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ミステリの祭典

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閘門の足跡
マイルズ・ブリードン

作家 ロナルド・A・ノックス
出版日2004年09月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 6点 弾十六
(2020/03/01 18:00登録)
1928年4月出版。新樹社の単行本で読了。翻訳は上質。
ブリードン第2話。相変わらず夫婦の仲の良いやり取りが楽しい。(まー作者は妻帯者じゃないからねえ) 複雑に入り組んでる筋なので、解明はあきらめました。途中の小ネタが程良くばら撒かれててスラスラ読めます。当時は割と一般的だった知識でも今では分からなくなってるp224のネタは仕方ないですね。宗教周りの話が一切出てこないのが、清々しいです。
以下トリビア。
作中年代不明なので、現在価値は英国消費者物価指数基準1928/2020(63.24倍)、£1=8973円で換算。
献辞はTO DAVID / IN MEMORY OF THE UNCAS (翻訳では欠)
短すぎて意味不明ですが、the付きなので米国海軍のタグボートUSS Uncas(1893-1922)のこと?違うような気がします…
p17 一秒あたり一シリング: 449円。1時間で162万円。冒険への保険料。もちろん架空。
p26 列車の時間: ここら辺の描写だと概ね時間に正確な運行がなされているようだ。ただし15分遅れ程度は普通らしい。
p37 二ポンド六ペニーの葉巻(a two-and-sixpenny cigar): 2「シリング」6ペンスだと思います。1122円。
p38 パンチかジュディなみ… ヒーリー神父の口ぐせ(Punch? Or Judy?—as Father Healy used to say): 米国黒人系として初のカトリック司教James Augustine Healy(1830-1900)のことか。パンチとジュディとの関係はわからないのですが… (以下2020-3-5追記) W. C. Scully作 Reminiscences of a South African Pioneer(1913)に"Punch or Judy," replied Father Healy laconically.とありました。機知に富んだカトリック神父Father James Healy(1824–1894)のセリフ。改宗する二つの要因のことで、Punchは酒の意味らしい。ならばJudyは女か?
p43 ここ『三つの栓』の一行ネタバレありです。
p62 べジーク(bézique): Bezique又はBésigue、19世紀フランス発祥のカード・ゲーム。ピケから派生した。ピケ同様2〜6のカードは使用しないが、ピケと異なり2組(deck)を使う。8枚×4種×2組=64枚。
p62 カードをちゃんと持ったか(bring the real cards): 多分、間違えてピケ専用デック(32枚入り)を4組持ってきちゃったのだろう。ブリードン考案のペイシェンスにはフルデック4組が必要。(訳注では2組しか持ってきてなかった… とあるがrealはfull deckの意味だと思う)
p70 三ペンス硬貨より小さいくらい: 当時のThreepenceは1911年からジョージ五世の肖像、.500 Silver(1927-1936)、直径16mm、重さ1.4g。このサイズは19世紀前半から変化なし。3ペンスは112円。こーゆーところは訳注で処理して欲しい。引用句なんて出典がどこだろうがどうでも良いからさ… (原文が無いと探せない、という問題はある)
p83 半ペニー銅貨の直径: Halfpennyはジョージ五世の肖像(1911-1936)、Bronze、直径26mm、重さ5.7g。半ペニーは19円。
p96 アメリカ探偵協会(a member of the Detective Club of America): MWA(Mystery Writers of America)は1945年に設立。Detection Clubは1930年に結成。
p101 五ポンド紙幣… 過去三週間に口座からおろした紙幣の番号: 44863円。当時の5ポンド紙幣はBank of England発行のWhite Note(白地に黒文字、絵なし。裏は白紙)、サイズは195x120mm。White Note(5ポンド以上の紙幣)の取引は紙幣番号の記録を銀行が残している。
p107 田舎の宿屋の例にもれず、大戦後は帳簿のたぐいをいっさいつけていなかった: 戦時中の非常時のやり方が戦後も続いちゃった、ということでしょうね。
p124 ウォレンの『一年に一万』(Warren's Ten Thousand a Year): 英国の弁護士Samuel Warren(1807-1877)作の小説Ten Thousand a-Year(1841)、ポオがグレアムズ・マガジン1841年11月号で'shamefully ill-written'と貶したが、英米や欧州でベスト・セラーになったという。(wiki)
p177 二歳児なみ(his brain worked like a two-year-old): 翻訳の間違いかと思ったら原文も2歳児。冴えてる、というより自由奔放な想像力、という表現か。

No.2 6点 nukkam
(2016/07/28 09:03登録)
(ネタバレなしです) 1928年発表のマイルズ・ブリードンシリーズ第2作で、何とシリーズ外の作品である「陸橋殺人事件」(1925年)の登場人物の出演サービス付きです。ボート旅行者の失踪に端を発する事件を扱っていますが英国は日本よりも交通手段として川や運河が積極的に利用されているのか本書以外にもコリン・デクスターの「オックスフォード運河の殺人」(1989年)、ピーター・ラヴゼイの「絞首台までご一緒に」(1976年)、ジョセフィン・テイの「美の秘密」(1950年)などの作品が思い浮かびます。推理が丁寧な反面、細かすぎると感じることもしばしばでゆったりした展開と相まって冗長に思う読者もいるでしょう。とはいえ本格派推理小説としてしっかり作られているのは間違いありません。大胆なトリックの使い方も印象的で、個人的には「陸橋殺人事件」より上位の作品だと思います(まああちらは伝統破りが特徴の作品なので並べて比較すべきでないのかもしれませんが)。

No.1 7点 mini
(2008/10/29 11:33登録)
新樹社で出た為か不当に無視されているノックスの名作
ノックスの最高傑作は国書刊行会の「サイロの死体」というのが現在の一般的評価のようだが、発表順で「閘門の足跡」の方を先に読んでみた
「閘門」は題名通り英国の田園水郷風景の中で展開されるが、ミステリーとしては過剰なほどロジックの洪水で溢れている
もっともロジックだらけと言っても、いかにもノックスらしいくどいロジックなので、意外性だけを求めるような読者には向かないかもしれないが

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