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弾十六さん
平均点: 6.10点 書評数: 446件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.206 6点 芥川龍之介全集〈1〉 (ちくま文庫)- 芥川龍之介 2019/10/03 05:32
ここ数ヶ月、1920年代の英国翻訳小説や原書をかじっていたので、日本語が読みたくなりました。格調高い日本語、といえば柳瀬尚紀先生ご推薦の龍之介(敬称略)ですね。まとめて読むのは初めてです。
文庫に凡例が書いてないのでよくわかりませんが、各篇最後に記されてるのは執筆時なのかな。以下西暦で表示。年齢は西暦時(3月1日生)のもの。初出は青空文庫調べ。FictionMags Indexみたいなデータベースすらないのが日本の研究水準を… という愚痴はさておき、例によってなるべくクロノロジカルに読み、ボツボツと感想を。評価点は暫定。

「老年」(新思潮 大正三年(1914)五月号、柳川隆之介 名義) 1914-4-14(22歳): 評価4点
たった10ページの小品に注釈が58箇所。一中節とか歌沢とか新内とか純邦楽(やな単語ですが)に馴染みのない現代日本人向けには仕方がないところですが、それにしても… 同時代の英国小説より遠い位置にあるのかも、と思いました。これが龍之介の一般発表を意識した初の著作なのかな? 随分と力が入っています。おさらい会の年寄りのエピソード、というつまんない話題に通ぶって色々書き込んだところが若気の至りっぽくて、やなガキだねぇ、という感想。これ読んで三味線の音と歌声が聞こえる人しか相手にしないよ、という江戸ぶり。多分当時でも古臭い話。これを「新思潮」(東京大学の同人誌)というタイトルの雑誌に発表するところが捻くれ者ですね。
(2019-10-3記載)

「青年と死」(新思潮 大正三年(1914)九月号、柳川隆之介 名義) 1914-8-14(22歳): 評価5点
戯曲。姿の見えない忍び男、というミステリ風。「死」の扱いがいかにも書生っぽい。(「表と裏」というのが若いねぇ)
(2019-10-3記載)

「ひょっとこ」(帝国文学 大正四年(1915)四月号) 1914-12(22歳): 評価5点
遠景と近景を上手く使ってある男を描写。妙なエピソードが心に残ります。空っぽなその人生は作者自身のことなのか。「帝国文学」は東京大学文科の関係者による文学団体「帝国文学会」の機関誌。
(2019-10-4記載)

「仙人」(新思潮 大正五年(1916)八月号) 1915-7-23(23歳): 評価4点
中華もの。作者は貧乏したことが無かったんだね。おぼっちゃま感が見え見え。
(2019-10-5記載)

「羅生門」(帝国文学 大正四年(1915)十一月号) 1915-9(23歳)
「鼻」(新思潮 大正五年(1916)二月号) 1916-1(23歳)
「孤独地獄」(新思潮 大正五年(1916)四月号) 1916-2(23歳)
「父」(新思潮 大正五年(1916)五月号) 1916-3(24歳)
「虱」(希望 大正五年(1916)五月号) 1916-3(24歳)
「酒虫」(新思潮 大正五年(1916)六月号) 1916-4(24歳)
「野呂松人形」(人文 大正五年(1916)八月号) 1916-7-18(24歳)
「芋粥」(新小説 大正五年(1916)九月号) 1916-8(24歳)
「猿」(新思潮 大正五年(1916)九月号) 1916-8(24歳)
「手巾」(中央公論 大正五年(1916)十月号) 1916-9(24歳)
「煙草と悪魔」(新思潮 大正五年(1916)十一月号) 1916-10-21(24歳)
「煙管」(新小説 大正五年(1916)十一月号) 1916-10(24歳)
「MENSURA ZOILI」(新思潮 大正六年(1917)一月号) 1916-11-23(24歳)
「運」(文章世界 大正六年(1917)一月号) 1916-12(24歳)
「尾形了斎覚え書」(新潮 大正六年(1917)一月号) 1916-12-7(24歳)
「道祖問答」(大阪朝日新聞夕刊 大正六年(1917)一月二十八日?) 1916-12-13(24歳)
「忠義」(黒潮 大正六年(1917)三月号) 1917-2(24歳)
「貉」(読売新聞 大正六年(1917)三月十五日) 1917-3(25歳)
「世之助の話」(新小説 大正七年(1918)四月号) 1918-4 [順番がおかしいが…]
「偸盗」(中央公論 大正六年(1917)四月号(章1-6)、七月号(章7-9)[“続偸盗”]) 1917-4-20(25歳) [“続偸盗” 5-10脱稿との情報あり]
「さまよえる猶太人」(新潮 大正六年(1917)六月号) 1917-5-10(25歳)
「二つの手紙」(黒潮 大正六年(1917)九月号) 1917-8-10(25歳)

No.205 7点 雲なす証言- ドロシー・L・セイヤーズ 2019/09/29 21:24
1926年出版。シリーズ第2作。実は法廷もの。クリスティもクロフツもデビュー作(1920)で法廷シーンを書いたけど出版社から書き直しを命じられています。英国人は法廷好きですね。でもかなりの専門知識を要します。本作の法廷シーンは設定が凄い。セヤーズさんはしっかり調べてると思います。(助言者が周りに沢山いたんじゃないかな?)
相変わらず音楽の趣味(バッハとパーセル)が良くてニヤニヤしてしまいます。身内の犯罪、ということで、作家の内的イメージ(家族観とか家族の中の立ち位置とか)も試されるテーマ。一人っ子かお姉さんタイプだと見ました。(wikiで確認したらan only child… 我が観察力も捨てたもんじゃないね、と自画自賛。)
起伏に富んだ本格もの。(いかにもな平面図やメモの写しp390が出てきます。) 語る工夫が見事で退屈なところがほとんどありません。手がかりの提出が上手く、ぴったり組み合わさった時の気持ち良さ抜群。途中で推理の筋を読者に明らかにしてるのも良いですね。ラストシーンは「楽しければ良いんじゃね?」というセヤーズさんの宣言。なので作中のご都合主義にも目をつぶります。次の作品もとても楽しみ。
献辞はなし。原本には創元文庫『誰の死体』冒頭の紳士録抜粋の原文が載ってました。確かにシリーズ2作目(作者としてはシリーズ化を意識した時点)に記すのが正しい順序ですね。
以下、トリビア。
現在価値は英国物価指数基準(1921/2019)で48.55倍、1ポンド=6442円で換算。フランは仏国物価指数基準(1921/2019)で733.8倍、1フラン=1.12ユーロ=132円。
作中時間は問題ありです。p88「19xx年」とボカしてるのに、バッチリp346「le 13 Octobre, 1923」(事件の前日)と書いてます。(ただし私が参照した版では「192-」) でも事件発生は「十月十四日木曜日」と明記してるので1920年か1926年のはず。そうなると第1作の作中時間1920年11月と辻褄が合わない。(「故ガーヴィス」の記述から第1作は1920年3月以降で確定。) 第1作と本作の間には少なくとも三カ月以上の期間が経過しており、冒頭の記述から受ける感じでは第1作の翌年くらいに本作の事件が発生してるはず。1921年10月14日は金曜日、1923年10月14日は日曜日でいずれも一致せず。本作中、10月を11月と間違えてるところがあるので11月14日木曜日の年を調べると1918年と1929年、なのでこれもダメ。曜日の間違いの可能性は、事件発生が木曜日、検視審問が金曜日で動かせないようです。(週末で高名な弁護士がつかまらないとされていることから。) 結論は多分1921年、日付は誤り。(10月14日木曜日や10月13日水曜日はかなりの記載箇所があり動かしたくないです… それなら日付が1カ所にしかない第1作を1919年と考えた方がマシか?シェルショックとガーヴィスと三文オペラは気になりますが…)
銃はリヴォルヴァー「アメリカ製の小型のもの」が登場。初版T. Fisher Unwinの表紙絵だとトップブレイクっぽい感じに見えるのでIver Johnson? 作中に手がかりはありません。
p22 ボウリング用の芝生(the bowling-green): 日本で良くやるボウリングではなく「ローンボウルズ」と呼ばれる屋外競技。詳細wiki。
p33 旅行用時計(travelling clock): 1920年代で高さ120mmくらいの小型旅行用を見つけました。ゼンマイ式で目覚まし付き。毎時(時間数)と30分(1回)に柔らかく鳴ります。
p45<キス一つに七十五ポンド>(£75 FOR A KISS): 48万円。下衆な見出しらしいのですが…
p60 モーニング・ポスト(the Morning Post): ロンドンの日刊紙(1772-1937)。According to historian Robert Darnton, The Morning Post scandal sheet consisted of paragraph-long news snippets, much of it false.(wiki)
p61 『夜の接吻(Baiser du Soir)』: 香水の名。架空?
p71 十号サイズ(No. 10): 英国の10号は日本の29相当。ただしメーカーで違いが大きいと思うのでこーゆー数字で捜査するのは適切?
p77 探偵小説: 黄金時代の特徴です。
p85 「シオンの子らをして」で始まるバッハの複雑な曲(elaborate passage of Bach which begins “Let Zion’s children.”): Motet BWV 225 Singet dem Herrn ein neues Liedの冒頭合唱の4行目Die Kinder Zion sei'n fröhlich über ihrem Könige。二重合唱の傑作でモーツァルトが「音楽にまだ学ぶことが残っていたのか」と感嘆した曲。この歌詞の入りの部分はかなり複雑。
p100 レビュー歌曲(revue airs): CD”Music Hall Revue 1912-1918”に収録されてるような曲でしょうね。
p112 事実は牛のようなもの… じっとまともに見据えていさえいれば、たいていはそのうち逃げていく(facts are like cows. If you look them in the face hard enough they generally run away): バンターの母の格言。
p112 『この黄色い砂へ来たれ』(Come unto these Yellow Sands): パーセル作曲(1695c)、シェイクスピア『テンペスト』第3幕より。楽しげな音楽。
p112 『恋の病より、我は遁れんとせり』(I attempt from Love’s Fever to Fly): パーセル作曲(1695)、Dryden “The Indian Queen” 第3幕より。I attempt from Love's sickness to fly in vain. Since I am myself my own fever and pain.と続きます。(タイトルはFeverじゃなくてsicknessが正解) メランコリックでドラマチック。メロディが素晴らしい。
p113 ノーサンガー僧院(Northanger Abbey): ジェーン・オースティンの愉快なゴシック風小説。
p114 “血と暴力”派(a blood-and-thunder novel): in 1849, came a new literary hero, Kit Carson, 金鉱探しがインディアンを愉快に殺しまくる西部もの。blood and thundersと呼ばれたらしい。(wiki, Talk:Dime novelより) ハードボイルド派のことかと思いました。
p117 底の浅い考察: (1) The vanity of human wishes; (2) Mutability; (3) First love; (4) The decay of idealism; (5) The aftermath of the Great war; (6) Birth-control; and (7) The fallacy of free-will. 当時の話題なんでしょうね。
p118 ヨークシャー訛り: 訛りの翻訳って本当に大変。だいたいが上手くいかない。実際の訛りの詳細はYorkshire dialect(wiki)で。コックニーに次ぐ英国の代表的な訛り。私は「ちょっとだけ崩せば良し」派。読みにくいのは勘弁して欲しいです。この翻訳はなかなか健闘。p141辺りの直訳調でフランス語会話を表現してるのは上手いと思いました。(原文は普通に見えます。多分、訳者の工夫ですね。)
p120 バロウ・イン・ファーネス中等学校(Barrow-in-Furness Grammar School): この学校が設立されたのは1930年らしいので、架空のつもりだったのか。Grammer Schoolは二級品のPublic Schoolというイメージでいいのかな?
p121 ニュース・オヴ・ザ・ワールド(News of the World): 扇情的タブロイド紙の代表として登場。毎週日曜発行(1843-2011)。
p131 軍艦ピナフォア: 引用されてるI think it was the catは第2幕 Carefully on tiptoe stealing辺り。(I thinkは付いてませんが)
p141 五千フラン: 66万円。ダイアモンド付き小さな装身具の値段。
p147 『ヘブル人への手紙』: 第1作に続くパウロの手紙シリーズ。以下は田川建三先生の『新約聖書 訳と註 6』を荒っぽく要約。実際はパウロの作でもなく手紙でもない。ユダヤ教からの独立宣言を目指した旧約聖書の引用及び解釈。紀元後1世紀か2世紀あたりの成立。
p178 私は私の片隅で(you in your small corner and I in mine): Children’s hymn “Jesus Bids Us Shine”(1868) Susan Bogert Warner作詞、Edwin Othello Excell作曲。
p181 ソヴィエト・クラブ(Soviet Club): 当時の社会主義運動が垣間見られます。私はキム・フィルビーしか思い浮かばない、その程度の知識です。(バーナード・ショーすら読み込んでません。)
p185 週十八シリング: 5798円。月25124円。5人分の生活費。
p207 週四ポンド: 25768円。月111661円。社会主義派新聞の初任給。
p240 皆さん、時間です(Time, gentlemen): 訳注 パブ閉店の合言葉。
p240 育ちのいいイングランド人は想像力など持たない(Well-bred English people never have imagination): ピーター卿の格言。うへえ。スコットランド人がいなかったら知的水準は下がる一方ですね。
p269 メアリ・ジェインに夜這うとった/イルクリー荒野んあたりでよ(I been a-courtin’ Mary Jane/On Ilkla’ Moor bar t’at): ヨークシャー民謡On Ilkla Moor Baht 'atより。続く歌詞もこの民謡から。
p275 口笛でバッハの複雑な一節を(whistling a complicated passage of Bach under his breath): 定冠詞がtheならp85と同じ曲だと思ったのですが… まーバッハには複雑なの色々ありますからね。
p305 エデンの上に息づいたみ声(the Voice that breathed o’er Eden): 詞John Keble 1857、英国教会の聖歌。結婚式に良く使われる?
p316 ご機嫌さん(Cheerio): cheerfulみたいな感じで使ってます。
p332 メイズリー姫の物語歌(Ballad of Lady Maisry): Lady Maisry (also known as "Bonnie Susie Cleland") is Child ballad 65 (wiki)
p346 ビギーとウィギー(Biggy and Wiggy/Were two pretty men,/They went into court/When the clock—): マザーグースRobin and Richard/Were two pretty men/They stayed in bed/Till the clock struck ten.のもじり。
p367 イングランドの偉大なる座右の銘…<平常通り営業>(the great English motto: ‘Business as usual.’): It had been extended to broader use by 1914, when Winston Churchill said in a speech: "The maxim of the British people is 'Business as usual,'" which became a slogan for the rest of World War I.
p370 命の間際に持つべきものは…(God send each man at his end/Such hawks, such hounds, and such a friend): 三羽の鴉の最終行。The Three Ravens (Child 26, Roud 5) is an English folk ballad, Thomas Ravenscroft編の歌本Melismata(1611出版)の曲。(wiki) ただしwikiのヴァージョンはGod send every gentleman/Such hounds, such hawks, and such a leman(恋人)

