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[ 本格 ]
決定的証拠
ミッチェル&バーンズ
ロドリゲス・オットレンギ 出版月: 2016年02月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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2016年02月

No.1 5点 弾十六 2020/03/08 10:06
1898年出版のRodrigues Ottolengui作Final Proof or the Value of Evidence (G. P. Putnam's Sons)の全訳。kindleのヒラヤマ文庫で読んでいます。歯科医の平山先生の専門知識が生かされる、まさに天職。
一応、英国雑誌Idler(Jerome K. JeromeとRobert Barr編集、6ペンス[=469円]144ページ)を初出としていますが、米国雑誌が初の可能性も。このkindle版では当時の雑誌イラストが綺麗に再現されてるのが良いですね。
足で稼ぐプロの私立探偵Mr. Barnes(John又はJack Barnes)と裕福なアマチュア探偵Mr. Mitchel(Robert Leroy Mitchel)のコンビが楽しい作品集。ところで主人公たちの名前は、この翻訳では「バーンズ」「ミッチェル」という表記だが、原文は全篇一貫してMr. Barnes、Mr. Mitchel、なので「バーンズ氏」「ミッチェル氏」がしっくりくる。
初出は平山先生の解説をFictionMags Indexで補正。原文はGutenbergを基本に、Google playのファクシミリ版(多分1898年初版)も参照。

⑴不死鳥殺人 The Phoenix of Crime (初出不明): 評価7点
舞台はニューヨーク。とても魅力的な謎。登場人物が生き生きと表現されており、質問シーンばかりが続く文章ですが、読ませる力があります。当時の米国火葬(cremation)状況は、1876年Francis Julius LeMoyne(1798-1879)がペンシルヴァニアに火葬場を開設したのが最初で、1900年までにBuffalo, New York, Pittsburgh, Cincinnati, Detroit, Los Angelesなど20カ所に設置され、1913年には1万件以上の火葬が行われたようです。(1913年の全米死亡者数は89万人なので1%強) 棺桶のネジの話は実話っぽい感じ。
p46/6096 シャーロック・ホームズ: 探偵小説への言及。
p73 いつも通りに赤いテープが現場にめぐらされた(the customary red tape was slowly unwound): 試訳「いつものお役所仕事がゆっくりと動き出した」警察が立ち入り禁止を示すのは黄色のBarricade tape、1960年代の登場。red tapeは「(形式的な)官僚主義」 18世紀、多くの公的文書を赤いテープで縛っていたことから。
p199 カラー写真(a colored photograph): 色をつけた写真、彩色写真。まともなカラー写真が発売されたのは1907年。(映画で有名なリュミエール兄弟が開発したもの)
p488 執事… 知的なニューヨークの黒人(butler... intelligent New York negro): 名前はThomas Jefferson。
p890 五ドル札: 情報提供料。米国消費者物価基準1898/2020(31.08倍)、$1=3414円で換算して、$5=17070円。かなり高額。当時の5ドル紙幣は2種類あり、Silver Certificateなら1886年以降のUlysses S. Grantの肖像、サイズ78.5x190.5mm、Treasury Noteなら1890年以降のGeorge H. Thomas将軍の肖像、サイズ80x189mm。
p1525 同じ鍵でどのドアも開く(one key will open any door): 貧乏人が住むアパートの仕様。
p1525『仕事と罪の勘定が合う(punishment fits the crime)』: ギルバート&サリヴァン作『ミカド』(1885初演)第2幕 A more humane Mikadoからの引用。ニューヨーク初演は1885年7月20日Union Square Theater(Sydney Rosenfeld製作)だが一夜だけ。評判になったのは本場D’Oyley Carte Londonが行ったFifth Avenue Theaterでの公演で1885年8月19日から250回のロングランとなった。この登場人物は1894年6月〜9月の公演(John Duff一座、Fifth Avenue Theater)を観たとすると時期が合う感じ。
p1609 カクテルのマンハッタン(Manhattan cocktail): 1860年代発祥。
p1705 日給1ドルのまっとうな仕事(a straight job at a dollar a day): 月額103846円。
p1714 ビールのグラス(beer glass):「ジョッキ」と訳せば武器っぽくなる。
(2020-3-8記載)

⑵ミッシング・リンク The Missing Link (初出不明): 評価7点
いや、啞然としました。⑴を読んでから試してみてください。(その方が効果的) この作品はダーウィニズムに反発する立場から書かれたものなのでしょうか。(2020-3-13追記: Ottolenguiさんの略伝を見るとかなり科学的な人なので、おそらくダーウィン派。ならば当時のミッシング・リンク騒ぎをネタにしただけなのか)
p2290 人間と類人猿の間をつなぐ『失われた輪(ミッシング・リンク)』('the missing link' which connects the Simian race with man): 1863年Charles Lyell著Geological Evidences of the Antiquity of Manなどで使われた言葉。1891年にはジャワ原人(Pithecanthropus erectus)の発見があった。
(2020-3-10記載)

⑶名無しの男 The Nameless Man (Idler 1895-1 挿絵Stanley L. Wood): 評価5点
面白い依頼だと思ったのですが、残念な結果に。バーンズ氏は部下を数人使ってるのですね。500ドルはp890の換算で171万円。デルモニコ(Delmonico’s)は実在の有名なレストラン。
(2020-3-10記載)

