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ミステリの祭典

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江守森江さんの登録情報
平均点:5.00点 書評数:1256件

プロフィール| 書評

No.1036 7点 Qを出す男
島田一男
(2010/08/17 21:21登録)
迷宮入り事件を取り上げる「七ッの疑問」というテレビ番組ディレクターを主人公にした連作短編シリーズ。
作者の持ち味であるテンポの良さが遺憾なく発揮され、尚且つバラエティーに富んだ趣向の推理物で非常に楽しめた。
この作品が書かれた時期には通俗推理物作家として目覚めていて、読んだら忘れるが面白い作品(これぞエンタメの極み)を連発していた。


No.1035 5点 恐喝
佐賀潜
(2010/08/17 21:05登録)
今では対策されて目立たなくなったが、書かれた当時は全盛を極めていた総会屋同士の対決を描いた悪漢小説。
推理要素を捨て去り執拗に描かれ非常にサスペンスフルで面白かった。
かなり以前の話だが、神保町の古本屋の店頭ワゴンや特売棚に作者の作品&法律実用書がやたらとあったので結構読んだが、この作品が一番面白かった記憶がある。
※余談
他に作者が編集の推理クイズ本に一冊面白いのがあったがタイトルが思い出せず残念。


No.1034 6点 知能犯
梶山季之
(2010/08/17 20:32登録)
色々なタイプの知能犯罪を描きながら騙しの手口を紹介したドキュメント風犯罪小説。
作者の旺盛な取材力とアイデアが発揮されている反面でサービス精神は抑えているので、真面目な犯罪小説になっている。
鴨にされる被害者より騙す犯人の能力を評価しているのが作者らしい。
憎めない悪漢を書かせればピカイチな作者の持ち味が発揮されている。


No.1033 7点 野望の青春
梶山季之
(2010/08/17 11:55登録)
同窓な三人の新入社員を主人公に、沖縄返還以前のホテル業界の内幕を描いたサクセスストーリー。
恋愛・変態・陰謀などあらゆる要素を詰め込んだ総合エンターテインメントなのでミステリーの範疇に含めてみた。
入社試験の件など爆笑を禁じ得ない面白さで作者の真骨頂が発揮されている。
初読当時には私もハニーマン(蜂蜜男)になりたかった。
現在「普天間問題」で揺れる沖縄を考えると、この作品で提起される返還時・沖縄宗教リゾート化を本気で推進していればどうだったのか?興味深い。


No.1032 5点 狂った脂粉
梶山季之
(2010/08/17 11:35登録)
作者には、手馴れた産業スパイ小説で、自動車業界や家電業界から化粧品業界にシフトしただけの作品。
化粧品業界だけにユーザーが女性でもあり、堅い産業スパイ物からシフトして女性を利用する方向性が顕著になっている。
もっとも、それだけで作者にしては新鮮味の感じられない作品で、どこかの週刊誌の穴埋め連載だったのかもしれない。
当時の量産体制を考えれば、やっつけ仕事(そこから湧き出るテンポが持ち味でもあるが)な作品が混ざるのも致し方あるまい。


No.1031 5点 合わぬ貝
梶山季之
(2010/08/17 11:23登録)
スケベ・エンターテインメント作家にシフトする前に書かれた松本清張的な社会派推理短編集(但し、表題作は松尾芭蕉の性癖を題材にした時代小説)
この作風(文章)では明らかに松本清張に一日の長があり、同様な社会ネタを真面目に書いては超えられない事を認識したのだろう(世間の要請に応えただけかも)
わざわざ読む程面白い作品が揃うわけではないので本来なら3点辺りだが、作者が上記を認識してサービス精神全開なスケベ・エンターテインメント作家にシフトし、数多の傑作を物にした意義は私には大きく2点加点する。
社会的なニーズとは別にライフ・ワークにしていた超大作を完成出来ず早逝したが、本来は文学作品を書きたかったのだろう思いが伝わってくる。