1972年英国のTVシリーズ(Ian Carmichael主演)があり、某Tubeで見ることが出来るのですが、ピーター卿があんなおっさんで良いのかなぁ。(まだ見てません。見たら追記します。)

(追記: 2019-9-30)
イアン・カーマイケルはBBCジーヴス(1965-1967)でバーティを演じており、その流れでピーター卿を演じたのでしょう。当時52歳。時代考証をちゃんとやってる感じで楽しい資料映像になってます。イアンさん、芸達者な感じで、ひょうきんなピーター卿を見事に演じてて良いのですが、正直もっと若い奴の方が良いなあ。(ついでに言うとバンターはもっとコワモテが良かった。パーカー警部はもっとハンサムが良かった。) 銃はS&W38口径になってました。英語の聴き取りが不自由(ほぼ聴き取れず)なので確かなことはわかりませんが、映像を見た限りではかなり原作に忠実な感じ。(まだPart 1を見ただけですが… これPart 5まであるトータル225分の長尺。ディテールまでもれなく描けるとても羨ましい贅沢な作りです。)
ところで作中時間の問題ですが、冒頭にピーター卿「33歳」と書かれてたことを急に思い出しました。とすると文庫第1作の「紳士録」により1890年生まれだから、1923年なのか。セヤーズさんはいったい何で「10月14日木曜日」としてしまったんだろう。才女も数字に弱かった?(1923年10月4日は木曜日です。本作では数多く10月14日、10月13日との記載があり20箇所くらいですが、本記録を「書いた人」が「事件メモにあった4を14と間違えて」書いてしまった、という説で行くしかないか… The Lord Peter Wimsey Companionにはどのように書かれてるのか、非常に気になります。)
と、ここまで書いたところでGutenberg Canadaにアップされてる原書GOLLANCZ社第3版?の付録、ピーター卿のBIOGRAPHICAL NOTE by PAUL AUSTIN DELAGARDIE (May 1935)を見たらショッキングなことが…
In 1921 came the business of the Attenbury Emeralds

さんざん第1作や本書で語られてる(結局詳細は未発表の)ピーター卿の探偵デビューの「エメラルド事件」が1921年!
じゃあ第1作は早くて1921年か1922年、本作が1923年というのが公式見解ですね… (このゴランツ再版はセヤーズさんが訂正や追加をくわえてるということで、p346の年も「1923」になってました。翻訳はこちらを参照したのでしょう。p112のFeverもsicknessに直ってます。) 第1作の1920年説は、手紙を素直に読めば(手紙の日付=本日)そーなるのですが、手紙を書いた翌日に日付を書いて投函した、とちょっと言い訳っぽいが有り得ないわけでもない仮定をすれば手紙の日付=本日+1となり、1921年説が成立します。さらに日付を書いた日を遅らせると(ちょっと無理がある理屈ですが)1922年説も全く有り得ないわけではありません。明白に矛盾してるのは、本作の「10月14日木曜日」の記述と「1923年10月14日(日曜日)」という事実です。あっユリウス暦を忘れてた。理屈はつきませんが何故かユリウス暦が大好きだった「本作の記録者」がグレゴリオ暦をユリウス暦にわざわざ変換して書いたとしたら… ユリウス暦1923年10月14日はグレゴリオ暦1923年10月27日(土曜日)でした。
話題は全く変わりますが、上の方で「一人っ子を当てた」と自画自賛してるけど、2/3の確率で当たる賭けをしてますね。(当たらないのは「妹」だった時だけ) 外れる方が珍しいやんか!と自分にツッコミました… 情けなや…

No.204 7点 ブラウン神父の不信- G・K・チェスタトン 2019/09/28 22:46
1926年出版。ブラウン神父ものの連載は年代順に並べると『不信』と『秘密』の収録作品が交互に出てきます。何故、単行本の編纂がこのようになったのか、ちょっと謎ですね。(Nash’s初出作品が『不信』にまとまってるので、そこら辺がヒントか。ただし⑻はCassell’s) 1925年5月&6月は2誌に新作を同時発表してます。Long Bowで中断してたお詫びかも。昔の創元文庫(1977年1月16版)で『秘密』も含め、作品発表順に読みました。本格仕立てが結構多いのが意外でした。ちょうどカトリック改宗直後なので、何か影響あるかな?と思ったら、宗教に関する態度はほとんど変わらない。これもちょっと意外。
初出はFictionMags Index調べ。カッコ付き数字は単行本収録順です。初出の順番と比べると、収録順はずいぶん変えています。いくつかの電子版を見ましたが、献辞はないようです。

⑶The Oracle of the Dog (Nash’s and Pall Mall Magazine 1923-12): 評価5点
いかにも本格探偵小説な密室殺人&安楽椅子探偵仕立て。「あずまや(summer-house)」に注目する神父、でもそのイメージはわかりにくい。手がかりが散りばめられた描写が妙に本格本格してて今までのGKCぽくない。デテクションクラブ向けかな。
(2019-8-14記載)

⑹The Dagger with Wings (Nash’s and Pall Mall Magazine 1924-2): 評価6点
前作もそうですが、冒頭から語り口がこなれてて以前のひねくれとは別人のようです。実にわかりやすい。1922年のホーン フィッシャーシリーズの後、心境の変化があったのでしょうか。(大事件としてはカトリック改宗とアイルランド独立事件ですが… ああ、今気づいたのですが、カトリック改宗とアイルランド独立(実質的には1921年12月の条約で合意)は結構、密接な繋がりあり?独立戦争中の改宗は無用な疑念を世間に持たせかねませんから…)
解決後の宗教に関する話は長すぎる無駄口です。
p210 銃口が鐘の形をした古い旧式のピストル(long antiquated pistol with a bell-shaped mouth): blunderbussのことでしょうね。
(2019-8-14記載)

⑷The Miracle of Moon Crescent (Nash’s and Pall Mall Magazine 1924-5): 評価7点
米国もの。GKCは1921年に米国講演旅行を行い、印象記What I Saw in America(1922)を発表しています。本作の不可能設定もいかにもな本格ミステリ。鮮やかな解決と人間洞察の深さが素晴らしい。
p119 二万ドルのはした金: 大金持ちのセリフ。米国消費者物価指数基準(1924/2019)で15倍、現在価値3173万円。
p124 空砲をしこんだ旧式のピストル(an old pistol loaded with a blank charge): 多分リボルバーだと思います。
(2019-8-14記載)

※間にTales of the Long Bow(1924-5〜1925-3)の連載あり、次のブラウン神父もの3作The Mirror of Death(1925-3)、The Man with Two Beards(1925-4)、The Chief Mourner of Marne(1925-5)は『秘密』に収録。

⑸The Curse of the Golden Cross (Nash’s and Pall Mall Magazine 1925-5): 評価5点
チェスタトンの本格ブームはどうやら去り、いつものGKC風味。でも寓話としても中途半端に感じます。
p169 からすみたいな(like a raven or a crow): 後段で不吉云々とあるので多分ravenだろうな、と思ったらこういう表現でした。ポオに敬意を表して「大鴉みたいな」でも良いかも。
p172 ≪こっけい版ハムレット≫(a burlesque of Hamlet): 上手な訳だと思いますが、古めかしい感じ。
p173 のろい(curse): ツタンカーメンの呪いが新聞ダネになったのはカーナヴォン卿の死(1923年3月)がきっかけ。この後、この作品の発表前までに関係者が5人ほど死んでいます。
(2019-8-20記載)

⑺The Doom of the Darnaways (Nash’s and Pall Mall Magazine 1925-6): 評価5点
本格仕立て。GKCらしい絵画的作品。締めくくりのネタはルール成立(1928)前ですが、当時から共通認識があったのでしょうね。
p236 シャロット夫人(the Lady of Shallot): テニスンの同名の詩(1833&1842)の主人公。
(2019-8-29記載)

※次作The Song of the Flying Fish(1925-6)は『秘密』に収録

⑵The Arrow of Heaven (Nash’s and Pall Mall Magazine 1925-7): 評価5点
米国もの。不可能犯罪の設定の本格もの。ただしGKCの狙いはそこにはありません。
p36 アメリカの百万長者の死体が発見されたという書き出し: 『トレント最後の事件』もそうですね。
p37 初めて… おりて(first stepped off): 初めて米国に来たわけじゃありません。神父は1890年代のシカゴで暮らしたことがあるのです。(『知恵』の「器械のあやまち」参照。)
p38 神父は前に一度もアメリカを見たことはなく(he had never seen America before): 上記の設定は無かったことになってるのですね。
(2019-9-11記載)

※次の2作The Worst Crime in the World(1925-10)、The Actor and the Alibi(1926-3)は『秘密』に収録。

