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sophiaさん
平均点: 6.92点 書評数: 384件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.264 8点 蟬かえる - 櫻田智也 2021/01/18 17:08
●蝉かえる 9点・・・モチーフは2016年の熊本地震ですかね。
●コマチグモ 7点・・・よく出来た時系列パズル。
●彼方の甲虫 8点・・・架空の宗教の設定が上手い。
●ホタル計画 8点・・・そいつの方ですか(笑)
●サブサハラの蠅 7点・・・メイントリックはそう目新しいものではないですけども。

前作を超える粒ぞろいの作品群。表題作は殊に抜きん出ています。土地の信仰や風習、災害ボランティア活動の在り方など様々な要素が絡み合って謎を作り、ドラマを作っています。他四作も良かったのですが、最初の話が良すぎたというのはあるかもしれません。亜愛一郎とは違い魞沢には自我の描写が増えてきましたが、今後このシリーズをどう展開させていくのか楽しみです。

No.263 7点 サーチライトと誘蛾灯- 櫻田智也 2021/01/11 02:10
●サーチライトと誘蛾灯 6点
●ホバリング・バタフライ 7点
●ナナフシの夜 6点
●火事と標本 6点
●アドベントの繭 7点

泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズへのオマージュの念は否が応でも伝わってきます。神出鬼没のとぼけた探偵のキャラ造形、随所に軽妙なユーモアを交えているのも同じです。そんな中で事件と虫を毎回絡めているのは著者ならではのプラスαです。ミステリーとしての出来はどの話も大差ないのですが、そのプラスαでしみじみとした読後感の作品群に仕上がっています。特に「ホバリング・バタフライ」と「アドベントの繭」の2編が気に入りました。この分なら「蝉かえる」にも期待できそうです。

No.262 7点 アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿- 澤村伊智 2021/01/06 17:55
全7話から成る連作短編集。初めの5話はあまり面白くありませんし、鬱陶しい喋り方のキャラにも苛つかせられますが、途中で投げ出してはいけません。この作品はラスト2話のための作品であり、途中のエピソードを伏線として使うという、連作短編集の見本のような作りです。終わりよければ全てよしで1点プラスしておきます。しかしこれジャンルは何でしょう。ホラーっぽい雰囲気はありますが、日常の謎でしょうか。

No.261 8点 揺籠のアディポクル- 市川憂人 2020/12/08 19:07
事件を契機に隔離病棟の主人公が動き始め、外界を知ることで真実が明らかになる構成です。引き込まれます。M・ナイト・シャマラン監督の映画のようです。殺人事件の真相は読者が色々考える内の一つでしょう。何せ登場人物が四人しかいませんから。しかしこの作品の肝は犯人当てではありません。嵐のせいで何が起こったのか、そのせいで登場人物の運命がどう変わったのか、そして何を考えたのかです。初めは9点ぐらい付けようかと思ったのですが、マイナス1点したのは、主人公の××××がちょっと都合よすぎるかなと思ったからです。それでも退廃的な世界観においてのラストは切なく美しいです。美しすぎました。

No.260 7点 この本を盗む者は- 深緑野分 2020/11/30 17:36
相変わらずの描写の細かさの上、今回はファンタジーなので、斜め読みの技術と想像力が要求されるというなかなか難しいことになっています。何でもありの魔術世界で、なぜそうなるのかなどは深く考えずに雰囲気を味わうというのがこの作品の正しい楽しみ方なのかなと思います。そうです、これは「千と千尋の神隠し」です。真白の役割や正体はハクに通じるものがありますしね。正直に言って一つ一つのエピソードはそう面白いものではないので、この作品に対する評価は全体の骨組みに対するものになり、特に最後に明かされるブック・カースの正体に驚けるかどうかに懸かってくると思います。作者本人の弁の通り自由すぎる作品なので、ミステリーとしての評価はそれ程でもありませんが、読後感のいい作品でした。でも、本嫌いの人にはあまり読ませない方がいいかもしれません(笑)