No.1030 2点 にぎにぎ人生
梶山季之
(2010/08/17 11:07登録)
全4冊(2編各上・下巻に分冊)からなる〈どケチ・サクセスストーリー〉
ケチを極めながら大金持ちになる過程では随所にミステリー的発想が描かれるが、作品の本質は出勤途中や当時主流だった電車出張中に暇つぶしで読むドタバタの面白さにある(車中で爆笑して視線を集め恥ずかしい思いもする)
ミステリーには含まれないと思うのでポリシー通り2点だが、エンターテインメント作品としては水準レベルにある。
書きなぐりで、この分量の作品を書けてしまう辺り、鉄道弘済会(現キオスク)御用達作家の異名も伊達ではない!!


No.1029 3点 容疑者たち
富島健夫
(2010/08/17 10:34登録)
青春大河小説の名の下にエロ小説の大家として君臨した作者が一風変わったミステリーを書いていた。
容疑者たちのアリバイ等を捜査する過程を描きながら、容疑者の誰もが犯人たり得る可能性を残し放置した状態で終了する。
論理的に犯人指摘が出来る東野圭吾の究極の読者挑戦作品に先駆けている訳でも、リドルストーリーとして成立させたかった訳でもなさそうで、何を書きたかったのか意味不明な作品。
大井廣介「紙上殺人現場」を読んで下記の作品のついでに読んでいた事を思い出した。
※オマケの余談
「青春の野望」(全5部:週刊プレイボーイ連載)&「女人追憶」(全7部:週刊ポスト連載)の2作品はエロ青春大河小説分野では金字塔と云える。


No.1028 6点 紙上殺人現場
事典・ガイド
(2010/08/16 19:03登録)
書評されている60年代はカラーTVが漸く普及した時代で、松本清張により探偵小説が駆逐されて以降の不毛時代でもあり、残念ではあるが対象作家&作品の殆どが今では(一部マニアにしか)見向きもされない作品のオンパレードになってしまったのも時代の流れだろう。
書きなぐりで量産した作家&作品を貶して推理小説の行く末を危惧しているが、カラーTVの普及に合わせ二時間ドラマ原作レベルな作品が量産され始めたし、ネームバリューや映画と抱き合わせでしか本が売れない現在の出版不況は皮肉に思える。
高木彬光作品の出来・不出来は適切に評されていると思うが、島田一男の持ち味を貶して、欠点を褒めていたり、鮎川哲也に対する依怙贔屓には納得いかない面がある。
それでも嗜好に共通点があり書評に頷ける点も多い。
今更、この書評をガイドに作品をあたる必要性は感じられないし、書評された作品群と共に図書館の書庫に眠っていても致し方ないだろう(5点)
そんな中で唯一の救いは梶山季之をミステリーの範疇に含めながら褒めている事だった(もっとも、一番の持ち味であるスケベなサービス精神はセーブすべきとの忠告には「余計なお世話だ!」と感じたが)
タイトルから本格一辺倒な書評と思っていたら梶山季之が語られ、驚きと嬉しさで1点加点した。


No.1027 3点 青いサファイヤ
梶山季之
(2010/08/16 18:20登録)
「赤いダイヤ」のヒロインを主人公にした悪女(コンゲーム)小説。
騙しの手口などは毎度お手の物でも、作者の作品には女性を悪の主人公にすると(女性観の問題なのか?)途端に魅力が薄まる欠点があった。
ヒロインではあるが脇役だった「赤いダイヤ」では感じなかったが本作では感じたので、欠点がモロに出た典型的作品と言えるだろう。
作者の一番の売りは、男性主人公の憎めなさ&痛快さなのだとつくづく思った。


