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平均点:5.97点 | 書評数:728件 |
No.688 | 6点 | 不思議の国の悪意 ルーファス・キング |
(2016/04/02 11:29登録) 論創社からルーファス・キング「緯度殺人事件」が刊行されたようだ、論創社ではひと月2冊刊行が続いていたが、今回もう1冊予定されていたバート・スパイサーの「ダークライト」は事情により来月に延期になったみたい、本邦初紹介ぽかったからちょっと残念 黄金時代のアメリカ本格派を代表するクイーンとキングと言えば、エラリーとそしてC・デイリー・キングである ところがだ、キングには同時期に活躍し出身地も近い(姻戚関係の噂も有り)もう1人のキングが存在する、ルーファス・キングである 良くも悪くもアメリカン本格黄金時代の申し子のようなデイリー・キングに対し、例の森事典でも悪い意味で通俗調スリラーに流れてしまうという欠点が指摘されているのがルーファス・キングだ その弱点をプラスに変えた代表作「不変の神の事件」は創元文庫で刊行済だ 今回論創から出た船上ミステリ「緯度殺人事件」は「不変の神の事件」よりも前の初期の作で、以前に黒白書房から抄訳で出ていたのだが、今回は論創から完訳版で登場という次第である 森事典では、「緯度殺人事件」はスリラー調に流れてしまう作者の癖が如実に出た悪例として採り上げられているがさてどうなんでしょう その森事典では作者を人気作家に押し上げた長編よりも今では短編の方が評価が高いと指摘している ルーファス・キングを代表する短編集が”クイーンの定員”にも選ばれた『不思議の国の悪意』なのである この短編集は非常にヴァラエティに富んでおり、メルヘン風本格、クライム、倒叙、サスペンス、最後は館もののトリック本格など、個々の短編それぞれにテイストが異なり飽きさせない ただ「死にたい奴は死なせろ」は80ページを超し、短編集全体の1/3を占める集中唯一の中編なのだが、この中編がねえ、つまり作者の長編の欠点というものを表している感じなんだよなぁ 前半の謎解きから後半は通俗調スリラーに流れていく 私は基本的に通俗だから駄目とは思わないし、スリラーが本格よりも程度が低いジャンルとも思わない読者だけれど、この中編ははっきり言って欠点と言われても仕方がないだろう つまり中途で犯人が判明してからは、捻りも無い単なる追跡劇に終わっていて蛇足にしか思えない、長編での欠点というのはこんな感じを言うのだろうか まぁ最初の被害者女性が襲われる場面の描写などには、叙述上の工夫が見られるのが最後まで読むと判明するのだけどね 他の短編群の出来の良さ、集中唯一の中編のイマイチな出来 やはりルーファス・キングの本領は長編よりも短編に有るというのは本当のようだ 採点上も7点付けたいが、唯一の中編が足を引っ張って1点減点とした |
No.687 | 6点 | ロセアンナ マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー |
(2016/03/25 09:57登録) 本日25日に角川文庫から「刑事マルティン・ベック 煙に消えた男」が刊行される 角川文庫のマルティン・ベックシリーズでは柳沢由実子氏によるスウェーデン語からの直接の翻訳への切り替えが進められているがその一環である このシリーズ第2作は旧訳では「蒸発した男」だったが邦訳題名を若干変更した、「笑う警官」では題名変更はしてなかったけど 「煙に消えた男」が第2作ならシリーズ第1作目が「ロセアンナ」である、旧題では「ロ(ゼ)アンナ」だけれど新訳では「ロ(セ)アンナ」なんですよ、スウェーデン語ってこういう場合の発音は濁らないのだろうか?LiLiCoさんにでも訊いてみないと分かランナ 旧高見浩訳のは当然所持しているので訳文を比較しながら読んでみた、シリーズは英訳されて世界的な人気シリーズになったが、高見訳はスェーデン語から英語に訳された版を日本語訳したものだ 比較すると、基本的には殆ど内容は同じ、どちらを読んでも意味は通る 違いは主に文章表現上のニュアンスの相違、冒頭から例文を抜粋すると 旧高見訳 ”死体は七月八日、午後三時をまわった直後に発見された。かなりきれいな状態であることから推して、長期間水底にあった可能性は少ないように思われた。 発見された経緯そのものは、単なる偶然のたまものだったのである。これほど早く発見されたからには、当然警察の捜査にもプラスにになるはずであった” 柳沢訳 ”死体が上がったのは七月八日の午後三時過ぎのことだった。まだ完全な状態で、長く水の中にあったようには見えなかった。 発見はまったくの偶然からで、早く見つかったため、最初は警察の捜査の手間が省けるだろうと思われた。” その後の文章もこんな感じ、旧高見訳は漢語や二文字熟語の類いをかなり多用して、全体的に文語っぽいと言うか悪く言えばちょっと硬い ただこれが英語表現とスウェーデン語とのニュアンスの違いなのか、翻訳者の癖なのかは不明 高見浩氏は東京外語大のオランダ語科卒な割にはヘミングウェイやミステリーでもアメリカ作家の翻訳が多く、そのきびきびとして余韻を感じる訳文は私は好きなのだが、北欧という土地柄に似合っているか?というと疑問は出てくる 英語の文章をヘミングウェイなどを得意とする人が翻訳すると必然的に漢語や熟語を多用したくなるということなのだろうか 柳沢訳の柔らかい感じの方が本来の北欧の雰囲気なのかも知れない、がしかし北欧は歴史的に見ればヴァイキングの根城、案外と北欧って海賊風の荒々しさなのかも知れぬ、そうならば高見訳の方が合っている可能性も有る これから初めてこのシリーズを読もうとされる方に1つだけ新訳版をお勧めする理由が有る それは翻訳者には責任は無いのだが、文章ではなく製本上の違いで、新訳版の方が活字がくっきりとして格段に読み易い さて「ロセアンナ」の内容だが、まぁ予想通りと言うか、つまりね第1作らしくシンプルなのですよ、第4作目の「笑う警官」のような多方面からの捜査が同時進行的に行われないんだよねえ だから「ロセアンナ」の場合、警察小説というジャンル特有の魅力にちょっと欠けてると言わざるを得ない、まぁシンプルな分、シリーズ入門には丁度良いかもだが むしろ特筆すべきは被害者女性の当時としては斬新な性格だろう この合作作家、夫婦なのに何で別姓なの?と以前は思ったけど、北欧というお国柄も有るかもしれないが、こういう夫婦だからこそ書ける被害者女性の造形なんだろうね こうした社会性がシリーズの大きな魅力で、昨今は社会派的要素というとやたらと忌み嫌う風潮が有るが、社会派というのはある種非常に魅力的な要素だと私は思う ところで解説で初めて知ったのだが、この夫婦コンビ、例の87分署シリーズを初めてスウェーデンに翻訳紹介した事でも知られているがそれは後年の話で、実はマルティンベックシリーズを開始した時点では87分署シリーズを読んだ事が無かったのだという つまり87分署シリーズの影響の元にマルティンベックシリーズが書かれたという説は誤りなわけだ そう知って成程と思った、87分署シリーズって社会派要素は無いもんなぁ、あれは要するに大都会のメルヘン御伽話だもんな、マクベインはエヴァン・ハンター名義の方が社会派要素を感じる |
