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弾十六さん |
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平均点: 6.14点 | 書評数: 528件 |
No.428 | 6点 | 九人の偽聖者の密室- H・H・ホームズ | 2022/11/17 02:48 |
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1940年出版。私は扶桑社ミステリー(文庫)で読みました。価格差で旧訳を選んだのですが、この時期に出すなんて山口先生への悪意を感じてしまいます。翻訳は生固い感じでちょっと残念です。多分翻訳者がご存命なら手を加えたいなあ、と思われたのでは?
本作の感想は… うーん。密室ものナンバー9、という謳い文句や最近流行りの新興宗教問題に鋭く切り込む!のようなものを期待すると(私がそうでした)ガッカリ物件でしょうね。 でもトリビアを拾うため二度目に読んで見ると、なかなか上手く構成された佳作だと感じました。 密室第九位というのは、元々はE・D・ホックのMWAアンソロジーの余興ですので、まああまり信用しないでくださいね… カトリック対新興宗教でイメージする重みも本作にはありません。ブラウン神父の米国版ではないのです(調べるとバウチャーはカトリックらしい。チェスタトンはカトリック転向者で、しかもブラウン神父は転向前の開始。英国がカトリックを忌避していた長い歴史もあり英国のカトリック状況はかなり複雑だが、本作の感じだとカリフォルニアでは伝統あるただの一会派)。 カリフォルニアの陽光がさす、あっけらかんとした感じとか、大戦に巻き込まれる前の米国の感じとか、貧乏描写やちょっとすねた主人公のキャラクターなど名を上げる前のバウチャーの鬱屈がよく出ている作品になっています。 実はウルスラ尼第二作『死体置場行ロケット』(1942)は直接の続編で、マーシャル警部補夫妻、マットとコンチャも再登場します。山口企画で予定されてるみたいなので是非。(私は先に『別冊宝石』で読んじゃいました。バウチャーの肩の力が抜けていて、実に楽しい読書でした。トリビア整理後、アップする予定) 以下、トリビア。 作中現在は、冒頭に「1940年3月29日金曜日のロサンゼルス」と記されている。これで確定。 米国消費者物価指数基準1940/2022(21.29倍)で$1=2972円。 p10 一九四◯年のイースター◆ 1940年3月24日 p14 検視(inquest)◆ この語だと、死因を医者が調べる「検死」と紛らわしいので、インクエストの訳語としては「審問」「検死審問」が良いと思う。 p15 保釈… 評決に達しえなかった陪審に解散を◆ 12人の陪審員の意見が一致しなければ、あらためて陪審員が選ばれ、裁判は最初からやり直しとなる。 p26 赤(Red)◆ 論創社の新訳では「共産主義者」 p27 来月でやっと十八歳… 親の同意がなければ結婚できない◆ 本書の後ろの方に記載があるが当時の自由に結婚できる年齢は21歳以上だったようだ。 p32 チャイルド・ローランド(Childe Roland)◆ スコットランド伝承のバラッド。アーサー王の息子ローランドは、妹バード・ヘレンが妖精国にさらわれたため、マーリンの助けによりエルフ王と戦って妹を連れ戻す。ハムレットの引用やブラウニングの詩でも有名。 p33 鬼(ogre) p35 正式の呼称(formal usage)◆ 「ミス+苗字」は正式にはその苗字の一家の中で未婚の最長年者をさす。 p38 侮辱◆ incommunicado(幽閉されて)という単語を使ったので、侮辱と取られたのだろう。翻訳は「外部との交際は禁じられている」で、怒らすには弱い感じ。 p39 へカベ(Hecuba)◆ ギリシャ神話。息子の死を嘆く女王。 p41 鉄のシリンダー(a steel cylinder)◆ 思わずリボルバーをイメージしてしまった。ここは「鉄の筒」(銃の先っぽ)ということだろう。 p42 小さな自動拳銃(the small automatic) p57 三ドル五十セント… 豪華版で学究的な図書 p58 狼なんか怖くない(Who’s Afraid of the Big Bad Wolf)◆ ディズニー映画の名曲。 p67 南カリフォルニア大学(Southern California)◆ バウチャーの母校でもある。 p68 ローズ・ボウル… コロシアムの全部のゲームを見ましたし、バークレーの試合のために北部へも出かけた(Rose Bowl... I was at every game in the Coliseum and I even went up North for the Berkeley game)◆ 1939年のシーズン、ローズ・ボウルで勝利したUSCはアメフトの全米ナンバーワンになっている。コロシアムはUSCの本拠地Los Angeles Memorial Coliseumのこと。カリフォルニア大学バークレー校との1939年8月の対抗戦ではUSCが完封勝利している。 p68 ドロップ・キックとセイフティの区別を知らない(I don’t know a safety from a drop-kick)◆ ドロップ・キックが現在のアメフトでもルール上有効だなんて知らなかった… 1920年代や1930年代には時々とられていた戦術らしい。ルール改正でボールの両端が尖がってからは難易度が増し、絶滅したようだ。 p75 若さが失われている(the absence of youth)◆ この印象は当時のカリフォルニアの新興宗教の様子を踏まえているように思う。試訳「若者がいない」 p77 オルガン奏者は、即席に『木々』(Trees)と『夜明けに』(At Dawning)を◆ これだけだと手がかりが少ないが、有名曲を探すと、TreesはJoyce Kilmerの有名な詩にOscar Rasbach が曲をつけたものか(1922)。At DawningはLayton&Johnstonコンビの1927年の曲だろう。 p78 コミックのエイブ・マーティン(Abe Martin)◆ Wikiに項目あり。一コマ漫画か。 p78 『生命の妙なる神秘よ』(Sweet Mystery of Life)◆ オペレッタNaughty Marietta(1910)の一曲、Ah! Sweet Mystery Of Life、作詞Rida Johnson Young 作曲Victor Herbert。1935年に映画化もされている。 p80 『いにしえのキリスト教』(Old Christianity)◆ 架空。 p81 『ジョン・ブラウンの亡骸』(John Brown’s Body)◆ このメロディは皆さんお馴染み。ヨドバシカメラの曲。 p86 『カヴァレリア・ルスティカーナ』の間奏曲(the intermezzo from Cavalleria Rusticana)◆ マスカーニのオペラ(1890)より。 p86 十セントの銀貨(a dime)◆ 当時の10セント硬貨はMercury dime(1916-1945)、90% silver、17.91mm、2.5g、表示はONE DIME p88 聖ゲルマヌス(Saint Germain)◆ この教団ではキリスト、仏陀、孔子などと同列に讃えられているが、そんなに重要な聖人なんだろうか。なんかピンとこない。 p90 イースター後の第一日曜日(ロー・サンデー) Low Sunday p100 憲法修正第十三条(the thirteenth amendment)◆ 奴隷制度廃止条項、1865年成立。 p115 押しボタン錠(the push button lock)◆ 内側のボタンを押してドアを閉じると外では鍵がかかり入室出来なくなる。いつ頃からの発明か調べがつかなかったが、こういうメカニズムはホテルから普及したのでは?と思った。なおホテルの各部屋の鍵については1862年フランス(パリ、グランド・ホテル)の回想記に記載があるようだ。(鍵が普及する前は外出時に客が貴重品を持って出る必要があった) p116 消音装置(サイレンサー)(silencer)◆ 現在はサプレッサーsuppressorという言い方が主流。 p162 パラフィン試験(paraffin test)◆ 用語が当たり前のように出てくるので、この試験については既に良く知られていたのだろう。1933年に米国に紹介され1935年には結構広まっていたらしい。 p180 彼ら[新興宗教家]はロサンゼルスでダース単位で増加している(they grow by the dozen in Los Angeles) p186 バンヤン(Bunyan)◆ John Bunyan(1628-1688)は『天路歴程』で有名。Paul Bunyanは米国やカナダの民話上のキャラクター。とても巨大な強い男。 p207 古い句(classic phrase)…『警察は裏をかかれる』(The police are baffled)◆ なんとなく新聞の常套句のような気がする。試訳「警察は困惑している」 p211 一シリングかそこらで(with a shilling)◆ 何故唐突にシリング?と思ったらcut someone off with a shilling「勘当する、わずかの財産を与えて廃嫡する」という慣用句の一部でした。 p222 埋葬は検死のあとでなければ行えなかった(burial could not take place until after the inquest)◆ インクエストの規則。英国の古い規定(1926年以前)だと検死官と陪審員がview the body(死体を実見)しなければインクエストが無効となった。 p249 ぽん(so) p255 ホームズ ◆ バウチャーのシャーロック愛がここに。 p255 あなたがそばにいらしたら(Bist du bei mir)◆ BWV508バッハ作曲と言われていたが、2009年にGottfried Heinrich StölzelのオペラDiomedes(1718)の中のアリアだと確定した。バウチャーはずいぶん高く評価している。 p255 ライオンのたてがみ(The Lion’s Mane) p257 三つの棺(Three Coffins) p259 XXXがわざわざYYYしてから、その上にかがみこんだとしたら、焼傷を負っただろう(Dropped after XXX had obligingly YYY and then stooped over so that he received powder burns?)◆ 試訳「XXXがご丁寧にYYYしてから落とし、焼傷を受けるために身体をかがめたとでも?」 p267 自動式のかんぬきやラッチに細工(Tampering with a falling bar or latch)◆ 密室講義を元に密室に関係深い鍵や錠の翻訳用語を整理できるかなあ。 p295 夕食はチップも合わせて、それぞれ70セント(dinner will be seventy cents for both of us including the tip)◆ 2080円。かなり安い。 p296 フィリピン人のハウス・ボーイ(Filipino houseboy) p304 マルタが不平を言いました◆ 私もマリアはズルイと思っていた。このマルタが由来なら修道院の名前は「ベタニアのマルタ修道院」が良いかなあ。 p307 ロバート・ヘリック(Robert Herrick)◆ 詩人1591-1674、作品HOW MARIGOLDS CAME YELLOWからの連想か。 p311 キリスト教式の葬儀ができるよう、検死を(called an inquest so that we can lay away his body in Christian burial)◆ 死因確定のために死体が必要となるかもしれないので、埋葬はインクエスト開催後になってしまうのが通例。 p324 ヤ・トド・アカボ(Ya todo acabó)◆ 曲のタイトルかも。調べつかず p325 明るく甘く澄んで---グレイシー・アレンの声のようだ(light and sweet and clear—like Gracie Allen’s)◆ 実際の声は某Tubeでお聴きください p355 教会は、死因を疑いました(The Church gave XXX the benefit of the doubt)◆ 続く文章は「自殺者の埋葬を禁じることは、ごく稀です」英国インクエストで正面から自殺と断定したら英国国教会で正式な埋葬が出来なくなる(古式だと身体に杭を刺して四辻に埋める… うへえ… もちろん文明下ではキリスト教の儀式なしで夜9時から12時の間にchurchyard外での埋葬)から「一時的な精神錯乱による自殺」という評決になるんだな、と思っていた。ここの表現を見るとカトリックでも同じらしい。この翻訳ではそこら辺のニュアンスを捉え損ねている。試訳「教会は疑問の余地を都合よく解釈しました」 p373 ロバート・インガーソル◆ ロバート・グリーン・インガーソル(Robert Green Ingersoll 1833-1899)は米国の弁護士、演説家。 p376 マーク・アントニー(Mark Antony)◆ マルクス・アントニウス p386 重い四五口径(heavy .45) p390 戦場のチェスタートンの死体(Chesterton’s corpse on a battlefield) ◆ 探偵小説ファン目線の表現。言葉通りに取るとチェスタトンが戦場で冷たくなっている場面が浮かぶ。 p397 反共のコフリン司祭(a priest of the Coughlin)◆ Charles Edward Coughlin(1891-1979) 米国のカトリック司祭。1934年以降反ルーズベルト。ラジオを利用し反共主義と反ユダヤ主義を唱えた。 |
