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弾十六さん |
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平均点: 6.13点 | 書評数: 459件 |
No.359 | 6点 | 陸橋殺人事件- ロナルド・A・ノックス | 2021/12/09 04:53 |
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1925年出版。昔読んだ創元文庫が見当たらず、グーテンベルグ21の電子本で買いなおしちゃいました。翻訳はどちらも宇野先生で、多分中身は同じはず。いつものように立派な翻訳です。
この作品、巷ではたいそうなキャッチフレーズが付いてますけど、作者の初お気楽小説なんだから、そんなに肩肘張る必要は全くなくて、しかも1925年という黄金時代でも結構早い部類。読み終えた感想としては『木曜』(1908)、『トレント最後』(1913)、『赤い館』(1922)のライン(特に後者2作品)、いずれも作者は「真面目に」探偵小説を書く気なんて全く無い。いずれも探偵小説が大好きなのは間違いないけれど。本作は楽しいパロディですよ、というのが最初からあからさまですよね(特に第一章の探偵小説談義)。 さてノックスさんは英国カトリック転向作家の一人。こちらはノックス(1917)、チェスタトン(1922)、グレアム・グリーン(1926)、イヴリン・ウォー(1930)というライン(イヴリンさんはよく知りません、すんません)。その中でノックスさんが一番、実生活では宗教的だったのですが、小説には宗教風味を持ち込んでいないように思う。まあでも立場上なのか性格なのか探偵小説は穏当な作品ばかりだと感じています。少なくとも意地悪とかひねくれてるとかいう作風じゃない。歪んでいないバークリー、というキャッチフレーズで如何でしょうか。 本作について言えば、のちのブリードンものに比べても軽い気楽な世界を目指している。古き良きイングランドへの想いと新流行のゴルフやブリッジに興じる紳士たち(JDCがゴルフもブリッジもやんねーよ!ありがたいことに!と書いたのは1932年、それに対して流行に敏感なお嬢さまアガサさんはゴルフもブリッジも大好きだった。サーフィンを本格的にやった初期の英国人女性でもある)。本作は推理ものとしての醍醐味、奇想天外な理論も出て来るので本格ファンにも楽しい話に仕上がってると思います。結末に不満な人は多いでしょうけど。(私もやや不満派、ただしなんか匂わせてる気もするんですよ… まあでもピンと来ないからそういう意味ではないと思いますが) 以下トリビア。 作中時間は十月十六日(p33)に始まり、「十月十七日水曜日(p46)」と明示されているので 該当は1923年。「ある少年(p23、後述)」の話題が前後しちゃうのですが、まあ良いでしょう。 冒頭、ガボリオ『ルコック探偵』からの引用あり。私が参照した原文(Orion House The Murder Room 2012)には載っていませんでした。さらに初版Methuenの写真を見ると献辞もありそう(Tony Wils…さんに捧げられているようなんですが、文字が切れてて読めません)。(追記2021-12-10: 初版本の書影を色々検索したらebayで見つけました。Dedicated by command / to / Tony Wilson 「ご下命により捧ぐ トニー・ウィルスン様へ」みたいな感じ?誰だかは調べつかず) p4/311 情報について言えば、真実らしきものを疑い、真実らしからざるものを信じてかかるのが要諦である。 ──ガボリオ『ルコック探偵』♠️未読なので、引用元は調べていません… (追記2021-12-10: In the matter of information, above all, regard with suspicion that which seems probable. Begin always by believing what seems incredible —— Gaboriau, Monsieur Lecoq) (追記2021-12-11: 引用元を調べました。“Monsieur Lecoq”(1868) Chapitre 14から。≪En matière d’information, se défier surtout de la vraisemblance. Commencer toujours par croire ce qui paraît incroyable.≫ ここではルコックが名声を成した原則として紹介されている。フランス語の感じだと「情報の取り扱いは、本当らしく思われる解釈にすぐに飛び付くなかれ。信じられないようなことでも信じることから常に始めよ」あたりか。宇野先生の翻訳だとチェスタトン流の逆説みたいだが、実際は「事実に即してまずは受け止め、安易な判断をするなよ」という当たり前のルール。なお、フィルポッツ『レドメイン』(1922)にも「ガボリオがどっかで言ってたが… 」と全く同じ文句が引用されていた) p10 戦術にいう中空方陣(hollow square)♠️最近たまたま観た映画The Light That Failed(1939; 原作はキプリング 1891)に出てきたような陣形なのかなあ。 p15 『緑の親指の謎』(The Mystery of the Green Thumb)♣️『赤い拇指紋』(1908)を連想しちゃいますよね。 p15 最近の靴屋どもはしめしあわして、人類の足のサイズは六種類にすぎぬと思い込ませようとしている。アメリカからそのサイズばかりが輸入されてくるので、われわれイギリス人はその均一サイズに足を合わす努力を強いられている(The bootmakers have conspired to make the human race believe that there are only about half a dozen different sizes of feet, and we all have to cram ourselves into horrible boots of one uniform pattern, imported by the gross from America)♠️原文では「米国からグロスで」とあって、大量生産ものが流れ込んでくるイメージ。なお靴のUSサイズとUKサイズは異なるので、多分UKサイズ表示のものを米国で生産して輸入してる、ということだろう。第一次大戦後は米国が世界の工場となったのだ。 p18 検死審(インクエスト)♠️「検死審問」という翻訳語より好き。こっちを定訳にして欲しい。別名coroner’s courtは「検死官審廷」が良いなあ(裁判ではないので、法廷とは言いたくない)。いずれインクエストについてはガッツリ書く予定… p23 かつてアメリカのある少年が、人を殺したらどんな気持ちになるかを知りたいだけで、友人を殺してしまった事件がある(Look at those two boys in America who murdered another boy just to find out what it felt like)♠️原文の書きっぷりだと完全にLeopold and Loeb事件のこと。事件発生及び世紀の裁判の判決はいずれも1924年なので、この会話が1923年になされているのはおかしい。翻訳で「二人の」を省くのはどうかなあ、another boyは「友人」じゃないし… p28 キャディ♠️少年がやっている。p103も参照。 p31 二シリング銀貨(two florins)♠️当時のフローリン銀貨はジョージ五世の肖像、1920-1936発行のものは.500 Silver, 11.3g, 直径28.3mm。英国消費者物価指数基準1923/2021(63.51倍)で£1=9909円。2d.=991円。 p33 腕時計と懐中時計(a stomach-watch… a wrist-watch)♠️”stomach watch”でググっても懐中時計としての用例が全然出てこない。死語なのか?本書だけの造語なのか? p34 当時はすでに警察官がオートバイを使用していた(for they have motorcycles even in the police force)♠️米国では1908年採用のようだが、英国の開始年は不明、第一次大戦後のようだ。「サイド・カー付きのモーター・バイク(“a motor-cycle, with side-car” p175)」も出てくる。 p40 四シリングあれば、三等じゃなくて、一等乗車券が買える(That extra four bob would have got him a first instead of a third) p42 デイリー・メイル p42 身なりから見て、家に電話を備えている(A man dressed like that would be sure to have a telephone)♠️英国での電話普及率は低かった。Charles Higham “Advertising: Its Use and Abuse”(1925)によると「電話機の普及率は英国では47人に1台、米国では7人に1台、オセアニアでは12人に1台」、ノックス『まだ死んでいる』(1934)でも家族に勧められて嫌々ながら家に電話を引いた地方の名士が登場していた。そこから考えると、ここは「こーゆー(新し物好きそうな感じの)身なりなら電話を引いてそう」というニュアンスか。 p46 ロンドン・ミッドランド・アンド・スコットランド鉄道会社(London Midland and Scottish Railway)♠️「ロンドン・ミッドランド・アンド・スコティッシュ鉄道」でWikiに項目あり。全国300ほどの鉄道会社を4企業体にまとめる大合併で1923年1月1日に成立。 p48 hem(ハム)と書くつもり♠️誤植?原文”ham” p51 自殺者をうちの教会の墓地に埋葬するわけにいかない(suicide; and then I can’t bury the man in the churchyard)♠️2015年のデイリー・メイルの記事で、ようやく英国教会が公式に自殺者であっても教会の聖別された墓地に埋葬することを認めた、とあった。従来も非公式に各教会が独自判断で実施していたらしいのだが、公式見解は「自殺者の埋葬は夜中にキリスト教の儀式なしで、教会墓地の外側に」というものだったようだ。なお後段(p101)に出てくるが、精神が正常でない状態での自死の場合は教会墓地に埋葬可能。 p54 デイリー・テレグラフ p60 アメリカの生命保険会社と契約しておったらしい。あちらの会社は、わがイギリスのと違って、そう簡単には保険金を支払おうとしない。徹底的な調査を行なうのだ(was insured at one of these American offices. And they’re a great deal more particular than our own Insurance people)♠️ノックスの後のシリーズ探偵ブリードンは保険調査員。確かにブリードンはゴリゴリの厳しい調査をしてない感じ。 p61 母斑(birth-marks)♠️英Wiki “birthmark”参照。ここでは死体の身元確認に使っている。 p63 聖ルカ祭の日♠️the Feast Day of St. Luke(October 18th) p71 ミス・コレリ著の『サタンの悲しみ』(The Sorrows of Satan, by Miss Corelli)♠️ The Sorrows of Satan is an 1895 Faustian novel by Marie Corelli(1855-1924). It is widely regarded as one of the world's first bestsellers、書名も作者も英Wikiに項目あり。通俗小説作家でよく売れていたようだ。『ヴェンデッタ』(1866)が有名らしい。 p72 J・B・S・ワトスン著『人格の形成』(Formation of Character, by J. B. S. Watson)♠️Formation of Character by Rev J. B. S. Watson (London, H. R. Allenson 1908)、調べたが、これ以上の情報が無い。Revなので宗教関係者だろう。 p72 六ペンス(sixpence) p81 アイルランド語はラテン語と同様に、《イエス》《ノー》にあたる語彙を欠いている(Yes, or No…. there is no native word for either in Irish, any more than there is in Latin) p87 五十ポンドの賞金のかかったゲーム(for fifty pounds)♠️ゴルフの試合 p98 次の日の午後(木曜日の午後である)、パストン・ウィットチャーチの小学校で、検死審が開かれた(inquest was held on the following afternoon (that is, the afternoon of Thursday) in the village school at Paston Whitchurch)♠️インクエストは必ず公開され、広い場所で開かれる(パブが多かったようだ)。48時間ルールも伝統か。 p100 次の部屋に死体が安置(about the mangled temple of humanity that lay in the next room)♠️当時のインクエストでは陪審員が死体を実見する(view the body)慣習があったようだ。なので48時間以内に開催されるのかも。 p101 望みは考えの父(the wish is father to the thought) p111 カウンティ・ヘラルド(County Herald)♠️地方紙っぽい名前。 p115 ブリッジ p128 モメリーの『不滅の生命』(Momerie’s Immortality)♠️Alfred William Momerie(1848-1900) “Immortality; a series of 35 chapters” (1904)か。説教集のようだ。(追記2021-12-10: Internet ArchiveにGoogle複写のこの本(表紙の一番上に”First Cheap Edition - Sixpence”と書いている)のファクシミリ版があって、本書のやり方を試してみたらピッタリ… と思ったら6番目以降はちょっとズレてて10番目は欠だった。残念。実際にやってみると夢中になっちゃいますよね) p134 イギリスの文化人の多くは火葬を希望するようだが、その気持ちは了解できる(One understood why people wanted to be cremated)♠️ 当時(1925)の英国(イングランド及びウェールズ)の火葬率は0.5%、1%を越えたのは1932年で、10%を越えたのは1947年。1967年には50%を越え、2020年には81%となっている。続く文章に出てくる村人との対比で「文化人の多く」と訳したのだろうか。試訳: 火葬を希望する人の気持ちはわからんでもない。 p142 ペジーク(bezique)♠️「べジーク」トランプ・ゲーム。 p150 希望と栄光の国(Land of Hope and Glory)♠️英国の愛国歌。曲Edward Elgar(1901)、詞A. C. Benson(1902) p152 狩りの古謡のもじり♠️ここは宇野先生の補い。ここら辺の歌は実はみんな元ネタがあるのかも。難しいのでパス。これだけ原文をあげておきます。 “Yes, I ken that chest, it’s as full as can be With my own odds and ends, and it’s all full of drawers, And the key’s on the mantelpiece if you don’t believe me With his hounds and his horn in the morning” 探すとJohn Peel(Roud 1239)という歌があって、なんか似てる。ジョン・ピール(1776-1858)はカンブリア地方の狩人。 “D'ye ken John Peel with his coat so gay, D'ye ken John Peel at the break of the day, D'ye ken John Peel when he's far, far away, With his hounds and his horn in the morning?” p156 アニー・ローリー p172 ぼくの車♠️相変わらず車種やメーカーに全く興味のないノックスさん。「楽に五十マイル出る」車らしい。 p205 このローカル線の乗客は、持っているのが三等切符なのに、列車が混みだすと、平気な顔で一等車に入り込む(because lots of people on this line travel first on a third-class ticket when the trains are crowded) p217 《出席調べがすんだ》(これはオックスフォード大学の学生用語である)(“kept a roller” (in Oxford parlance)) p217 文字謎遊び(アクロスティック)♠️ アクロスティックと言えばルイス・キャロル(ああ苦労す知句!)とか『赤毛のレドメイン』(1922)を思い出す。クロスワードの英国での流行は1924年から。セイヤーズのクロスワード短篇ミステリは1925年。 p224 ワーカーズ・アーミー・カット(Worker’s Army Cut)♠️ポピュラーなパイプタバコの銘柄のようだが調べつかず。 p235 讃美歌「主よ、みもとに近づかん」(Nearer, my God, to Thee)♠️詞Sarah Flower Adams, 曲はJohn Bacchus Dykes(1861 Horbury, 英国で主流)、Arthur Seymour Sullivan(1872 Propior Deo, 英国メソディスト)、Lowell Mason(1856 Bethany, 英国以外で主流)の3種類あるようだ。ここはDykes版か(某TubeではGuildford Cathedral Choirなどで聞ける)。 p260 通話管(speaking-tube)♠️昔はお屋敷だったのを改造した建物なので、元々は召使いへの連絡用として設置されていたものか。 p270 『万事露顕せり。急ぎ逃亡せよ』と電報を打った男(like the old story of the man who telegraphed to the Bishop to say ‘All is discovered; fly at once.’)♠️このエピソード、Webで検索するとコナン・ドイルかマーク・トウェーンの悪戯として有名らしい( どちらも12人に送ったら全員逃げて行方不明になった、誰にでも脛に傷があるよ、というネタ)。シャーロック聖典にも似たような電報があった記憶… 『グロリア・スコット』(1893)だっけ?(そこでの文面はThe game is up. Hudson has told all. Fly for your life.) 元ネタを調べた人がいて、Tit-Bits紙1897-9-18に、コナン・ドイルの友人がa venerable Archdeacon of the Churchに、ふざけて‘All is discovered! Fly at once!’という電報を送ったら、その尊いお方が行方不明になっちゃった、という悪戯の記事が見つかった。(arthurcdoyle.wordpress.com) なおノックスの原文には「主教に電報を打った」とあり、Tit-Bitsのarchdeacon(bishopの次の階位)と呼応している。 p276 診察料の二ギニー(a couple of guineas)♠️精神科(a sort of nerve man)の一回分の料金。 p293 チッキは日本でも国鉄が行っていた小荷物輸送サービス。1987年終了。私は使ったことは無かった。 |
No.358 | 6点 | エレヴェーター殺人事件- ジョン・ロード&カーター・ディクスン | 2021/11/18 11:34 |
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1939年出版。英題Drop to His Death 米題Fatal Descent。
JDC/CDの22歳上(ミステリ作家としては6年先輩)の作家ジョン・ロード(John Rhode)との合作。ジョン・ロード&カーター・ディクスンという順の作家名で売られた。 ダグラスグリーンは伝記で、本作はほぼJDC/CDが書いたのでは?としているが、私も読んでみてそう思う。でもメインねたは確かにJDC/CDっぽくない。結構いろいろ工夫があり、面白いけど、なんか普通な感じ。JDC/CD作品なら、いい意味でも悪い意味でも「アッ!」となりたいんだよね。 昔のミステリなので、探偵が決定的に気付く発端は当時特有のもの。多分現代の我々が解説されてもピンと来ないネタ(p225)。舞台が出版社なので、作家たちにとっては馴染みの場所。セイヤーズの広告会社もの(1933)と同様、お仕事もの、職業内情ものという感じだが、インサイダー味は薄い。 以下トリビア。原文は手に入らず。 銃は.45口径の連発拳銃(p45)で「西部ものの参考に」というので絶対コルトSAA(いわゆるピースメイカー)だと思ったら、英国陸軍御用達ウェブリーリボルバー(p72、表記は「ウェブレイ」)だって。弾込めの機構が全く違うので、参考になるかーい!国も全然違うやんけ!とガンマニアなら強くツッコむところ。でも第一次大戦に従軍した青年には、母親がピストルを買ってくれるのが普通(p71)で、当時最上等のピストルだった(p72)というのが親の愛を感じさせて良いエピソード。Webley Revolver Mk. VIでしょうね。 作中年代は、1938年3月10日の二か月後(p68)で、多分5月18日(水)、トリビアp148参照。 p9 それはいい本ですか?♠️出版社のモットー(架空)。 p14 A課♠️訳注 貴族関係などを取り扱う。 p20 著者なんて糞くらえ♠️楽屋話。 p22 スペクテイター紙♠️判型の大きさをWebで調べたが見つからなかった。ちょっと大判の書籍くらいのサイズかな?タブロイド版よりは小さそう。 p27 大西洋横断のジョージ・ベルサイズ♠️架空人名だがリンドバーグがモデルか?とすると「ダグラス機の『ブリストル・ブルドッグ』(p39)」はSprit of St. Louisか。機の名前から考えて偉業を行ったのは英国人という設定なのだろう。 p34 年に七、八百ポンド♠️英国消費者物価指数基準1938/2021(70.69倍)で£1=11030円。 p45 リトル・ジャック・ホーナー(Little Jack Horner)♠️マザーグースに出てくる。Roud Folk Song Index #13027、18世紀初頭には言及あり。 p49 五ポンド♠️賭け金。かなり確かな賭け。 p53 どんな天気でもレインコートを着ていた♠️ホーンビームの特徴 p62 全社員は、このクリスマスに俸給の五分の、特別手当を貰う♠️ボーナスという事だろう。 p69 新しい半ポンド金貨♠️長く会社に仕えた記念品として。ジョージ六世のHalf-Sovereignは1937年戴冠記念として他のコインとセットで発行されたものしかないので、かなりのレアものだと思う。純金、4g、直径19mm。それ以前の半ソブリン金貨は同サイズでジョージ五世のもの(発行1911-1926)。 p73 もっといい結婚… 聖マーガレット教会での挙式やタトラー画報に載るような縁組♠️そういうイメージなんだ。聖マーガレット教会(The Anglican church of St Margaret, Westminster)はウェストミンスター宮御用達の教会。タトラー(Tatler)は写真入りの総合月刊誌、1901年創刊。 p77 クロックフォード♠️「訳注 ロンドンの有名なクラブ」だが、中桐先生には珍しい勘違い。正解は「英国国教会の聖職者名簿(Crockford's Clerical Directory)」初版1858(The Clerical Directory) 1876年からは、ほぼ毎年新版が出ている。 p83 ライス・シングルトン社製モーター♠️多分架空。 p85 格子戸♠️エレヴェーターのドアの折りたたみ式。動かすと止まる。ロンドンでは設置が法律で規定されている? p94 あの不愉快なABCの仲間入り♠️数学の教科書でお馴染みのトリオ。 p101 オランダ式断髪♠️Dutch bobだろう。 p114 ドイツ時計♠️ソーンダイクものでお馴染みディケンズ由来のDutch Clock(装飾のない安い柱時計)か。 p123 おお、大海原のわが暮らし、 / 波間に揺れるわが家よ♠️"A Life on the Ocean Wave" はEpes Sargentの1838出版の詩にHenry Russellが曲をつけたa poem-turned-song(Wiki)。(コーラス部分)A life on the ocean wave, / A home on the rolling deep p135 プレイヤーの空箱♠️訳注 タバコの銘柄。PlayersというとF1の真っ黒な車体を思い出す。マルボロ・カラーの車体もあった。すっかりタバコが追放された現代では隔世の感がありますねえ… p135 ブラック・ビューティ社のチョコレート入りペパーミントの箱♠️薄荷菓子(p176) 多分架空ブランド。 p148 六月号は二日前に出版され… [他の雑誌は]五月の二十三日と三十日まで出なかった♠️事件の日付の手がかり。5/23と5/30はいずれも月曜日。ということは、六月号の出版は9日か16日だろう。事件は5/18発生の可能性が高そうだ。 p153 映画館… ストランドのティヴァリ館♠️多分架空。 p195 フランスの道化芝居 p205 召使い用の階段… 召使い用のエレヴェーター♠️屋敷の動線は、当然だが分かれている。 |
No.357 | 6点 | 犯罪の中のレディたち 女性の名探偵と大犯罪者- アンソロジー(海外編集者) | 2021/11/16 05:19 |
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1943年出版、1947年英国版、内容に英米版で異動あり、日本版は贅沢に全部収録。さらにEQが都合で省いた「マッケンジー事件」を収録した「完全版」となっている。さすが厚木大旦那。
