皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ぷちレコードさん |
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平均点: 6.31点 | 書評数: 252件 |
No.152 | 7点 | invert 城塚翡翠倒叙集- 相沢沙呼 | 2023/03/30 22:27 |
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タイトル通り、犯人の視点から語られる3つの中編が収められている。緻密な計画で完全犯罪を狙った殺人者たち。事故や自殺として片づけられるはずが、霊能力を持つという奇妙な美女・ 城塚翡翠の登場によって事態は変わる。彼女はなぜか自分を犯人と見抜いて追い詰めようとするのだ。 城塚翡翠という特異なキャラクターもさることながら、犯人と対決し追い詰める過程のひりひりする緊張が忘れがたい。探偵と犯人の頭脳戦も、なぜ犯人が疑われるに至ったかの謎解きも、緻密な論理の快楽を堪能できる。
犯人を追い詰めるロジックと仕掛けは、時には読者も欺いてみせる。読み終わった途端に、表紙に戻ってみたくなる一冊。 |
No.151 | 8点 | 兇人邸の殺人- 今村昌弘 | 2023/03/30 22:19 |
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デビュー作同様、本作でも閉鎖環境への考察が新鮮で、なおかつ行き届いている。営業中のテーマパークの一角にありつつも、そこだけは来園者の立ち入りが禁じられた兇人邸の特殊性が登場人物たちに強烈な焦燥感をもたらすし、読者にはサスペンスを与える。また、それが登場人物の思考の筋道にも影響を与え、事件の構造にも関わってくる造りも見事。
さらに密閉環境における事件解明のためのロジックが丁寧に作られている点にも好感を抱く。最終的に意外性に富んだ真相が明らかにされると同時に、犯人の悲哀も明らかになって胸を打つ。 |
No.150 | 7点 | 朽ちゆく庭- 伊岡瞬 | 2023/03/16 22:51 |
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中堅ゼネコン勤務の父は会社内でトラブルを抱え、税理士事務所に勤める母は上司と不倫関係をもち、不登校の中学生の息子は、近所の訳ありの少女と言葉を交わすようになり、やがて殺人事件が起きて世界は暗転する。
おぞましいまでの秘密の暴露がもつ切迫感、逃げ道のない閉塞感などは十二分にイヤミス的な救いのなさをもつ。見た目とは異なる真相を二重三重にして驚かせて予想外の結末へともっていく。そこには満足感と、もっと読みたくなる醜くも深い真実がある。 |
No.149 | 6点 | écriture 新人作家・杉浦李奈の推論Ⅴ 信頼できない語り手- 松岡圭祐 | 2023/03/16 22:44 |
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東京都内のホテルで起きた大規模な火災により、作家と編集者たち計218人が亡くなった事件を追求する。
明快な謎解きも面白いが、慣れない探偵役をこなし、文学的問題に直面しながら成長していく23歳の女性作家の成長小説の部分に引き付けられる。「架空の物語を通じ、現実的に人を描くとは」何か、「理想に生命を与えるすべは」妄想ばかりでなく、自らの行動と実践にある。「真に人を知ればこそ、文学で人を表現する意義が生じうる」といたるところで真摯に事件と人生と文学に向き合い、気づきを得る。物語に厚みのあるシリーズだ。 |
No.148 | 5点 | 氷の致死量- 櫛木理宇 | 2023/02/26 22:21 |
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アセクシャル(何者にも性的関心を持たない)の新任女性教師が、学園で起きた14年前の女性教師殺人事件の核心に迫る物語。
連続殺人鬼を絡ませて性、毒親、宗教など時代の精神をつくり上げるものを掘り起こしている。特にアセクシャルに焦点を合わせ、生と性の営みに関する見方を根底から覆して新鮮な印象を与える。 暴力的で殺伐としているが、どんでん返しが効果的に決まっている。かなりグロテスクな描写があるので、読者を選ぶ作品といえるでしょう。 |