No.427 | 7点 | フォーチュン氏を呼べ- H・C・ベイリー | 2022/10/07 03:30 |
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1920年出版。初出雑誌不明ですが、ちょうどキリの良い六作なので雑誌か新聞掲載の連作なのでは、と思っています。FictionMags Indexはこの頃の英国情報が薄い印象があるのです。(でも今、このあたりのPearson誌やLondon誌やWindsor誌をチェックしたら、昔と違ってほとんど目次が埋まっていた。英国主要誌の情報は既に網羅されているのかも)
私は別の一作だけをアンソロジーで読んで、フォーチュン氏の性格が好みだとわかったので、初登場作品集を楽しみにしていました(創元文庫の「事件簿」は入手済みですがまだ読んでいません)。なんだか反骨心とユーモア感があるんですよね。 (1) The Archduke’s Tea「大公殿下の紅茶」: 評価5点 ボヘミア王国が登場するのは、シャーロックの短篇第一作にならったのかな。ミステリ的には雑な話ですが、探偵の初登場作品として、名刺がわりのレベルは満たしています。 p2 ミュージカルコメディー… ゴルフ… 競艇(musical comedy… golf… bargees)♠️ bargeは平底船だが、英国に競艇に相当するものがあったっけ? ここはよくテムズ川に浮かんでいる運搬船のことだろう。翻訳はバージ・マッチのことを意識したのかな?(The Thames and Medway barge matchesには古い歴史がある) p5 ヴィステルバッハ(Wittelsbach) p7 みだらな美しさ(wickedly beautiful) p11 ローソン・ハンター医師(Sir Lawson Hunter)♠️ここはSirを明示して欲しいところ。 p15 あのお騒がせおばさん(Aunt’s in a mad-house) p16 プラガス家(Pragas) p29 ほんとうにお若い(you are a boy) p30 スタンリー・ローマス部長(the Hon. Stanley Lomas)♠️ こういう称号が付いている、ということは貴族なのだろう。 (2022-10-3記載) ==================== (2) The Sleeping Companion「付き人は眠っていた」: 評価5点 companionを「付き人」とは珍しい。フリガナ風に「コンパニオン」と一回やっておいてくれれば良かったなあ、と思います。コンパニオンは召使いじゃないので食事は一緒に取ります。ピーター・ウィムジー卿は従者バンターを食事に誘ったことがありますが、彼は絶対に同席しません。 こちらもミステリ的には手がかりを読者から隠した古いタイプの探偵小説。 p50 猫かぶり(pussy-cat)◆ フォーチュン氏は猫嫌い。 p53 見るからにユダヤ人(emphatically a Jew) p53 弁護士事務所(solicitors) p54 穴馬(ダークホース)(dark horse)◆ 英国では「非常に優れた能力を持っているが、自分についてあまり語らない人」という意味もあるらしい。 p55 男と男の相談です(Speaking as man to man)◆ man to manは「男対男で腹を割って」という意味のようだ。カタカナ英語「マンツーマン」はone on oneが相当。 p56 ハロウェー(Holloway)◆ HM Prison Hollowayは1852建設で1903年以降は女性専用刑務所。 p59 あのインディアン・ジョニー(that Indian Johnny)◆ 唐突に出てくるが「あのインド人ジョニー」という事かな? p62 検死審問◆ 興味深いところがいろいろある。用語が不適切なところもちらほら。翻訳者はインクエストの趣旨と裁判との違いがよくわかっていないようだ。少し前から私も気になっていて、インクエストについてしっかりしたレポートを書きたいなあ、と思っているがなかなかまとまらない。もう少々お待ちくださいね。 p64 裁判長◆ 原文sirだけ。インクエストは裁判ではないので、この訳語は不適切。「検死官」と呼びかけるのが正解だろう。 p65 被告人席(there)◆ インクエストなので「被告」という概念は無い。全ての関係者は「証人」という立場で検死官から質問される。 p65 裁判官が(the court)◆ ここはthe coroner’s court(=inquest)のこと。「法廷」だと裁判プロセスだと誤解されちゃうので「審廷」と訳したい。なお、ここら辺は、陪審長が「こいつ[変なことを外野から口走っていますが]呼びだします?」と質問して、検死官が「後から審廷に呼んでコイツの言い分をあらためて聞くよ」と宣告している場面。翻訳では誤解している。 p65 弁護団(the lawyers)◆ 被告的立場の者の「弁護団」(ここではソリシタが出席)に、検死官から質問の機会が与えられている、という興味深い場面だが、インクエストなので検察側、弁護側、というのは正確ではない。「法律家たち」というような中立的な用語の方が適切だと思う。まあでも訴追されそうになっていてそれを弁護するために弁護士たちがインクエストに出席しているのだから「弁護団」でも許容範囲か。なお当時は「裁判」においてはバリスタだけが法廷内での全ての弁論を受け持つ。 (2022-10-3記載) ==================== (3) The Nice Girl「気立てのいい娘」: 評価5点 オーラスの締め台詞は意味が違うと思う。全篇に微妙なニュアンスの文章がちらほら。原文を読んでも私には全部汲み取れないレベル。気づいたところだけ(ネタバレにならない範囲で)以下にあげておきます。 本作も手がかりをあらかじめ明示しない「古臭い」探偵小説。フォーチュン氏が裁判になるまで警察に重要証拠を隠してるのは、やり過ぎでしょう。 拳銃が登場しますが、使ってる用語から判断すると作者は全然詳しくなさそう。まだ線状痕比較もパラフィン検査もこの世に存在してない時代の物語です。 p75 犯罪外科の専門家(the surgery of crime)♣️ なぜ「外科」が出てくるか、というと、外科医は英国ではMr. と呼ばれるので、Dr. じゃなくてMr. Fortuneと呼ばれるなら外科医みたいだ、と感じているからか。短篇集タイトルの含意もそういうことかも。 p76 有線印字式電信機(テープ・マシーン) (tape machine)♣️ こういう無粋な機械が一流クラブにあったんだねえ。株式用のticker tape machineが有名だが、ニュース用のもあったのだろう。 p76 また事件か!(Oh, my aunt!)♣️ 私はファイロ・ヴァンスで初めて目にしたのですが、当時流行していた言い方なんでしょうか? p76 惜しい人間をなくしたものだ!(“Well, he won’t be missed!”)♣️ 私は「悲しむ奴なんていないだろう」という意味だと思いました。 p77 スリーカードポーカーや指ぬき(シンブル)賭博(works with three cards, the thimble, and the pea)♣️ 指ぬき賭博(the thimble and the pea=shell game、イカサマ)と同じく三つの中から当てるカード・ゲーム(こっちもイカサマ)と言えば… スリーカード・モンテ(Three-card Monte)ですね!Web検索すると同様の用例も見つかりました。スリーカード・モンテは私も昔、練習したなあ。マジック番組でダイ・ヴァーノンが江國滋に実演したのを見たことがあるよ(歳取ってて手先がヘロヘロだったけど、昔はかくや、と思わせる雰囲気だった)。試訳「スリーカード・モンテとか指ぬきと豆というイカサマ賭博」 p78 かなり癖の強い性格だったと(with a certain gusto)♣️ セシル・ローズにこう言わせるなら、ああ、そういう感じの奴らなんだろうね、と思わせる表現だろう。試訳「歯ごたえのある相手だったと」 p78 激しく享楽的な(hard and fast) p79 豚を殺すことは正当と認められている(Justifiable porcicide)♣️ ここは長い単語風に翻訳して欲しいなあ。試訳「無問題正当的な殺豚事件だ」 p80 三指に入る(Third Prize)♣️ この翻訳もアリだが「第三位」で良いのでは? p81 真実をふたりで解明しよう(we’ll comb it all out)♣️ 「俺たちならなんとか切り抜けられるさ」という感じだろうか。 p84 お抱えの使い走り(factotum) p84 三八口径のリボルバーです(.38 revolver bullet)♣️ ここは弾丸のことを言っているので「三八口径のリボルバー用の弾だ」ライフル用の弾丸ではなく、拳銃の弾だった、という趣旨だろう。 p87 彼も自分の土地を庭園と呼んでいる(he calls it a park too) p88 派手だ(showy) p89 想像力をはたらかせる努力(You know you’ve got imagination) p90 ずいぶん偉そうですね(That’s very haughty of you) p90 予言者(clairvoyant)♣️「千里眼」 p91 スミスサズラン三八口径(A Smith-Southron .38)♣️ もちろんこんなメーカー名は存在しない。普及してる拳銃、という設定なので、Smith & Wessonだろう。Westの連想でSouthとしたのかな? (2022-10-8追記: 当時一番流通していたS&W38口径は(多分)Military & Police、戦前モデルはハーフムーン・サイトなのでカッコ良い) p94 すぐに別の容疑者が逮捕されますよ(Pitch up another)♣️ この翻訳だと意味不明に感じる。クリケット用語かも。直訳は「別の球を投げてくださいよ」野球用語に意訳して「直球勝負ですか?」ということかなあ。(2022-10-7追記: クリケットでは打者が打てる範囲を大きくそれて投げたボールはノーカウントになる。ここではあまりに率直な質問(暴投)に対して、返事が出来ない(打てる範囲じゃない)と言ってるのでは?と解釈したのです。「打てる範囲に投げてくださいよ」と訳すとわかりやすいでしょうか) p95 五対八(Five-eighths)♣️ 八分の五 p96 ならずもの(a bit of a tough) p96 ついに解答は見つからず、彼はいつもこの事件を自分の失策のひとつと言っている(He never saw his way through it, and has always called it one of his failures)♣️ 「解答は見つからず」は言い過ぎだと感じた。 p100 はかなく過ぎるは幼年時代… (Childhood’s years are passing o’er us… Soon our schooldays will be done. Cares and sorrows lie before us…. Hidden dangers, snares unknown)♣️ ここら辺はWilliam Dickerson作詞のHymn (1841)の冒頭部分の引用。W. Howard Doane作の“Adoration”(1883)の曲にのせて歌われるようだ。 p101 一般訴訟は巡回法廷で争われ、まずXXXに対する反対尋問がはじまった(The general action was fought at the assizes. The interest in it began with the cross-examination of XXX)♣️ 先に尋問があって、それから反対尋問、という順番。試訳「巡回裁判は型どおり争われた。興味深いところはXXXの反対尋問からだった」 p101 弁護士は検事側に向かって問いかけた(said counsel for the Crown)♣️ここは明白に誤訳。「検察側弁護士は言った」英国では専門の検事職は存在せず、裁判ごとに適切なバリスタが選出され、検察側の弁論を行う。 p103 三八口径のスミスサズラン弾倉銃(Smith-Southron .38 magazine pistol)♣️ magazine pistolという表現は見たことがない。