⑻The Ghost of Gideon Wise (Cassell’s Magazine 1926-4 挿絵Stanley Lloyd): 評価6点
アリバイがネタ。(冒頭で作者が宣言してます。) ストライキを巡る資本家と革命家の話。炭鉱を支配する資本家は全て米国人。当時の英国はそーゆー感じだったのか。(物語の舞台が米国のような記載あり。炭鉱が出てくるので英国の話かな、と思ったのですが… 英国では雑誌発表数ヶ月後の1926-5に大規模なゼネストが起きてます。) 本格ものというよりはファンタジー系。語り口が上手で結構鮮やかにまとまります。
p271 神話にでてくるあのアイルランドの鳥(mythological Irish bird): 文脈から同時に二ヶ所に現れる鳥らしいので、神話関係を調べたのですがよく分からず、Irish bird simultaneouslyでググったらアイルランド人の政治家Sir Boyle Roche(1736-1807)が議会欠席を咎められた時の愉快な発言が引っかかりました。"Mr. Speaker, it is impossible I could have been in two places at once, unless I were a bird." ビアス『悪魔の辞典』(1911)にも引用されてる有名な言葉らしい。(こーゆー翻訳者が気づかなかったのを見つけるととても嬉しい。でもこーゆー深掘りはアマチュアの特権だと思うし、当時はWeb無かったからね。) 「アイルランドにいるらしいあの鳥」あたりが正訳か。(訳注無しだと分からんですね。)
p274 詩人のホーン(poet fellow Home): フィッシャー・ホーンの親戚筋?と思ったら綴りはHome。苗字の場合、ホームじゃなくヒュームと発音するのが正解?Douglas-Homeだけ?
p275 アメリカ合衆国憲法に違反して、強度のアルコール飲料が… : ここら辺の記述からすると舞台は米国なのか。でもブラウン神父が当然のように登場してるし…
p276 アブサンの不気味な緑色(the dead sick green of absinthe): アブサンは未体験ですが、似たようなリキュールのペルノーは飲んだことがあります。不気味な黄色で妙な味つけ。フランス人はそーゆー酒が好きらしい。
(2019-9-28記載)

⑴The Resurrection of Father Brown (単行本初出1926): 評価7点
おまけピースと思ったらどっこい力作。お調子者の作者の自戒でもあるような感じ。
p8 数多い任地のうちで… もっとも遠隔の土地… 南アメリカ北岸…(the most remote, of his many places of residence... the northern coast of South America): 私が米国を「アメリカ」と表記しないのは、南アメリカも立派な「アメリカ」で、南米人のセリフ「私はアメリカ人だ。」という映画字幕を見て、あーそーだよね、と思ったからなのです。ブラウン神父って、意外と海外経験があるのですね。舞台はBritish Guiana(現在のガイアナ)か。
p9 メレディスなら冒険好きの鼻と呼ぶ(Meredith called an adventurous nose): He[George Meredith] called Mr. Joseph Chamberlain's nose “adventurous” at a time when Mr. Joseph Chamberlain's nose had the ineffable majesty of the Queen of Spain's leg. [Arnold Bennett, “Books and Persons”(1917)から] ただならぬ威厳の鼻…「スペイン女王のお御足」とはスカートに隠れて決して見ることはならず又想像すら許されないものの意味らしい。鼻のイメージはSir Max Beerbohm作のイラストS. Sebastian of Highbury (Joseph Chamberlain)参照。
p10 愛称ソール…ポルと自称… : 訳注では「聖パウロ(英語読みポール)は初めサロー」とカタカナ表記がむちゃくちゃ。ユダヤ人迫害の急先鋒Saulが突然イエスの声で回心し、使徒Paul(聖パウロ)となった故事より。
p15 シャーロック・ホームズ… ワトソン先生書くところの<最後の事件>: ホームズの第三短篇集を意識した表現。
(2019-9-28記載)

BBC2013のFather Brownを1話(神の鉄槌)だけ見ました。1950年代の英国風景が興味深いのですが話にチェスタトン風味がありません… フランボウ出てくるのかな?(「ヴァレンタイン」警部が地元の警部で多分レギュラーとして出てきました。その設定で『秘密の庭』やる気なら面白い…)
(2019-8-14記載)
第1シーズン第10話「青い十字架」を見ましたがフランボウが全然魅力的じゃない… 残念。話の脚色も変てこ。GKC風味は全くありません。
(2019-9-28記載)

No.203 8点 大いなる眠り- レイモンド・チャンドラー 2019/09/23 23:30
1939年出版。創元文庫の双葉御大(1910年生)訳で読みました。ちょっと古めかしい日本語ですが、むしろ時代に合ってると思います。(頻発する「モチ」は抵抗ある人いるかもね。) キビキビした上質の翻訳。なお私は村上春樹が嫌いなので、春樹訳がチャンドラーのスタンダードのような扱いをハヤカワ文庫がしてるのは気にいりません。(柴田元幸さんには申し訳ありませんが…) 片岡義男先生談「彼にはわからんところをテキトーに処理する悪いクセ」があるようです。(実は嫌いすぎて春樹訳を全く読んでないので私に言う資格はありませんが。)
本作の映画(1946, Howard Hawks監督)の方をずっと前に観ていて、(タルコフスキー『ストーカー』の頃だから1980年あたりか)原作は今回が初めて。記憶が薄れてますが、時々フラッシュバックのように映画のシーンを思い出しながら読みました。幸いにも犯人とか結末は全く覚えてなかったです。
冒頭からわかりやすい描写。裏のある会話を上手く演出しています。描写が巧み。人物も情景もスッと頭にイメージが浮かびます。それにしても事件が目まぐるしく発生して目が回ります。面の皮が厚く腕っ節が強くて口が減らず失言もミスもしないヒーローなんて実在が疑われますが、この作品内ではギリギリ成立してるような気がします。(金銭的に圧倒的に不利なディールを選ぶやつは異常者と疑われても仕方ないのが米国なので、そこら辺でファンタジーになっちゃうという不満はあり。でも敢えてそーゆーヒーローを書きたくなる切実さが当時の大恐慌から復興しきれてない米国にあったのではないか、ということも言えるでしょう。)
良く考えると変テコな物語なんですが、傑作です。情感が素晴らしい。チャンドラーのつもりでは次は普通の小説を書くはずだったんじゃないかな?
以下トリビア。現在価値への換算は米国消費者物価指数基準(1939/2019)で18.46倍、1ドル=1959円。
本作はブラックマスク掲載の短篇を長篇に仕立て直したもの。“The Curtain”(1936)と“Killer in the Rain”(1935)を中心に“Finger Man”(1934)などからシーンを拝借。
原文はThe Annotated Big Sleep (2018) ed. by Owen Hill, Pamela Jackson & Anthony Dean Rizzuto (Kindle版)、[ABS]以下はこの本の注釈が由来という意味。ここで取り上げてるのはほんの一部(全部で注釈は672項目)で、地名などの説明が充実しており当時の建物の写真や広告などのイラストも豊富なのでチャンドラーファンなら持ってて損はないと思います。
ただし銃の説明は中途半端で物足りなかったので、私のオリジナル。
登場するのは、まず「黒いリューガー拳銃(black Luger)」正式名Pistole Parabellum P08。続いて「警察用の黒い三八口径(a black Police .38)… コルト」Colt Police Positive(1907)かColt Official Police(1927)。ロサンゼルス市警は1933年にはOfficial Policeを採用してます。さらに「骨柄の自動拳銃(bone-handled automatic)」詳細不明。象牙のグリップということでしょう。根拠はありませんが感じとしては32口径くらいのポケットタイプ。そして「小さな拳銃(リヴォルヴァー)… 真珠柄のバンカー特型で、22口径(Banker’s Special, .22 caliber, hollow point cartridges. It had a pearl grip)」Colt Banker’s Special 銀行員が金の移動に使うような銃身2インチで隠し持てる銃。22LR, 32 S&W Longと38 S&W仕様あり。Special称号つきの銃には珍しいことなのですが38スペシャル仕様はありません。訳から漏れてる「ホローポイント弾」は内部に空洞があり体内で炸裂する悪質な弾丸。威力を増すことと後ろに抜ける2次被害を防ぐのが目的。軍事用は禁止だが警察用や狩猟用としては使用可能。他にも銃が出てきますが具体描写がないのでこのくらいにしておきます。
p6 十月の半ば(mid October): 何年のことだかは手がかり無し。
p7 いま流行の侍童型(the current fashion of pageboy tresses): wikiにはThe pageboy hairstyle was developed and popularized for women in the 1950s.とあるので本格流行の前のファッション先取りか。当時の映画女優の写真を見るとやや長めのbobに移行してる感じ。[ABS] 20年代のフラッパースタイルと比べ、30年代はだんだん長くなった。
p8 ダグハウス・ライリー(Doghouse Reilly): 現代生活に適応できないで愚痴る孤独な老人、という定義がUrban DictionaryのDoghouse Rileyにありましたが… スペルがやや違い、意味もしっくりこないし、年代も合うのかも不明。[ABS]in the doghouseで不名誉な、とか嫌われ者とか。
p8 拳闘家?: [ABS]上の名前がリングネームっぽくて、当時多かったアイルランド系ボクサーを思わせる姓(Reilly)だから、こーゆー連想になったのでは?とのこと。
p9「うふう」: p24にも出てきます。原文はUh-uhとUh-huh。(それ以降にも。喋りたくない時のマーロウの口癖ですね。)
p11 椅子車(wheel chair): 能『車僧』由来の語。昔は「車椅子」よりこちらの表記が多かったのか?
p12 フォージュ谷のように冷たく(cold as Valley Forge): なぜcoldなのかはwiki「バレーフォージ」参照。
p13 「三十三歳。カレッジに通って… 地方検事の捜査課に雇われ… 結婚はしていません。理由は、巡査の女房にロクな奴はいないから」: マーロウの自己紹介。最後の部分はI’m unmarried because I don’t like policemen’s wives。
p16 五千ドル: 980万円。
p20 一日25ドルと雑費(twenty-five a day and expenses): 48975円。マーロウ探偵の料金。クール&ラム探偵事務所(1944)の料金は1日20ドルプラス必要経費、消費者物価指数基準(1944/2019)で30945円。ドレイク探偵事務所(1963)は1日50ドル&必要経費、消費者物価指数基準(1963/2019)で44465円。各私立探偵の料金比較も面白そうなネタですね。(誰か既にやってないかな?)
p23 悩まし型だ(She was trouble): ここらへんの女体に絡みつく視線が男作家のもの。マクロイさんに足りないなぁと思った部分です。
p26 色は浅黒く: 原文you big dark handsome brute!なので髪の色のことでしょうね。御大も浅黒派か…
p29 ハリウッド図書館(Hollywood public library): この名称では見つからず。[ABS] The Hollywood branch of the LA Public Library was established in 1907 at the corner of Hollywood Boulevard (then Prospect Avenue) and Ivar Avenue.
p30 股(もも)は長く(She had long thighs): long legsと同意だと思いますが、太腿のふくらみが魅力的、という含意もあり?ここの女性描写も男目線の典型。
p32 三角法の授業(my trigonometry lesson): 数学の先生という設定なんでしょうね。誰もが何の役に立つ?と思ってるsin, cos, tanの三兄弟が登場する奴です。
p38 チャーリー・チャン式の口ひげ(Charlie Chan moustache): Warner Olandのイメージか。初主演Charlie Chan Carries On(1931)で当りをとりシリーズ16作を数えた。
p41 免許証入れ(the license holder): 多分、自動車登録証のこと。ペリー・メイスン(1947)情報ですが、州法で自動車のハンドルの柄に取り付けるきまりです。[ABS]当時の自動車にはowner’s licenseをハンドルのシャフトかダッシュボードに保管するフレームがあった、となってました。
p46 ググゴテレル(Gugutoterell): 小鷹さんと片岡さんのトークショー(2014年8月)で、これはYou_Go_To_(the)Hellと解読すべし、という話題があったそうです。(サイト「るうマニアSIDE-B」から記事を引用。豪華なトークショー、羨ましいなあ。) [ABS] 元の短篇“Killer in the Rain”では“G-g-go-ta-hell”。
p63 百九十ポンドの体重: マーロウの自称。
p65 探偵雑誌(a horror magazine): 御大がわかりやすさを考慮して訳したんでしょうね。ホラー系のパルプ雑誌で有名どころはWeird Tales, Fantastic Adventures, Horror Stories, Thrilling Mysteryなどなど。当時チャンドラーを掲載してた探偵雑誌はDime Detective Magazine。
p65 一ドル: タクシー運転手に尾行の手間賃。当時流通の1ドル札は1928年からのSmall size(156.1x66.3mm)、銀兌換Silver CertificateとUnited States Noteの二種類。ほぼ同じデザインです。肖像はワシントン、裏はグリーンバック。
p67 自動昇降機(automatic elevator): すぐ後の「エレベーター」はelevatorの訳。律儀に使い分けて訳しています。automaticは「エレベーター係が乗っていない」という意味だと思います。
p68 十五ドル: 29385円。洒落た女性用帽子の値段。
p69プルースト… 変質者の目利きには一流: 上手いことを言いますね。
p77 切り出し方: 確かに質問下手な人っている。
p96 銀行ゲームのトランプの配り手(a faro dealer): 詳細はwiki「ファロ (トランプゲーム)」で。
p154 足をもんだ(tried to catch up on my foot-dangling): 前にも「足をもむ」みたいなのが出てきてるのですがメモ忘れ。正しい意味がよくわからず、何か気になる表現。
p175 『へへえ』はよしてよ、下品じゃないの(“Don’t say ‘yeah.’ It’s common.”): [ABS] As with her reference to Proust in Chapter Eleven, Vivian plays the card of class superiority, reminding Marlowe (albeit playfully) who’s boss.(よくわからんのでそのまま注釈の全文を引用。)
p178 ルーガン… 拳銃を持った男という意味さ(a loogan... A guy with a gun): [ABS] loogan: A thug or goon. Probably from the Irish.
p185 ベッドがおりていた(The bed was down): [ABS] Marlowe’s apartment has a wall bed, or “Murphy bed”ということで、サム・スペードのアパートもWall Bedだそうです。
p185 土曜日の晩のフィリッピン人みたいにすてきだよ(Cute as a Filipino on Saturday night.): [ABS]当時1920〜30に三万人のフィリピン人移民があり、家族持ちはほとんどおらず若い男ばかりで稼いだ金の使い道が無く、着物やダンスや享楽にたっぷり使った。そのため「ダンディ」という一般的な印象があったのだろう、とのこと。
p192 めちゃくちゃにベッドをぶちこわした(tore the bed to pieces savagely): 「引き裂いた」のが正解だと思うのですが… 次のシーンでは寝てるしね。
p192 バーミュダの司教(Bishop of Bermuda): バミューダ(トライアングルで有名)。英国教会の職。当時はArthur Heber Browne(1864-1951)が就任(1925-1946)。「夜の生活を意見」とあるので、何かそういう記事があったのか。検索するとサンガー女史との関連で産児制限に反対した人、というのがありました。バミューダの黒人人口が急激に増えるのでGovernor Hildyardが1936年に非公式にbirth controlを採用しようとしたら人種差別だ、と騒ぎになったらしい。こーゆーのこそABSに載せて欲しいネタですね。
p194 恋の夕(訳注 香水): Soirée d’Amour [ABS]には英訳“Evening of Love”とあるだけで実在とは記載してない。架空のブランド名か。
p253 シャーロック・ホームズ… ファイロ・ヴァンス: この二人の登場にはちょっとびっくり。[ABS]にはPhilo Vance... Chandler called “probably the most asinine character in detective literature.” Hammett didn’t like him either. He said that Van Dine wrote “like a high-school girl who had been studying the foreign words and phrases in the back of her dictionary.” ハメットに座布団一枚。

