からその壁にかかっているカレンダーを盗めというのだから・・・。それでも割合簡単に盗んでしまうニックって・・・
⑫「恐竜の尻尾を盗め」=なぜ恐竜の尻尾なんか?って、そう、まさにwhy done itがうまく嵌った一編。さすがに短編の名手だ。
⑬「陪審団を盗め」=ニックが怪盗ではなく、「名探偵」ばりの活躍をする一編。これは本格ミステリーだね。
⑮「七羽の大鴉を盗め」=「盗め」という依頼と「盗みを防げ」という依頼を同時に受けてしまったニック! さぁーどうする?っていうプロット。あんまりよろしくない。

以上全15編。
さすがに短編の名手という冠に相応しい。確かに似たようなプロット&趣向の作品は目につくけど、読者を飽きさせないように、どこかしらに工夫が凝らされているのが職人芸だ。
ということで、第二巻も楽しみ楽しみ・・・


No.1448 5点 残像に口紅を
筒井康隆
(2018/06/10 10:17登録)
アメトークの「読書芸人」でオードリー若林(カズレーザーだったかな?)が取り上げたことでも有名となった本作。
作者らしい遊び心と壮大な実験的小説という解釈でよいのか?
「中央公論」誌に連載された後、1989年に単行本化。

~「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も消えてしまった。世界からひとつ、またひとつとことばが消えていく。愛するものを失うことは、とても哀しい・・・。言語が消滅するなかで、執事し飲食し、交情する小説家を描き、その後の著者自身の断筆状態を予感させる、究極の実験的長編小説~

まさに「実験的」小説なんだけど、市井の普通の一般的な読者にとっては、「だから何なんだ?」という感想しか残らないのでは?
以上、感想終わり!
ということでもよいのだが、雑感を追加すると・・・

まずは作者の多大なる労苦に経緯を評したくなる。
第三部開始時には(雑誌連載時は第二部までて終了していたとのこと)、
世界からすでに「あ」「ば」「せ」「ぬ」「ふ」「ゆ」「ぶ」「べ」「ほ」「め」「ご」「ぎ」「ち」「む」「ね」「ひ」「ぼ」「け」「へ」「ぽ」「ろ」「び」「ぐ」「べ」「え」「ぜ」「ヴ(本来ひらがな)」「す」「ぞ」「ぶ」「ず」「づ」「み」「ざ」「ど」「や」「じ」「ぢ」「き」「で」「そ」「ま」「よ」「も」「げ」「ば」「り」「ら」「る」が消えている状態(合ってるか?)。
そこから更に一字ずつ消していく第三部がハイライトというか何ていうか・・・

それまでにSFをはじめ、さまざまな作品を書いてきた作者がたどり着いた極北が本作ということなんだろうか。
泡坂妻夫の「ヨギガンジー」シリーズでも感じたことだけど、もっと創作の中身で勝負したいいのに、って思ってしまう。
でもまぁ、作家も煮詰まってきたら、いろんなことを考えるんだろうね。
「実験」としてなら、面白い趣向だと思う。
(今回ウィキペディアで作者のプロフィール&履歴を改めて確認したけど、やっぱりなかなかの人物ですなぁー)


No.1447 5点 イノセント・デイズ
早見和真
(2018/06/10 10:15登録)
2015年に発表し、その年の日本推理作家協会賞を受賞した長編。
作者はもともとミステリー作家ではなく、本作以外にミステリーと呼べる作品は発表していない(のではないか?)

~田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と一歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか? 産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼馴染の弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は・・・。筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長編ミステリー~

「そうか、こういうストーリーだったのか・・・」
当たり前だけど、読後はこういう感想になった。
確かに、日本推理作家協会賞受賞作という惹句からだと違和感がある作品。

物語は、ひとりの女性を中心に、彼女に関わってきた人々の半生を綴りながら、過去そして現在へと進められていく。
なぜ、彼女はここまで不幸な人生を歩まねばならなかったのか、そして許されざる犯罪に手を染めねばならなかったのか?
いうならば「動機探し」が本作のメイン・プロットなのだろうと予想しつつ頁をめくることになる。
でもミステリーファンとしては、「もしかして他に真犯人がいるのでは?」という目線でどうしても見てしまうよねぇ・・・
で、その期待はかなり中途半端な感じで収束することになる。
そして、救いがあるのかないのか意見が分かれそうなラストシーンを迎えることに・・・

