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ミステリの祭典

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こうさんの登録情報
平均点:6.29点 書評数:649件

プロフィール| 書評

No.89 10点 悪意
東野圭吾
(2008/05/28 21:39登録)
 手記を扱った叙述トリックものでの新境地を見出した力作です。今時手記での騙りは珍しくありませんがこの作品では今までにないトリック、動機を見出しており素晴らしいと思います。タイトルの「悪意」も秀逸で他のタイトルではありえないと思います。手記を書く理由もそのどんでん返しも説明付けられておりいうことはありません。手記の客観性も保証されています。(手記の内容が正しいかは別問題ですが)唯一気に入らないのは読後感くらいでしょうか。しかし内容からすれば止むを得ないかと思います。


No.88 5点 心臓と左手 座間味くんの推理
石持浅海
(2008/05/28 21:31登録)
 月の扉で探偵役となった座間味くんが再度探偵役となって登場する短編集です。直接月の扉11年後の描写をした短編「再会」も入っています。
 他の短編集に比べてロジックの光る好短編集だと思います。犯罪事件を扱っていることもロジックが溶け込みやすい要因となっているのではと思います。日常の謎、男女の思惑などを扱った作品よりもロジックに納得しやすいかなと思います。
 ただ科学捜査全盛のこの時代で警察がわからない真相を安楽椅子探偵が解き明かすという構成なので不自然といえば不自然ではありますが泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズなどを楽しめた方なら楽しめるのではないかと思います。


No.87 8点 容疑者Xの献身
東野圭吾
(2008/05/28 00:35登録)
 ミステリ的要素が強い本としてはゲームの名は誘拐以来であり十分楽しめた覚えがあります。
 殺人の動機は前例がありよく使用されているもので個人的には好きではないのですが、この作品の様に愛する人のためならありかなと思いました。
 東野作品は特に最近書きたいテーマがあって、それを優先して書かれている気がします。エッセイによると本人は本格に対して冷めた目をしているそうですが、この作品や初期作品のような方向の作品をもっと書いてほしいです。


No.86 8点 ロートレック荘事件
筒井康隆
(2008/05/28 00:22登録)
 おそらくメイントリックと解説のためのみの小説ですが個人的には騙されたことに腹はたたなかったです。こういうバリエーションがあったか、という感じでした。今までにないものを味わえただけでも十分満足でした。
 ただ登場人物に血が通ってない感じといわゆる作中解説そのものはあまり好きではありませんがこの作品は解説なしでは成立しませんし仕方ないかなと思います。


No.85 9点 倒錯の死角−201号室の女−
折原一
(2008/05/28 00:08登録)
 初めて読んだ折原作品でした。折原一の登場で叙述、倒叙作品が見直されたといっても過言ではないと思います。折原作品を読んでからリチャードニーリィの存在を知り中町信の存在を知りました。それまで個人的にはバリンジャー、カサックくらいしか知りませんでした。
 中町信以上に叙述トリックオンリーなので読みなれると明らかに折原作品での犯人くさい登場人物がわかる作品もありますがこの作品は良く出来ていると個人的には思います。
 ただ叙述トリックオンリーなのでどうしてもバリエーションは少なくまた狂人を作品内によく登場させ、傍点を使用する騙りを頻繁に使用するのでフェア、アンフェアで分かれる所もあるかと思いますが個人的には折原作品はそういう作風と認めながら楽しめました。
明らかに最近の作品は質が落ちていると思いますが少なくとも初期長編はいずれも良作と思います。
 他作品も同様ですが本当に狂人が多く感情移入させやすいメインキャストがほとんどいないのは難点でしょうがそれも作品、トリック成立のためには仕方ないかなと思います。 


No.84 6点 日曜日は埋葬しない
フレッド・カサック
(2008/05/27 23:49登録)
 殺人交叉点同様倒叙形式の作品。登場人物は黒人作家とその恋人、作家担当の出版代理人とその妻の4人でこの中で殺人事件が起き最後の3ページでどんでん返しが、という作品です。
 ある倒叙形式の海外作品とどんでん返しの内容が表裏一体で残念ながら殺人交叉点に比べ衝撃は薄いです。
 倒叙、どんでん返しが好きな方なら読む価値はあるかと思います。


No.83 8点 閉塞回路
海渡英祐
(2008/05/26 01:10登録)
 海渡英祐といえば乱歩賞作の伯林ー一八八八年が有名ですがこれはアリバイトリックのみを集めた短編集です。元々有栖川有栖編の短編アンソロジーにそのうちの一編が載っていたのでこの本の存在を知りました。個人的にはアリバイトリックは元々好きではないのですがこの本の作品はよくまとまっており読者に推理させやすい内容になっています。
 特筆すべきなのは各短編のあとにその短編を作者が自分で解説しまたアリバイトリックの講義(他の作家の作品の類似例を出したりしますが作品名のみでネタバレはしておりません)までついておりここの部分だけでも読む価値があるかと思います。