No.1026 7点 色魔
梶山季之
(2010/08/16 17:55登録)
全3巻からなる壮大な悪漢小説でエロ・サクセスストーリーなのは間違いないが、ピカレスクの部分に力点があるのでミステリーに含めた。
基本的に人妻&未亡人を強姦しながら誑し込み、利用する事でピンチを乗り切りチャンスをモノにする小説なので、タイトルと相まって女性には総スカンだった作品らしい。
これだけ酷い奴に描かれながらも憎めない主人公なのが作者の真骨頂だろう。
エロにまみれさせながら書かれる悪の手口に毎度のごとく感心させられた。
一般に広く読まれていたので、悪用されない様、わざと悪の手口には欠陥を忍ばせていたとの作者インタビューを読んだ。


No.1025 2点 と金紳士
梶山季之
(2010/08/16 17:35登録)
全4巻からなる世界規模で壮大に描かれたエロ・サクセスストーリー(私的ミステリーの範疇にはないのでポリシー通り2点だが、痛快小説としてなら文句なしの10点)
作者の作品で一番売れたシリーズらしく、横山まさみち(夕刊紙エロ漫画の巨匠)により漫画化もされた。
エロまみれなサービス精神が発揮され過ぎではあるが、様々な分野の小説の面白さが詰まっている。
国内で風俗のサイドビジネスをしたり、社内の陰謀を阻止したりする前半2巻からタイに赴任して世界を相手にする3巻、再度国内で活躍?して年貢を納める最終巻まで、エロオヤジなセンスの笑いに満ちている。
実際は不便だと思うのでビール瓶クラスの巨根は嫌だが、若かりし頃主人公は目標であり憧れの存在だった。


No.1024 5点 トリック専科
評論・エッセイ
(2010/08/15 15:26登録)
マジックのタネからパズル、騙し、イカサマ、ミスディレクションに至るまで実例や作品をピックアップしながら紹介・解説して楽しく読ませる。
大ネタのネタバレには配慮しているが、小ネタや古いネタは(図解入り)ネタバレしているのは乱歩の「類別トリック集成」同様に古典作品をこれから読むなら注意が必要になる。
一つ一つの騙し自体は単純でも、人間は騙され易いし、振り込め詐欺が根絶しないのも頷ける。
この本は「ペテン師入門」として別の利用法がある実用書でもある(悪用して罰せられても責任は持てない)
※追記(11月27日)
現在Foxで放送中の「破られたマジシャンの掟」はこの本の完全ネタバレ実演版だと思う。
トリック(仕掛け)と実演(見せ方)がミステリに似ていて楽しめる(要注意:私の様にネタバレにある程度寛容な人に限定されます)


No.1023 5点 アガサ・クリスティを訪ねる旅
評論・エッセイ
(2010/08/15 15:10登録)
鉄道とバスで英国内のクリスティ縁の地を巡った旅行ガイド(巻末には年譜、作品・場所索引付き)
但し、ガイドの至る所に登場シーンやセリフが引用されている作品ガイドでもある。
英国に旅行できずとも雰囲気は充分に堪能できるし、クリスティの映像化作品と共に観れば安価に旅行気分が味わえる。
ミステリ技法論とは全く別方向から英国に馴染む事でクリスティを楽しむ立派な作品ガイドになっている。
※余談
ロンドン警視庁がイングランドの中心にありながら何故スコットランド・ヤードと呼ばれているのか?疑問だったのだが、この本で解消されて嬉しい。


No.1022 6点 アクロイドを殺したのはだれか
評論・エッセイ
(2010/08/15 14:48登録)
「アクロイド殺し」の真犯人は誰なのか?を考察したクリスティー評論。
クリスティーの諸作品を読んだ方々を対象にした評論なのでネタバレに対する配慮は一切されていません、読むに当たってはご注意下さい!!!
「創造的読解への誘い」→「潜在的多義性の追求」が第一義にあり、極論だがミステリはリドルストーリーとの結論に至る。
取り分け、第三章ヴァン・ダインの法則でのクリスティー作品全般に於ける犯人設定(隠蔽)の技法論は面白い。
ミステリの技法としての「語り手は不誠実」やポアロの行動を精神分析して「妄想」と判断して「アクロイド殺し」の別解を導き出している。
作者の提示した結論に加えて、独自視点で推理・分析する新たなミステリ読書法を提起する一風変わった論文だった。