文庫版解説の辻村深月氏は、本作を「重い」とか「暗い」という言葉で評するのは違和感があるという趣旨のコメントを書かれているが、でもまぁー「暗い」し「重い」よねぇ・・・
「死ぬことに希望を持って生きている」なんてことを言うんだもんね・・・
ここまで不幸な主人公は久しぶりのような気がする。
もう少し何とかならなかったのか?何てことを小説の主人公に対して感じるんだから、結構のめりこんでいたのかもしれない。
でも、ミステリーとしては見るべきところはないし、面白いかと聞かれればネガティブな意見になってしまう。
そういう意味では不思議な作品かもしれない。


No.1446 6点 慈悲深い死
ローレンス・ブロック
(2018/05/25 23:08登録)
マット・スカダーシリーズ第七作目。
前作「聖なる酒場の挽歌」のラストシーンで明らかにされた“飲まなくなった男マット・スカダー”が描かれる本作。
原題“On the Cutting Edge”(=切っ先の上に立つ?)。1989年の発表。

~酒を絶ったスカダーは、安ホテルとアル中自主治療協会(AA)の集会とを往復する日々を送っていた。ある日スカダーは、女優を志してニューヨークへやって来た娘を行方を探すように依頼される。ホームレスとヤク中がたむろするマンハッタンの裏街を執念深く調査した末に彼が暴いた真相とは? 異彩を放つアル中探偵を通して、大都会ニューヨークの孤独を哀切に描く!~

前作「聖なる酒場の挽歌」では、まるでスカダーの酒に対する挽歌(エレジー)のようだと書評したが、本作では完全に酒を断ったはずのスカダーが、実は“on the cutting edge”=際どい切っ先の上に乗っているようなものと表現され、ちょっとした拍子に酒に溺れる生活に戻りかねないというあやうさが作品世界のひとつとなっている。

本作の物語は実に静謐で何とも哀愁に満ちたものだ。
とにかく、終盤も終盤を迎えるまで、さざ波のような静かな展開が続いていく。
事件はふたつ。ひとつは紹介文にある、田舎からNYに上京した女優志望の娘の失踪事件。そしてもうひとつが、AAの仲間の死亡事件。
ふたつともとにかく曖昧模糊としていて、このままでまともに解決するのだろうかと、思わず心配になるほど。
それが急転直下。特にふたつ目の事件については、結構なサプライズが用意されている。
そこで語られるのが、邦題である「慈悲深い死」・・・というもの。
これこそが大都会NYの闇ということなのか? マンハッタンに聳えたる摩天楼も実は“砂上の楼閣”であるということなのか?
いずれにしても、印象深いラストを迎えることになる。

本作では、後の作品でレギュラーとなるミッキー・バルーが初登場。スカダーと親交を深めることとなる。
名作「八百万の死にざま」以降、更なる進化を遂げることとなる本シリーズの重要な分岐点ともなる本作。
やはり必読の名シリーズだという思いを深くした。
残りの未読作品も楽しみ・・・
(読み順がバラバラになってるのが、いいのか悪いのか・・・)


No.1445 7点 真実の10メートル手前
米澤穂信
(2018/05/25 23:06登録)
「さよなら妖精」に登場した大刀洗万智を探偵役に配した連作短篇集。
“ジャーナリストとしての矜持”というテーマも垣間見える作品が並ぶ。
2015年発表。第155回の直木賞候補作にも挙がった作品。

①「真実の10メートル手前」=表題作に相応しい冒頭の一編にして、本作で唯一新聞記者時代の太刀洗を描いた作品。電話での会話から推理を広げていくプロット自体はそれほどではないけど、タイトルどおり、真実の10メートル手前に迫った刹那・・・残酷なラストが待ち受ける。
②「正義感」=電車への飛び込み自殺騒ぎが、終盤鮮やかに反転するプロットが光る。実に短篇らしい一編。
③「恋累心中」=前評判どおり、コレが本作NO.1だろう。②と同様、高校生カップルの心中事件と思われた事件が、ラストに鮮やかに反転させられる。伏線も見事に嵌ってるあたりもなかなかの出来栄え。
④「名を刻む死」=これは・・・何とも痛々しい感じだ。男って生き物はこういうものに拘るところはあるんだけど、何もそこまでねぇ・・・。でも、こういう投書をしてる奴って多そうだ。
⑤「ナイフを失われた思い出の中に」=世界観がよく分からん!って思ってたら、これって「さよなら妖精」の続編的な作品だったのね・・・。「さよなら妖精」が未読なもんで、どうにも・・・。何か、七面倒臭いことやってるし、考えてるなぁーという感想しか思い浮かばない。
⑥「綱渡りの成功例」=いくら田舎町の年寄りだって、今どきコーンフレークの食べ方くらい分かるんじゃない? 人間、生きるか死ぬかの瀬戸際になったらこれくらいのことやるって・・・