短篇が上下で24篇と多く、一気に読むのは大変なので、後で徐々に埋めていきます。私の持ってる版は創元文庫1979年6月(上巻)、8月(下巻)で、真鍋博のヘンテコな表紙画。 以下、EQは多くの場合収録されている短篇集しか挙げていないので、初出はFictionMags Index調べ。 (以上2021-11-16記載) ***** 上巻(1) Spider by Mignon G. Eberhart (初出The Delineator 1934-5)「スパイダー」 ミニヨン・G・エバーハート: 評価6点 スーザン・デアもの。The Delineator 1934-4 “Introducing Miss Susan Dare”が初登場らしい。初出誌は寄稿者も女性が多そうな感じの女性誌、小説は毎号4,5篇、挿絵付き。 とても恐ろしい雰囲気と合理的な解決。探偵小説の見本ですね。 p20 小さいジョニーは妹を吊るした…♣️不気味な歌?調べつかず。原文をあげておきます。Little Johnny hung his sister. / She was dead before they missed her. / Johnny’s always up to tricks, / Ain’t he cute, and only six— p24 耳が聞こえません(deaf)♣️続く場面では、大声なら聞こえるという描写。「耳が遠いのです」または「耳がよく聞こえません」が正解だろう。 (2021-11-29追記) *************** 上巻(5) Murder in the Movies by Karl Detzer (初出The American Legion Monthly 1937-5 挿絵J. W. Schlaikjer)「撮影所の殺人」カール・デッツァー: 評価6点 多分シリーズものではなさそう。初出誌はWebで無料公開されている。 映画の撮影場面が生き生きと描かれていて面白い。ドキュメンタリー・タッチ。所々に映画関係者の実名を挟んでいる。(グローヴァー・ジョーンズ、クラーク・ゲーブルなど) 原文ではもっと豊富かも。(全体は未確認だが、翻訳では省略されているJoseph B. Mankiewitzを見つけた) (2021-11-30追記) *************** 上巻(6) Squeakie's First Case by Margaret Manners (初出EQMM 1943-5)「スクウィーキー最初の事件」マーガレット・マナーズ: 評価5点 スクウィーキー・メドウ(Squeakie Meadows)もの。Squeakyってネズミのチューチューとか靴のキュッキュッという音らしいのだが、そういう感じの声ってこと? 独特の語り口でスムーズにいかない感じ。ちょっとどうかなあ、というストーリー。 p219 ジン・ラミー(Gin rummy)◆二人用のカード・ゲーム。Culbertson's Card Games Complete(1952)によると”The principal fad game, in the years 1941-46, of the United States, Gin Rummy (then called simply Gin)… adopted by the motion-picture colony and the radio world”、ジン・ラミーと言うと『アパートの鍵貸します』(1960)を思い出すなあ。 p220 女性の化粧品◆リストあり。知識がないのでパス。 p220 政府は、つぼはとっておいて詰めなおせと◆戦時中の節約スローガン、との訳注あり。WWIIの1943年ポスターで”Save Your Cans”(缶詰が弾丸になってる絵)と言うのがあった。”Can All You Can”(1943)と言うのもあり、こちらは食料を瓶でなるべく保存せよ、という備え。ガラス瓶の節約ポスターは見つからなかった。 p235 灯火管制用の豆懐中電灯◆光源部に覆いがあり灯りがなるべく漏れないようにしたものだろう。 (2021-12-1追記) *************** 上巻(7) The King of the Gigolos by Hulbert Footner (初出不明, 短篇集1936年”The Kidnapping of Madame Storey and Other Stories”, as “Madam Storey’s Gigolo”)「ジゴロの王」ハルバート・フットナー: 評価5点 マダム・ロージカ・ストーリー(Madame Rosika Storey)もの。上記短篇集の収録作品でFMIで初出が判明しているのは全て1934年Argosy誌なので、本作も同時期のものか。初登場は“Madame Storey’s Way” (初出Argosy Allstory Weekly 1922-3-11) 多分、短篇集“Madame Storey”(1926)冒頭の”The Ashcomb Poor Case”と同じもの。冒頭でマダムと女秘書ベラ(語り手)の出会いが語られている。 本作でも豪胆なマダム・ストーリー。退廃した年寄り連中の描写が興味深いがモンテ・カルロ味はあまりなく、スリリングな展開だが探偵味は薄い。作中年代は明示されていないが、デビュー1922年のマダムの若さは保たれてるし、なんとなく20年代のように感じる。 p246 オテル・ド・パリ♣️Hôtel de Paris Monte-Carloで英Wikiに項目あり。1863年オープン。 p248 強奪♣️rob p250 若い男の正体♣️なるほど。ジャニーズ所属の青年たちの顔を思い浮かべてしまいました。 p251 アメリカでは手が早いっていう(we call a fast worker in America)♣️小学館ランダムハウス英和に1921年との表示がありました。 p265 略式夜会服(ディナー・ジャケット) In America I am told that men wear dinner jackets when there are ladies present ♣️野蛮な風習だそうです。第一次大戦後は黒タイのディナー・ジャケットがセミ・フォーマルとして通用していたようだ。英Wiki “Black tie”より。 p273 ラ・チュルビー(La Turbie)♣️モンテカルロ国境の北西のフランスの町(commune)。1904年までは行政地域としてボーソレイユ(Beausoleil)も含んでいた。「ラ・テュルビー」表記が定訳か? p279 五十フラン札♣️当時の50フラン札はBillet de 50 francs Luc Olivier Merson(1927-1934)、サイズ170x123mm。仏国消費者物価指数基準1934/2021(487.6倍)で1フラン=0.74€=98円。 p280 絵入り雑誌(リリュストラシヨン)♣️一般名詞ではなく固有名詞。L'Illustration、挿絵入り週刊新聞(1843-1944)。ガストン・ルルー『黄色い部屋』を連載(1907-9-7〜11-30)したことで有名。 p281 五フランの英仏小辞典(a common little five-franc English-French dictionary) p290 モンテ・カルロ発の最初の電車… 七時十五分前に発車(the first train out of Monte Carlo. It leaves at quarter to seven) p292 メディチ・グリル(Medici grill)♣️リュクサンブール公園沿いのRue de Médicis付近のレストランなのだろう。 p294 青列車(ブルー・トレイン)♣️英語では1923年からのニックネームのようだ。1892年の時刻表でパリ=モンテカルロ間は約20時間。 p295 パリ・ヘラルド紙(Paris Herald)♣️創刊1887年。フランス在住の英米人向け英字新聞(パリで編集発行)。1918-1924はArgosy誌のFrank Munseyがオーナーだったので一種の楽屋落ちか。 p296 色の浅黒い邪悪な顔つきの青年(a dark, wicked-looking young man)♣️昔の翻訳者は浅黒党が多いなあ。「黒髪の」 p313 グラン・コルニシュ道路(Grand Corniche road)♣️Google MapではRoute Grande Cornicheとなっている。 p317 千フランの札たば(bundle of thousand-franc notes)♣️当時の1000フラン札はBillet de 1000 francs Cérès et Mercure(1927-1940)、サイズ233x129mm。 p329 シェルブール(Cherbourg)♣️ここに出てくる意味がちょっと不明だったが、1934年ポスターで、RMS Majestic(White Star Line)がSouthampton-Cherbourg-New York航路というのを見つけた。帰国前に送った、ということなのだろう。 (2021-12-4追記) *************** 上巻(8) Diamond Cut Diamond by Frederic Arnold Kummer (初出Liberty 1924-12-13)「ダイヤを切るにはダイヤで」フレデリック・アーノルド・クンマー: 評価6点 主人公はエリナー・ヴァンス(Elinor Vance)、シリーズものなんだろうか。 ヒヤヒヤする手口だが、映像化したら楽しそう、と思った。お金をふんだんに使える設定っていうところに大不況前のイケイケドンドンな米国を感じる。なお物語に出てくる発明は1879年が最初で、1970年代になってやっと価値ある程度の大きさになった、という。 p331 東京からキャラマズーまで(from Tokio to Kalamazoo)♠️世界中を旅してる、と言っているのだが、まあ東京はわかるけど、なぜカラマズー(ミシガン州、1920年の人口48千人)なんだろうか。ポピュラーソングで有名なのは“(I've Got a Gal In) Kalamazoo”(1942)が最初のようだ。色々調べていたら、永井荷風が米国留学時にカラマズーに下宿していた(1904)と知ってちょっとビックリ。 p332 三万四千ドル♠️米国消費者物価指数基準1924/2021(16.17倍)で$1=1844円。 p357 善良な小悪魔(a good little devil) (2021-12-1追記) *************** 上巻(9) Murder at the Opera by Vincent Starrett (初出Real Detective 1934-10〜11, as "The Bloody Crescendo")「オペラ座の殺人」ヴィンセント・スターレット: 評価5点 主人公はサリー・カーディフ(Sally Cardiff)、単発作品のようだ。 残念ながら取り立てて目立つ要素は無い作品。女性の手袋について収穫あり。 p363 泥棒猫(The Robber Kitten)◆ディズニーのアニメで同タイトルがあるが1935年の封切。多分偶然。 p366 一八六九年以来最悪の吹雪(the worst blizzard the city had experienced since ’69)◆調べつかず。 p378 長い手袋(long glove)… ガセット(gusset)◆昔の上流夫人がしていた肘くらいまである長い手袋についての説明。vintage gloves history 1900 1910 1920 1930で見つかるWebページにgussetらしきものが見えるのがあった。 p387 それ行け!(レッツゴー)… パイロットがよく使う文句らしい(‘Let’s go!’ which is a common phrase, it seems, among fliers) p394 百ドル◆米国消費者物価指数基準1934/2021(20.74倍)で$1=2365円。 (2021-12-19記載) ****************************** 下巻(2) Coffin Corner by H. H. Holmes (初出は本アンソロジー1943)「フットボール試合」H・H・ホームズ(バウチャー): 評価5点 シスター・アーシュラ(Sister Ursula)もの。クリベッジというマイナーなトランプ・ゲームを取り扱った唯一の短篇、とEQが言っている。設定にかなり無理あり。殺人事件よりフットボール試合が大事って… こういう人工性、遊戯性がパズラーの悪いところ(まあ嫌いじゃないが)。ウルスラ尼(伝統的な訳語が好きです…)のキャラ付けも成功してるとは言い難い。 スポーツ用語って、厄介だと思う。知らない人には全然ピンと来ないけど、知ってれば少しの言葉でイメージがパッと浮かんでくる。普通の単語に見えても組み合わせで専門用語になってるのもあるし… (dead ballとかthree and outとか) 厚木大旦那の翻訳は非常に健闘してるけど(多分アメフトに詳しくない感じ)、間違いとニュアンスズレが若干ありました。 p53 あなたは五十ヤードのパントをやってのけ、それがゴールまで1ヤードのところでサイドラインを割った。ところでウォゼックがキックしたボールがブロックされ、それがあなた側のセイフティにつながり、ベラミンが十五対十四で勝ったのです(And you produced a fifty-yard punt that went out of bounds within the one-yard line and set the stage for Wozzeck’s blocked kick and the safety that gave Bellarmine the game 15-14)♠️第四クォーター、残り時間1分を切った状況。こちらは13-14で負けている。パントでゴール1ヤード地点でフィールド外に出すって、超絶ファインプレー。その次「キック」がいきなり出てくるけど、本文には書いていないが、相手はその前に攻撃を三回やって(守備の踏ん張りなどもあって)全部失敗してるはず(スリーアンドアウトという状況)。残り時間が一分を切っている、という前提からここまでが読み取れる。そして残り時間十数秒以下で(アメフトの時計はタイムなどで止めることが可能)相手は4thダウンとなり、攻撃権をこちらに移すパントをすることになるのだが、ゴール地点ギリギリでのパントって難しい(最低自陣5ヤードは欲しい、との意見あり)。そんなこともあってか(ウォゼックに)ブロックされ、ボールが転がってベラミン(こちら側のチーム名)がエンドゾーン(ゴールエリア)で確保しセイフティ(2点)になった、という状況。(修正2021-11-17: 自信満々で間違うのは恥ずかしいすね。これだとベラミンのタッチダウン(6点)になっちゃうので、転がったボールが単純にエンドゾーンを超えた、というのが一番あり得る状況。蹴ったパンターが何とか転がったボールを確保したがベラミンにすぐ潰された、というプレーでもセイフティになる。参考YouTube“NSU Punt Block Leads to Safety”) 翻訳ではパントに注がついている。間違いではないが、意を尽くしておらずここでは場違い。翻訳上の間違いは、ウォゼックは蹴った側ではなく、ブロックした殊勲者のほう(まあこれはどっちでも良いレベル)。「あなた側のセイフティ」も気になる。原文にはない補い訳だが、セイフティは自殺点なので「相手側の」もの。以上のようにアメフトのルールを良く知らなければ、原文の主旨はほぼ伝わらないので翻訳は難しいが、一応試訳: (前略) サイドラインを割った。それがウォゼックのパントブロックとセイフティという結果に繋がり、ベラミンが(後略) p67 コフィン・コーナーにボールを蹴りこんだ。相手側の蹴ったボールがブロックされ、そのボールがシロヴィッチの腕にとび込んで、タッチダウンに(he dropped one in coffin corner that resulted in a touchdown when a blocked kick sailed into Cyrovich’s arms)♠️「コフィン・コーナー」は相手側ゴールまで数ヤード以内のエリア。ここでは、ボールを蹴るのが続いて出てくるが、この間に上記と同様、相手の攻撃失敗が少なくとも三回ある。アメフトでボールを蹴る機会は、(1)キックオフ(試合開始や得点後の試合再開)、(2)4thダウン時のパント(相手に攻撃権を渡すが相手を自陣ゴールから遠くに押し込む)かフィールドゴール(相手陣ゴールが近い場合得点を狙う)、(3)自軍のタッチダウンの後の追加得点狙い、に限られる。自陣ゴール直近でのプレーはセイフティやインターセプト・タッチダウンのプレッシャーがあり、距離も十分に取りにくいので、相手側が有利になる。一応試訳: 彼は一度コフィン・コーナーにボールを落とし、それがその後の、パントブロックしたボールがシロヴィッチの腕にとび込みタッチダウンというプレーに繋がった。(一部修正2021-11-19: この場面ではp53と異なりkickはパントだけではなく、フィールドゴールの可能性(かなり低いが)もあるので「キックをブロック」といったん訳したが、ここの主眼はコフィン・コーナーへのパントが役立った、ということなので相手が攻撃に連続成功しフィールドゴールに漕ぎ着けちゃってたら意味がない。それでパントに限定して訳して良いだろう。なおパントでもフィールドゴールでも、ブロックされたボールがスクリメージラインを越えていなければファンブル扱いでタッチダウン可能) (2021-11-16記載) *************** 下巻(3) The Tragedy at St. Tropez by Gilbert Frankau (初出The Strand Magazine 1928-9 挿絵Stanley Lloyd)「サントロペの悲劇」ギルバート・フランカウ: 評価6点 キラ・ソクラテスコ(Kyra Sokratesco)もの。ルーマニア人の可愛らしい娘。『探偵小説の世紀』でシリーズ第一作が読めます(全部で三作しかないみたいですが)。 原文入手できず。 p77 イギリス紳士録◆Whittakerか。 p79 三千ポンド◆英国消費者物価指数基準1928/2021(65.98倍)で£1=10295円。 p79 少年のように魅力的◆若い女性を見た男性の感想。英国のホモ文化を暗示? p81 グログ・トレイ(Grog tray)◆いろいろな酒類と水や氷を乗せたお盆(客をもてなすためのセット)のことらしい。昔は家にはGrog trayがあった… という用例を見つけた。Grog(ラムの水割り)で「酒」という意味のようだ。 p86 ホモなの?(プール・レ・ファム)◆綴りはpeur les femmes(女が怖い)かな? p96 百ポンドほどの年金と傷害年金◆第一次大戦の戦傷で年金受給しているのかも。 p101 ヨセフの役◆創世記39:7〜10のエピソードだろうか。 p101 年に1000ドル◆ここはポンドの誤りでは?米国消費者物価指数基準1928/2021(16.17倍)で$1=1844円。ドルが正しいなら年184万円にしかならない。もしポンドが正しいなら年1029万円で文脈に合う。 p103 この古い(作者は「千年も前の物語」としている)話は実在するのかなあ。調べつかず。 (2021-11-17追記) *************** 下巻(4) Lot’s Wife by F. Tennyson Jesse (初出The London Magazine 1929-11 挿絵S. Briault): 評価7点 ソランジュ・フォンテーン(Solange Fontaine)もの。短篇集(2015)のダグラスグリーン序文がWebに落ちていた。全13作のようだ。 犯罪研究家ジェスさん(米国旅行でシンシン刑務所の電気椅子に座ってみたらしい)の非常にリアル感ある物語。まあ探偵の活躍はちょっと出来過ぎですが。シリーズ全作読んでみたいなあ。 p106 ロトの妻♣️創世記19章。 p108 額はまた<流行(イン)>になっていた♣️作中当時は、女性が額を出すのが流行だったのだろう。 p118 百ポンド♣️英国消費者物価指数基準1929/2021(66.72倍)で£1=10410円。 p121 二枚の十ポンド札♣️情報提供料。当時の£10札はWhite note(1759-1943)、サイズ211x133mm。 p148 競走用のブガッティ♣️Bugatti Type 35かなあ。 p150 五十フラン札… 千フラン札♣️仏国消費者物価指数基準1929/2021(399.78倍)で1フラン=0.61€=80円。当時の50フラン札はBillet de 50 francs Luc Olivier Merson(1927-1934)、サイズ170x123mm。1000フラン札はBillet de 1000 francs Cérès et Mercure(1927-1940)、サイズ233x129mm。(いずれも仏Wikiに詳細あり) (2021-11-22追記;2021-11-27お札関係だけ追記) *************** 下巻(5) The Case of the Hundred Cats by Gladys Mitchell (初出The [London] Evening Standard 1936-8-17)「百匹の猫の事件」グラディス・ミッチェル: 評価4点 ミセス・ブラッドレーもの。初登場は長篇Speedy Death(1929)。 猫が活躍しないし、ちょっとピンと来ない話。話者の「私」(美人秘書)が気になる。 p168 お嬢… 赤ちゃん♠️原文はいずれもchild、なぜ別の訳語にしたのだろう? p172 アメリカ人ならダッドレー屋敷とでもいいそうな家(what Americans would call the Dudley residence)♠️residenceは米語のイメージなんだ。 (2021-11-23追記) *************** 下巻(6) The Man Who Scared the Bank by Valentine (1929年作)「銀行をゆすった男」ヴァレンタイン: 評価6点 ダフネ・レイン(Daphne Wrayne)の「調整者」もの。”ヴァレンタイン“はペンネームで、本名Archibald Thomas Pechey(1876-1961)は英Wikiに項目あり。1922年に“The Adjusters”(短篇と思われる)を書いているらしい。The Adjustersシリーズの初長篇はMark Cross名義で”The Shadow of the Four“ (1934)、全46長篇(全部がこのシリーズという訳ではないようだ。短篇は少々?)あり、とのこと。明らかにウォーレスの「正義の四人」(1905)に影響を受けているもので、この系譜はTVシリーズ“The Avengers”(1961-1969;「おしゃれマル秘探偵」これ見たいんだよなあ…)に受け継がれているらしい。色々原文を探したら長篇はいずれも入手困難。一年に2,3作ほど発表されていて、結構な書きなぐりぶり。Otto Penzler編The Big Book of Female Detectives(2018)にシリーズの短篇“The Wizard’s Safe” by Valentine (初出Detective Fiction Weekly 1928-6-16)が収録されていた。 作品自体は面白いけど、まあねえ、という感じ。原文は結局入手出来ず。 p179 デイリー・モニター紙◆️架空。 p184 五万ポンド◆️英国消費者物価指数基準1927/2021(65.98倍)で£1=10295円。 p185 千ポンド札◆️こういう異常な高額紙幣が当時は存在していた。裏が白紙で、文字だけのそっけないデザイン(White Note)、サイズ211x133mm。ホワイト・ノートで当時流通の£10札、£20札、£50札、£100札、£500札、£1000札が1943年発行終了(£200札は1928年終了。ホワイト£5札だけ1957年まで発行されていた)。100ポンド以上の札はその後発行されていない。 p193 十シリング◆️5015円。タクシー代、多分チップだけだろう。普通よりかなり高額な文意。 p203 一九二七年六月十五日◆️事件の日付。 (2021-11-27追記) *************** 下巻(8) Miss Bracegirdle Does Her Duty by Stacy Aumonier (初出The Strand Magazine 1922-9 挿絵S. Seymour Lucas)「恐怖の一夜」ステーシー・オーモニア: 評価6点 本作掲載のストランド誌はWebで無料公開されている。EQが解説しているように、探偵小説とは言えないけれど、とてもスリリングで面白い話。 p234 「悲鳴をあげなければ!」(I mustn’t scream!)♠️試訳: 悲鳴をあげちゃいけない! (2021-11-20追記) *************** 下巻(9) The Man in the Inverness Cape by Baroness Orczy (初出Cassell’s Magazine 1910-2 as “Adventures of Lady Molly of Scotland Yard, Second Series, IV: The Man in the Inverness Cape” 挿絵Cyrus Cueno)「インヴァネス・ケープの男」バロネス・オルツィ: 評価5点 レディ・モリーもの。雑誌では連続12回掲載なんだが、1stシリーズが全5作、2ndシリーズが全7作という区切り。本作は2ndシリーズ第四話なので全体の9話目。冒頭3パラグラフはシリーズ第一作のを再録したもの。紹介のためEQが工夫したのだろう。話自体の企みには、一瞬感心したけど、ちょっと考えたら無茶。流石に対面で長時間は持たないんじゃないか(人の聴覚って意外と鋭いと思うのだが)。論創社で全シリーズ12話の翻訳が出ている。時代的には興味深いが薄味だなあ… (結局、電子版でお試しの第一話(結末まで公開)を読んで気に入ったので買っちゃいました。さっそく、この話を読んでみたが、論創社版の翻訳は創元版よりずっと上質。) p255 一年前の二月三日 p256 定食用食堂(ターブル・ドート)で(in the table d'hôte room)◆ 英語の辞書にはtable d'hôteは「決まったコース料理; 定食」とあるが、フランス語なら「もてなす主人の食卓」という意味。ここはフランス語の意味か。試訳: ホテルの食堂で p259 半ペニーの日刊紙(halfpenny journal) p259 賞金50ポンド◆英国消費者物価指数基準1910/2021(123.71倍)で£1=19302円。 p261 ミス----ええと(Miss--er--) p262 プリンサパル・ボーイ(principal boy)◆ミュージック・ホールの英国伝統パントマイムで若い女性が扮する男役のこと。ここの「パントマイム」はジェスチャー中心の無言劇では無く、コメディア・デラルテが源流っぽいPantoという歌あり踊りありの茶番劇。主役の少年と少女(principal boy & girl)は女性が演じ、Dame(御婦人)は男が演じる、という服装倒錯で笑いをとる劇のようだ。(参考Web“How British Pantomime Became Such a Holiday Tradition”) (追記2021-11-19: 論創社版では「主役の男役」と流している。割注でミュージックホールの茶番劇パント、などと示すとイメージが湧くのでは?) p264 二百ポンド p269 今日(こんにち)では誰でも殺人のことを気軽にしゃべる(Everyone now talked freely of murder)◆最近では殺人はよくあること(freely)、という意味か?(追記2021-11-19: 論創社版では「今や、もっぱら殺されたとの噂だ」こっちが正解ですね) (2021-11-18追記) *************** 下巻(11) The Adventure of the Steal Bonds by John Kendrick Bangs (短篇集 “Mrs. Raffles” 1905)「鉄鋼証券のからくり」ジョン・ケンドリク・バングス: 評価4点 A・J・ヴァン・ラッフルズ夫人もの。全12作のうちの第五話。ラッフルズとの別離のあと、バニーは米国に渡り、A・J・ヴァン・ラッフルズ夫人と名乗る女と知り合い、再び悪事に手を染める… というのが発端の連作短篇。 本作は、ちょっとした犯罪のアイディアを思いつきました、という話。 気になったのはp308「アニスの実のバッグ(the aniseseed bag)」の話。NYタイムズ紙1877-10-5、1878-1-3の記事を見つけたが、意味がわからない。狐の代わりにバッグを引きずり回して犬が追いかけたりして狩りの雰囲気を味わった、という事?冗談記事なのかなあ。 p307 百二十八万ドル♠️米国消費者物価指数基準1905/2021(31.43倍)で$1=3583円。約46億円。 (2021-11-18追記) *************** 下巻(12) The Jorgensen Plates by Frederick Irving Anderson (初出The Saturday Evening Post 1922-11-11 挿絵James M. Preston)「贋札」フレデリック・アーヴィング・アンダースン: 評価6点 ソフィ・ラング(Sophie Lang)もの。意外だが本国でも短篇集(1925)は復刊されてなくて原文は入手困難。何処かで翻訳を出してくれないかなあ。 英国貴族と米国資産家との関係性が面白い。あとは付け足しみたいな話だが、物語の展開はちょっと捻っていて、先読み出来ないと思う。 原タイトルは、1920-30年代のThomas Jorgensen作のマイセンの皿のことだろうか?この話との繋がりがいまいちわからないのだが。 p318 一ポンド◆金貨のようだ。当時の£1金貨はジョージ五世(1911-1932)、8g、直径22mm。英国消費者物価指数基準1922/2021(59.68倍)で£1=9312円。 p325 後家額◆訳注 額の生え際がV字形なのは、夫に早く死に別れる相という。widow's peakは19世紀前半ごろからの記録がある言葉のようだ。(英Wiki) 日本語「富士額」(M字の生え際が富士山に似ている)と形状は似てるが、富士額の方は良いイメージ。なお「後家額」という日本語表現はWeb検索では出てこなかった。 p333 不利な交換率◆1922年の交換レートは£1=$4.42。金基準の換算でも全く同じなので、特に不利ではない。まあ下り坂の英国人からすれば、不利なレートを押し付けられている、という感想なのだろう。 (2021-11-28追記) *************** 下巻(13) The Stolen Romney by Edgar Wallace (初出The Weekly News 1919-12-27)「盗まれた名画」エドガー・ウォーレス: 評価6点 フォー・スクウェア・ジェーンもの。The Weekly News(1855年創刊の週刊新聞)に1919年12月13日号から1920年2月7日号まで11回連載。本作は第三話。 どういう始まりなのかな?と思ってシリーズ第一話The Theft of the Lewinstein Jewelsも読んでみたのですが、あんまり情報なし。他の人に嫌疑がかからないように自分のマーク(Four Squares & Letter J)のラベルを残す、という設定のようです。本作も第一話もストレートな感じの物語。語り口が上手で読ませます。今探したら論創社『淑女怪盗ジェーンの冒険』で読めるんですね!買っちゃおうかなぁ。 p352 ルーウィンスタイン(Lewinstein)… トルボット(Talbot)♣️最初のは第一話の被害者だが、次のはシリーズに出てこない名詞。 p353 クレーソープ(Claythorpe)♣️第二話の被害者。 p359 長い銀色のピン(a long, white pin)… 銀行で紙幣をとじ合わすのに使うようなピン(the sort of pin that bankers use to fasten notes together)♣️どんなものだろう?割りピン(cotter pin)をfastnerと呼ぶこともあるらしいので、それかも。 p363 地区の配達人(district messenger)♣️当時は自転車で少年がメッセージを配達していた。london district messengerで当時の制服を着た少年の写真が見られる。帽子を傾けるのがファッションだったのか? (2021-11-21追記) *************** 下巻(15) The Undiscovered Murderer by E. Phillips Oppenheim (初出The Strand Magazine 1921-12 as “The Sinister Quest of Norman Greyes No. 1. The Undiscovered Murder” 挿絵Charles Crombie)「姿なき殺人者」フィリップス・オッペンハイム: 評価6点 マイクル・セイヤーズ(Michael Sayers、なぜか翻訳での表記は「セイヤー」)シリーズ。本作はストランド誌に11回連続掲載したものの第一作目。スピーディな展開で連続活劇風味。続きが気になるが本格ミステリ味は全くない。 p393 数年前の十一月三日(the third of November, some years ago)◆p403で「木曜」とわかるのだが、該当は1921年(その前は1910年)。EQは単行本MICHAEL’S EVIL DEEDS(1923)から採録したようだが、本シリーズ連載時のストランド誌はWebで無料公開されており、見てみると、雑誌の文章もsome years ago となっている。主人公二人(とジャネット)のイラストも見ることが出来る。マイクルもジャネットもワルそうな顔だ。 p395 近くの郵便局の中の空いている電話ボックス(in an empty telephone booth in the adjacent post-office)◆️当時はまだロンドン名物の赤い電話ボックスK2は無い(1926年から)。公共の建物内に電話ブースを設置していた。電話機自体もダイアル無しで、交換手を呼び出して相手の番号を伝えて繋いでもらう方式。料金の支払いは自己申告制(ただの箱に小銭を投入する仕組み)だったはず。なので下のセリフなのだろうと思う。 p396 カウンターの向こうの若い娘… 「その二つの呼びだしに料金を払いましたか?」(Did you pay for both your calls?) p399 はなはだ不当な条例(an act of gross injustice)◆️三年前の出来事。警察関係者が腹をたてたものらしいが、何の法令(act)だろう?調べていません… (2022-1-14追記: Police Act 1919は警察官のストライキを禁止した。これのことか?) p408 一ポンド札(the pound note)◆️1914年発行開始。 (2021-11-17記載; 2022-1-14追記) |