作者のつもりでは.38 caliber(口径)の弾倉magazine(リボルバーなので本当はcylinderだが)を持つピストル、なのかなあ。 p104 熱心さが仇になった。ミスター・イージーになっていたようだ(“Zeal, all zeal, Mr. Easy”)♣️ フィリップ・マクドナルド『鑢』で調査済みだったので、ピンときた。『熱意、あらん限りの熱意!』Captain Frederick Marryat著の小説"Mr. Midshipman Easy"(1836)からの引用。 p108 今年… 来年… 桃を五個(This year, next year… May I have five peaches)♣️ 何か占ってるような感じ。五個にも意味がありそうだが、よくわからなかった。 p110 XXXがYYYでなければ、ぼくはZZZを一生信じないだろう(Never trust a really ZZZ unless you’re YYYing XXX)♣️試訳「XXXとYYYのつもりでなけりゃ、ZZZを信じるもんじゃない」 (2022-10-7記載) ==================== (4) The Efficient Assassin「ある賭け」: 評価6点 原題に忠実に「腕のたつ暗殺者」で良いのでは? 言葉を繰り返すのがフォーチュン氏の癖のようだ。(本作でもBut it’s all wrong, Bell, it’s all wrongとある。翻訳では同じ言葉を使ってないので目立たないのだが) 何か変だな、という雰囲気が良いが、翻訳のニュアンスずれがある感じで(わたしの英語読解力も怪しい)十分に楽しめていない気がする。ミステリ度は前3作と比べるとやや複雑になっている。最後のセリフには裏の意味があるのかなあ。 p113 記憶から消し去ってしまいたいと思いつつ、忘れられなかったこれらのエピソード(who never forgot anything when he wanted it, knew at the back of his mind)♠️ 試訳「必要があれば必ず思い出せるたちなので、意識せずに覚えていた」 p115 帰りがけに何か言わなかったか?つまり(And you heard nothing? Yes)♠️ 大事なセリフだが勘違いして翻訳している。ここは「(近くで事件があったのに)何も聞こえなかったのか?」という質問。Yesは相手のセリフを省略して「ああ、何も聞こえなかったんだな」ということ。 p117 二千ポンド(twenty thousand)♠️ 大事なところで残念なケアレスミス。 p118 ほんとうに刺殺されたのか?(I suppose the old boy was stabbed?)♠️ 繰り返されるフォーチュン氏の疑問は全部 I supposeで始まる文。軽い疑問なのかな? 試訳「刺殺されたようだね?」 p118 細い短剣の一種だ… 聞いたところではイタリア製のようだ(“…Sort of stiletto or dagger.” … “Sounds Italian”)♠️ stilettoと相手が言うので「イタリア語っぽいね」と言っているだけ。 p126 評決は被疑者不在のままくだされる(Verdict, persons unknown)♠️ 試訳「(お馴染みの)評決、何者かによる殺人」インクエストの評決での決まり文句。 p127 裁判官は… 有罪を下しただろう(the jury would have made an end of….)♠️ インクエストなので裁判(有罪を決める場)ではない。死の原因を究明するのが目的。死因究明に付随して「誰かの行為で死に至った」という評決になる場合があるだけ。検死官は事前に助言はするが、陪審の評決を受け入れるのみで検死官には拒否権はない。試訳「陪審員は…に終わりを告げただろう」 p131 生命は実体であり、生命は真剣である。そして墓場がその終着点ではない(Life is real, life is earnest…. And the grave is not the goal)♠️ A Psalm of Life (1838) by Henry Wadsworth Longfellow p131 ぼくは慰めが欲しい(I want comfort)♠️ 直前の詩の引用と関連あり? 調べつかず。 p135 わたしの髪は白くなっていないか(Is my hair white)♠️ 何かの引用? 調べつかず。 p137 AAAの遺書を担保にXXXポンドも借りている---何に使ったのでしょう(The £XXX he came in for under AAA’s will—he wanted it badly)♠️ 試訳「AAAの遺書により相続したXXXポンド---その金がひどく欲しかった」 (2022-12-4記載) ==================== (5) The Hottentot Venus「ホッテントット・ヴィーナス」: 評価7点 英国男性の偏見「女嫌い」が正直に披露され、初読時には「何これ?」と思ったけど、再読してみて、ああいかにも英国流で文字ヅラだけで受け取らず、底に流れる思惑を想像して楽しむ話なんだろう、と思いました。あれよあれよの展開が面白く。結末も非常によろしい。 ところでローマスは幾つぐらいなのかな?と思って読み返してみたら、初登場時に、フォーチュンの父親といっても良いくらい(was old enough to be his father, p20)と書かれてました。随分フォーチュン馴れ馴れしい… p145 わたしはひとりの少女を愛す(I love a lassie)◆ミュージック・ホールのコメディアンHarry Lauder(1870-1950)の有名曲。訳注はちょっとズレてない? p146 トーマス(Tormouth)◆デヴォンシャーにあるという設定の架空地名。トーケイ+プリマスな感じか? p146 ばか騒ぎ(rag) p147 妹に電話して(call on my sister)◆試訳「妹のところに行って」 p148 中年(middle-aged) p157 いつにも増して専制的に(more masterful than ever) p159 ヨットの登録リスト(Shearn’s Yacht List)◆Shearnは調べつかず p164 デューシェス(Duchesse)◆ここは「公爵夫人」で良いのでは? p167 それは、きみの良心の問題だ(That’s between you and your conscience) p169 プリンシパルボーイ(principal boys)◆英国パントマイム(パント)の用語。参考Web“How British Pantomime Became Such a Holiday Tradition” (2023-7-9記載) ==================== (6) The Business Minister「几帳面な殺人」: 評価7点 原題は「事業家大臣」というような意味か。どんどん転がってゆく展開と構成が良い。フォーチュン氏のペースに慣れると、この語り口がクセになる。 p180 ブーローニュ号(Boulogne boat) p180 オペラの舟歌(the helmsman’s song from the opera)◆ Wagner: The Flying Dutchman "Mit Gewitter und Sturm"(Act 1)のことだろう。曲を特定出来る語を翻訳では反映して欲しい p180 ヒーターが錫めっき(The heat … was tinned)◆暖房の熱気が缶詰状態だった、という事かな? p181 四月十五日 p187 義弟が大蔵省に勤めていて(I have a brother-in-law in the Treasury)◆どうやらフォーチュンには妹がいるようだ。p147ではローマスから「君には姉も妹もいない… 未婚の(You have no sister—no maiden sister)」と言われている p191 祖先のいない司教… メルキゼデク(that fellow in the Bible who had no ancestors—Melchizedek)◆ ヘブル人への書 7:3(文語訳)「父なく、母なく、系圖なく、齡の始なく、生命の終なく、神の子の如くにして限りなく祭司たり」 p191 コンソル公債(Consols) p193 先生(Doctor) p196 確かに!(Indeed!)◆ここは驚きや憤慨の感嘆詞だろう。へえ!まさか!本当に?など p199 ウェデキント氏の遺作となった戯曲(the last published play of Herr Wedekind) p203 シャツにネームを(have his linen marked)◆ワイシャツに自分の名前をあらかじめ入れておくのか?と思ったら、原文は「洗濯屋のマーク」のことだろう p207 リミントン社(Rimington firm)◆調べつかず p208 食事や掃除のサービスを受けられる家具つきマンション(service flats … and furnished) p209 スノッドグラス… 急ぐなかれ、軽率になるなかれ(Mr. Snodgrass… No rash haste) p210 使用人(servants)… 最近は人手不足(we’re short-handed) p210 最後に来たのは二、三日前です(I should say some days)◆もっと曖昧な感じだろう。「数日前としか言えません」 p212 鍵というものを持たない人間(men go about without any keys) p214 九サイズで幅は広め(About a nine and rather broad)◆靴のサイズ。UKメンズだと日本の27.5cm相当 p215 16 1/2というカラーのサイズ(16½ collars)◆42cm相当 p225 紙ばさみ(paper-clips) p227 ショートマン(Shortman’s)◆調べつかず。架空? p231 クリスチャンではない… 信仰心のない人間(not a Christian man—an unbeliever) p232 ノースウェールズの住民のほとんどはランカシャー出身(North Wales is mostly Lancashire people) p235 運転◆フォーチュンもスピードを出す乱暴運転派 (2023-7-14記載) |
No.426 | 5点 | 終わりなき負債- セシル・スコット・フォレスター | 2022/10/01 13:29 |
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1926年出版(ボドリー・ヘッド社)。アガサさんがボドリー・ヘッド社を捨てて、コリンズ社から『アクロイド殺し』で華々しく再登場した年。執筆当時、作者は25~26歳。アフリカの女王は1935年、ホーンブロワー・シリーズは1937年から。まだまだ深みの出ていない時期の作品です。
本書は、最初のほうはドキドキ感があって楽しかったのですが、だんだんと気が重くなる展開で、読み進めるのがつらかったです。 探偵小説ではありません。ミステリ風を保っているのは冒頭の数章のみ。 「ああ、やっちまった、やれやれ」という感じで主人公たちを意地悪く見守る、というたぐいの小説? 英国人は苦笑しながら読むような感じなのかなあ。小市民の趣味の悪さをからかってるようなところもある。皮肉っぽい文言もところどころに見られる。 良いところは1920年代英国の暮らしぶりが感じられるところ。中等学校とパブリックスクールの違いは、実感があって生々しかった。 筋立てや登場人物の心理はリアル感十分だが、対立構造が弱いので、全体的にぼやけた印象(特に私は父子関係を楽しみにしてたので、あの扱いは残念だった)。ラストはもっと書き込んでも良さそう。全体の私の感想は、作者がXXを思う心は痛いほどわかったよ、ということ(多分フォレスターさんは素直じゃなかったのだろう)。戦間期の英国やフォレスターに興味がある人にはおすすめしますが、普通の探偵小説好きにはどうでしょうね。心が暗くなりたい時にはピッタリです。 もしかして、この小説、続きがあるのかな? あの登場人物の行く末が気になりました(アガサさんの探偵小説によく出てくるタイプだと思います)。 さて、本書解説にある通り、この小説は1932年に映画化されています。某国提供の怪しいサイトに全篇無料公開されていたので、鑑賞しました。(英語版なので、もちろん私は30%くらいしかセリフを理解していません) “Payment Deferred 1932 - Charles Laughton, Ray Milland, Maureen O'Sullivan”で動画を検索すると出てくるハズ。 主演チャールズ・ロートン、娘がモーリン・オサリヴァン、甥がレイ・ミランド。原作をうまく処理していて楽しめましたが、映画単体でみると、ところどころ筋にやや飛躍があるので、なんかちょっとねえ、という感じになると思います。サスペンスはさらに薄まっていました。