No.82 9点 十二人の手紙
井上ひさし
(2008/05/26 00:54登録)
 作者は井上ひさしですが内容は明らかなミステリでしかも最上級の短編集に仕上がっています。
 各短編が手紙のみで構成されその作品中で起きた事件を発端から結末まで説明付けるのがすごいです。短編によっては相互にリンクしているのもあります。
 そして最後のエピローグで各章の登場人物が(必ずしも手紙を書いた本人ではありませんが)ホテルに監禁され、味のある結末まで用意されています。この作品だけ手紙形式ではありません。エピローグはなくても良いという感想もあるかも知れませんがそれまでの雰囲気を壊すものでもありません。最高の一冊でした。


No.81 8点 メイン・ディッシュ
北森鴻
(2008/05/26 00:45登録)
 独立した短編としても成立し、特別料理を除いたエピローグまでが途中までカットバックみたいな形で2つのテーマ(?)で分かれて進行し、最後にきれいにまとまる所など近年にない収穫だったと思います。
 結末までおかしさとやさしさにあふれており読んで得した気分になれました。ミステリとしての評価とは別ですが。


No.80 5点 妖盗S79号
泡坂妻夫
(2008/05/26 00:34登録)
 まあ無難な短編集だと思います。短編では特にチェスタトン風の直感的ロジックで真相が説明され個人的には真相がほとんどわからないことが多かったですが泡坂作品独特の雰囲気が好きでその一連の構成も含め個人的には是です。
 この作品もそういう泡坂作品の雰囲気にあふれた作品で中にはそもそもミステリと呼べない短編もありますが全体として無難にまとまっています。
 登場する警察官がおかしみにあふれているのもお約束どおりです。


No.79 8点 マリオネットの罠
赤川次郎
(2008/05/26 00:27登録)
 赤川第一長編です。15~20年前は赤川、西村+社会派全盛で日本の作品をほとんど読まなかった時期がありましたが個人的に赤川作品に対する印象は悪くまったく読んでいませんでした。数年前ようやくこの本をよんで印象が変わりました。
 構成としては連続殺人を起こす犯人がいるサスペンスでよく言われるフレンチミステリ風というのがぴったりです。
 結末、真相が語られる最後も読み応えがあります。明らかにアンフェアすれすれとは思いますがこういうミステリを読ませてくれれば満足と言える作品でした。


No.78 8点 迷蝶の島
泡坂妻夫
(2008/05/26 00:18登録)
 泡坂第五長編の作品です。泡坂作品といえば伏線が張られまくっていても進行は経時的なものが多いですがこの作品は倒叙形式の手記ではじまる異色作です。
 メインキャストはたった三人でこの三人が三角関係(男一人女二人)で男が本命の女性をとるためにもう一人の女性を殺そうとする物語です。詳細はネタバレになってしまいますので控えますがまず一人が死に明らかに疑わしい一人には明らかなアリバイがあり、という話がテンポ良く進んでゆきます。
 アリバイトリックも単純ですがそれだけに無理がなく皮肉の利いた結末といい良作だと思います。ただこの作品では全編に悪意が満ちており共感できる登場人物は皆無であり他の泡坂作品に比べて読後感は落ちるかもしれません。作品自体は良作だと思います。


No.77 8点 11枚のとらんぷ
泡坂妻夫
(2008/05/26 00:07登録)
 泡坂妻夫第一長編です。作中作の奇術本が独立しても成立し、その内容が犯人指摘につながる構成となっています。奇術に興味がない人でも読める内容だと思います。
 ただ犯人指摘によりある人物の印象が悪い意味で変わるのが後の泡坂作品らしくないかもしれません。泡坂作品では犯人であれその他の人であれ登場人物にはおかしみと好感を持ってかかれることが多いですが(むしろ登場しない人物、殺される被害者が始めから悪いことが多いです)、印象は大体一貫していてある局面から悪く変わることはあまりない気がします。
 作品自体は後の奇術を扱った作品と同様な雰囲気の中進行し良作だと思います。


No.76 5点 人柱はミイラと出会う
石持浅海
(2008/05/25 03:14登録)
 設定がパラレルワールドでそこで人柱である主人公が周囲に起きた謎をロジックで解き明かす短編集です。
 個人的には読み物として楽しみましたが推理小説として楽しめるかは疑問。石持作品は普通の殺人事件を扱った方が作風としては活きやすいと思うのですがいつも民間人を探偵にしているためか特に短編は変な題材が多い気がします。


