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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.645 5点 ブルーベリー・マフィンは復讐する
ジョアン・フルーク
(2015/04/11 23:23登録)
(ネタバレなしです) 2002年に発表された本書は序盤から思い切りストレートに事件関係者にアリバイを尋ねまわるハンナの探偵ぶりが何ともおかしいです。シリーズ3作目ともなるとさすがに(マイク以外は)みんなも彼女のアマチュア探偵としての存在を認めるようになったのか意外と素直に取り調べ(?)に応じています(笑)。ほとんど運任せで解決されて論理的な謎解きはないに等しいけどいかにもコージー派らしく気楽に読めるミステリーになっています。


No.644 3点 インパーフェクト・スパイ
アマンダ・クロス
(2015/04/11 23:18登録)
(ネタバレなしです) 1995年発表のケイト・ファンスラーシリーズ第11作です。ジョン・ル・カレの「パーフェクト・スパイ」(1986年)を意識したタイトルが付いていますが、あいにく私はカレ作品を読んでいないのでどれほどの影響を受けているのか見当もつかず(あちこちでカレ作品からの引用があるのはわかりますが)、国際的陰謀があるわけでも産業スパイが登場するわけでもありません。フェミニズム問題ばかりが目立っており、終盤のケイトのせりふにあるように、探偵が「何かを解決する」わけではなく、これまでに私が読んだクロス作品の中でも最もミステリーらしくありません。デビュー作でユーモア本格派だった「精神分析殺人事件」(1964年)と本書を比べるとあまりの作風の違いに驚きます。クロス(1926-2003)は本書以降にシリーズ作品を3作発表したところで自殺してしまうのですが、本当に書きたかったのは何だったのだろうと考えさせられます。


No.643 5点 暗闇の鬼ごっこ
ベイナード・ケンドリック
(2015/04/11 23:15登録)
(ネタバレなしです) 米国のベイナード・ケンドリック(1894-1977)は1945年にアメリカ探偵作家クラブ(MWA)の創立に携わり初代会長に就任した大物で、ミステリー作家としては12作の長編といくつかの短編で活躍する盲人探偵ダンカン・マクレーンシリーズで知られています。本書は1943年発表のシリーズ第4作の本格派推理小説です。連続転落死の謎が魅力的ですが現場状況やトリックの説明描写が粗く、マクレーンの推理が鋭いというよりも警察の捜査がいい加減過ぎではの疑問が拭えません(あのトリックは痕跡をかなり残すでしょう)。終盤でのマクレーンと犯人の対決場面が非常にサスペンスに富んでいます。謎解きとは直接関係ありませんが最後の一行にはびっくりしました。


No.642 7点 謀殺の火
S・H・コーティア
(2015/04/03 18:50登録)
(ネタバレなしです) 1967年に書かれた本書はシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。論創社版の「緻密な推理」という評価には首をかしげざるを得ません。ある登場人物が述べるように、「不正確で、限られたことしかわからなかった」推理であり、仮説の域を脱しきれていないように思えます。とはいっても非常に大胆で魅力的な仮説で、決して本書は凡作ではないと思います。序盤は事件の紹介が細切れになり過ぎてわかりにくかったり、登場人物の大半が生身の人間として登場しないので(その言動は手紙や新聞記事の中で伝えられるのみ)その性格が把握しづらいなど欠点も多いのですが、読むだけの価値は十分にあると思います。


No.641 5点 殺人混成曲
マリオン・マナリング
(2015/04/03 18:36登録)
(ネタバレなすです) 米国の女性作家マリオン・マナリングについてはあまり詳細な経歴は知られていないようですし、書かれたミステリー作品数も多くはないようです。1954年発表の本書は彼女のミステリー第2作で、クリスティーのエルキュール・ポアロ、セイヤーズのピーター・ウィムジー卿、マイケル・イネスのアプルビイ警部、E・S・ガードナーのメイスン弁護士、レックス・スタウトのネロ・ウルフ、ナイオ・マーシュのアレン警部、エラリー・クイーンのエラリー・クイーン、ミッキー・スピレーンのマイク・ハマー(唯一のハードボイルド探偵代表)、パトリシア・ウェントワースのミス・シルヴァーという著名な名探偵を(但し作中では名前を微妙に変えてます)登場させたパスティシュ小説にして本格派推理小説です(本書の英語原題はずばり「Murder in Pastiche」)。それほどページ数の多い作品ではなく、しかも9人の探偵たちのそれぞれの捜査を描いた第2章だけで全体の8割ぐらいを占めています。逆に真相説明は非常にあっさりしているし、動機の説得力に欠けているのが大きな弱点です。結末にはあまり期待せず、各々の探偵活動がどれだけ原作を上手くパロっているかを楽しみながら読むべきだと思います。ちなみにハヤカワポケットブック版は都筑道夫を含めた10人の訳者がそれぞれの探偵パートを分担して翻訳している企画になっており、それが効果的だったかは何とも判断できませんがこういうこだわりは大いに拍手したいです。