No.356 | 8点 | 貴婦人として死す- カーター・ディクスン | 2021/11/14 11:35 |
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1943年出版。H・M卿第14作。昔のハヤカワ文庫で読了。銃関係の誤訳が多くて、創元新訳と比べたくなりました。なので、トリビアは銃関係の誤訳についてだけ書きます。他にも当時の英国について結構たくさんネタがあるのですが、それは創元新訳を読んだ後のお楽しみ、としましょう。
作品としては、皆さんがおっしゃる通り、強烈な謎と素晴らしい解決及び読後感良しで文句なしの傑作。これ以上、言うべきことはありません。まあH.M.のドタバタは全然趣味に合わないんですけど… あっ、思い出した。本作で、本文には一切出てこないのですが、警察がパラフィン ・テストを行なっていることは確実。残渣が洗い流された、という可能性を全く考慮していないので、毛穴の奥まで調査出来るパラフィン ・テストなのだろう、と思います。文中(p80)では「燃焼しきらない火薬がはねかえって、手にあとがのこる(unburnt powder-grains that get embedded in your hand)」と書かれています。昔、人並由真さんが問題提起した英国でのパラフィン ・テスト使用のかなり早い例ですね!(作中年代は1940年7月) さて以下は本題の銃関係の誤訳。 p77 a型32口径(a .32 bullet)♠️勘違いは仕方ないが編集は何をしてたの?aは不定冠詞。 p78 a32口径のブラウニング自動拳銃(a .32 Browning automatic)♠️同上。連続3回も繰り返されてるんだから気付いて欲しい。お馴染みFMモデル1910。 p80 このピストルにかぎって…まあなかにはないこともありませんが…逆発することがはっきりしている(But this particular gun has got a distinct “back-fire”, as some of them have)♠️「逆発」って用語は英和辞書には載ってるが、普通使わない。ピストルは構造上、発火時の高圧ガスが後方に若干漏れるものだが、個体によっても多少の違いはある。問題の銃は、特にガス噴出が多いのだろう。試訳: 特にこの拳銃は、この形式だと結構あるのですが、目立って「後方噴射」を出すのです。(ここは「誤訳」ではなく、ニュアンス違い) p124 からの薬莢は発射しただけじゃ弾倉からとび出しはせん。止め金を上右へ動かすととび出す(Spent shells don’t just roll out of the magazine when they’re fired. They’re thrown out with a snap, high and to the right)♠️自動拳銃の場合、発射後直ちに自動で薬莢を排出しなければ、タマ詰まりを起こしてしまう。リボルバーなら何らかの仕掛けを手動で排莢するが… (後の方、結構重要な場面で、正しく訳しているのに関連性に気づいていない!) 試訳: 薬莢は、発射後、弾倉からただ転がり出るのではない。勢いよく高く右に向かって排出される。 後の方(p261)で、正しく訳してる部分は「自動拳銃は薬莢を高く右手へはねとばす(An automatic pistol ejects its cartridge-cases high and to the right)」 (ここまで2021-11-14) **************************************** (以下2021-11-20) 創元文庫を入手しました。山口雅也さんの「結カー問答」が付録。JDC/CDファンなら、まあそうだねえ、という内容で、オドロキの知見は残念ながら無い。初代と二代目には全然敵いません。(トンプソン・サブマシンガンについての記述が、ガンマニアとしてちょっと気になりました。タトエとしてピンと来ないのですが…) さて、お預けとなっていた銃関係の誤訳以外のネタです。もちろん創元では「a型32口径」なんて珍発明はない。上記の誤訳はもちろん正しく訳されているが、ちょっとイチャモン。まずp80早川/p80創元の「逆発」は共通して使っていて残念。創元「燃焼しきらなかった火薬が逆発し、手にめり込んであとがのこる(a back-fire of unburnt powder-grains that get embedded in your hand)」は「燃焼しなかった火薬が後方噴射で手にめり込む」としたいなあ。p124早川/p124創元の創元「高く右後方へ(high and to the right)」も「後」の付加が気に入らない。動画を見ると「若干後方」ですが… (どちらも細かくてすんません) 気を取り直して、まずは作中年代から。 創元では、日付を訳者が勝手に直しています(p22創元/p20早川)。原文はSaturday, the thirtieth of June、ここを創元では「6月29日土曜日」、1940年(これは何度も本文中に明記)の曜日に基づき日付を補正。ここは早川「6月30日土曜日」のように放って置いて欲しかったところです(曜日間違いの可能性もあるし『猫と鼠の殺人』のように著者の誤りから正しい日付がわかる場合もある。ゴルフ格言「あるがまま」を翻訳者の皆さまにもお願いしたい)。 この日付の「ひと月後」(So I waited for over a month)p26創元/p23早川、の土曜日に事件は発生したのです。その二日後が、Monday night in July(p158創元「七月の晩」/p160早川「六月の月曜日の晩」何故ここを間違う?)、ということは1940年7月最後の月曜日の前の土曜日が事件日である可能性が非常に高い。該当は1940年7月27日土曜日です。 でも史実を調べると、米国政府(当時はまだ参戦していない)が欧州から最後に米国人を避難させたのはSS Washingtonで、これは合ってるんですが、時期は1940年6月(イタリア参戦のため)。ジェノヴァ、リスボン、ボルドーなどをまわり、ゴールウェイ出発は6月12日、ニューヨークに到着したのは6月21日です(英Wiki)。残念ですがJDC/CDの記憶違いなのでしょう。 続いてタイトルについて。 “died a lady”は普通の言い方なのか、どういうニュアンスなのか、WEB検索しても本書の例しか出てこない、ということは、かなり珍しい表現なのでしょうか?似た例で”Born a Dog, Died a Gentleman”というのを見つけましたが、愛犬が実に紳士だった、という意味の墓碑名のようです。本文中ではJuliet died a lady(早川「ジュリエットは操を立てて死にました」、創元「ジュリエットは貴婦人として世を去りました」)。何か文学作品からの引用か、と思ったのですが、見当たりません。私は昔からずっと、主人公の女のどこがladyなのかわからなくて、今回再読後も全然腑に落ちません。 以下トリビア。ページ数と訳は早川文庫のもの。全体的に創元の翻訳が良い。早川の翻訳は仕上げがちょっと雑な感じです。 p6 北デヴォン海岸(North Devon coast)… リンマス(Lynmouth)… 索条鉄道(funicular)… リントン(Lynton)… エクスムーア(Exmoor)♠️いずれも実在。この辺りにリン川(East LynとWest Lyn)が流れている。リンコウム(Lyncombe)、リンブリッジ(Lynbridge)は架空地名のようだ。 p8 「わが軍は交戦中(We are at war)」♠️まだ独・英間では実際の交戦をしていない時期。ここは戦争が始まったよ!という切迫感あるニュースの場面。創元「我が国は交戦状態に突入しました」の方がまだ良いが「交戦」は気になる。試訳: 我が国は戦争となりました。 p8 この前の靴をはいていたころ(while I was in the last one)♠️ 創元でも「一つ前の靴を履いていた時」と訳してる。直前の文に靴が出てくるが、ここは靴だと変でしょう?試訳: 前の大戦に従軍していたとき p8 <世界中で女がお前だけだったら(If You Were the Only Girl in the World)>♠️詞Nat D. Ayer、曲Clifford Greyのヒット曲。ミュージカル・レビュー”The Bing Boys Are Here”(1916-4-19初演Alhambra Theatre, London)のために作られた。某TubeでBuffalo BillsとPerry Comoのとても楽しいヤツを見つけたので是非。 p8 馬車馬亭(Coach and Horses)♠️普通に「大型四輪馬車と馬(複数)」で馬車一式の意味だが、創元「トテ馬車亭」ってなんのこと?詳細はWebで。ちょっとトビ過ぎの訳語。 p8 S・S・ジャガー(S.S.Jaguar)♠️高級スポーツカー。当時ならSS Jaguar 100(製造1936-1939)か。オープン2シーター(米語ロードスター)でえらくカッコ良い。 p11 <岩の谷>ヴァリー・オブ・ロックス(Valley of Rocks)♠️創元の割注で実在の景勝ポイントだと知った。Lynton Valley of Rocksでググると素敵な画像がいっぱい。情景のイメージ作りに役立つ。 p11 踊り人形みたいな真似(play the jumping-jack)♠️創元「ぴょんぴょん跳び回る真似」 p13 女の畜生(the damned woman)♠️創元「あのいかれた女」 p14 弁護士の言うねんごろ(the lawyers call intimacy)♠️お堅く訳して欲しい。創元「弁護士だったら『親密な関係』と」 p22 トムスンとバイウォーターズ… ラントンベリーとストーナー(Thompson and Bywaters… Rattenbury and Stoner)♠️創元は丁寧に注付きでわかりやすい。 p29 タイプ印刷の店(manages a typewriting bureau)♠️創元「事務所を構え、タイピストを雇って」 p51 ティッシュ・ペーパーで覆いをした懐中電灯(an electric torch, hooded in tissue-paper)♠️灯火管制時のやり方。敵になるべく光を見せないようにする、という用心。創元「薄紙の笠をかぶせた懐中電灯」 p64 新式のスピットファイア(a new Spitfire)♠️1940年8月から配備のMk.II(タイプ329)のことか。当時話題になっていたのかも。 p69 片目は義眼(with one glass eye)♠️戦傷なのかも。 p75 靴のサイズ♠️創元では丁寧に割注でサイズ換算している。 p79 硬質ゴムを張ったにぎりのほかはピカピカにみがいた鋼鉄(bright polished steel except for the hard-rubber grip)♠️グリップは黒いが、銃本体は銀色の仕上げ。銃本体が黒スティールだったら、夜に見つからないはずだが、銀色なのでピカリと光って見えた、ということだろう。試訳: 硬質ゴムのグリップ以外はスティールの磨いた銀色で。創元「樹脂をかぶせた握りのほかはぴかぴかに磨かれたスティール製」ハードラバーは天然樹脂でエボナイトのこと。樹脂には人工樹脂もあるので「硬質ゴム」が良い。 p95 ディズニーの漫画に出てくる竜(a dragon in a Disney film)♠️The Reluctant Dragon のUK初公開は1941-9-19(米国1941-1-2)。この文章は1940年11月に書かれたことになっている(p160)ので、JDCの時代錯誤だろう(このアニメじゃない可能性もあるが)。ところでJDCはこのアニメを見たんだろうか? p107 弾薬… 鉄砲所持許可証♠️ここら辺、ガンマニアとしては興味深い。当時英国で弾丸を買うにはfirearms licenceを店に提示する必要があったのだが、戦争になってそのルールは形骸化されていたらしい。 p108 ピストルの革袋をベルトごと(holster-belts)♠️創元「ベルトごと拳銃のホルスターを」、ここら辺も興味深い。軍人がクラブやレストランや劇場で無造作にホルスター・ベルトをクロークに預けて平気、という情景。将校の拳銃は自弁で、型や口径は好きに選べたようだ(こうすると弾丸の種類が増えて補給に困ることになるんだが…) p112 土曜日の晩にブリッジやハートを(playing bridge or hearts on Saturday night)♠️ハーツがブリッジと並んで記されている。1939年ごろ米国や英国でルール追加があり、Black LadyとかBlack Mariaと呼ばれたようだ。(英Wiki “Hearts (card game)”) p123 過去の事件への言及。題名を書かなければネタバレにならない?原文を書いておきましょう。(I’ve seen a feller who was dead, and yet who wasn’t dead. I’ve seen a man make two different sets of finger-prints with the same hands. I’ve seen a poisoner get atropine into a clean glass that nobody touched) p123 事件の顛末を話してみせる(It would just round out my cycle)♠️創元「わし流のサイクルヒットを達成できる」英国人だし、唐突に野球用語が出てくるかなあ。cycle of legend and saga と解釈して「わしの伝説を完成させるのにちょうど良い」くらいか。 p128 チップにやる銀貨をさぐったが、十シリング札しかない(for silver as a largesse; but he could find only a ten-shilling note)♠️次の文中の十シリングはten bob。戦時中の硬貨不足を表現している?当時の英国銀行10シリング札はEmergency wartime issue(1940-4-2から)でサイズ138x78mm。デザインはSeries A(1928-11-22から)と同じで印刷が赤色から藤色に変わっただけ。なお英国財務省発行10シリング札(1914から)は1933年に通貨使用終了となっている。英国消費者物価指数基準1940/2021(58.79倍)で£1=9173円。10シリングは4586円。 p128 ローマ人がキリスト教徒たちを火あぶりにしたりする教育映画… 女の子たちは着物を着てない…(Tis a educational film, about the Romans that burnt Christians to a stake and all. And the girls ’adn’t got no clothes on)♠️ 「クオ・ヴァディス」だと思われる(p182)。監督Enrico GuazzoniのQuo Vadis(伊Cines 1913)だろうか? 期待して某Tubeで見たけど女性はちゃんと着物を着てた… ここは映画を見る前のセリフなので、宣伝ポスターがワザと色っぽい情景を描いてたという事か。 p142 パッカードのオープンで、うしろに大きな補助席(a Packard roadster with a big rumble-seat)♠️ 「七、八百ポンドもする(p151)」ようだ。創元「パッカードのオープンカーで二人乗りなんだけど、後ろにランブルシートがある」丁寧な翻訳だが「大きな」も重要ポイントなので入れて欲しい。1939 Packard V-12 Roadster rumble-seatで大きな二人用ランブルシートがある素敵なのが見られる。 p197 五、六千ポンド p160 一九四◯年の夏までは物資もかなり潤沢(Up to the summer of 1940, there was a reasonable plenitude of everything) p181 二百ポンドもする椅子車 p183 『ポーリンの冒険』第三話(like the third episode of the Perils of Pauline)♠️The Perils of Pauline (1914)全20巻の冒険活劇。主演Pearl White、第3話はOLD SAILOR'S STORY (私は未見だが、こういうの淀長さんがお好きでしたね) p196 ジョーゼフ・マクロードやアルヴァー・リデル(Joseph Macleod or Alvar Liddell)♠️いずれもBBCのニュースアナウンサー。「大陸にいる(in the land)」ではなく「地上で(聞こえたら)」という意味だろう。創元では丁寧な訳注あり。 p246 「虹のかなたに」(Over the Rainbow)♠️映画『オズの魔法使い』の英国公開は1940年1月(米国公開1939年8月)、レコードはDECCAから1940年3月リリース。“We were all whistling Over the Rainbow in that summer, perhaps the most tragic summer in our history.” 本書の記述からこの曲はジュディの素晴らしい歌声だけじゃなく、当時の人の平和への切実な願いをすくいとってヒットしたのだな、と判る。創元は「虹の彼方に」この表記が日本語での定番のようだ。 p246 モーリス式安楽椅子(Morris chair)♠️デザインの源流は、ウィリアム・モリスの会社が1866年に販売したもの。創元「モリス式安楽椅子」 p247 オーヴァルタイン(Ovaltine)♠️スイス1904発祥(Ovomaltine)、英国1909、米国1915から。ミロみたいな麦芽飲料らしい。日本でもカルピスが「オバルチン」として1977年から販売(80年代に終了か)。創元「オーヴァルティーン」(私は長音はなるべく省きたい派です…) |
No.355 | 6点 | マックス・カラドスの事件簿- アーネスト・ブラマ | 2021/11/02 00:14 |
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ブラマさんは小説が上手い、と思う。人間に興味がある人なんだろう。盲人探偵の設定には感心しないが、登場人物たちが物語のなかで生きている。翻訳は堅実なんだが、実はニュアンスが違うのでは?という感じを受けたところが多少あり(私の英語力では十分に確認できず)。そこを上手く掬いとったらもっと面白い話なのでは?と妄想している。
本格ミステリっぽさを期待すると全くガッカリする。手がかりの提示は、どの作品でも不十分で、全く描写されないこともある。次が気になってどんどん読んじゃう、という展開の妙と登場人物の息吹を楽しむべき作品だろう。 盲人探偵マックス・カラドスが活躍する短篇26作は一つを除き、3つの短篇集に収録されている。 ❶ Max Carrados(1914) ❷ The Eyes of Max Carrados(1923) ❸ Max Carrados Mysteries(1927) 以下、本書の収録短篇を初出順に並び替え、カッコ内の数字は創元文庫の短篇集の並び順、原タイトルは初出のものを優先、#は初出順のシリーズ連番、黒丸数字は上記の収録短篇集。初出は英Wikiを基本にFictionMags Indexで補正。 なおシリーズ第2作は『クイーンの定員2』収録の「ナイツ・クロス信号事件」、第3作は「ブルックベンド荘の悲劇」なので、日本語で#01〜#04まで続けて読むことが出来る。 *************** (1) The Master Coiner Unmasked (News of the World 1913-8-17) #01 ❶ as "The Coin of Dionysius"「ディオニュシオスの銀貨」:評価6点 本シリーズは、最初タブロイド週刊誌News of the Worldに20週連続掲載(前後編が多いので全12話)された。本作は主人公とレギュラー脇役のバックグラウンドをチラリと見せる書き方で深みが出ている。シリーズ第一作として上手い。ミステリとしては読者に隠されたことが多すぎ、ネタも平凡。ブラマは英国銅貨の権威らしい。 p8 <ペルメル>紙の最新号(the latest Pall Mall)♣️新聞なら夕刊紙のThe Pall Mall Gazette(1865-1923)、雑誌ならThe Pall Mall Magazine(1893-1914)。latestなので雑誌だろう。 p8 私立探偵(the private detective)… 興信所員(Inquiry agent)♣️英国では米国と比べてあんまりprivate detectiveとは言わないイメージ。 p9 ディオニュシオスの時代のシチリア王国の四ドラクマ銀貨(Sicilian tetradrachm of Dionysius)♣️430B.C.頃の銀貨。WikiにGreek Silver Tetradrachm of Naxos(Sicily)の画像があった。 p9 二百五十ポンド♣️1894年当時の価格。英国消費者物価指数基準1894/2021(133.33倍)で£1=20803円。250ポンドは520万円。 p10 珍しいサクソンの古銭とか、疑わしいノーブル金貨(a rare Saxon penny or a doubtful noble)♣️Saxon penny及びnoble gold coin(英国最初の金貨。1344年ごろ導入)で検索するとそれぞれ画像あり。 p12 リッチモンド♣️カラドスの住み家<小塔荘(タレット)>がある。 p14 セント・マイケルズ(St Michael’s)♣️架空のパブリック・スクールか。 p14 あのウィンじゃないか(old ‘winning’ Wynn)♣️原文ではあだ名っぽい感じ。 p15 黒内障(amaurosis)♣️目には異常が見られない視力障害だという。なので、他人からは正常な眼に見える、という設定のようだ。 p19 ヴィダールの『咆哮する獅子』(Vidal’s ‘Roaring lion.’)♣️Louis Vidal(1831-1892)のLion rugissant(1874)本物はサイズ36x64x16cm。 p22 十二年前から、自分の召使いが見えない(I haven’t seen my servant for twelve years)♣️失明は12年前のことのようだ。だが従僕はそれ以前から勤めている? p24 サイズは五番(about size seven)♣️靴の紳士用UKサイズで7.0は、日本サイズ25.5cm(=US7.5 / EU41-42)。どこから5番が出てきたのかな? p25 金とプラスチックのアルバート型の時計鎖(His fetter-and-link albert of gold and platinum)♣️ここではfetter-link Albert chainで見られるような洒落た形の鎖だろう。単にAlbert chainと言えば「時計鎖」のことでデザインは関係ないようだ(英国アルバート公に由来)。何故プラスチック? p25 右の袖口にハンカチがはさんである(A handkerchief carried in the cuff of the right sleeve)♣️ヴィクトリア朝紳士のハンカチ入れ場。ポケットより取り出しやすそう。 p25 週給五ポンド♣️英国消費者物価指数基準1913/2021(118.36倍)で£1=18468円。月給21.7ポンド(=40万円)、年額260ポンド。 p29 <モーニング・ポスト>紙♣️ロンドンの日刊紙(1772-1937)。 p29 五百ポンド♣️p25の換算で923万円。 *************** (2) The Clever Mrs Straithwaite (News of the World 1913-9-21 & 28) #04 ❶「ストレイスウェイト卿夫人の奸智」:評価6点 面白い企みとその顛末の話。夫婦のキャラがよく描けている。最後のセリフは、カーライルのがthe report、カラドスのがa report。この違いがよく分からない。 p32 ある哲学者… ドイツ名前の(a German name)… いかなる場合であれ、ある人間が何をするかを正確に知ろうとするには、その人間の性格の一面を見きわめさえすればいい(in order to have an accurate knowledge of what a man will do on any occasion it is only necessary to study a single characteristic action of his)と言った♠️誰のことだろう。 p33 三十五歳の私立探偵であるこのぼくが(Thirty-five and a private inquiry agent)♠️カーライルの発言。ここはp8に合わせて「興信所員」が良いと思う。 p33 今後二十一年間(the next twenty-one years)♠️なぜ半端な数字? p37 ヴィドック(Vidocq)… 『盗まれた手紙』(the Purloined Letter)♠️なかなか興味深い発言。 p38 五千ポンド♠️p25の換算で9234万円。 p40 四月十六日。この前の木曜日(April sixteenth. Thursday last)♠️該当は1914年だが、これでは雑誌発表時だと未来。 p43 メトロポリタン新歌劇場(the new Metropolitan Opera House)…『オルレアンの少女』(La Pucella)♠️どちらも架空だろう。La Pucelleはジャンヌ・ダルクのこと。 p46 ブリッジ仲間(bridge circle)♠️1904年にビッドの原則が固まったようだ。当時は最新流行のゲーム。 p46 夫婦はカラドスと面識があるような感じだが、#01〜#03には登場してない。 *************** (3) The Ghost at Massingham Mansions (初出❷) #15「マッシンガム荘の幽霊」:評価5点 密室トリック?はなんかアレなんだけど、最初は幽霊譚で、最後は面白い情景。構成が良い。p105の記述から2月又は3月の事件。 p74 古い拳銃(an old revolver)♣️「回転式拳銃」と訳して欲しい… p81 私立探偵(inquiry man)♣️p33と同様「興信所職員」で良いだろう。 p83 検死査問会(inquest)♣️英米圏に特有の制度なので、日本での定訳が無い。 p85 <ブル>(the Bull)♣️パブっぽい名前。 p85 ターポーレー・テンプルトン事件(Tarporley-Templeton case)♣️架空の事件だろう。カラドスがこの調査員(シリーズの他の作品には登場しない)と知り合った事件、という設定のようだ。 p86 幽霊話(ghost stories)♣️カラドスは好きだったが、タネが子供だましだった、と感じている。 p91 評判の良いミュージカル(a popular musical comedy)♣️英Wiki“Edwardian musical comedy”のイメージだろうか。 p91 <パーム・トリー>(Palm Tree)で夕食♣️架空のレストラン? p103 取り替えます(would certainly be looked to to replace it)♣️ここは誤訳。試訳「ちゃんと取り替えてくださいね」 *************** (4) The Mystery of the Poisoned Dish of Mushrooms (初出❷) #14 別題 "Who Killed Charlie Winpole?"「毒キノコ」:評価7点 インクエスト好きには興味深い話。ある趣味の集まりの展開がリアル(多分、作者のコイン趣味での体験に基づくものだろう)。あちこちに読者を巧みに引っ張る展開が上手で、作品としては非常に納得。キノコって現代でも未知の部分が多いので素人は手を出さないのが良いようです。 p106 数年前の十一月(Some time during November of a recent year)♠️p119の記述から1918年だと思われる。 p106 検死陪審員(jury)♠️インクエストの陪審員である事を翻訳で補っている。 p108 ブリン(bhurine)♠️毒物の名前だが、Web検索でも見つからない。どうやら架空のものらしい。 p109 アマニタ・ブロイデス… 「黒帽子」(Amanita Bhuroides, or the Black Cap)♠️このキノコの学名も見当たらず。Amanitaはハラタケ目テングダケ科テングダケ属。「黒帽子」は死刑宣告時に判事が被る黒ビロードの装束だが、英名Black Capというキノコも見当たらない。Death CapならAmanita phalloides(タマゴテングダケ)。p146で田舎の人は「悪魔の香水壜(Devil’s Scent Bottle)」と呼ぶ、とも書いているが、この英名のキノコも存在しないようだ。 p109 塩による検査法や銀製スプーンによる検査法(The salt test and the silver-spoon test)♠️不適切な民間伝承の例。「塩蔵すればどんなキノコも食べられる」「毒キノコは銀のスプーンを入れて煮ると黒くなる」いずれも誤りとWebにあった。 p109 証言の申し出(expressed a desire to be heard)♠️インクエストは検死官の裁量が広く認められているらしい。当初予定になくても、検死官が申し出を認めれば、自発的に意見が表明できるようだ。(ソーンダイク博士もインクエストに飛び入りで証人に質問を求めたりしていた) p112 評決をくだした(brought in a verdict)♠️はっきり書いてないけど、インクエストなら「死因」を確定するのが目的なので、ここでの評決は明白(無罪とか有罪とかはインクエストの対象外)。 p113 エルシー・ベルマークがカラドスと知り合ったのはシリーズ第8話“The Comedy at Fountain Cottage”(初出News of the World 1913-11-16 & 23) ❶ p117 一万五千ポンド♠️英国消費者物価指数基準1918/2021(58.29倍)で£1=9095円。15000ポンドは1億3642万円。 p118 <モーニング・インディケーター>紙(The Morning Indicator)♠️架空の新聞だと思われる。 p119 今月の六日、水曜日(On Wednesday, the sixth of this month)♠️11月6日水曜日を探すと1918年が該当。 