皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
◇・・さん |
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平均点: 6.03点 | 書評数: 191件 |
No.151 | 7点 | ウッドストック行最終バス- コリン・デクスター | 2024/01/10 18:49 |
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ヒッチハイクをしていた二人の娘が行方不明になり、一人が死体で発見され、もう一人は姿を消した。発端は地味だが、意表を突く結末が待っている。
語り口がユーモラスで、何より主人公のモース警部の行動が、本当に真剣にやっているのか、と思うほど面白おかしく書かれていてとても愉快。 |
No.150 | 6点 | 帽子から飛び出した死- クレイトン・ロースン | 2024/01/10 18:46 |
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探偵はマジシャンのグレイト・マーリニ。降霊術の最中に完全密室の部屋で人が殺されるという謎だが、その見せ方が上手い。密室談議や理系の人間なら一度は聞いたことがある数学の問題など、様々な蘊蓄が文中にたくさん出てくるのも楽しい。 |
No.149 | 7点 | 遮断地区- ミネット・ウォルターズ | 2023/12/20 19:27 |
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孤独な老人とシングルマザーと父親のいない子供たちばかりが暮らす例所得者向けの住宅団地で、家族の安全を願って始めたはずのデモは、いつの間にか制御不能な暴力行為へと変容し、悲惨な結末へと突き進む。一方、失踪した少女の行方を捜索するうちに、親の愛情に飢えた十歳の娘を中心とする歪んだ人間関係が浮き彫りになってくる。
刻々と変わる局面に目が釘付けになる緊迫した警察捜査小説であると同時に、血と暴力と狂熱に彩られたサスペンスフルな犯罪小説。 |
No.148 | 6点 | 夏の沈黙- ルネ・ナイト | 2023/12/20 19:23 |
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買った覚えのない本がヒロインの自宅にあり、そこにはヒロイン自身のことが書かれていたと、冒頭から不気味さが演出される。続く老人のパートも静かだが、実に不穏な空気感である。
以降、物語に緊張感を上げていくのだが、心憎いのは本に書かれていた内容や、老人の目的、そして過去に何が起きたかが、徐々にしか明らかにされない点だ。具体性がまだない序盤で、雰囲気だけで読者の心をつかみ、具体性を高める興味を持続させ、終盤に至って見事な逆転。キャラクターの心理も深いところまで抉り込んでいる。 |
No.147 | 8点 | 犯罪- フェルディナント・フォン・シーラッハ | 2023/12/20 19:17 |
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罪を犯す人が辿る11の数奇な運命を、語り手の弁護士が一歩引いたところから淡々と描き出す。
超現実的な出来事こそ起きないが、登場人物の心象風景はいずれも極めてシュールで、奇妙な味わいが濃縮されている。切り詰めた簡潔で禁欲句的な文体が、かえって豊かなエモーションを引き出しているのも上手い。 |
No.146 | 5点 | ロルドの恐怖劇場- アンドレ・ド・ロルド | 2023/12/02 20:24 |
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二十世紀初頭、パリで人気を博した残酷演劇「グラン・ギニョール」の劇作家が手掛けた、戦慄と狂気と皮肉に満ちたショート・ショート集。
ひとつひとつの分量が短いぶん、残虐描写などはあっさりしたものだが、真正面から脳天を一撃されるような即物的ショックを伴う結末や、作中人物に対する容赦のない扱いは今読んでも十分に生々しい。 当時先端の医学が恐怖演出の道具立てとして活用されている点は、戦前の探偵小説を想起させる。どうして人は暗い話、残酷な話、厭な話からもカタルシスを見出すのか、ということも改めて考えたくなる一冊。 |
No.145 | 7点 | ダック・コール- 稲見一良 | 2023/12/02 20:18 |