No.640 7点 ママは眠りを殺す
ジェームズ・ヤッフェ
(2015/04/03 18:27登録)
(ネタバレなしです)  1991年発表のママシリーズ第3作は2人の語り手がいるのが新趣向です。血の繋がりがないので仕方ないのかもしれませんが片方がママのことを「老婦人」と呼ぶのが最初は違和感ありました(といってもママと呼んだらやっぱり変ですが)。相変わらずヤッフェは期待を裏切らず、本書も本格派推理小説のお手本のような謎解き小説になっていて、次々に明かされる手掛かりと論理的な推理が楽しめました。


No.639 5点 ハーレー街の死
ジョン・ロード
(2015/03/29 21:14登録)
(ネタバレなしです) 1946年発表のプリーストリー博士シリーズ第42作の本格派推理小説です。殺人か、自殺か、事故か、それとも第4の可能性があるのかというのがメインの謎です。この真相は凄く意外とまでは思いませんがまずまず小器用にはまとめていると思います。ただ一般的な犯人探しのプロットと違っているためか、延々と続く地道な捜査が中だるみ気味に感じられてしまいます。論創社版の巻末解説にあるように、アイデア勝負の作品だしアイデア自体はまあまあとは思いますが結末に至るまでが結構しんどい作品でした。


No.638 5点 ペンローズ失踪事件
R・オースティン・フリーマン
(2015/03/29 21:06登録)
(ネタバレなしです)  1936年発表のソーンダイク博士シリーズ第17作の本格派推理小説です。真相が早い段階で見当がついてしまうことも多いフリーマンですが、本書はちょっとしたどんでん返しがあって読者の意表を突くことを意識したところがあります。しかし短気でせっかちな私には事件性がはっきりしない失踪事件は苦手なテーマで、F・W・クロフツの「ホッグズ・バックの怪事件」(1933年)と同じく、後半にならないと局面が大きく変わらない展開は辛かったです。あとこれは作者の問題ではないのですが、他の作品でもよく顔を出しているミラー警視の口調があまりにも乱暴な長崎出版版の翻訳には違和感を覚えました。


No.637 6点 恐怖は同じ
カーター・ディクスン
(2015/03/29 20:59登録)
(ネタバレなしです) カーター・ディクスン名義での最後の作品となったのはヘンリー・メリヴェール卿シリーズではなく、1956年発表の歴史本格派推理小説である本書です。現代人が過去にタイムスリップするというのはジョン・ディクスン・カー名義の「ビロードの悪魔」(1951年)と同じ設定ですが、本書では現代の謎と過去の謎が提示されているのが特徴です。とはいえ謎解き要素はやや希薄で、特に現代の謎は推理も不十分なままに何となく解決されてしまったようなところがあります(過去の謎解きはまあまあだと思います)。しかし冒険小説としては一級品で、序盤から複雑なロマンス、皇族との対面、相次ぐ決闘とハラハラドキドキの場面が連続し、最後までテンションは落ちません。


No.636 5点 マリオネット園「あかずの扉」研究会首吊塔へ
霧舎巧
(2015/03/29 20:52登録)
(ネタバレなしです)  2001年発表の《あかずの扉》研究会シリーズ第4作となる本格派推理小説です。相変わらず「マンガ的」な軽さと生真面目に考え貫かれた謎解きの組み合わせが不思議な魅力を醸し出していますが、国内ミステリーをある程度読んでいないとわかりにくい暗号など、やや読み手を選ぶようなところがあるのはちょっと気になりました。


No.635 4点 だれがコマドリを殺したのか?
イーデン・フィルポッツ
(2015/03/29 20:36登録)
(ネタバレなしです) ハリントン・ヘキスト名義で1924年に発表された本格派推理小説です。タイトルは王道的な犯人当て本格派推理小説のような雰囲気がありますが、前半部は恋愛と恋愛成就後の人間関係がゆっくりとした展開で描かれていてミステリーらしさがなく、ここが退屈に感じる読者もいるかもしれません。手掛りからの推理というよりは突如思いついた仮説から強引に解決へ持って行くので犯人当てとしてはあまり楽しめません。これ見よがしの殺意とか狂気の描写とは異なるものの、じっくりと醸成されたかのような犯人像の描写には作者の個性を感じます。


