nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2865件 |
No.1425 | 5点 | ピカデリーの殺人 アントニイ・バークリー |
(2016/07/10 21:20登録) (ネタバレなしです) 1929年発表の本書は傑作と名高い「毒入りチョコレート事件」(1929年)と「第二の銃声」(1930年)にはさまれて目立たない存在の本格派推理小説です。個性的とはいえないチタウィック氏を探偵役にしているので物語がなかなか盛り上がらない上に、プロット全体にまたがる仕掛けが印象的だった前後作に比べると本書のどんでん返しは小手先に感じられるのはやむを得ないでしょう。決して悪い出来ではないのですがバークリーとしては地味な作品という評価が多いようですが私も賛同します。 |
No.1424 | 4点 | クッキング・ママの真犯人 ダイアン・デヴィッドソン |
(2016/07/10 21:13登録) (ネタバレなしです) 1998年発表のゴルディシリーズ第8作のコージー派ミステリーで第1章から大勢の登場人物と複雑な人間関係が重厚に描かれて整理が大変です。いつも誰かのために探偵役をしているゴルディですが第二の事件に関しては珍しくもただ知りたいという理由で探偵しています。ケータリング業の妨害犯探しが殺人犯人探しよりも切迫感があったりしています(まあそっちがゴルディの本業ですからね)。そのせいではないでしょうが殺人犯はあまりに唐突に正体が明らかになり十分な謎解き説明もないままに解決、あっけなさ過ぎです。 |
No.1423 | 3点 | 注文の多い宿泊客 カレン・マキナニー |
(2016/07/10 21:03登録) (ネタバレなしです) アメリカのカレン・マキナニー(1970年生まれ)によって2006年に発表されたコージー派ミステリーのデビュー作です。作品を彩るのは舞台となるクランベリー島の自然描写とおいしそうな朝食レシピです。意外だったのがコージー派らしからぬ暴力シーンの描写で、結構痛そうな場面もありますのでコージー派ファンの読者受けするかはちょっと微妙です。推理がほとんどなく体当たり的捜査(しかもかなり危険を伴う)で謎が解かれる展開も個人的には好みではなかったです。その分サスペンスはコージー派としては豊かな方ですが。 |
No.1422 | 6点 | ビール工場殺人事件 ニコラス・ブレイク |
(2016/07/09 23:59登録) (ネタバレなしです) 1937年発表のナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第3作の本格派推理小説です。ビール工場の圧力がまの中から肉がすっかり溶けて骨だけになった死体が出てくるという衝撃的な事件が起きますが恐い描写はなく、この作者らしい地道で丁寧な謎解きを楽しめます。それでいて終盤には(ナイジェルの言葉を借りると)ギャング映画顔負けの大活劇まであります。ナイジェルの分析が緻密過ぎて真相が予測しやすくなっているところは評価が分かれるかもしれません。 |
No.1421 | 6点 | 槍ヶ岳殺人行 長井彬 |
(2016/07/09 23:34登録) (ネタバレなしです) 1985年発表の長編第6作である本格派推理小説です。タイトル通り槍ヶ岳を舞台にして次々に人が消失したり死体が出現したりと不可解な事件が起こります。登場人物の1人が「山の密室」を主張して山岳パトロールから「あなたは『密室』にこだわりたくてしがたがないようだ」とたしなめられてますが、これは密室というよりはアリバイ崩しでしょうね。証言や証拠も微妙に怪しく、何を信じたらいいのか捉えどころのない謎が読者を悩ませます。事件解決後の人間ドラマも微妙にすっきりせず、何とも言えない読後感を残します。 |
No.1420 | 6点 | 蛇、もっとも禍し ピーター・トレメイン |
(2016/07/09 23:05登録) (ネタバレなしです) 女子修道院の井戸の中から発見された首なし死体の身許と犯人の探索という難題にフィデルマが挑む1996年発表の修道女フィデルマシリーズ第4作です。前作の「幼き子らよ、我がもとへ」(1995年)と比べると冒険スリラー要素は控え目で本格派推理小説としてのまとまりはよくなっています。但しその分やや地味に感じられるかもしれませんので好みは読者によって分かれそうです。地味といっても退屈な作品ではなく、創元推理文庫版で上下巻にまたがる厚さもさほど気になりませんでした。 |
No.1419 | 5点 | 二の悲劇 法月綸太郎 |
(2016/07/09 23:01登録) (ネタバレなしです) 完成に2年もかけた1994年発表の法月綸太郎シリーズ第6作の本格派推理小説ですが残念ながら出来栄えにはあまり感心できませんでした。「きみ」を登場人物にする二人称形式が随所で挿入されているのが大変珍しいですが、会話も動作も少ないため読者が感情移入しにくくあまり効果を上げていません。それ以外の法月綸太郎の登場場面や後半の日記も盛り上がりに乏しく、悲劇性までもがあまり伝わってこないのはつらいところです。本書発表時期の作者はスランプを自覚していたようですがそれは更に長期化し、次の長編が発表されたのは何と10年後になりました。ちなみに「一の悲劇」(1991年)とは関連性はなく、どちらを先に読んでも支障はありません。 |
