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ミステリの祭典

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平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.460 7点 ハードボイルド・エッグ
荻原浩
(2015/06/17 09:53登録)
最上俊平はマーロウに憧れ、マーロウを気取った冴えない私立探偵。主たる仕事はペット探しで、今回もそれから始まる。
ペットの飼育放棄やブリーディングの問題など、ペットに関する社会問題も盛り込んである。というほど大げさなものではないが。
そんなペットの捜索が急展開し新たな局面へと発展する。

まず本作の売りは、笑いとサスペンス。
主人公はもちろんだが、彼を取り巻くキャラクターが負けてはいない。
80歳超の秘書・綾がそれ。彼女との珍妙なやりとりは強烈。
つぎがホームレスのゲンさん。主人公との組長宅への侵入シーンはケッサク。
この場面もそうだが、ゲンさん、綾との行動は、笑いとサスペンスに満ち溢れている。そしていたるところで俊平の度胸のなさが披露される。
本人はシニカルな言葉を吐くし、始終危ない目にもあい、マーロウとあまり変わらない気もするが、腰が引けてしまうことと、脇役たちのお笑い度に大きな差がある。

つぎにストーリー。
後半はかなり魅せてくれる。
ちゃんとした筋があるから、たんなるパスティーシュで片づけられない。ハラハラ感がたっぷりだからサスペンスともいえるし、ペットの問題がはらんでいるから社会派モノともいえる。ミスをしながらも最終的にはきちんと推理をするから立派な推理小説でもある。
涙も売りのようだが、比較的あっさりしていていい感じだ。ただ、最上が、『長いお別れ レイモンド・チャンドラー』を見つけたときの描写には、ぐっときた。

チャンドラーにぞっこんなのか。チャンドラーは作家受けする作家で、日本の作家には敬愛する人が多い。そういう人が茶化すから、ツボを押さえている。
日本のハードボイルドの場合、なかなか本場のようにはいかない。むしろ、本作のようにお笑いにしたほうが好感を持たれるし、多くの人にも読まれる。


No.459 4点 インディアン・サマー騒動記
沢村浩輔
(2015/06/09 10:01登録)
いちばん気に入った『夜の床屋』にしても、最後にもうひとひねりほしいなという物足りなさを感じました。
この作品で賞をとりましたが、作者自身も書きあげてから書き足りない何かを感じたのでしょう。それで、なんとか挽回できないか、うまく続きを書けないか、と連作短編を書きつづけた、ということかもしれません(すみません、すべて想像です)。

それぞれの短編の独立性はかなり高いといえるし、作風さえも違うから、個別の短編を集めただけと聞いていれば、それなりに楽しめたのかもしれません(勝手なものですね)。
連作というのを知って読んだから、支離滅裂感しか残りませんでした。
しかも、後続の作品は、表題作と同様の物足りなさを抱えているような気がします。というか作者は物足りなさを生かして、連作「長編」として決めてやろうと狙ったのかもしれません(もちろんこれも想像)。
そして、エピローグで・・・。
このエピローグも、作者の言い訳のように聞こえました。
でも、たしかに後半の2,3編とエピローグとは、うまくつないだような感もありますね。

異なる作品群をなんとかつないでいくという気合やテクニック、力量は感じられなくはありませんし、本格ミステリーの変化球版といえなくもないのですが、個人的には、ちょっとちがうかなと感じました。まあ嗜好の問題だとは思いますが・・・。


No.458 5点 時の娘
ジョセフィン・テイ
(2015/06/05 10:23登録)
15世紀の英国の王リチャード三世は残忍な悪人だったのか、王子殺害については有罪なのか、無罪なのか。判決を下すのはベッドの上のグラント警部。

英国や欧州で歴史上の人物として、どの程度著名なのかは知りませんが、すくなくともシェークスピアの戯曲があるぐらいだから、一般人でも知ってるレベルなのでしょう。
とにかく一般的には嫌われ者みたいです。
日本の歴史上にもいますよね。
山岡荘八が『徳川家康』(26巻)を書くまでは、信長や秀吉の引き立て役で、腹黒いイメージしかなかった、狸親父・家康がそれ。
弟・義経を追い詰めて殺した、全く人気のない(もちろん評価もされているのでしょうが)、源頼朝のほうが近いか。