No.686 | 6点 | 失われた世界 アーサー・コナン・ドイル |
(2016/03/16 09:59登録) 先日に光文社古典新訳文庫からアーサー・コナン・ドイル「失われた世界」が刊行された ノンシリーズは別にしてドイルが創造したシリーズキャラの中ではホームズの次に世界的に有名なのがチャレンジャー教授だろう インディ・ジョーンズの元ネタみたいなキャラで、ホームズにも冒険小説的な要素が有るが、元来が伝奇ロマン的資質のドイルだけに、ある意味ホームズよりも作者らしいキャラじゃないかなぁ 今までも複数の出版社から刊行されており、別に希少価値なんてないのだが、古典新訳文庫だけに新たな翻訳上のセールスポイントがあるかってところかな スピルバーグ監督の「ジュラシックパーク」と「ロストワールド」は一応マイクル・クライトンの原作という建前になっているが、最初から映画製作と同時進行で内容も小説に準拠する必要はないとクライトンも承知していたのだという まぁ内容は全くの別物だが、映画版にしてもクライトンの小説版にしても、その題名の由来はドイルのこの作品なのは100%間違いないでしょう その位有名な作品で、これまで当サイトで登録が無かったのは驚くべきで、他にもSF作品の登録は沢山有るのだからジャンル的な問題ではなさそうだ、既読の人は多いと思うんですけどね 世界遺産でもある南米ギアナ高地、周辺の低地とは隔絶された周囲が絶壁の台地の上の平原、世界最高落差の滝エンジェルフォールもこの地域に存在する 周囲の低地とは生物が簡単に行き来出来ないことから独自の生態系を保っている、もっとも昨今では観光客の増加で外部から種子が持ち込まれたりして問題になっているらしいが この独自の生態系という要素に着目して、恐竜が生き残ったという発想の素晴らしさがドイルの勝利だろう 映画のようにDNA解析からの復元という発想の方が科学的だしリアリティがあるし今風だが、なんかセコくなった感もあるよね、冒険ロマン精神という意味では 映画で言えばさ、インディ・ジョーンズが冒険小説的なのに対して、「ジュラシック・パーク」や「ロストワールド」は冒険ロマンと言うより最初からスリラー小説的なものを目指した感が有るんだよなぁ |
No.685 | 6点 | 氷の天使 キャロル・オコンネル |
(2016/03/15 09:59登録) 先日に創元文庫からコリン・ワトスンやアイリッシュ「暁の死線(新装版)」などと同時に、キャロル・オコンネル「ウィンター家の少女」が刊行された その作家比較内で、他に代表的なシリーズが存在しているにも関わらず、特定のノンシリーズ作だけが突出して読まれている作家が結構数多く居るが、オコンネルなどはまさにそんな作家だろう そのノンシリーズ作とはもちろんあれだが、最近ではこのミスで「愛おしい骨」が1位を獲得して久々に話題を集めた しかし「愛おしい骨」もまたノンシリーズなんだな どうもノンシリーズだけが話題になってしまうタイプの作家なんだろうけど、しかし作者を代表するシリーズはやはり刑事キャシー・マロリーである 今回創元から出た「ウィンター家の少女」もマロリーシリーズである 当サイトでkanamoriさんも言及されているように、実はあの「クリスマスに少女は還る」より以前にキャシー・マロリーのシリーズ第1作が翻訳刊行されていたのである ところがその時点では殆ど話題にならなかった まぁ理由は分からなくもない、と言うのも出版社が翻訳ミステリーでは地味な存在の竹書房だったのもあるが、私が思うもう一つの理由が翻訳題名なのである 実は正しい正しくないの議論で言えば、竹書房版が当初付けた「マロリーの神託」という訳題の方が原題的には正しいのである、作中に霊媒やら降霊会まで出てくるしね しかし世の中、正義が勝つとは限らない、「マロリーの神託」では読者に訴えかけてくるような魅力が無かったんだろうなぁ、邦訳題名の良し悪しで手に取ってもらえるかどうか結構差が出るんだよねえ あの「クリスマス」だって、本当は原題通り「囮の子」が正しいんだ、2つの意味を表しているからね、「クリスマスに少女は還る」では一方の意味だけしか表現していない しかしもし「囮の子」という題名だったら日本で人気作になったかどうか 創元てさ、必ずしも正しくないんだけど上手い訳題付けるなってのが多い、やはり編集部の独特のセンスなんだろうな 「氷の天使」、ううん気になる題名だ、主人公マロリーの性格を表しているのだろうが オコンネルの場合は内容の前に文章について言いたい、というのも「クリスマスに少女は還る」がかなり読み難い文体だったからね たしかに「氷の天使」も、何行か読み進めないと各段落の冒頭だけだと意味が取りにくいなど「クリスマス」と同様の欠点が有る しかも文章の達人が書いたって感じではなく、ただ作者が文章上の技巧を見せ付けようとした底の浅さを感じさせてしまうのが嫌いだ ただ過去と現在起きている事件との両立も重要な「クリスマス」に対して、「氷の天使」では現在起きている事件だけが対象だから、時制が分かり難いという作者の弱点が感じられず、「クリスマス」よりは読み易い気はした 内容だけど、う~んこれ迷うね、一応主人公が警察官だから私は警察小説に投票したが、異論もあるかもしれない、まぁ個人的にはハードボイルドよりは警察小説の方が若干適切かなとは思うけど やはり海外作品には、”女性探偵”というジャンル区分が欲しいな |
No.684 | 6点 | 嘘は刻む エリザベス・フェラーズ |
(2016/03/09 09:58登録) 今月初に論創社からフィルポッツ「極悪人の肖像」とエリザベス・フェラーズ「カクテルパーティ」が刊行された 私は3大倒叙に続く第4の倒叙型作品としてはオースティン・フリーマンの「ポッターマック氏の失策」だと思っているのだが、「極悪人の肖像」が第5番目の存在に成り得るのかということだね、そうなれば5大倒叙を名乗れるからね さてもう1つのフェラーズだが、作風がサスペンスタッチに変化した戦後の中期作である 私は海外で選ばれた名作表リストを眺めるのが好きなのだが、実は海外でフェラーズの代表作としてよく名前が出てくるのが原題「Enough to Kill a Horse」だったのである おそらく海外ではフェラーズの最も出来の良い作品と認識されているというわけだから、なかなか紹介されないのを残念に思っていたのだ それがこうして論創社から「カクテルパーティ」という訳題で刊行されたわけである、ただこの題名もっとマシなのは無かったのだろうか?