(私が観たのは、どうやら2011年に現代の映画コードに適用させるため、5箇所カットがあるようです) まあでも立派なキャストで映画化もされた、という事は作者の出世作だった、ということでしょうね。ただし映画ではフォレスターの名前は全く出ず「Jeffrey Dellの舞台に基づく」という原作クレジットでした(1931年にブロードウェイでチャールズ・ロートン主演の舞台化があり、それがヒットして映画になった、という経緯)。という事は映画化権は舞台化権と一緒に売っ払っちゃったんだろうか。 以下、トリビア。 まず作中現在の推定から。 p160で冒頭から20か月(twenty months)が経過しているように書かれており、これは話の流れからすると外国為替の話の頃(p64)の二週間ほど後で、p144のイースターの数か月前(程度は不明)。でも展開から考えるとこの「20か月」はちょっと長すぎる気もする。読んでいる時には外国為替の話は冒頭から長くても5、6か月後のように感じていた。 外国為替の話はマルク相場が「百万台(millions)まで下落(p64)」とあり、該当は1923年7月か8月(6月46万、7月135万、8月1345万、9月24億。millionsには「100万以上10億未満」の意味もある)、フラン相場は7月だと平均77.81で、8月の平均90フランの方が本書の記述に近い。1923年8月の20か月前は1921年12月。冒頭では「暖炉の暖かさ」が表現されているので、季節感も合致する。 英国消費者物価指数基準1921/2022(54.41倍)で£1=8782円、1s.=439円、1d.=37円。 p19 法定紙幣(Treasury notes)◆ 誤解を招く翻訳語だが、別の翻訳でも採用されているのを見たことがあり、結構普及しているのかも。私は「財務省紙幣」といきたい。金本位制だったのでイングランド銀行券は基本兌換紙幣。Treasury noteは第一次大戦時に金の海外流出を防ぐため、緊急に政府が財務省の権限で発行した1ポンド紙幣と10シリング紙幣のこと。これ以前の英国では5ポンド以下の紙幣は通用しておらず、庶民は皆コインで日常生活を送っていた。 p19 イングランド銀行券… 五ポンド紙幣(bank-notes--five pound notes)◆ 白黒印刷で表だけ印刷された紙幣。普通の紙幣のイメージとは異なっているのが当時のイングランド銀行券(White noteともいう)。詳細はBank of EnglandのWebページ“Withdrawn banknotes” p20 オーストラリアのお金(Australian money)◆英Wiki “Australian pound”を斜め読みしたが、オーストラリアが金本位制を離脱した1929年の前は英ポンドと同値だったようだ。 p24 ネッド・ケリー(Ned Kelly)◆1855-1880、一眼見たら忘れられない鉄仮面と鎧に身を包んだ強盗、ブッシュレンジャー。アウトローぶりで、オーストラリア人のヒーローとなった。 p24『拳銃を持った強盗』(Robbery under Arms)◆ Rolf Boldrewood作のブッシュレンジャー小説(1888年ロンドンで出版)。オーストラリアの植民地時代三大小説の一つと言われている。他はMarcus Clarke作“For the Term of his Natural Life”(1876)とヒューム作『二輪馬車の秘密』(1886) p27 反対尋問(cross-examination)◆「反対尋問」というのは、弁護側と検察側があって、反対の立場で尋問する、という意味。なのでここは「(さらに)厳しい追及、詳しい[細かい]詰問」 p51 もちろん一ポンド紙幣は安全… 五ポンド紙幣だって同じくらい安全なはず(Of course the one-pound notes were as safe as anything, but the fivers ought to be just as safe too)◆五ポンド以上の紙幣は、番号を記録される恐れがある。 p57 家賃法(The Rent Act) p58『犯罪と犯罪者---巡回裁判における歴史的に重要な日々』(Crimes and Criminals: Historic Days at the Assizes)◆架空の本のようだ p58 図書館員の意見◆面白い見解 p61 自由土地保有権(freehold)◆検死官はfreeholderによって選ばれる、という規定の意味が、今回調べていて朧げに理解できた。フリーホールダーとは英国王から土地所有を許されたもの、というのが古い意味なのだろう。土地は本来、国家のものなのだ。(一般人は、貴族からleasehold(不動産賃借権)を得て、商売などを行う、という社会) p64 マルクは、2年前にオーストリア・クローネがそうだったように、百万台まで下落(The mark had fallen away to millions, as the Austrian crown had done two years before)◆ ここら辺の記述は、1923年のポンド=マルク相場。6月£1=46万マルク、7月135万、8月1345万、9月24億、10月67億、11月1兆に到達。凄まじいインフレだったんですね。 p64 フランでさえ続落… いまや100フランを超え、いぜんとしてゆっくりと下がりつづけている(Even the franc was dropping steadily…. now it was over a hundred, and it was being hammered slowly lower and lower)◆フラン相場が£1=100フランを月平均で超えたのは1925年6月(日毎の為替相場データは見つけられなかった)。それ以降は月平均で100を下回ることはなく、フラン安がどんどん進行している。第一次大戦後、ずっとフラン安が続いており、フレンチ警部が気軽にフランス出張に行くのもポンドが強かったためなのだろう。(1927年以降は123フランで落ち着いた) p81山高帽(a bowler hat)… 縁なし帽子(caps)◆ 帽子で階級差を示している。 p82『法医学ハンドブック』(Handbook to Medical Jurisprudence) p89 フランス政府が夜のうちにこっそりと他人に信用を供与して(how the French Government had quietly appropriated other people's credits the night before)◆ なんか変。誤解がありそうだが、私には正解がよくわからない。 p97 逆算すると利率は4.8%くらいか。 p98 十七年前 p99 中等学校(secondary school) p117 法律によって最大35ポンドの家賃しか認められていないこの家(was not allowed by law to be rented at a greater sum than thirty-five pounds)◆ Rents and Mortgage Interest Restriction Act 1915によるもの。英Wiki “History of rent control in England and Wales”参照。 p139 ジャンパードレス(jumpers)◆英国のjumperは日本のセーターのことらしい。 p151 ポンド札のような声(pound-notey)◆ 気取った、という意味のようだ。辞書にはpoundnoteishの形で出ていた。 p156 髪をボブにしている(being bobbed) p161 調律師(piano tuner)◆ これホント? p219 百フラン紙幣(hundred franc notes)◆ 当時のはBillet de 100 francs Luc Olivier Merson(1908-1939)、サイズ182x112mm p235 AM(A. M.)◆ 翻訳ではわかりにくいのですが「À Monsieur」ですね。「To Mr. (〜様へ)」という宛名書き。 |
No.425 | 7点 | 裏切りの塔- G・K・チェスタトン | 2022/09/24 02:31 |
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チェスタトンの自分史では大事件(後述)が1913年6月に終了しており、その後の作品集です。シリーズものの『ブラウン神父の知恵』(1914、雑誌連載1912-1914)と『知りすぎた男』(1922、雑誌連載1920-1922)に挟まれた、シリーズ探偵が登場しない単発作品で、本国短篇集“The Man Who Knew Too Much”(1922)に(5)を除いて収録されていましたが、現在では同題の短篇集にはホーン・フィッシャーものの短篇8作しか収録されていません。そのため(2)(3)(4)の原文は未入手です。
各短篇は(5)「魔術」を除いてレビュー済み(『奇商クラブ』及び『知りすぎた男』)ですが、南條さんの翻訳で読んで、あらためて評価しました。 初出はFictionMags Index調べで、初出順に並び替えました。カッコつき数字は、本短篇集の収録順です。 (5)「魔術──幻想的喜劇」Magic. A Fantastic Comedy(初演1913-11-7, the Little Theatre, John Street, London): 評価7点 途中から盛り上がる恐ろしい雰囲気が素晴らしい。チェスタトンの人を驚かす発想は、常識的な人物の生身の姿を借りればより効果的だと思う。そこら辺のツボを心得た演出家がいればブラウン神父ものはテレビドラマにハマるような気がするのだが。劇中にやや激しい感情の表出が見られるが、マルコーニ・スキャンダル(下で解説)によるものか。 バーナード・ショーは、この劇の百回目公演を記念して“The Music Cure”(1914-1-28)を同劇場で上演したが、作者の劇の中で最低ランクの出来、と言われているらしい。(現物に当たっていません…) なお、リトル劇場は席数387、文字通りの小劇場。詳細はArthur Lloyd Little Theatre John Streetで。 p270 土地運動(Land Campaign)♠️両方とも大文字なので固有名詞と思われる。Land Purchase Act 1903(Ireland) かNatives Land Act 1913(South Africa)に関係あり? p276 半クラウン銀貨(half-crowns) p288 ヨブ記(Book of Job)♠️チェスタトンは聖書で一番素晴らしいと讃えている。 p303 マルコーニを食べたことはない(Never had any Marconis)♠️「訳注 登場人物はマカロニか何かと間違えているらしい」なぜ南條さんがこう書いているのか、がわからない。(とぼけてるだけ?)この頃、チェスタトンが一番ショックを受けたマルコーニ・スキャンダル(政権の汚職疑惑、弟のセシル・チェスタトンが暴き立てたのだが、政府によって非公式に片づけられた)。GKCは弟が完敗した(1913年6月、マルコーニ社への名誉毀損で百ポンドの罰金が課せられた)ことによって、世間に対する無邪気さを失ったのだろう。なんのかんの言っても、今までは最後には正しいものが勝つ、という子供のような信頼を持っていたはずだが、完全に裏切られた、という感じ。GKC自伝(1936)でも、英国史にはマルコーニ前とマルコーニ後という時代区分がある、とまで主張している。 (2022-9-24記載) ========================= (1)「高慢の樹」The Trees of Pride (英初出The Story-Teller 1918-11; 米初出Ainslee’s 1918-11 as “The Peacock Trees”): 評価8点 実に素晴らしい構成だと、あらためて感心した。ミステリ的には探偵役のポジションの置き方が良い(かなり画期的だと思う)。ところでGKCには詩人がよく登場するが、詩を詠む場面がほぼ無い。 乱歩『続・幻影城』では、なぜか地主と領民の立場を全く逆に捉えて解説している(「孔雀の樹」として紹介)。 (2022-9-24記載) ========================= (3)「剣の五」The Five of Swords (初出Hearst’s Magazine 1919-2): 評価6点 フランスが舞台。当時、フランスでは決闘は公式に許容されていた。上述のマルコーニ・スキャンダルを考えると、本作品にもその影が見られるようにも思われるが(考えすぎか)。 (2022-9-24記載) ========================= (2)「煙の庭」The Garden of Smoke (初出The Story-Teller 1919-10): 評価5点 色つきの悪夢の中を彷徨い歩いているような幻想的な作品。作者にしては珍しく女性が主人公。女流詩人が出てくるのも珍しい。 p126 オランダ人形♠️ 英Wiki “Peg wooden doll”参照。 (2022-9-25記載) ========================= (4)「裏切りの塔」The Tower of Treason (初出Popular Magazine 1920-2-7): 評価6点 マルコーニ・スキャンダルのせいなのかどうかはわからないが、性格がさらにひねくれまくった感じ。陰謀論めいた記述もあるが、そういう話ではない。ストレートな解釈には絶対しない、という強い意志のもとで、無理がねじれて不思議な解答に辿りつく。 (2022-9-25記載) |