No.259 6点 汚れた手をそこで拭かない- 芦沢央 2020/11/07 23:06
●ただ、運が悪かっただけ 5点
●埋め合わせ 7点
●忘却 6点
●お蔵入り 6点
●ミモザ 4点

各短編の核になるアイディアは悪くないのですが(最終話を除く)、ストーリー運びが淡泊ですし、真相が分かってからのオチがいまいちです。同じようなことは「許されようとは思いません」でも感じました。ただ、この方の作風は好きなのでもう一皮剥けることを期待します。

No.258 8点 闇に香る嘘- 下村敦史 2020/11/01 21:45
「中国残留孤児」「視覚障害者」「腎移植」という三つの社会的テーマを組み合わせていくつもの謎を作り出し、一つの壮大なミステリーに仕立て上げています。伏線を逐一記録して整理していかないと頭の中がハテナマークだらけになること必至の複雑な話です。読み返してみると成程、出自の部分の語りは完全に省いてあります。これは読者に対して公正を期すためだと考えられますが、本人はそう認識していたという体で語らせておいてもよかったのではないかと思いました。あとは満州で戦死した(?)父親のことにもっと触れてあげて欲しかったことと、夏帆が八歳には思えなかったので年齢設定を上げて欲しかったことを記しておきます。

No.257 5点 真夜中のたずねびと- 恒川光太郎 2020/10/23 00:36
どの話も途中までは面白いのですが着地がいまいちです。現実的なサスペンスを描きたいのか、死者が蠢くようなホラーを描きたいのか、どっち付かずになってしまっています。どの話もあまり印象に残りませんし、各タイトルも的を射てはいません。この方はファンタジー色が強い作品じゃないと本領が発揮されないように思います。

No.256 6点 僕の神さま- 芦沢央 2020/10/18 18:33
小学生版の「本と鍵の季節」といったところですが、この二人がなぜ仲が良いのかあまり分からないです。目玉エピソード「夏の「自由」研究」は論理の飛躍が気になりました。

No.255 9点 マツリカ・マトリョシカ- 相沢沙呼 2020/10/11 21:12
各人の推理が次々に披露される現代の密室談義が面白く、近年になくほぼ一気読みしてしまいました。この作品は犯人も動機もほぼオープンにされているようなものですが、密室トリックが皆目見当が付かないというものです。真相は一度ボツになった推理の応用になっているというのが実に高度でした。
ちなみにこの作品は前二作を読んでから読むのがお勧めです。シリーズのレギュラーメンバーみんなに見せ場があり、どうも物足りなかった前二作でコツコツと積み上げたものは全てこの作品の為のものだったのだと思わされました。特に主人公の成長が嬉しいです。

No.254 6点 マツリカ・マハリタ- 相沢沙呼 2020/10/06 23:53
全編通してのテーマであり、最後に明らかになる「一年生のりかこさん」の怪談および松本梨香子の正体の切れ味がどうもよくありません。情報を錯綜させすぎたせいでしょうか、年表でも作らないと事のあらましが掴みにくいかもしれません。初めの2話の時点では前作を超えたかと思いましたが、結局同じくらいの評価になりました。

No.253 6点 マツリカ・マジョルカ- 相沢沙呼 2020/09/18 00:21
ミステリー小説としては中身が薄いです。そもそも扱う事件自体が「こんな事件があったんじゃないか」という推測に基づくものが多く、実体が見えにくいので読み応えに乏しいです。あまり事件に関係のない叙情的な描写も多いですしね。それでも最終話のサプライズで幾分取り返したかと思いましたが、伏線となった彼女との思い出部分を読み返してみると、フェアとはちょっと言い難い気がします。怪談が事件につながったのは1話目だけですね。3話目のゴキブリ男は少しは事件に絡めてほしかったです。ただ全体としてこういう緩い作品も箸休めとしてはいいのかなと思ったりもします。6点が付けづらい流れですが、まあ5点に近い6点ということで(笑)