No.634 6点 内部の真実
日影丈吉
(2015/03/29 20:22登録)
(ネタバレなしです) 作者自身、第二次世界対戦中の台湾に約2年半駐留し、そこで後に妻となる女性と知り合い、終戦を迎えています。そのためか1959年発表の長編第3作となる本格派推理小説の本書の舞台である1944年の台湾の描写には何か思い入れのようなものが感じられます(なお作中の桃源街は架空の地です)。江戸川乱歩が「プロットが凝りすぎて少しわかりにくい」とコメントしたそうですが、複数の探偵役がいて、複数の自白があって、語り手が容疑者でもあることでその記述が無条件で信用できるものではないということなどが読者を混乱させている点は否めないでしょう。しかし所々で挿入される幻想的な描写も含めてそれが本書の個性だと思います。一度読んでよく理解できなかった人にはそのままではもったいない、ぜひもう1回読んで理解を深めたらどうですかと勧めたくなる内容を含んでいます。


No.633 5点 白犬の柩
垂水堅二郎
(2015/03/29 20:15登録)
(ネタバレなしです) 1960年代にわずか2作のミステリーを発表し長い沈黙の後、1990年代になって芳野昌之というペンネームで作品を発表した作者の1963年発表の長編第2作の本格派推理小説です。1962年のデビュー作のスリラー小説「紙の墓標」(後に「紙の墓碑」に改題)は、使われているアイデアが英国の某多作家が1928年に発表したスリラー小説とあまりに類似している胡散臭さが気に入らなかったのですが本書はなかなか力の入った作品だと思います。ペットの誘拐事件(誘拐犯は最初から判明しています)に端を発するサスペンス小説風に始まりますが、個性的な登場人物の思惑とすれ違いが予想外の展開を見せるプロットを生み出しています。本格派推理小説としては偶然の産物で殺人犯があの人に決まった(?)かのような真相は謎解きとして不満もありますが、皮肉に満ちた結末が何とも言えません。


No.632 7点 死が最後にやってくる
アガサ・クリスティー
(2015/03/20 11:38登録)
(ネタバレなしです) 歴史ミステリーを語る時にクリスティーが引き合いに出されることはまずないと思いますが、1945年発表の本書は古代エジプトを舞台にした唯一の歴史ミステリーです(非ミステリー作品には「アクナーテン」(1973年)という戯曲もありますが(私は未読です))。注目すべきは発表時期の早さで、歴史ミステリーの先駆的作品では他にジョン・ディクスン・カーの「エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件」(1936年)やリリアン・デ・ラ・トーレの「消えたエリザベス」(1945年)が知られていますがこの2作は実際に起こった事件の研究論文的な作品で、小説として楽しめる内容ではありません。その点本書は謎解きと家族ドラマが融合された堂々たる本格派推理小説です。外面的な時代描写もありますが、登場人物が生と死についていろいろ考えている場面にこそ古代エジプトを舞台に選んだ意義があるように思います。考古学者の夫の助言を得られたから完成できたのでしょうね。前半は地味でゆったりした展開ですが後半はサスペンスに富む急展開が待っています。弱点とまでは言いませんが、意外と死ぬ人が多くて犯人当てが容易になってしまったようなところがあります。


No.631 6点 虫のくったミンク
E・S・ガードナー
(2015/03/19 16:27登録)
(ネタバレなしです) 1952年発表のペリー・メイスンシリーズ第39作です。たたみかけるような尋問で手掛かりを求めるのがメイスンの得意技ですが、本書では登場人物が次々に行方をくらますのでその捜査手法が思うように進められず、もどかしさがいつもと違う緊張感を生み出しています。シリーズに登場する警官の中では冷静沈着型のトラッグ警部がいつになく熱い思いを語っているのも珍しいですが、最終章でメイスンの代わりにトラッグが真相を説明しているのもこれまた珍しいです。その締め括りはかなりの衝撃度です。


No.630 5点 蜘蛛と蠅
F・W・クロフツ
(2015/03/18 10:34登録)
(ネタバレなしです) 1941年発表の本格派推理小説である本書(フレンチシリーズ第22作)ではクロフツとしては珍しくも男女のカップルが大勢登場します(関係は色々です)。もっともそれをあまり上手く活用できていないところが人物描写が苦手なクロフツらしいですね(惜しい)。終盤で読者に対してだけあるトリックが図解付きで紹介され、その後にフレンチがもう一度トリックを説明していますがトリックを見破った過程には全く触れていない説明なので推理という点では不満を残しました。アマチュア探偵の(やや危なっかしいが)頑張りが単調さを解消しているのは評価できますけど。


