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ミステリの祭典

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容疑者たち

作家 富島健夫
出版日1961年01月
平均点4.50点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2019/02/12 18:00登録)
【レビューの前半はネタバレなし・あと、最後まで読んでも、真犯人の名はここでは明かしません。】
 若手エリートサラリーマン・工藤順平の妻で、自身も証券会社のOLであるさち子が、ある夜、自宅で何者かに殺される。さち子は死の直前、結婚前から関係を続けていた文学青年崩れの雑文書き・沖津守と情交したばかりのようだった。順平と沖津に加え、順平に棄てられてさち子を逆恨みしていた夜の女・山崎節子、工藤家の隣人の病身の学生・宮崎新次郎、この4人の中にさち子殺害の真犯人はいる!? そう捜査陣は目星をつけるが……。

 青春恋愛小説および官能小説の両ジャンルで昭和の文壇に名を残した作者が、作家生活の初期に一時期書いていたミステリが4長編。その最後の一冊にあたる作品である。
 冒頭、アイリッシュの『幻の女』を思わせる書き出しで始まり、「加害者」と表記された性別不明の犯人がさち子を絞殺する場面がそれに続く。二部構成の小説本編は、名前の出てくる7人の登場人物の事件前とその後の関係性を追っていくが、最後は本当に素直に読んでいくとあっというクロージングで終る。

【以下、ネタバレ。本書の大きな趣向を明かします。
 あと、老婆心で甚だ恐縮ながら、ネタバレ警戒の人は、過去の江守さんのレビューも読まない方がいいかも……(汗)】



 本文中では結局犯人が明かされないまま、捜査陣の立場からすれば迷宮入りという大反則技で終る。東野圭吾の某作品の先駆といえる? 趣向で、当時の「週刊朝日」の匿名書評子は賛辞したらしいが、一方で平野謙などは「邪道だ」と切って捨てたらしい。
 こういう作品だからシンプルな事件と物語の構造だが、1983年の徳間文庫版の解説で中島河太郎が書いているとおり、何回か正体不明のままに出てくる「加害者」の内面の叙述を読めば、真犯人は(中略……)だな、とわかるような気がする。私見では、徳間文庫版166ページ目の10行目辺りがキーとなるような……。

【以上でネタバレ終り】




 星の数ほどあるミステリの中には、こういう作品があってもいいとは思うし、まだまだ煮詰められそうなところもないではないが、個人的には読んで面白かった。意味があった一冊だった。

No.1 3点 江守森江
(2010/08/17 10:34登録)
青春大河小説の名の下にエロ小説の大家として君臨した作者が一風変わったミステリーを書いていた。
容疑者たちのアリバイ等を捜査する過程を描きながら、容疑者の誰もが犯人たり得る可能性を残し放置した状態で終了する。
論理的に犯人指摘が出来る東野圭吾の究極の読者挑戦作品に先駆けている訳でも、リドルストーリーとして成立させたかった訳でもなさそうで、何を書きたかったのか意味不明な作品。
大井廣介「紙上殺人現場」を読んで下記の作品のついでに読んでいた事を思い出した。
※オマケの余談
「青春の野望」(全5部:週刊プレイボーイ連載)&「女人追憶」(全7部:週刊ポスト連載)の2作品はエロ青春大河小説分野では金字塔と云える。

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