p119 ここでは薬局で特殊な毒物は「知っている者」にしか売ってはならない、となっている。そういう規則が実際にあったのか。 p121 往復運賃は三シリング十八ペンス(three-and-eightpence)♠️3シリング8ペンス。ユーストン駅からセント・アボッツ(架空地名)まで。1662円。 p126 <デイリー・テレグラフ>紙の私事広告欄♠️『人魚とビスケット』(1955)を思い出すなあ。 p127 ≪ロンドン・ゼネラル≫バスの鮭肉色(サーモン・ピンク)の切符(the salmon-coloured ticket of a “London General” motor omnibus)♠️The London General Omnibus Company(LGOC)はロンドンの主要バス会社(1855-1933)。 p133 ディンデイル、イーロフ、ヤップ(Dyndale, Eiloff and Jupp)♠️架空人名のようだ。 p137 選挙の効能♠️スリのネクタイの色を変える程度のこと(change the colour of the necktie of the man who picks our pockets)。劇場で聞いた気の利いたセリフらしい。 p145 正当理由(entitled to)♠️離婚の申し立てには特別な理由が必要だが、当時は「夫の不貞+虐待」が要件のはず。1923年以降なら「虐待」だけでも可能。 *************** (5) The Secret of Headlam Heights (The New Magazine 1925-12 挿絵W. E. Wightman) #19 ❸「ヘドラム高地の秘密」:評価5点 New MagazineはCassellの挿絵付き小説月刊誌。本作を皮切りにシリーズ5作を掲載。 舞台は1914年8月。ベイカーのキャラがユニーク、こーゆーキャラ設定がこの作者の物語力を示している。珍しくアクション・シーンもあり。 p152 マーケット・スクエア♣️近くにPentland港(p180 架空地名)がある。 p156 「平常どおり営業」(‘Business as usual’)♣️チャーチルの言葉。The maxim of the British people is 'Business as usual'.(ギルドホール, 1914-11-9)。コロナ禍でも使われているようだ(略してBAUというらしい)。 p156 五ポンド分の小為替(postal orders)… 五ポンド紙幣(a five-pound note)をくずす♣️このくだり、意味不明だが、大戦中は金属不足で、日常的にガスメーターなどに必須なのにも関わらず、硬貨を集めるのが大変だった、という話を読んだことがある。高額紙幣から小銭を得るためのテクニックか。翻訳では順序が逆になっているが、原文は「五ポンド紙幣で釣り銭を得るために、いったん少額の郵便為替に変えて、それを小出しに使う必要がある」という感じ。当時は紙も不足で郵便為替が法定紙幣の代わりとして使われたようだ。英国消費者物価指数基準1914/2021(118.36倍)で£1=18468円。 p157 火打ち石(flints)♣️硬いので石器の材料となった。これ以降はずっと石器の話題。「火打ち道具(flint implements)p158」は「石器」だろう。 p158 エヴァンズやナダヤック(Evans or to Nadaillac)♣️英国の石器時代の権威John Evans(1823-1908)とフランスの人類学者Jean-François-Albert du Pouget, Marquis de Nadaillac(1818-1904)。 p159 基金と半ペニーの入場料(endowment and the ha’penny rate)♣️すぐ前に入場料「無料(free)」とある。ここは「わずかな賃金」という意味では? p163 相当な金額の硬貨を一枚(a substantial coin)♣️当時の最高額金貨はソブリン(=£1)。ジョージ5世のなら1911-1932、8g、直径22mm。 p164 人差指を鼻にあて(place a knowing forefinger against an undeniably tell-tale nose)♣️「秘密」というジェスチャーだろう(モリス『ボディートーク』参照)。 p168 エピオヴァヌス(Epiovanus)♣️残念ながら架空。 p177 『パリのアトリエ物語』(Stories from the Studios of Paris)♣️多分架空。画家とモデルのちょいエロ話を想定しているのかも。 p181 血色の悪い(sallow-complexioned)♣️原文darkか?と思った私は重度の浅黒警察です。 *************** (8) The Crime at the House in Culver Street (The New Magazine 1926-02 挿絵W. E. Wightman) #21 ❸「カルヴァー・ストリートの犯罪」:評価6点 近所のお付き合いの話から事件に至る流れが良い。探偵小説が解決に役立つ。 p284 一等、禁煙車両(First class, nonsmoking)♠️客車のコンパートメントは喫煙用と禁煙用が別だったのだろう。「一等定期(first season)p298」という記述もあった。 p284 スパッツ(Spats)♠️泥除けで靴に被せて履くもの。ここではお堅い紳士のイメージの一つとして挙げられているようだ。 p303 女性の手紙の追伸♠️上手いことを言う。 p306 亀一匹惑わす(mislead a tortoise)♠️何故亀?と思ったが調べつかず。聖書には、地を匍う「汚れた(unclean)」生物の例としてレビ記11:29にthe weasel, and the mouse, and the tortoise after his kind(KJV)とある。 p311 ヴァン ・ドゥープ(Van Doop)… <義父の像(Portrait of a Father-in-Law)>♠️架空の画家の架空の作品。Rembrandt van Rijnの油絵Samson Threatening His Father-In-Law(1635)を連想した。 p311 三百ポンド♠️p117(1918年)の換算で273万円。 p314 五月二十五日… 先週の土曜日♠️直近は1918年が該当。 p317『探偵ジェイク・ジャクスン』(Jake Jackson, the Human Bloodhound)♠️架空。 p320 週給六、七ポンド♠️支配人の給料。月給26ポンド(=24万円)〜30ポンド。 *************** (7) The Curious Circumstances of the Two Left Shoes (The New Magazine 1926-05 挿絵W. E. Wightman) #22 ❸「靴と銀器」:評価7点 夫妻との会話が面白い話。各登場人物のキャラが生きている。途中に挟まれた叙述方法は便利(繰り返し使える手じゃないが)。ラストはビックリだけど、これでいいのだ。 p244 モンキー泥棒(Monkey Burglar)♣️調べつかず。架空と思われる。 p247 <レッドシャンク>Redshank♣️架空のブランドだろう。 p248 銀行に預ける(kept at the bank)♣️ミス・マープルにも不在時先祖伝来の貴重品を銀行に預けるシーンがあった。貸金庫サービスのようなものか?そういえばラッフルズThe Chest of Silver(1905)でも貴重品の大箱を銀行の金庫に預ける、という場面があった。1977年のテレビ・シリーズを参考映像としてあげておこう(ドラマでは銀行の地下室が収蔵場所で、貴重品箱があちこちに置いてある感じだった)。 p251 それはどうも(That’s very nice of you — to forget) p251 フランスの笑劇(French farces)♣️ドアがたくさんあって登場人物が出たり入ったりが自在、という感じか。 p252 なかなかきれいな娘(a girl of quite unusual prettiness)♣️本書の翻訳、読んでいてところどころ日本語が的を外してる気がしたのだが、こんなのがあるなら他でもニュアンス違いが結構あるのかも。試訳「並外れて可愛らしい娘」 p254 忘れてた、きょうは足がふやけて(I forgot; my feet are as soft as mush today)♣️多分足が疲れててふにゃふにゃ、という意味なのだろう。最後まで読むとそういうことだと思われる。なおp259の「ふやけて」はtender。 p257 何万燭光かのアーク燈に照らされた… ♣️ここら辺、何を言ってるのか真意が良くわからない。何かの引用か。参考まで原文 I should like to go up into a very large, perfectly bare attic, lit by several twenty thousand candle-power arc-lamps, and there meditate. p265 靴のサイズは4.5か5♣️婦人用だと日本サイズで22.5か23cm。 p270 四十九点♣️クリケットではアウトになるまでずっと打席が続くので、打者は何十点でも獲得出来る。四十九点なら強打者だろう。 p271 アウトにさせられた(were given run out)♣️run outは走塁時のアウト。givenは、球と脚とどっちが先だったか微妙なプレーだったのだろう。試訳「走塁アウトを提供した」 p272 フェアプレー♣️会話で二回出てくるが最初はcricket、次はM.C.C.(クリケットの元締め。メリルボーン・クリケット・クラブ。ルールはここで決める) p272 なかなかの美人(really is an awfully pretty girl)♣️何故かここでも控えめな翻訳。 p273 <タンゴ ・ティーザー>(Tango Teaser)♣️調べつかず。架空? *************** (6) The Holloway Flat Tragedy (The Story-Teller 1927-03) #25 ❸「フラットの惨劇」:評価6点 実にリアル感のある、だがありそうも無い依頼から事件発生、そして解決に至る流れが良い。英国でラジオの公式実験放送は1920年6月15日(火曜日)が最初らしい(正式にラジオ放送が始まったのは1922年11月)。 p200 私立探偵(private detective)♠️ここはp33やp81とは異なり原文どおり。1927年にはprivate detectiveという方が普通になったのかも。 p202 ホロウェイ♠️19世紀後半からの新興住宅街だったようだ。 p203 反対尋問(cross-examinations)♠️法廷手法としての「反対尋問」(証人を召喚していない側が反対の立場で尋問する)ではなく、確認のための追加尋問、というような意味だろう。ソーンダイク博士がインクエストでcross examinationをする場面があり、インクエストには検察側も弁護側もないので最近気になってる単語。 p207 離婚♠️1923年以降は「夫の不貞」だけでも離婚事由になった。それ以前だと「+夫の虐待」も要件。 p208 バネ錠と、彫込み錠(a latch lock, and a mortice lock)♠️「ラッチ錠」は内側からは手動で差込ボルトを動かす仕組み、外からは鍵で開閉出来る。「彫込み錠」はドアの内部に差込ボルトが隠れているのが特徴。メカニズムが埋め込み式なので、当時は重要なドアに付けられていたようだ(現在では普通だが)。ここでは多分シリンダー式のイエール錠だと思う。ラッチ錠はメカニズムが外付けで、鍵も単純で簡易なイメージ。簡易ロックと正式ロック、ということだろう。 p210 私立探偵(an inquiry agent)♠️ここは「興信所」、とするとp200は半分ふざけてる言い方である可能性あり。 p211 一ギニー(the single guinea)♠️報酬はギニー単位となる。実際の支払いはどうしていたのだろう。わざわざギニア金貨を用意するのか?小切手なのか?現金だと1ポンド札orスターリング金貨+小銭(1シリング硬貨)となってなんだか気まずくないか? p212 絵入り新聞(the illustrated papers)♠️当時はイラストではなく写真だろう。 p213 ラジオの公開実験(the wireless demonstration)♠️the wirelessは英国英語でラジオ。1920年ごろの事件なのだろう(p207の離婚事由は気になるが…)。ブラマ全集を全文検索したがラジオが出てくる他の作品は見当たらなかった。 p216 刑事(デカ)’tecs p220 朝8時に来てから晩6時に帰る。通いの女中の勤務。 p222 パークハースト劇場(Parkhurst Theatre)♠️Parkhurst RoadとHolloway Roadに面した1890年開設の劇場。1908年に映画館に改装されたが1926年廃業。なのでここのafternoon’s performanceは「芝居」ではなく「映画」。すぐ隣にライヴァル劇場Marlborough Theatreがあった、とは言え、1908年には既に劇場全盛期は過ぎ、映画の時代に突入していたとは… (そのMarlboroughも1918年に映画館として再オープンしている) p232 三日、木曜日♠️p237で「9月3日」のことだとわかる。1925年が該当。ラジオの史実とは合わない… p237 小型拳銃(little gun handy)♠️32口径オートマチックな感じ。根拠なし。 |
No.354 | 7点 | 薔薇荘にて- A・E・W・メイスン | 2021/09/04 19:08 |
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1910年出版。連載ストランド誌1909-12〜1910-8、挿絵W.H. Margetson、連載タイトルThe Murder at the Villa Rose。単行本で読了。
読んでて、アガサさんのごく初期のポアロもの『★★(一応伏せ字。それほどネタバレではないが)』と似ている、と思った(単なる偶然だと思うが、その作品の第三章のサブタイトルはAt the Villa ◎◎)。ポアロの造形にアノーの影響を感じる(ココアとか、尊大で滑稽な見得とか)。リカードが時々見せるツッコミもヘイスティングズっぽい。きっとアガサさんは『スタイルズ荘』を書く前にこの作品を読んでいたに違いない。 人物造形が、普通小説のようにしっかりしてるのが良い。というか、小説、と銘打つならこのくらいの水準が当然だ、というのが当時の常識だろう。トリックを生かすだけに生まれた段ボールの書き割り人形が許されるのはゲームやクイズと化した「探偵小説」というジャンルが確立してからだ。 全体の構成もなかなか凝った感じ。まーひねくれた今の読者にはあまり受けないレベルと思うが、私にはこのくらいで十分だ。 当時、流行だった◆◆(一応伏せ字)の知識がちょっとあると、なお楽しめると思う。(p34の描写でピンとくる人なら大丈夫だろう。) 続く『矢の家』も楽しみだ。 以下トリビア。 p9 八月の第二週にはいつもサヴォア県の温泉保養地エクス・レ・バンへ旅行し(the second week of August came round to travel to Aix-les-Bains, in Savoy)♠️物語の始まりは、続く記述から八月第二週目の月曜日。 p9 バカラルーム(the baccarat-rooms)♠️当時流行の賭博。ラッフルズにも出ていた。 p10 ルイ紙幣♠️ここの原文に「紙幣」は無い。この後に「五ルイ紙幣(five-louis note)」が出てくるが、ルイ(louis)は20フラン金貨の意味で、この単位の紙幣は存在しないはず。この小説で「ルイ」が出てくるのは賭け事のシーンだけなので、カジノの遊戯用として専用の「ルイ紙幣」が発行されていたのか?仏国消費者物価指数基準1909/2021(2665.73倍)で1フラン=4.06€=530円。 p15 スワニエ(soignee)♠️フランス語soignée「身だしなみのよい;手入れの行き届いた,きれいな」 p20 同行♠️コンパニオン(her companion) p24 ココアを味わう(enjoying his morning chocolate)♠️フランス人は飲むチョコレートが好きなのか。 p24 成功した喜劇役者といった趣(looked like a prosperous comedian)♠️具体的な実在人物イメージあり? p24 ああ、友よ(Ah, my good friend)♠️ポアロならモナミ!というところ。 p25 フランスの探偵… 我々は下僕にすぎません… 予審判事(in France a detective…. We are only servants…. the Juge d'lnstruction of Aix)♠️「探偵」というより公的警察の「刑事」が相応しい感じ。当時のフランス警察制度はよく知らないのだが。 p28 日雇掃除婦… 毎朝7時にきて、夕方の7時か8時に帰る(there was a charwoman…. came each morning at seven and left in the evening at seven or eight) p39 電話♠️既に普及している。英国は結構普及が遅かった。 p42 僕はユダヤ人を軽蔑してはおりません(I do not speak in disparagement of that race)♠️ここでドレフュス事件(1906年7月無罪判決)への言及あり。とすると本作の作中年月はそれ以降、ということか。 p44 エクスを一時五十二分に出る汽車に乗れば、二時九分にはシャンベリに着ける(by the train which leaves Aix at 1.52 and arrives at Chambery at nine minutes after two)♠️こういう細かい時刻を言うのだから、当時の鉄道は時間に正確だったのだ、と思う。 p47 六十馬力(Sixty horse-power)♠️当時の車だと最新式のBenz 35/60 hp (1909)あたりか。とすると1909年が作中年かも。 p71 カロリーヌ・レブーの一万二千フランもする帽子(have lace petticoats and the softest linen, long white gloves, and pretty ribbons for her hair, and hats from Caroline Reboux at twelve hundred francs)♠️正しくは1200フラン(=64万円)、帽子は複数、金額から考えると、前段のペチコート、肌着、手袋、リボン、帽子の総額だろう。Caroline Reboux(1837–1927)はパリの帽子屋、デザイナー。 p144 五フラン(a five-franc piece)♠️辻馬車の運賃 p175 大きなニューファウンドランド犬(a big Newfoundland dog)♠️水難救助犬、人命救助犬として優れている。 p188 お国で起こった歴史的犯罪(There's an historic crime in your own country)♠️英国の実在事件と思われるが、見当つかず。 p196 五フラン硬貨(the five-franc piece)♠️当時のは1871-1878鋳造の銀貨(純度0.90)、重さ25g、直径37mm。 p206 従僕(valet)♠️確かに! p223 ダヴェンポート兄弟(Davenport brothers)♠️ブラウン神父のとある作品(1912)でも言及されてる有名人。19世紀後半に活躍。 |
No.353 | 7点 | 死体は散歩する- クレイグ・ライス | 2021/08/24 19:56 |
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1940年出版。弁護士マローン第2作。ジェイクとヘレンも登場するトリオ第2作でもある。人並由真さんのゴキゲンな紹介で一気に読みたくなった本作。期待にそぐわぬ出来栄え!(人並由真さん、ありがとうございました!) 創元文庫で読了。
私としては、このトリオのシリーズだと、もっとヘレンが魅力的に描かれなければならない、と考えていて、そういう意味ではこれは最高傑作では無いはず(続く『大はずれ』と『大当たり』が楽しみ)。確かにプロットが素晴らしい。夢の展開(つまり緩い連想で次々と場面が変わるもの)が好きな人にはたまらない、と思う一方、厳密な方々には、ちょっとアホくさ、と思われてしまうかも。 クレイグさん(これ、苗字から採用したペンネームだったんだね。どうりであんまり聞かないと思った)の良さは、気イつかいのところ。人への対応、眼差しが、繊細な心遣いに溢れてて、そのくせ「おれは誰も信じない(I never believe anybody、「決して」を入れて欲しい)なんて、ハードボイルドに振る舞うわけ。よっぽど実人生で悲しい思いをしたんじゃなかろか、と邪推してしまう。 今回はシカゴの名所が活躍し、通りの名前もほぼ全部実在のもの。(メルヴィア通りとマークウィス街は探せなかったが、Melvina Avenueがあった。) 以下、トリビア。 作中年代は「スタインベック(p69)」が話題になってるから1937年以降。 p9 きみはもうだれの恋人でもない♦️歌詞は原文では“It just don’t seem right, somehow, / That you’re nobody’s sweetheart now”となっている。Nobody's Sweetheart Nowはミュージカル・レヴューThe Passing Show of 1923のために作られた曲。詞Gus Kahn & Ernie Erdman、曲Billy Meyers。正しい歌詞は“it all seems wrong somehow”なんだが… p10 オルガン形の机(the imitation spinet desk)♦️ちょっと勘違い。スピネット(小型チェンバロ)を模した形のアンティーク机、ということだろう。多分、必ず引き出しあり。英wikiに”spinet desk”で項目あり。 p16 二十ドル札(twenty-dollar bills)♦️1928年の紙幣サイズ小型化(156x66.3mm)以降、表はAndrew Jackson、裏はWhite House。米国消費者物価指数基準1938/2021(19.36倍)で$1=2134円。$20札だと42680円の高額紙幣。当時は$10000札まであり、1945年になって$100札を超える紙幣の発行を停止した。 p18 輝く月… 真夜中の空に映え…(Golden Moon … over the midnight sky.…)♦️この歌詞の歌は調べつかず。架空? p41 中国人がふたりも私の口の中で自殺(you never should have allowed those two Chinamen to commit suicide in my mouth)♦️口の中がヒドイ状況を言ってるのだろうけど、現代では使えないジョーク… もしかしてニンニク臭いってこと? p42 ヨーロッパの重大時局… 第一面の記事♦️本篇中に出てくる数少ない時事ネタ。 p46 ビーチ・ローブ… テニスや水遊び♦️多分、作中の季節は夏? シカゴの平均気温は6月23度、7-8月28度、9月23度くらいのようだ。 p59 まるでエドガー・アラン・ポオの小説みたいに聞こえる(You sound like something by the late Edgar A. Poe)♦️わざわざ「故」付けが可笑しい。念頭にあるのはどの作品だろう。(ポオ全集を読んでる方には自明?) わかっていないのに言うのは愚の骨頂だが、詩の可能性もある、と思うので「小説」という限定は不要だと思う。 p66 宝石店からダイヤモンド・リルをひっぱり出す♦️ 前歯にダイヤモンドを植え込んだ女性がいてDiamond Tooth Lilと呼ばれたようだ。Diamond Lilはメエ・ウエストが書いた劇(1928)及びその主人公の名前。 p85 デイ・ベッド(a day bed)… 小型机(a spinet desk)♦️前者はソファーベッド、後者は前出(p10)と同じ机だろう。 p92 ドアの上にブザー… 三回鳴ったら、あなたにお電話が入ってる、という意味(there’s a buzzer over your door. Three rings means you’re wanted on the telephone)♦️アパートの仕組み。まだ各部屋に電話は引かれていない。 p105 ミシガン・アヴェニュー橋(the Michigan Avenue Bridge)♦️可動橋(1928年完成)。シカゴの名所。勝鬨橋みたいなヤツ。まだ現役のようだ。羨ましい。現在はDuSable Bridgeというらしい。 p127 ボーイがデスクで『アメージング・ストーリーズ』を読みふけり(A page boy sat at the desk, absorbed in a copy of Amazing Stories)♦️1926年創刊のSFパルプ雑誌の草分け。不況のためか1935年8月号〜1938年10月号は隔月刊になっている。Eando Binder, Stanley G. Weinbaum, Frederic Arnold Kummer, Jr.が当時の主力か。 p139 火星人の襲来(the little men were landing from Mars)♦️1938-10-31のオーソン・ウエルズのラジオドラマによる騒ぎでlittle green men from Marsが冗談記事になったようだ。 p192 まったく異なる二つの問題の、それぞれ独立した一部分(different parts of two entirely different things)♦️この翻訳だと、何か元ネタがありそうな感じ。だが私にはピンとこない。調べつかず。似たような事をマローンが167ページで言っているが… p208 黒人の喋りのマネ♦️現代では完全にアウト?(でも、そうなら現実をどうやって表現すれば良いのだろうか)。一応、原文をあげておく。“Scuse me fo’ disturbin’ you, Mist’ St. John, but they’s a daid man in the kitchen” p210 スワミ(swami)♦️ヒンズー語で学者・聖者・権威のこと。続く「はーるかなる」はアル・ジョルスンの大ヒット曲の歌い出し。(原文: Way down upon the 〜) (2021-8-25追記: アル・ジョルスンじゃなくてStephen Fosterの名曲”Old Folks at Home”(1851年作)ですね。良く確認しないで勢いで書くからこうなる。単なる勘違いを誤訳だ!と騒ぎ立てる(←お前のことだよ)のはやめましょう…) p218 二セントくれれば(for two cents)♦️最後の藁の重み、みたいな感じではないか。試訳: あと二セント分のトラブルで p241 『ザ・ラスト・ラウンドアップ』の一節を口笛で(whistling a bar of “The Last Round-Up”)♦️JDC『死時計』(1935)でハドリーが歌ってた1933年の大ヒットC&W。 p252 石の根(leaving no turn unstoned)… 虫の根(leaving no worm unturned)♦️正しくは”leave no stone unturned” 草の根わけても、全部の石をひっくり返して徹底的に探す。 試訳: 「全部の裏を石かえして」… 「全部の虫を裏返して、でしょ?」 p285 屋台引きからアメリカ有数のキャンディ会社の社長に(had risen from his pushcart to become head of the Candy Company)♦️シカゴのガム会社社長リグリー(William Mills Wrigley Jr. 1861-1932)のイメージなのか。最初13歳の時、フィラデルフィアで父の会社製の石けんをバスケットに入れ、手売りしていた、というエピソードあり。 p286 リグリー・ビルディング(the Wrigley Building)♦️これもシカゴに現存するランドマーク。1921年建造、1924年北館完成。 |
No.352 | 9点 | 三つの棺- ジョン・ディクスン・カー | 2021/08/09 21:34 |
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1935年出版。フェル博士第6作。私の妄想では1933年出版予定だったジェフ・マール第6作&バンコラン最後の事件(第5作)。早川文庫の新訳で読了。翻訳について、ハドリーのフェルに対するセリフは、もっとタメ口で良いのでは?という感じ以外は文句なし。