No.629 4点 ジェイムズ・ジョイスの殺人
アマンダ・クロス
(2015/03/18 10:18登録)
(ネタバレなしです) 1967年発表のケイト・ファンスラーシリーズ第2作は、前作に比べるとこの作者の個性が出始めていますがそれが必ずしもいい方向に転んでいないように思います。この作者の特徴であるフェミニズムに関しては、ケイトの結婚観や女性のライフスタイルの選択肢に関する意見などが描かれていますがまだ声高に主義主張しているレベルではないのでプロットの妨げにはなっていません。しかしなぜケイトが田舎暮らしをしているかという恋人リードの質問に対するケイトの答え方がどうにもまどろっこくてイライラしてしまうし、8章でのジェイムズ・ジョイス談義になるとますます付いていけず(ジェイムズ・ジョイスを読んでいない私がいけないのかなあ)、何か敷居が高くなったような気がします。探偵役をケイトでなくリードが務めているのもやや問題で、ミステリーの登場人物としてのケイトの存在感が薄れてしまったように感じます。犯人の計画が信じられないぐらい杜撰だったのはまあご愛嬌ということですか(笑)?


No.628 5点 善意の殺人
リチャード・ハル
(2015/03/17 21:13登録)
(ネタバレなしです) 1938年発表のミステリー第6作である本書は「被告の名前を伏せたまま裁判が進行する異色の本格派推理小説」のように紹介されていましたが、これはあまり鵜呑みにしない方がいいと思います。確かに冒頭でまさしくそういう状態の裁判シーンが描かれていますがこれはすぐに中断されます。「この被告は誰なんだろう?」という興味で物語を引っ張る展開ではありません。物語の半分近くは、時間をさかのぼってのフェンビー警部による捜査シーンの方に費やされています。ここはF・W・クロフツやヘンリー・ウェイドにもひけをとらない、重箱の隅をつつくような地道極まりない捜査シーンで、通常の犯人探しの範囲を越えるものではありません。手掛かりからの緻密な推理による犯人指摘が行われる一方でそれだけにとどまらず、どういう判決が下りるかを最後のクライマックスに持ってきて、さらにもやもや感を残す締めくくりにするという異色のプロットです。ハルらしいといえばハルらしいのですが、一般読者受けするかは微妙な気もします。miniさんの「得体の知れぬ作品」というご講評はまさにその通りだと思います。


No.627 4点 第八の日
エラリイ・クイーン
(2015/03/17 16:40登録)
(ネタバレなしです) 1960年代のクイーン名義の作品は大半がゴーストライターによる代作だそうですが、1964年発表のエラリー・クイーンシリーズ第26作の本書もその一つです。異世界といってもいいような風変わりな舞台が用意されており、まさに「不思議の国のエラリー・クイーン」といった趣きです。但しファンタジー小説のような明るい幻想性はありませんが。主要人物は名前ではなく「跡継ぎ」とか「教師」とか職業や社会的地位で呼ばれており、そのためハヤカワ文庫版の登場人物リストは全く意味を成していませんがこれはやむを得ないでしょう。一応は本格派推理小説の形式に沿っていますが謎解きは平凡で、特殊な舞台とその中で外部からの訪問者であるエラリーが果たす役割などに見るべきところがあるように思えます。独特の世界を描いたことが評価されたのか一部の読者からは高く支持されているようですが、ここまで異色だとさすがにクイーン入門書としてはお勧めできません。


No.626 6点 鯉沼家の悲劇
宮野村子
(2015/03/17 14:16登録)
(ネタバレなしです) 1949年に宮野叢子(みやのむらこ)名義で発表された長編第1作です。旧家の複雑な人間関係と悲劇的な運命が描かれていて、これは宮野の得意パターンらしく、それゆえか本書は代表作と評価されています。一方で死の予言通りに起きる連続怪死事件という魅力的な謎を持つ本格派推理小説でもあるところは「文学派」と言われる宮野としては異色作でもあるようです。この謎解きについては江戸川乱歩や二階堂黎人は中途半端と厳しく評価しています。まあ確かに謎解きプロットとしては解決に物足りなさもあるのですが、同時代の横溝正史や高木彬光の本格派推理小説と比べれば、豊かな物語性で個性を発揮している作品であります。

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