以上6編。
「満願」の書評で、『このレベルの作品を出し続けられたら、作者は稀代のミステリー作家だ』って書いたんだけど、本作もまずまず高レベルの作品集だと思う。
「儚い羊たちの祝宴」や「満願」ほどの悪意や後味の悪さはないけど、本作の主人公・大刀洗万智もかなりのツワモノだし、彼女の冷徹でストレートな視点が作品に程よい緊張感を与えている。
何より、作者の短編ならきっと何かが仕掛けられてるっていう期待に応えられる引き出しの多さ、これこそが作者の腕前っていうことかな。
このあと、長編「王とサーカス」も文庫化されるみたいだから、楽しみにしておこう・・・(ついでに「さよなら妖精」も読んでみるか)
(ベストは前述のとおり③。あとは④か①)


No.1444 5点 悪いものが、来ませんように
芦沢央
(2018/05/25 23:05登録)
デビュー作となる「罪の余白」に続いて刊行された第二長編がコレ。
2013年の発表。

~助産院に勤める紗英は、不妊と夫の浮気に悩んでいた。彼女の唯一の拠り所は、子供の頃から最も近しい存在の奈津子だった。そして育児中の奈津子も、母や夫、社会と馴染めず、紗英を心の支えとしていた。そんなふたりの関係が恐ろしい事件を呼ぶ。紗英の夫が他殺死体として発見されたのだ。「犯人」は逮捕されるが、それをきっかけにふたりの運命は大きく変わっていく。最後まで読んだらもう一度読み返したくなる傑作心理サスペンス~

先週に続けての「芦沢央」作品となった本作。
読了後に本サイトやamazonの評価をチラ見したけど、「まぁ、皆さんの言うとおりかな」という感じだ。
はっきり言うと、「何が書きたかったのか?」という感想に尽きる。

ミステリー的な観点からすると、ラストに判明するアノ仕掛けがやりたかった、ということなんだろうね・・・
ただ、それが仕掛けられたところで、「ヤラレタ」感にはつながらないのではないか。
冒頭から「どうも、登場人物の関係性がよく分からん・・・」という違和感を持つ読者は多そうだし、それは当然ワザとなんだけど、だったらそういうことだろうと、中途でどうしても察してしまうしなぁー

じゃぁ、紹介文のとおり「心理サスペンス」が主眼だったのかというと・・・サスペンス性は薄味気味だ。
主役級のふたりが徐々に深みに嵌っていく展開はいいんだけど、それほどシビアな展開が用意されている訳ではない。
などなど、あまり褒めるべきプロットとは思えない。

敢えて褒めるとすれば、ソツのなさというか、売れてる作家のいいとこ取り的な部分だろうか。
湊かなえ的なストーリテラー振りだし、一連のイヤミス作家風味でもあるし、ラストにはちょっとしたミステリー的なオチも用意してあるし・・・ということで、あらゆる読者のニーズを満たそうとしているところはニクイ。
地上波のドラマの原作としてはなかなか良いのではないかと思っていたけど、いや待て! 本作はダメだな・・・・あの仕掛けはさすがに映像化は無理だろう。前言撤回。


No.1443 5点 シャーロック・ホームズ絹の家
アンソニー・ホロヴィッツ
(2018/05/13 10:37登録)
シャーロック・ホームズもののパスティーシュは数多いが、コナン・ドイル財団から正式に「続編」として認められたのは本作が初めてとのこと。
『六十一番目のホームズ作品』として2011年に発表。

~ホームズのもとを相談に訪れた美術商の男。アメリカである事件に巻き込まれて以降、不審な男の影に怯えていると言う。ホームズは、ベイカー街別働隊の少年たちに捜査を手伝わせるが、その中のひとりが惨殺死体となって発見される。手掛かりは、死体の手首に巻き付けられた絹のリボンと捜査のうちに浮上する「絹の家(house of silk)」という言葉・・・。ワトスンが残した新たなホームズの活躍と、戦慄の事件の真相とは?~