No.252 7点 罪人の選択- 貴志祐介 2020/09/11 23:44
●夜の記憶 4点・・・習作にもほどがある。
●呪文 6点・・・竜頭蛇尾。「Nintendo」には笑いました。
●罪人の選択 8点・・・二段構えのデスゲーム。さすがは表題作。面白い。
●赤い雨 8点・・・今の世相にマッチしたパンデミックもの(?)サスペンスとしても一級品。後半法廷ミステリになっちゃいましたが。

著者の短編集は初めて読みました。後半2つがよかったです。「夜の記憶」は加筆修正した方がよかったのではないかと思いますが、本格デビュー前の作品とのことで、そのまま載せることに意義があったのですかね。それと関係ありませんが、著者の作品の主人公は本当によくセックスをしますよね(笑)

No.251 5点 火のないところに煙は- 芦沢央 2020/09/04 23:59
連作短編ですが、消化不良の話が多くてやきもきしますし、かと言って最後に1話1話に立ち戻って保留した謎を鮮やかに解き明かしてくれるわけでもありません。がっかりです。1話単位で少しでも面白いと思えたのは「誰かの怪異」ぐらいでしょうか。

No.250 5点 透明人間は密室に潜む- 阿津川辰海 2020/08/29 15:12
ネタバレあり

●透明人間は密室に潜む 6点
マンションの伏線は良かったと思いますが、やはりこれは無理があるでしょう。顔かたちや声は何とか誤魔化せても、会話を乗り切れない。そして探偵が許せない。殺人を阻止することもできたのに泳がせたことは倫理にもとる。そんな人物に最後犯人を説教する資格はありません。
●六人の熱狂する日本人 4点
これはつまらない。「虹の色」と言うなら全メンバーの色をちゃんと提示してほしい。アイドルオタクたちがなぜ当のアイドルを犯人に仕立てようとして盛り上がるのかが分からない。証言台に立つところを間近で見たいから?そんな馬鹿な。悪乗りが過ぎて、読むのがきつかった。
●盗聴された殺人 5点
何の音なのかという謎にあまり興味が持てない。調査対象者が調査員と、という設定は都合よすぎないですか?過去を振り返る構成にする必要もあまりない気がします。
●第13号船室からの脱出 5点
ライアーゲーム?ひねりすぎでよく分からない。再読して理解しようという気にもなれない。

総評
「紅蓮館の殺人」の高評価も考え直したくなるぐらいの出来。短編は向いていないのでしょうか。若くして頭角を現した作家さんですが、正直言ってまだ粗さが目立ちます。不自然なところを不自然ではなく感じさせる技術が欲しい。

No.249 8点 女王国の城- 有栖川有栖 2020/08/17 17:03
これも本来もっと早く読んでいないといけない作品でしたが、諸事情により今更になって読了しました。前三作はだいぶ昔に読んでいます。隠された拳銃の論理はとても面白いのですが、動機面が思っていたよりも雑でしたかねえ。十一年前の事件も含めて、被害者間のミッシングリンクがもう少し何かあるのかなと思っていたんですけど。それと時折マリア視点になるのには特に意味はなかったようで、これは「双頭の悪魔」の名残ですかね。しかしやはりEMCメンバーの絡みは面白い。前三作も読み返したくなりました。三作とも持っていたのになぜ売ってしまったのだろう。

以下ネタバレ

ニシさんへ

マリアがイヤリングの片方を落としたのは、千鶴が穴に入る前ではないですか?

