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ミステリの祭典

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夜の終る時

作家 結城昌治
出版日1963年01月
平均点6.50点
書評数6人

No.6 7点 斎藤警部
(2021/09/08 00:41登録)
誰が漏洩(もら)したか、誰が殺したか、二つのフーダニット。当初、恐喝犯に逮捕予定をリークしたのは殺された刑事で、刑事を殺したのが恐喝犯と目された。要は仲間割れだ。ところが、その恐喝犯は拘束中の警察内部で謀殺され、更にはそのトボけた実行犯(?)も屍体で発見される。これで複雑になったフーダニットのフーは、かえって全四件とも一人に絞られたのか、それとも。。。。

簡素で情感滲む、可読性高いハードボイルド文体で書き捌いた昭和の警察群像劇です。いくつかの新機軸を意識して書いた作品の様ですが、その意気込みが前のめりにならず、豊かな内容が堂々と、着地すべき場所に着地しています。筆力ですね。 

後半と呼ぶには短すぎる第二部をもっと膨らませて、途中まで真犯人を明かさず進む倒叙形式で(第一部の最後でも真犯人を明示/暗示せず)行ったら、もっとガツーーンと来たんじゃないかな、などとも思いました。
まあでも、真犯人とその背景を知ってから第一部を読み直すと、はぁーーコイツそうだったのかよ… って見事な大胆伏線や裏ストーリーが哀感帯びて次々と浮かび上がって来るのですね。 やはり、ここは構成の妙と言うべきでしょう。 そうか、アンタの「夜」ってのは。。。 終わるのか。。。。 

読んだら、赤羽に行きたくなりました。

No.5 5点 ボナンザ
(2018/01/21 18:37登録)
本格風な刑事ものの一部と倒叙形式な二部がうまくマッチングした佳作。

No.4 8点 tider-tiger
(2017/06/17 20:16登録)
前半警察小説、後半はクライムノベルになるのか?
安田刑事の視点で警官殺しの犯人を追う第一部は無機質に淡々と綴られていく。視点を犯人に移しての第二部は文章もガラリと変わって、うーんこの変調がたまりませんな。いつのまにか犯人に感情移入してしまう。
異質のものをまとめる二部編成。ドイルの恐怖の谷は少々不細工というか強引であったが、本作ではうまくまとめて効果を上げている。その他の点も完成度の高さでは結城昌治作品の中でも随一ではなかろうか。私は真木シリーズに愛着があるが、採点は本作が上かな。
簡潔だが、スカスカではない文章。
最初の数頁で展開される短いセリフばかりで構成された会話では署内での立ち位置や能力などがきちんと見える。さりげなく伏線も挿入。無駄口叩かず口を開くときには必ず意味がある。そこに味わいも加味できるのが結城昌治。
徳持刑事が扼殺された時点で犯人がなんとなくわかってしまったのだが、この点が本編で言及されていない。あれは作者から読者へのヒントというわけではなかったのか?

問題点
コーラ→どうやって毒を混入した? 
死体発見→あいつはきっと殺されてる、死体を探しに行こう! その刑事はあてもなくなんとなく探しに行ったら死体発見! そんなバカな。
以上の二点をもう少しスマートに処理して欲しかった。

ラストは秀逸。
なんて残酷な終わり方なんだろう。
タイトルにその救いの無さが表れている。その瞬間が非常に簡潔に、粋に決まっている。

No.3 8点 クリスティ再読
(2016/11/28 23:11登録)
最近マッギヴァーンやって「暗い落日」やったからには、これしないとね。結城昌治三大傑作の一つだと思うが、本作はマッギヴァーンが先鞭をつけた悪徳警官モノ。この人の海外ネタの消化力のすごさにはいつも驚かされる。
本作は2部構成で、前半は事件の経緯を客観描写で追うもの。後半1/4ほどが、視点を犯人側に寄せて警官の堕落の心情を丁寧に描写する。でこの後半の描写が男泣きに泣ける。文章も前半は客観的で叙述的、会話が多くニュートラルな文章だが、後半は主観的でボツボツとした短い文が畳みかけるように続いていく。

ふいに、海の風景が浮かんだ。おれは、待合室に出入りする人々を眺め、千枝の姿を求めながら、死ぬことを考えていた。海は、待合室にこもったタバコの煙のむこうに見えた。ざわめきは潮鳴りのようだった。

日本的な湿度とハードボイルド文のリズムを兼ね備えたいい文章だよ。評者大好きだ....
前半だって警察小説でありながら、捜査陣内部でのフーダニットというちょっと例を見ないような趣向があるので一応パズラーで読めて、しかも悪徳警官モノで、泣ける犯罪心理小説で...とテンコ盛りな内容にもかかわらず、文庫250ページの短めの長編である。それだけぎゅっといろいろな要素が凝縮された珠玉の作品だと思う。イマドキのダラダラ長いばっかりの警察小説(誰とは申しませんがね)と比較すると、結城昌治の腕の冴えがよくわかる。

No.2 4点 江守森江
(2010/08/12 17:04登録)
昨日、テレ東でドラマ版(一時間物:他局で二時間ドラマもある)が再放送されたのを観て図書館でおさらい(書庫にしまわれていた)した。
ドラマ版では配役から早々に犯人を察せるが、今の読者なら原作でも同様だろう。
もっとも原作は二部構成で、警察小説な第一部と犯人視点になる第二部での様相の変化が読み所かつ日本推理作家協会賞を受賞できた要因だと思う。
しかし、犯人&悪徳?刑事設定のどちらもが(作者に罪はないが)刑事物ドラマ等で多用され定番に成り下がった気がして残念。
作者の作品らしく極力無駄がないのでサラッと読めるのは良い。

No.1 7点
(2009/03/04 22:51登録)
日本初の悪徳警官ものという評価が定着している作品ですが、ほとんど3/4近くを占める第1部は、悪徳警官の疑いがある刑事が殺された事件を他の刑事たちが捜査するという筋書きで、ハードボイルド系警察小説という印象を受けました。元々ハードボイルド作品には悪徳警官が登場することはよくありますが、その部分をメインに据えた、ということになるでしょうか。犯人の正体については、疑惑が確信的嫌疑にまで高まったところで、第1部を終えています。
残りの第2部は、その第1部のラストを受けて視点を入れ替え、犯人の側から描かれていくわけですが、この切り替え部分が鮮やかです。中公文庫解説で権田氏は倒叙推理小説の手法と書いていて、確かにそのとおりなのですが、やはりハードボイルドっぽい哀しみを持つこの第2部は、松本清張などでおなじみの最後の犯人告白部分を拡張充実させた構成ともとれると思いました。

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