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他の村の狩場に入った男が数万羽に及ぶリョコウバトの飛来に遭遇、殺戮と狂乱の一夜を経験する「パッセンジャー」、言葉を発することの出来ないい少年の休園前夜の遊園地での冒険を木製の鴨の視点から描く「デコイとブンタ」など、野鳥を題材にした六編にブラッドベリ「刺青の男」から着想を得た外枠を付した連作短編集。
風景がリアリズムを超越する劇的な一瞬を詩情溢れる筆で現出。その刹那に突き動かされる情動を物語へと巧みに落とし込む。猛々しさと叙情性の共鳴がなんとも心地よい。鳥の象徴性や自然回帰といったテーマ性はファンタジーに近いといえる。しかしながら、生きることを見失いかけた時に読み返したくなる一冊であることに変わりはない。 |
No.144 | 6点 | ミスター・メルセデス- スティーヴン・キング | 2023/12/02 20:10 |
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無差別大量殺人の犯人を捕まえられぬまま退職した老刑事ホッジズ。鬱々たる余生に入ろうとしていた彼の刑事魂に再び火をつけたのは、犯人からのあまりにも悪辣な挑戦状だった。
パソコンに詳しい高校生の助けを借りて犯人に迫るホッジズと、彼をじわじわと追い詰めて死に追いやろうとする犯人。両者の命懸けの頭脳戦は、互いの出方を予想し、時には大きく読み誤りながらクライマックスへと収斂してゆく。 卑劣な犯人像が帯びる生々しいリアリティと、そんな犯人に刺激されたホッジズが刑事として再生する心理の説得力が無類。 |
No.143 | 7点 | 靴に棲む老婆- エラリイ・クイーン | 2023/11/12 21:26 |
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ポッツの靴はアメリカの靴という宣伝で、巨万の富を築いた老婆には六人の子供があった。その子供たちのうち、三人は精神異常者で三人は正常。ところが、まともな方の三人の子供が次々と殺されるという事件が持ち上がり、エラリーは捜査に乗り出す。
全編、マザーグースの不気味な童話とともに事件が進行し、正気と狂気とが交錯した謎が深まってゆく。奇想天外な「靴」の宮殿にマザーグースと、お伽話のような道具立てが、ファンタスティックな雰囲気を醸し出している異色作。 |
No.142 | 8点 | 災厄の町- エラリイ・クイーン | 2023/11/12 21:21 |
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ニューイングランドの典型的な田舎町であるライツヴィルで彼を待っていたものは、ある悲劇的な事件だった。町の創立者ジェズリール・ライトの血を引くライト家の次女ノーラが、何者かによって砒素を盛られたのだ。しかも、その容疑者として彼女の夫が注目を浴びることになり、ライツヴィルの町は騒然となる。
クイーンの作風転換のきっかけとなった中期の代表作。謎解きよりも、架空都市ライツヴィルの風俗や、そこに住む人々の生活に筆を費やし、家庭悲劇を鮮やかに浮かび上がらせている。 |
No.141 | 9点 | 二人の妻をもつ男- パトリック・クェンティン | 2023/11/12 21:16 |
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カニンガム出版社に勤めるビル・リーディングは社長の娘と結婚し、地位も富も手に入れた。しかしある夜、前妻のアンジェリカに偶然出会ったことから思わぬ殺人事件に巻き込まれ、悪夢のような苦境に立つことに。
愛する者のために偽証した主人公が自分の仕掛けた罠にからめとられていくサスペンス。二重三重のどんでん返しなど、作者の持ち味が遺憾なく発揮されている。巧妙に張り巡らされた伏線も見事。 |
No.140 | 7点 | 骨灰- 冲方丁 | 2023/10/25 21:28 |
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舞台は、大規模再開発工事が現在も進行中の、東京・渋谷の駅ビル。その複雑さ、通行経路の分かりにくさから、しばしば「迷宮(ダンジョン)」と評される工事現場の地下深くで、不可解な事件が起きる。工事関係者らしき正体不明の人物が、インターネットに「人骨が出た穴」などと中傷目的と思われる不穏な書き込みを行ったのだ。
