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ミステリの祭典

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編集者を殺せ
ネロ・ウルフ

作家 レックス・スタウト
出版日2005年02月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 5点
(2019/02/11 14:56登録)
 ある一月の寒い日、クレイマー警部が珍しくネロ・ウルフの褐色砂岩の家にひょっこり顔を出した。イーストリバーで溺死した法律事務所員の件で知恵を借りたいという。被害者レナード・ダイクス宅は何者かによって徹底的に家捜しされたあとだったが、ただ小説の間に十五人ばかりの名前を列記したメモ用紙が挟まれていた。いずれもニューヨークの電話帳に載ってない架空の人名だという。
 ウルフはどうにもならないと断ったが、それから六週間ほど経ったころ、ジョン・R・ウェルマンという男が事務所を尋ねてきた。一人娘のジョーンを殺した人間を見つけてほしいという。彼女は真冬の公園で轢き逃げされ、遺体の右耳の上には大きな瘤があった。警察は事故死の線で調べていて、父親の身としては当てにならないのだ。
 出版社勤務のタイピストだったジョーンは毎週シカゴに便りを寄越していたが、事件直前に届いた手紙には、ベアード・アーチャーと名乗る男が、以前送った小説についてアドバイスしてくれと提案してきたと書かれていた。時給二十ドルの契約でこれから会うのだと。
 「ベアード・アーチャー」。それはダイクスが遺した十五人の名前のうちの一人だった。ウルフは「信ずるなかれ」と題されたその小説に事件の鍵があると睨むが、調査を進めるうちに犯人に先を越され、アーチーが到着する直前に、今度は「信ずるなかれ」を直接タイピングしたと思しき女性が墜死させられてしまう・・・。
 1951年発表のネロ・ウルフシリーズ第28作。中期の作品で、かなりテンポ良くストーリーが進みます。
 犯人に先手先手と証拠を潰されウルフの捜査も行き詰まり気味になるのですが、そこでアーチーに全権を委任して催したホームパーティーがなかなか面白い。蘭を二鉢落としたりして、普段なら目を剥くウルフも細かいことは言いません。ダイクスが勤めていた法律事務所の女性社員たちの描き分けがいいです。
 この揺さぶりによってやっと事件は動き出し、アーチーはウルフの指示でカリフォルニアに罠を仕掛けに飛ぶのですが、ここまでのノリ具合に比べその後の纏め方は若干不満。容疑者は全員法律家なので、タイプされた遺書だけで押し切ろうとするのは少々強引な気がします。ただラスト、犯人の冷徹そのものな心が折れるところはなかなかでした。

No.2 6点 nukkam
(2016/07/28 09:20登録)
(ネタバレなしです) スタウトの個性が良くも悪くも発揮されている1951年発表のネロ・ウルフシリーズ第14作の本格派推理小説です。行動型探偵のアーチーが実によく描かれ、特に前半のディナー・パーティー編でのスマートでお洒落、そしてユーモアも豊かな手腕が大変面白いです。しかし14章以降の西海岸編では「毒蛇」(1934年)ほどではないけれど証拠を入手するために乱暴な手段も辞さないのが個人的にはあまり感心できませんでした。起伏ある物語展開でとても読みやすいです。ウルフ自身が「もう少しで出し抜かれるところだった」というほど冷血で手ごわい犯人にとって最後の一撃が思いもよらぬものだったのが印象に残る作品です。

No.1 6点
(2010/10/02 11:56登録)
どういうわけか今までスタウトには縁がなく、長編初読です。
編集者により出版を没にされた小説『信じるなかれ』が関わる3件の殺人が最初に起こった後、捜査は膠着状態になります。アーチーが法律事務所の女性事務員たちを招待する場面も、そんなにいいとは思えません。しかしウルフが考えた罠を仕掛けにアーチーがカリフォルニアに飛ぶあたりから、俄然おもしろくなってきます。カリフォルニアに住む第1被害者の妹ペギーも魅力的です。
フーダニットとしてそんなに凝ったことはしていませんが、動機を利用してうまくオチをつけています。この動機については解説では疑問視していますが、個人的にはとりあえずOKです。ただ、中心にある動機のタイプが全体の犯行計画と多少ミスマッチな感じがするのは否めません。
ウルフが推理を披露する第22章の最後部分、ある人物の意外な行動が非常に印象的で、好感度を高めています。

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