No.424 | 6点 | 死のチェックメイト- E・C・R・ロラック | 2022/09/19 15:15 |
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1944年出版。翻訳は良好です。下に若干の解釈違いを書いているが、読みやすく立派な出来だと思います。長崎出版のセレクションは良いなあ。どこかで復刊しないんだろうか。
本作は、うーん… 時代を反映したとっても良い話なんだけど、結末で損している感じ。なんかロラックさんには共通した感想になる。ラスト・シーンまでは、登場人物がよく描けてるし、捜査の感じも非常に良いんですよ。発端が単純すぎる事件で、そのまま終わるわけないよね、と思ったら… あらがっかり。あっち側のケアを全くしてないなあ。たかをくくっていた、ということなのか。 以下トリビア。 作中現在はやや問題あり。ロンドン空襲は1940年9月からで、継続的な空襲は1941年5月に終わっているので、それ以降の感じ。まだV1ロケットの脅威は語られていないので1944年6月以前。 私が参照した原文(The British Library 2020)には、事件はMonday, January 20th(該当は1941年)に起きた、と明記している。この他にも所々に翻訳には無い文章が若干あった。スペイン語版(1947年出版)を参照すると事件の日付がちゃんとあった。なので翻訳はリプリントを底本としたのだろう(ざっと読んで、翻訳に欠けている文章は無くても問題ない内容のように感じた。作者自身が後日刈り込んだのかも)。 この翻訳の内容に限定して調べると、p64で「事件発生=冒頭の場面」は木曜日、p74、p110、p143、p153から「1942年1月」だろうとほぼ絞り込める。作者の当初案を尊重して、作品冒頭は1942年1月20日なのだろう(現実には「火曜日」なのだが)。 英国消費者物価指数基準1942/2022(52.37倍)で£1=8552円、1シリング(s.)=428円、1ペンス(d.)=36円。 銃は「重装した旧式コルト(p62, an old-fashioned Colt with a heavy charge)」で、「1930年購入(p126)」が登場。with a heavy chargeは普通なら炸薬が強め、という意味だが、ここは「弾がいっぱい残っていたよ」という意味か。作者はrevolverとpistolを区別していて、登場している拳銃はpistol呼びで一貫しているのでpistol=automaticのつもりなのだろう。詳しい人ならpistolはhand gun(拳銃)の総称で、revolverとautomaticを対比させるのだが(アガサさんなら、ちゃんとrevolverとautomaticの区別をつけている)。ロラックさんは拳銃の用語がややあやふやな印象。1930年に販売していたコルト・オートマチックはいろいろあるがheavy chargeの印象で45口径のM1911(いわゆるガバ)なのかなあ(.38 Super弾仕様のもあるらしい)。 p5 弟◆「姉」は三十過ぎ、戦時下なので健康な若い男性は戦争に行っているのでは? 軍隊に行っていない理由が特に記されていない(当時の英国では18歳から41歳までの男性は徴兵制となっていたが良心による拒否の申し立ては可能だった)ので年齢がやや高い「兄」の方がありそうと思った。(全文検索したがbrotherやsisterには年齢の上下を示す形容無し) それともぐうたらな芸術家は兵役拒否が当然、というイメージなのか。対外関係のリードを常に「弟」がとっているところにも、年長者を感じさせる。ただし全部を読んだ印象だと、このきょうだいの関係性は「姉弟」っぽい、とも受けとれるので、判断は難しい。欧米人は上下をはっきりさせなくても気にならないのだろう。 p5 バスつきキッチン(k & b) p7 灯火管制(Black-out regulations) p8 見場のいいニシン(lovely ’errings) p10 五ポンドの罰金(being fined five pounds)… 空襲監視員(air-raid wardens)◆灯火管制違反の罰金。結構高いのね。 p11 電話したけりゃ郵便局へ行けよ(If you want to ’phone go to the post office)◆この建物には電話は無い。 p13 特別警察官の制服(uniform of a special constable)◆第二次大戦勃発による警察官不足を補うために用いられた。前大戦の退役者で従軍には歳を取り過ぎていた者を中心に全英で13万人が従事、大抵はパートタイマーで無給。1943年には警察官の大部分のルーティン・ワークをも担うようになっていた。WebサイトGloucestershire Police Archiveの記事The Special Constabulary in Gloucestershire During World War Twoより。Wiki “Special Constabulary”によると通常の警察官とは違う制服が支給されたようだ。 p14 カナダ人(Canadian)◆なぜわかったのか。訛りや用語からか。訛りの詳細はWiki “Canadian English”で。 p40 舞台裏の効果音(noises off) p54 鍵(latch-key)◆この語を正確に訳すのが実は重要だと最近気づいた。ラッチキーは、室内からbolt(かんぬき)で扉を閉めても、外側から鍵で開閉できる仕組み。現代のようにドアの内部にボルトが埋め込まれておらず、ボルトが外付けの構造というイメージ。つまり「ボルトが内側からかかっていた」と書いてあってもラッチキーなら外から開閉出来るので密室を構成しない。bolt, latch key, catch(窓の場合、ナイフなどを外から滑らせると開けられる)を一発で正確に理解させられる翻訳語が欲しいなあ。(ひどいのになると、全部「掛け金」だ) 試訳: ラッチキー(の鍵) p58 居住者案内板には(in the directory)◆「住所録では」の誤りだと思う。お馴染みKelly’s directory p58 防空壕(shelter) p62 使われた銃弾と比べて弾丸を検査する(the bullet’s been examined under the comparison microscope)◆「顕微鏡による比較」が言及されているので、翻訳でも示して欲しいところ。 p64 木曜◆事件当日の曜日 p69 玄関ドアの閂をかける(bolt the front door)◆このboltはラッチキーで開閉するやつだろう。原文ではlatch-keyと書いてあるので読者にはわかる。この翻訳だと最初の方では単に「鍵」なので「閂」との関係がいまいちわからないのでは?(p70以降は「閂の鍵」(the latch-key)としている) p73 女のほうが見場がいいこともある(a sight better, some of ’em)◆「女は男と同じく注意深い」のあとに続く言葉。変なこと言ってるなあ、と思ったら、原文では外見のことではなく、能力が「中には男よりずっと優れてるのがいるよ」という事だった。 p73 おばちゃん(ma) p73 二シリング六ペンスの給金を受け取って(with two and sixpence owing to me)◆掃除婦の料金。週給か。 p74 一度目は去年の十月… 二度目はクリスマス直前◆作中現在はクリスマス以降。 p78 おそろしく寒かった(it was hellishly cold)◆事件当夜の気温 p79 買って半年以内では修理に出せません(you can’t get one repaired under six months)◆「修理に出しても半年以上はかかります」戦時中らしいエピソード。 p79 ハーフハンター(half-hunter) p88 五十ポンド札(£50 notes)◆White note(1725-1943)、サイズ211x133mm p88 小さな現代的フラット(Good small modern flats) p94 コーナー・ハウス(Corner Houses)◆ PiccadillyのLyons Corner Houseのことだろう。1909年開業。1926年改装してリニューアル・オープン。 p100 拳銃のたぐい(a revolver or pistol) p102 ティペラリを歌う声(a voice singing ‘Tipperary‘) p105 バレルキー(a barrel key)◆「訳注 筒の中に空洞がある鍵」ラッチキーは回す力をボルトを動かす力に変換するために、中心軸をしっかりと固定する必要がある。そのため鍵は筒状で、筒が中心軸を覆うことで揺るぎない回転を可能にしている。 p109 陪審側が(on the part of a Coroner’s jury)◆ここは「検死審問の陪審の立場で」と正確に訳して欲しい。検死審問であっても誰かが犯人であるか確実、と判断すれば、犯人を名指ししての評決が出来るのだが、検死審問での証拠は弱くても採用されてしまうことがあり、この評決が出ると、犯人とされた者の刑事裁判手続きが始まってしまうので、警察側としては非常に迷惑。従って検死審問の段階では「更なる証拠が出揃うまで延期」か、お馴染みの「未知の単独犯または複数犯による故殺」という評決が一番良い。 p109 面子を潰さない(not embarrassing them)◆面子の問題ではなく、余計なことをするな、という事。 p110 四一年の八月に引越し… 3ヶ月前まで空き家(they packed up in August ’41, and the studio was vacant until three months ago)◆という事は、作中現在は少なくとも1942年1月以降(p74からクリスマス後)。 p126 弾丸を調べたが、線条痕から… と判明した(The bullet’s been examined and the breech markings prove that it was… )◆ breech markingsは普通、薬莢が発射時に銃尾に押し付けられ、拳銃固有の銃尾の傷などが空薬莢の底に転写されたものを意味する。作者は「比較顕微鏡で検査(p62)」と書いているので、ここは「線条痕」(rifling marks)と勘違いしている可能性は大。 p141 重厚な額縁に入った絵画◆訳注があるので原文だけ示しておく。 ・ブリュッヒャーと対面するウェリントン(Wellington meeting Blucher) ・チェリー・ライプ(Cherry Ripe) ・バブル(Bubbles) ・栗毛のメアに蹄鉄を打つ(Shoeing the Bay Mare) ・ヴィクトリア女王戴冠式(the Coronation of Queen Victoria) p143 去年の夏(last summer)◆話の流れから「1941年の夏」のこと。とすると現在1942年。 p143 銃声(gunfire)◆対空砲火だろうから「砲声」の方が適切かなあ。 p147 銃声(guns)◆上記と同じ。 p147 競馬場… ニューマーケット、アスコット、エプソム、ドンカスター、ガトウィック、ルイス、ニューベリ(Newmarket, Ascot, Epsom, Doncaster, Gatwick, Lewes, Newbury) p148 二十五ペンス借りがあるだろって(tell ’im ’e owes me five bob)… あいつは賭けた(I bet him… and so ’e did)… わしは… 7シリング6ペンスもうけました(I won seven and six)… 25ペンス返してもらったら万々歳です(I reckon I shall ’ave done a treat)◆ 翻訳は全く言っている意味がわからない。原文はコックニーのセリフだがhを補えば良いだけなので意味を取るのは難しくない。まずbobはシリングのこと。I bet himのあたりは相手がノミ行為に同意した、ということ。seven and sixは7ペンスの6倍(42ペンス=3.5シリング)という意味?(翻訳通り7シリング6ペンスのほうがあり得るだろう) その後トンズラしたから迷惑料込みで全部で5シリングと言っているのかなあ。「試訳: 5シリングの貸し… 賭けたら彼は受けた… 勝ったので7ペンスが6倍になった(または、7シリング6ペンスの勝ちだった)… まあ5シリングいただければ、良しとしましょう」 p149 きょう日、ビールはべらぼうな値段(Beer’s a perishing price these days)◆1パイントあたりの値段を1939年9月と1942年4月で比較すると、Aleが4d.