No.1021 5点 アガサ・クリスティー百科事典
事典・ガイド
(2010/08/15 14:15登録)
長編は1ページ1作品、短編集は収録作品それぞれ、戯曲、普通小説、紀行、自伝まで紹介する作品事典。
更に、作中人物・アイテム事典。
戯曲初演、映画、テレビ化作品一覧(AXNミステリを観るのに大変参考になる)、年譜。
所々に挟まるティータイムと題したコラムまで、丸ごと一冊クリスティーな本。
私的には「アガサ・クリスティを訪ねる旅」と対になるクリスティー・ガイドだと思う。


No.1020 4点 アガサ・クリスティーの秘密ノート
評論・エッセイ
(2010/08/15 14:01登録)
上・下巻に渡るクリスティーの創作ノートを解読しながら主だった作品を考察した評論。
オマケとして最後に発見された原稿を(解読して)作品に仕上げた物が付録にある。
創作ノートが土台なので深くマニアックに考察され、クリスティーの研究論文を読む感じになる。
しかも、ネタばれ注意と最初に作品名を提示しながら注意を促してはいるが、クリスティーの主要作品をほぼ読破してからでないと確実にネタばれ被害を被る。
オマケ短編も特筆するに値しないので、クリスティー・マニア以外は迂闊に手を出すべきではない本。
逆に、ほぼ全作を読破したマニアには必読書でもある。


No.1019 2点 汚れた英雄
大藪春彦
(2010/08/12 17:53登録)
映画版を観た当時に初読したが、近藤史恵「サクリファイス」のシリーズと比較する目的で再読した(所有している四部作なノベルス版を読んだので文庫版等の詳細は不明)
バイクレースの世界とレーサーの青春を扱ったアスリート悪漢小説で私的なミステリーの範疇にはないのでポリシー通り2点(エンターテインメント小説としては大藪作品では一番好きで7点)
登場人物達の競技に賭ける思いとストイックさに共通点を見いだせたので近藤史恵「サクリファイス」が大藪春彦賞を受賞した事に納得し、楽しく再読できたので有意義だった。


No.1018 4点 夜の終る時
結城昌治
(2010/08/12 17:04登録)
昨日、テレ東でドラマ版(一時間物:他局で二時間ドラマもある)が再放送されたのを観て図書館でおさらい(書庫にしまわれていた)した。
ドラマ版では配役から早々に犯人を察せるが、今の読者なら原作でも同様だろう。
もっとも原作は二部構成で、警察小説な第一部と犯人視点になる第二部での様相の変化が読み所かつ日本推理作家協会賞を受賞できた要因だと思う。
しかし、犯人&悪徳?刑事設定のどちらもが(作者に罪はないが)刑事物ドラマ等で多用され定番に成り下がった気がして残念。
作者の作品らしく極力無駄がないのでサラッと読めるのは良い。


No.1017 4点 南アルプス殺人峡谷
太田蘭三
(2010/08/11 01:05登録)
先日、久々に土曜ワイド劇場放送の2時間ドラマ版のビデオを観た。
ドラマ放送当時に原作シリーズを順次パチンコの新装開店並びの時間つぶしで読んだ(結構シリーズ継続したハズ)
更に、主役を釣部から脇役だった蟹沢に変えたシリーズや顔の無い刑事シリーズに綿々と受け継がれた(そちらは事故入院時に読んだ)
社会性やミステリー色は極力抑えた変形トラベル(アウトドア・レジャー)・ミステリーとしては楽しく読めて暇つぶしに重宝した。
渓流レジャーの案内に主力を置いているので、ミステリーを含む小説部分は非常に金太郎飴的マンネリ感に満ちて安定している。
特に、釣部のもじもじした中年男の恋愛がシリーズの読み所で楽しかった。

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