(追記2019-11-11)
ホークスの映画『三つ数えろ』(1946)を久し振りに観ました。バコール若い。何がなんだかわからないストーリーをそのまま生かした構成も素晴らしい。カッコいいセリフはブラケット女史の手柄とのこと。トリビアp41のハンドルの柄につける車検証が二種類も実見出来たのが嬉しかった。あと若い女性がやたら登場するのも楽しいですね。(タクシー運転手まで娘さんになってたけど、実際に当時のLAではそうだったのかなあ)

No.202 8点 ジーヴスの世界- 事典・ガイド 2019/09/23 19:44
愛に溢れた本。日本でも執事世界(正しくは従僕?)がポピュラー文化では意外と有名ですが(私が一時期大好きだったのはアニメ版『ハヤテのごとく』)この世界一有名な若旦那と従者コンビの世界を余す所なく描き切っています。(森村さんが精力的に翻訳する前は知る人ぞ知るPGWだったなぁ…)
ミステリ的にもピーター卿とバンター、バークリーの初期作品などに強い影響を与えているPGWです。探偵小説の黄金時代と重なる1900〜WWIIまでの英国文化を知るうえでも非常に有益な本になっています。
まだPGWの作品をほとんど読めてないので、実はネタバレが怖いのですが、でも魅力的な本なので一気に読んじゃいそう。もっとエドワード朝&戦間期の英国を紹介した本が出ると良いなあ。

No.201 7点 ささやく真実- ヘレン・マクロイ 2019/09/22 00:29
1941年出版。例によってDell Mapbackに鳥瞰図がありますので、Web検索をお勧めします。(あっただし絶対ネタバレは嫌、という人は、どこで事件が起こるかわかっちゃうのでその場面になるまで我慢してくださいね。あー図面が欲しいなあ、と思った時が旬です。) 創元文庫の帯が良い。「2017本格ミステリ ベスト10 第1位 高純度謎解き本格」純米本醸造(詳しくないので適当)みたいな用語が楽しいです。
でも『月明かりの男』で鳥飼さんがせっかく気を使ってくれたのに「登場人物」紹介で大ネタバレ。これはひどいなあ。(私はほぼ「登場人物」を見ないので、今まで気にしたことはありませんが、ネタバレ物件って結構ころがってそうですね。リストアップされてない奴は真犯人じゃない、とか。その表現だと先の展開がミエミエ、とか。リスト見ただけで犯人わかっちゃった、とか。)
冒頭から類い稀なる美女をうまく描写。(髪と目の色からグレタ・ガルボで脳内変換しました…) サスペンスねたをいきなりぶっ込むのも上手。登場人物を次々紹介する手も洒落てます。(ウィリングを巻き込む工夫もも良くできてます。) その後の展開も小ネタを絡めて順調。ありふれた尋問シーンでさえ非常にスリリング。良い設定ですね。どんな証言にも耳をそばだたせてしまいます。とても良く出来た物語なんですが、コレジャナイ感が読後に残りました。探偵としてのウィリングが全く生きていません。愛するものに対する視線も冷めています。ストーリー展開は素晴らしいのに残念、そんな感想を持ちました。
以下トリビア。原文はkindleのサンプル部分を見ただけです。現在価値への換算は米国消費者物価指数基準(1940/2019)で18.33倍、1ドル=1945円。
p9 <アンジェーレ・ニュイ・ド・メ>(Angèle’s Nuit de Mai): フランス語的にはアンジェール(語最後のeはアクサンなしの場合、例外なく「弱いe」ウを弱く抜けた感じで) アンジェール(社?ブランド?)の「五月の夜」という香水。多分架空。
p16 サキによると: こーゆー女性がSakiを読むかな?読むような気もする。(そして的外れな感想を持ちそう。)
p33 ストライキで死者2名: ピケ隊とスト破りの攻防。1941年4月フォード社の写真がWebにありました。GMの工場でUAWによる1936年からのストライキを率いたのはWalter Reuther。
p35 太陽灯で日焼け: ココ・シャネルが1923年にリヴィエラで偶然日焼けして気に入ったのが流行の始まり?(wiki: Sun tanningの頁) 室内で太陽灯を使うのも1920年代からだということです。(wiki: Indoor tanning)
p36 月たった200ドル: 39万円。
p40 四十三歳: ウィリングの年齢。もっと若いと思ってた。
p42 ドロシー・ラムーア: 判事のお気に入り。軽薄な好み、と評されている。
p43 五ドルの罰金: スピード違反の罰金。9726円。
p54 嘘は最後には報いを受ける by アミエル『日記』
p60 サージェントの絵… ボストン図書館の天井に… 描かれた異教の女神アスタルテ: Sargent Astarte Boston Public Libraryで見られます。
p107 シベリウス作曲<悲しきワルツ>: Jean Sibelius, Valse triste (Sad Waltz), Op. 44, No. 1, originally part of the incidental music Arvid Järnefelt's 1903 play Kuolema (Death) (wiki)
p188 サマータイム: DST(Daylight Saving Time) or “fast time” 1918年から施行したが、1919年にはPittsburgh, BostonやNew Yorkなどの都市以外では取りやめ。パールハーバー以降、1942-2-9からWar-Timeとして復活。
p190 ラジオが最新の流行歌を… 軽快なリズムの歌…: 何の曲か知りたくなるのが妄想好き。WebにTop 80 Pop Songs in 1940という便利なのがありました。Glenn Miller, Artie Shaw, Frank Sinatra, Bing Crosby, The Ink Spots… そーゆー時代です。
p192 金曜日: 文脈から考えると事件は次の土曜日に起こったものと思われます。
p194 女か虎か: かなりの有名作だったのですね。初出The Century November 1882 (挿絵なし) "The Lady, or the Tiger?" by Frank R. Stockton
p199 モーリス・ジョべール作曲<灰色のワルツ>: Valse grise, Maurice Jaubert作曲。映画『舞踏会の手帖(Un carnet de bal)』(1937)のテーマ曲。
p216 共産主義にかぶれてる… (というのは)ルーズベルトに投票したという意味: 中程度の資産家の当時の意見。
p217 タクシー… 三年前のモデルのフォード: Ford 1937 taxiで結構画像を発見。
p218 七の和音: Seventh chord? ショーペンハウアーが「人生で真にロマンチックなものは七の和音と青い空と愛のキスだけ」と言っているらしい。調べてません。
p226 あと一週間もすれば牡蠣が食卓に並び: 作中時間は、9月の一週くらい前ということですかね。
p243 映画『カリガリ博士』のセット: Das Cabinet des Doktor Caligari(1920)、『007 カジノ・ロワイヤル』(1967)でも再現されてたようなパースペクティブの狂った歪んだイメージ。

(2019-9-23追記)
コレジャナイ感の正体がやっと分かりました。(後で思いつくタイプです…)
ネタバレになるので詳しく書けませんが、動機と手段のミスマッチです。心理学、精神分析を中心に据えてるはずなのにあのありさまでは台無しなのでは? もう一つはウィリングが最後のシーンで何を期待したのか、という点。実験台をいたぶる性悪さしか伝わってこないのですが… (私は何か誤読してるのでしょうか?)