入院中のグラントが歴史書をひもときながら、そして歴史研究生キャラダインと会話しながら謎解きを進めていく、そんなスタイルはとても興味深い。ユーモアがあるのも良い。
日本人にとって謎解き対象の人物のなじみのなさは、インターネットなどで少し調べておけば問題なしでしょう。
それよりも、もう少し、たとえばロシア革命のアナスタシアみたいに謎も華もある人物だったなら、もっと楽しめたように思うのですが・・・

その他述べたいことはいろいろあるが、あえてひとことだけ。
『時の娘』というタイトルがいちばん良かった。


No.457 7点 タルト・タタンの夢
近藤史恵
(2015/05/27 17:40登録)
北森鴻の「香菜里屋」シリーズや、芦原すなお氏の「ミミズクとオリーブ」シリーズと類似の、料理人が推理する、料理の薀蓄満載の安楽椅子連作モノ。
本格推理度としては、香菜里屋がいちばんだが、個人的にはミミズクのほうが上手いと思っていた。
で、本書はどうかというと、ミミズクと同レベルか、それ以上。
この種の料理ミステリーは、本書のようにあったかそうな感じがしないとね。店のメンバーもいきいきしてるしね。という理由で上記の順になった。

提起される謎は、おもに客に関する日常の謎。ミステリー度合いとしては低め、というより素人では解けないレベル。だからミステリー的な目線で見れば評価は高くない。でもグルメ要素だけで十分な作品だった。
個別には尻上がりに良くなり、後半の2作、「ぬけがらカスレ」「割り切れないチョコレート」は仕事中も堪らず読み続けた。

キャラ的には、語り手の高築、ソムリエ女子の金子らがいろいろと推理し合うところが面白いし、料理人の志村が「ガレット・デ・ロワの秘密」で妻との出会いの経緯を明かされ、うろたえるところもよい。
シェフの三舟はいつも冷静で、あっけなく謎を解く。安楽椅子モノの探偵役らしく謎めいてはいるが、寡黙でもなければ、人当たりが悪いともいえないし、偏屈でもなさそう。

フレンチといえば、バターやクリームを多く使い、こってりとしていて体に悪そうなイメージがある(じつはよく知らない)。それに気取りすぎという感もある。
だから、めったに食べない。じつは金もないw
ということで、ついついイタリアンを選択する。
でも、こういう下町の庶民的なビストロならちょっと覗いてみたい。


No.456 5点 異邦人(いりびと)
原田マハ
(2015/05/25 10:11登録)
作者お得意の美術ミステリーです。お得意といっても、作品にはミステリー自体があまりなく、『楽園のカンヴァス』以来、チェックしていましたが、今回やっとそれらしいものを見つけた次第です。

たかむら画廊の専務である篁一輝と、その妻、有吉美術館の副館長の菜穂の2視点で交互に語られる。

菜穂は副館長といっても、妊娠を機に、原発汚染を逃れるため、ひとり京都での優雅な生活を始めるセレブの若奥様。事件らしきものは起こらず、金持ちにとっての日常の話がなんとなく語られていく。
そんな退屈な中、京都の画廊で新人画家・白根樹を見つけ出す。それが運命的な出会いなのだろうが、中盤にあまり変化はない。
ところが後半、東京の画廊や美術館、その親会社が急に危なくなったあたりから、菜穂が東京の夫や両親たちと気まずくなり、ラストのサプライズに向けすこしずつ物語が動き始める。
この後半に語られる、どろどろとした家族的背景はなかなか壮絶。

キャラとしては、菜穂の奔放さが際立っています。目利きだからこそ許される性格なのかもしれません。こういう人が奥さんだと大変かもw
一方、夫の一輝が菜穂と親たちとの間でおろおろする姿がなんとも滑稽です。

推理力を働かせるようなストーリーではありませんし、どんでん返しというほどのものもありません。
ミステリーとしては『楽園のカンヴァス』にくらべかなり落ちますが、エンタテイメントに純文学を加味したようなものを読みたい人には勧めてもいいかなという感じです。


No.455 5点 南青山骨董通り探偵社
五十嵐貴久
(2015/05/20 09:59登録)
文庫オリジナル、新シリーズ。
ビブリア古書堂のようなライト文芸っぽいイラスト表紙の多いなか、写真で構成された地味な表紙で目を引いた。ただタイトルは、なんとなくライト感がある。