No.147 | 5点 | 油絵は謎をささやく- 翔田寛 | 2023/02/26 22:15 |
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日本文化史の准教授・小宮香織が教え子の実家にある絵の鑑定を依頼される。明治期を代表する洋画家・高橋由一が描いたとされる「隧道図」は、真筆の可能性があるものの地元の専門家から贋作と否定された。詳しく調べていくと、当時不可解な失踪事件などが起きたことがわかってくる。
本物か偽物かという視点だけでなく、油絵が封印している当時の時代背景を丹念にたどり、さらに新たに起きる殺人事件の謎を追っていく。現代と明治の二つのパートを並行させて捜査活動を描きつつ、謎の核心へと至り関係者一同の前で小宮山がすべてを解き明かす。 事件の真相はやや作りすぎのきらいがあるが、それでも明治史、美術史、真贋鑑定などの専門的な情報を巧みに盛り込んで読み応えがある。 |
No.146 | 6点 | 転生の魔- 笠井潔 | 2023/02/11 22:29 |
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2015年、動画共有サイトで安保法案デモを見ていた山科三奈子は、群衆の中に43年前に姿を消した友人のジンと瓜二つの女がいることに気づき、その捜索を飛鳥井に依頼する。
70年代に青春時代を送った若者が現代の日本の闇を体現する存在になるプロセスには、戦後史を問い直す視点がある。何より、探偵も依頼者も還暦を過ぎ心身の衰えと病気に苦しみながらも過去と向き合い、奇怪な謎を解こうとする展開そのものが、少子高齢化が進む日本の戯画に思えた。 さらに作中では、政治に無関心な日本人が増えた理由、左翼過激派とイスラム原理主義の接点といった社会思想も議論されていく。本書は、これまでの問題意識を小説で表現した到達点なのである。 |
No.145 | 6点 | 少女を殺す100の方法- 白井智之 | 2023/02/11 22:22 |
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タイトルに偽りなく二十数人の少女が惨殺される5作品が収録されている。私立の女子中で1クラス全員が射殺され、執拗に顔をつぶされる「少女教室」は、現場の状況から丹念に推理を積み重ねて真相を導き出す終盤が圧巻。巨大なミキサーに入れられた少女たちが、脱出の方法を模索する「少女ミキサー」、金持ちに斡旋され、商品価値がなくなると殺される少女の死体処理をしている男を主人公にした「少女ビデオ公開版」は、着地点が見えない展開も、周到な伏線から浮かび上がるどんでん返しも鮮やか。
人間の尊厳が奪われた本書の少女たちは、紛争地域で無慈悲に殺されたり、大人の食い物になったりしている現実の少女と重なる。残酷な描写は深いテーマ秘めているのである。 |
No.144 | 6点 | 裁判員法廷- 芦辺拓 | 2023/01/28 22:16 |
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裁判員制度が導入されたある日。読者である「あなた」はある事件の裁判員に任命され、法廷に座っている。あなたはあなたの責任において、あなたの目の前にいる被告が有罪か無罪か、また刑の量定までをも判断しなければならない。
読者まで参加させる実験小説の趣があるとはいえ、中編三作の連作による法廷推理という構成は、やや地味かもしれない。しかし、連作という形式や、シミュレーション小説という形式そのものを逆手にとって、最後に驚きの仕掛けが用意されている。 ノスタルジックな雰囲気で、主人公をはじめとする登場人物たちが、みな正義を信じ法を順守し、奇怪な謎の裏に隠された真実を追い求めようとする姿勢を崩さない。異常者ばかり登場させるのに、いささか辟易していたミステリファンにおすすめ。 |
No.143 | 6点 | 毒よりもなお- 森晶麿 | 2023/01/28 22:10 |
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連続殺人犯は最初に明かされる。自殺サイトの管理人「首絞めのヒロ」ことヒロアキ。親に虐待を受け続けてきたヒロアキの心は「がらんどう」で、醜悪な感情しか詰まっていない。八年前に知り合っていたカウンセラーの美谷千尋は、殺人に手を染めていくヒロアキを救おうと手を尽くす。