、まぁ毒殺がテーマらしいのでカクテルなんだろうけど 実は論創社からは4月末にもう1冊予定されているらしい エリザベス・フェラーズというと一時期創元が精力的に刊行したせいか、昨今はトビー&ジョージシリーズが作者を代表するシリーズと世界的に認識されている、という風に思い込んでいる読者が多いが、はっきり言うけどその考えは100%間違っている トビー&ジョージシリーズは戦中に書かれた作者の最初期のシリーズで、森英俊氏が隠れたガチガチの本格派シリーズとして紹介したのを契機として注目されたのであって、つまりは埋もれていた初期シリーズの発掘だったのである おそらく世界の中でトビー&ジョージシリーズがこれほど読まれている国は日本だけだと思う フェラーズは海外でも人気作家だが、海外での認識では戦後のノンシリーズのサスペンス風本格作家のイメージなんだと思う、海外でリストアップされるフェラーズの代表作は殆ど戦後のノンシリーズ作から選ばれているしね そして最も名前が出てくるのが今回論創から出た「カクテル・パーティ」なのである 「カクテルパーティ」は1655年の作だが、その1つ前1954年の作が「嘘は刻む」だ 「カクテルパーティ」が海外の名作リストによく名前を刻む作ならば、「嘘は刻む」は例の森事典で戦後のノンシリーズ中の最高傑作の1つと喧伝されていた作で長崎出版で早くから刊行されたのもそれが理由だろう 今は無き長崎出版はスーザン・ギルラスとか結構面白いところに目を付けた叢書を展開していたので他の出版社が権利を買い取って復活させて欲しいよな 「嘘は刻む」は森氏も推薦していたようにサスペンス風の雰囲気の中でトリッキーな仕掛けが光るいかにも戦後のフェラーズらしい作だ 当サイトでkanamoriさんも御指摘のように狂った時計の真相は、単に被害者の性格に起因するもので全く大したことは無くて、前提としてはこれは謎として提出されている類のものではない 逆にもし時計の謎をメインに据えていたとしたら、トリックの為のトリックみたいな作に陥っていたんじゃないだろうか 真の謎解き上の肝は全く別のところに有って、これは要するに○○殺人の一種だよな そうすると某女流大家のあの作品とどっちが早いか?ということになる ネタバレになるから発表年は言えないが、調べたらやはり某女流大家の方が先だ 某女流大家のオリジナリティは凄かったんだな、まぁ唯一無比みたいな作家だからね と言うことはだ、「嘘は刻む」のアイデアはちょっと割り引いて評価せざるを得ないので、7点付けたかったのだが1点減点しちゃったんだよね 実はねえ、私はあの真犯人の正体は見抜いちゃったんだよねえ、だってあまりにも○○○○がはっきりし過ぎていたんだもん、まぁその前から必ずしも動機が無いこともないかなと思って怪しいとは思っていたんだけれど、私はこの手の犯人には気付いちゃうんだよなぁ(苦笑) |
No.683 | 6点 | 琥珀色の死 ジョン・D・マクドナルド |
(2016/02/24 10:01登録) * 私的読書テーマ、”生誕100周年作家を漁る”、第2弾はジョン・D・マクドナルド ロス・マクドナルド、フィリップ・マクドナルドに次ぐ第3の存在がジョン・D・マクドナルドだ、さらに第4の存在としてグレゴリー・マクドナルドなんてのも居る 読んだ読まないは問わないが、少なくともジョン・D・マクドナルドという作家の名前を知らなかったらミステリーファンとは絶対に言えない 何故ならジョン・D・マクドナルドは決してマイナー作家じゃないからだ 日本にもそういう位置付けの作家が居るが、要するにそこそこ多作で一般大衆にアピールする通俗的流行作家というタイプって有るでしょ しかも知名度は高いんだが、視野の狭い本格派読者には敬遠されて、当サイトでも作品数の割に書評が少ないタイプ あぁ、あの作家とかこの作家とか、何となく名前は浮かぶ国内作家居るよね、ジョン・D・マクドナルドもそんな感じかも ロスマクと比較するのは可哀想だし高尚な読者には向かないだろうが、良い意味でかなり大衆的人気の有った作家なのである ジョン・D・マクドナルドの代名詞と言えばもちろんトラヴィス・マッギーである、これで当たりを取ると後期は僅かな例外的ノンシリーズを除いてこのシリーズしか書かなくなる 「琥珀色の死」はたまに名作リスト表にも載っているのでシリーズ初期の代表作であろう このシリーズは題名に全て色の名前が付く事でも有名だが、今回の”琥珀色”は瞳の色からきている 前半は職業が私立探偵ではないもののちょっとハードボイルド調の捜査場面が続くが、相手の実体が分かってくる後半ではクライムノベル調になる、私もジャンル投票ではクライムを選択した ジョン・D・マクドナルドは複雑なプロットを構築するのが苦手な印象が有って、複数の要素が同時進行するようなイメージが全くなく、1つの問題が解決したら次の問題へ、といったシンプルな物語展開である その代わり個々の場面の描出は大変に上手く、また各種アイデアも容易に思い付くタイプらしく、こういった分かり易さが大衆的人気に繋がっていたのだろう ところで各種名作リストにも時々名前を見るので後期の代表作と思われる「The Green Ripper」をどこぞで翻訳してくれませんでしょうか、そう言えば論創社さん、未だジョン・D・マクドナルドには手を出していなかったよね |
No.682 | 6点 | 薔薇の名前 ウンベルト・エーコ |
(2016/02/24 10:00登録) 先日19日にウンベルト・エーコ氏が亡くなった、さらに20日にはハーパー・リー氏も相次いで亡くなった、「アラバマ物語」は所持しているので機会が有ったら書評したい エーコはミステリー専門作家じゃないが、ウンベルト・エーコの名前を聞いた事がなかったらそりゃミステリーファンじゃ無いでしょ 追悼はやはりこれ、過去に書評済だけど一旦削除して再登録 「薔薇の名前」はもう伝説の、と表現してもいい作品である 難解という語句が何回も出てくる作だが骨格は案外と簡単 中心となる登場人物バスカヴィルのウィリアムと語り手アドソは、要するにそのままホームズとワトスンである ところが知の巨人碩学エーコ、単なる探偵物語じゃなくて読者を迷宮に彷徨わせてくれるのだ(苦笑) しかし宗教哲学論争に終始するかのような内容だが一種の歴史物語でもある 登場人物の中で異端審問官ベルナール・ギーとかフランシスコ会派のウベルティーノなどは実在の人物である 時代は14世紀、北の神聖ローマ帝国では13世紀の大空位時代の後を受け、まだ後のハプスブルグ家が勢力を伸ばす前のちょっと中途半端な時期ではある キリスト教世界も最後の十字軍遠征が13世紀に終わり、そうかと言ってルネサンスにはまだ早い、やはり中途半端な14世紀という時代 十字軍運動によって最高潮に達した信仰精神は、皮肉な事に信仰そのものに疑問を投げかける結果となってしまうのである つまりは十字軍の後、世俗化したキリスト教世界の中で宗教とはどうあるべきか、みたいな論争が盛んな時代だとも言える 後の15~16世紀に比べて、この分かり難い14世紀という時代を背景にしているのが難解さに拍車をかけているわけだが、その時代だからこその物語でもある 創元では未だハードカバーのままで文庫化していないが、将来的に文庫化するとしたら、その際には歴史的背景なども簡単に説明する頁を設ける方が読者に親切なんじゃないかなぁ |
No.681 | 6点 | バレンタインの遺産 スタンリイ・エリン |