大手企業に勤める井上雅也は、探偵社の社長・金城に勧誘され、アルバイトとして雇われ、とある中学のレイプ事件に関わっていく。

探偵社の社員全員がそれぞれの持ち場で活躍する推理モノ。
社長以外のメンバーは、井上のほか、中堅の立木、刑事出身の徳吉、女性探偵の朝比奈玲子、バイトの真由美、美紀の顔ぶれ。
女性警察官からの依頼とはいえ、社運をかけたように、メンバー全員がレイプ事件に関わるのはちょっと不自然だ。探偵社を捜査1課にすれば警察モノと変わらないのも気にはなる。
とはいえ、個人的にはとても新鮮な感じがした。
井上視点で彼の身近なところを描きながら、徐々に社員の活躍の場を見せるあたりは、シリーズ第1作としてわかりやすい構成だと思う。
シリーズが進んで、もっともっと群像劇っぽくすれば面白くなるかもしれない。
ミステリー的に注目すべきは後半の二転三転。そんな捜査の過程はそれなりに楽しめた。
犯人当てとしては全くのルール違反。だから本格ミステリーとは言えない。

ラストの甘っちょろさには首を傾げるが、確実にシリーズ化されそうな終わり方だったので、今後に少しだけ期待してみよう。


No.454 6点 ○○○○○○○○殺人事件
早坂吝
(2015/05/15 11:37登録)
全部でページ数はどのぐらいあるのだろう、といつものクセでページをぱらぱらとめくり、最終ページをチラリ・・・
いままでずっとやってきたことだが、このクセで、犯人の名を知ってしまったことはなかった。
ところが、本書にかぎり、最終ページの最後の一行
          『××××××××殺人事件』 了
伏字なしの隠しタイトルが目に飛び込んできた。
ショックだった。

ただ、読み進めていくと、本作の謎がこれだけではないことがわかった。
読み終えてみれば、タイトル当てはオマケのようなもの。
楽しみの1つは奪われたけど、結果的には、(情けない話だが)タイトルからトリックに結びつかなかったし、特段の問題はなかった。
でもやはり、これから読む方、十分に気をつけてください。

隠しタイトルは諺だが、どうせ隠すのなら、その諺をもじって、もっとストレートにしたほうがよかったんじゃない、批判を覚悟でね。

この作品の肝は、なんといっても〇〇トリック。
ヴァリエーションの1つかもしれないが、いままでにはなかったということか。
このミステリー・テクニックにも、おびただしいほどの下ネタにも、スルスルと読めるところにも、新人らしからぬ手慣れた仕事ぶりを感じた。


No.453 6点 ゴーストマン 時限紙幣
ロジャー・ホッブズ
(2015/05/11 09:45登録)
主人公の「私」は、依頼を請けて犯罪の痕跡を消すプロの始末屋。
その始末屋をゴーストマンと呼ぶ。
ということで本書は犯罪小説です。経済小説ではありません。

現在の事件と、過去の事件とが交互に語られていて、各章が短く、スピード感にあふれ、テンポがよいのが特徴です。
一人称のハードボイルド文体で書かれていますが、文体にマッチした重厚感はあまりありません。

主人公の「私」をひとことで評するなら、クール&スマートといった感じです。
その「私」が、借りのある犯罪組織の親玉・マーカスから依頼され、冒頭で起きた事件の後処理をする。これが現在進行中の話です。処理の対象は、タイトルどおりの「時限紙幣」。タイムリミットは48時間。
そして過去の話として、「時限紙幣」の仕事を請けざるを得なくなった過去の失態話が随所に挿入されています。

作者は26歳の超若手。その若手作家が23歳で書いたデビュー作ということですが、若さで書き抜いた超エンタメ作品といえるでしょう。
本書の魅力は、やはり中途のサスペンスとアクションでしょうか。「私」視点の迫力もあり、見どころ満載です。


No.452 6点 東西ミステリーベスト100(死ぬまで使えるブックガイド)
事典・ガイド
(2015/05/01 10:31登録)
『このミス』は頑張っているが年刊紙だから、総合的なランキングを見たいときには参考にならない。やはり本書がいちばんたよりになる。

まずは国内について
順位については、ちょっとちがうなぁというのも多くあるが、800名ほどの投票の結果だから、世間一般的には妥当ということなのだろう。
陳舜臣、藤田宜永、今野敏の作品がランクインしていないのは残念だが・・・