さて、冒頭を読んで確信しました。我が妄想を裏付けるような記述が堂々と。 これってJDCの『黄色い部屋』本歌取りだ!完全密室プラス通路での消失トリック、というのは、間違いなく『黄色い部屋』の大ネタを意識している。じゃあ『黄色い部屋』のラストの大ネタ、犯人像は?と考えると、JDCの初期構想では『黄色い部屋』を超えるものを用意していたはず。まさにバンコラン最後の事件が相応しい。 あんまり詳しく書くと多方面でのネタバレになるのでやめておくが、私の妄想の中ではグリモー=バンコラン、ミルズ=ジェフ・マール(これなら証言が確実であることを文章内で保証する必要は無い)で決まり。バンコランの謎の過去が暴かれ、素晴らしい血みどろのフィナーレ… まあこれ以上は私の正気が疑われるので書きません。 実際の本作に関しては、小説中にも出て来るが、非常によく出来たマジックの種明かしを読んでる感じで、やっぱりこれが探偵小説の醍醐味だろう。ある部分、がっかり感もあるが、でも素晴らしい力技だよね(空間をねじ曲げる重力場じみたパワー)。そしてがっかりが当たり前なんだよ、嫌な奴は探偵小説なんか読むな!という後年の自作に対する評価への先回りの言い訳と思われるようなフェル博士のセリフが微笑ましい。(p289の「密室講義」冒頭の堂々たる(異常な)宣言は、40年ほど前に初めて読んだ時、物凄い衝撃を受けたものです…) さて『毒のたわむれ』にちょっと書いたフリードリヒ・ハルム『マルチパンのリーゼ婆さん』(Die Marzipanliese 1856)の紹介(水野光二1990明治大学)だが、そこに書かれてるあらすじ(梗概)を読んだらさらにびっくり!これ絶対JDCが本書のネタにしてる。というわけで是非Webにある論文を読んでいただきたい。登場人物の名前ホルヴァート(Horvath)だけでない類似が見つかるはず。(HalmのほうはHorváth) トリビアは銃に関するものだけをあげておこう。 「銃身の長い三八口径のコルトのリボルバーで、30年前の型(a long - barrelled .38 Colt revolver, of a pattern thirty years out of date)」が出てくる。本作の年代は「2月9日土曜」とあることから1935年。約30年前の38口径コルト製リボルバーならNew Army and Navyと呼ばれた原型が1892年製のものだろう(マイナーモデルチェンジがあって他に1894, 1896, 1901,及び 1903の各モデルがある)。これらは38 Long Colt弾を使用するモデルだが1908年以降はお馴染み38 Special弾対応のThe Colt Army Special(海軍用はNavy Specialと呼ばれたようだが同じもの)が製造されている。本書の銃は後者の38 Special用だと思う。(原文のout of dateを「時代遅れになった」と捉えると前者New ArmyモデルがArmy Specialに切り替わったこととまさに合致するから、New Army説が良いのかなあ。私はp389の説明から38 Special説としたのだが…)(追記: 『ピストル弾薬事典』で確認したら38 Long Colt弾でもp389の話と矛盾しないことがわかったので、Colt New Armyで間違いなし!) (追記2021-8-13) 上記を書いた後で、他の方の書評を読んで、特におっさんさまご指摘の新訳の誤訳が気になりました。おっさんさまが具体的に指摘している箇所とは別に、私も一件、ちょっと大事な部分の誤訳をお知らせしたいと思います。(他にはどんな誤訳があるのだろう…) プロローグ、グリモーVSフレイのシーン。何やってんの?と思った場面です。 p18 [フレイは]手袋をした両手でグリモーのコートの襟を引き下げ(his gloved hands twitching down the collar of his coat)♠️最初のhisと次のhisは同一人物です。フレイは自分の顔をグリモーだけに見せる目的で近寄って、コートの襟元をちょっと下げた、という場面。「(自分の)コート」が正しい翻訳。(Webサイト「黄金の羊毛亭」さんちで教えていただきました) だいたい飲食店でくつろいでるグリモーがコートを着てるわけがないよね。 クリスティ再読さまは「改め」という用語で、本作品の本質をズバリ!流石です。 |
No.351 | 6点 | 毒のたわむれ- ジョン・ディクスン・カー | 2021/08/09 09:09 |
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1932年出版。ジェフ・マールもの第5弾。JDCはマール語り手のバンコラン探偵ものを4作続けた後、語り手はそのままに、何故か探偵だけを変えた本作を発表。まあ私の妄想(『四つの凶器』をご覧ください)では、次作でこの探偵VSバンコランをやるつもりだったJDCならば当然の布石なんだが… (この構想が何故ポシャったのかは1933年に超有名シリーズ最終作が発表され、JDCが先をこされちゃったから… というのが私の妄想。同時期に似たような構想を思いついちゃうってあるよね。EQが1939年『そして誰も…』の連載を読んでガーン!となったのは有名な話)
実はジェフ・マールものは舞台が国際的なシリーズで、第一作パリ、第二作ロンドン、第三作ライン川、第四作はパリに戻っちゃったが、第五作は満を持してJDCの生まれ故郷米国ペンシルヴァニア州ユニオンタウン(名指しはされていないが「青年ワシントンがネセシティ砦で最初の一戦をまじえ(p18)」とかで明白)。JDCとしては米国が舞台の小説はこれが初めてだ。 それで第一印象は、登場する陰気な旧家の感じがJDCが嫌になって飛び出した米国の田舎名家っぽい雰囲気の反映なのか?と思ったが、あとから、仲の良かった叔父さん夫婦やいとこを小説に登場させた悪趣味な内輪ネタがなんじゃ無いか、と考え直したりした。「わしが被害者役か、ガッハッハ」とか「もっと私に良い役を振って頂戴よ」みたいな感じ。(ここはまたまた根拠のない私の妄想) さて発表の1932年はWikiによるとJDCが英国女性Clarice Cleavesと結婚した年。ということは花嫁候補を連れて久し振りに里帰りしたJDCの姿も浮かぶ。小説の中で町一番の美女の名前はクラリッサ(Clarissa)だし… (だがその扱いはフィアンセに割り振る役としては最悪の部類。ここでも作者の悪趣味が発揮されている。JDCの役はクラリッサの夫、ツイルズだろうから自分も軽く笑い者にしてバランスをとっていると言えるか…) マールの回想で12年前の若い頃の思い出が語られる。JDCの実年齢なら当時14歳。マールはもうちょっと歳上のイメージだが、ほんのちょっとだけ描かれる、往時の高校生、大学生のほろ苦い回想が本作では一番印象的だった。 ミステリ的には、探偵に魅力が薄く(細身の長身はJDCでは流行らない)、ストーリー展開もごたついた印象でメリハリに欠けている。強烈な謎も無いし、恐怖感もコレジャナイ風味。村崎さんの翻訳は実は悪くなくて、かなり堅実。でもバンコラン新訳四部作を完成させた創元さんにはぜひ新しい翻訳をお願いしたい。 さて、これで『三つの棺』を読む準備は完了。JDCがバンコランにどんな最後を用意してたのか(しつこいようですが妄想です)とても楽しみだ。 以下、トリビア。 p9 提琴軒(The Old Fiddle)♣️何故冒頭がウィーンなのか。JDCの新婚旅行はウィーンだったもかも。そして幻の『バンコラン最後の事件』(ur三つの棺)はウィーンを経てトランシルヴァニアを舞台にするつもりだった?(またしても根拠のない妄想です…) p9 キュンメル酒(kummel) p14 十二年前(a dozen years ago)…ダンスオーケストラ(あの頃はていねいな言葉が使われていた)が「ささやき」や「ダルダネラ」を演奏した(A dance orchestra—the polite term was then employed—played "Whispering" and "Dardanella.")♣️今なら「ジャズバンド」という無粋な言い方だが… という趣旨か。登場する二曲はいずれもYouTubeにオリジナルと思われる音源あり。翻訳には便利な世の中になったものですなあ。 Whispering: 1920年の流行歌。Malvin Schonberger詞、John Schonberger曲。録音Paul Whiteman(1920-8)、11週全米No.1ヒット。シングル盤のリズム指定はFox Trot。(昔のレコードにはリズム指定の表記が大抵付いていた。ダンスの伴奏音楽として捉えられていたのだろう) Dardanella: 1919年の流行歌。Fred Fisher詞、Felix Bernard & Johnny S. Black曲。録音Ben Selvin(1919-11)、13週全米No.1ヒット。シングル盤のリズム指定はFox Trot。 p30 外国人の不思議な物の考え方と切り放すわけにはいかない—フランスのコーヒーやドイツの巻煙草と同じようなもの…(like the coffee of France or the cigarettes of Germany — inseparable from the weird minds of foreigners)♣️仏国コーヒーはファイロ・ヴァンスも大いにクサしていた(『スカラベ殺人事件』1930)が、ドイツ煙草というのはイメージに無かった。嫌な匂いなのか? p32 一八七○のシェルラクのシェリー酒(Ferlac cherry, 1870)♣️ググっても出てこない。架空? p36 ドービル(Deauville)でバンコランと一緒にテリア事件(the Tellier case)で働いたときに彼にもらった… ジッと見つめている目と「パリ警視庁」という文字が書いてある有名な三色のバッジ(the famous tricoloured badge, with the staring eye, and the words Prefecture de Police)♣️これは「語られざる事件」なのだろう。言及されてるバッヂを探したが合致するデザインが見当たらない。架空のもの? p37 あの十一月の気味の悪い晩に、ロンドンのブリムストン・クラブでバンコランとぼくが… ジャック・ケッチと自称する悪党を見張っていた(in that weird November night at the Brimstone Club in London when Bencolin and I watched with Scotland Yard to trap a criminal who called himself Jack Ketch)♣️これはバンコランもの第2作『絞首台の謎』の一シーン。 p42 ゴルフもやれないし、ブリッジもできないが、それをとほうもなくよろこんでいます— それにダンスもできません(I can't play golf, and I can't play bridge, and I'm damn glad of it—oh, and I don't dance, either)♣️当時の社交の代表。作者も嫌いだったろう。 p45 ローゼンバーグ服とフランク靴(wore Rosenberg suits and Frank shoes)♣️服は1898年New Haven創業、1920年代New Yorkで知られていた男性服飾店Arthur M. Rosenberg Co.のものか。靴は1865年創業のFrank Brothers(Fifth Avenue in New York)か。老舗の衣装に身を包んだ、やや古めかしいキャラという感じ? p58 フットボールのスター(football star)♣️サッカーではなくアメフトの方。大学フットボール対抗戦は1869-11-6 Rutgers対Princetonが最初。Webを探すとHaverford High Schoolのアメフト記録が1887年からあった。 p58 ベランダの蓄音機(ビクトローラ)が「だれも嘘などつきやしない」をうたっていた(A Victrola on the veranda was playing "Nobody Lied.")♣️ Nobody Lied (When They Said That I Cried Over You)は1922年の流行歌。Karyl Norman & Hyatt Berry詞、Edwin J. Weber曲。レコードはMarion Harrisの歌(1922-6-7録音Columbia)、Ross Gorman指揮The Virginiansのインスト”Fox Trot”(1922-6-2録音Victor)が見つかった。歌の方はWebに音源あり。 p64 子供の時分からいつだって白髪のおじいさんみたいだった(always the little white-haired boy)♣️お気に入り、という意味。 p71 電気椅子に送られる(send you to the electric chair)♣️ペンシルヴァニアでは1913年採用。1915〜1962に350人が電気椅子送りになった(うち二人だけが女性)。”Capital punishment in Pennsylvania”(Wiki)より。こーゆー項目があるのがWikiの凄いところだと思う。 p73 サイホン(syphon)… 炭酸水(soda-water)… 空き瓶を返すと戻りがある(You get a rebate on the ones you return)♣️瓶売りの炭酸水は1920から30年代に流行った、という。”Soda siphon”(Wiki)より。空き瓶を店に持って行くと小銭がもらえるシステムを実際に体験した人は減ってるんだろうなあ。 p80 まるであの殺人ごっこというゲームみたい(It’s like that game called Murder)… 誰かに『きみは有罪か?』ときく(say to somebody, 'Are you guilty?')… その人が『ハイ、そうです』と言って、そこでゲームがおしまいになる(the person will say, 'Yes,' and then the game will be over)♣️私が最近気になってる「殺人ゲーム」の起源、良いネタを拾ったので、いずれまとめを書きます。 p82 受取りに走り書きしてから、[メッセンジャー・]ボーイに1ドル(scribbled on the receipt and gave the boy a dollar)♣️米国消費者物価指数基準1931/2021(17.87倍)で$1=1970円。当時の1ドル銀貨はPeace Dollar、0.9 silver、重さ26.73g、直径38.1mm。チップとしてはちょっと多めに感じる。料金着払い? p83 二つの心が一つになって鳴り響く(Two hearts that beat as one)♣️「訳注 19世紀べリングハウゼンの劇詩中の一句」とあるが、Webで調べるとU2の曲ばかり出てくるなかに、引用元無しでJohn Keatsの詩’Two souls with but a single thought, Two hearts that beat as one’からとしているのがある。正しくは独詩人、劇作家Eligius Franz Joseph von Münch-Bellinghausen(1808-1871、ペンネームFriedrich Halmで知られている)の劇“Der Sohn der Wildnis”(1842) Act 2から’Zwei Seelen und ein Gedanke, Zwei Herzen und ein Schlag’(英訳はMaria Lovell “Ingomar the Barbarian” (1870c)、グリフィスが1908年に映画化している)がオリジナル。この一節は”Bartlett's Familiar Quotations” 10th ed. (1919)に出てくるらしいので、結構有名な文句だったようだ。このタイトルの流行歌も二曲見つかった。1890年頃シカゴ出版、Harry B. Smith詞、J. E. Hartel曲。1901年シカゴ出版、Adam Craig詞、W. C. Powell曲、Jolly May La Reno歌。残念ながら音源データは見つからず。 ところでフリードリヒ・ハルムって日本で有名なのかな?と調べたら、作品『マルチパンのリーゼ婆さん』(Die Marzipanliese 1856)の紹介(水野光二1990明治大学)を見てびっくり。ハンガリーが舞台で主要登場人物がホルヴァートというのだ!そしてこの中篇小説はドイツ語による最初の犯罪フィクションとされているらしい… これで本作と『三つの棺』のつながりが見えた!というのは重度の妄想ですね。 p87 陰気なウィーン風の『おはよう』をとりかわし…『ピンク・レディ』から取ったあの歌を(exchange that doleful Viennese 'Guten morgen'… that song out of The Pink Lady)♣️”The Pink Lady”は1911年のブロードウェイ喜劇(312回公演)。台本・詞C. M. S. McLellan、作曲Ivan Caryll、フランス喜劇Le satyre(1907 Georges Berr & Marcel Guillemaud作)の翻案。このSatyre(仏Wikiに記載無し)はTheatre Royale, Parisで250回の公演を記録し、ベルリンとペテルスブルグでは公演が未だ続いている(NYTimes 1911-2-11記事)とあった。 p87「きれいなご婦人」♣️ “(My) Beautiful Lady”は上述のミュージカル第三幕の歌。オリジナルに近いYouTube音源あり。Gems from “The Pink Lady,” Victor Light Opera Co (1912)の2:00以降。インスト版は”The Pink Lady Waltz”のタイトルで新しい録音も多数ある有名曲。本作のBGMとして是非聴いて欲しい。 p93 きれいなご婦人、あなたにわたしは目を上げる(To thee, beautiful lady, I raise my eyes…)♣️上述の曲のリフレイン。 p108 探偵小説では、いつも本を取りに下へ行く(They always go downstairs for a book in the detective stories)♣️探偵小説への(メタ的な)言及は黄金時代の特徴。 p108 『アフロデイト(Aphrodite)』♣️古代アレキサンドリアを舞台にしたPierre Louÿs(1870-1925)の官能小説(1896)、英訳はAncient Manners(1900)、スキャンダルとなりVanity Fair1920年1月号に載ったDorothy Parkerの書評によると「入手がとても難しい本」だったようだ。 p125 昨夜の日附(Next appeared the date of last night)、一九三一年十月十二日(12/10/31)♣️後の方で、約二週間前が「11月28日金曜日(p137)」とあるので、ここは明白な誤り。本書の作中年月日は1931年12月10日。 p125 ラムベルトとグラーフシュタインを(Lambert, Grafenstein)♣️調べつかず。 p125 わたしを船でどこかスエズの東に送ってくれ(Ship me somewhere east of Suez)♣️キプリングの詩Mandalay(1890)の一節。 p135 ブランビリエ公爵(Marquise de Branvilliers)♣️原文では正しく「公爵夫人」、続くセリフに合わせた翻訳。 p149 ラフカディオ・ハーンから抜け出したような姿(You’re like something out of Lafcadio Hearn)♣️ Kwaidan: Stories and Studies of Strange Things(1904 Houghton Mifflin) p149 音楽コップ(musical-glasses)♣️グラス・ハープのこと。村崎さんお馴染みの直訳責め。 p149 サミットホテルのお雇い探偵(house detective at the Summit)♣️ ユニオンタウンの実在のホテル。Webに当時物の絵葉書あり。UNIONTOWN PA Summit Hotel & Golf Country Club Aerial view 1930's p173 空気鉄砲(popgun)♣️原文では、おもちゃの鉄砲、の意味。 p177 黒い選挙バッジのような器具からかなり長い針金を巻き戻して取り出したふちなし眼鏡を手さぐりしながら、やっとそれを鼻にのせた(had unreeled a length of wire from an apparatus like a black campaign button, and fumbled with the rimless glasses until she got them on her)♣️状況がよくわからないが、ワイヤーが眼鏡についてて、使用するときに引っ張り出す仕組みなのかも。 p182 われわれは二度と♣️ここら辺の書き方は全然感心しないなあ。 p184 時計の向こうを一目見ることが出来たら♣️同上。 p184 誰でもよく知っている古いことわざ(a certain well-known Latin proverb)♣️酔っ払いの相手をする気になったのだから「酒に真実あり(In vino veritas)」か。 p197 ごまかし(eyewash)♣️ここは「出鱈目、駄法螺」という意味だろう。見当違いなだけで、誤魔化す意図は無いはずだ。 p190 週5ドル(five dollars a week)♣️月給4万3千円。あくせく働いてこれだけ、ということは凄い低賃金だ。 p212 クリーブランド♣️ふと思いついて調べると、この地に当時有名だった精神病院が見つかった。The Cleveland State Hospital(1852-1975)、最初はNorthern Ohio Lunatic Asylumという名称で、後にNewburgh State Hospitalとして知られた。 p241 ひねくれジャネット(Thrawn Janet)♣️R. L. スティーヴンスンの作品(1881)。 p241 五本の指のある野獣(The Beast With Five Fingers)♣️ W. F. Harvey(1885-1937)の短篇小説(1919) p247 ブキャナン、アームストロング、ホッホ、ルイズ・バーミリア、バワーズ、ウエイト、バーサ・ギフォード、アーチャー夫人(Buchanan, Armstrong, Hoch, Louise Vermilya, Bowers, Waite, Bertha Gifford, Mrs. Archer)♣️有名な毒殺者たちのリストだが、調べるのが面倒なので参考まで原綴を書いておく。 p248 クラフト・エービング… わたし自身は、あの大将のたわ言を読むくらいなら、ヒマシ油を飲むほうがましだが(Krafft-Ebing. I'd sooner drink castor oil than read the chap's stuff, myself)♣️JDCの感想だろう。 p248アラゲニイの天使と呼ばれた陽気な貴婦人(the cheerful lady they called The Angel of Allegheny)♣️毒殺者らしいが調べつかず。 |
No.350 | 6点 | オシリスの眼- R・オースティン・フリーマン | 2021/05/26 05:11 |
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1911年出版。ちくま文庫(2016)で読了。
渕上さまの行き届いた解説で元々は1910年ごろ、米出版者マクルーアと雑誌連載の話を進めていた、という。初稿と最終版には結構な異動があり、詳細は渕上解説をご覧ください。こーゆー解説が全ての翻訳本についてると嬉しいなあ。(現状は何も調べてない個人の妄言ばっかり… おっと批判はそこまでだ) 翻訳は英初版(限定版)によるもので、後年の版には誤植や脱落が目立つらしい。 オシリスの眼、とはWiki「ホルスの目」として項目だてされている「ウアジェト(ウジャト)の目」のこと。文庫カバー絵上部に描かれている有名な象形文字としても有名。 小説自体はゆっくりと時が流れる物語で、やや起伏に乏しいけれど、解決篇の緊迫感はなかなかのもの。 ミステリとしては中レベル。いつもの通り、右に振って左が正解というミスディレクション成分が不足してるのがフリーマン流。ソーンダイク博士も本心を明かさず「君も同じものを見聞きしているのだから、よく考えればわかるよ」とお馴染みのセリフで、怠惰な読者は置いてけぼり。 小説として面白くないか、というとそんなことはなくて、大英博物館所蔵のアルテミドロスのミイラ(1888年獲得、Artemidorus MummyでWeb検索すると非常に楽しめる)のネタなどがとても良い場面に仕上がっていて、楽しい読書だった。最近、とても興味がある検死法廷(the coroner’s court=inquest)の場面もたっぷり描写されていて非常に興味深かったし… 小説の作中年代は1902年と明記。価値換算は英国消費者物価指数基準1902/2021(126.08倍)で£1=17721円。 原文はMysterious Press版によるもの。 トリビアは暇になったら埋めるかも。とりあえず一件。 p97 黒い司祭服に山高帽といういでたちなのに、いきなり振り向くと、実は中年の女性と分かってびっくりさせられる、あの背の低い年配の紳士は?(Or the short, elderly gentleman in the black cassock and bowler hat, who shatters your nerves by turning suddenly and revealing himself as a middle-aged woman?)♦︎渕上さまの翻訳は丁寧な仕上がりで、訳注も適切、本当に文句なしなんですが、この文章だけはハテナ。ここは文の最後に「紳士」を持ってきたのが失敗。黒い司祭服に山高帽だから年配の紳士かと思いきや、振り向くと中年女性だったのでビックリ、という原文ですね。 |
No.349 | 6点 | 仮面荘の怪事件- カーター・ディクスン | 2021/05/12 03:28 |
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1942出版。創元文庫で読了。原題はThe Gilded Man「金ピカの男」というような訳が適当か。HPB「神像」はちょっとズレちゃう気がする。
フェル博士ものの短篇『軽率だった野盗』(A Guest in the House, 初出The Strand 1940-10, 創元『カー短編集2』収録)を長篇に仕立て直したもの。比較はネタバレになるので止めておこう。 私には意外なボーナスがあった大ネタ。HMのドタバタも上手に物語に嵌っているが、主人公が間抜けに思えるので全体の印象はそんなに良くない。ミステリ的なアイディアは結構良い。 結末を読んでJDC/CDのコンプレックスがわかったような気がする。ネタバレになるのでボカすが、重要なキャラへの言及が無いのだ。ということはJDCにはそのキャラが非常に身につまされるのだろうか… とりあえずJDCの諸作品からは、ある種の劣等感を感じる、とだけ言っておこう(まあ私の読みは薄っぺらいので全然合っていないとも思います)。 以下、トリビア。原文は入手できず。(2021-8-14追記: 原文を入手した。以下、追記箇所は{8/14★}で表記) 作中年代は冒頭付近に明記。1939年(p28)を迎える直前の木曜(p32)深夜なので1938年12月29日から始まる物語。 貨幣換算は英国消費者物価指数基準1939/2021(67.05倍)で£1=9429円。 p9 女優フレヴィア・ヴェナー(Flavia Venner)… <サロメ>上演中に急死… <サロメ>は彼女のために特に書かれた劇で… 作者は——[彼女は]ヴィクトリア時代のある詩人の名をあげた♣️モデルはSarah Bernhardt(1844-1923)とOscar Wilde(1854-1900)だとバレバレだが、何故か匿名。意外なことにサラ・ヴェルナールによるSalomé(初出1891)の上演は行われていないようだ。 p38 郵便屋ゲーム♣️英Wikiに項目があるPost office (game)か。別名Postman’s knockという若い男女のグループでやる他愛もないキスごっこ。米国では1880年代から流行していたようだ。{8/14★}原文はPostman’s knock p43 クリケットの速球投手♣️fast bowler。残念ながら、これ以上のクリケットねたは言及されず。JDCは米国生まれなのであまり興味がなかったのだろう。 p49 エル・グレコ…この絵を<池>と命名♣️この画家でこの主題の作品は見当たらず。架空のものか。少し後(p147, p169)にこの絵の詳細な描写がある。{8/14★}原文はThe Pool、もちろん、この英名を持つEl Grecoの絵は存在しない。 p59 ヴェラスケスの<チャールズ四世>… ムリリョの黒ずんだ<ゴルゴダの丘>… ゴヤの<若い魔女>♣️ベラスケスの時代ならフェリペ四世(スペイン王カルロス四世はゴヤの時代)だろうし、ムリーリョの磔刑図も無さそう(全作品を確認していないが…)。ゴヤなら若い魔女の主題はありそうだが。{8/14★}原文はそれぞれVelasquez's Charles IV, … Murillo's smoky Calvary…. Goya's The Young Witch。 p69 ラッフルズかアルセーヌ・ルパン以上の大犯罪者♣️英国らしくラッフルズが先。 p88 十万ポンドを楽に超える♣️短篇では三枚の絵(レンブラント2枚とヴァン ダイク1枚)の価値は「3万ポンド(2億2千万円)」だった。 p88 ミュンヘン協定以来世情が不安定になって、絵は市場にだぶついている p99 ニッケルの小さな懐中電灯♣️1920年代には単四電池二本を縦に使用するflashlightがあったようだ。(WebサイトFlashlight Museum参照) p105 カーター・パタスン社♣️Carter Paterson (CP) は英国の運送会社。1860年創業、元はCarter, Paterson & Co., Ltd.だったが、1933年に英国鉄道四大会社(Big Four)が当分の持ち分で支配下に置くことになった。 p116 ダグラス・フェアバンクス♣️Douglas Fairbanks(1883-1939) サイレント映画時代の活劇スター。代表作はThe Mark of Zorro(1920), Robin Hood(1922), The Thief of Bagdad(1924) p136 バガテル♣️Bagatelle。ピンボールの祖先のような室内テーブル・ゲーム。 p137 一ポンド札♣️当時の札はSeries A(1st issue)と呼ばれるもの(1928-1962流通)。表が左にブリタニカの正面座像、裏が龍を仕留める馬上の聖ジョージ(左右とも同じ)のデザイン。緑色、サイズ151×85mm。 p138 ランズ・エンドからジョン・オ・グローツまで♣️ Land's End to John o' Groats。英国本島の南西端から北東端まで。 p150 フレッド・ペリー♣️Fred Perry(1909-1995) 英国の「テニスの神様」 p150 ラクロッス♣️Lacrosse。今は「ラクロス」が定訳。国会図書館デジタルコレクションに『ラクロッス術・クロッケー術』高見沢宗蔵, 鳥飼英次郎 著(明治35年10月)があった。 p150 ペロータ♣️Basque pelotaとしてWikiに項目のあるゲームの事か。スカッシュ系の壁打ち対戦の球技のようだ。 p150 スピット・イン・ジ・オーシャン♣️Spit in the Ocean。ポーカーの変種の一つのようだ。某Tubeにやり方動画が色々あるが、ここで言ってる当時のイメージと同じものかどうかは不明。 p152 W・G・グレース♣️William Gilbert Grace(1848-1915) クリケット界の大スター。右投げ右打ち。打者、投手、野手の全てに傑出していた。野球で例えるとベーブ・ルースや長嶋茂雄クラスの誰でも知ってる選手だろうか。 p181 ウィーダ♣️Ouida(1839-1908)、本名Marie Louise de la Ramée。代表作は映画化されたUnder Two Flags(1867)、A Dog of Flanders(1872) 日本では非常に有名。 p181 マリー・コレリ♣️Marie Corelli(1855-1924) 売上では同世代のドイル、ウエルズ、キプリングを凌いだ、という。代表作Vendetta!(1886)は涙香により翻案(白髪鬼 1893)され、乱歩の同題小説(1931)の元ネタになった。 p186 チャーリー・ピース… 犯罪の芸術家で、詩人で、ヴァイオリンの名手♣️Charles Peace(1832-1879) その生涯は演劇、小説、映画のネタになったが、それは事実を大幅に脚色したものだった。 p190 ブローディー助祭♣️William Brodie(1741-1788)、エジンバラの押し込み強盗。家具職人組合の長だったためDeacon Brodieの名で知られている(「助祭」ではない)。 p198 エッチング♣️Want to come up and see my etchings?という古いセリフ(男が女を自室に誘う)があって、HitchcockのBlackmail(1929)が初出か。殺されたプレイボーイの建築家Stanford White(1853-1906)が良く使っていた文句、という家族の証言があるらしい。 p202 エドワード・バーン・ジョーンズ卿♣️Sir Edward Coley Burne-Jones, 1st Baronet(1833-1898)、ラファエル前派のデザイナー。サラ・ベルナールの肖像画(制作年不明)あり。 p204 チェスタトン流に逆の方向から♣️JDCが崇めた作家だが、小説中の言及は珍しいかも。{8/14★}原文はthe Chestertonian principle of looking in the wrong direction。 p207 サザビーの特許♣️調べつかず。{8/14★}原文はThe Southerby Patent、やはり調べつかず。 p220 トミー・ファーがジョー・ルイスをノックアウト♣️ウェールズ出身の全英ヘビー級チャンピオンTommy Farr(1913-1986)が、1937-8-30にニューヨークのヤンキースタジアムで世界ヘビー級王座Joe Louis(1914-1981)と闘い15回判定負け(微妙な判定だった)試合の不満が英国人には残っている、という事だろう。 p235 かつて、とても有名だった推理小説中の人物の名前{8/14★}原文はthe name of a character once very famous in fiction、ここは原文通り「ある小説中の」とすべきところだろう。 p240 モンマルトルの<地獄(ヘル)>という馬鹿げた見世物♣️19世紀末Paris(No. 53 Boulevard de Clichy)のCabaret de L'Enfer(1892-1950)のことか。英Wikiに項目あり。{8/14★}原文はa silly exhibition in Montmartre, called Hell。 p249 九ペンス貨幣くらいの[大きさ]♣️当時英国で9ペンス貨幣は存在しないが、イングランドでは約9ペンスの値打ちしかなかった16世紀アイルランドの 1 シリング硬貨(サイズ約33mm)、のことか。米国ニューイングランドでは古いスペインのレアル硬貨のこと(12.5セント相当、サイズ38mm)とも。{8/14★}原文はcop a ninepenny one、ninepennyは「くぎの長さ」で7cmほど、と辞書にあった。 p251 ユダヤの喜劇役者の二人組♣️何のイメージか調べつかず。{8/14★}原文はlike a pair of Hebrew comedians、この表現では情報不足だが、Wikiで調べると当時のユダヤ系コメディアン二人組が二組ほど見つかった。 p252 イザドラ・ダンカン♣️Isadora Duncan(1977-1927)、米国モダンダンスの祖。 p267 ベートーヴェンのコンサート p268 サイン帳♣️英wikiにAutograph bookとして項目あり。ドイツ16世紀中ごろに源流があり、18世紀末に米国に拡がったらしい。{8/14★}原文はsign my autograph book。 p276 三千ポンド p296 フェニモア・クーパー |