(2016/02/13 09:58登録) * 季節だからね (^ ^; でもこれバレンタイン・デーとは何の関係も無いんだよね、単なる人名だから(苦笑) * 私的読書テーマ、”生誕100周年作家を漁る”、第1弾スタンリイ・エリンの2冊目 前回1冊目の書評をした「第八の地獄」が初期の作だったのに対して、「バレンタインの遺産」は題名が館ものっぽい「カードの館」の次に書かれた中期以降の作である ついでに言うと叙述トリックものの「鏡よ、鏡」はさらに後、後期に近い時期の作だ ハードボイルド的な「第八の地獄」に対して、この「バレンタインの遺産」は巻き込まれ型サスペンスと国際スパイ小説の中間あたりを狙ったような作だ でもまぁジャンル投票だと、やはり基本はサスペンスでしょうね 細かく舞台設定が移り変わるわけじゃないが、マイアミ→ボストン→ロンドンと舞台が動く事が効果を上げており、単調になりかねない巻き込まれ型サスペンスに国際陰謀小説的なスパイスが上手く融合している エリンらしい緻密な文章と緻密なプロット、エリン長編の中では標準的な佳作じゃないかなぁ 平凡という意味じゃなくて良い意味での水準作ですよ、「第八の地獄」が傑作過ぎるんだよ、比較さえしなければ「バレンタインの遺産」も十分面白い |
No.680 | 8点 | 亡者の金 J・S・フレッチャー |
(2016/02/08 09:58登録) 今月初に論創社から、コール夫妻「ウィルソン警視の休日」とJ・S・フレッチャー「亡者の金」が刊行された 「ウィルソン警視の休日」は”クイーンの定員”にも選ばれた短編集で、私としては以前から刊行要望をずっと抱いていたもので、実現したのは喜ばしいかぎりである 今月の論創社から刊行された2冊は、私にとってはここ数か月の同社の刊行の中で最も待望だった月となった、バレンタインのチョコ並に格好のプレゼントである エドガー・ウォーレスやフィリップス・オップンハイムと並んで1910~20年代にかけて活躍した3大古典スリラー作家の1人がJ・S・フレッチャーである 戦前に何作か翻訳されながらその後途絶え、なんと半世紀ぶりの新刊である 論創はよくぞこの作家を刊行してくれたって感じだ、こうなるとオップンハイムやそれとあとカロライン・ウェルズなども発掘を願いたい 論創社はこれまでにもサッパーやハーマン・ランドンやウォーレスなどこの手の分野に手を出してくれた貴重な出版社だ感謝 私は本格派に対してスリラー小説が劣った分野だとは解釈していない、スリラー小説にはスリラー小説としての面白さが有るのであって、こういう作家を読む場合は最初からスリラー小説であることを前提として読むことにしている エドガー・ウォーレスもそういう読み方をすれば十分に面白いのだが、フレッチャーにはウォーレスを上回る圧倒的なリーダビリティが有る 二転三転する畳みかける展開、見事な風景描写、プロットで勝負するスリラー小説としての面白さってこれですよ、これ この「亡者の金」も前半では真犯人の正体は読者にはバレバレだろうし、実際に中途で犯人は明らかになる 本格派しか読まない読者だとその時点でつまらないと予想するでしょ、でもそこからの後半もまた面白い、解明すべき謎もいくつも残っているし 要するに最初から犯人探しは重要なテーマじゃないんだよな、”犯人探し”という意味では犯人の行方の方がテーマの1つだし 題名の付け方もまた上手い、直訳すれば「死者の金」となるが、それでは味も素っ気もない、やはり「亡者の金」なんだよね 解説にもあるように”本格ものよりズウッと面白い”という文言通り、凡作の本格派なんか読むよりずっと充実した読書時間が過ごせること請け合いだ |
No.679 | 6点 | 007/サンダーボール作戦 イアン・フレミング |
(2016/02/04 09:58登録) 遅ればせになったが昨年12月に映画『007 スペクター』が日本公開された、ボンド役はこれが4度目のダニエル・クレイグ ”スペクター”とはシリーズでは何度も出てくる国際犯罪組織だが、実は原作と映画では異なる事情が有る まず原作の小説版だが大雑把に分けると第7作目の「ゴールドフィンガー」と8作目の「サンダーボール作戦」とが前後期の分岐点に当たると思う その理由はスペクターである、前期では米ソの冷戦の確執が影を落としソ連の暗殺機関スメルシュなど繰り返し出てくる名前も有るが、民間の敵役は1話限りだった ところが後期になると国際犯罪組織スペクターが登場する話が複数ある それには実は大人の裏事情が有るのだ 実はスペクターは元々が映画化を前提に作られたキャラ組織で、と言うのも映画化するのに国際政治絡みの要素をあまり入れたくなかったという大人の事情も有ったみたいだ 悪いのはソ連じゃなくて民間組織スペクターといいう事にしてしまえば角が立たないというかね 例えば「ロシアから愛を込めて」だが、原作では単なる米ソの確執が背景だが、映画版ではそこに第3の犯罪組織を間に割り込ませているし、映画版『私を愛したスパイ』なんて米ソ共同作業みたいな設定だしね(笑) しかしながらこの当初の企画は作者フレミングと共同制作者達との揉め事で頓挫するのである その後フレミングは勝手にこの映画化企画を小説化するのだが、それが「サンダーボール作戦」である この揉め事は訴訟にまで発展するが、つまり「サンダーボール作戦」は映画用シナリオに基づいたノベライズに近い作で、このような事情で書かれた007シリーズの小説は「サンダーボール作戦」以外にはない 仮に映画化を想定して書かれた後期の小説シリーズではあっても、他は原作がまず先に書かれており、要するに「サンダーボール作戦」はシリーズ中でも特殊な位置付けの作なのだ 映画化の順番は皆様御存知の通り映画版第1弾は『ドクター・ノオ』だが、もし当初の映画化計画が頓挫しなかったら、映画版第1弾は「サンダーボール作戦」だった可能性もあったのだ 以上の裏事情からお分かりのように、国際犯罪組織スペクターが初登場する作が「サンダーボール作戦」なのである ブロフェルドを首領とするこの禍々しく仰々しい犯罪組織は原爆搭載機の強奪というやる事も派手である ところが話の展開は朧げな原爆の隠し場所の推測といういたって地味(笑) クライマックスも海中肉弾格闘戦とスケール小さ(笑) 凡そ映画を前提にしたとは思えない地味さで、犯罪計画の大胆さが浮いている感すらある ただやはり映画化を前提とはせずに書かれたであろう初期の小説版が、当然ながらそのままでは映画化には向いていないのに対して、「サンダーボール作戦」では場面場面で映画的な描写が有り、また話の進行も映画的であるのは認めざるを得ない もっともその話の進行が予定調和的で、先の成り行きが凡そ推測出来てしまうのが難点と言えよう、映画前提であってももう少し展開に意外性が欲しかった気はする |
No.678 | 8点 | 第八の地獄 スタンリイ・エリン |