ところが、最終盤に全てを覆す衝撃の展開が待っている。端役と思っていた人物が前面に出てきて驚きの告白をするのだ。張り巡らされた伏線が収斂していくのだが、読んでいて時空がゆがむような感覚に襲われた。 作中にある「狂気はそんな遠い場所にあるわけではない」という千尋の思いとも響き合い、今という時代の一断面を突き付けられる。ずしりと重い読後感が残る。 |
No.142 | 6点 | 仄暗い水の底から- 鈴木光司 | 2023/01/15 23:01 |
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東京ベイエリアで発生する七つの怪しい出来事を連作風につなぎあわせた短編集。
幸田露伴の名作「幻談」を彷彿させる土左衛門ホラー「夢の島クルーズ」などのオーソドックスな怪談から、洞窟に閉じ込められた男の恐怖と決断、父子の絆を感動的に描いた「海に沈む森」まで、多彩な作品を収める。 水にまつわる生理的恐怖をそそり立てるという点では、巻頭の少女怪談「浮遊する水」が随一だろう。 総体的には完成度は高いが、もう一押しすればもっと凄味のある話になったのに、と感じる作品が散見されるのは残念なところだ。 |
No.141 | 7点 | 誘拐者- 折原一 | 2023/01/15 22:54 |
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様々な夫婦関係が錯綜している。一人の男に妻と内縁の妻がおり、その内縁の妻が失踪した後で別の内縁の妻が出来て、しかもそのうちの一人には離婚歴があるから、当然「前夫」なるものが存在する。夫婦関係の重複は複雑で、「夫」とか「妻」という表現では、いったい誰を指すのか曖昧になる。そして玉突き事故のように起きた二つの新生児誘拐に続いて、似通った名前の子供たちを巡る誘拐事件が描かれる。夫婦関係、親子関係、犯人、被害者関係などなど、「関係の相似性」は見事な計算の上に錯綜してゆく。
複雑すぎて理解に苦労する。それほどに作者の策略は手が込んでいる。叙述トリックを背景に、被害者・加害者の逆転というモチーフが潜在しているために、真相のインパクトが大きい。 |
No.140 | 6点 | ドラゴンスリーパー- 長崎尚志 | 2023/01/03 22:21 |
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主人公は神奈川県警の元刑事・久井重吾と若い刑事・中戸川俊介。久井は「パイルドライバー」の異名がある。取り調べが脳天に杭を突きさすように鋭いからだ。県警の依頼で、退職後も捜査にかかわっている。相棒の中戸川は今どきの若者で、自らの刑事としての適性に疑問を感じている。
物語は、久井の元上司が残酷な手口で殺されるところから始まる。未解決となっている十数年前の少女殺しと手口が似ていた。二つの事件を繋ぐ糸は何か。中国を闇で操る秘密結社の存在が浮上し、県警の公安部門も不可解な動きを見せるなど、どんでん返しの連続。 事件解決後のラストシーンは映画のような余韻が残る。 |
No.139 | 7点 | 死の泉- 皆川博子 | 2023/01/03 22:14 |
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西欧的な高貴と野蛮の相貌を備えた倒錯的存在と、同じく西欧的な高貴と野蛮の産物であるナチス優生学の悪夢と結びつけるという卓抜な着想から生み出された特異な長編ロマンである。
複雑に絡み合う愛欲恩讐の因縁の糸で、織りなされる運命悲劇である本書には、ミステリやサスペンスよりもむしろ、古色蒼然たるゴシックロマンスという呼び名こそがふさわしかろう。とりわけ作中人物が次々に甘美なる死の暗冥へと退場してゆく最終章には、悪意と惑乱のストーリーテラーたる作者の面目が、まばゆいほどに躍如としている。 |
No.138 | 5点 | 夏の夜会- 西澤保彦 | 2022/12/18 23:03 |
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出発点の設定だけで取り上げるならば、かなり現実離れしているように映る。三十年ものあいだ、被害者が誰であるかという重大な情報を間違って覚えてたままでいるなどということが普通あり得るだろうかと。