物語の主人公・松永光弘は工事を管轄する大企業の本社IR部に所属する、働き盛りの社員。理解ある上司に恵まれ、家では可愛い小学生の娘と身重の妻が待つ、順風満帆な身の上だ。 突然の調査を命じられた光弘が、執拗な熱気とちりに悩まされながら、都心の工事現場とは思えない地下最深部へと降りてゆくと、そこには巨大な穴が掘られた奇妙な祭祀場と、鎖につながれた謎の男の姿があった。 事件を契機に明らかとなる、怪しい宗教組織の暗躍や、駆逐される路上生活者の悲哀。知らぬ間に、事件の中心人物となっていた光弘と家族に刻一刻と迫る、超自然の魔の手。 骨灰が堆積する地下の穴は、新たな生贄を求めて、生き物のようにうごめく。かつてラヴラフトが、憑かれたように描いた地下世界の魔性を、現代日本によみがえらせた迫真の怪異譚だ。 |
No.139 | 6点 | バールの正しい使い方- 青本雪平 | 2023/10/25 21:13 |
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父の都合で転校を繰り返す小学生の要目礼恩。彼は新しい学校へ行くたびに「擬態」し、カメレオンのように自分を隠しながら、クラスメイト達を冷静に観察する。
六つの学校、少年少女たちの誇る六つの嘘の物語。その中にはなぜかいつも「バールのようなもの」の存在が見え隠れする。礼恩の推理は、みんなが隠した嘘と罪を静かに解きほぐしながら、彼は最後に残った「バール」の謎に辿り着く。礼恩の視点で描写される「バールのようなもの」とは、刑事において「凶器不明」というような意味で使われる表現だ。 「バール」という言葉には、確かに滑稽だがどこか不気味な、独特の雰囲気が漂っている。あまりにも武骨で、何にでも使えそうだからこそ、小説の中でそれは様々に解釈される。連作ミステリの最も美しい形式は、それぞれに解決していた事件が、最後のピースがはまることで別のかたちに見える、どんでん返しタイプだろう。だが本作は、それだけにとどまらない。大人になるにつれて忘れていった、小学生の無力さと切なさや絶望。そして何より純粋な愛情が宿っている。 |
No.138 | 5点 | 覇王の轍- 相場英雄 | 2023/10/25 21:00 |
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主人公は、警視庁本部から北海道警捜査2課長に赴任した樫山順子警視。綱紀粛正を実行しつつ、汚職や新幹線延長を推し進める国家につながる組織にメスを入れるなど、問題のある道警を糺す働きをしていく。北海道新幹線は盛岡より先の利用者も少なく、大幅な赤字路線となっている。それ故、計画は見直されるべきだという意見を持った国交省技官の稲垣達郎が、ススキノで事故死したことに疑念を抱いた樫山は、真相を追求していく。
この大枠の中で、鉄道オタクであったり、食事を楽しむ場面があったりと、樫山の柔らかな側面も語られ、彼女に親しみを覚えていく。しかし、新幹線事業は政治絡みで、簡単に事は運ばない。そんな展開の中、どんでん返しが。本作は、キャリア組の中年女性警視が、政治に翻弄されながらも、正義を求めて活躍するという、この時代に求められた警察小説といえる。 |
No.137 | 6点 | 夜明け前の殺人- 辻真先 | 2023/10/05 20:14 |
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「夜明け前」をはじめとする島崎藤村の作品を題材に、舞台役者たちの世界を描いた。企業メセナが流行した九〇年に起きた上演中の変死事件を、メセナが下火になった九九年の事件と重ねて語った本作は、役者たちのみならずスポンサー企業など周辺の存在にもきっちりと目を配ったミステリに仕上がっていて満足度は高い。作中の暗号を含め、藤村の作品の活かし方も巧みだ。 |
No.136 | 6点 | 二十面相 暁に死す- 辻真先 | 2023/10/05 20:05 |
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「少年倶楽部」に掲載された「怪人二十面相」を昭和十二年に読んだ著者がそのキャラクターを活かして描いた作品であり、まさに乱歩直系の二十面相譚。