No.200 7点 誰の死体?- ドロシー・L・セイヤーズ 2019/09/16 19:57
1923年(T. Fisher Unwin)出版。創元文庫で読みました。翻訳は会話が上品で非常に良いですね。副題はThe Singular Adventure of the Man with the Golden Pince-Nez、これHarper版にあったんですが、他の版には無し。文庫の冒頭にあるピーター卿の略歴は原書数冊あたってみたんですが無し。(訳者がつけたのかな?) Harper版にはウィムジイ家の紋章だけ載ってました。(ネズミは三匹、モットーは英語でAS・MY・WHIMSY・TAKES・ME) 全くの余談ですが、このモットーのようにスペースの代わりとして中黒(interpunct)を使うのは古ラテン語碑文でA.D. 200年以前に遡る由緒ある表記方法。今まで西洋人名に中黒を使わなかった私ですが、今後は態度を豹変させることといたしました。(きっかけはT. Fisher Unwin初版ダストカバー。表紙の作者名の表記がDorothy・L・Sayersで何コレ?と思ったのです。この初版のカバー絵もある意味「凄い」ですね。読了後、見てみてください… サイトFacsimile Dust JacketsでSayers Whose Body)
ピーター卿第1作。ピーター卿の長篇は第9作『殺人は広告する』(1933)しか読んでないので、ああ女流作家のスーパーヒーローものか、鬱陶しくなきゃ良いけど… と思ったら、結構いい奴じゃないですか。音楽の趣味もとても良いし。また素人探偵として、本作のピーター卿の態度は満点です。バンターとの関係もウッドハウス風味が強くて楽しい。途中でギアが変わるのも良いですね。物語を語る工夫が素晴らしい。締めはちょっと冗長ですが… ネタバレ防止の為、これ以上は言いません。本作の時点で作者はシリーズにする予定は無かったんじゃないか、と思いますが、次の作品以降の展開が楽しみです。(でも多分、小説として、これを超えるのは難しいのでは?)
献辞は
To M. J.
Dear Jim:
This book is your fault.(…以下略) あんたのせいで出来ちゃった、と冗談ぽく責めてる感じ?
Yours ever,
D. L. S.
ちゃんと翻訳されてるんですが、このM.J.(=ジム)が誰なのか解説なし。ググってみたらMuriel Jaeger(1892-1969)という女流作家でセイヤーズのオックスフォード時代のサマーヴィル・カレッジ仲間。ニックネームがJames, Jim, Jimmy。(どー考えても男だと思いますよね。) セイヤーズは大学時代の友人たちで女流グループを作って色々やってたらしい。(Mutual Admiration Society: How Dorothy L. Sayers and Her Oxford Circle Remade the World For Women(2019)という本に詳細が。フェミニズム味が強いと嫌なんですが、WWI当時の英国生活が活写されてそうな興味深い本だと思います。2019-11-7発売予定。)
以下トリビア。現在価値は英国消費者物価指数基準(1920/2019)で44.32倍、当時の1ポンド=5753円です。
p10 先代公妃: セリフの中ではHer Grace、地の文ではthe Dowager Duchess of Denver(これが公式。場合に応じてthe Dowager Duchess, the Duchess)、翻訳で全て「先代公妃」にまとめてるのはわかりやすい工夫だと思いました。
p11 もしもし(Hullo): 英国っぽい感じ。アクセントは後ろに置いてね。
p14 御前(my lord): バンターがピーター卿に「you」と呼びかける場合はyour lordshipと言う。(あなた様。この翻訳では同じく「御前」)
p15 シャーロック・ホームズ: 黄金時代の特徴。探偵小説のメタ小説としての探偵小説。本書のところどころに探偵小説ネタが顔を出しフィクションと実生活との違いが語られます。
p23 マニキュア(manicure): 「ここでは甘皮などの手入れ」との訳注。黄金時代の作品中に結構マニキュア男がいたけど、こーゆーことだったのね。
p27 年に二百ポンド: 115万円。バンターの給料。安い!(食住はピーター卿持ちとは言え…) じゃあ女中の給金とかはどのくらいなんだろう?
p32 アドルフ・ベック(Adolf Beck): 英国で1895年と1904年の2度も人違いで逮捕され2回とも有罪とされたノルウェー人。2回目の有罪宣告の10日後、二つの事件の真犯人Wilhelm Meyerが逮捕され事件は解決した。(英wikiより)
p34 『インゴルズビー伝説集』(Ingoldsby Legends): Richard Harris Barham作、初出1837年。19世紀には結構人気あり。実伝説も含むが、パロディめいたユーモラスな創作話がほとんどらしい。(英wikiより)
p49 スカルラッティのソナタ… ハープシコードでないと: 古楽器のパイオニアArnold Dolmetschの活躍が1915ごろ。英国でもバーナード・ショーなど支援者が結構いたようです。
p53 ベイカー街までの乗車賃2ペニー(a twopenny ride to Baker Street): 48円。 ところでtwopenceとの違いは何?(2019-9-17追記)阿呆です。名詞と形容詞の違いですね。
p55 きみはわが麗しき薔薇の花園/わが薔薇、わが薔薇、それぞきみ!(You are my garden of beautiful roses/My own rose, my one rose, that’s you!): 訳注では「20世紀初頭の詩のもじり」となってましたが、The Garden of Roses (1909, J.E. Dempsey作詞, Johann C. Schmid作曲)のサビに全く同じ歌詞あり。某Tubeでも聴けます。ところでサグが「御前」と言ってるように訳してるけど、原文は「you」
p58 善と恵み… (I thank the goodness and the grace/That on my birth have smiled): Jane Taylorの詩“A Child's Hymn of Praise,” from Hymns for Infant Minds (1810)。これGKCのManaliveにも引用されてたやつですね。ここには引用されてませんがAnd made me in these Christian days,/A happy English child.と続きます。
p63 宗教がおいや: 原則的にヘブライ人は好かない(p72)など、この小説のいたるところにユダヤ人嫌いが出てきますが、登場してるのは「例外的に良いユダヤ人」
p68 土下座する。ワトソンと呼んでくれ。(I grovel, my name is Watson): 随分とワトソンを見くびってます。
p71 グレイヴズ: 舞台の執事は常にグレイヴズというのはバークリーの法則『レイトンコート』(1925)
p75 スコットランド人… 用心深くてしみったれていて慎重で冷血: イングランド人のスコットランドいじりはジョンソン博士由来の伝統芸。
p79 紳士たる者、雨の中を帽子も被らずに…: 外出に帽子が欠かせない時代です。傘代わりの帽子、という事か。
p81 ホワイトヘイヴンから来た老人… 鴉をつけあがらすとは(There was an old man of Whitehaven... It’s absurd, To encourage this bird!): 訳注なし。みんな知ってるよね?という事か。A Book of Nonsense(1846) by Edward Lear。カラスで駄洒落になってる上手な翻訳。柳瀬尚紀先生は「鳥のごきげん取りやがる!」(岩波文庫) 柳瀬師匠に一枚。
p95 フラットを週一ポンドで借りていた: 同じ階の数部屋1組の借家だとフラットというのかな?月換算で家賃24922円。
p95 通いの家政婦: 慎ましい公務員の独身者でもこのくらいは雇ってる。
p96 バッハのロ短調ミサ『またかしこより栄光をもて』を唄っている(singing the “et iterum venturus est” from Bach’s Mass in B minor): ロ短調ミサ第18曲Et resurrexit中のバス独唱部分。
p101 本日付タイムズ紙個人広告欄(…)192x年11月17日: 広告は死体発見の翌日に出ているはず。とすると「先の月曜日」はその前日(11月15日)。1920年が該当。
p115 故チャールズ・ガーヴィス(late Charles Garvice): 1850生まれ1920年3月没。Caroline Hart名義も使って150作以上の通俗ロマンス小説を書いた。He was ‘the most successful novelist in England’, according to Arnold Bennett in 1910.(wiki)
p128 十四人の陪審員: 途中欠員に備えて14名なのか?
p136 ガス灯: 法廷の照明。まだ現役。水銀灯や蛍光灯は1930年代以降の普及のようです。
p151 変装の名人レオン・ケストレル(Leon Kestrel, the Master-Mummer): Sexton Blakeシリーズに出てくる犯罪シンジケートのボス。元米国俳優。The Case of the Cataleptic(Union jack誌 1915-8-28)初登場。
p151 駅売りの探偵小説(railway stall detective stories): 単行本ではなく雑誌な感じ。
p158 そのおズボンではなりません: ここら辺はジーヴス風味。
p159 トランプでやる遊び(play with cards, all about wheat and oats, and there was a bull and a bear, too):「訳注: <場>という遊び」ですが、ピット(The Pit, 1904年発売)の事か?トランプではなく専用カードを使う「商品(農産物や鉱物)の入札のための立ち会い取引をモデルにした、3~8人で遊ぶ非常にテンポの速いカードゲーム」なので文脈に合致してます。Wikiに詳細あり。
p160 ウィムジイ卿とお呼びしてしまって: ここら辺の敬称の呼び方ミニ講座が訳者あとがきにありました。丁寧な仕事です。
p163 土下座したいくらいです(I’m simply grovellin’ before you): ピーター卿は土下座好き。
p169 ガラテヤ人への手紙: 田川建三先生の『新約聖書 註と訳』に基づき大雑把にまとめると、パウロがガラテヤ人たちに、ユダヤ教徒じゃないんだから割礼などせずキリスト者の道を歩め、といささか見下した調子で送った手紙。成立は53〜54年。
p191「タトラー」(Tatler): 週刊誌。当時1シリング。白黒90ページ。舞踏会、チャリティー、競馬、狩猟、ファッション、ゴシップを掲載。写真が豊富なヴィジュアル誌。
p195 従僕兼執事を務め(to valet and buttle): バンターの自称。誰かがジーヴスは従僕であって執事ではない、と言ってたような…
p204 簡単なことだよ、ワトソン君(Perfectly simple, Watson): ここでelementaryと言わないところが、捻くれ者らしくて良い。
p211 半クラウン対6ペンスの賭け: 半クラウン=2シリング6ペンス=30シリング、5対1の賭け。
p218 ヘンティ(訳注: 少年小説家)とフェニモア・クーパーぐらいしか読まなかった: G.A.Hentyの方はアガサさんが子供の頃に(全集を全部)読んだと『クリスティ自伝』に書いてました。
p219『三文オペラ』でも弾いてくれ(play us the ‘Beggar’s Opera,’ or something.): ブレヒト版は1928年作。なので正しくはオリジナルの『乞食オペラ』(1728年ジョン・ゲイ作) 1920年にはロンドン、Lyric Hammersmithで1463回という驚異的な上演記録を残した。(wiki) 初日1920-6-6で1923-12-23が1463回目の最終公演。音楽はFrederic Austin(1872-1952)による編曲で彼の代表作にもなった。ここは多分その曲のイメージ。
p225 見変えられた女に勝る怒りは地獄にもない(hell knew no fury like a woman scorned.): この日本語表現(見変える)って初めてなんですけど、違和感あり。「振られた女の怒りは地獄越え」(娘道成寺ですな。)
p225 スコットランド人に見変えられた!(jilted for a Scotchman!): 「(俺を振って)スコットランド野郎を選ぶとは!」
p232 本物の豆スープだね(A regular pea-souper): 訳注でロンドン名物の霧のこと。pea soupとも。a regularはここでは強調の意味。
p235 飢えているロシア(starving Russia): 革命の余波。このエピソードをここにぶっこむところが非常に良い。
p255 ピーター卿はバッハを弾き: 憂鬱な曲だと思います。ロ短調つながりでフランス組曲第3番あたりでどう?(なお原文は単にLord Peter was playing Bach)
p269 ドアを勢いよく閉める(the banging of the door): 訳注で「叩きつけると自然に施錠される」こーゆーちょっとした知識はなかなかわかりませんね… ドロップ式の錠なのかな?

(2019-9-17追記)
tider-tigerさんの書評に全面的に賛成。(人の書評は自分のを書いた後で読むのです。) 私のやつはダラダラ長いだけですね… でもそれだけこの本を気に入ったということで… 翻訳はThe Lord Peter Companionを参考にしてるようなので入手したくなりましたが、アマゾン価格8万円… 無理です。

No.199 6点 こいきな奴ら- 一条ゆかり 2019/09/15 09:22
懐かしい!
妹経由で子供の頃に読んだ少女まんが。当時の日本人がイメージしてた外国ってこんな感じ。巷にはそばのようにスパゲッティを啜り込むお嬢さんたちがたくさんいた時代です。一条先生は当時から『りぼん』の大スターで、この頃の絵が一番好きだな〜。
初出は、第1話 ジュディス・ジュデェス(集英社「りぼん」昭和49年1月号)、第2話 エスパー狩り(集英社「りぼん」昭和50年1月号)。
銃はボルトアクションライフル(特定できるのかな?ボルトレバーが真っ直ぐなのは古くさいデザインだと思いますが… フォアエンドの形はWeatherby?)、ワルサーP38(表紙も)、シリンダと撃鉄の間が狭すぎるリボルバー、ブローニングハイパワー?、判別不能なリボルバー、FN M1910っぽい自動拳銃、M16A1っぽいアサルトライフル(ただしフォアサイトとキャリハン欠、スコープ付き)、モーゼルC96、と豪華。車もいろいろ(ロールス・ロイス、ランボルギーニミウラ、ポルシェなど)登場してて、ちゃんとしたメカ担当がいるようですね。
まー話はお気楽な冒険活劇です。当時の映画が色々思い浮かびますね…