冒頭に「記憶」と「創造」についての考察が記されているのも、作者お馴染みの作品世界内におけるルールの提示かと思わせる。 あり得ないような設定からスタートしつつ、読者を謎解きの人工世界から現実へとさりげなく突き放してみせるような空恐ろしいミステリ。 |
No.137 | 6点 | それ以上でも、それ以下でもない- 折輝真透 | 2022/12/18 22:55 |
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一九四四年、ナチス占領下のフランス。田舎町の神父であるステファンは、村が混乱し陥れることを恐れて、モーリスというレジスタンスの男が殺害された事件を隠蔽してしまう。更に、モーリスの身代わりとして別の男を匿うことになったが。
ミステリとしての構成は比較的シンプル。物語の軸は誰にも打ち明けられない秘密を抱え込み、しかも良かれと思ってしたことが生んだ悲惨な結果を見届けなければならない神父の苦悩。ナチスに虐げられていた人々が、いざ戦争に勝つや今度は自分たちがナチス協力者に残酷な仕打ちをするなど、人間のどうしようもなさを描きつつ、登場人物たちの行為を善悪で裁かるか読者に静かに問いかける小説となっている。 |
No.136 | 6点 | 竹千代を盗め- 岩井三四二 | 2022/12/08 22:21 |
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松平元康(後の徳川家康)の重臣・酒井雅楽頭に駿府で人質になっている元康の妻子を奪還することを依頼された甲賀忍者の伴与七郎の活躍を描いている。与七郎は忍者だが、危険な任務なのに雅楽頭に請負い代金を値切られたり、わがままな部下に振り回されたりするので、現代の中小企業の経営者と変わらない。弱小の傭兵集団だった忍者の実態をユーモラスに描いているが、小大名にとっては決して安くない代金を払ってまで妻子を奪還しようとした元康の動機が明かされる後半は、どんでん返しになっており、衝撃も大きい。 |
No.135 | 7点 | 暗色コメディ- 連城三紀彦 | 2022/12/08 22:09 |
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冒頭から連続して描かれる四つの奇妙な事件。カットバックで描かれた四つの事件はいずれも幻想的で薄気味悪いが、とりわけ葬儀屋の主人が気の抜けた声で言った言葉は、最高に滑稽でグロテスク。
こんな突拍子もない謎の数々に、作者は本当に論理的な答えを用意してくれるのだろうかと、眩暈に襲われながら次第に不安になっていく。 第二部に至って謎はある部分で拡大しながらも、次第に現実に向かいだす。が、最後に待っているのは、奇妙な事態。心理的なサスペンス、狂気や妄想や真相の異様さが楽しめる。 |
No.134 | 7点 | 銀色の国- 逸木裕 | 2022/11/22 23:16 |
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自殺対策NPO法人の代表・田宮は、ある自殺者が死の直前に見ていたVRについて、それが人を死に導く「自殺ゲーム」ではないかと疑問を抱いて調査を始めるが。
あくまでも現実の延長線上にあるリアルなテクノロジー、社会の歪みに潜む悪意、ヒリヒリした心理描写など、作者の作風の特徴が詰め込まれた小説になっている。田宮の苦悩を描くための点景だと思っていた登場人物が意外な役割を果たすなど、細かいエピソードが終盤に向けて効いてくるのが巧い。 |
No.133 | 6点 | 罪の声- 塩田武士 | 2022/11/22 23:09 |
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昭和の大事件である、グリコ・森永事件の犯人や企業に目を向けることはあっても、それに巻き込まれた子供がいて、今どのような人生を送っているのかなどは考えたこともなかった。
家族を巻き込み、その一生を狂わす、犯罪というものの側面あるいは本質。嗚咽すら伴う圧倒的な悲哀。感動する反面、人の心に住みついた悲しみは一生追い続けなければならない切なさに胸が苦しくなる。 |