それと、作家のベスト30について
これは作家別総得点の順位で、おおむね妥当な気はするが、先日亡くなった船戸与一や、寡作で有名な原りょうがランクインしているのは、意外に感じる。二人とも一般的には人気があるということなのだろう。

ついで海外
『ロウフィールド館の惨劇』の51位。好みが分かれそうな作品ではあるが、もっと上でもいいのではないか。あのサスペンステクニックは、それだけで十分評価できる。同じ女流サスペンスの『わらの女』の53位は妥当だが、これと変わらないのはおかしい。個人的には『わらの女』に高得点をつけたのだがw

それともうひとつ
『オリエント急行殺人事件』と『ナイルに死す』とは、なぜこんなに差があるのか。前者は11位、後者は99位。作品スタイルはちがうが、ランクで言えば似たようなものだと思うのだが。
日本人には、『オリエント』みたいなストーリーが好まれるのかなぁ。それともあの真相によるものなのか。


No.451 5点 女王
連城三紀彦
(2015/04/27 10:04登録)
とにかく重たかった。
500ページ超で、しかもハードカバーの単行本。いったい何kgなのだろうか(笑)。
鞄に入れて持ち歩くのを躊躇しました。

生まれる前の関東大震災や東京大空襲の記憶がある、昭和24年生まれの主人公史郎。
はたして史郎は誰かの生まれ変わりなのか。序章には、そんなSFファンタジー的な謎が提示してあります。
章が進むにつれ謎がすこしでも解きほぐされていくのかというと全くそうではなく、一章でも、史郎の祖父の死の謎や家族たちの出生の謎、そして邪馬台国や魏志倭人伝、南北朝等々の謎など、謎は積み重なり、深まる一方です。
こんどは、タイトルどおり卑弥呼の謎を解く歴史ミステリーなのか・・・。
一章といっても、一章が終わるのが290ページぐらいですから、いい加減に勘弁してくれという感じで、苛立ちがつのってきます。
とはいえ、連城ミステリーなだけに壮大な仕掛けがあることの期待感がしぼむことはありません。

そして結果は・・・
かなり無茶苦茶なところもありますが、いちおう許容範囲というところでしょうか。遺作ということもありますしね。

亡くなられて1年以上になりますが、昨秋から今年にかけて、刊行ラッシュという感があります。
長編はあまり好みではないものの、まだ未刊作品が残っていると聞けば、やはり惹かれます。


No.450 9点 星を継ぐもの
ジェイムズ・P・ホーガン
(2015/04/23 10:14登録)
月面で発見された5万年前の人間らしき遺体。
事実が淡々と語られ、読者はそれをもとに想像を膨らませながら興奮しながら読める。そんなノンフィクション・タッチの本格SFミステリー。
すごいのは、やはり最後に明かされる真相(トリックと仮説)です。

<以下、ネタバレ風>
作者がこの小説でいちばん書きたかったのは、ダンチェッカーによる人類の歴史の謎解き(ホモ××は〇〇だった。そして、□□を駆逐した)だったのでは、と今は思っています。
初読時は、ハントが解明した月のトリックがあまりにも突飛で強烈だったので、そのことに興奮しすぎたようです。当時はトリックだけを見て、肝心要の謎の正体をおろそかにしていました。
(でも、やっぱりあのバカミストリックはすごい!!)
ということで本書は、空想科学小説の姿はしているが実は歴史ミステリーだったと、今になって理解しました。
この小説の影響なのか、世界を征服したアングロサクソンは実は〇〇だった、などの話もあります。

再読には別の目的がありました。
一つ一つの事象を考察し、次々に証拠をそろえていく中盤。この中盤はまるで松本清張の『点と線』の捜査みたい、という記憶が残っていました。これを確認するための再読でした。
人間ドラマがない点を含め共通点があると思うのですが。この感覚、変なのかな。

最後にひとこと。
ハントがルースリーフ・ファイルを抱えて仲間の部屋へ向かう場面があったが、今読むと違和感がある。現代ならノートパソコンかモバイルかタブレットだろう。
コンピュータや通信ネットワークの発展までは、予見できなかったのか。


No.449 6点 聖域捜査
安東能明
(2015/04/15 13:22登録)
警視庁生活安全部の「生活安全特捜隊」による捜査を描いた警察モノ、連作短編集。
主人公の結城は40歳の警部で、それまでは地域課や少年課の制服警官だったが、念願かなって刑事として捜査ができるようになった。ただし生活安全部なので扱う事件は小ぶりなものばかり。
一風変わった警察モノだが、今野敏氏や横山秀夫氏なら書きそうな設定でもある。

