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ミステリの祭典

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007/サンダーボール作戦
007

作家 イアン・フレミング
出版日1972年01月
平均点5.33点
書評数3人

No.3 5点 クリスティ再読
(2019/08/12 12:47登録)
miniさんが要領よく事情をまとめているので省くけど、本作の原型は映画用シナリオである。しかも状況によっては映画第1作になるかも..という可能性もあったわけで、犯罪計画は大規模で、しかも結構リアルに「起こりうる?」なんて懸念された「核ジャック」である。キャッチーなんだけど、話はあまり無理せずにまとめて「守ってる」印象。
フレミングはジャマイカに別荘を持ってる縁もあって、舞台はおなじみカリブ海。「死ぬのは奴らだ」「ドクターノオ」本作「黄金銃」に短編集の3/5 だから、評者は食傷気味だ。映画シナリオっぽさは、核ジャックが起きてMがボンドを呼び出して任務を与えたあとに、核ジャックの手口を敵方視点で長々と叙述しているあたりで窺われる。けどちょっとバランスを失ってる気もする...もう少しカットバックするとか、ないのかな。
まあ本作、「今ひとつ」の最大の理由は、スペクターと言えばブロフェルドなのに、本作のメインの「敵」は実質No.2のエミリオ・ラルゴで今一つ「悪竜」ぽさに欠けること。タダのプレイボーイで、カリスマとか憎々しいワルさとか、今一つ。またイントロでボンドが無頼の生活を改善するために、業務命令で自然食療養所に入れられて...のナイスなエピソードがあるのに、そこでのワルのリッピ伯爵が小物過ぎ、しかもスペクターの犯罪計画に強く絡まないあたり。
総じてあまりプロットは上出来とは言いかねるし、評者「死ぬのは奴らだ」と続けて読んだせいもあるけども、水中戦が「またかよ」になってしまった。フレミングってプロットのバリエーションが少ない作家だ。

No.2 6点 mini
(2016/02/04 09:58登録)
遅ればせになったが昨年12月に映画『007 スペクター』が日本公開された、ボンド役はこれが4度目のダニエル・クレイグ
”スペクター”とはシリーズでは何度も出てくる国際犯罪組織だが、実は原作と映画では異なる事情が有る

まず原作の小説版だが大雑把に分けると第7作目の「ゴールドフィンガー」と8作目の「サンダーボール作戦」とが前後期の分岐点に当たると思う
その理由はスペクターである、前期では米ソの冷戦の確執が影を落としソ連の暗殺機関スメルシュなど繰り返し出てくる名前も有るが、民間の敵役は1話限りだった
ところが後期になると国際犯罪組織スペクターが登場する話が複数ある
それには実は大人の裏事情が有るのだ
実はスペクターは元々が映画化を前提に作られたキャラ組織で、と言うのも映画化するのに国際政治絡みの要素をあまり入れたくなかったという大人の事情も有ったみたいだ
悪いのはソ連じゃなくて民間組織スペクターといいう事にしてしまえば角が立たないというかね
例えば「ロシアから愛を込めて」だが、原作では単なる米ソの確執が背景だが、映画版ではそこに第3の犯罪組織を間に割り込ませているし、映画版『私を愛したスパイ』なんて米ソ共同作業みたいな設定だしね(笑)

しかしながらこの当初の企画は作者フレミングと共同制作者達との揉め事で頓挫するのである
その後フレミングは勝手にこの映画化企画を小説化するのだが、それが「サンダーボール作戦」である
この揉め事は訴訟にまで発展するが、つまり「サンダーボール作戦」は映画用シナリオに基づいたノベライズに近い作で、このような事情で書かれた007シリーズの小説は「サンダーボール作戦」以外にはない
仮に映画化を想定して書かれた後期の小説シリーズではあっても、他は原作がまず先に書かれており、要するに「サンダーボール作戦」はシリーズ中でも特殊な位置付けの作なのだ
映画化の順番は皆様御存知の通り映画版第1弾は『ドクター・ノオ』だが、もし当初の映画化計画が頓挫しなかったら、映画版第1弾は「サンダーボール作戦」だった可能性もあったのだ

以上の裏事情からお分かりのように、国際犯罪組織スペクターが初登場する作が「サンダーボール作戦」なのである
ブロフェルドを首領とするこの禍々しく仰々しい犯罪組織は原爆搭載機の強奪というやる事も派手である
ところが話の展開は朧げな原爆の隠し場所の推測といういたって地味(笑)
クライマックスも海中肉弾格闘戦とスケール小さ(笑)
凡そ映画を前提にしたとは思えない地味さで、犯罪計画の大胆さが浮いている感すらある
ただやはり映画化を前提とはせずに書かれたであろう初期の小説版が、当然ながらそのままでは映画化には向いていないのに対して、「サンダーボール作戦」では場面場面で映画的な描写が有り、また話の進行も映画的であるのは認めざるを得ない
もっともその話の進行が予定調和的で、先の成り行きが凡そ推測出来てしまうのが難点と言えよう、映画前提であってももう少し展開に意外性が欲しかった気はする

No.1 5点 蟷螂の斧
(2012/12/30 21:21登録)
今年は、映画シリーズ「007ドクター・ノオ」(第1作、1962年公開)から50周年にあたる。初代ボンド役・ショーン・コネリーは6作の主演で終了。ファンとして、007にちなみ7作の主演を望んだもでしたが、1983年「ネバーセイ・ネバーアゲイン」(シリーズとは別)で復帰、念願が叶いました。シリーズ4作目の「サンダーボール作戦」と原作は同じでした。本の方は、映画と違い地味です。物語としてのスケールは大きいのですが、筋はやや単調に感じられました。

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