パスティーシュは普段あまり読まないんだけど、「まぁこんなもんかなー」というような感想。
ホームズはともかく、ワトスンは原典の雰囲気をよく出しているとは思った。

本作のプロットの軸は、紹介文のとおり「絹の家」という言葉(というか存在)の謎なんだけど、ミステリー好きの読者なら中途で薄々察するだろうなという真相ではある。
まぁ、でもこれはやっぱり二十一世紀の現在目線で書かれた話だな・・・
十九世紀末のロンドンでもこういう世界は当然あったんだろうけど、ホームズ作品でまさかこういう世界が語られるとは思わなかった。

そしてもうひとつの読みどころが、“ホームズの大ピンチ!”
犯人グループの罠に嵌って、なんと郊外の堅牢な牢獄に収監されてしまうことに!
そこからまるでアルセーヌ・ルパンばりに脱獄してみせるのはご愛嬌、っていうやつか・・・
(相変わらず変装してるし、ワトスンはそれに全く気付かないし・・・)
兄・マイクロフトも登場して、いい味出してるところもファンサービスなのかな。

いずれにしても、ミステリーとしての観点では語るべきところは多くない。
本格ミステリーというよりは、まさに「冒険譚」という単語がピッタリ。
事件現場で拡大鏡を取り出したり、依頼人を観察するだけでその人となりをズバズバ言い当てる、なんていうホームズが堪らないという方なら読んで損はないでしょう。それ以外の方なら、特にスルーしていいかと・・・
(例の○○教授についての前フリもサラリと入れているけど、次作への布石なのか?)


No.1442 5点 今だけのあの子
芦沢央
(2018/05/13 10:36登録)
「罪の余白」「悪いものが、来ませんように」など、ヒットを連発する若手女流作家・芦沢央(よう)。
初めて東京創元社から出版した短編集がコレ。(芦沢央も初読み。)
2014年発表。

①「届かない招待状」=一番仲の良かった親友の結婚式に呼んでもらえない女性・・・。考えたら、これほど不幸で居たたまれない女性もいないかもしれない。で、そこには当然理由があるわけで、こんな偶然ってドラマ以外有り得ないでしょう・・・
②「帰らない理由」=「親友」そして「彼女」を交通事故で失った女と男が主亡き部屋で対峙することに・・・。理由は「主」が書いていた日記だった。で、当然問題は日記の中身ということなのだが、それってそんなに隠さなくてはいけないことなのか?
③「答えない子ども」=長い不妊治療のうえやっと授かった我が子。その我が子を大切に大切に育てようとする母親・・・。我が子(娘)が一生懸命描いた絵が別の子ども(やんちゃな男!)に盗られたと知ったとき・・・。しかし、この旦那はスゲえな!我慢強さの極地だ!
④「願わない少女」=受験に失敗した余波で嘘をついてまでも設定した「漫画家になる」という夢。一緒に頑張ってきたはずの親友に裏切られたと知ったとき・・・。しかし、そこまで「他人」に合わすかねぇ・・・
⑤「正しくない言葉」=舞台は老人ホーム。そして今回の謎は「手土産のロールケーキに生えたカビ」だ!(すげぇ謎!)。「なぜカビが生えたのか?」・・・正直どうでもよい。ただし、最後はとってもいい話になる(と、フォローしておく)。

以上5編。
『女性脳は周りのみんなと同じ価値観を持ったり、同程度だと思うと安心感を得られる・・・』-最近見た地上波のバラエティ番組で女性評論家が話してたけど、本作を読んでるとまさにその通りだなと納得させられる。
本作の主人公はすべて女性。
例えば①の主人公は、「同じグループの他のみんなには招待状が届いているのに私には来ていない」ことに、④の主人公は、「クラスの他のみんなは仲の良いグループがあることに」・・・“自分だけ違う”ことに強いストレスを感じるわけだ。
うーん。メンドくさい・・・って思ってはいけないんだろうな。今のご時世では。
なにしろ主役は女性である。職場でも家庭でも・・・。男は黙って我慢するしかない!
(って・・・ついつい自分自身に置き換えてしまう)

作者の“旨さ”はそこそこ感じられた作品。①~⑤で世界観を緩やかに繋がらせる技巧もニクイ。
でも、こんな手の作品は結構多いから、どうも既視感が拭えなかったのも事実。
評価はこんなもんかな・・・


No.1441 6点 クビキリサイクル
西尾維新
(2018/05/13 10:35登録)
第23回メフィスト賞受賞作にして、作者のデビュー長編。
「クビシメロマンチスト」などに続く『戯言』シリーズの一作目でもある本作。
2002年の発表。