(2016/01/27 09:59登録) 今年も私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”を続ける 昨年度の生誕100周年作家は大物作家が多く豊作な年回りだった、ジャンル的には警察小説とハードボイルドに特徴が有ったと思う さて今年は全体的には昨年ほどの大物感は無いが、特定のジャンル限定なら大物作家も居る、少なくとも外れ年ではなさそうだ 今年のジャンル的特徴は、やはりまずは異色短編作家、この分野には大物作家が居る もう1つはジャンルの性質上とても大物作家とは言い難いが、知られざるB級スパイ小説の当たり年でもある * 2016年最初の”生誕100周年作家を漁る”、第1弾はスタンリイ・エリンだ 当サイトで空さんも語られておられるように、異色短編作家のイメージの強いエリンだが、意外と長編の数も多く、しかもその中にはMWA受賞作まで有る エリンを見出したのはエラリイ・クイーンである、短編の多くはEQMM誌に発表されたもので、同誌年次コンテストの常連でもあった 『ニューヨーカー』とか一般高級文芸雑誌などでも活躍した他の異色短編作家に比較して、EQMMをホームグラウンドにしたエリンだけに、他の異色短編作家よりも謎解き要素が強いのが作風と言えるだろう ただし表面的には本格派風に見えない所が持ち味でもある 短編作家からスタートしたが長編でも非凡さを発揮したエリンの初期の長編代表作がMWA受賞作「第八の地獄」である これは内容的にはハードボイルドなのだが、短編の分量でも文章の緻密さが特徴のエリンだけに、空さんも御指摘されているようにハードボイルド的な簡潔な文章ではない 言わば緻密な文体で綴ったハードボイルドで、プロットにも紆余曲折が有り、緻密に纏まった名作だと思う 短編作家としてしか認識されていない読者も多いとは思うけど、長編を書いてもエリンはエリンなんだなと再評価する事は必至だ |
No.677 | 6点 | グルーバー 殺しの名曲5連弾 フランク・グルーバー |
(2016/01/18 10:19登録) タイミングが遅れてしまったが、年初に論創社からケネス・デュアン・ウィップル「ルーンレイクの悲劇」とフランク・グルーバー「噂のレコード原盤の秘密」が刊行された、どちらも当サイトで未登録だけど本格じゃないからかな? ウィップルは横溝正史翻案の「鍾乳洞殺人事件」の原作者だが、所詮マイナー作家で私にはどうでもいい作家だ グルーバーのは作者のメインシリーズであるフレッチャー&クラッグものだが、そもそもグルーバーの新刊って同シリーズ第1作目であり早川ポケミスで出た「フランス鍵の秘密」以来だ、論創やるなぁ 便乗書評には本来なら同シリーズから選ぶべきなんだろうけど、中短編集という事で手軽に読めそうなのでこちらを 作者がフレッチャー&クラッグものを書き出す以前に『ブラックマスク』誌などに書いていた中短編からの日本独自セレクトで、オリヴァ―・クェイドとチャーリー・ボストンのコンビシリーズである クェイドは”探偵人間百科事典”の異名を持ち質問に何でも答えてしまうが、その知識の元になっているという百科事典を売り歩く香具師まがいのセールスマンで、この点フレッチャー&クラッグシリーズの原型とも言える 内容的には当サイトでkanamoriさんが的確に御指摘されているように、見かけは通俗ハードボイルド風だが謎解き色が強く私もジャンル投票は本格にした 通俗的で本格色が強いという特徴は同時期に活躍したジョナサン・ラティマーと共通する 「鷹の巣荘殺人事件」や「不時着」は人里から隔絶されたクローズドサークルで、「不時着」なんて雪の山荘テーマそのものである 私はクローズドサークルには何の興味も無い読者なのでそういう意味での舞台設定的な魅力は感じないのだが、プロの犯罪者まで登場させながらそのまま真犯人なわけはなく(それだったら面白くないわけで)、プロの悪党をプロット上の狂言回し的に用いて本質的には本格派謎解きに持ち込む独特の味わいが魅力だ あと書名だが、kanamoriさんも御意見に私も賛成で、講談社文庫版になって改題されたが、旧番町書房版の題名『探偵人間百科事典』のままでの文庫化が良かったのになぁ |
No.676 | 6点 | ブラウン神父の知恵 G・K・チェスタトン |
(2016/01/07 10:32登録) 昨日のニュースで、加島祥造氏が昨年暮に亡くなっていた事が報じられました、謹んで御冥福をお祈りいたします 小鷹氏といい相次ぐミステリー翻訳関連の方の訃報は残念でなりません 加島祥造氏の追悼書評はとても1作で済ませられるものではなく、また田村氏や鮎川氏(作家の方じゃないですよ、別の人です)との関連も兼ねて別の機会にしようと思います 加島氏とは関連の薄い作家だが、本日7日にちくま文庫からG・K・チェスタトン『ブラウン神父の知恵』が刊行される ちくま文庫では既に『ブラウン神父の無心』が刊行されており、その時点では単発企画なのかなと思ったが、どうやら続きが出たわけである このままいけば創元文庫版と並ぶ存在になるかもで、新訳でもあり翻訳に左右されそうな作家だけに別々の翻訳文で楽しめるのは嬉しい事だ ホームズ短編集の変遷とは面白い相関関係が有る ホームズは『冒険』『回想』と立て続けに出たが、第3短編集『帰還』はブランクを挟んで刊行された、その辺の事情は皆様御存知の通り 面白いことにブラウン神父の方も第2『知恵』と第3『不信』の間には結構長いブランクが有る、その辺については私も『不信』での書評中で言及しているので御参考に つまり『回想』が『冒険』の続編的、悪く言えば二番煎じ的なものだったのと似ていて、ブラウン神父の第2『知恵』は第1『童心』の刊行から間髪を入れすに出たような感じでやはり続編的性格を感じる 『不信』が設定をいくつか変更している部分が有るのに比べたら『童心』と『知恵』の違いはあまり感じられない ただし流石はチェスタトンだと思うのは、二番煎じ的な感じよりも”引き続いての安定感”を感じさせる点だ 構成もちょっと似ていて、『童心』の冒頭編「青い十字架」と『知恵』の冒頭編「グラス氏の失踪」はどちらもスっとぼけた味わいが有り、マジなホームズとは導入部の印象が異なる しかし一番印象に残るのは幻想的な雰囲気の中に大胆な陰謀が隠された「ペンドラゴン一族の滅亡」かなぁ、これはさ『回想』所収のホームズ譚「マスグレーヴ家の儀式書」と対を成す感じだね 両者共に”一族”とか”何々家”という題名ながら、私の嫌いな館ものとはちょっとタイプ違うしね、「マスグレーヴ家」なんて殆ど家族居ないし |
No.675 | 8点 | 運命 ロス・マクドナルド |
(2015/12/28 09:58登録) 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”、第1弾ロス・マクドナルドの6冊目、今年の生誕100周年作家も年の締めくくりはやはりロスマクにしよう 今年の後半はちょっと多忙だったので思ってた半分も読めなかった、ロスマクとM・ミラーはそれぞれあと1~2冊は読みたかったのだけどまたの機会に ロスマクは初期作は主に創元文庫で中後期は主に早川文庫と、文庫版で読めるものが多いが、「死体置き場で会おう」「犠牲者は誰だ」「運命」「ギャルトン事件」の4作はポケミスのまま文庫化から取り残されている 特に「運命」「ギャルトン事件」の2作は言わば作者のターニングポイントとして重要な作品だけに、文庫版しか絶対に読まない読者だと読まないままになってしまうのが惜しい 個人的には文庫版以外の版型には絶対に手を出さないという頑なな姿勢もどうかとは思う、ポケミスって海外では文庫版に相当するペイパーバックを模した版型なわけだから、ハードカバーなら敬遠する気持ちも分からなくはないが、文庫版の延長でもあるポケミス版だったら手を出してもいいのではと思うのだが ただ早川もさ、後期作は殆ど文庫化しているのだから上記の2作位は文庫化すべきなんじゃないかなぁ 