No.198 6点 月明かりの男- ヘレン・マクロイ 2019/09/13 20:35
1940年出版。(Pretty Sinister BooksというWebサイトを見たら、Dell版(Mapback edition)裏表紙の大学建物群の鳥瞰図がありました。これ付けてくれたらかなりわかりやすいですね。まだ読んでない人は是非参照してください。) ベイジル ウィリング第2作。創元文庫で読了。翻訳は原文のハンデ(ところどころ英文が出てくる… でも必然性ありなんです。シリーズ最後の翻訳となったのも止むなしですね。)にもかかわらず端正な出来です。
マクロイの長篇は初めて。設定がJDC/CDばりの凝りまくった本格もの。いろんな事件が起きて、いろんな人が次々登場するので、ちょっと混乱します。(冒頭部分から100ページくらいまで読み直しました。) 私の目当ては硝煙反応(=パラフィンテスト)だったのですが、そこは素通り。犯行当時、手袋をしてたら当時のテスト方法では検出できないのですが、最重要容疑者の手袋の硝煙反応を調べないのは疑問。当時は布製からの検出はできなかったのかな?(また調べることが増えてしまった…)
起伏に富んだ面白い筋たて。「月明かりの男」は目撃証言ネタとして感心したのですが、ロフタス先生あたりが実際に実験してそう。(また調べることが増えてゆく…) 美女の扱いは不満。ベイジルの視線がもっと絡みつかなきゃ… そしてアクションシーンが不得意、これは女流作家に共通してるかも。(JDC/CDなら冒頭とラストは長い格闘に持ち込んでます。) 全体として黄金時代の香りが嬉しい、次の作品が楽しみな探偵ものでした。(解説の意味深なのも気になります。) ただしウィリングのキャラが印象に残らない。まーそれもシリーズを読み進める楽しみ、ということで。
以下トリビア。原文は入手してません。
作中時間は五月四日土曜日と明記、1940年という設定。ヨーロッパと中国ではドイツと日本が戦線拡大中、という時代。まだ米国は参戦してません。
銃は最初に「四五口径のコルト」が登場。SAAかな?と思いましたが、流通量と扱い(スイングオープンしてるような描写あり)から考えるとM1917でしょうね。続いて「リヴォルヴァー(…) 先の大戦の置き土産、モーゼル」が登場。モーゼルのリヴォルヴァーって結構レアなM1878通称Zig-Zag(数タイプあり)なんですが… 自動拳銃の間違いかも?と思いましたが、黒色火薬を登場させたりしてる作者なので文字通りモーゼルのリヴォルヴァーとして考えて良いと思います。自動拳銃でxxは動作不良(一発撃つだけなら問題なし)になりますからね。
p32 千ドル: 機械の値段。米国消費者物価指数基準(1940/2019)で18.33倍、現在価値195万円。
p147 銃や戦闘機を買うための足し: 給料のほとんどを本国に送っている理由。マクロイさんは中国に造詣が深い印象あり。「燕京綺譚」の内容はほとんど覚えていませんが…
p150 チャーリー・チャン… フー・マンチュー… 探偵小説: 黄金時代の特徴、探偵小説への言及。
p174 上質のストッキング: 日本製が入って来なくなって高くなった、というのをクール&ラムシリーズで読んだ記憶があります。Hose, silk and rayon, not full fashionが1940-12で1組平均36.3セント(706円)という統計あり。1920年代の調査ですが絹ストッキングは1組25セントから10ドルの幅があったようです。最初のナイロンストッキングは1939-10-24にデビュー、 “Nylon Day”(1940-5-16)には全米の百貨店の棚に用意された四百万のナイロンストッキング1組(値段$1.15=2235円)がたった二日で売り切れた。その後、米国が戦争に突入したら資源節約でナイロンストッキングの製造は中止。本格普及は戦後。

No.197 5点 The Baffle Book- ラシター・レン&ランドル・マッケイ 2019/09/11 04:22
The Baffle Book : fifteen fiendishly challenging detective puzzles / by Lassiter Wren & Randle McKay. (David R. Godine 2006)
まだ現物が届いてないのですが(おっさん様の手元には届きました?) 例のごとく色々調べたので、とりあえずエントリー。
かつて由緒正しいDoubledayのCrime ClubからThe Baffle Book(1928)、The Second Baffle Book(1929)、The Third Baffle Book(1930)の三冊が立て続けに出版された人気作。フチガミ様の「海外クラシック・ミステリ探訪記」によるとダグラス・G・グリーンのGreen’s Quorum(1990-1993)にもThe Baffle Bookが選ばれています。
ただし、Gordine 2006版は、このThe Baffle Book(1928)の全30篇のうちの最初の15篇だけを収録。後半の15篇はThe Baffle Book Strikes Again: Fifteen Devilishly Difficult Detective Puzzles by Lassiter Wren & Randle McKay. (David R. Godine 2008)として出版されています。おっさん様お目当てのThe Sandy Peninsula Footprint Mysteryは5番目の作品で、ちゃんとGordine 2006版に収録されていますので、ご安心を。
作者のLassiter Wren & Randle McKayって何者?と思って調べたところ、どうやらただ一人のペンネームらしいです。(According to Allen J. Hubin's CRIME FICTION III, the author of this series of books apparently was actually John T. Colter.)
まーヒュービン先生が言ってるなら正しいんでしょうね。
このJohn T. Colterについて調べましたが、Webに情報は落ちてませんでした。
Lassiter Wren & Randle McKayの方は editors of Mystery Leagueという記載があり、えっあの雑誌?と思ったら、短命に終わったミステリ叢書の名称でした。(1930-1933にかけて30冊を出版。Edgar Wallace以外は知らない作家ばかりです。) Baffle Bookの儲けを元手に、ということでしょうか。
The creative team of Lassiter Wren & Randle McKay, “Originators of the Detective Puzzle Form,” flourished in the period 1927-1930.という記載もあり、とすると雑誌に1927年から発表されてたのでは?と考え、探してみたのですが、FictionMags Indexには1929年 Clue Magazineの記載しかありませんでした。でもいきなり30篇の書き下ろしとは思えないんですけどね。
若い頃、子供向けの推理パズル本が結構出回ってて(大抵「ユダの窓」のネタばれを食らうやつ)それを懐かしく思い出しています。
まだ発送連絡すら来ないので、発注先の選択を間違えたかも。(何度かキャンセルされ別のショップを選びなおしたことがあります。)
気長に到着を待ってるところです。

No.196 7点 ノーサンガー・アビー- ジェーン・オースティン 2019/09/08 09:21
1818年出版。ちくま文庫で読了。翻訳は実に軽妙。セリフの処理や訳注の入れ方にセンスの良さを感じます。
ゴシック小説を読む娘たちというメタ小説なので、ゴシック小説はオトラント城(1764)しか読んでない私としては、最低でもラドクリフ夫人のユドルフォ(1794)を読まなきゃ、というわけで一旦中断。
17歳の娘さんの起伏に富んだ社交デビューの話。からかい気味の(でも嫌味のない)地の文が心地よい。当時の温泉行楽地バースの状況と社交生活が生き生きと描かれています。そして「小説ばんざい」という作者の(憤慨を込めた)強烈な自負。訳文のテンポが良いせい?それともジェーン オースティンって、いつもこんなに素晴らしいの?しばらくオースティン漬けになりそうです。(まあその前に『ユドルフォ』読まなくちゃ。英語のラドクリフ全集を手に入れましたが、無駄に長い!読めるかなぁ…)
(以上2019-9-2記載)

The Mysteries of Udolpho、普通の段組で1000ページ近いボリューム、(多分日本語訳の文庫だと軽く三倍のページ数。)ちょっとズルしてWeb等で内容紹介を見たらかなりうねうね進む物語らしい。冒頭付近の数パラグラフを読んだだけであっさり白旗を上げました。でもコールリッジだかウォルター スコットだかが評したらしい「好奇心が貪欲に読者を次は?次は?と誘う」ってのはまさにミステリ。そして結末には次々と起こった怪奇現象に対する合理的な種明かしがあるらしい… 説明無用の怪奇小説から合理的なミステリへの初期形態ですね。(タイトルにmysteryと銘打ったのもこの作が最初?なおこの部分はブログ『英国アート生活』の「ラドクリフ夫人『The Mysteries of Udolpho』」とヴァーマ『ゴシックの炎』(立ち読み)を参考にしました。)
だいたいユドルフォを把握したので、ここらでノーサンガー アビーに戻ります。
出版経緯がちょっと複雑で、書いたのが1799年頃(当初のタイトルは『Susan』)出版社に売れたけどなかなか出版されず、業を煮やした兄が出版社から買い戻し(1816)、別の作者によって同タイトルの小説が先に発表(1809)されちゃってたので、主人公の名をキャサリンに変え、すぐ出版するはずが、結局、作者の死後(41歳の早すぎる死だったとは…)に出版となった。現在の題は兄によるもの。スーザンの方が地味めな印象なのでこの主人公に合ってる気がする。(気のせいです。)
12章まで読みましたが(40%程度)ハラハラドキドキの塩梅が良くて、とても楽しい。
(2019-9-4記載)

立派な謎が登場して最後までとても楽しめました。当時の日常生活の息吹が感じられます。次の作品Sense and Sensibilityの冒頭を立ち読みしましたが、この小説のぶっちゃけた語り口は後ろに引っ込んでる感じでちょっと残念。
そーいえば、ディクスン カーは「ジェーン オースティンとジョージ エリオットの作品は全部大嫌い!」と宣言してますね。(『曲った蝶番』) きっと、この小説は読んでないと思います。オースティン食わず嫌いな人で、英国が好きで、謎が好きな人に自信を持ってお勧めします。
以下トリビア。
現在価値は英国消費者物価指数基準(1799/2019)113.27倍で換算。1ポンド=14703円です。
p18 たった10ギニー: 約1ポンド(1 guinea=21/20 pound)。10ギニーは15万4千円。数日間の旅行代にしては「たった」という事か。先に挙げられた百ポンドとの対比か。
p33 1ヤードたったの9シリング: 6616円。生地はモスリン。
p45 小説: 若い娘さんたちが読んでる小説のリスト。セシーリア(1782)、カミラ(1796)、ベリンダ(1801)、ユードルフォの謎(1794)、イタリア人(1797)、ヴォルフェンバッハ城(1793)、クレアモント(1798)、謎の警告(1796)、黒い森の魔術師(1794)、真夜中の鐘(1798)、ライン河の孤児(1798)、恐ろしき謎(1796) 今クリスティ自伝を読んでますが、アガサさんもなぜ子供は怖い話を喜ぶのか不思議がっています。
p60 五十ギニー: 77万円。ギグ馬車(新品同様)の値段。順当な値。
p64 小説なんて読みません: トム ジョーンズ(1749)、修道士(1796)以外は馬鹿な小説という意見が語られる。
p75 ミス ソープ(苗字): 長女なのでこう呼ばれる、との訳注。Missとは家族の中で最年長の未婚女性の称号なのか。
p77 同じ相手と二回踊る: 舞踏会のルール。さらに続けて踊ると特別な関係を噂されるらしい。
p109 たったの四十ギニー: 62万円。道路用としての馬一頭。
p158 親戚でもない若い男性とのドライブ: ぼんやり夫婦にとっても「未婚女性には不面目な行為」
p161 nice: 正しい意味のミニ講座あり。現代の「かわいい」と同じかな。nice nice very niceって何だっけ?(ググったらVonnegutのCat’s Cradle(1963)でした… 変なことを覚えてるもんですね。)
p169 殺人事件か何かが起こるのね: そーゆー小説をお嬢様方はお好み。
p188 一度結婚式に出たら、また出たくなる(the old song ‘Going to One Wedding Brings on Another’): 昔の歌。CD “Jane Austen Songs”(Patricia Wright, PEARL 1989)にあるかな?と思ったらありませんでした。Webでも該当なし。

(2019-9-14追記)
オースティンの続く作品を全然読んでないので、これから書くことは全く的はずれかもしれません。でも思いついたので一応書いておきます。最後がとても慌ただしいのが、読了後、ずっと気になってました。でも、あっそうか、これ私の本当に書きたいことじゃない、と作者が途中で気づいちゃったのだな、と閃いたのです。熱量が中盤以降若干落ちてるのはそのせいなのでしょう。そして見つけた「書きたいもの」が次作以降の作品群だった… とまたまた妄想してしまいました。やっぱりSenseを読みたくなってきました…

