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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1601件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.24 6点 三つの棺- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/16 22:30
カーの傑作として名高い本書だが、オイラとしては微妙な読後感だった。
まず真相があまりに突飛過ぎて、その離れ技の凄さに信じられない思いが今もしている。再読の要ありだ。
とはいえ、やはり2つの殺人、特に第2の殺人はかなり危ういバランスで成り立っているといわざるを得ない。
なんとも凄い偶然ではないだろうか?
実にきわどい。

そして本作でもカーは作品の外側ですら読者にミスディレクションを行っている。
ネタバレになるので伏せるが、これが実に有効に働いているのだ。

しかし密室講義には笑った。特にフェル博士の爆弾発言が。

No.23 5点 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/15 22:55
カーのデビュー作ですが、もうこの頃からカーだ。
怪奇・オカルト趣味に溢れている。
野心溢れる作品だが、やはり若書きの荒さが目立つし、なにしろ文章が読みにくい(訳者の筆にも寄るのだろうけど)。
そしてあの最後のサプライズをどう受取るかで評価も分かれるだろう。
私はカーをある程度読んだ後に本作を読んだので、まあカーらしいんじゃない?と思ったが。

No.22 9点 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/14 17:19
カーの作品で何から最初に読もうかと人に面白い本を訊いてみると、恐らくいくつか挙げられる作品の中にこの作品が挙げられると思う。
その時点で読んでも、確かに面白いが、本作はやはりいくつかカーを読んだ後で読む方が断然面白い。
この作品は怪奇・オカルト趣向の本格ミステリを書くカーがこういう作品を書いたという事に最大の驚きがあるからだ。
しかし本作はカーらしからぬ、実に細やかな構成が成されており、後で読んでみても、本格ミステリともホラー両方とも読めるのだ。
で、逆にカーはそれがために多少強引な解釈も入れており、しかも全てを合理的に解決するわけでなく、あえて曖昧に残している記述も見られる。
逆にこれが最後のサプライズに説得力を持たせてくれるわけだ。

ポーを開祖とする本格ミステリ、つまり今まで怪奇現象だと思われていた不可解な出来事が、最後に実に論理的に解明される小説を敢えて本格ミステリの意匠をまとって、再び怪奇の世界に戻すカーのこの傑作はポーに対する敬意を表した返歌であるのかもしれない。

No.21 1点 死の館の謎- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/11 22:34
大味だ、あまりにも大味だ。
作品の構築したトリックが単なる研究成果の発表会と化し、全くの自己満足となっている。

“老いてなお、最新の知識を導入し、斬新な試みに挑む”
とでも云いたかったのだろうか?
しかし、なおざりにされた登場人物の多い事!

No.20 6点 不可能犯罪捜査課- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/10 14:35
収録作10編中、6編がタイトルともなっているスコットランド・ヤードの不可能犯罪捜査課マーチ大佐を主人公にした連作短編集。
このマーチ大佐は基本的に本作でのみ探偵役を務め、他の作品では『剣の八』でもお目見えするが、その作品では他に出てくる探偵達の中に埋没してしまっている。

基本的に、カー特有のガジェット溢れたストーリーテリングと後期カーに見られる歴史を扱ったミステリ短編で構成されているが、ネタ的には小粒。穿った見方をすれば、ネタの小粒さをおどろおどろしい語り口や視点を描ける事で、ごてごてしく飾り立てて、隠そうとしているようにもとれる。

「空中の足跡」は推理クイズでよく取り上げられる足跡トリックだし、「ホット・マネー」の真相には「えっ、それだけ?」と呆気に取られる。
個人的には「銀色のカーテン」、「もう一人の絞殺吏」と「目に見えぬ凶器」が印象に残った。

No.19 10点 ビロードの悪魔- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/09 23:00
今まで読んだカー作品を全て振り返ってみると、この作品が1番面白かったのかもしれない。
カーの歴史ミステリで最初に触れたのが本作。当時山口雅也氏のリクエストで復刊された作品だった。

悪魔に魂を売って17世紀のロンドンにタイムスリップした歴史学教授のニコラス・フェントン氏が、同姓同名の貴族に乗り移り、史上では毒殺された妻の犯人を探るという物。

この最初の設定の突飛さを無理なく受け入れれば、もうそこには目くるめく物語世界が待っている。
一番印象に残っているのは活劇シーン。邸を襲ってくる暴徒どもを迎え撃つ剣戟シーンの迫真性はカーのストーリーテラーぶりが横溢している。