→9d., Ordinary Bitterが7d.→12d., Stoutが8d.→15d. (Webサイト “SHUT UP ABOUT BARCLAY PERKINS”の記事 “Draught beer prices 1939 - 1948”より) p153 二月の展覧会に出すつもり(get it in for the February show)◆作中現在は2月より前 p157 一ポンド紙幣(pound notes)… 十シリング紙幣(ten shilling note)◆いずれもTreasury noteで金との互換性は無い。 p158 ラプサンスーチョン(Lap San Suchong) p176 暖房、給湯設備つきで十二×二十フィート四方のフラットを年120ポンドで貸している(twelve foot by twenty for each tenant at a rental of £120 a year, heating and C.H.W. provided) p176 手袋… おそらく2、3ギニー(gloves… probably costing a couple of guineas the pair)◆高級品 p180 マイケル・イネス… ドロシー・セイヤーズ(Michael Innes… Dorothy Sayers)◆デテクション・クラブの内輪ネタかな?と思ったが、当時イネスはメンバーではなかった(1949年加入)。セイヤーズは1930年からの創設メンバー、ロラックさんは1933年加入。なのでここは純粋に作風からの言及。 p201 五ポンド紙幣(five-pound notes)◆White note(1793-1945)、当時のサイズは195x120mm。なお1945年から新しい£5 White noteが発行されており、サイズはやや大きい211x133mmとなった(1957年発行終了)。 p207 ソーセージとフライドポテトとアップルプディング(Sausage and chips and apple pudding)◆パブの軽食。10シリング以内。 p222 ソブリン金貨の国内流通が廃止されてから30年たつ(it was nearly thirty years now since sovereigns had been in common circulation)◆第一次大戦時に金の国外流出を恐れて金貨の流通はほぼ無くなった。 |
No.423 | 5点 | 延期された殺人- E・S・ガードナー | 2022/09/10 13:02 |
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ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン追加その2。1973年出版。 HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) ガードナー死後発表のメイスンもの2冊目、本作はなぜかお蔵入りになってた作品。The Perry Mason Book: A Comprehensive Guide to America’s Favorite Defender of Justice によると書かれたのは1939年。姉が行方不明となった依頼人。自宅でミステリを読みくつろぐメイスンは、今回は危ない橋を大胆に渡り、ホルコムと鋭く対立。銃を放り投げたり、冷たい水に浸かったり、屋敷に忍び込むなど、メイスンの冒険が見ものです。法廷シーンは予審、判事スキャンロンはかなり型破りな運営でメイスンの真相究明を助けます。全体的に筋が弱い感じですが、ホルコムが元気に活躍しているので満足です。 銃は38口径コルト、ポリス・ポジティブとコルト38スペシャル「44フレーム」が登場。44フレームという表現はコルトでは聞いたことがないのですが、S&Wにはあります。そのS&Wの.38/44(44口径のフレームを使用しており38口径の強装弾を発射出来る銃、S&Wの分類ではNフレーム)に相当する銃はコルト オフィシャル ポリスではないかと思います。 (2017/05/27) |
No.422 | 5点 | 囲いのなかの女- E・S・ガードナー | 2022/09/10 13:01 |
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ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン追加その1。1972年出版。 HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) 手直し前のほぼ完成作、ガードナー死後発表のメイスンもの1冊目。 The Perry Mason Book: A Comprehensive Guide to America’s Favorite Defender of Justice によると書かれたのは1960年。有刺鉄線で分断された新築の家、向こうにはビキニ姿の美人。カジノで遊ぶメイスン。ミランダ警告っぽいことを言うトラッグ。メイスンの無茶ぶりで食欲を無くすポール。法廷シーンは陪審裁判、バーガーは登場しません。発端はとても素晴らしいと思いますが、解決が弱い感じです。 (2017/05/27) |
No.421 | 5点 | 草は緑ではない- A・A・フェア | 2022/09/10 12:49 |
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クール&ラム第29話。1970年3月出版。HPBで読了。
シリーズ最終話ですが、特にそれを思わせる記述はありません。ガードナーの作家感がちょっと垣間見られるかも。一見単純な依頼がどんどん複雑な事件になるのはいつもの通り。メキシコ料理が美味しそう。最後はラム君が弁護士を上回る活躍を見せて幕。銃はS&W38口径1-7/8インチ銃身のリヴォルヴァー、ブルー着色、シリアル133347が登場。 |
No.420 | 5点 | 罠は餌をほしがる- A・A・フェア | 2022/09/10 12:47 |
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クール&ラム第28話。1967年3月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
Happy Birthday, Donald! ラム君の誕生日は4月15日以降の数ヶ月以内?バーサの秘書兼速記者及びタイピストはホーテンスという名で、受付係は名前不明ですが、背が高くロマンチック・タイプ、29代後半、音楽的な笑い方。バーサが家でくつろぐ時はクラシック音楽(ベートーベン第6交響曲、シュトラウスのワルツ)を聴く趣味あり。この訳ではセラーズ部長刑事がラム君につけたあだ名Pint sizeは「寸足らず君」(最初からこのあだ名を使っていなかったようなのですが、いつから使い始めたのでしょう… ざっと検索した感じでは「笑ってくたばる奴」あたりかな?) テレスポッターという電子探偵道具がちょっと活躍。物語自体は特に後半がごたついた感じで解決もちょっと複雑、頭にすっきり入りませんでした。銃は38口径廻転式コルト拳銃が登場。 (2017年7月19日) |
No.419 | 5点 | 未亡人は喪服を着る- A・A・フェア | 2022/09/10 12:46 |
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クール&ラム第27話。1966年5月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
ユスリ屋との対決が終わり、バーサやセラーズ部長刑事とともに打ち上げ。ラム君の乾杯の音頭は「犯罪のために乾杯」罠にかかったラム君はバーサや警察の手から逃れつつ調査を進め、追い詰められながらも最後に事件を解決します。銃はクール&ラム事務所の備品、38口径スナブノーズ、ブルー仕上げの拳銃が登場。 (2017年7月17日) |
No.418 | 5点 | 火中の栗- A・A・フェア | 2022/09/10 12:46 |
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クール&ラム第26話。1965年4月出版。HPBで読了。
犯罪すれすれと思われる微妙な依頼を単独で引き受けるラム君。いつものように筋は二転三転し、ラム君は窮地に… |
No.417 | 5点 | すばらしいペテン- E・S・ガードナー | 2022/09/10 10:08 |
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ペリーファン評価★★★☆☆ ペリー メイスン第80話。1969年11月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
発表当時ガードナー80歳。作者が最後まで監修したメイスンシリーズとしては最終話です。その後、手直しが必要とか編集部がはじいたとかで発表されていなかった、ほぼ完成版のメイスンもの2作が死後出版されましたが… 冒頭はいつものデラとメイスンの会話、女性の年齢当てを試みます。この6日間ひまで豪勢な食事をするドレイク。メイスンは女探偵の胸の谷間を鑑賞し、ドアを開けた女を怒鳴りつけ、デラと握手について論じあい、ドジャースの優勝予想をします。ミランダ警告が3回登場。ドレイクがメイスンに請求する料金は「いつも通りの割引値段」(the usual trade discount) 今作では法廷シーンが2回登場、最初は陪審裁判で偶然による結審、2回目は予審でメイスンによる被告側の証人尋問で解決します。なお、メイスンが黒人の弁護をするのはシリーズ初。 ところで裁判所近くの馴染みのレストランはフレンチからイタリアンに変更したもよう。お話は軽めですが、いつものように読者を飽きさせない筋立ては流石です。でも敵役のバーガーもトラッグも(ホルコムも)登場しないのが寂しい… 銃は銃身を切り詰めたレヴォルヴァ(snubnosed revolver, 詳細不明)とスターム ルガーSturm Ruger(翻訳では「ストゥアム・ルーガー」)のシングル・アクション22口径レヴォルヴァ、シングル シックス、銃身9-3/8インチが登場。 「22口径… 特別強力なピストルから、銃弾を発射」(with a twenty-two-caliber revolver, shooting a particularly powerful brand of twenty-two cartridge)「22口径と呼ばれる種類の強力なライフル銃弾」(the bullet was of a type known as a .22-caliber, long rifle bullet)と翻訳されていますが「特別強力なピストル」とか「強力なライフル銃弾」とかは、いずれも22ロングライフル弾(ピストル用の弾丸)のことですね。 拳銃についても「銃身にルーガー=22の文字と、6=139573の番号」(On the gun was stamped Ruger twenty-two, with the words single six, the number, one-three-nine-five-seven-three )と訳されているのですが、翻訳者はSingle Six(銃の商品名)を誤解。(固有名詞なのに大文字で始めないガードナーが悪い?それとも校閲者が勝手に小文字に直した?) [試訳: 銃の刻印は、ルガー22及びシングル・シックスという文字、番号139573…] このシリアルだと1959年製です。 (2017年5月27日) |
No.416 | 5点 | うかつなキューピッド- E・S・ガードナー | 2022/09/10 10:07 |
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ペリーファン評価★★★☆☆ ペリー メイスン第79話。1968年3月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
尾行者を脅す婦人。メイスン登場は第2章からですが、第1章は不要な感じ。ドレイク事務所の料金は1日50ドル(プラス必要経費) 今まで数回名前だけ出てきた女性飛行士ピンキーの詳しい描写が初登場。(The Perry Mason Book: A Comprehensive Guide to America’s Favorite Defender of Justice (English Edition)によるとピンキーはガードナーの友人で、書かれている内容は実際のネタ) 会議で演説をぶつメイスン。法廷シーンは陪審なしの裁判(多分シリーズ初)、バーガーが最後に乗り出しメイスンを非難するパターン。今回のメイスン戦術は反則気味ですが鮮やかです。全体的に中篇のネタですね。次回バーガーは出演しないので力なく腰掛ける姿が公式メイスンシリーズ最後の登場シーンです… (2017年5月26日) |