現在は普通にロスマク名義の「死体置き場で会おう」「犠牲者は誰だ」までは最初はジョン・ロス・マクドナルド名義とジョンが付いていた ジョンを取った理由はジョン・D・マクドナルドという作家から紛らわしいとイチャモンをつけられたからだが、その辺の経緯は再三述べているのでここは簡潔に 原著では最初から今と同じロスマク名義で発行した最初の作が中期では珍しく創元文庫で翻訳された「凶悪の浜」で、名義変更後の2番目の作が「運命」なのである ただし次の「ギャルトン事件」までは英版だけは当初はジョンが付いていた、ロスマクって名義の話をし出すと結構ややこしいんですよ 「運命」は次作「ギャルトン事件」と並んでターニングポイントと言っていい 初期と中期を分けるのがアーチャーが初登場する「動く標的」だとすれば、中期から後期への転換点に位置するのが上記2作辺りなのは間違いないと思う この時期はロスマクとミラー夫妻の非行少女だった娘の問題で私生活が大変な時期だったのは有名な話で、この辺も語ると長くなるからここは簡潔に この時期は作者自身も神経症に悩まされていたらしく影響が濃厚に表れている、「運命」は一歩間違うとハードボイルドと言うより精神分析小説である 正直言ってロスマクにしてはシンプルなのだが、その割にはプロット的に良く出来ているとは言い難い、はっきり言って欠点も多い、意外性とかだって無いに等しいしね 前半はまるで館ものみたいな雰囲気が退屈で退屈で読み進めるのにメチャ時間かかった、得意の地道な調査場面なんて大して無いんだもん、過去の事件の経緯を多少聞き込みする程度 後半になると物語は動き出すのだが、それでも他のロスマク長編に比べたらあまり面白くない、そうです全体的に面白くないんだ(苦笑) この点数を付けたのはもう終盤の真犯人の告白部分である、これだけで高評価してしまった、真相判明(敢えて解明とは言わない)までの部分が1点、犯人の告白部分が7点という極端な配分としたい 犯人の告白で真相が判明するのは駄目で探偵役が推理して真相解明しているかどうかにこだわる読者がよく居るが、私はそう思ったことがない読者なんだよね 別に犯人の告白で真相が判明したって構わない、要は全体の話の流れと真相がマッチしているかどうかと真相の内容次第であると私は思う 「運命」はこの告白部分が感銘を受けるんですよ、プロットの拙さには目を瞑ってこの点数としたい だがしかしこの点は言っておかないと、当サイトで空さんも端的に指摘されておられますが全く同感です、はっきり翻訳が良くない、一人称を”俺”と訳したり場面によって文章のトーンが違ったりと違和感ある 早川さん、この作こそは新訳で文庫化すべきでしょう |
No.674 | 5点 | このミステリーがすごい!2016年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2015/12/16 10:00登録) 今年の「このミス」は、う~ん、ランキング内容は別にしてなんか地味 一応、この種のランキング本を書評する場合は、ランキング結果とかの話題と、特集記事とかの編集内容などの話題は、はっきりと分けて評価するべきである、さてそこで ランキング結果は別にして、編集・企画とか内容的に決して悪くはないんだけど、やはり今年は地味 ここ2年位有った、アンケートとかの特別企画が今年はあまり無い、特集と言えるのは作家インタビューのみって感じだ、もっともインタビューされたのが米澤さんに東山さんという人気作家だからそれなりにウケそうではあるが まぁランキング本なんだからランキング結果さえ分かればいいのだという意見も出そうだけどね ランキング結果についての感想は後続の方々にお任せするとして、私はマイペースに”我が社の隠し玉”コーナーから、順番は掲載順 論創社: 昨年度も2番目だったし論創早いね、儲かってるのかな(笑)Twitterなどで情報を随時知らせてくれる有難い出版社さんなのだけど、逆に言えば既知の情報ばかりで今回初めて知ったのは1つを除いて特にないなぁ ウォーレス、ハイランド、そしてジョン・ロードの別名義マイルズ・バートンあたりに期待でしょうかね 東京創元社: マンケルの逝去で追悼刊行になるみたい、それだけじゃなくて警察小説に力作が揃う感じでしょうか アリンガムの2冊目の短編集も予定ですか、まぁ長編は他社で予定してるからね 新潮社: 冒険小説系に強い新潮だけにクランシーにグリーニーと手堅い 小学館: ここも比較的順番が早いよね、ただまたべリンダ・バウアー推しですか(微笑) 集英社: やけに北欧が多いな、ちょっとブームに乗り遅・・、いや別に良いですよ(微笑) 国書刊行会: ここ数年鳴りを潜めていた国書だが、またホームズ・パロディですか、、英語圏以外のホームズ・パロディってまたマニアックな あとネヴィンズと言えばクイーン評伝ですね 扶桑社: S・ハンターはスワガーものじゃない単発作、異色作家シリーズはマシスンね 本格ミステリー三部作の最終編って?あれか?、いやあれは本格派じゃないという定評だし、とするとあのエッグとミンクの”館もの”の方か?、まぁどっちにしても興味無いけど(ゴメン) 早川書房: いきなり「ミレニアム4」ですか、昨年版での刊行予告がずれ込んだんでしょうね 来年じゃなくて近日年内刊行ですよ、作者はもう亡くなってるので書いたのはパートナーですかね 講談社: 毎年手堅いけど、う~ん コナリーはリンカーン弁護士の方ね 光文社: 来年はちょっと面白そう、ポー短編集の2冊目、新潮文庫の方はジャンル別に分けてたけど、光文社は分冊の基準がよく分からん ただ面白そうなんだけどドイル、クリスティって、いかにも古典新訳文庫らしいけど、その分目新しさに欠けるというか 原書房: 論創社と並ぶ注目の原書房は、まずクイーン外典コレクションの第3弾 そしてパーシヴァル・ワイルドのこれまで未訳だった第1作「Mystery Weekend」がついに登場か、典型的な”雪の山荘テーマ”という事で以前から本格マニアの要望が高かったやつですね 文藝春秋: ある意味最も注目なのは文春かも、エルロイですよ、あのLA4部作の正統な直系の後継作が登場、これは驚き、ダドリー・スミスにバズも再登場らしいよ さらにスティーヴン・キングのホラーじゃないMWA受賞の著者初のミステリー作品 あとルメートルのシリーズ第3弾とか 今年は地味な各社隠し玉の中で、流石は文春、派手だぁ~ (株)KADOKAWA: え?角川書店でしょ?って、そう今年の3月までは これまでは持ち株会社による社内カンパニー制だったんだけど、今年の4月から制度を廃止してKADOKAWA(旧角川ホールディングス)に一本化、したがって角川書店と言う社名は現在は消え去ったのです 社名の話題だけじゃなんだから(笑)、大物ウィンズロウが控えてますよ で今年はトリ奪回、絶対わざと狙ってただろ(大笑) |
No.673 | 8点 | 殺意の迷宮 パトリシア・ハイスミス |