No.248 5点 失はれる物語- 乙一 2020/08/09 19:18
プロットは悪くないのですが、何でそういう風にするのかなと思うところが多いです。「手を握る泥棒の物語」はオチがもったいない。「得意げな表情」と書いてしまわない方が良かった。「失はれる物語」はタイトルを歴史的仮名遣いにした意図が分かりませんし、「しあわせは子猫のかたち」は子猫を殺す必要性がありません。「マリアの指」はマリアの家や大学から近い等々力陸橋の方を選ぶのが自然だと思うのですが。
あと全体を通して思うのはやはり文章の拙さです。氏の作品を読むのは十数年ぶりですが、こんなに下手だったっけと感じました。赤ペンを入れたくなるレベルで、気になってなかなかテンポよく読み進められませんでした。アラフォーの現在、少しは上達されていることを願いますが。

No.247 8点 そして誰もいなくなる- 今邑彩 2020/07/18 21:30
「卍の殺人」と同じく海外古典名作(今回は伏せる必要はなさそうですが)の本歌取りに挑戦した作品ですが、これも成功でしょう。元ネタの作品のようにクローズドサークルでもないのに部員10人も殺せるのかと思いきや、連続殺人の軸を途中でずらす手法が実に巧み。クライマックスの犯人との直接対決に入るのが残りページ数からすると早すぎるのではないかという心配もしましたが、その後にもうひとひねりが待っていました。あとがきを読むと、この方の本歌取りの手法に否定的な向きもあるようですが、これは胸を張っていい傑作であると感じました。

以下ネタバレ

測量ボーイさんへ

○○役の人物が死んだと思わせてやはり生きていたこと、最後にやはり署名付きの手紙を残して消えること、だと思います。

No.246 7点 金雀枝荘の殺人- 今邑彩 2020/07/12 17:16
あらすじを読むと大変ミステリアスで面白そうなこの作品。実際に読み始めても、不可解な惨劇のあった館で推理合戦を繰り広げるという設定に引き込まれページが進むのですが、終盤になると趣がガラリと変わり、犯人が手当たり次第に人を襲い始める展開になります。期待していたような綿密に練られた殺人劇ではなかったことで一時落胆しましたが、後日談の最終章で物語が上手くまとめられており、評価がV字回復しました。この作品の肝はハウダニットではなくホワイダニットだったのだと納得しました。ただ、先にも述べた通り犯人が終盤に豹変しすぎなので、あの人物が犯人だったという現実感は薄いです。また、隠された血縁関係は読者にはなかなか分からないので、伏線がもう少しあるとよかったです。後は霊感少女の能力をもうちょっと活かして欲しかったと思います。

No.245 8点 紅蓮館の殺人- 阿津川辰海 2020/07/04 20:04
「紅蓮館の殺人」というよりも「吊り天井の館の殺人」という感じです。絵の論理、額の論理が細かくて通好みでしょう。人物関係等でちょっと偶然が過ぎるのが難点ではあります。犯人の意外性はあまりありません。ラストは苦く切ないです。

以下ネタバレ

葛城が死体に振りまかれた消臭剤に気付いた描写がないように思われるのですが、必要ありませんかね?見落としかと思って必死に探してるんですが見つかりません。序盤につばさのフルネームを何気なくはっきりと書いちゃうところがこの作者の度胸があるところですね。何の引っ掛かりも感じず流しちゃいましたよ。新旧名探偵対決は痛み分けといったところですが、シリーズ化もありそうな、そしてなさそうな終わり方でした。最後に、この作品のあの展開はどうしても西澤保彦の某山荘ものが頭をよぎりますね(笑)読後にいっぱい語りたくなった作品でした。

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sophiaさん
ひとこと
世評の高い物を中心に読んでいっています。採点に際してはストーリー性や読み易さも重視します。ジグソーパズルのような複雑な作品やオチのない話、リドル・ストーリーは苦手です。
好きな作家
最近だと米澤穂信 今村昌弘 方丈貴恵 知念実希人あたりを好みます
採点傾向
平均点: 6.92点   採点数: 384件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(31)
米澤穂信(16)
道尾秀介(14)
伊坂幸太郎(13)
綾辻行人(13)
島田荘司(12)
倉知淳(10)
泡坂妻夫(9)
恒川光太郎(9)
アガサ・クリスティー(9)