どの短編も、些細な事件ばかりを扱ってあるが、いろいろな糸口から思わぬ方向へ発展していく。その変化が面白いところだが仰天のオチはない。
悪く言えば、複数の事象が収束しきらなかったともいえるが、作者からすれば、プロットの妙を楽しんでくれということなのだろう。たしかに先を急ぐようにわくわくしながら読むことができた。
第2編の「芥の家」はその典型だ。ご近所のごみ屋敷の話だが、長編小説のように、いろいろと発展を見せ、謎だらけになる。でも結局、淡白なラストを迎える。
その他「3年8組女子」「散骨」「晩夏の果実」「贋幣」の計5編。けっこう多様だ。
短編のわりにラストが冴えないものもあるが、話を飽きさせずに変化を持たせて進めていく展開は見事です。

捜査の主体は結城を中心とした班員12名。結城のほかには年配部下の石井と若手の小西がおもに活躍する。結城は捜査経験は浅いがリーダーシップを発揮し、石井は年季のはいった捜査員らしく動き回り結城を支え、小西は石井に怒鳴られながら呑気にピエロ役を演じ、たまに捜査の進展に合わせて俳句を詠む。

アンソロジー「現場に臨め」で初めて読んだ作家さんですが、そのときの印象がよかったので、何冊か積読していました。警察小説の書き手は多くあまり目立っていませんが、個人的には注目中です。


No.448 6点 珈琲店タレーランの事件簿
岡崎琢磨
(2015/04/10 13:22登録)
アマゾン評では、ビブリアの粗悪コピーとの手きびしいコメントもあったが、とんでもないと反論したい。
鎌倉と京都、事件手帖と事件簿、古書店と珈琲店という大きな差があるw
謎解きするのは、珈琲店のかわいい女性バリスタ、美星。ワトソン役は年下の男性、青山。
やっぱり似てるかなw
おそらく読者層も似たようなものだろう。いやむしろ、ビブリアは古書の薀蓄がたっぷりあるから高年層にも好まれる。

主人公、美星のキャラがつかみどころなしという気もする。日常の謎・安楽椅子モノなら、このぐらいのなぞめいたキャラで十分ではないかとも思う。じつは個人的には、「なぞめいた」というよりは、かわいい切れ者と感じるほうが強い。

提起される謎は日頃経験できる程度のものだし、謎解きのレベルも高からず低からず。だから謎解きの練習用としてはちょうどいい。それでいて短編ながらもけっこう凝っているものもある。
「乳白色にハートを秘める」はまさにそれで、なにか変だな文章が下手なのかなと思う箇所を行きつ戻りつしたが、そこが2つめの謎の肝となるところだった。
なにかあるなと思わせるということは、まだまだのレベルなのかもしれないが、いろいろと詰め込んでくるところは大賞を狙うだけのことはあると感心した。

それに連作らしい全体をとおしての特徴点もある。「第○章」となっている以上、長編小説と見るべきなのだろう。そして最終の第七章で青山の謎が明かされる。これには驚いたが、こういうのはちょっとズルイかな。いちおう伏線はあるが、一人称なのに、ばれないような内面しか出ていないのはどうもねぇ。
文章がおかしい、回りくどい、懲りすぎとも思うが、下手クソと判断する前に、そういう場合はまずミステリー的に疑いを抱くことがミステリー読者の努めなのでは、とも思う。

以上、終盤がくどい気もしたが全体としては○だった。


No.447 6点 もう年はとれない
ダニエル・フリードマン
(2015/04/06 14:25登録)
前代未聞の87歳の元刑事バック・シャッツが探偵役の、ユーモアたっぷりのハードボイルド巨編。

刑事引退が35年前。拳銃を持たせること自体危なすぎる。そんな爺さんだが、一挙手一投足は予想していた以上にかっこいい。でもやっぱり笑えるなぁw
彼の吐く言葉はシニカルといおうか、辛らつといおうか、ほとんど悪態にちかい。
元気な爺さんはこうでなくっちゃ。痴呆症の一歩手前だろうと、このぐらい減らず口をたたかないと主人公は務まらない。
孫の大学生テキーラとのコンビネーションは危なっかしいが、そこがまた面白い。