No.415 | 5点 | 美人コンテストの女王- E・S・ガードナー | 2022/09/10 10:06 |
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ペリーファン評価★★☆☆☆ ペリー メイスン第78話。1967年5月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
過去から逃れようとする女。策略を企み、思わず第一発見者になるのはいつものパターン。プライヴァシーの権利を守るメイスン。トラッグは愛想よく、ズカズカ私室に入り込み、正式なミランダ警告をかまします。法廷シーンは予審、死刑送りにするのが趣味の検事と対決、バーガーは登場なし。最後は急転直下に解決、トラッグと握手して幕。ふらふらした感じの話です。銃は38口径コルトと32口径 スミス・アンド・ウェッソンが登場。いずれもリボルバーですが詳細不明。 (2017年5月24日) |
No.414 | 5点 | 悩むウェイトレス- E・S・ガードナー | 2022/09/10 10:05 |
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ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第77話。1966年8月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) テーブルの売買、冷たい叔母、帽子箱。昼食中のデラとメイスンに近づくウェイトレス。私立探偵の料金は1日55ドル(プラス必要経費)に値上がり。家族写真なんてもう流行らないのが最近の米国の風潮。事務室にズカズカ入ってくるトラッグ、ミランダ警告(最高裁判決が1966年6月)の登場はシリーズ初ですが、作者はつい最近のネタなのにすぐ作品に反映しています。今作のメイスンはゴルフを楽しんだり、ドレイクと深夜の冒険をしたりで結構活動的。法廷シーンは予備審問、バーガーが最初から登場しますが、潔く負けを認め、最後はメイスンと握手して幕。冒頭の謎の提示がごたついており、事件の真相にもかなりの無理があると思います。 (2017年5月22日) |
No.413 | 5点 | 美しい乞食- E・S・ガードナー | 2022/09/10 10:05 |
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ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第76話。1965年6月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) 手紙、小切手、冷たい親戚。物語の前半で財産管財人の審理があります。メイスンは相手方のミスに乗じ感謝されます。ドレイクの食事を気づかうメイスン。デラがペリーと呼ぶのはシリーズ初? メイスンはドレイクと協力して依頼人を荒っぽく扱います。75歳は男ざかり、かなり頭はボケてくるが、とのセリフは作者の願望含みですね。予審ではバーガーが最後に乗り出し、メイスンが罠を仕掛け、誠実なトラッグが真犯人を逮捕して幕。 あとがきは「S」(常盤 新平)によるガードナー追悼。本書は古畑種基博士に捧げられ、裏表紙にガードナー夫妻と古畑博士の写真、古畑博士によるガードナー追悼文も掲載されています。 (2017年5月21日) |
No.412 | 4点 | 使いこまれた財産- E・S・ガードナー | 2022/09/10 10:04 |
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ペリーファン評価★★☆☆☆
ペリー メイスン第75話。1965年2月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) ビート族と財産家の娘と管財人。デラにあらためて感謝するメイスン。メイスンはメキシコで慇懃な扱いを受け、トラッグから100%の協力を依頼され、ドレイクとともに質問に応じます。法廷シーンは陪審裁判、珍しくバーガーの反対尋問が冴え渡ります。ドレイクの収入の75%はメイスンからという暴露。最後はメイスンの閃きとトラッグの協力で幕。全体的にピリッとしない話です。 銃は38口径スミス・アンド・ウエッスン、銃身の短いレヴォルヴァ、シリアルK524967が登場。このシリアルはKフレームAdjustable sight1963年製を意味します。該当銃はM15(Combat Masterpiece)かM19(Combat Magnum)、光った描写が無いのでステンレス製のM67やM68ではないでしょう。ところでバーガーは尋問中に拳銃製造メーカーの名を挙げますが「コルト、スミス・アンド・ウエッスン、ハーリングトン、リチャードソンあるいは…」(原文: Was it a Colt, a Smith and Wesson, a Harrington and Richardson, a-) 続きが気になります。 (2017年5月20日) |
No.411 | 6点 | 天皇の密偵- ジョン・P・マーカンド | 2022/09/06 19:38 |
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1938年出版。初出Saturday Evening Post 1938-7-2〜8-13(7回連載)。新庄さんの翻訳は立派な日本語ですが、会話がやや硬めかも。訳者あとがきに本書と作者についての解説があり、簡潔ですがよくまとまっています。
原題Mr. Moto Is So Sorry、モト氏は日本人のイメージどおり何度もSo sorryと繰り返します。 アジア人が多数登場するのですが、主人公の眼は子供のようにまっさらで、人種的偏見に全く毒されていません。ポスト誌らしく上品に話が進みます。英Wikiからマーカンドの略歴を知ったのですが、ちょっとシニカルな感じは生い立ちから来ているのか、と納得。当時のアジア情勢の描写でも作者の観察眼は的確で、結構リアルっぽい。話の筋はルーズな感じがしますが、いろいろと起伏に富んでいて、ふわふわした感じながらも楽しい物語でした。キャラ付けも良く、この作者の普通小説も読んでみたいと思いました。 以下トリビア。私が参照した原文はOpen Road(2015)。そこには見出しタイトルは無く、第◯章とあるだけ。この翻訳は週刊サンケイに連載されたというから、その時に編集部がつけたものか(先に結果を知らせてしまう残念なヤツがあった)。 作中現在はp107、p110、p133、p309から1937年or1938年の6月。 米国消費者物価指数基準1937/2022(20.57倍)で$1=2914円。 銃は、消音装置付き(with a silencing device)拳銃(全く根拠は無いが32口径FN1910を推す)と「38口径のアメリカ製自動拳銃(a thirty-eight caliber automatic… of American make)」(こちらも根拠は無いがColt M1908 Pocket Hammerlessを推す)などが登場。 p5 釜山(プサン)行きの連絡船 p6 薄茶色の髪(sandy hair)◆ そして「ソバカスだらけ(freckled)p6」というから「にんじん」タイプの外見なんだろうか。 p7 北平(ペイピン)◆ 当時の北京の正式名称。 p9 名刺… 長方形のカードで「I・A・モト」と印刷(a visiting card, a simple bit of oblong card on which was printed “I. A. MOTO.”)◆ ミドルネーム付き!それならクリスチャンの洗礼名かも、と妄想した。ネットで調べると、モトなら「元、本、素、茂登、毛登」などが実在する苗字のようだ。 p10 グル・ノール(Ghuru Nor)◆ 架空のモンゴル地名 p11 北京原人◆1929年12月発見 p14 一九一◯年生まれ p15 二等で下関に p22 ニューヨークなまり(have the New York voice) p31 あの大砲はドイツ製の七七ミリに見えます(Those guns look like German seventy-sevens)◆ ドイツ軍の野戦砲7.7 cm FK 16のことか。ここでは日本軍のを指しているので三八式野砲(75ミリ)だろうか。日本軍は77ミリを採用していない。 p45 リキシャー(人力車)(rickshaws) p45 ドロシキー(無蓋四輪馬車)(droshkies) p61 エール大学での成績が非常に悪かった(did very badly at Yale University) p80 ボルトはついてない(there wasn’t any bolt) p85 ドアの外に靴を置く(to put your shoes outside your door)◆ 英国の流儀のようだ p104 日本の貨幣… 真ん中に穴があいている◆ 当時なら五銭硬貨か十銭硬貨だろう。五銭ニッケル貨(1933-1938)はニッケル100%、 2.8g、直径19mm、孔径5mm、十銭ニッケル貨(1933-1937) はニッケル100%、4g、直径 22mm、孔径6mm p104 アメリカの50セント銀貨◆ Walking Liberty half dollar(1916-1947)、90%silver、12.5g、直径30.63mm p105 銃剣付きのライフル◆ 三八式歩兵銃(1905制定)だろう。 p107 六月 p110 一九三一年九月… 何年も経っていた(had happened a good many years back) p116 自動拳銃(automatic pistol)… トレンチ・コートのポケットに(slipped it into his coat pocket)◆ ここのcoatは背広の上着のこと。本書には「トレンチ・コート」の場面も確かにあるのだが、原文ではその場合、ほぼ必ずtrench coatと表現している。 p117 関釜連絡船 p121 万里の長城… 山海関 p129 中国浪人(the Old China Hand)◆ old handで「老練な者」 p133 最初は満州… ◆ ここの記述から日本は既に熱河(ジョホール)でことを起こしているようなので1933年5月以降。 p142 トレンチ・コートをぬぎ(took off his coat)… まるめてから寝台の上にのせ、枕がわりとした(rolled it up carefully, lay down on his berth and put the coat beneath his head)◆ ここも「上着」を枕にした、という場面だろう。 p145 歌の文句◆ 心配事は古い袋にしまいこんでおけ(Pack up your troubles in your old kit bag)は第一次大戦の有名曲。George Henry Powell作詞、Felix Powell作曲の1915年の作品。“and Smile, Smile, Smile”と続く。某Tubeに音源あり。詳細は英Wikiで。 以下もこの曲のリフレイン。 「艱難辛苦を肩代わりする悪魔がおるかぎり(While you’ve a lucifer to light your fag)」 「スマイルだよ、諸君、そのスタイルで参ろう(and smile, boys, that’s the style)」 「心配したところでいったいなんになる?(What’s the use of worrying? It never was worth while)」 p181 アイハラ(Ahara)◆ アハラ(阿原?)かエイハラ(栄原?)で良いのでは?無理矢理「アイハラ」にする必要は無かったと思う。 p209 三万円(thirty thousand yen)◆ 日本消費者物価指数基準1935/2021(1838倍)で当時の¥30000は現在の5500万円に相当。作中現在より昔の話なので実はもっと価値があったろう。 p226 自明の運命(manifest destiny) p227 客室の小さい飛行機(a small cabin plane) p248 トレンチ・コートのポケットに(side pocket)◆ ここも余計な「トレンチ」の付加。試訳: [上着の]サイド・ポケットに p257 ライフルを手にしたひとりのモンゴル人◆ 当時の装備はソ連系か?モシンナガンのドラクーン版を推す。詳細未調査。 p309 黒竜江(アムール)で◆ 乾岔子島事件(1937年6月〜7月)のことか p327 小麦色の手(brown hand) p333 家の中はだらしなくしてる(you’re disorderly around the house) |
No.410 | 7点 | 絶望- ウラジーミル・ナボコフ | 2022/09/02 07:12 |
