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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1631件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.351 3点 殺人現場は雲の上- 東野圭吾 2008/09/23 20:17
スチュワーデス(今ならキャビン・アテンダントだから、この辺は次回重版時に改訂しないのだろうか)の凸凹コンビという主人公と内容の軽さゆえに数日経ったら忘れてしまいそうなキオスクミステリ。

ライトミステリながらもそつの無さを発揮している短編集だが、しかしやはり今までの東野氏の同傾向の作品に比べるといささか軽い感じがするし、スチュワーデスという職業柄、空港や機内と場所が限定されるせいか、場面のヴァリエーションに乏しく、それがためが総体的に小手先ミステリのような感じが否めない。

No.350 8点 ブラウン神父の知恵- G・K・チェスタトン 2008/09/21 19:50
1作目の『~童心』が凄すぎて、その後にコレを読むとかなり評価が落ちるのだけど、心を白紙にして読み返すと、実はこの作品も粒揃いだということが解る。

冒頭の「グラス氏の失踪」はほとんどダジャレの世界で、しかもお騒がせ親父の物語と、噴飯物だが、「通路の人影」は現代でも使われるようなトリックだし、「ペンドラゴン一族の滅亡」、「銅鑼の神」、「ブラウン神父のお伽噺」はまさにチェスタトンならではの幻想小説の意匠を借りたロジックが展開される。

呪術的雰囲気、パラドックスがビシバシ冴え渡る短編集だ。

No.349 10点 Yの悲劇- エラリイ・クイーン 2008/09/20 19:58
21世紀の世になり、この齢までかなりの小説を消化してきた中で、ようやく着手。
それでもなお、面白く読めた。
もう純粋にロジックの畳み掛けに酔わせていただいた。この作品のロジックにはクイーン特有の美しさというよりも、論理を超えた論理という凄味を感じる。

確かに平成の世、21世紀の世において、この犯人像はもはや目新しい物でもなく、驚くべきものでもないだろう。
しかし、本作は単なる誰が殺ったのか?を当てる犯人当てだけに終わらない、そこに至るまでの様々な事件についての論証が物凄い。
未だに「推理小説で凶器といって何を思い浮かべるか」という質問があったときに、「マンドリン」と答える人が複数いるという。それは暗にこの小説で扱われた凶器がその人たちの記憶に鮮明に残っているからなのだが、これは確かにものすごく強烈に記憶に残る。いやむしろ叩き込まれるといった方が正鵠を射ているだろう。小学校で習う掛け算の九九や三角形の面積の出し方、円周率が3.14であることと同じくらい、死ぬまで残る記憶になるのではないか。それほど、このロジックは凄い。

そして私はこれは未完の傑作だと考える。なぜなら冒頭のヨーク・ハッター氏の真相が明かされていないからだ。
ヨーク・ハッター氏は果たして自殺だったのか、それとも?
なぜヨークは失踪したのか?
まだ『Yの悲劇』は終わらない。

No.348 10点 ブラウン神父の童心- G・K・チェスタトン 2008/09/19 21:24
私は『シャーロック・ホームズの冒険』よりもこちらを断然推す。
ミステリとして今なお燦然と煌めく至高の短編集。
どれも大胆な発想と奇想、そして知的な逆説に満ちたミステリとなっている。

その中でも特に「奇妙な足音」、「見えない男」、「折れた剣」は有名かつ大傑作であり、その影響は今なおミステリシーンに君臨している。
「神の鉄槌」、「アポロの眼」は今読むとプロパビリティや技術の発達で苦笑を禁じえない結末だが、それもご愛嬌。
一番チェスタトンらしさが醸し出されているのは「イズレイル・ガウの誉れ」に見る狂気にも似た真相だろう。

最初に手に取る人は「青い十字架」の読みにくさと子供だましのような真相に戸惑いを覚え、本を再び手に取るのを躊躇うかもしれない。
しかし続く「秘密の庭」で驚かされ、その次の「奇妙な足音」でチェスタトン・マジックにまんまと嵌るだろう。
そこからはもう止められないこと請合おう。

No.347 8点 奇商クラブ- G・K・チェスタトン 2008/09/18 23:51
奇商クラブとは、未だかつて誰もがやっていない奇妙な商売で生計を立てている人物のみが入会できるクラブ。
裁判中に突然発狂し、それが基で引退に追い込まれた元判事バジル・グラントという狂人を主人公にしているのが実にチェスタトンらしい。
なんとブラウン神父シリーズよりこちらの方が先に書かれていた。

収録された奇商クラブ物6編のうち、「家屋周旋業者の珍種目」と「チャッド教授の奇行」が秀逸か。
前者はもうほとんどバカミスだが、こういうことを考える作者が逆に好きだ。
後者は真相が明かされた時に戦慄が走った。あまりにすごすぎ。本当の狂人の話だ。

で、実は本書には別にノンシリーズの「背信の塔」と「驕りの樹」という2編がさらに収められていて、これが共に白眉の傑作。
「背信の塔」はなんとも幻想的な1編で、ディキンスンが大いにこの作者から影響を受けているのが解る1編だ。
そして「驕りの樹」もこの作者が博覧強記振りの筆致で描くからこそ、こういう設定が引き立つのであろう。
両者ともなんともいえない奇妙な味わいがある。