No.1418 | 5点 | ある閉ざされた雪の山荘で 東野圭吾 |
(2016/07/09 22:57登録) (ネタバレなしです) 1992年発表の本格派推理小説ですが作者自身のコメントで「本格推理のイミテーション」を目指したとあるようにかなり風変わりなプロットとなっています。ミステリ劇の舞台稽古という設定が非常に巧妙で、登場人物の不自然な言動があっても稽古だからあり得るかもという説得力を持たせています。それでもあまりに「作り物めいた」雰囲気は好き嫌いが分かれるかもしれませんが。 |
No.1417 | 6点 | 灯火管制 アントニー・ギルバート |
(2016/07/08 19:49登録) (ネタバレなしです) 1942年発表のクルック弁護士シリーズ第11作で派手な描写ではありませんが戦時中であることを感じさせます。この作者は前半をサスペンス小説、後半を本格派推理小説という構成が得意パターンと私は勝手に理解していましたが本書の構成はその逆で、前半が本格派推理小説風、後半がサスペンス小説風でした。といっても最後はクルックによる緻密な推理説明で本格派推理小説として着地しています。ミスディレクションも巧妙です。 |
No.1416 | 5点 | ボニーと警官殺し アーサー・アップフィールド |
(2016/07/08 19:32登録) (ネタバレなしです) パトロールに出かけた方向とは全くはずれた場所で巡査の死体が発見された事件を扱った1953年発表のボニーシリーズ第19作です。地道な捜査と広大な舞台という組み合わせを上手に描いており、見えない探偵との競争的な趣向も印象的です。早い段階でボニーが堂々とヒントを述べるので犯人の正体が見当がつきやすくなっていますが、もともとこのシリーズは本格派推理小説といっても読者が犯人当てを試みる要素は少ないのでそこは仕方ないとあきらめるほかないですね(笑)。 |
No.1415 | 7点 | 頼子のために 法月綸太郎 |
(2016/07/08 19:12登録) (ネタバレなしです) 1989年発表の法月綸太郎シリーズ第3作の本書で作者はそれまでに書かれた純粋な謎解き小説とは大きく作風を変化させて評論家や読者を驚かせました。きちんと推理している本格派推理小説であることは変わりありませんが、人間ドラマとしての深みをぐっと増して重厚な雰囲気が漂います。息苦しいほどの悲劇性は賛否両論あるようですがよくまとめられた傑作だと思います。 |
No.1414 | 5点 | 十三角関係 山田風太郎 |
(2016/07/08 18:56登録) (ネタバレなしです) 山田風太郎(1922-2001)は「甲賀忍法帖」(1958年)や「魔界転生」(1965年)などの忍法帖シリーズをはじめとする時代小説の大家として大変有名ですが実は推理小説家としてデビューしており、江戸川乱歩からも将来性を期待されていました。忍法帖シリーズの大成功などもあってミステリー作品は執筆量を減らしていくことになりますが彼の活躍時期は社会派推理小説の全盛時代に重なるため、奇想天外なアイデアを自由奔放な表現で書くタイプの山田がミステリーから離れたのは正解だったかもしれません。1956年発表の本書は長編1作、短編8作、その他1作(高木彬光との合作)に登場する荊城歓喜が活躍する長編本格派推理小説です。作品舞台が歓楽街と精神病院というのがうわーって感じで、さすがにこれは親が子供に勧めるタイプの作品ではありませんね(笑)。トリックには一部不満もありますが謎解きプロットは結構しっかりしています。1番力を入れているのが人間性の描写で、終盤で明らかになる人々の身勝手さは醜悪でさえありますが最終章の心を揺さぶられる悲劇性には一抹の美しさを感じます。なお光文社文庫版の「名探偵篇『十三角関係』」はシリーズ全作品(合作は除く)を1冊に収録していてとても便利です。 |
No.1413 | 5点 | ルーフォック・オルメスの冒険 カミ |
(2016/07/08 17:47登録) (ネタバレなしです) 喜劇王チャールズ・チャップリンに「世界でいちばん偉大なユーモア作家」と言わしめたフランスのカミ(1884-1958)がルーフォック・オルメス(Loufock=Holmes)の活躍するショート・ショート34作をまとめて1926年に発表した短編集です。あのコナン・ドイルのシャーロック・ホームズのパロディーではありますがまともな謎解きは一つもなく、あまりの馬鹿馬鹿しさを笑って楽しむのが正しい読み方でしょう。34編合わせても創元推理文庫版で300ペ-ジに満たない短さですが、この短さだからこそ馬鹿馬鹿しさに最後まで付き合えます。kanamoriさんのご講評の通り、第一部「ルーフォック・オルメス、向かうところ敵なし」の作品よりも第二部「ルーフォック・オルメス、怪人スペクトラと闘う」の作品に馬鹿馬鹿しさが強力で印象的ものが多いと思います。「《とんがり塔》の謎」とか「血まみれの細菌たち」とか「地下墓地の謎」とか「死刑台のタンゴ」などは光景を想像するだけで絶句ものです。 |