(2015/12/11 09:57登録) 先日に河出文庫からパトリシア・ハイスミス「キャロル」が刊行された、これ映画化されており来年2月に日本公開となる、キャスティングなど映画ファンの間でも話題になってるようだ 作者唯一の未訳長編だったのだが、先行して翻訳刊行された河出文庫の方もハイスミスのファンに好評らしい 原題はそのまま”carol”だが、実は改題する以前は”The Price of Salt”という題名だった ところが新旧どちらの題名でも例の森事典では著作リストに載っておらず不思議に思っていたが、内容的にミステリーではなくレスビアン恋愛小説らしいので除外されたのだろうか 以上は新作映画『キャロル』の情報だが、さて大幅に情報が遅れたが、もう1つハイスミス原作の映画が『ギリシャに消えた嘘』の邦題名で今年の4月に公開されていて、その原作が「殺意の迷宮」である 孤高の天才ハイスミスは案外とミステリーの受賞歴は少なく作品的には2作位しか無い しかも本国アメリカよりも欧州で高評価された作者らしくMWA賞の受賞歴は無く、「リプリー(太陽がいっぱい)」の受賞はフランスの賞だし、もう1冊、この「「殺意の迷宮」もMWAではなくCWA賞なんだよね、それも本賞じゃなくて外国作品部門扱い 原題を直訳すれば『1月の2つの顔』 そう、1月は2つの顔を持っているんですよ その昔に『ヤヌスの鏡』というTVドラマが有ったが、そもそも1月の英語の月名”January”の語源はローマ神話で2つの顔を持つヤヌス神が由来である 1月は1年の終わりと始まりであり二面性を持つ事から名付けられた ローマ神話の神々はそれに相当するギリシャ神話の神が大抵は居るのだが、ヤヌスには相当するギリシャの神が存在せずローマ神話オリジナルの神らしい 二面性と言うのが、したたかな古代ローマ人の性格には合うが潔い古代ギリシャ人の性格には合わなかったんだろうかね(笑) 1年でも特に前半の月名はローマ神話の神の名に由来するものが多く、例えば3月の”March”は火星の呼び名でもある軍神マルスからきているし、6月の”June”は木星の呼び名ユピテル(ジュピター)神の妻である結婚の女神ユノ(ジュノー)からきていてジューンブライドの由来でもある ところがローマ神話から採った名称は前半だけで、1年の中間地点7月と8月はまた別、7月の"July"はユリウス暦を制定したユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)が自身の名前を付けたもので、8月の”august”の由来はローマ皇帝アウグストゥスである カエサルちゃん、ちゃっかりしてやんの(笑)、と思ったら実は歴代ローマ皇帝は各月に自分の名前を付けたくて一旦は月名を改名したんだとさ、でも各皇帝の死後は元の名称に戻されたんだってさ 流石はカエサル、自身が制定したユリウス暦だけに、7月は改定前の名前って無いからJulyでそのまま残ったってわけなのか 一方で1年の後半はまたパターンが変わる、9月~12月は全部語尾が”-er”で終わってるでしょ、何で統一されてるのかと言うと一種の番号なんだよね 9月の”September”は”第7番目、英語のSeventhの元だね 10月の”October”は8番目、足が8本の蛸は英語でオクトパスだよね 11月の”November”は9番目、つまりNinthの元だね 12月の”December”は10番目、デシリットルやデシベルの”デシ”とか、10年一区切りのディケイドとか、10が絡む言葉の接頭辞に”Dec”が付くでしょ ちょっと待て、9月以降の各月と順番の数が合ってねえぞ、という小峠流の突っ込みが出てくる方も居られるかも これには理由が有って、ユリウス暦は1年の始まりを3月からとしているので、9月は第9番目なのではなく7番目なんだよね ちなみに3月から始まるという事は1年の終わりは2月だよね 4年に1度は閏年を設けて時間の調整をするのは天体の運行上は仕方ないのだけれど、調整する月が12月とかじゃなくて中途半端に感じる2月に行うのは、2月で1年が終わるというユリウス暦の名残なんだそうだ こういう話の方が暇潰しにミステリー小説なんか読むより面白くないですか?(苦笑) 「殺意の迷宮」ってミステリー的に読むと、一番覚えているのがパスポート偽造の話ばかり、これを除いたら殆どホモ話になっちゃうし(笑) いやハイスミスだからこれでいいんですよ(苦笑) |
No.672 | 7点 | 赤い収穫 ダシール・ハメット |
(2015/12/09 10:00登録) 昨日8日に小鷹信光氏が逝去されました、謹んで御冥福をお祈りいたします いずれ早川ミスマガでも追悼特集が組まれることになるでしょう ミステリー読者の中には、本格派にしか興味が無くハードボイルド派作品を1冊も読んでいないなどという極端に視野の狭い読者も居られよう 本格派偏重読者の中には唯一ロスマクだけは読んだという人なら結構居るみたいだが、ハメットもチャンドラーも読まず唯一ロスマクだけは例外的に読んだという読者の場合は、十中八九その手の読者がロスマクだけを選んだ理由はハードボイルド派に対する興味では全くないと断言出来る しかし本格派にしか興味の無い読者でも、小鷹氏の名前を全く知らなかったとしたら総合的な意味での海外ミステリー小説ファンとは言えないのでは 小鷹氏は翻訳家でもあるが、その生涯の仕事で翻訳と並ぶ3大事業が評論分野と短編集編纂である、小鷹氏の評論や編集は数多いのでまた機会を見て書評を考えたい 小鷹氏が居られなかったらわが国における海外ハードボイルド派作品の紹介は大幅に遅れたのではないだろうか 特に小鷹氏の業績で私が感心してしまうのは、ハードボイルドを純文学的見地だけで定義せず、高尚とは言えない通俗ハードボイルドにも愛情と理解を示された点で、ミステリージャンルとしてのハードボイルドという用語は、純文学ジャンルとしてのそれとは異質なものである、この点は誤解している人が多いと私は思う ちなみに昔に故松田優作主演でドラマ化された『探偵物語』の原案者でもある また娘が作家ほしおさなえである、ミステリー作品も有るよね 取り敢えずここは「赤い収穫」の再書評で、過去に書評済だったが一旦削除して再登録 私は”最高傑作”と”代表作”という二つの言葉ははっきり区別する主義で、代表作というのは出来よりも作者の特徴が出ているか否かが重要だと思っている 「マルタの鷹」を最高作とする意見には一理あると思うしあえて反論はしない しかし「マルタ」は最高作の可能性はあっても代表作ではない なぜなら「マルタ」はハメット以外でも書けそうだから 逆に言えばだからこそ後のハードボイルド作家達にとっての聖典みたいになってるのだろう それに私立探偵サム・スペードの登場する作品は短中編含めても案外と少なく、やはり作者の本流はコンチネンタル・オプなんだろうな だから代表作はオプものから選ぶのが妥当だと思うし、「赤い収穫」なんてハメット”ならでは”で、チャンドラーやロスマクでは書き得ないだろう やはり作家自身がプロの探偵だった経歴の違いか |
No.671 | 5点 | 完全殺人事件 クリストファー・ブッシュ |