小林少年を視点人物に、彼の初恋を語りながら、トリッキーな犯罪とスリリングな活劇をいくつも織り込んでいるのだ。例えば序盤では、二十面相が東京と名古屋で一日のうちに犯行を行うという、当時の交通事情を考えるととても実現できそうにない不可能犯罪が描かれるし、複数の密室状況下の事件と、その合理的解明も読者に提示される。これぞエンターテインメントという一冊。 |
No.135 | 7点 | そしてミランダを殺す- ピーター・スワンソン | 2023/09/17 19:29 |
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実業家のテッド・セヴァーソンが、空港で知り合ったリリーに、酔った勢いで「僕の本当の望みは、妻を殺すことだよ」と打ち明けるところから始まる。彼はい週間前、妻ミランダと工事業者ブラッドの浮気を知ったばかりだった。そんな彼に、リリーはミランダ殺害の協力を申し出る。
リリーの協力により、テッドによるミランダ殺害計画は具体的なものとなってゆく。それと並行して、リリーの過去が少しずつ明かされていく。その後、事態は二転三転し、凄まじいツイストの連続に振り回されっぱなしの状態となる。 この多重どんでん返しの演出で効果を上げているのが視点の切り替えの巧さだ。第一部ではテッドとリリー、それぞれの視点で物語が進行するが、第二部からは別の人物の視点も加わり、さらに先が読めない展開となってゆく。登場人物の心理描写より意外性あふれる展開を重視した作風は、どうやって収拾をつけるのかと思った頃に、提示される皮肉な結末には驚かされる。 |
No.134 | 7点 | 雪の夜は小さなホテルで謎解きを- ケイト・ミルフォード | 2023/09/17 19:17 |
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雪で閉ざされた小さなホテルに集まった怪しい人たちと謎に満ちた三日間の物語。
十二歳のマクロイは、港の上にある丘に建つホテルで両親とともに暮らしていた。だが、冬休みに入ったその日、一人の怪しい男がやってきた。通常、宿泊客は誰も来ない時期のため、自分の望むとおりに家族と過ごすつもりでいたマクロイは戸惑った。だが、そのあと続けて四人の客が現れたことで、むしろ好奇心が勝っていく。そんなときに発見したのは、誰かが落とした古い海図だった。マクロイはホテルに隠された秘密を暴き、謎を解き明かしていく。 盗難事件をはじめ、奇妙な出来事が立て続けに起こることで、マクロイは手伝いに来た料理人の娘メディを相棒として謎の解明に取り組んでいく。この時彼は「ネグレ」という別人格になる。ゲームのキャラクターになり切ることで名探偵ぶりを発揮する。この設定が秀逸。さらに作中、ある民話集をヒントに、それぞれの客に話をしてもらう趣向が展開する。物語内物語が効果的に導入されているため、より奥行きが深くなり秘密の明かされる過程が面白くなっている。バラバラの点が繋がり、思わぬ図が浮かび上がるのだ。 なにより、これは伝統的なクリスマス・ストーリーである。家族と静かに過ごすはずの休日が台無しとなり落胆する導入部から、ディケンズやクリスティーらの名作に通じる数々の設定まで、愉しさに溢れている。 |
No.133 | 6点 | 雨と短銃- 伊吹亜門 | 2023/08/27 22:46 |
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「刀と傘」の前日譚であり、薩長同盟成立の直前を描いている。
極めて緊張感のある中で、坂本龍馬と上洛した長州藩士が殺害され、下手人が逃げ場の無い場所から消え失せるという事件が起こる。 探偵役には物語によってそれぞれ謎を解決しなければいけない理由が設定されるものだが、この作品では歴史的な要請によって謎を解かざるを得なくなる。この事件でキーとなるのはギャップ。読者があれを思い浮かべた時、このような性質を思い浮かべることは少ないのではないか。 |
No.132 | 6点 | 座席ナンバー7Aの恐怖- セバスチャン・フィツェック | 2023/08/27 22:39 |
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飛行機内という狭い空間に、有無を言わさぬタイムリミットを設けるという、物理的な制約と時間的な制約の挟み撃ちで主人公を地獄へと放り込む。その追い込みぶりは終盤まで全く手を緩めない。
とはいえ、単にスリルを煽るだけの小説で終わらないのがいいところ。ラストには小説内のすべての要素が、収まるべきところに収まるように計算され尽くした構成になっている。 |