No.75 4点 セリヌンティウスの舟
石持浅海
(2008/05/25 03:03登録)
 ダイビングに参加していた人々が一緒に漂流し一緒に救助されたのをきっかけに仲間になりそのうちの一人の家に全員集まった時に一人が自殺をする。後日集まった残りの仲間が本当に自殺なのか、他の誰かが殺したのか、という推理を仲間うちで行うというお話です。
 内容設定は石持作品らしいし読みやすいですが何故わざわざこんなことをしたのか(読んだ人にはわかると思いますが)という真相が納得できかねます。
 また登場人物の設定は普通なのにこんなロジカルな会話をしたがるかなという不自然さもあります。石持作品らしいといえばらしいですが。
 作者の提示する真相に納得できるかどうかでしょうが他の長編と比べても出来は悪いと思います。


No.74 5点 水の迷宮
石持浅海
(2008/05/25 02:50登録)
 いかにもな石持作品。水族館に脅迫状が届き職員が対応している内に殺人事件が起こり、何故か館長は警察にはすぐには届けない。たまたま遊びにきていた職員の友人が探偵役で、犯人など一連の謎を解き明かすという作品。
 映像化されれば視聴者でも犯人はわかるかもしれませんが読んでいるだけでは犯人はわからないと思います。
 ミステリと勝負して真相を当てたい、推理したいという人向きではないかもしれませんがスタイルは個人的には好きです。


No.73 6点 月の扉
石持浅海
(2008/05/25 02:42登録)
 石持作品は初期長編四作は奇抜な舞台設定でかつ警察の介入のない閉じられた環境にして探偵役が犯人を暴くスタイルです。個人的には石持浅海は最近の作者の中では一番好きですがそもそも舞台設定と謎解きの雰囲気がそもそもあっていない点とロジックを解き明かすスタイルなのにどちらかというとこの人物はこうするはずだという確率論的な予想の様な推理になりがちで好き嫌いは分かれそうです。個人的にな謎解きの過程が昔ながらで非常に好きです。
 月の扉は犯行グループの性格設定、ハイジャックの動機など変だと思いますが石持ワールドと思えば不思議はないかなと思います。
 例によって読者が真相を当てるのは難しいと思いますが相変わらず読みやすく、探偵役に提示された謎の真相とそのプレゼンテーションに納得できる方にはこの本も含めてどれも面白いと思います。 


No.72 8点 捕食者の貌
トム・サヴェージ
(2008/05/25 02:01登録)
 海外作品で気に入っている物の中でもっとも発表年が新しい物です。(2000年)ただ既に絶版です。
 20年前の小説の中で実際に起こった5家族連続殺人事件を題材にした本を出版しベストセラーになった作家が主人公でその主人公の元に「犯人を暴くゲームをしよう」というフロッピーが送られてきて主人公がその指示通り動くとその周辺にとんでもない罠の数々が仕掛けれていて、というお話です。誰がフロッピーを出したのか、何故主人公が指示に従うのかも最終的には明らかにされます。
 読み進めてゆくと犯人の見当はつきますがスピーディな展開、終盤までのサスペンスの盛り上がり、また最後のどんでん返し、エピローグで更にどんでん返しがあり最近の海外作では掘り出し物です。
 一つ目のどんでん返しは日本の新本格作品に前例がありますが本書の方が仕掛けは大げさではあります。前例の日本の新本格作品も好きですがこの作品ではさらにエピローグでもう一ひねりしており面白いです。
 映画化されても面白そうな作品ですが全く評判になってなさそうなのが残念な作品でもあります。  


No.71 4点 消された時間
ビル・S・バリンジャー
(2008/05/25 01:41登録)
 同じ場所、同じ時間に倒れていた男が一章目は重体(記憶喪失)で二章目は死体で発見されその後カットバック方式で記憶を取り戻そうとする男の章と死体の身元を探る警察の章が交互に語られる話です。一章目、二章目が最後に重なり合うカットバック自体は有効ですがエンディングも歯と爪程の衝撃はなく尻すぼみ感が強いです。ミステリとしては平凡でした。


No.70 6点 七十五羽の烏
都筑道夫
(2008/05/25 01:32登録)
 倉知淳の星降り山荘の殺人を読んでから読みました。物部太郎を探偵役としたシリーズの第一作目の様ですが二作目以降は読んでいません。倉知作品との共通性は各章のはじめに小見出しをつけている所のみで内容は違います。
 個人的には都筑作品の長編は作品の年代を考えるとむしろ今でも読みやすいと思いますが他作品よりは少し読みにくかった覚えがあります。(扱っている題材、登場人物の名前などはやはり古臭いかなと思います)小見出しを使ったミスディレクションやロジックを重視した作りになっており流石と思います。ただどんでん返しなどはなく実験的精神のこもった端整な本格といった感じです。35年前の作品ということでは敬意を評しますが内容は普通です。

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