(2015/12/05 09:56登録) 論創社からクリストファー・ブッシュ「中国銅鑼の謎」とジョルジョ・シェルバネンコ「虐殺の少年たち」が刊行された、ブッシュのは当サイト登録済のようだがどうせついでだからシェルバネンコの方も登録してしまえばいいのにね、シェルバネンコも今回で2冊目なんだよね ジョルジョ・シェルバネンコという作家は…、いや今日は止めておこうか(苦笑) ブッシュは古くから翻訳紹介されていたにしては日本では謎の多い作家である、その全貌が知られるようになったのは例の森事典のおかげであろう ブッシュの長編数は60作以上とかなり多いのに、我が国に紹介されたのが数冊、それも全てがアリバイ崩しもので、ブッシュ=アリバイ崩しみたいな先入観はずっと日本の読者に付きまとっていたわけだ ところが森事典によると、100%アリバイもの専門家というわけでもなく、たまたま初期の代表作がアリバイものだった為に固定観念で見られてしまうようになったみたいだ 何しろ多作な作家だけに、アリバイ崩しがテーマではない作も多いらしく、まだまだ未知の作家でもある、今後はアリバイもの以外の作も紹介される必要があるだろうし、未訳のものにも良いものが有るらしいので、既訳で絶版の「チューダー女王」の復刊などにこだわっていないで、未訳作を紹介する方を優先すべきだ 極論言えば「チューダー女王」なんて放ったらかしでもいいと思うよ さて「完全殺人事件」だが、そもそもこれが代表作みたいに言われていたのが古い時代の定説であって、この定説が今だに生きているのがブッシュには気の毒としか言いようがない 今なら中期や後期の代表作まで紹介されて真価を問われるべきであろう、そういう意味で論創社の仕事は意義が有る 論創社は過去に「失われた時間」を刊行しているが、これがなかなか良いんだよね、一応アリバイものなんだけど、ごく短い時間のアリバイをテーマにしながら人間心理の機微を突いた佳作だ 「失われた時間」を読むと、「完全殺人事件」のブッシュとのイメージは払拭されるべきだ、少なくとも「完全殺人事件」が作者の代表作であるという誤った認識は正されるべきであろう |
No.670 | 4点 | 髑髏城 ジョン・ディクスン・カー |
(2015/12/02 09:57登録) 先日に創元文庫から「髑髏城」の新訳版が刊行された、初期のバンコランもののシリーズ第3作目である、藤原編集室の企画のようだ 旧訳は古かったからね、新訳も遅かったくらいで当然でしょうね シリーズ全5作の内、バンコランもので既読なのは第1~3作目までだけなので、私の書評はアテにならないんだけどね(苦笑) 髑髏城ってのはそういう形状の城ってだけで、雰囲気の盛り上げに寄与している以外は謎解き上の重要な意味は無い その代わりベタなくらい所謂本格のガジェット満載で、いかにも二階堂とかが好きそうな舞台設定だぁ(大笑) パリ、ロンドンといった都市が舞台だった前2作から大きく舞台設定を変えた しかし私はクローズドサークルとか館ものが嫌いな性格で、こうした人里離れた怪しげな館みたいなタイプの舞台設定に全く興味を惹かれない読者なので、はっきり言って私には「髑髏城」に舞台設定上の加点要素は一切無い、いやむしろ原点対象(笑) 本格派的視点で見ても真相はつまらないし、何より大らかさとユーモアの欠片も無いのがカーらしくない とこう書くと駄作みたいな評価なんだが、好意的に見るとこの作品、カーが大好きだった冒険ロマン精神は発揮されているんじゃないかなぁ 本格派として見たら駄作だが、例えば真相の一部などは世界大ロマン全集だよな(中笑) ライバルのドイツ側の探偵役アルンハイム男爵の登場も、もしこれがフェル博士ものだったらあまり効果的とは思えないが、バンコランなのでまぁいいんじゃないかな、逆に男爵が居なかったらそれこそつまらない普通の本格になってただろうし フェル博士の名を出したついでに言うと、「夜歩く」や「絞首台の謎」などはフェル博士ものでも通用した話なので、冒険ロマンだと割り切れば「髑髏城」はバンコランで合っているのかも ドタバタも特徴の1つではあるカーだが、フェル博士もので冒険ロマン風の話をやるとちょっとチグハグ感が有るんだよね まぁそんなわけで、本格派としては3点、冒険ロマンだと割り切れば5~6点、間を取って4点にした次第 雰囲気作りなどははいかにもなカーなのだけれど、総合的見地だとカーらしいんだからしくないんだか判断に迷う(小笑) |
No.669 | 6点 | Xの悲劇 エラリイ・クイーン |
(2015/11/25 09:54登録) 先日に原書房からクイーン「摩天楼のクローズドサークル」が刊行された、ええ!そんな未訳作があったっけ?という方も居られるかもだが、少し前に同じ原書房から出た「チェスプレイヤーの密室」と同様、”クイーン外典コレクション”の一環で今回は第2弾である クイーンが晩年に合作の片割れリーの監修の元、ペイパーバックオリジナルを一応クイーン名義で大量発行した事は特にクイーンファンでなくとも概要は御存知と思う、何故そんな事をしたのかはリー不調説とか謎めいているが しかしその殆どは紹介されず、ラジオドラマまで訳されている割には数少ない残った未訳分野である その理由は?、もちろんクイーン本人ではなくその全てが代作者の手によるというのが嫌われたのだろう、ラジオドラマでも基本クイーン本人が創作しているのもあるみたいだからね 大体クイーンのような作風を理想と崇め特別に好むような読者ってのはさ、ハードボイルドなどは全然読みませんってタイプの読者ばかりなんだろうしさ 代作者の顔触れは今日殆ど判明しているが、全体としてSF作家とハードボイルド作家が多い印象である 例えば「チェスプレイヤーの密室」の代作者はSF作家ジャック・ヴァンス、そして今回出た「摩天楼のクローズドサークル」の代作者はハードボイルド作家リチャード・デミングだ 第3弾として予定されている「熱く冷たいアリバイ」の代作者フレッチャー・フローラは知られていないが、雑誌掲載短編として断片的にかなり翻訳されており、『ヒチコック・マガジン』や『マンハント』誌に短編を大量寄稿していた情報からするとやはりハードボイルド系の作家じゃないかな ただし、”クイーン外典コレクション”という企画は、ペイパーバックオリジナルの中から本格派として評価出来るものだけを厳選したものである 「摩天楼のクローズドサークル」の代作者リチャード・デミングは、『マンハント』誌を本拠にした典型的な通俗ハードボイルド作家で、良い意味でその通俗っぽさが魅力だ 今読めるのはポケミスの『クランシー・ロス無頼控』位だが、今年がデミング生誕100周年に当たるので私も当サイトに書評書いたので御参考までに、この短編集メチャ面白いので是非皆様読んで欲しいものである え!「Xの悲劇」の書評は?って、そんなんどうでもええわい、リチャード・デミング『クランシー・ロス無頼控』の宣伝の方がメインで・・・、てなわけにもいかんか、少し書くか(苦笑) 「Y」と比べての「X」の方が私は好き、何故なら理由は大きく2つ有る 1つ目はまず舞台設定 いわゆる”館もの”という舞台設定が大嫌いな私の性分からすると、「X」の公共交通機関にこだわった舞台設定の方が性に合うのである 2つ目は犯人設定 「Y」がいわゆる”属性”一本やりで、あとはいかにその属性である事が不自然でないかを多角的に側面補強しただけなので基本は案外と底が浅いのに対して、「X」では”属性”と”プロットによるミスリード”との両面作戦できている、これはミステリー的には「X」の方が優れているんじゃないかなぁ |