今も手に入るか不明だが、もし絶版ならば、非常に勿体無い短編集だ。

No.346 2点 オペラ座の怪人- ガストン・ルルー 2008/09/17 13:56
作品にリアリティを持たすためにそれが実際の出来事であったかのように作者本人まで登場している。
そういった趣向と物語の性質がやはり自分の好みに合わない。

ただ、後に『13日の金曜日』シリーズの“ジェイソン”や『エルム街の悪夢』シリーズの“フレディ”に代表される怪人物の源流を作った功績はやはり意義あることだと思う。
特に怪人エリックがその醜さゆえに愛されなかった苦悩を吐露する所など、怪人であることの哀しさを含ませてその造詣に膨らみを持たせていることは「ルルー、只者でなし!」の感もあった。
が、やはり自分には合わなかった。

No.345 2点 黄色い部屋の謎- ガストン・ルルー 2008/09/16 20:54
フランス人は「悪の英雄」というのがどうも好きらしい。
その最たる代表はルパンであるが、本作も希代の詐欺師を設定し、犯人に仕立て上げ、しかも逃がしている。
従ってそういった一種特別な技能を持った人物を想定する事で、衆徒環視の下での人間消失とか、密室犯罪だとかの魅力ある不可能事象が作者の御都合主義の下に制御され、興醒めである。
本作のメインの謎の真相が詐欺師の早業だとか被害者の悪夢による狂乱事だったとは…。
果たして本作の歴史的地位というのは一体何に起因するのだろうか?
誰か教えてくれ!

No.344 5点 流星たちの宴- 白川道 2008/09/15 22:57
バブル時代の相場師たちの物語。
この作者の過去の経験が多分に活かされている物語。
気障とも思える文体や登場人物にノレるかノレないかで評価が分かれる作品とも云える。
オイラは、最後の唐突の終わり方に、突然放り出された感じがして、悪印象。
延々作者のバブル時代の自慢話に付き合わされた感じがした。

No.343 7点 ガストン・ルルーの恐怖夜話- ガストン・ルルー 2008/09/14 13:45
正直云えば、歴史に残る名作とされている『黄色い部屋の謎』よりも数倍面白かった。
各短編共、それぞれ持ち味があり、個性豊かなのだが、好みで選ぶとすれば「金の斧」と「蝋人形館」の2編。
前者は結末が結構意外で現代ならば絶対に書けないオチだから。後者は、身震いするような蝋人形の描写と、皮肉なラストを賞して。

No.342 1点 黒衣婦人の香り- ガストン・ルルー 2008/09/12 20:09
疲れた…。
古典ミステリ独特のもったいぶった云い回しで、もう何が何だか解んなかった。
しかし、フランスミステリは一人二役、二人一役のトリックがよっぽど好きなのだろう。
ルパンシリーズもこの趣向は多いし。

しかしルルーの作品は前作、前々作に関わった人物、込められたエピソードが次作、次々作へと持ち越されるのが特徴のようだ。
推理小説という1作完結型の様式に人物又は挿話を以って一大相関図を描こうという狙いらしいのだが…。
私としてはご容赦願いたい。

No.341 6点 騎士の盃- カーター・ディクスン 2008/09/11 20:21
これはもしかしたらカー版“日常の謎”ミステリ?

本作の狙いは非常によく解る。こういう趣向は非常に好きだ。
ただこの密室の謎は現代人では解らんぞ!
それが非常に残念だ。

No.340 7点 赤い鎧戸のかげで- カーター・ディクスン 2008/09/10 13:59
なんとカーによる怪盗対名探偵物。
登場する怪盗はアイアン・チェストなる盗みの現場に鉄の箱を携えた盗賊という、いささか風変わりな怪盗。
この理由がなんともカーらしい。
恐らくこのトリックを思いついて、どうにか使いたいので、こういう怪盗を設定したというような作品なのだ。

でも終始作中で展開されるドタバタ喜劇といい、この陳腐なトリックといい、ある意味、実にカーらしさに溢れた1作である。

No.339 5点 魔女が笑う夜- カーター・ディクスン 2008/09/08 20:22
カー版コージー・ミステリとも云うべき、ストーク・ドルイドという小さな街で起こる小さな事件の物語。

で、本作の真相と云えば、いささか首を傾げざるを得ない。
肝心の動機が曖昧だからだ。
なぜ犯人は悪意のある手紙を出し続け、また密室状態でジェーンに深夜後家が逢いに行ったのかの理由が全く見えない。

HM卿の奥さんの名前が判明したのだけがマニア向けの収穫か。

No.338 6点 青ひげの花嫁- カーター・ディクスン 2008/09/07 13:57
この頃のカーのストーリーのアイデアは特筆物で今回もその例に洩れない。
新進気鋭の演出家の許に送られてきた匿名の脚本を契機に、俳優に田舎の町に行かせて、ロージャー・ビューリーなる殺人鬼になりすまして、殺人鬼の心理を摑ませようというのである。
で、こういう作品に例に洩れず、この俳優がまさか・・・という展開を見せ、ページを繰る手を止まらせない。