No.348 | 6点 | もの言わぬ証人- R・オースティン・フリーマン | 2021/05/08 21:35 |
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ソーンダイク博士ものの長篇第四作。出版1914年。初出は英雑誌の連載か、と思ったが当時ソーンダイクものを掲載していたPearson’sやNovel Magazineではない。FictionMags Indexには米国週刊誌All-Story Cavalier Weekly 1914-6-20〜7-18(5回)連載との記録があった。この米誌が初出であっても不思議は無い。
私家版の電子書籍(Kindleで安く入手可能)だが、翻訳は流麗。日本語が良く、会話も上手い。訛りの処理も素晴らしい。以下では数か所、翻訳上の異論を書いたが、気になったのは挙げているほんの数カ所だけ。自信を持ってお薦めできる翻訳です。 内容は、面白い巻き込まれ型の冒険談。結構起伏に富んだ流れ。でも解決にいたる部分がちょっと残念(なんかモタモタしている)。フリーマンはこういう構成があまり上手くない印象。本格ミステリ味は薄い、と思ってください。 以下、トリビア。原文はWikisourceによるもの。H. Weston Taylorのイラスト4枚付き。米国人画家なのでAll-Story誌連載時のものか。Wikisourceの元本は米初版The John C. Winston Company, Philadelphia 1915、と記載されている。 翻訳には欠けているが献辞あり。 To, Dorothy Cuthbert and Gerald Bishop [二人が何者かは調べつかず] In Memory of Labors that are Past and in Token of Friendship that Endures (拙訳: 過ぎ去りし労苦の思い出と変わらぬ友情の証しとして) 冒頭「私の学生時代の最後の年、九月のある夜に(a certain September night in the last year of my studentship)(前編p38/3531)」とあり、数年前を思い出して語っている感じだが、どのくらい前だかどこにもはっきり書いておらず、日付と曜日を同時に明記している箇所もない。しかし年代確定のヒントが結構あり(以下の各トリビア参照: 前編p531, 638, 695, 1257, 後編p2881)作中年代は1901年9月であることがわかる。後編第16章の記述から冒頭は9月18日深夜だろう。 貨幣換算は英国消費者物価指数基準1901/2021(126.08倍)で£1=19149円。 前編p38/3531 ハイゲート・ロード(Highgate Road)... ミルフィールドの小道(Millfield Lane)... ハイゲート低地からハムステッドの高台まで(from Lower Highgate to the heights of Hampstead)♣️舞台はロンドンの自然保護区域Hampstead Heath近郊。フリーマンの描写が良く、作者お気に入りの公園だったのだな、と思われる。私は新宿御苑をイメージしました。 前編p198 ハムステッド小道の入口のいわゆる『キス・ゲート』(the “kissing-gate” at the Hampstead Lane entrance)♣️キッシングゲートが定訳か。人は通れるが家畜は通れない構造の門。もしかして訳者さんはロマンチックな門だと勘違いしてる? (2021-5-10追記: 「地球の歩き方」公式Blogで以下の記述があった。 “ところで、だれが思いついたのか。このゲートには名まえがついています。その名も、「キッシングゲート(Kissing Gate)」、つまり、「キス(Kiss)して(ing)通るゲート(Gate)」。 このゲートを通過するときばかりはレディファーストではなくて、男の子がひと足先に通ってしまうのです。そして、向こう側からゲートを押して、手前にいる女の子を通せんぼして言うのです。「キスをしてくれたら通してあげるよ」って……” 嘘くさい由来だけど、こーゆーロマンチックなエピソードもあるんだね。Wikiには別の由来が書いてあり、このネタは出てこない。でも訳者さんはご存知だったのだろう。) 前編p226 自分の髭剃り用カップになみなみと熱いグロッグを(a jorum of hot grog in my shaving pot)♣️なぜ髭剃り用のを使う? 若い独身男の自由な生活の描写か。Grogはラム酒の水割り。英国海軍Vice Admiral Edward Vernon(1684-1757)のあだ名Old Grogに由来。 前編p439 かなりオーソドックスな服装の(Quite the orthodox get up)♣️試訳「全く型通りの身なり」 前編p439 スケッチ用の眼鏡を掛けてたわ。ほら、半月型のやつ(sketching-spectacles–half-moon-shaped things)♣️近くを見る用か。 前編p449 チラ見(snooper)… 学生の間で使われているスラング♣️オランダ語snoepenから。スパイする、の意味のようだ。1891年に米国New Englandでこの意味のsnoop(動詞)が使われている。Cookies, Coleslaw, and Stoops: The Influence of Dutch on the North American Languages (2009) by Nicoline van der Sijsによる。コールスローってオランダ語由来だったのか。 前編p488 態度にはほんの少し上流階級らしさを感じさせるところがあった。が、だからと言って彼女への好感度が薄れることはなかった(with just a hint of the fine lady in her manner; but I liked her none the less for that)♣️反感を覚えるとしたら、ちょっとすまし気味の、貴婦人を気取った感じ、だろうか。 前編p494 マトンのカツレツとフライドポテト(mutton cutlets and fried potatoes)♣️昼食のようだ 前編p506 十一月も半ば(It was getting well on into November)♣️「十一月に入っても良い天候は続いた」というような意味か。「半ば」だと後々の時間経過の描写と合わない。 前編p531 メンデル… 誰ですか? そんな名前聞いたことがありません… 彼の発見の重要性がようやく今になって評価され始めたところなのだ♣️英国ではWilliam Bateson(1861-1926)が再評価を推進。1902年にメンデルの論文を英語に翻訳(Principles of Heredity: A Defenceの序文には1902年3月とあった)、1908年ケンブリッジ大学の遺伝学教授に就任。1910年にReginald Punnett(1875-1967)とともに"The Journal of Genetics"を創刊。 前編p573 昔の教え子(our old students)♣️「医学部の同窓生」という意味か。この後出て来るのは結構ベテランの医者な感じなので、ソーンダイク博士の「教え子」ではなさそう。 前編p638 電気普及以前のこととて、チリンチリンと鳴りながら走る乗合馬車(the jingling horse-tram of those pre-electric days)♣️試訳「チリンチリンと走る電化以前の馬車鉄道」馬車鉄道(horsecarでWikiに項目あり)は英国で19世紀初頭に登場。ロンドンでは1870〜1915に採用、最初の電車(Electric tramway)は1901年。別のWeb記事でロンドンでは1912年にはほとんどの馬引きの乗り物が自動車などに代わった、とあった。交通の発達で馬の数が急激に増えるので、1894年にThe Timesが「50年後、ロンドンは厚さ9フィートの馬糞に埋もれる」という記事を載せたという(Great Horse Manure Crisis of 1894)。 前編p638 『ミカド』の中の曲を…♣️時間通りに(Punctual to the minute)現れたので、Act I, Part XIのPooh-Bahの台詞To ask you what you mean to do we punctually appearからの連想? 前編p649 壜の封の仕方(how to wrap up a bottle of medicine)♣️ここは「包み方」だろう。最後は封蝋(sealing-wax)で留めている(セロハンテープの代わり)。「封」と訳すと壜の口のシーリングだと誤解される。 前編p676 バンブルの言うことはもっともだ。法律なんてクソだよ(Bumble was right. Law’s an ass)♣️DickensのOliver Twist(1838)から”...If the law supposes that," said Mr. Bumble, squeezing his hat emphatically in both hands, "the law is a ass — a idiot...” 前編p676 生きているうちに埋葬されるなんて、小説の中だけ(Premature burial only occurs in novels)♣️このネタ、ポオが嚆矢か。"The Premature Burial"(The Dollar Newspaper[Philadelphia]1844-7-31) 前編p695 火葬(cremation)… それについて新しい法律が制定されるという話もある... 墓地株式会社はそれ自体が法律だから(there is some talk of new legislation on the subject, but the Company are a law unto themselves)... ロンドンの近くにはウォーキング以外には火葬場がない(there is no crematorium near London excepting the one at Woking)♣️サリー州Woking火葬場は1878年開設。ロンドンでは1902年11月、Golders Green Crematoriumが初。1年間で全英で1000件に達したのは1911年が最初で、そのうち542件がゴルダース・グリーンで実施(当時の死者数は50万人程度、火葬率0.2%)。言及されているthe Companyは1900年創立のLondon Cremation Company Limitedのことだろう。 ロンドン近くの火葬場がWokingだけ、とあり、「新しい法律」はCremation Act 1902(1902年7月22日に成立、火葬に英国法律上の根拠を与えたもの)のことだろうから、作中年代は1900年以降1902年7月以前と思われる。 前編p809 検死解剖は行ったか?(Have you made a post mortem?)♣️死因をきちんと確定する検討行為の事だろう。解剖するほどの手間までは要求していないと思う。 前編p810 七十ポンド 前編p868 せっかちな男というのは、自分自身より他の人間の神経を疲れさせるものだ 前編p937 葬式♣️当時の火葬の情景。A Francis Frith postcard of Woking Crematorium, 1901とWeb検索すれば当時ものの絵葉書が見られる。 前編p1121 ポケットナイフの中には工夫に富んだタイプのものがある。主に食卓用ナイフ・フォーク業界(the cutlery trade)のために考案されたものだ… コルク抜き、手錐、まごつくほど多種の刃、鉄へら(蹄に喰い込んだ石などをほじるもの)、爪楊枝、毛抜き、ヤスリ、ねじ回し、その他諸々の道具がセットに♣️VictrinoxのSwiss army knifeの特許は1897年から。「大抵、女性が薦めて男に贈るプレゼント」という観察が面白い。 前編p1236 ハンサム♣️長い訳註あり。思い出した!『二輪馬車の秘密』の評も書かなくちゃ! 前編p1257 私はジャービス。ソーンダイク・オーケストラの第二バイオリンさ。(my name is Jervis. Second violin in the Thorndyke orchestra)♣️第一バイオリンはポルトンか。ジャービスの感じから『赤い拇指紋』(1901年3月9日の事件)の後であることは確実。 前編p1434 入念な予防措置を講じておいても、現場ではこのざまだ… 火葬の危険性がここにある。毒殺者に安全を与えてしまう♣️規則と現実の実態との差をフリーマンは嘆いている。 前編p1473 警察の仕組みというのはプロの犯罪者に合わせて作られている。押し込み、贋金造り、文書偽造、そういった犯罪だ。 前編p1819 私はバイアダクトの手摺に寄り掛かって立っていた。それは見栄えの良い煉瓦造りの高架橋で、私は名前を知らないが、ある建築家によってアッパーヒースを越えたところにある池の上に架けられたものだった♣️建築家はJoseph Gwilt、当時の地主Sir Thomas Maryon WilsonがViaduct Pondにかかるred brick viaductを設置した(1844-1847)。Web検索: The Viaduct Hampstead Heath 1906で、当時の絵葉書が見られる。 前編p1855 ハムステッドは---当時のハムステッドは---奇妙に田舎風で辺鄙な感じがした。しかし、森の中からでさえ、信じられないことに、教会の鐘の音や弾丸の射程距離の範囲内であるほどにロンドンの市街地はすぐ近くなのだ。(Hampstead–the Hampstead of those days–was singularly rustic and remote. But, within the wood, it was incredible that the town of London actually lay within the sound of a church bell or the flight of a bullet)♣️こういう表現(those days)は一昔前(10年ほど前)の回想に感じられる。ガンマニアとしては、教会の鐘の聞こえる範囲と銃弾の有効射程を同列にしているのが面白い。生粋のロンドンっ子はSt Mary-le-Bowの鐘が聞こえる範囲(半径5kmくらい?)で、そこからハムステッド・ヒースまでは7.7km。ここではa churchなので特定の教会は想定していないのだろう。当時のライフルはMauser Gew98を例にとると最長射程3735m。 前編p1948 ミルフィールド小道の回転木戸、別名キス・ゲートを通りかかった(I passed through the turnstile, or “kissing-gate,” at the entrance to Millfield Lane)♣️「回転木戸、というか“キッシングゲート”を」と言い直した感じか。「回転」しないので。 前編p2095 名刺(a card)… カッパープレート書体で印刷された文字(at the neat copper-plate)♣️Copperplateは17世紀初期ヨーロッパで生まれた書体。書体習字の見本帳が銅版印刷だったことから、この名前となった。 前編p2105 ジョン・オ・グローツからランズ・エンドまで(from John o’ Groats to Land’s End)♣️Wikiの項目ではLand's End to John o' Groats、英国本島の南西端から北東端まで。直線距離だと603 miles (970km) だがアイリッシュ海を渡る。伝統的には陸路で歩いてその距離874 miles (1,407km)、自転車で10日から14日が普通。走って9日というのが記録(英Wiki)。 前編p2556 彼らの言葉を借りると『大洞をかます』(to “pitch them my yarn,” as they expressed it)♣️船員がそう言ったのだろう。 前編p2574 ブリキの紅茶ポット、二個の卵焼き、そしてタラの皿を♣️朝食 前編p2611 所持金は四、五ポンド 前編p2655 金貨(a gold coin)♣️当時の最低額の金貨はヴィクトリア女王の肖像でHalf Sovereign, 重さ4g, 直径19mm。0.5ポンド=9575円。 前編p2683 弱き器の方は説明のつかぬ病気を引き起こしたりする[以下、差別的表現があるため削除]。(the weaker vessels develop inexplicable diseases, with a tendency to social reform and emancipation)♣️with以下を訳者さんは削除。だが、取り立てて酷い表現ではない、と思うのだが… 一応、他の電子版も見たが同文であった。 「弱き器」は聖書から。1 Peter 3:7(KJV) Likewise, ye husbands, dwell with them according to knowledge, giving honour unto the wife, as unto the weaker vessel, and as being heirs together of the grace of life; that your prayers be not hindered. 文語訳「ペテロの前の書」夫たる者よ、汝らその妻を己より弱き器の如くし、知識にしたがひて偕に棲み、生命の恩惠を共に嗣ぐ者として之を貴べ、これ汝らの祈に妨害なからん爲なり。 前編p2740 朝刊を持って喫煙コンパートメントの窓際の席に腰を落ち着けたとき、よく言われる英国人の非社交性でもって、私はコンパートメントを独り占めできそうだ、しめしめと思っていた。(when I had established myself with the morning paper in the off-side corner seat of a smoking compartment, I began, with an Englishman's proverbial unsociability, to congratulate myself on the prospect of having the compartment to myself)♣️この感じだとコンパートメントは廊下で繋がっていない古いタイプの客車。off-sideは英国表現で「右側」。 前編p2821 サンドフォードとマートンに出て来てもいいような言い回しだ(It might have come straight out of Sandford and Merton)♣️訳註では英国のベストセラーだった教育的児童書Thomas Day作 The History of Sandford and Merton (1783–89)としているが、もっと読みやすくした多くのリライト版が出ており、Sandford and Mertonもの、として流通していたようだ。(Lucy Aikin編Sandford and Merton: In Words of One Syllable 1868など) 前編p2841 年齢約二十六歳、身長六フィート強、平均的な顔色、髪は褐色、目は灰色、鼻はまっすぐで、やや細い顔、髭は剃ってある(about twenty-six years of age; is somewhat over six feet in height; of medium complexion; has brown hair, grey eyes, straight nose and a rather thin face, which is clean-shaved)♣️人相書の例。 上巻p2942 私はね、地方の旧家で女中頭をやっていて、亡くなった夫は御者をしていました。その私が… 淑女を区別できないとお思いですか?(I who have been a head parlour-maid in a county family where my poor husband was coachman, don't know a real gentlewoman when I meet one? ) 前編p2952 お昼… ポーターハウス・ステーキ(your lunch. It's a small porterhouse steak)♣️T-boneステーキのこと。サーロインとヒレを骨で挟んだ部位。ポーターハウスはヒレ多め、との説あり。 前編p2961 求婚に行くカエル(the frog that would a-wooing go)♣️Charles Henry Bennett(1829-1867)の絵本“The Frog Who Would A-Wooing Go”(1864)から。Gutenbergで文章も絵も見ることが出来る。 前編p3061 ミス・ヴァイン♣️ミス呼びの風習に基づく楽しい場面。私は『ノーサンガー・アビー』で初めて知った。親族に広げると最年長者が、になるのだろう。 前編p3064 アメンホテップ三世が座ってサンドイッチとビールで食事(the seated statue of Amenhotep the Third in the act of refreshing itself with a sandwich and a glass of beer)♣️英国が1823年に獲得した座像。 前編p3064 まるでオセロを演じてでもいる気分(feel like a very Othello)♣️熱演の独白だからか。 前編p3147 伯母は自分の鼻を利用している(she trades on her nose)♣️意味がわからない。ジョークらしいが… 前編p3312 スパークラー氏(訳註: ディケンズの『二都物語』に出てくる人物か)ならば「浮っついたとこなど、これっぽちもねえ」と言うところだろう(a girl—as Mr. Sparkler would have said—"with no bigod nonsense about her.")♣️残念ながらDickens作 Little Dorrit(1855-1857) Book 1, Chapter 21から。she was 'a doosed fine gal--well educated too--with no biggodd nonsense about her.' 前編p3413 わが君は考え事をしておられる(My lord is pleased to meditate)♣️何かの引用?調べつかず。 後編p86 黒蠅(a bluebottle)... オオツノ黄金虫(a Goliath beetle)♣️bluebottleはアオバエが正解だろう。後者はゴライアスオオツノコガネが一般的か。 後編p190 現代版ミュンヒハウゼン(a sort of modern Munchausen)♣️Baron Munchausen's Narrative of his Marvellous Travels and Campaigns in Russia(1785)は英語で書かれた独逸人Rudolf Erich Raspeの作。元は実在のホラ吹き男爵Hieronymus Karl Friedrich, Freiherr von Münchhausen (1720–1797)のエピソード(ベルリン1781年、著者不明)にRaspeが色々付け加えて英国で出版したもの。 後編p228 曲がり角のない一本の道(it is a long road that has no turning)♣️「たまたま今までは全然曲がり角の無い道だったのですよ。」いずれ良いことがあるでしょう、という意味(「どんな真っ直ぐな一本道でもいずれ曲がり角は来る」英語には続く苦労を慰める似たような表現が多数。Every cloud has a silverlining, After night comes the dayなど)だが、じゃあThe Long and Winding Roadっていうのは、沢山の良いことがあった、という含意あり? 日本語だと「曲がり角」は波瀾、トラブルの比喩なのだが。 後編p268 「女は悲しい依存的な生き物です... 依存的というのは、自分の幸福が周囲の人々に依存しているという意味です... 男の人は... 仕事があって、野心があって、それで他人に依存することなく生きて行けます。ところが女の方は、人生にはより大きな目的があるなどと口ではどんなことを言おうと、夫と家庭と可愛い子供が一人か二人いれば、それで野心は満たされるんです♣️フリーマンの女性観。当時の英国男性は皆そうかも。 後編p317 羨望の緑の目(the green eyes of envy) 後編p596 トラップドア(the trap)♣️訳註「ハンサム馬車には屋根の後方に上げ蓋式のドアがあり、それを開けて御者に指示を与えた」TVシリーズRaffles(1977)第三話に映像資料あり。 後編p660 帽子に封筒を二枚挟んで(stuffing a couple of envelopes into the lining of [個人名]'s hat)♣️帽子の中の「ビン皮(lining)」に挟んだ、ということ。 後編p710 グリーン・ルーム(the green-room)♣️楽屋 後編p747 チャーリーの伯母さん(Charley's Aunt)♣️Brandon Thomas作の喜劇。初演はTheatre Royal (サフォーク州Bury St Edmunds) 1892年2月。連続上演記録を塗り替えたヒット作(1466回)。ブロードウェイやパリでもヒットとなり、数度の映画化(1925他)、ミュージカル化がなされている。 後編p1391 アン女王と同じぐらい死んでいた(as dead as Queen Anne)♣️アン女王の死(1714-8-1)は、当初王室で秘密にされていたが、その情報は早くから漏れており、皆に知れ渡っていて誰も驚かないよ、という歴史上の逸話から出来た言葉。 後編p1391 死亡を証明する唯一の決定的指標は腐敗だということだ。確かテイラーだったと思う(the only conclusive proof of death is decomposition. I believe it was old Taylor who said so)♣️Alfred Swaine Taylor(1806-1880)のことだろうか。英国の毒物学者で英国法医学の父と呼ばれている。 後編p1401 最初の疑問:ラインハルトは生きているのか?にはイエスだね(You answer his first question: 'Is Reinhardt alive?' in the affirmative)♣️これは誤読を誘う翻訳。試訳「彼の最初の疑問〜に君はイエスと答えたね」 後編p2094 通常の五ギニーの報酬(the usual fee of five guineas)♣️医者への報酬の相場なのか。1ギニー=1.05ポンド、報酬として良く使われる単位。今までの印象としては1ポンドと同じに使われている感じ。 後編p2326 近頃の小口径の連発ピストルは殺傷能力は高いのに、音は非常に小さいものですよ。特に弾頭部分を開けておけばね(these modern, small-bore, repeating pistols make very little noise, though they are uncommonly deadly, especially if you open the nose of the bullets)「リピーティング・ピストル」という言い方は1900年ごろには残っていたが1910年ごろには廃れている(オートマチック・ピストルという用語が一般的になった)。open the nose of the bulletsはソフトポイント弾みたいなものか。でもそれが消音効果を持つというのは聞いたことがない。 後編p2662 『復讐するは我にあり』とは主の言葉(Vengeance is mine, saiz ze Lordt!)♣️原文では最後が訛ってるが引用元はRomans 12:19 (KJV) Dearly beloved, avenge not yourselves, but rather give place unto wrath: for it is written, Vengeance is mine; I will repay, saith the Lord. 文語訳「ロマ人への書」愛する者よ、自ら復讐すな、ただ神の怒に任せまつれ。録して『主いひ給ふ、復讐するは我にあり、我これに報いん』とあり。 後編p2691 骨壺... それは側面が長方形の粘土の素焼きの容器で、高さ約十四インチのものだった(the urn—which was an oblong, terracotta vessel some fourteen inches in length) 後編p2881 一八七〇年頃のシャスポー銃(a chassepot of about 1870)♣️普仏戦争(1870-1871)でフランス軍が使用。プロシア軍のドライゼ銃(当時の日本では普式ツンナール銃と呼ばれた)に比べ、最新式で長射程(最長1200m)だったが、フランス軍は惨敗し、銃の評判も下がった。このライフル銃はソーンダイクもののとある短篇にも出てくる。それから「三十年以上前に(more than thirty years ago)後編p2881」ということなので作中年代は1901年以降か。 |