No.1412 | 5点 | 暗闇のセレナーデ 黒川博行 |
(2016/07/07 15:38登録) (ネタバレなしです) 黒川博行(1949年生まれ)の長編3作目となる1985年発表の本書は、趣向を変えようとしたのか女子大生コンビを登場させています。アマチュア探偵主役の本格派推理小説を意識したようですが警察の捜査描写も全体の半分近くを占めており、謎解きの貢献度もほぼ五分五分ではと思います。女子大生の個性もそれほど印象的には描けておらず、この作家は地味な警察小説の方が合っているように思いました。 |
No.1411 | 6点 | 笑わない数学者 森博嗣 |
(2016/07/07 15:15登録) (ネタバレなしです) 1996年発表のS&Mシリーズ第3作の本格派推理小説です。天才(数学者の天王寺博士)が登場する点では「すべてがFになる」(1996年)を連想する人がいるかもしれませんが雰囲気は大きく異なります。シンプルながら魅力的な謎に加えて随所で数学問題が出ますが、それほど理系を意識させないように配慮された展開は私の頭脳レベルでも十分に楽しむことができました。それでいて最終章はやっぱりこれは理系だということを感じさせる締めくくりになっています。 |
No.1410 | 5点 | 空白の殺意 中町信 |
(2016/07/07 13:23登録) (ネタバレなしです) 1980年に「高校野球殺人事件」というライト・ミステリーみたいなタイトルで出版された著者5作目の作品です。ジョン・ディクスン・カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」(1942年)に触発されて書いた本格派推理小説で、トリックの大胆さでは「模倣の殺意」(1971年)の方に軍配が上がりますが技巧にわざとらしさを感じない分、本書の方を支持する読者もいるでしょう(作者自身、本書を1番高く評価していました)。これといった主人公がいないまま物語が進行するプロットですがそれでも読みやすい作品です。 |
No.1409 | 7点 | 星降り山荘の殺人 倉知淳 |
(2016/07/07 13:17登録) (ネタバレなしです) 1996年に発表した本格派推理小説の本書はこの作者らしく軽いタッチの作品ですが「ユーモアと温かみと論理」を重視する作家だけあって軽いだけの作品ではなく、謎解きはしっかり作られています。都筑道夫の「七十五羽の烏」(1972年)を意識して各章の冒頭には作者から読者へのメッセージが織り込まれています。都筑作品では嘘ではないけどちょっとずるいなと思わせる部分もありましたが本書ではそういう不満を感じることもなく、気持ちよく騙されたという快感が残りました。 |
No.1408 | 6点 | 殺人者は長く眠る 梶龍雄 |
(2016/07/07 09:04登録) (ネタバレなしです) 1983年発表の本格派推理小説で1989年に「草軽電鉄殺人事件」というトラベル・ミステリー風なタイトルに改題されましたがオリジナルタイトルの方が合っていると思います。現代の探偵役が24年前(1959年)には存在していた草軽電鉄で起こった女優の失踪事件の謎を追求するのがメインプロットで凶悪犯罪性を帯びてくるのは物語のかなり後半です。kanamoriさんやこうさんのご講評の通り失踪トリック自体は某英国作家の作品を連想させるものですが、トリックよりも事件の背景に隠された陰謀性というか悪意の深さに驚かされます。探偵役の男女がそれぞれ秘密を抱えている描写にしているのも謎を深めるのに効果的です。 |
No.1407 | 5点 | 影の告発 土屋隆夫 |
(2016/07/06 09:50登録) (ネタバレなしです) 1962年発表の千草検事シリーズ第1作です。社会派推理小説が人気を博していた時代の作品なのでシリーズ探偵といっても非常に地味なキャラクターで、地道な足の捜査の描写を丁寧に描いているところも社会派の影響が見られます(タイトルまで同時代の松本清張みたいです)。本格派志向を失わなかった作家として評価されていますが本書では犯人の正体については早い段階で自然に見当がつき、読者が推理できる要素としてはアリバイ崩しぐらいでしょう(ちゃんと謎解き伏線に配慮しているのはさすがです)。時代が時代なので社会派と本格派の折衷的作品になるのは仕方がなかったのかもしれませんが(本書で日本推理作家協会賞を受賞したので成功作とは言えるでしょう)、ちょっと中途半端という印象も受けました。 |
No.1406 | 6点 | 白光 連城三紀彦 |
(2016/07/06 09:45登録) (ネタバレなしです) 非ミステリー作品を次々に発表した連城三紀彦はミステリーから離れたことを文学界から賞賛されたりもしましたが、完全にミステリーと決別したわけではないのは2002年発表の本書を読めば明らかです。とはいえ単純な犯人当て本格派推理小説とも異なり、ドライな文体でどろどろした家族関係を描いた文学的な香りが濃厚な作品です。推理要素は希薄ですが多重自白によるどんでん返しで真相が明らかになっていくプロットは個性的です。好き嫌いは分かれるかもしれませんがミステリーと非ミステリーを橋渡しする作品の一つとして貴重だと思います。 |