話の半分がナチ残党の隠し金塊探しで、残りの半分が殺人事件の謎解きに関するもの。
金塊探しのクライマックスは銀行でのシーン。元刑事があんな形で銀行に乗り込んでいいのだろうか。ちょっと勇み足なのではという気はするが、これも笑いの種なのだ。
前半に殺人は発生するが、そんなことも忘れてしまいそうな中盤だった。
金塊探しが一段落ついてからは、さらなる事件が起き、連続殺人事件の謎を追う展開となる。お笑いはこれで終了、といっていいかな?ここからがシリアス物の始まりだ。
そしてそれなりのラストが待ち受けている。


No.446 7点 その女アレックス
ピエール・ルメートル
(2015/03/26 10:02登録)
路上で拉致され、倉庫で檻に入れられ、天井から吊るされる女アレックス。そんなふうに第1部が始まる。そんなアレックスがその後どう変貌していくか、物語がどう進行していくのか。これは予想もつかなかった。

いままでは、どんなタイプのエンタテイメントであっても、ラストがだめなら、たとえ中盤がよくても、がっかり感が大きかったが、最近では成長したのか、小説を読んでも、ドラマを観ても、中盤の面白さを味わえるようになってきました。
本書もまさにそれに当たる(別にラストがだめというわけではないが)。
ラストに向け、読者を飽きさせることなく、ぐいぐいと引っ張ってくれるところを高く評価したいところです。
中盤のサスペンスで、あまり考えることなく一気に読ませるところが爆発的人気の理由なのでしょう。たしかにストーリーの予想はつかないが、全体として複雑なところはなく、自然に物語の中に入り込んでいけます。
主人公アレックスの正体の隠し方と、ばらし方にはちょっと不満はあるが、こういう流れの小説なのだからそれも良しとしましょう。

もうひとつ評価できるのは、刑事たちのキャラクタです。
なかでもリーダーのカミーユがいちばん。身長145cmの超小型サイズ。
わりあい硬派だし、過去をひきずってもいるのだが、いすに座ると足が床に届かずブラブラ、これが映像として浮かんできて笑えてしまう。
部下には、金持ちの坊ちゃん刑事のルイ、とことんケチなアルマン。
とんでもない組み合わせだが、チームワークは抜群だった。


No.445 7点 毒入りチョコレート事件
アントニイ・バークリー
(2015/03/16 10:08登録)
「毒入りチョコレート事件」について、「犯罪研究会」の6者6様の推理が順に披露される推理合戦モノ。
たんなる推理合戦かと思って読んでいくと、そんな単純なものではないことがわかってくる。

作者のねらいは、読者を推理に参加させることかというと、そうではなく、ミステリーなんて、いろんな解決方法があるんだなあ、推理なんていい加減だなあと、読者に思わせることなのでしょう。

でも、個人的には、6人の収集した情報が蓄積されていくわけだから、捜査ですこしずつ証拠を積み上げながら、軌道修正をしながら真実に近づいていく刑事物のような面白さを味わえたところが、むしろ気に入っています。中盤の面白さということでしょうか。
くじ引きで前半に当たった登場人物の推理は、刑事物で前半に、脇役の所轄の署長がピエロ役のように、短絡的にとんでもない馬鹿げた推理を披露するようなものと考えておけばいいでしょう。

いずれにしろ、6人がいっせいに答えを出すのではなく、前の推理を聞いたうえで順番に自身の推理を開陳するというスタイルを採ったからこそ、こんなすばらしい歴史に残るミステリーが生まれたのだと思います。


No.444 5点 十四の嘘と真実
ジェフリー・アーチャー
(2015/03/06 10:08登録)
実際の事件にもとづく9編と、そうではない5編とよりなる。
アーチャーのいつもの短編集のスタイルです。

「専門家証人」「犯罪は引き合う」。弁護士対証人、犯罪者対警部。こういった対決が「百万ドルを取り返せ」のように楽しく描いてある。これらも実話がヒントなのか。
ちょっと面白いのは、「心(臓)変り」。白人至上主義の男性の話です。まあ途中でオチを予想できますが。
「偶然が多すぎる」「ひと目惚れ」「挾み撃ち」など、さらっと読めて、しかも楽しい。