No.195 5点 スタイルズ荘の怪事件- アガサ・クリスティー 2019/09/01 22:40
アガサファン評価★★★☆☆
1920年10月出版John Lane (New York)、英国版は1921年1月。早川書房のクリスティー文庫(kindle版)で読みました。
意外にも初出は新聞連載(18回)。The Times newspaper's Colonial Edition (aka The Weekly Times) from 27 February (Issue 2252) to 26 June 1920 (Issue 2269) (wiki)
このThe Times Colonial EditionというのがWeb検索でもヒットしません。The Times Weekly Edition 1920-8-27が(なんと)ヤフオクに出てましたが、多分、この週刊紙のことだと思います。毎週金曜日発行、6ペンス。写真やイラストが豊富な週間新聞のようです。殖民地版ということは大英帝国のニュースを一週間分まとめてイラスト付きで各殖民地に報道する趣旨なんでしょうか。他にどんな小説が載ってたのか気になります。なおアガサさんの次作『秘密機関』もこの週刊紙に連載してます。
アガサさんのデビュー作。さて小説の内容は、フェアな本格探偵小説らしい小説。(見取り図や手紙のコピーもいかにもな感じで登場。) でもポアロがヘイスティングズに途中経過を一切説明してくれないので読者もイライラしちゃいます。全体の組み立てはまだアマチュアっぽい感じ。登場人物はぎこちなさがあり、男たちが総じて上手く描けていません。(特にヘイスティングズ。) 初期のアガサさんらしい、ロマンチックな仕上がりなので良しとしましょうか。(自伝とか創作ノートとか参考書を読んだ上で評を書こうか、と思ってたのですが、なんか今はその気分じゃないので、後で気が向いたら追記します。)
さてトリビアです。ページ数は電子本なので全体(3705ページ)との比率で考えてください。
作中時間は7月16日が月曜日、と明記されてるので1917年。
p75/3705 一カ月の疾病休暇(a month’s sick leave)… 友人に出会う: 「緋色の研究」の冒頭のシチュエーションと一致。
p75 十五歳も年上(He was a good fifteen years my senior)… 45歳(he hardly looked his forty-five years): a goodなので「少なくとも、以上」のニュアンスか。ならばヘイスティングズは30歳そこそこかもっと若い感じ。
p117 二十歳以上も年下の男と: のちにアガサさん自身が14歳年下と再婚するとは…
p121 多少はガソリンが手に入る… 大きな戦争が避けがたい結末に向かって突き進んでいる: この時点ではまだ戦時下、という設定。もちろんWWIのこと。
p140 電文のような省略した話し方: 誰か実在のモデルがいたのでしょうね。
p191 戦争が始まるまではロイド保険協会: ヘイスティングズの(意外な)前歴。
p199 犯罪捜査… シャーロック ・ホームズ… 探偵小説: 黄金時代の特徴。探偵小説を読みすぎた者たちが小説のような事件に遭遇する前フリ。
p216 目とまつげが黒かったら 、さぞ美人(With dark eyes and eyelashes she would have been a beauty): この感覚はちょっと分からず。この娘は赤毛だからダメなのかな?
p233 夕食は七時半… 夜の正餐は遠慮して… 倹約の範(Supper is at half-past seven. We have given up late dinner for some time now.… an example of economy): そーゆー倹約もあったのですね。
p513 ガス灯: 廊下ではロウソク。室内にはガス灯がついてます。
p993 腕をわたしの腕にからませた(slipping his arms through mine): ポアロがヘイスティングズに親愛の情を示す。ホームズとワトソンがやっててヴィクトリア朝の男性には珍しくない行為だ、という話を聞いたことがあります。
p1730 ひとりは小柄で 、隙のない感じの 、黒髪の 、イタチのような顔をした男(One was a little, sharp, dark, ferret-faced man): ポアロとは1904年からの知り合いであるジャップ(Detective Inspector James Japp of Scotland Yard—Jimmy Japp)の形容。レストレードっぽい描写。(“a little sallow rat-faced, dark-eyed fellow" in A Study in Scarlet and "a lean, ferret-like man, furtive and sly-looking,” in "The Boscombe Valley Mystery".) 差別用語Japの意図はないらしいです。(日英同盟が失効したのは1923年。)
p2637 「むろんユダヤ人です 」(a Jew, of course): このセリフの後で「愛国者」「たいした男と感心する」と言っています。あまり差別感情はなかった?
p2812 この灰色の脳細胞(These little grey cells): 有名な文句の初出。かなり後半(76%)。この作品では一度きり。
p3182 一人遊び用のトランプ(a small pack of patience cards): 小さなサイズのデックがありpatience-sized packと称されてるようです。なのでここは「小型の」を入れるのが正解。

(2019-9-15追記)
スーシェ版のTVドラマ(1990)を見ました。
原作通り1917年の設定。時代考証も大丈夫なようです。(あまり詳しくありませんが…) 地元軍?の訓練風景あり。ライフルはSMLE mk3で全く問題なし。軍服も当時風。(こっちは詳しくありません。)
イングルソープ氏のbeardは頬から顎にかけての髭のようです。Web検索では頰ひげも含む顔の下全体を覆うような髭のイメージか。映像では「とても長い」ではなく1〜2センチ程度。
イングルソープ氏が食器の音を立てて食べるシーンがあったのですが、育ちが悪いという描写?
ベルギー人亡命者が行進中に歌うのはTipperary。ビールが出てくるのはベルギー名物だからかな?
当時の救急車と葬儀のシーンが映像的にはとても興味深かったです。
ドラマは全体的に原作に忠実。上手く1時間半ちょっとにまとめてます。原作ではヘイスティングズが一発で惚れてしまうカヴェンデッシュ夫人の外見がもっと魅力的ならなお良かったですね。(個人の感想です。)
あとp216「目とまつげが黒かったら 、さぞ美人」は、この娘が赤毛の薬剤師、ということがポイント。アガサさんも赤毛で戦時中は薬剤を扱ってたので、自分のことをunderstateしてるんじゃないか、と思いあたりました。

No.194 7点 ホロー荘の殺人- アガサ・クリスティー 2019/08/28 04:47
クリスティファン評価★★★★☆ (特記が無い部分は2019-8-24 20:25に登録。原文を入手して結構長い追記をしたので再登録しました。)
1946年出版。ハヤカワ文庫で読みました。ずっと読む機会を逃してた残り少ないクリスティの未読作。(とは言え昔読んだ大抵の作品を覚えてないので「未読」というラベルは私にとって無意味。)
最初の章で全員を軽くスケッチ。(このテクニックが上手。) 次からの章で重要な登場人物を独白も交えて描写。読者を簡単に小説世界に誘います。偉大なるポピュラー小説家ですね。
ところが読み進めると心理描写があっちこっちに行くので落ち着きません。視点が固定されてない小説は好みじゃないのです… (特に第10章の独白は、きっとあの人はあの時こう感じてたのでは、という誰かの回想にした方が効果的だと思いました。)
ポアロの登場でさらに変な感じが増し、やれやれと思ってたら、後半は起伏のある展開が続き、最後はすっかりアガサ姉さんにやられました。第28章、オーブンのすぐ後、多分小説史上最高に愛らしいxxの登場もお気に入りです。そして最終章が実に素晴らしい。ミステリはクリスティしか読まない私の知り合い(♀)にぜひ感想を聞いてみたいです。
まージョンの疲れとか考え方は全然納得いかないんですが、各女性キャラがかなり良く描けてるのでは?(特に第2章が好き。) 私はセイヤーズが「文学的」だと思ったことは一度もないのですが、この作品も文学を狙ったというより「平凡な」感覚を低俗に落ちないで「平凡らしく」描いた力作だと思います。(スーシェ版の映像化を見たら冒頭から下劣な感じで途中で落ちました。監督は「そういうふうではない(p220)」感じを全く理解していない…)
この小説、構成を変えたらもっと良くなるような気が… ポアロ抜きの劇場版は翻訳されてないのかな?(でも本作の不安定なバランスも捨てがたい…)
さて、人並由真さまの疑問「硝煙反応」ですが、作者は事件の前日に遊びで拳銃を撃たせたり、当日狩猟に行かせたりで、ほとんどの登場人物に火薬残留物を振りまいています。当時のパラフィンテスト(最初は1933年メキシコ)なら、こういう場合、全員に陽性反応が出てもおかしくありません。作者は意図的に状況設定していると感じました。(パラフィンテストの弱点は、残留物がいつ付いたのかわからない、近くで発射された残留物とも区別出来ない、マッチの火薬などでも検出してしまう、などなど。まだ初歩的な分析で、最初の改良は1959年ごろ。)
当時の読者がパラフィンテストを知ってる可能性が低いので作者が説明を省いたのでしょうか。発射した銃がライフリングマークで特定できるという知識は探偵小説経由として説明してますね。こちらは1925年生まれで、しかもパラフィンテストと違い、科学的に決定的な証拠です。
以下、トリビア。原文入手出来ませんでした。
作中時間は、戦中戦後であれば何らかの形で戦争の影があるはず。とすると1938年か1939年か。(1938年以降というのは確実。後述参照)
旧ハヤカワ文庫の表紙、真鍋画伯のコラージュは中心にリボルバー。(多分、参照したのはColt Official Police、全体のフォルム、スクリュー位置、撃鉄付近のデザインが一致。) 良い表紙絵ですが、残念ながらコルトでは内容に合いません。
登場する銃でメーカー名が明記されてるのは、まず「三八口径のスミス・アンド・ウェッソン」いろいろ候補はあるのですが、レア物なら登場するガンコレクターが蘊蓄を傾けると思うので、当時最もポピュラーなミリタリー&ポリス(38スペシャル弾)が最有力か。(アガサ姉さんが銃に興味がないのでモデル名を書いてないだけか…) 続いて「モーゼル拳銃… 二五口径… きわめて小型の… 自動拳銃」候補は二つ。M1910かWTP。きわめて小型という表現からWTPが有力。 初期型のモデル1(1921-1939)とさらに小型化したモデル2(1938-1945)があります。
執事が自動拳銃(オートマティック)を「輪胴拳銃(リヴォルヴァ)」と呼び、警部が「それはリヴォルヴァじゃない」と指摘するのですが「銃に詳しくないから知りません。」まーそーですよね。弾倉がリヴォルヴ(回転)するからリヴォルヴァなんですが、普通の人にとって「リヴォルヴァ」はピストルやハンドガンの洒落た言い方くらいの認識でしょう。
p74 デラージュ(Delage): 自動車メーカー。造形的に面白いのはD8-120(1937-1940)でしょうか。クリスティって鉄道好きらしいのですが、自動車のメーカー指定をしてるってことは結構メカ好き?
p76 殺人ゲーム: このパーティの余興がいつ頃始まったのか、現在調査中。1860年以降、という記述をWEBで見つけましたが…
p154 へディ ラマー(Hedy Lamarr): ハリウッド デビューの1938年からこの芸名に変えたので作中時間はそれ以降であることは確実。
p159 ニュース オブ ザ ワールド(News of the World): 俗悪紙として繰り返し言及。Wikiにタブロイド誌とあったので、ケバケバしいカラー誌を想像しましたがWebで見つけた1939年9月のは白黒の普通の新聞ぽい感じ。
p179 遊んで暮らせる人: ここに登場する人びとは大抵資産持ちの有閑階級。
p180 週4ポンドの仕事: 雇用主はホワイトチャペルのユダヤ女。英国消費者物価指数基準(1938/2019)で66.75倍、現在価値34310円。月給換算だと14万9千円。
p189 [警部には]男の子がいて、夜なんかメカノを作る手伝いしてやって…: Meccano is a model construction system created in 1898 by Frank Hornby in Liverpool, United Kingdom.(wiki) うちにはありませんでしたが日本でも結構ポピュラーな知育系おもちゃなのでは。結構古い歴史があるのが意外。我が家はレゴ派でした。
p215 こんなすてきな詩をご存知?… 『日はゆるやかに過ぎていく、一日、そして一日と。わたしは家鴨に餌をやり、女房に叱言を言い、横笛で吹くはヘンデルのラルゴ、そして犬を散歩につれてゆく』: ある読者がクリスティにこの詩の出典を尋ねたら「思い出せない」ということだったようです。poem dog day handel largoで検索したらヒットしました。Creature Comforts by Harry Graham (1874-1936)より。
The days passed slowly, one by one;
I fed the ducks, reproved my wife,
Played Handel's Largo on the fife,
Or gave the dog a run.
p249 あの女[女優]はハリウッド帰りです--新聞で読んだのですが、あそこでは、ときどき射ちあいをやるそうですな: 後段は 「向こうで数本撮影した(shot)」じゃないかな?
p263 ニガー イン ヒズ シャツ: お菓子の名前。チョコレートに卵とホイップクリームをかけるらしい。外人が喜ぶらしい。調べつかず。
p266 使い古しのパイプ、1パイントのビール、うまいステーキ、ポテトチップ: 警部のリラックスタイム。
p284 ヴェントナー10: 便利な小型車… 燃料もくわない… 走行性もいい… スピードがでない… 60マイル以上は出ないらしい。調べつかず。架空名?
p298 皿洗いの女中に対してすらあんな扱いはしない: 確かに店員に対しては、ひどい対応をする人がいるよね。
p303 三四二ポンド: 上述の換算で現在価値293万円。
p330 きみは逝き、すでにこの世のものならず…(後略): 何かの詩。調べつかず。