でもその後がなんか煩雑な感じだ。特に結末が通俗小説風になり、ガッカリだ。これもカーならではのサービス精神なのだろうが。

そして死体の隠し場所は誰もが考えつつも、小説としては使わないだろうというアイデアを使っているのがカーらしいね。

No.337 7点 青銅ランプの呪- カーター・ディクスン 2008/09/06 21:07
カーがエラリー・クイーンとミステリについて語り明かした末に行き着いた最高の謎、人間消失に挑んだのがこの作品。
失踪事件は2つ発生するが、第2の事件の犯人の意外性・動機ともに素晴らしい。
しかしメインの失踪事件の真相はいただけない。以下、大いに真相に触れる。

エジプトのミイラの呪いが無意味であることを証明するために敢えて自ら失踪して、数日後に現れてみせるという逆説めいた真相は面白いが、家政婦の下働きの娘に化けて、やり過ごしていたというのは多分私が日本人であるからそう思うのだろうが、やはり素直に首肯しづらいものがある。
確かに貴族と下民という階級格差の激しいイギリスでは確かにゲストは召使い達などに目を配りもしないだろう。
それは解るのだが、彼女をよく知る人物が常に屋敷にいて、それに気付かないというのは(しかもその男ファレルは彼女に心底惚れているのである)いささか現実味が無いように感じる。
例えば文中に、

「時々、目の端にヘレンの似た姿がよぎる。しかしそこに目を向けてみるといるのはこの屋敷の従業員ばかり。どうやら私も幻覚を見るまでになってしまったらしい」

などという一文でも入れていれば、なるほど流石はカー!と納得は出来るのだが。

いやあ、ちょっと勿体無い力作である。

No.336 7点 爬虫類館の殺人- カーター・ディクスン 2008/09/05 20:04
哀しいかな、このメイントリックは某藤原宰太郎の推理トリッククイズに問題の1つとして丸々ネタバレされていたわ。
あのシリーズってまだ本屋に売っているのか?
絶版である事を祈る!

題名は微妙に間違えている。厳密に云えば殺人が起きるのは館長の家であり、爬虫類館ではない。
原題の“He Wouldn’t Kill Patience”を訳す方が非常にマッチしているのだが、もうこの題名で有名になってしまったなぁ。

No.335 6点 仮面荘の怪事件- カーター・ディクスン 2008/09/04 20:17
泥棒の正体が館の主である事からすぐに盗難による保険詐欺という趣向が想起され、それが確かにミスリードとなっているのは、さすがはカー!といったところか。
しかし、前述のように真犯人の正体に関してはいささか際どすぎる。特に思うのは、死体が血にまみれるほどの出血をして、あれほど動き回れるだろうかという点だ。
確かに作中ではスポーツ万能の偉丈夫と描かれているが、胸を刺殺されて医者にもかからずにそのまま滞在し、あまつさえビリヤードなどにも興じているというのが納得できない。
また事件に一番最初に気付くのが真犯人であるというのはまだしも許せるが、深手を負って2階へ窓からロープでよじ登るというのも、ちょっと無理すぎないか?

しかしカーは読者サービス精神旺盛だね。HM卿がものすごいパフォーマンスを披露してくれてる。

No.334 7点 読者よ欺かるるなかれ- カーター・ディクスン 2008/09/03 13:42
作品の題名にこういう挑戦的な題名をつけていることからも作者の自信が窺えるが、そのとおりこの真相は解らなかった。
かなり奇抜なアイデアだが基本的にこういうの大好きなので、満足はした(麻耶雄嵩氏の諸作のようだ)。

本作では同一時間に離れた場所に出現し、殺人を犯すという趣向が盛り込まれてあるが、これが双子のトリックではないことは明言しておこう。
しかし双子ではないという真相を超えるものであるかは別問題で、それが私には逆に物足りなかった。

No.333 9点 ユダの窓- カーター・ディクスン 2008/09/02 22:54
HM卿が被告側弁護人として法廷に立ち、既に容疑者は逮捕されているという、シリーズの中でも異色な幕開け。
物語は終始法廷で展開するというのがまず面白い。
そして裁判が進むにつれて解けていく謎。
特に10章あたりからは謎が加速度的に解けていく。
確かにこれは傑作。
ただ唯一、「ユダの窓」の正体が私にはカタルシスをもたらさなかった。

No.332 5点 孔雀の羽根- カーター・ディクスン 2008/08/31 19:38
カーには珍しく「この章には、重要な記録が読者の前に提供される」なんて付いており、しかも最終章に至っては32もの手掛かりについてそれぞれが文中で表現されているページ数まで記載されている。
つまりこれはカー版読者への挑戦状だったわけだ。
でもこれは解けんぜよ(←どこの方言?)

本作も事件の発端に無理を感じ、まさにトリックのために作られた設定という不自然さがある(独身の若い男性が遺言状なんて書くだろうか?)。

あとサプライズで乱歩の某有名短編と同様の趣向があるのには笑った。やっぱあの2人は似た者同士だったのか。

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