そして最後に驚嘆の真相!これは多分納得の行かない人もいるかもしれないが、よく読み返すとカーがかなり計算高くこの設定を編み出しているのが判る。

アクションに加え、当時の歴史風俗、そして男たちの友情に、サプライズエンディングと、エンタテインメントの醍醐味が詰まった1冊だ。

No.18 4点 盲目の理髪師- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/07 17:49
大西洋を航行する豪華客船上で起こる事件をフェル博士が安楽椅子探偵で解き明かす本作は、カー随一のスラップスティックコメディミステリとして知られている。
こういうドタバタ劇は作者のギャグや悪ふざけを愉しめるか否かにかかっているが、オイラはどうもダメだった。
カーがやりたかったのは一連のドタバタ劇が実はミスディレクションであり、シンプルな事件を複雑に見せるということだろうが、このドタバタ劇のアクが強すぎて、結局、何がやりたかったのだろうという読後感になってしまっている。
まあ、カーもまだ若かったんだろうね。

No.17 8点 緑のカプセルの謎- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/07 00:49
カー自ら「心理学的推理小説」と銘打った異色の作品。
『皇帝のかぎ煙草入れ』の感想でも書いたが、カーの持論“Seeing is deceiving(目は嘘をつく)”を直球ど真ん中でテーマにした作品。
毒殺というテーマと何度も繰り返される推理のトライアル&エラーからアントニー・バークリーの傑作『毒入りチョコレート事件』へのオマージュだと思うが、明からさま過ぎるのがカーらしい。

それだけに留まれず、なんといってもマーカスが仕掛けた観察実験とそれに関する質問に対する各人の見間違いの指摘がす語ぶる面白い。
文章でしか語られないのに、映像として目に浮かび、しかもそれが錯誤するように実に巧妙に仕掛けられているのが、明解に解るのだ。
これだけでも御飯3杯はイケル!(嘘です)

No.16 5点 連続殺人事件- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/05 20:23
なんとも素っ気無い題名だが、原題は“The Case Of The Constant Suicides”で正確に訳せば『連続自殺事件』となる。
つまり本書では自殺と思われる事件が連続して起こり、それが自殺なのか他殺なのかをフェル博士が解き明かすという趣向。

で、本作は作者カーが大きな勘違いをして、第1の事件の殺人方法は成り立たないと云われている。
まあ、叙述の状況から推測しても、確かにこれはありえないと思う。
でもそれがカーらしいかなぁと思っちゃったりもする。

No.15 10点 皇帝のかぎ煙草入れ- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/03 00:58
カーのケレン味が好きな人は物足りなさを感じるほど、珍しく読みやすい作品だが、実はこの作品ではかなり高度なテクニックが多用されている。
まずこの題名からして、既にミスディレクションとなっているのだ。
あまり詳しい事を書くと興が削がれるので止めておくが、一度読了してから、改めてこの題名に留意してもらいたい。

そして本作の意外な犯人。これについてもかなり高度なミスディレクションが成されており、読者は絶対に犯人を見抜けることが出来ないよう、巧みに作者によって誘導されてしまう。

とにかく整然としすぎて、熱烈なカーファンであればあるほど、この作品を高く評価しないきらいがあるのだが、私は本作はカーのベスト5に選ぶほど好きである。

"Seeing is believing"ならぬ"Seeing is deceiving"のシチュエーションを好んで使ったカーだが、本作はその中でも最高のミスディレクションの蓄積で成り立っている傑作である。

No.14 7点 魔女の隠れ家- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/01 21:47
フェル博士初登場の記念すべきシリーズ1作。
“魔女の隠れ家”と呼ばれる古い監獄跡を先祖代々受け継いでいるスタバース一家は長男が25歳の誕生日になると、たった一人で監獄の長官室で1時間過ごし、そこに置いてある金庫の中に仕舞われている文書を取り出してこなければならない義務があった、などという安手の肝試しゲームにも似た、無駄におどろおどろしい設定が実にカーらしい。
そしてその一家には代々首の骨を折って死ぬという呪われた歴史があったと、畳み掛け、その通りの事件が起きちゃうというわけ。

限られた空間の中で限られた登場人物の中で繰り広げられる不可能犯罪は納得の行く推理で解かれる。
1作目にしては上出来といった佳作。

No.13 4点 雷鳴の中でも- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/30 17:38
シンプルな内容に17年前の事件を絡め、さらにナチスの影も絡ませてと、ガジェットに今回も凝っているが、内容的にはなんともメリハリがなく、退屈この上なかった。
読むのに疲れた上に、カタルシスもなく、正にコレクターズ・アイテム。

No.12 4点 髑髏城- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/30 00:57
確かに犯人は解らなかった。
カー特有の怪奇趣味が横溢してもいる。
秘密の通路も今回は多めに見よう。
が、しかしそれら全てをもってしても、こちらの知的好奇心をそそらなかった。

メイルジャア失踪のトリックの真相は荒唐無稽すぎる。
××は万能じゃないんだぜ。

No.11 7点 喉切り隊長- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/28 22:19
本作はカーのもう1つの貌とも云うべき、歴史ミステリの好編である。