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1934年パリのロシア語雑誌での連載が初出、1936年ベルリンで単行本(ロシア語)出版。作者による英訳(ロンドン1937)は印刷されたが戦火で焼かれ、ほとんど残っていない。サルトルが仏訳を読み、レビューしたくらいだから少しは注目された作品だったのだろう。1965年米国で作者による再度の英訳が出版された。このときは結末に追加があるが、訳者あとがきによると全体の修正はあまり多くないようだ。私が読んだのは光文社文庫版(2013)で1936年ロシア語版からの翻訳。軽さを出したつもりの文末の「さ」「ね」は目障り。もっと減らして欲しいと感じたが、その点以外は安心できる文章。なお1965年英語版の翻訳は白水社(1969 大津 栄一郎 訳)から出版されている。
ブンガク音痴の私は、この小説を探偵小説として読んでみた。 事前情報は遮断しておくのが、この小説でも吉。最初は手探りするような感じだが、すぐにぼんやりと、コイツ、何か企んでるな?と気づく。作者は結構ミステリを読んでいたのでは?と思わせるような、ちょっとミステリ好きを感じさせる記述がある。自意識過剰で文学かぶれの饒舌な語り手、つねに読者を意識してポーズをとっている語り手の心理とやらかす行為と乱れる回想や妄想などが上手に配置され、特に時間の扱い方が素晴らしい。アントニー・バークリーの作品、としても通用するのでは?とすら思った。少々枯れたバークリーで、ミステリ的な奇想、派手なトリックには欠けているので、大傑作ではなく中傑作、という感じ。ミステリ・ベストテンには入らないが、ベスト30にはぜひ入れたい作品。 探偵小説というジャンル小説は、謎の解決やトリックを重視するあまり、どうしても登場人物の心理と解決篇との間に断絶が見えることが多く、全体の統一感が終幕で「無理無理無理!」という音を立てて木っ端みじんとなっちゃうのがほとんどなのだが、この小説の心理空間はエンド・マークに至るまで首尾一貫している。そのため余韻の残る見事な喜劇(笑えないけど)になっているのだ。 ミステリ的読者には、大きな不満が一つだけ。探偵小説なら、アレを絶対に気にするはず。ヒントは使徒行傳8:9(文語訳)4〜6文字目(ネタバレ回避の策です)。 でもよく考えると、ミステリ的読者なら「えっ!なにこれ?アホくさ」という感想になるのかなあ。私は大ネタについて非常に納得しちゃったが、そうじゃない人のほうが多いかも知れない。 以下トリビア。【 】内の英文字は1965英語版から拾ったもの。原文ロシア語は私には無理なので全く参照していません。 作中現在は冒頭が1930年。 現在価値は金基準1930/1970(1.52倍)、西独生計費指数1970/1992(2.27倍)、独消費者物価指数1992/2022(1.78倍)で合算して6.14倍、1マルク=3.14€ =430円。なお生計費指数は『マクミラン新編世界歴史統計1: ヨーロッパ歴史統計1750-1993』によるもの。 銃は「回転式拳銃(リヴォルヴァー)」という単語が出てくるが、これはフランス語風にハンドガン=ピストル、という意味のrevolverだろうと思う(ロシア語の用法は不詳なのでここは保留しておきましょう)。将校のブローニング、1920年に入手、というような記述もあるので自動拳銃のFM1910のような気がする。(情報不足なので特定は出来ません…) p23 百マルク◆ 賭け金 p26 十コルナ◆プラハにて。当時のレートは1マルク=8コルナ。10コルナ=538円。 p31 アムンゼン◆ Roald Engelbregt Gravning Amundsen(1872-1928) 主人公が自分と顔が似ている、と言っている。とするとちょっと冷たい感じの顔なので一人称は「ぼく」っぽくないなあ。 p34 メイド p37 マジパン p39 木にふれる p41 くだらない犯罪小説【some rotten detective novel】◆ 読み出したらやめられない感じがよく出ている。 p49 ゴーゴリ・モーゴリ p54 土地… 頭金の百マルク… テニスコート二面半 p69 日本人なんて全員似たもの p73 映画の手法◆ 当時はトーキー(1927年以降)が出始め。 p76 『その一発』◆プーシキン作の傑作短篇。短篇集『ベールキン物語』(1831)に収録。ロシア人って乱暴だねえ。 p81 お茶をドイツ人がよくやるように混ぜた◆ スプーンを使わず、円を描くように手を動かすやり方 p91 ドイツ語「クニカーボカース」 p92 二十マルク◆ 肖像画代(友人価格)。 p93 『死の島』◆ベックリン作 Die Toteninsel、5作あり(1880-1886) p106 ドゥラキー◆「訳注 ロシアのトランプ・ゲーム」Wiki「ドゥラーク」参照。綴りはдурак(durak)のようだ。 p107 手になにかを持って歩くのがたまらなく嫌だ◆ これには非常に共感。 p108 ゲートルを巻く p111 隠したものを見つける遊び◆「訳注 さむい、あたたかい、あつい…」英Wiki “Hunt the thimble”参照。 p130 パスカルの名言 p132 二十五通りの筆跡 p135 車の諸元は省略◆ 残念。 p136 ラグー料理 p145 毎月百マルクを◆ 割の良い仕事 p147 国産のピンカートン◆ 当時のロシアでは探偵小説の代名詞だったようだ。 p157 千マルク札◆ 画像はFile:1000 Reichsmark 1924-10-11.jpgで。1924年発行。サイズ190x95mm p167 鼻持ちならないあの物理学者の大先生などが◆ 誰のこと? p168 教会の歌い手が響かせる連続装飾音(ルラード) p171 映画の初回の上映… 大評判の映画◆この場面は1930年末ごろか。もしかして『西部戦線異常なし』(米国公開1930-4-21)かも。(ナボコフは本書の映画化をこの監督に依頼したいと思っていたらしい) p186 ブリヌイ p190 三マルク◆ 貧乏人への喜捨 p192 郵便ポストの濃い青◆ ドイツの郵便ポスト。blue mail box germanyで見られるようなものか。ちょっと意外なメルヘンチックなデザイン。 p192 青く塗られた… 切手の自動販売機◆ Briefmarkenautomat 1930 で見られるようなものか p193 題辞(エピグラフ)… 文学とは人々への愛である【Literature is Love】 p201 コナン・ドイル君!自分の主人公たちに飽き飽きして、みずからシリーズを終結させたときのいさぎよさ【Oh, Conan Doyle! How marvelously you could have crowned your creation when your two heroes began boring you!】 p202 最後の短篇…ピーメンその人、つまりドクター・ワトソン◆ 作者はあの作品に言及しているのか? p202 ドイルやドストエフスキイ、ルブラン、ウォーレス◆ 有名なミステリ 作家たち。 p203 トランプのペイシェンス遊び p207 虹色をしたガラスの球を◆ 子供たちが路上で遊んでい p208 ガラス張りの電話ボックス◆ Deutsche Reichspost's payphone kiosk model FeH 32は1932年からの設置なので、それ以前のもの。未調査。 p213 首筋をはじいて◆「訳注 飲酒を意味するジェスチャー」Web記事“5 gestures only Russians understand”がGIF付きでわかりやすい。 p214 ぼくを名と父称で呼んだのはたぶんこれがはじめてだ◆「訳注 ロシアでは敬意を示す場合に呼ぶ」知りませんでした。 p214 百や二百でも貸してもらえば p219 首相の演説◆1931年2月ごろのようだが p221 二百マルク◆ 外国旅行代 p229 コカインを吸い、はては殺人まで p240 シャーロックの冒険を思い出して◆ これは明白にT… B… の冒険の事ですね。 p245 イクス◆ 1965英語版ではPignan p256 クロワッサンにバターを p257 接吻… 日本人も… 相手の女性の口を吸うことはけっしてない p261 慣れ親しんだ革命前の正字法 p263 ソヴィエトの若者たち… アメリカ人… フランス人… ドイツ人 p267 レモン水 p269 バンドで縛った教科書を持って◆ 子どもの情景 p272 カツレツ(シュニッツェル) p277 十七マルク五十ペニヒ◆ひげ剃り用ブラシの値段 p280 フレゴリ某【Fregoli】◆「訳注 当時著名だったイタリアの喜劇俳優。早変わりと物真似を得意とした。」Leopoldo Fregoli(1867-1936) p288 そのトランプが… 大判なうえに赤札と緑札に分かれていて、どんぐりの絵が描いてある◆ ドイツ風の絵柄のようだ p294 ドストエフスキイの『罪と罰』 p307 ナプキンリング◆ napkin ringを今回調べて初めて知りました。 p309 オウム病 p315 ランドルー【Landru】◆「ランドリュー」が定訳。現代の青髭Henri Désiré Landru(1869-1922) p324 「いとしい女(ひと)よ、私を哀れんでおくれ…」なんてロシアの流行歌を【singing of “Pazhaláy zhemen-áh, dara-gúy-ah.…” “Do take pity of me, dear.…”】◆ 未調査 p335 ドイツのとちがって、フランス製の煙草は p342 ドストエフスキイばりの悲惨な話 |
No.409 | 6点 | 二人のウィリング- ヘレン・マクロイ | 2022/08/27 09:00 |
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1951年出版。渕上さんの翻訳は安心感があります。訳者あとがきも上質。
私は、本書の献辞「クラリスとジョン・ディクスン・カーに愛情を込めて(To Clarice and John Dickson Carr / With affection)」にびっくり。「訳者あとがき」に渕上さんの解説があるので、そこを参照ください。まあでも渕上さんが触れていないJDC/CDとマクロイさんの共通点を書いておきましょう。 まずは二人ともスコットランド系で、スコットランド愛に溢れた作品を発表しています。それから若い頃のパリ経験があり、フランス語を作中でネタにすることがあります。それからシャーロッキアンであるのも共通点でしょうね。二人ともお互いの作品は好きだと思います。 ここでWebでいろいろ探して発見したマクロイさんのエピソードを一つ。 1950年、ブレット・ハリディ夫妻はMWAアンソロジー(Twenty Great Tales of Murder)のために、いろいろな作家に作品を依頼していた。ハリディはロバート・アーサーの作品を得たかったのだが、なかなか送って来ない。それでマクロイさんに「色仕掛けでも使って、アーサーに作品を送らせてくれ!」と言ったら、Those who know Helen McCloy will understand why an Arthur story arrived within a week or so.(ヘレン・マクロイを知ってる方なら、アーサー作品がすぐ届いたことに不思議はないでしょう) なお、この時のアーサー作品は「モルグの男」(The Man in the Morgue、多分書き下ろし) JDCもこのアンソロジーに書き下ろし作品「黒いキャビネット」(創元「カー短篇全集3」)を提供していて、巻頭第一作目に収録されています。献辞はその御礼の意味もあったのかも。 さて本書はつかみがバッチリ。一気に物語に引き込まれます。やや中だるみがありますが、最後まで興味深い作品。まあでも私はいつもマクロイさんの作品にはコレジャナイ感を覚えるのです(『死の舞踏』を除く)。 語りに登場人物の内省が多く入るのですが、それがコントロールされ過ぎてて、ちょっとズルい記述方法なのでは?と感じます。探偵小説の性質上、読者に隠している内なる感情は、実は、書いたらバレちゃう内省の時、その瞬間に最も強く登場人物に表出されているはずだ、と思うからです。リアルで細やかな登場人物の内なる声が書かれているマクロイ作品だからこそ、ここの不自然な感じが気に入らないんです。他の方はそんな感想を持たれていないようなので、私の考えすぎなのかも知れませんが… 他の方々の評と言えば、人並由真さんとkanamoriさんのには唸りました。私は全然気づいていませんでした。 ああそれからマクロイ作品は陽光が人の裏側にささない感じです。つまりみんな正直タイプ。捻くれていないんです。マクロイさんの性格がきっとそうなんでしょうね。 ついでにマクロイさんはリアリスティック・タイプとされていますが、探偵小説的なトリックは結構トンデモだと思っています。小説の語り口がリアリスティックで上手なのですが、妄想的なトリックや状況設定は探偵小説がとても好きな人なんだろうなあ、と思わせるのでミステリ・ファン的には好感度が高い。でも、普通の小説が好きな人にはどうかなあ。そこがJDC/CDとの共通点だと思っています。 |