ラストのひねりに切れ味に乏しいものもあり(実はすっきりしないのものもある)、「15のわけあり小説」にくらべると、平均的にちょっと落ちる。
しかも、最後のオチで心温まるものは少なく、それを期待すると拍子抜けです。
遊び心、いたずら心ありの、陰でこっそり笑って楽しむような話がほとんどでした。

オチの出来不出来はともかくとして、アーチャーの短編は本書の収録作品を含めどれをとってもみなスマートな印象。
ひねりの利いたオチよりもむしろ、登場人物の粋さや、欲望絡みの話のわりにどろどろしたところがない点が、彼の短編小説の最大の特徴なのかもしれません。
一方、長編小説(サーガ、サスペンス)は、読みやすいので勘違いしそうですが、それなりに重みがあるものも多く、短編とうまく書き分けているという印象です。
こんどは久しぶりに長編を読んでみたいですね。


No.443 5点 風少女
樋口有介
(2015/02/25 10:18登録)
主人公の大学生・斎木亮が中学生のとき好意を寄せていた同級生の川村麗子の変死の謎を追う、青春ミステリー。

主人公は中学時代に不良だったが、いまは秀才の同級生たちにくらべて、受験で苦労したからなのか老成した感がある。そうでありながら、麗子の妹・千里に対して適度な軽口や冗談も言う。
と、同級生たちの中から突出させ、魅力ある人物に仕立てる作者の人物造詣テクニックは抜群。
そして、この小説の楽しめる要素は会話文にある。特に、延々と続く、地の分なしの2ページにもおよぶ会話には魅かれる。これは「ぼくと、ぼくらの夏」と同様の流れだ。というか、この作者の特徴でしょう。

しかし、ミステリー味はかなり薄め。青春度的にも総合的にも、デビュー作「ぼくと、ぼくらの夏」にくらべて、数段落ちます。
しかも湿っぽさもあれば、どろどろ感もある。書かれた時代ということもあるのでしょう。

この作家さん、このサイトを訪れるようになってから読むようになりましたが、若いころ読まなかったのがとても残念な気がします。でも、いまの歳に、いまの時代に読むからこそ、郷愁を感じられるのかもしれません。


No.442 4点 十二人の手紙
井上ひさし
(2015/02/25 10:07登録)
評判がよいので読んでみました。
12編には手紙スタイルという共通点はあるものの、それぞれにいろいろと工夫が施してありました。

にもかかわらず、途中で嫌気がさしてしまい、なんども中断しました。
決して面白くないというわけではありません。むしろ面白いものもありました。
みな2,30ページの短さで個人的には短編小説として好みの分量だし、途中で飽きるような要素もないので、問題ないはずなのですが・・・。

「赤い手」は、届出書(公的文書)ばかりで完結する斬新なアイデアが使ってあり、それなりに感心もし、最後には納得もしました。でもこれをミステリー小説といっていいのでしょうか。読みやすすぎますが、楽しめたというほどではありません。
「エピローグ 人質」は、それまでの作品からのつながりがあり、面白い趣向だと思います。一風変わった連作スタイルの完結編と言えるでしょう。

ということで、全体としての満足度は中程度以下ですが、いろんなアイデアが組み込まれている点は十分に評価できます。

書簡形式の小説(非ミステリーですが)は、いままでに何作か読んでいて、けっこう好きな分野ですが、本書に関してはやや落ちるかなというところです。


No.441 6点 ひとり
新津きよみ
(2015/02/05 13:58登録)
中学時代のバス事故で唯一生存した桃子の心の中には、30歳を過ぎた今でも、同じ事故で亡くなった友人のすみれが別の自分として生きつづけていた。
この前提で物語がはじまります。

そして、現在の桃子の周辺でいくつかの殺人が発生し、同じバス事故で親を亡くしていた刑事がその殺人事件に関わってくる。
中盤は、いろんな事件、事象が絡み合い、ミステリー(サスペンス)としてけっこう楽しめました。
ひとことで言えば、友情物語風ファンタジー系サスペンス、といったところでしょう。

ただ、結末はあっけない。というか、すぐにはピンとこなかった。
たしかにあの結末こそがホラーといえる要素なのかもしれないが、あのテンポのいい中盤からすれば、もっとすごい結末にできたのではないでしょうか。
と思うのは、私のような正統派ミステリーを好む読者からみてのことなのですが、ホラー好きからすれば、これこそホラー的結末といえるのかもしれません。

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