No.347 | 7点 | 最後に二人で泥棒を -ラッフルズとバニー(3)- E・W・ホーナング | 2021/05/03 23:57 |
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単行本1905年出版。初出は前半5作が米国週刊誌コリヤーズ誌、連載タイトルはA Thief in the Night、イラストは不明。英国月刊誌ペルメル誌の方は同じ連載タイトルA Thief in the Nightでコリヤーズ誌掲載分を連載(1905年1月号〜5月)し、引き続き6話〜9話を掲載、イラストはCyrus Cuneo。最後の作品は短篇集初出。
前二冊ではホンヤク者さんの誤訳をあげつらったが、翻訳全体の雰囲気は良くラッフルズものの本質を捉えている。脳天気で大胆でちょっとドジなラッフルズと純情なバニーのコンビの楽しさが伝わってくる。でも細かい文章や語釈を見るとかなりの出鱈目訳。意味が通じなくても豪傑パワーで押し切るところがラッフルズに通じるのだろう。きっとホンヤク者さんは性格が良い人なんだと思う。 さて、おっさん様も評しているとおり、ホームズものに匹敵するシリーズものなんだから創元さんが全部翻訳し直して欲しい。英国風の控えめではっきり言わないストーリーの微妙な綾を日本語でも読みたい。アガサさんやJDCやEQの再訳なんて後回しで良いから是非、と思う次第です。 本作の評では細かい詮索は省く。文章は相変わらず意味不明なところが多いけど、概ねオッケー(もちろん薄目で見て、の話)。なお、各短篇の評価点は翻訳で割引してない、物語としての評価です。 以下、Reduxはラッフルズ・シリーズの注釈と雑誌掲載のイラスト満載の楽しいサイトRaffles Reduxからのネタ。 (1)Out of Paradise (初出: Collier’s Weekly 1904-12-10)「楽園からの追放」: 評価6点 初出誌コリヤーズの表紙がRafflesを痺れるくらいにカッコよく描いた超絶美麗絵師J. C. Leyendeckerの手によるもの。大きな活字で「ラッフルズ再登場!」と大宣伝。とても力が入っている。ビタースイートな話なんだが、翻訳は肝心のところ(p26)でズッコケ。この本の最優秀誤訳賞を差し上げましょう。正しいネタは英Wikiのこの話のPlotを読めば平易な英語なので明快にわかるはず。誤訳の正解はReduxの注を見ると良い。 ------ (2)The Chest of Silver (初出: Collier’s Weekly 1905-01-21)「銀器の大箱」: 評価5点 ラッフルズもバニーもトルコ風呂が好きだったんだね。 ------ (3)The Rest Cure (初出: Collier’s 1905-02-25)「休暇療法」: 評価7点 こーゆー話をぬけぬけと書くホーナングって、いったいどういうつもりなんだろう。 ------ (4)The Criminologists’ Club (初出: Collier’s 1905-03-25)「犯罪学者クラブ」: 評価6点 挑戦されたら受けて立つ、の精神が良い。冒頭は「そんなクラブの名前、ウィテカーには載ってないよ」ということ。後半に突然「愛犬レガリア(p109)」が出てくるが、原文はthe regalia under his bed(試訳: 式服がベッドの下にある)で「正装(p98)」との関係に気づいていない。おおらかだなあ。 ------ (5)The Field of Philippi (初出: Collier’s 1905-04-29)「効きすぎた薬」: 評価5点 冒頭の「校長(head of our school)」は「筆頭生、生徒会長」の意味。詳しい注がReduxにある。英国のパブリックスクールでは結構な権限を持っていたようだ。親の金の力で筆頭生になった、というわけなのだろう。ここを間違えるとトンチンカンになるよね。 ------ (6)A Bad Night (初出: The Pall Mall Magazine 1905-06)「散々な夜」: 評価6点 Reduxによるとホーナングも喘息持ちだったという。どおりで薬などの描写がやけに詳細だ。当時の(怪しい対処法も含め)治療法は実際、こんな感じだったのだろう。 クリケットのくだりの翻訳はかなり怪しい。「交流試合」と訳されてるが、原文はTest Match。数日かけて2イニングを戦う由緒ある国家対抗の頂上決戦。特にイングランド対オーストラリア戦はAshesの異名がある伝統のシリーズ。ざっと原文を読んで再構成すると、当初、イングランド(以下「英国」)は豪州に大量点を許し、続く英国の攻撃は「7アウト(wicket)時点で200点以上負けていた(クリケットは1イニング10アウト制)。大量得点したのはラッフルズで、62点獲得。最後まで打席で粘っていた(not out at close of play)」「じゃあ明日は彼一人で100点以上(century)を期待しよう!」みたいな感じが正しそう。この試合はReduxによると会場(Old Trafford)、月日(the third Thursday, Friday, and Saturday in July)と展開から1896年7月16〜18日のAshesシリーズ第二戦がモデル。初日は豪の第一イニング8アウト366点まで、二日目は英国第二イニング4アウト109点まで、三日目で豪州の勝ち確定で終了。イニングごとの得点は豪1stイニング412点、英1stイニング231点(7アウト時点で154点なので、物語の通り200点以上負けている。このイニングの最高得点65点を叩き出した(ピッチャーもこなす)Lilleyはイニング最後まで打席に立っていた。) 引き続き(交互に攻撃すると決まっているわけではない)英2ndイニング305点、豪2ndイニング(最終イニング)で7アウト時点で125点取ってサヨナラ勝利。だが、その頃バニーは刑務所、ラッフルズはイタリアのはず。(この1896年のAshesシリーズは結局英国2勝豪州1勝で、無事英国の勝利で終わっている) モデルとなった試合と違い、本作では英国1stイニング7アウトのところで第一日目が終わった、という設定か。それでバニーが列車で読んだ記事にはそこまでの情報しか載っていなかったのだろう。 Reduxには1905年7月8日The Evening World [New York]紙に「ファウスティーナの運命」が掲載された時のイラスト入り広告、ラッフルズとバニーが登場する盗難保険(burglary insurance)の宣伝が載っていて楽しい。「バニー、この部屋番号はNew Amsterdam Casualty Companyの盗難保険加入リストに載ってる!盗みは止そう。地の果てまで追っかけられちゃうよ」 ------ (7)A Trap to Catch a Cracksman (初出: The Pall Mall Magazine 1905-07)「ラッフルズ、罠におちる」: 評価7点 バニーはまたしても無謀なラッフルズに振り回され、絶体絶命のシチュエーションに投げ込まれる。非常に面白い。「特別な鍵(p191)」はBramah lock。Reduxによると解錠困難として製造元が博覧会で200ギニーの賞金を賭けたことがある。 ------ (8)The Spoils of Sacrilege (初出: The Pall Mall Magazine 1905-08)「バニーの聖域」: 評価7点 子供の頃の思い出が詰まった作品。いいねえ。 ------ (9)The Raffles Relics (初出: The Pall Mall Magazine 1905-09)「ラッフルズの遺品」: 評価5点 雑誌連載では最後となった作品。この案内人、何者?(実は地獄の使者だったりして…) ------ (10) The Last Word (短篇集A Thief in the Night, Chatto & Windus 1905)「最後のことば」: 評価7点 沁みるなあ。ところでバニーの実名がHarryだというのは、ここが初出か?Mandersという名字は短篇では出てこない。長篇Mr. Justice Raffles (初出The Grand Magazine of Fiction 1909-01)の第四章で初めて明かされる。 ------ 住田 忠久さんの解説は素晴らしい。きっとこの出鱈目翻訳は読んでいないはず。ルパンとの関係も明快に書かれている。amateur=gentlemanなんだよね。フランス語じゃないGentlemanをメイン・テーマに使った社主兼編集長Pierre Lafitteは分かっている、という事。多分、ラフィットがラッフルズを読んで、ルブランに吹き込んだのだろう(フランスのコナン・ドイル、としてルブランを売り出したのもラフィットだ)。さて、これでルパンのことを書く準備は完了。 ついでにRaffles, the Amateur Cracksman (1917) John Barrymore主演も某Tubeで見た。クリケットの試合も交えながらの楽しい古式ゆかしいサイレント映画。上手くまとまってるので、ファン必見。必見といえば1975-1977の英国TVシリーズRafflesは素晴らしい。いたいけなバニーがハマってるのでぜひ。当時の感じも良く出ている。これも某Tubeで(英語だが)見ることが出来る。事前に小説を読んでおけばストーリーはわかるので、心配無用。楽しいよ! |
No.346 | 7点 | その死者の名は- エリザベス・フェラーズ | 2021/05/03 12:20 |
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Give a Corpse a Bad Name(1940) 原題は「死者の名を汚せ」みたいな感じか。他の意味にも掛けているのだろうから、なかなか上手なタイトル。「死んじまったらロクな名前で呼ばれない」を上手く短い日本語にまとめると洒落た題になりそうだが、私にはそんな才能は無かった。
さてフェラーズさんはまともな小説を数冊書いたのち、生涯の伴侶と知り合い、初の探偵小説である本作を書いた。作者の幸せ感があらわれている、楽しげな小説に仕上がっていると思う。小ネタを上手く散りばめ、巧みに構成された作品。自虐ネタ(金のためにエロ小説を書く女)もある。ミステリとしては上出来。でも三作目『自殺の殺人』を先に読んで良かった。順番が逆だったら、続けて読んだかどうか。本作は見事に三作目とネガポジ関係。母親の存在感が重い。三作目は父親がテーマで、こっちの方が作者の切実感があった。本作の母親観はちょっと他人事のような印象。 私は探偵トビーがベネディクト・カンバーバッチに思えて、ずっとそのイメージで読んだ。じゃあジョージは?というとなかなか思いつかなかったがハーポ・マルクスで良いんじゃないか?と後半はそのイメージ。天使的なところが合ってるだけだが… ノッポとチビなら当時はMutt & Jeffかなあ。(アニメSlick Sleuth 1926/1930が簡単に見られます。探偵ものっぽいのは見かけだけですが…) 当時の英国っぽいところが沢山あって面白かった。人物造形もなかなかのもの。会話ははぐらかしと言い淀みが多いが、普通はこんなものだろう。これに慣れると普通の探偵小説の会話はスムーズ過ぎると思ってしまうかも。 以下、トリビアを簡単に。原文は入手してません。(2021-8-14追記)原文入手しました。以下、追記箇所は「追記★」で表示。 作中年代は、1月5日火曜日(p13)とあり1937年が該当。貨幣換算は、英国消費者物価指数基準1937/2020(68.57倍)で£1=9060円。 拳銃は「古い軍用拳銃(追記★My old service revolver)」が登場。多分Webley Revolverだろうと思う。1887以降、英国はずっと(一時期を除き)この大型拳銃を制式としていた。文章の感じではWWI以前のもののような気がする。 p7 ベントレー♠️一流高級車。Bentley 3 1/2 litreだろうか。基本的なお値段は£1500程のようだ。 p7 バドミントン♠️よく調べていないが1930年代に流行があったらしい。 p12 昔、文無しだったころ… 半クラウンの賭け… 一週間で27シリング半まきあげて、二週間食べられた♠️英国人は賭けが好きだねえ。十五年前として換算すると英国CPI基準1922/2020(57.88倍)で£1=8328円。半クラウン(=2s.6d.)=1041円。(ジョージ五世のなら.500 Silver, 14.1g, 直径32mm) 27s.6d.=£1.375=11451円。一日818円。まあなんとかなるか。 p13 車高の低いスポーツカー♠️残念ながらメーカーや車種は明かされずじまい。 p17 六ペンス硬貨と半ペニー硬貨♠️ジョージ五世の硬貨だろう。Sixpenceは.500 Silver, 2.88g, 直径19mm、HalfpennyはBronze, 5.7g, 直径26mm。 p26 検死審問… 木曜の午後… 身元がわからなかったら… 延期♠️水曜に発見されてすぐ開催。やはり当時でも48時間以内ルールがあったのか。(追記★「身元〜」の原文は“if you haven’t got your identification by then?”) p27 ダートムア p35 歳は32、3というところ♠️トビーの年齢。地の文だが、巡査の印象を書いている? p35 夜十時… 荘園で食事してきた… メニューが、カリフラワーのグラタンにいちじくのカスタードがけ… オレンジジュース (追記★原文はCauliflower au gratin, figs, custard, and a double orange juice apiece) p39 テーブルスキットルズ(Table Skittles)♠️パブのゲーム。知りませんでした… p40 農夫が、若いころに流行ったダンスミュージックを歌いだした (追記★原文はOne of the farmers began to sing a song that had been dance-music when he was young) p41 瞬間芸… 英国人であんなことする奴ぁ、いねえ… トルコ人… デンマーク人… ノルウェー人か♠️この瞬間芸がどんなものだか、翻訳からはイメージが掴めなかった。(追記★瞬間芸の原文は“The little man made a few inconspicuous movements, a sudden loud clatter with his heels, flung up a hand and struck the side of his head, stood erect and smiled chubbily.”) p42 ラジオ… アテネのタイモン p44 BBCのアナウンサー p53 宿の昼食… トースト… 紅茶… 目玉焼き p67 ベッドはそっちがわからおりると決めているんだ♠️何かの迷信か? 昔は右側から、が良いとされていたらしい。Penguine Guide to the Superstitions of Britain & Ireland 2003から。(追記★原文はthat’s the side I get out、上手い翻訳) p68 ベーコンエッグ… 朝食 p71 巡査部長のオースティン・セブン♠️大衆車。当時の広告だと£120ほど。 p71 ピアノ… ショパン… ワルツ… エチュード p71 化粧品会社の広告風に言えば、花咲けるナチュラルビューティー(追記★原文はThere was, in the terms of the cosmetic advertisements, a blooming naturalness about her) p77 酒の携帯瓶(フラスク)… ガラスの壜で、底には銀のカップがはまっている♠️ London sterling silver/glass hip flaskで検索すると出てくるようなやつだろう。 p91 一シリング銀貨♠️453円。ジョージ五世のなら500 Silver, 5.65g, 直径23mm。ちょっとした情報の女中へのお礼 p94 簡単な夕食… 前日のローストチキンの残りと、デヴォンシャークリームを添えたアップルパイと、デヴォンシャークリームをてんこもりしたアーモンドのトライフルと、ビスケットとチーズ♠️Devonshire CreamはClotted Creamというのが正式名称か。濃厚な濃縮生クリーム(甘さは加えない)のようだ。美味しそう!(追記★原文はcold chicken, apple pie and Devonshire cream, trifle with almonds and more Devonshire cream on top, and biscuits and cheese.) p101 スコットランドヤードの刑事… 福祉委員やアメリカ人の観光客や何かに変装して(追記★原文はScotland Yard detectives disguising themselves as social workers or American tourists or something) p105 オート三輪車… 12年ものの空冷式エンジン♠️という事は1925年の車。Three Wheeler御三家のうちMorganは1910から、BSAは1929から、Coventry-Victorは1926からなので、Morgan 1925なのだろう。無理矢理三人が乗れそうなのはStandard Modelか(かなり無理っぽいが)。当時で£85ほど。日本の軽自動車みたいに税金も安くて普及したようだ。(追記★原文は three-wheeler…The twelve-year-old, air-cooled engine) p106 陽気な讃美歌を p106 聞いたことのあるご立派な主義… 動物実験反対、菜食主義、より高潔な人生の知識の伝道 (追記★原文はanti-vivisection, vegetarianism, propagation of the knowledge of the Higher Life、このthe Higher Lifeはthe Keswick movement(Keswickianism)のことか?英Wiki参照) p108 ぼくの小説は五百部売れた p109 性的な愛を糖蜜で煮込んで作った本 p114 パンクハースト夫人やペシック・ローレンス夫人♠️ Emmeline Pankhurst(1858-1928)、Emmeline Pethick-Lawrence(1867-1954) p118 我が家には驚くほど牧師がいて p132 シェリー「アドネイス」 p133 フランス風に言えば、メランジェ♠️mélangé=ごた混ぜ。混血の意味ではない。フランス語ならmétisseだろうが、あまり使われないという。moitié italien, moitié japonais などと国をはっきりいうのが好まれるようだ。 p141 一九二一年もののサンビーム♠️Sunbeam 1921なら24hpか。英国車でレース優勝の実績あり。 p141 エドガー・ウォーレス p143 ジャズを弾く♠️当時のピアノ・ジャズならバレルハウス風のやつ?(Albert Ammons大好きです!) p144 二十一歳になるまで結婚を許さない♠️当時の英国では保護者の承諾のない結婚は21未満では無効(Age of Marriage Act 1929; The Family Law Reform Act 1987で18歳に引き下げ) p152 僕のブリッジはいつも、ビッドの前にダミーのカードは六枚しかおもてに返さない♠️ダミーが決まるのはビッドの後だが… 何か勘違いしてるのかな。(追記★原文はI always turn up six cards in dummy before I start bidding、よくわからない… 「ブリッジ」とは言ってないのでin dummyが違う意味か) p152 攻撃は最大の防御… この言葉についてボールドウィン首相がなんて言ったか♠️1936-5-2のNYTimesの記事によると、首相はアルバートホールの演説で、空襲の危機に対して、Danger of attack could be cut by preparednessと宣言した。(追記★原文は“on the old line that attack’s the best method of defence. You know what Lord Baldwin said about that”) p155 お茶の時間… レタス… バターを塗った全粒粉のパン p170 夜のドライブ… 電柱が襲いかかってくるようですてき p188 映画は七本も選び放題だった p191 当時のここに書かれているやり方って、どういうものなのか。Prentif式が当時の流行か。 p248 十五年前… 長編一本で50ポンド♠️アガサさんが第二作目の『秘密組織』の新聞連載(1921)で得たのが£50。 |
No.345 | 6点 | 世界推理短編傑作集2【新版】- アンソロジー(国内編集者) | 2021/05/01 11:19 |
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『世界短編傑作集2』(初版1961)の一部改訂版『世界推理短編傑作集2』(2018)は、こちらに、という事なので引っ越しました。古い方も持っていますが、書庫の奥にあるらしく出てきません… この企画、古い本を持ってる人には優しくない対応(一部だけが新訳?だし、全く新味のない巻もあるし、今ごろ乱歩編集を謳うならもっと何か工夫しても良いのでは?まー音楽業界ならもっと酷いリニューアル盤がたくさんあるから、書籍はまだ良心的か)
改訂版解説の戸川さんの書誌でも、情報が不十分な感じなのでFictionMags Index(FMI)により訂正しました。とは言え全面的にFMIに依存してるのでこっちが正確だという保証はありません。(以上2021-5-1追記) ------- (1)The Absent-Minded Coterie by Robert Barr (初出Saturday Evening Post 1905-5-13) 宇野利泰 訳: 評価7点 実に素晴らしい流れ。フランス人が最先端の探偵というのが時代を感じさせます。リアルな1904年の大統領選挙はセオドア ローズヴェルト対アルトン パーカー。銀価格は1864年の1オンス2.939ドルから長期の下落傾向に入り、1902年の0.487ドルまでほぼ一直線に下落していた。当時のシリング銀貨や半クラウン銀貨はエドワード7世の肖像。消費者物価基準1905/2019は120.58倍なので1ポンドは現在価値17500円、1シリングは875円。 (2021-5-1追記: 創元『ヴァルモンの功績』を読んでて気づいたのだが、ここで話題になってる大統領選挙は1900年のもの。確かにウィリアム・ジェニングス・ブライアンが候補者だったので、小説内の記述は正しい。なので作中年代は選挙の結果が出た日の1900年11月6日で確定) ------- ⑵Die Seltsame Faährte by Balduin Groller (単行本 1909) 垂野 創一郎 訳 多分、初出は雑誌。創元文庫の単行本『探偵ダゴベルト』と一緒にまとめて読もうと思ってるので、今回はパス。 ------- (3)The Queer Feet by G.K. Chesterton (『童心』の書評参照) ------- (4)L’Écharpe de soie rouge by Maurice Leblanc (初出Je sais tout 1911-8-15) 井上 勇 訳: 評価5点 大体ネタが想像できてしまう話。肝心なところで乱暴な口調になっちゃうのがラテン的か。フラン・ポンドレートは金基準1911で0.039、英国消費者物価基準1911/2019で116.81倍なので100フランは現在価値66132円。結構気前の良い手数料ですね。(2019-6-8追記: 仏国消費者物価指数1911/2019で計算できるサイトを見つけたので再計算。2304.71倍で、当時の1フラン=3.51ユーロとのこと。こちらで計算すると100フランは現在価値43131円。) ------- (5)The Case of Oscar Brodski by Austin Freeman (初出Pearson’s Magazine 1910-12) 大久保 康雄 訳: 評価7点 犯罪に至る描写がとてもスリリング、冷静とドキドキの波が心地よい。家の購入価格250ポンド(set of houses had cost two hundred and fifty pounds apiece)は消費者物価基準1911/2019で116.81倍、現在価値424万円。家賃週10シリング6ペンスは現在価値8900円。随分と安い感じ。(2019-5-3付記: 実はアパートの家賃かも?と思ったら1882年コナンドイルが年間40ポンドでポーツマスに一軒家を借りています。これを週に直すと約15シリング5ペンス。消費者物価指数基準1882/1911で1.02倍。一軒家でもおかしくないようですね) ところで戸川さんは「McClure’s Magazine 1911年12月初出」と書いてますが、FMIだとPearson’s1910-12が初出です。(米初出はMcClure’s1911-12) さらにFMIを調べると作者の倒叙初出版はA Case of Premeditation (McClure’s 1910-08)のようです。Singing Boneの序文では「(倒叙が作品として成立するという)信念で試しに書いたのがブロズキ」と作者は言ってるのですが… (as an experiment to test the justice of my belief, I wrote “The Case of Oscar Brodski.”) ------- (6)Sir Gilbert Murell’s Picture by Victor L. White church (初出Royal Magazine 1905-12) 中村 能三 訳: 評価5点 戸川さんは「1912ピアスンズ初出、同年単行本」と解説してますが、FMIでは上記が初出(雑誌の版元はピアスン、ただし目次データ欠) 文中に「1905年6月以前の話」とあるのでFMIが正しそう。ノウゾーさんの訳が生固くて何故今回新訳にしなかったかが疑問。物語自体は鉄道ネタが楽しい鉄道好きのための作品。(論創社の単行本が欲しくなりました) 菜食主義者でへんてこ体操好きという探偵のキャラ付けはいかにも20世紀初頭の英国らしい感じ。プラズモン ビスケット(Plasmon biscuit)は当時結構流行してたらしい… (ここまで2019-5-1) ------- (7)The Tragedy of Brookbend Cottage by Ernest Bramah (初出News of the World 1913-9-7) 井上 勇 訳: 評価6点 初出誌は英国のタブロイド誌(1843-2011)で1912に200万部、1920年初頭には300万部に達する人気。毎週日曜発行。(wiki) FMIでは初出に(+1)と書いており2回連載なのかも。 なぜ姉がそんな男と結婚を続けてるのか?という謎の方が面白そうなのに、そっち方面は全く触れないのがある意味興味深い。(当時はそんなの当たり前ということか) ●●会社の無用心さが話の都合とは言え、そこまでルーズかなぁ。探偵と助手たちとの関係性にちょっと興味を引かれました。(単行本買おうかな。すっかり創元の罠にはまってますね…) 500ポンドは消費者物価指数基準1913/2019で114.43倍、現在価値830万円です。電報1通4ペンスは277円(たぶん語数による)トマト1ポンド(454g)も同じ値段。 (2019-5-3記載) ------- ⑻The Doomdorf Mystery (初出Saturday Evening Post 1914-7-18) 宇野 利泰 訳 アンクル アブナーの第一作はThe Broken Stirrup-Leather (The Saturday Evening Post 1911-6-3)のようです。おじさんの活躍も後日まとめて読みたいので今回はパス。 ------- ⑼The Mystery of the Sleeping Car Express by F.W. Crofts (初出The Premier Magazine 1921-??-??) 橋本 福夫 訳: 評価6点 事件は1909年11月上旬の木曜日に発生。鉄道会社の技師らしさが出てる作品。(仕事の合間にアイディアをこねた感じ) レポートっぽい文体は、実は職業人ハメットと共通するものを感じます。トリックは映像になれば面白そうですが文章ではキツいですね。寝台一等車には喫煙室(コンパートメント)が2つ、婦人専用室が1つある、などの鉄道ネタが沢山盛り込まれて興味深いです。銃は「近代的な形の小型の自動拳銃」が登場。FN 1900が有力候補。ただし1920年ごろなら「近代的な形」はモダンデザインのFN 1910がふさわしい。年代設定には会いませんが作者の脳内イメージは後者かも。 ------- 鉄道が登場する話が多い第2集。20世紀初頭は鉄道の時代だったのですね。 (以上2019-6-8記載) |