文庫背表紙の梗概には音もなく忍び寄っては兵士を一突きに殺害する通称「喉切り隊長」の正体とは?といった本格ミステリ色豊かに表現されていたためてっきり犯人捜しが主眼だと思われたが、ところが寧ろそっちの方は物語としてはサブ・ストーリーとして流れていき、主眼はアラン・ヘッバーンのフランスにおける諜報活動にあった。
このアランの諜報活動のスリルは『ビロードの悪魔』を髣髴させる出色の出来。

本来ならば8点の評価を与えたいのだが、「喉切り隊長」の正体が強引過ぎる(と思われる)点と、結局「喉切り隊長」の殺害方法の不思議さについてなんら解明がされていない点の2点において1点減点とした。

No.10 3点 剣の八- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/25 22:27
カー作品の中でも、あまりいい評判を聞かない作品で、確かに正直何をやりたかったのか、よく解らない。
実は、フェル博士物でありながら、終わってみれば本格ミステリでないというのが最大の特徴だろうか。

しかも本作ではフェル博士以外にも、『不可能犯罪捜査課』のマーチ大佐というもう1人の名探偵も出演しつつ、さらにヒュー・ドノヴァン・シニアという元犯罪研究家、その息子の大学で犯罪学を専攻している刑事の卵、それに加え、スタンディッシュ大佐の出版社お抱えの推理小説作家ヘンリー・モーガンという、まさに探偵のオンパレードなのだ(とくにヘンリー・モーガンのイニシャルがH. Mというのがまた面白い)。
なのに、本格ではないという実に奇妙な作品。

結局やりたかったのは、「船頭多けりゃ、船、山へ登る」っていう趣向だったのかしら?

No.9 4点 アラビアンナイトの殺人- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/24 22:25
1つの事件について、三者三様の証言があり、そのどれもが微妙に違っている。その相矛盾した内容を基にフェル博士が真相を突き止めるという趣向だが、いかんせん長すぎ!
また事件がさほど魅力的でないのもあって、つまらない話を三度も聞かされる苦痛すら感じてしまった。
題名のアラビアンナイトは大して意味がなく、事件の舞台となる博物館にアラビアからの骨董品が展示されており、凶器がアラビア風の短剣であったことに由来する。
あっ、もしかしてこれはカー版国名シリーズ!?

No.8 2点 囁く影- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/23 22:34
いやあ、結局、この物語で語りたかった事は何なのか、よく解らなかった。
不可能状況、不可解状況を作り出すためにわざわざ登場人物達を歪曲したような感が強く、興醒めした。
吸血鬼云々の件も、強引に怪奇色を出しているような、取って付けた感が強いし・・・。
物語に牽引力があれば、もっと面白く読めたのだろうけど。

No.7 8点 帽子収集狂事件- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/21 23:27
これはひたすらその突拍子の無さに驚愕した作品。
当時ミステリ初心者だった私は、フェル博士が導いた真相に唖然とした。
こんなこと考えるのは、カー、ホンマ、アンタしかおらんわ!
バカミスともいうべき作品だが、こういうケレン味が読後十数年経っても、妙な味わいを残させる。

しかし原題は“The Mad Hatter Mystery”。これはクイーンの『Yの悲劇』と何か関係があるのだろうか?

No.6 9点 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/20 22:28
カー作品でベスト3を選べと云われたら私は躊躇なくこの作品を選ぶだろう。
本作はカーのケレン味がふんだんに盛り込まれており、しかも驚愕の結末を迎えるという傑作だ。

とにかく導入部も素晴らしい。
イギリスの貴族の許に現れた1人の男。その男こそ、実はこの貴族の正統なる後継者であるというのだ。そして彼の語るタイタニック号沈没にまつわる人物入替り劇の話など、物語性にも富んでいる。

そして本作では「開かれた密室での殺人」とも云うべき、貴族の邸の庭で衆人環視の下、殺人が行われるのだが、この真相が想像するだにおぞましい驚愕の内容。
はっきり云って、この謎を解ける人はいないだろう。
中にはバカバカしくて唖然とする人もいるかもしれない(いや、ほとんどがそうかも?)
しかし私はこの真相をヴィジュアル的に想像した時になんともいえないおぞましさを感じ、読後しばし呆然とした。

好きな人は好きだし、隠れた傑作とも云われる作品だ。

No.5 5点 死時計- ジョン・ディクスン・カー 2008/11/18 23:01
本作はカーの語り口がスムースでなく、正直きちんと整理されているような印象はない。従って読書中、頭の中に霧が立ち込めたまま、終わりまで来てしまった、そんな感じがした。
事件自体もこじんまりとしており、佳作。


以下ちくっとネタバレ。

ただ、この作品はやはりアンフェアだと思う。
一番冒頭で探偵自身で語られている、ほぼ証言に近い内容が後半になって覆され、それがそのまま犯人に繋がるのだから。

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