~絶海の孤島に隠れ住む財閥令嬢が、「科学」「絵画」「料理」「占術」「工学」という五人の天才女性たちを招待した瞬間、“孤島×密室×首なし死体”の連鎖がスタートする。工学の天才美少女、“青色サヴァン”こと玖渚友とその冴えない友人、“戯言遣い”のいーちゃんは、天才の凶行を証明終了できるのか? 第二十三回メフィスト賞受賞作~

いまさら「西尾維新」初読みである。
前々から評判は耳にしていた本作。もちろん、ラノベ風文体や現実感の全くしないキャラや、「うにうに・・・」「僕様」などという張り倒したくなる台詞etcについてはいろいろ思うところもあるんだけど、敢えて触れないことにする。
(それほどアレルギーがあるわけではないんだけど・・・)

そういうスパイス(?)を剥がしてしまえば、紹介文のとおり、“孤島×密室×首切り”という新本格世代垂涎のミステリー、ということになる。
で、「首切り」については確かに衝撃的。
こんなこと横溝正史なんかがとっくに書いてるんじゃないかと思ってしまうんだけど、あまりにも基本的すぎて誰も書かなかったということなのか?
「首切り」の場合、どうしても「首」の方に目がいってしまうということを逆手に取った、ってことなんだろう。
(「いーちゃん」の電話ボックスの例え話はなかなか良い)
「密室」は添え物程度。特に二つ目の密室はかなり苦しい。

プロットはデビュー作としては異例の出来栄え。
孤島の連続殺人なんていう手垢のついたプロットなのに、「見せ方」さえ工夫すればまだまだいけることを示した作品。
こういうプロットだと警察不介入が大前提になるし、リアリテイ云々に触れるのは筋違い。
まぁ突っ込み所は満載なんだけど、それを言うのは野暮っていうことで・・・
今ではミステリーのフィールドからは大きく外れたらしいですが、さすがに売れっ子になる作家は違うということかな。


No.1440 7点 ラン迷宮
二階堂黎人
(2018/05/01 22:44登録)
「ユリ迷宮」「バラ迷宮」に続く、二階堂蘭子シリーズの短篇集三作目。
今回は自身の名前どおり「ラン」にまつわる迷宮に挑戦ということで・・・
2014年の発表。

①「泥具根博士の悪夢」=作者自身の編んだアンソロジー「密室殺人大百科」(2000年)に収録された作品。雪密室+四重の扉が立ち塞がるという超強力な密室が登場。これはどんなトリック??って興味津々だったのだが・・・解法としては、蘭子のお決まりの台詞「困難は分割せよ」を地でいくトリック。読者でも十分解き明かせるという意味では、実によくできたトリックだと思う。因みに“泥具根博士”とは「鉄人28号」に登場する“ドラグネット博士”のもじりとのこと・・・(知らねぇ・・・)
②「蘭の家の殺人」=中編級のボリュームで本作の核となる作品。過去に起こった毒殺+密室殺人を蘭子が関係者の証言をもとに解き明かすというプロット。作中で触れているように、A.クリスティの「五匹の子豚」が作者の頭にあった模様(巻末解説者はE.クイーン「フォックス家の殺人」により近いと言及してますが)。密室トリックは「そんなこと!」っていう程度のものだし、フーダニットも「意外な犯人」の典型。そういう意味では大したことないとは言えるけど、雰囲気は好ましい。
③「青い魔物」=乱歩の世界をもじった“通俗風”スリラーの匂いがする作品。体全体が「青い」人間など、いかにも作者が仕掛けてきそうなプロットだなーっていう感想。分量も短くて小品。

以上3編。
超大作となった「人狼城ー」以降、作品レベルの劣化が目立つ作者。
前作「覇王の死」も酷くて、「もう終わったのか?」って思っていた矢先の作品集。
あまり期待せず読み始めたのだが・・・

マズマズの満足感という感じかな。
もちろん初期の佳作とは比べるべくもないんだけど、特に①なんかはいかにも「二階堂」という匂いが漂う作品。大げさなこけおどしや前時代的な舞台設定など、ファンにとっては「コレ、コレ!」っていうことになる。
蘭子は相変わらず高飛車&上から目線の極地なんだけど、今どきこんなクラシカルな探偵小説に挑戦するスピリット自体、ある意味国宝級かもしれない。
どんな批判にあっても、やっぱり「二階堂らしさ」は忘れずということで、次作にも期待します。

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