No.344 | 7点 | 自殺の殺人- エリザベス・フェラーズ | 2021/04/20 02:29 |
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原題Death in Botanist’s Bay (1941 Hodder and Stoughton, London)だが、米国版はMurder of a Suicide、こっちの方が内容とマッチしている。
フェラーズさんは初めて。古本屋で一見変なタイトルに惹かれ、1941年出版なのでギリギリ戦前の話かも、と思って買った。 微妙にすれ違う会話で、最初はちょっと違和感。なんだかスムーズじゃない。常に言い争ってるホームドラマみたい。文章が下手なのかも、と思ったが慣れたら逆に現実の会話ってちょっとした食い違いがあるのが普通かも、と思いはじめた。まあでも、地の文のカメラアイが時々ヘンテコ(会話をやめて外に出て立ち去る人の瞳が虚ろだった(p208)、なんて誰の視点? 室内で話している「二人の頭上で突然天が裂け、鉄砲雨が落ちてきた(p217)」とか)なので、会話の感じとあいまって、文章力にはやや疑問あり。(翻訳のせいではないと思う) 物語は上手く構成されてて、シロウト探偵が活躍出来る隙間を作っている。かなり慎重にバランスをとって作品を紡いだのでは?と思う。ただこのネタなら、主人公にもっと共感出来るようにメインカメラをじっくり据えて語れば、もっと良かったかなあ。主人公の内面を掘り下げた方が面白かったと思うが、そうなると本格味が薄れちゃうか… そこら辺が埋もれた作品になっちゃった理由だろうか。 シロウト探偵のコンビが不思議な感じで、ミステリ的にとても便利な設定もあり、面白かった。シリーズの他の作品も、ぜひ読んでみたい。 序盤、数か所「夏」とあるだけで、季節感がわかりにくいが、登場人物がためらいなく海で泳ぐので真夏なのだろう。後半には蒸し暑い感じが出て来る。灯りが漏れる心配を全くしていないので1939年夏が下限。(英国では1939年9月1日から灯火管制(blackout)) 全体からのただのイメージだが1938年あたりの想定か。(全く根拠無し) 以下トリビア。 p15 身の丈二メートル半(six foot seven)♣️明らかに誤訳。6フィート7インチ=200.66cm。 p21 <酒か、女か、歌か>(Wine, woman and song)♣️英語ではこの文句の初出と思われるのが"Who loves not woman, wine, and song / Remains a fool his whole life long"で、ドイツ語の句(伝マルティン・ルター)の翻訳として1837年に遡る。ドイツ1602出版の民謡集に起源があるようだ。なお、シュトラウス2世のワルツ”Wein, Weib und Gesang”Op.333は1869年の作品。(以上英Wiki) p24 小型のセダン(a small saloon car)♣️メーカー不明。あとの方で「黒いキャデラック(the black Cadillac)」が出てくるが、メーカーが明記されてるのはその1台だけ。 p24 ジプシーのように浅黒く(sallow as a gypsy’s)♣️浅黒警察がひさしぶりに登場。sallowは不健康な、くすんだ顔色のようだ。 p28 背の高い、浅黒い顔の男(the tall, dark man)♣️「背の高い、黒髪の男」の決まり文句。 p44 そのズボン。なぜ上品なドレスを着ることもできないのだ——夕べにふさわしい服を?(‘Why can’t you dress yourself decently? Why d’you have to go round all day in those trousers?’)♣️翻訳だと、家庭の中でもドレス・コードが厳しいのが当たり前の時代、と読みとったが、原文は「お前はいつもズボンばかり。ちゃんとした身繕いをしたらどうだ?」という感じに思う。 p45 チョップ(あばら肉)… マッシュポテト… トマトのソテー… 最後にライスプディング♣️夕飯。 p53 戦争、それとも革命?♣️戦争が近づいている感じ。1930年代後半なのだろう。 p67 教会… ホテル… 賄い付き下宿… 遊歩道… 映画館… 商店もろもろ♣️小さな観光地の構成。 p70 デイリー・テレグラフ♣️年寄りが読む保守新聞のイメージ。 p73 ステーキと揚げたポテト… お茶とビール♣️警部が好きな食事。 p73 マクラスキー(M’Clusky)♣️名前が出てこない時に警部が使う仮名。何か元ネタある? p73 拳銃(revolver)♣️メーカーや口径の描写は全く無し。だがせめて「回転式拳銃」と原文に忠実に訳して欲しい。 p84 肝臓とベーコン(liver and bacon)♣️朝食。 p88 浅黒い肌(a swarthy skin)♣️ここは正しい。 p92 <さまよえるオランダ人>をぶっ通しで全曲♣️当時のレコード盤は78回転、片面五分程度が限界。これでオランダ人全曲(約3時間)をかけるのは大変な手間だ… p94 マンチェスター p98 抜歯健康法(the importance of everyone having their teeth out)♣️歯を抜くと健康に良い、と主張した歯医者がいたらしい。米ニュージャージーのHenry Cotton(1876-1933)など。(詳しく調べていません) p98 小鳥の写真(photographing birds)♣️鳥の写真を撮ること、だろう。 p110 二重協奏曲でも聴くとするか。新しい録音で、とても美しい曲なんだよ。昨日、買ったばかりだ(I think I’ll put on the Double Concerto. It’s a new recording, a very beautiful one; I only bought it yesterday) 演奏は誰?… 何とかというふたりだよ♣️Double Concertoで有名なのはBachかBrahms。私ならBach一択だが、一般的にはBrahms作曲、ヴァイオリンとチェロのThe Double Concerto in A minor, Op.102だろう。1939年にOrmandy指揮、HeifetzとFeuermannの録音があるが、残念、12月21日だった。 p112 一流ホテルではなかった… 楽団もなければ、客室には水も用意されていない(is not one of the fashionable hotels .... it has no band; there is not even water laid on in the bedrooms.)♣️給水設備がない、という意味か。 p112 電話ボックス(telephone-box)♣️1936年から(主としてロンドン外に)設置されたK6だろう。電話ボックスは1935年に全国19000か所だったが、1940年までに35000か所に設置された。従来型より小型で低コスト省スペースだった。 p114 褐色の肌(olive-skinned)♣️web検索すると褐色より薄い感じだが… イタ飯屋のシーンだし「オリーヴ色」じゃ駄目? p115 定番のスカロッピーニとスパゲッティ(the inevitable escalope de veau and spaghetti)♣️「メニューでマシな感じなのは仔牛のエスカロップとスパゲッティだけだった」というニュアンスか。 p120 年に七百ポンド♣️英国消費者物価指数基準1938/2020で67.75倍、£1=9282円。 p124 やっほー(Hullo)♣️原文がこれなら「ハロー」で良い。 p124 ミネストローネ(minestrone) p131 スーザの行進曲と最新のダンス音楽(the latest dance music and one of Sousa’s marches) p146 感傷的な歌(sentimental song) p151 月の砂漠よ —— 長老たちよ(シャイクー) —— 香辛料に悪徳よ... (and the sand – sheikhs and all that – spices and vices. . .) p155 コーヒー… いつも通り、グレープフルーツジュースとトースト♣️朝食。 p157 明日、検死審問♣️死体発見から間をおかず開催される。 p164 パーセルのトランペット即興前奏曲(Purcell’s Trumpet Voluntary)♣️「パーセルのトランペット・ヴォランタリー」として知られているが、実はHenry Purcell作ではない。結婚式の曲として人気があり、ダイアナ妃&チャールズ皇太子の結婚式(1981)にも使われている。原曲The Prince of Denmark's Marchは鍵盤用で作曲者はJeremiah Clarke、1700年ごろの作品。第二次世界大戦中はBBCヨーロッパ向け放送(特にデンマーク向け)のシグネチャー・チューンとして使われていたという。ヴォランタリーはオルガン用なのだが(トランペットはオルガン音栓の一つ)有名な曲はトランペットが活躍する協奏曲にアレンジされたもの。作品の頃のを探すとHarry Mortimer & Grand Massed Brass Bands (英Regal Zonophone MR.2631, 1937年)という78回転があった。残念ながらYouTubeで聴けるのはMortimerでは1949年Columbia盤が最古か。「即興前奏曲」という訳語は見聞きしたことがない。昔は主メロディに基づきオルガン演奏者が即興で声部を補ったようだが… 日本の音楽用語としては、そのまま「ヴォランタリー」で通用している。 p165 「牧神の午後への前奏曲(プレリュード・ア・アプレ・ミディ・ダン・フォーン)」(L’après-midi d’un Faune)♣️Debussyのオーケストラ曲“Prélude à l'après-midi d'un faune”(1894)、作者自身が二台のピアノに編曲している(1895)。 p167 唄っていた。<我を小羊の血で清めたまえ>(singing: “Wash me in the blood of the Lamb”)♣️黙示録7:14による一節らしい。このタイトルの聖歌は色々あるようだ。(あまり調べてません。) p172 <フィガロの結婚>序曲 p230 交換手が出る。<ちょっとまって——この章を読んじゃいたいから>♣️電話交換手って、結構、自由な職場だったのね。 p264 アガサ・クリスティの最新作(the latest Agatha Christie)♣️意外な登場。候補作は以下。括弧内は英国出版年月日。Murder in the Mews and Other Stories(1937-3-15)、DumbWitness(1937-7-5)、Death on the Nile(1937-11-1)、Appointment with Death(1938-5-2)、Hercule Poirot's Christmas(1938-12-19)、Murder Is Easy(1939-6-5) 考古学ものの『死との約束』は、この場面にはぴったりだ。ならばやっぱり1938年夏が有力?(2021-4-21追記: 私はMurder in Mesopotamia(1936-7-6)と間違えていたようだ。こっちが“考古学もの”だろう。とすると「舞台は1936年夏」説も有力か。) |
No.343 | 6点 | 四つの兇器- ジョン・ディクスン・カー | 2021/04/16 04:50 |
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バンコラン第五作。創元の新訳で読了、安定した良訳です。
シリーズ前作が1932年出版で、本作は間に数作を挟んで1937年。この間にフェル博士やHM卿も登場している。 作中年代は「五月十四日金曜日(p86)」該当は1937年。引退したバンコランの枯れぶりが何故そんな設定にした?と思うくらい。昔のギラギラやアクがすっかり抜けてしまった感じ。まーそこで私の妄想が爆発。 以下は全く根拠のない珍説です! 実はJDCは当初からバンコラン・シリーズを「最後の事件」(多分ネタは「バンコランで書く予定だった」と伝えられる『三つの棺』1935)で締める予定だった。でも他の作家のあの作品(1933)が先にそのネタをやっちゃったので、ガッカリして構想を放棄。残念だなあ、この構想が実現してれば、結構、衝撃的だったと思う。 珍説はここまで。 作品としてはジェフ・マールも登場しないし、引退試合としては、なんかパッとしない。冒頭の謎が小ぶりなんだよね。上述の妄想のバンコラン最後の事件が読みたいなあ!(『三つの棺』を読むのが億劫で放置してるのだが、この観点なら興味深く読めるかも。題して「UR-三つの棺を再構成する!」) さて、愚言はほっとこう。トリビアは軽め。 p14 赤ん坊と一緒に塔へ幽閉♣️これはLife of Samuel Johnson(1856) by Thomas Babington Macaulayからのネタ。ボズウェルは蠅のように付き纏い、愚問を連発してジョンソン博士をウンザリさせてたのでは?という見解。その例として挙げられている愚問の例が"What would you do, sir, if you were locked up in a tower with a baby?"、でもスコットランド贔屓のJDCとしては、いやいや、この一見愚問に見えるのにも大きな意味があるんだよ、と弁護している。 p21 ワインレッドの新型タクシー♣️Renault Type KZ 11 Taxi G.7 de 1933のことだろう。フランスではWWIの前からRenault Type AGがタクシーとして活躍していたが、1933年から新型が使われはじめている。 p133 愚痴るな、言い訳するな(Never complain, never explain)♣️ディズレーリの言葉らしい。 p134 ハーロック・ショームズ(Herlock Sholmes)♣️本作はフランスが舞台なので総合月刊誌Je sais tout誌1906年12月15日号初出のこの名前。コナン・ドイルの抗議で捻り出した著作権対策。(編集長ラフィットの発案か。詳しくは近日中に書く予定の『怪盗紳士ルパン』及び『ルパン対ホームズ』参照。最初、臆面もなくSherlock Holmesを使ってたJe sais tout誌が、どの時点でSholmesに変えたのか、雑誌のファクシミリ版を丹念に探索して初出を見つけました!) ※なお、ずっと前に読んでた本作の評を今頃書く気になったのは、Tetchyさまの文章のおかげです。ありがとうございました。 |
No.342 | 7点 | 曲がり角の死体- E・C・R・ロラック | 2021/04/13 03:28 |
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作中年代は「一月二十一日金曜日(p28)」と明記。直近では1938年が該当。マクドナルド警部が「まだ45歳」とあり、誕生日が来ていないだろうからぴったりだ。p154のブツも当時話題になっていたようだから1938年1月の事件で良いだろう。
英国物価指数基準1938/2020で67.75倍、£1=9282円。作中、ガソリン6ガロン=9s.6d.とあり1リットル換算だと161.6円。 冒頭の車のシーンは上手い。女性作家とは思えない感じ。車種も豊富に明記されていて、非常にイメージがわきやすい。(モーリス、ダイムラーV8、オースティン、ヒルマン、ヴォクスホール、ロールスロイスなど) 当時の英国社会の雰囲気の描写が上手く、かつさらりと描かれて、そしてミステリとしてもちゃんと出来ている。都会と田舎、伝統と新潮流のせめぎ合いが裏テーマ。最初のつかみからの展開も良く、結構、起伏に富んでいて面白い。人物の描き方は軽めだが、イメージをよく捉えていると思う。最近知ったが、ボルヘスもロラックを評価していて、南米ミステリ叢書「第七圏」でも#22 Black Beadle 1939、#36 Checkmate to Murder 1944(死のチェックメイト)が選ばれている。 マクドナルド警部ものには音楽が付き物、と思っていたが、今回は残念、登場しない。 原文入手出来なかったのでトリビアはなし。(あっ、ホイストは男性向け知的ゲーム、というイメージらしい。まあ掘れば色々トリビアが出てくるディテール豊富な作品。もっとロラックさんを読みたいなあ。特に戦前。出版社の皆さま、どうぞよろしく。) |
No.341 | 4点 | 黒衣婦人の香り- ガストン・ルルー | 2021/01/31 19:22 |
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1908年出版。初出: 仏週刊誌L’Illustration 1908-9-26〜1909-1-2(14回連載) 訳者の日影さんは「ル・マタン」連載、としてるが… ハヤカワ文庫(1979)完訳版で読了。HPB版(1957)は訳者あとがきによると「完訳」を謳っているが、所々抜いている、という。
いやー、これJDC/CD好きは絶対読むべし!ギミック全部載せ。しかしながら、非常につまんないから重度のJDC/CDファン以外にはお薦めしませんけどね。 でもJDC/CDの原点だと思う。少年ジョン・ディクスンは『黄色い部屋』と『黒衣婦人』を読んで雷に打たれたのだろう。そして僕ならもっと上手くやれる!と叫んで… 結局、似たようなのを沢山書いちゃう、という悲劇。まあでも、ガストンのおかげで宝石のような傑作が色々と生み出されたのだから、良しとすべきだと思う。若者をそのジャンルに引き込む力は、パンクにおけるSex Pistolsみたいなモンだ。(2022-6-4追記: ここはThe Crushの誤り!ああ恥ずかしい…) 本作は『黄色い部屋』の欠点を拡大増幅した感じ。キャラが全然立っていない。文章が大袈裟(時代、というなかれ。先輩ガボリオの方がずっとクール。) 構成が下手(やりたい趣旨はわかる。結構ドラマチックなネタ。でもこんな料理では勿体ない)。トリックが無茶。(この手のトリックでOK出しちゃうセンスって、なんだろう?まともな読者をミステリから確実に遠ざけちゃうんだが…) ネタバレにならないように要素を上げると、誰にでも化けられる変装の名人、またしても完全密室の謎、数枚の見取図、全員にアリバイがあるのに凶事が起こる、語り手が「この証言は後に真実だったと証明された」と書いてみたり、あり得ない状況を補足するために「こういう事実があった」と注釈するセンス。途中で作者が「俺は中学生か」と自分に突っ込む。まさにまさにJDC/CDの世界、そして解決はバカミスの極み。締めもJDC/CDな感じ。 ラストは次作『ルルタビユとロシア皇帝(Rouletabille chez le Tsar)』(初出は同じ週刊誌1913-8-3〜1913-10-19)に続くような書きっぷりだが、次作の舞台は1905年だという。作品連載の間も空いているので、『黒衣婦人』は元々評判は良くなかったんだろう、と思う。 注意点として『黄色い部屋』のネタバレが、冒頭から随所に限りなくあるので、先に『黄色い部屋』を必ず読んでから、本作を読むこと。 『オペラ座の怪人』(1910)は小説として大丈夫なのか、非常に心配、とともに興味が出てきた。今、じゃなければ絶対読まないと思うので、読んでみようか… トリビアは後で埋めます。とりあえず項目だけ。 本作に登場する拳銃について。ロンドン製の刻印のあるブルドッグ銃。 p11 一八九五年四月六日 p13 ドルドーニュ号 p36 ユー p49 『盗まれた手紙』 p51 新聞記者ガストン・ルルーの記事 p93 ガラヴァン p96 古人類学 p124 電話詐欺 p133 『湖の佳人』『ランメルモールの許嫁』 p152 シェンキエヴィチ (以下2022-6-4追記) トリビアをちょっぴり肉付け。 まず「ユー」(p36あたり)の描写がいやに充実してると思ったら、ルルーが中学校生活を送ったのがユーだった。(suit sa scolarité au collège d'Eu、仏Wikiより) 唐突に引用される新聞記事(p51)はルルーが実際に書いて当時掲載された記事なんだろうと思う。のびのびしてて良いスケッチ。 電話詐欺(p124)は、時代を考えると最先端の技術だったろうと思う。小説中のタイムラインでは1870年台くらいになっちゃうと思うので、フランスの電話普及率を考えたら成立するかなあ… なおInternet Archiveに掲載誌L’Illustrationをそのまま翻刻した版(多分これが初版)がアップされているので、Simontの流麗なイラストや連載時の切れ目が知りたい人は参照すると良い。 José Simont Guillèn(1875-1968)はスペイン出身、当時一流の雑誌イラストレーター、José Simontとしてパリで活躍。Le Monde Illustré, L'Illustration, Fémina, The Illustrated London News or the Berliner Illustrierte Zeitungなど。1921年に米国に渡りCollier’sと契約した。 |
No.340 | 6点 | 黄色い部屋の謎- ガストン・ルルー | 2021/01/28 03:28 |
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1908年出版。初出は仏週刊L’Illustration 1907-9-7〜11-30(12回) 集英社文庫(1998)で読了。45年くらい前に読んだのは新潮文庫の堀口訳。ぼんやりとした記憶の中では、好印象だった。
さてKindleのお試しでハヤカワ文庫(新訳2015)と創元文庫(新訳2020)と集英社文庫の冒頭を比較してみた。おっさんさまの書評のとおり、ハヤカワ新訳は、かなり無駄な言葉を補った問題訳。ふやかした文体が嫌いな私は評価しない。今後の読者の参考のために、以下、一例だけ挙げておこう。 原文: … même chez l’auteur du Double Assassinat, rue Morgue, même dans les inventions des sous-Edgar Poe et des truculents Conan Doyle… ♠️ハヤカワ: …それはあのエドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』の中にも見られないものだ。ましてや、ポーに追随した、ほかのつまらない作家の作品や、謎のつくりとしては大雑把すぎるコナン・ドイルの作品には決して見られるはずがないものである。 ♣️創元: …「モルグ街の殺人」を書いたポオやその亜流たちの作品、それにコナン・ドイルが描く並外れた物語においてさえも… ❤︎集英: …『モルグ街の殺人』の著者の作品にも、エドガー・ポーやコナン・ドイルの亜流たちがひねり出したミステリーにも… ◆逐語訳(拙訳): …「モルグ街の殺人」の著者においても、エドガー・ポーの亜流たちや荒削りなコナン・ドイルの諸作においても… (※ドイルを形容してるtruculentが肯定的なのか否定的なのか、自信がないです…) (2021-1-29修正: 原文desなので「亜流」も「ドイルの創作」も複数。明確にしました。) 内容に戻ると、小説が下手だなあ、というのが第一印象。ずっと先輩のガボリオよりかなり落ちる。(ルルーが上述のようにポオやドイルには作中でたびたび言及してるのに、ガボリオを無視してるのは何故?) 構成が下手くそで人情がわかっていない感じ。全体としては謎めいた雰囲気に光るものがあり、文章は冗長だが結構楽しめた。 今回、再読してバカミスの嚆矢という印象を受けた。無理をムリムリ通してる感がありまくり。不思議を成立させるための工夫が、逆算感に溢れている。犯人や被害者の側から、物語を再構成してみたら、不自然極まりない筈だ。 でも、その人工的な感じが、逆に当時は新しかったのでは? ホームズや亜流は小説の伝統に沿ったものだが、この小説で史上初めて「(作者が企んだ)作り物のトリック」というのをクローズアップしてるように思う。(←根拠不足です。) ところでJDCやアガサさんへの影響(『スタイルズ荘』を書いたのはこの小説がきっかけ、と自伝にある)が有名だが、実はかなりの影響関係にあるのでは?と思った大物作品がある。ブラウン神父シリーズだ。1910年7月から連載開始なので十分あり得る。まあ漠然とした印象だけなのだが… さて、本作はいささか中途半端に終わっている。ずっと前から『黒衣夫人の香り』を積読していて、今回、やっと読めるかなあ、と思っていたのだが、正直、気が重い。続けて読むには文章がねえ… さらに『オペラ座の怪人』も勢いで買っちゃったし… まあぼつぼつ読むことにしよう。 トリビアを漁っていたら、色々意外なものが拾えた。徐々に披露します。 (以上2021-1-28記載) まずGoogle Playで無料で初出L’Illustration誌合冊版が入手出来る。(もしかして、これが初版なのか?) 連載時のイラスト(Simont作、なかなか写実的な13枚、雑誌名が“Illustration”なのに1回連載当たり挿絵1枚しかないの?)もついてるので必見です! これを見ると掲載の切れ目も分かる。第3章p35「ちっともばかばかしいとは思わないね」までが連載第1回目。続いて、第6章p56“閉じこめられていると知った。”(第2回目)、第7章p78「ご苦労なこって…」(第3回目)、第9章p99「いまにきっとわかるから」(第4回目)、第11章p122“まだ深い悲しみの色が浮かんでいた。”(第5回目)、第13章p157[電報のくだり](第6回目)、第14章p180「やつが来るとわかっているからさ」(第6回目)、第16章p202“消えていた!”(第7回目)、第19章p235「おなじくらい懸命にね」(第8回目)、第22章p257“階段の踊り場に達した。」(第9回目)、第26章p290“にわかにざわめいた。”(第10回目)、第27章p313“裁判長は休廷を宣した。”(第11回目)で、残りが最終回。 資料としては、仏Wikiには冒頭あたりの自筆原稿のリンクがあったが、流石に外人の流れる文字は読めず。 日本語Wikiには、連載時と初版ではルルタビユ(Rouletabille、伸ばさないのが好み)ではなく、ボワタビユ(Boitabille)だったが抗議があって変更…というような記述があったので、確認した。 確かに当初(連載第1回目と2回目)の名前(渾名)はボワタビユ。連載第3回目の冒頭付近に注釈があり、「前回掲載後、記者M. Garmondから抗議があり、ボワタビユとは彼が15年間使ってよく知られている筆名だというので、トラブルや混乱を避けるため作者が名前を変更した。」なので、連載途中で改名、というのが正解。 ボワタビユの由来は、初出ではこうなっている。 Il semblait avoir pris sa tête, ronde comme un boulet, dans une boite à billes, et c’est de là, pensai-je, que ses camarades de la presse du Palais, déterminés joueurs de billard, lui avaient donné ce surnom… 拙訳「砲弾みたいに丸い頭は、ボールを収める箱(boite à billes)から取り出したみたいに見える。それで、きっとビリヤードをやる記者仲間がそういう渾名をつけたんだろう。」ガボリオの「チロクレール」(タバレ親父の渾名)など、フランス人って渾名が好きだねえ。(戦前のフランス映画の俳優名で、渾名で表示してるのが結構多かった印象あり。) (以上2021-1-30追記) いろいろ発見があったのだが、詳しく書くのはめんどくさいので、概略だけ。 <その1> 実はシュルレアリストが 司祭館の風情も庭の美しさも、むかしと少しも変わらない(Le presbytère n’a rien perdu de son charme, ni le jardin de son éclat.)p55 を引用していて、そういえば暗闇で悪党が何かを書いてるシーンなんてなんとなく自動筆記っぽいなあ、とこの作品、ムードがシュールなところがある。 「これからはビフテキを食うしかない」(Maintenant, il va falloir manger du saignant)p108、なんて突然言うシーンも良い。(焼き加減の「セニャン」がキモの単語) <その2> 実はルルタビユって新聞記者=探偵、という設定のかなり早い例。有名作品では嚆矢といって良いのでは?と思う。 <その3> スタンジェルソン教授の研究ってのがなんか凄い 「エックス線撮影法について試みられた先駆的な研究で、のちのキュリー夫妻によるラジウムの発見につながるもの… 新しい理論、「物質の解離」… その理論は、「質量不変の法則」に基づく従来の科学を根底からゆるがすと予想…」(p11) のだが、物語との関わりが… 私は「透明人間」(1897)で赤ニシンにするつもりだったのでは?と疑ってる。上手く繋げられなかったのか、別の雑誌が似たネタを発表してたらしいから止めたのか…(Monsieur… Rien ! Aventures extraordinaires d'un homme invisible 1907) <その4> これは小ネタだが 「ネーヴ裁判… メナルドちゃん殺人事件」p9 は、同じ実在事件のことを指している。1886年にシェール県(Cher)でMarquis de Nayveが妻の連れ子?Hippolyto Menaldoを殺害したとして、妻が1894年に夫を告発した事件のようだ。 (以上2022-1-23追記、未完) |