⑷モンテズマのエメラルド The Montezuma Emerald (Idler 1895-2 挿絵Stanley L. Wood): 評価5点
まあこんな感じかな、という平凡な発想の作品。一応、⑶の続篇。
p2610 警部補(Inspector): 英国人なので警察官ではないバーンズ氏をこう呼ぶ、という。
p2664 金属の輪でできていて(made of steel links): 鎖帷子(chain mail)のことか。
p2664 デリンジャー・ピストル(derringer)… 不気味な弾丸(a nasty-looking ball): デリンジャーは手のひらサイズの拳銃の総称ですが、ここは一番有名なRemington Model 95 Double Derringer(1866)のことでしょう。弾丸は.41 Short Rimfire、長さ23mm、直径10mm(リム部分12mm)のずんぐりムックリな可愛い奴です。
p2682 おとぎ話の少年(the fabled boy): イソップ童話(Perry 210) 詳細はThe Boy Who Cried Wolf(wiki)
p2719 二万ドル: 米国消費者物価指数基準1895/2020(30.79倍)で$1=3382円。$20000=6764万円。エメラルドの値段。
p2753 二十五セント銀貨(a silver quarter): 846円。当時の25セント銀貨はBarber quarter(1891-1916)、銀90%、直径24.3mm、重さ6.25g、表がHead of Liberty、裏がアメリカ合衆国の国章のa heraldic eagle。
p2863 顔がわからないほど潰れていた(face we battered beyond description): 試訳「識別出来ないよう顔を潰した」
p2873 四ドル: 13528円。一日の乞食の収入。ドイル『唇の捩れた男』(Strand1891年12月号)では乞食の年収が700ポンド以上、と書いてあるらしい。(日暮さんのWeb情報) 英国消費者物価指数基準1891/2020(127.89倍)で1270万円、日額34799円。
(2020-3-13記載)

⑸奇妙な誘拐 A Singular Abduction (Idler 1895-3 挿絵Stanley L. Wood): 評価5点
どの部分がsingularなのだろう。連絡方法にちょっと工夫があるだけの凡庸な話。手がかりの翻訳はパスしてるように見えるけど、原文でも普通に表記(izをiiとしていない、ファクシミリ版も同じ)なので、実は問題ない。
p2911 誘拐というのが専門用語なんでしょう(Abduction I suppose is your technical term): この物語の中ではkidnapという語は使われていない。身代金目当ての誘拐事件は1874-7-1発生のCharley Ross(当時4歳)事件が米国初。この時の要求金額は$20000(1874/2020基準で4984万円)、結局チャーリーは見つからなかった。大きな誘拐事件は1900-12-18のEdward Cudahy, Jr.事件まで発生していないという。(wiki)
p2929 実はわたしはこの年ですが、ホイストに目がなくて(I am an old whist player):「昔からホイスト好きで」という意味だと思います… 平山先生、時々気になる表現があります。
p3075 こちらも同様にする(I will go to another): 多分、ホフマン・ハウス・ホテルには公衆電話室(the public telephone station)が一つしかなく、別のホテルなどの電話室からホフマン・ハウス・ホテル宛に電話すれば必ずその電話室に繋がるのでしょう。最初、読んだときはホテルには複数の電話室があるはずのに、なぜ確実に連絡できるのか理解出来ませんでした… (同じホテルの電話室同士で相手が入ったボックスの番号を見てから「5番に繋げ」と言うのか?などと想像。でもこれだと目撃される危険性が高すぎです)
p3085 わかるでしょう?: ここは探偵が家族に「(この証拠は本当に)間違いありませんか?」と確認している。こーゆー所はちゃんとした編集者がついていれば指摘してくれるんじゃなかろうか。
(2020-3-14記載)

⑹アステカのオパール The Azteck Opal (Idler 1895-4 挿絵Stanley L. Wood): 評価6点
証言だけからの推理がなかなか上手に構成されている。ラストが謎めいていますが、⑺でその謎は解明されるようです。ミッチェル氏の宝石収集の理由が面白い。なお挿絵の左側がボケてて残念。
(2020-3-15記載)

⑺複製された宝石 The Duplicate Harlequin (初出不明): 評価6点
前作⑹の続きなので、初出はIdlerか。探偵二人のやりとりとその周辺も楽しい話。
p3646 ルセット(Lucette): シリーズ第1作An Artist in Crime (1892)に登場するミッチェル氏もバーンズ氏もお馴染みの娘。
p3909 大口径のリボルバー拳銃(a revolver of large calibre): 44口径か45口径だろうか。候補は沢山あります。
(2020-3-15記載)

⑻イシスの真珠 The Pearls of Isis (初出不明)
前作⑺の続きですが、内容はほぼ単品です。冒頭で⑺のネタバレを壮大に行ってるので要注意。

⑼約束手形 A Promissory Note (初出不明)
⑽新式偽造 A Novel Forgery (初出不明)
(11)凍てつく朝 A Frosty Morning (The Black Cat 1898-8)
(12)証拠の影 A Shadow of Proof (初出不明)


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ロドリゲス・オットレンギ
2016年02月
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