(2019-8-25追記)
スーシェ版のTVドラマを見終わりました。ジョンが下劣に描かれてるだけで、他の人物はかなり原作に忠実。銃の再現が素晴らしいレヴェル。S&Wミリポリ、モーゼルM1910、S&W DA 4th Model、コルト オフィシャルポリス… でも私が好きな場面は全部カット。TVの限界を考慮すると精一杯の脚本かも。でも原作の魅力は半分も伝わらない感じ。せめてジョンをもっと好感の持てる人に描いて欲しかったなあ。

(2019-8-28追記)
原文を入手しました。
モーゼルはquite a small weapon「quite a +形容詞」は、米語ならかなり強調するニュアンスですが英国英語ならratherの意味。(Web上のBBC learning english参考) とするとノウゾーさんの「きわめて」は強めすぎか。スーシェ版のモーゼルM1910で妥当ですね。
p215 「こんな詩」の原文は“The days passed slowly one by one. I fed the ducks, reproved my wife, played Handel’s Largo on the fife and took the dog a run.” 最後のand took以外は原詩通り。うろ覚えでもこの精度。韻文の力って偉大ですね。余談ですがHandel’s Largoと言えばOmbra mai fuなんですが、FifeでMessiahのNo.13 Pifa(こっちはシシリアーナですが)を連想しました。
p249 ハリウッドで撃ち合いはand by what I read in the papers they do a bit of shooting each other out there sometimes. 警部のジョーク?能三さんの訳で大正解。
p263 私の入手した版はHarperCollinsの電子版だったのですがニガー イン ヒズ シャツはMud Pieに変わっていました… (元の表現は当時の英国らしくて良いと思うのですが…)
p284 It’s a Ventnor 10. 検索しても見当たらないのでやはり架空名なのでしょう。
p330 きみは逝き... の詩は、He is dead and gone, lady, /He is dead and gone. /At his head a grass green turf, /At his heels a stone.’ ハムレット(Act 4 Scene 5)から。オフィーリアの台詞。文学好きならすぐピンときてたんでしょうね…

なお、この作品、クリスティの戦後初出版です。(正確にはアガサ クリスティ マローワン名義のエッセイ「さあ、あなたの暮らしぶりを話して」が先。) 戦争のことに一切触れてないのは(クリスティの中では)ポアロが戦時中に終わったので、クロニクル的に戦前の事件とせざるを得なかった、ということでしょうか。(まー後の作品ではそんなの関係なくなってますけど)
でもこの作品は突然の死を悼む気持ちに溢れていて、戦没者に対する鎮魂歌にもなってる気がします。レディアンカテルの「死んだからって特別なことじゃない」という一見冷たい言葉も喪失感に対する気持ちの整理としてある意味正解でしょう。
そして当初の製作メモではHenriettaがElizabeth、MidgeがGwenda、John ChristowがRidgewayだったと知って、この作品はアガサ姉さんの最初の結婚に(無意識的に)整理をつけているのでは?という妄想にとらわれはじめています… (わざわざChristieに見紛う姓というのが、あからさま過ぎるのですが…)

(2019-8-30追記)
こないだから妄想全開です。
証拠を少々補完。(なるべくネタばれしないように書いています。)
Elizabeth→Henriettaの変更はVirgin Queenから不倫大王Henry VIIIへ。裏テーマの暗示?
Savernake=Saviour+nake=Christ + unveil? やはりクリスティを連想させる単語。
ドジでのろまな奥さんの旧クリスティ(Gerda)と職業作家である新クリスティ(Henrietta)の対比。

さて、結論です。
秘密を告白したくなっちゃうのは人の常。
アガサさんも自作のなかに誰もが知りたがった失踪事件について(ついうっかり)言及してるに違いない、という妙な確信があって、昔、読んでたことがありました。
この作品がそうなのではないか。
発表のタイミング(戦後の新しいスタート)、クリスティを暗示させる姓、不倫というテーマ、妙に力の入った心理描写。
そうなると当時の記憶喪失の真相は本作の筋を考えると明白。
あくまで妄想です。
でもこれ、いかにも「アガサ姉さんらしい」企み、と思いませんか。

(2019-8-31追記)
ラストを読み返していて、トリビアを一つ発見したので追記。
p366『彼のごとき人にふたたび会うことはないであろう』(We shall not see his like again.): Web検索すると I shall not look upon his like again. (William Shakespeare, "Hamlet", Act 1 scene 2)がヒット。原文どおりの有名句は無いようですが、いくつかのWebからwe shall not see〜の形で結構引用されてるような感じを受けました。

私の中ではアガサ姉さんとの架空対談まで妄想してるのですが、発表しません。
でもこの作品でアガサ熱に火がついてしまったので、2020年から始める予定だった100周年記念企画を今からスタートさせることにします。(誰もが考えるような平凡な発想ですね…)

No.193 6点 臆病な共犯者- E・S・ガードナー 2019/08/24 04:26
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第48話。1955年11月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評の転載です。いずれ再読したらあらためて書きます。)
1954年から1961年まで毎年メイスン3作のペースが続きます。策略好きのメイスン、株主になり重役会に出席し、事件に巻き込まれます。メイスンの正式名にミドルネームはない。帽子掛の胸像は「グラッドストン」(原文でも誤記、正しくはブラックストーン) 。メイスンは誤魔化しをお膳立てし、ホルコムに死体発見をからかわれます。予審ではバーガーと対決、冒頭で無用の芝居気を除くようにと勧告されますが、上手く混乱を招きます。弾道検査の専門家レドフィールドはシリーズ2度目の登場。陪審裁判では追い詰められながらも見事な推理で鮮やかな解決を迎えます。(でも結末はどうなんでしょう)
銃はスミス&ウェッソン.38口径リボルバー銃身5インチ、シリアルS910684が登場。SシリアルはNフレームの銃(S&W.38/44か.357マグナム)のものですが、S333454までしか存在しません。(S91068の誤記だとすると1952-1953年製) 薬莢は.38スペシャル(この翻訳では「.38口径スペシャル」)のピータースとU・M・Cで弾丸は158グレイン。Peters Cartridge CompanyもUnion Metaric Cartridge Companyもレミントン傘下です。
(2017年4月30日記載)

No.192 6点 日光浴者の日記- E・S・ガードナー 2019/08/24 04:15
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第47話。1955年5月出版。Saturday Evening Post連載(1955-3-5〜4-23) ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評の転載です。ちょっと変更。いずれ再読したらあらためて書きます。)
ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の3作目。トレイラー生活の裸体愛好家が依頼人。未解決の現金消失事件が浮上します。バーガーはメイスンを大陪審に召喚し証言させた上で、予審で偽証罪に陥れようとしますが、まんまとはぐらかされ地団駄を踏みます。解決はちょっと複雑な感じ。トレイラーは「去年の型の」25フィートのヒライヤ(Heliar 架空ブランド?)、車は黄色いキャディラックのコンバーチブルが登場。
唐突に安全運転宣言をするメイスン、初期の暴走ぶりと比べるとうってかわった態度。作者が誰かに言われたのでしょうね。
(2017年4月29日記載)

No.191 6点 色っぽい幽霊- E・S・ガードナー 2019/08/24 04:07
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第46話。1955年1月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評の転載です。いずれ再読したらあらためて書きます。)
薄い唇の女が事件を持ち込みます。珍しく作中に日付と曜日が明記され(8月15日、日曜日)、これは1954年が該当します。高級ホテルで優雅な暮らしを楽しむストリート嬢。メイスンは今回も危ない橋を渡り、ホルコムの追求を上手く誤魔化します。予備審問が開かれず、大陪審経由の陪審裁判で五里霧中のメイスン、バーガーに追い詰められますが、ネチネチ尋問で活路を開き、判事に嫌われながらもなんとか真相を突き止めます。
銃は38口径スミス・アンド・ウェッスン社製連発拳銃、銃身2インチ、シリアルC-48809が登場。このシリアルはKフレームのfixed sightモデルで1948-1952年製を意味します。該当するのはミリタリー&ポリスですね。自動車はオールズモビルが登場。エアコン付きの車はまだ珍しかったようです。

No.190 6点 落着かぬ赤毛- E・S・ガードナー 2019/08/24 04:02
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第45話。1954年10月出版。Saturday Evening Post連載(1954-9-11〜10-30) ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評の転載です。ちょっと変更。いずれ再読したらあらためて書きます。)
ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の2作目。冒頭から法廷シーンで、メイスンは新人のぎこちない反対尋問にアドヴァイス。デラは速記の代わりに録音スイッチを入れます。今回も危ない橋を堂々と渡るメイスン、勝手気ままなな行動に説教するデラ、でもメイスンはどこ吹く風です。予審では厳格な判事が法廷を仕切りますが、メイスン流にすっかり混乱、バーガーは苛立ちのあまり大統領暗殺を告発します。解決はかなり複雑。ラストはいつもの赤毛への偏見で幕。
銃は新製品Colt Cobra .38口径、2インチ銃身の6連発、シリアル17474-LWが登場。LWはlight weightの意味で、このシリアルだと1952年製です。コブラは1950年からの販売、作中でもその軽さ(アルミ合金で重さ19オンス)が話題になっています。車はフォードの新車が登場。

No.189 6点 駈け出した死体- E・S・ガードナー 2019/08/18 22:39
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第44話。1954年6月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評の転載です。いずれ再読したらあらためて書きます。)
危ない橋を大胆に渡るメイスン、ここ数作、違法スレスレの行動が多くて嬉しいです。メイスンとデラは旅客機やチャーター機を駆使してカリフォルニア州を飛び回り、フレスノで非常に友好的なDAに出会います。予備審問ではそのDAと対決、協力して事件を解決に導きます。結末には「犯罪のために乾杯」が再び(ただし音頭をとったのはメイスンではありません)
(2017年4月26日記載)

No.188 6点 消えた看護婦- E・S・ガードナー 2019/08/18 22:35
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第43話。1954年2月出版。Saturday Evening Post連載(1953-9-19〜11-7) HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評の転載です。ちょっと変更。いずれ再読したらあらためて書きます。)
実は前作(1953年11月出版)より前に発表されています。ポスト誌連載は「そそっかしい子猫」(1942年)以来ですが、本作から1962年まで毎年メイスンものをポスト誌に連載(10年間に14作)、人気の高さがうかがえます。(単純計算で、この期間中は1/5くらいの高確率でメイスンものがポスト誌に掲載されてます。)
見え透いた罠に飛び込むメイスン、冒険癖が抜けません。バーガーと地方検事局で立ち回りを演じ、危ない冒険も辞さない行動派メイスンです。予審で地方検事をきりきり舞いさせ、被告を隠したメイスンにバーガーが襲いかかります。法廷侮辱罪は初めてか。武闘派バーガーとお間抜けホルコムを翻弄し、解決に至りますが、結末はちょっと複雑です。
(2017年4月23日記載)

No.187 6点 緑色の眼の女- E・S・ガードナー 2019/08/18 18:11
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第42話。1953年11月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評の転載です。ちょっと変更。いずれ再読したらあらためて書きます。)
第4シリーズ(私的な区切りは69話まで)は、ポスト誌のレギュラー扱いからTVドラマ化(1957-1966)の時代。実はレイモンド バーのTVシリーズをみたことがありません。ポータブル録音機、嘘発見器など新技術がどんどん出てきます。無駄に複雑な筋は50年代後半から割と単純な筋(まあそれでも結構込み入った話)になって行きます。
冷たい目の女が事件を持ち込みます。ポータブル録音機が登場、ボタン一発で録音が簡単に出来る時代に入りました。乱暴なホルコムに対して、トラッグは相変わらずスマートです。メイスンの乾杯の文句は「敵の敗北のために」予備審問でメイスンはネチネチ尋問を行い検死医をいじめ、ホルコムは判事に怒られます。最後は急展開で解決、モヤっと感ありです。
以下はトリビア本The Perry Mason Bookの情報。
トラッグのファーストネームArthurが記されたのはシリーズ初(翻訳では省略)。トラッグがPerryと呼んでいるのも初。前作「ためらう女」の登場人物の苗字を再利用: Brogan, Doyle, Fritch, Kaylor & Hanover。メイスンの指紋が当局に提供されたのは「掏替えられた顔」の時。
(2017年4月23日記載)

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弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
平均点: 6.10点   採点数: 446件
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