海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

レッドキングさん
平均点: 5.27点 書評数: 888件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.288 6点 終りなき夜に生れつく- アガサ・クリスティー 2020/02/23 17:53
下層階級に生まれつき、小器用に仕事とガールフレンドを渡り歩いてきた、飄々とした青年が出会った「運命の女」は、大資産家の娘だった・・・。
アガサ・クリスティー十八番の遺産相続プロットと人間関係トリックに、まさかの「あの」一発大ネタ再現、その上、操りネタまで付き、まさしく魅惑の集大成。ポアロは出てこないけど。
※あのネタはともかく、この作品、第一人称叙述が成功の勝因。第三人称だったら「どんな女でも魅かれる美青年」とか描写されてしまい効果薄れてた。

No.287 7点 孔雀の羽根- カーター・ディクスン 2020/02/22 00:23
秘教結社オカルトを匂わせた不可能殺人が二つ。一つ目の死体には、至近距離からでしかあり得ない銃痕が二つ。だが部屋は完全な監視下にあり、被害者以外の出入りは不可能だった。二人目は背中にナイフを突き立てられて殺されたが、やはり犯人出入りは不可能で、その上、死体が消失していた。ナイフトリックの方は、後年、ポール・アルテが、同じアイデアをもっと切れあじよく再現した。嬉しいことに「人間椅子」サービスも付いてる。

No.286 6点 漱石と倫敦ミイラ殺人事件- 島田荘司 2020/02/20 19:11
「空中ブランコ」「ジェットコースター」級の大技トリックより、これ位の中技の方が、品格と含蓄があって良い。
夏目漱石に対しても、彼の「異常性」を描きながら、「リスペクト」を失っていないところが素晴らしい。

No.285 4点 異邦の騎士- 島田荘司 2020/02/20 18:53
島田荘司では「眩暈」と並んで好きな小説だ。個人経歴の改竄と記憶操りトリックが実にミステリアス。
ただ、メインのオチ「僕ってだれ?」種明かしが、御手洗潔シリーズ読んでないとインパクトない。残念!

No.284 6点 女には向かない職業- P・D・ジェイムズ 2020/02/19 08:27
ドロシー・セイヤーズは、ほぼ食わず嫌いだが、ドロシー・ジェイムズは好きだ。
「母は、私が生まれて一時間しか、この世にいなかった・・」
「父は旅暮らしの詩人、アマチュア革命家・・」 
「(探偵は)女には向かない職業でしょうに・・」・・母親とは女には向かない職業である・・
あのダンディな警視探偵でなく、この若き女探偵こそシリーズ探偵にしてほしかったな。

No.283 5点 時には懺悔を- 打海文三 2020/02/18 15:42
「ハードボイルド」分類が妥当なのだろうが、本当は「探偵小説」としたい。これこそまさに探偵物語。「本格」ミステリの仮想空間のみに存在する名探偵という架空種族でもなければ、トレンチコート中折れ帽の仏頂面「ハードボイルド」探偵でもなく、凡庸で薄汚れていて豚の様に這いつくばって地を嗅ぎまわる、現実的で等身大の探偵たちの物語。
同業者を殺した犯人を追いながら、謎の水頭症児の秘密に行き当たってしまう男女の探偵ペア。誰もの頭にもよぎるダミーストーリー展開に引っ張っておいて、想定できる範囲の意外な真相で終わる。少しは驚かせてくれるが。
メインテーマの障害児ネタは「社会派」の押しつけがましい説教やイデオロギーの臭みはなく、しみじみとした良い読後感を残してくれる。

No.282 7点 緋色の記憶- トマス・H・クック 2020/02/16 21:04
敬虔な寒村社会の少年の前に現れた浪漫的な男女の「英雄」。かつて「遥かな国遠い世界」を夢見た少年が、老いさらばえて追想する残酷な事件の顛末。
日本語タイトル「いまを生きる」という、厳格な男子校に現れた型破りな教師と彼に憧れた少年達を描いた映画があったが、その原題は「Dead Poets Society(死せる詩人の会)」だった。この小説で少年が心惹かれたのもまた「詩の仲間たち」・・放浪の女画家とラテン語教師、身寄りのない少女・・
だが結局、少年の偶像達も、たんに情事の苦い結末を噛みしめる不倫男女に過ぎなかった。三島由紀夫「午後の曳航」と同じテーマ・・色褪せたかつての輝かしき英雄への少年の失意。
あらためて読み返すと、厳格な学校校長でもある少年の父親もまた、女教師に内心心惹かれ、彼女も最後に父親の浪漫に気付いていたことが分かる。
そして何より、生涯に三回・・親と夫と少年と・・三回にわたり捨てられた、あの奥さんの死の前の絶望感があまりにも痛ましい。それ故にこの少年には死ぬまで魂の安らぎは許されない。

No.281 3点 幽霊塔- 江戸川乱歩 2020/02/16 17:43
おおおお懐かしい! こんなのあったなあ「幽霊塔」。子供の頃、ラジオドラマでもやってた。痺れた。

No.280 6点 灰姫 鏡の国のスパイ- 打海文三 2020/02/13 18:19
普段はスパイ物なんてまず読まないが、この作者のデビュー作にして「第十三回横溝正史賞優秀作」なので読んでみたら面白かった。外務省くずれの諜報売買企業社員達を中心に、北朝鮮地下組織、その反体制組織、米国CIA等が複雑に入り組んだ暗躍を行う国際スパイミステリであると同時に、組織内闘争のミステリであり、謎の北朝鮮工作員「灰姫」をめぐる歴史ロマンミステリでもある。
が、この作品、何と言っても「灰姫」とは誰なのかのフーダニットミステリであった。「『反体制組織』に偽装した『体制地下組織』」に偽装した「反体制組織」・・合わせ鏡のように無限に反転する正体、結構ミステリしてた。

No.279 7点 石のささやき- トマス・H・クック 2020/02/12 10:36
現人類以前の古代人類には聴こえていたという「声」。偉大な詩人や狂者病者犯罪者の耳に通底して聴こえた「声」。父から姉弟その息子娘へと受け継がれるおぞましい血と「声」。静謐な筆致で描写されて行く絶望感と恐怖。
それでも、一体、何が起こってしまったのか?のホワットダニットの結末は、「声」による救いだった。

No.278 7点 痺れる- 沼田まほかる 2020/02/10 15:14
・「林檎曼陀羅」 半ば呆けた老女の記憶に点滅する、姑と自分と息子に関わる痛ましい真実の映像。
・「レイピスト」 安全な場所から気晴らしだけを女に求めた男と、冷酷な男への怨念を絶望的に諦念する女。
・「ヤモリ」 気まぐれに迷い込んだ館での気晴らしの果てに、館主の中年女に「命ごと」所有されてしまう若い男。
・「沼毛虫」 主家の幼女に献身的に使えた召使男の残酷で痛ましい童話。
・「テンガロンハット」 静かな日常に普通に侵入してきた男とのナンセンスなバトルの顛末。
・「TAKO」 冴えない不愛想な女と、映画館で隣席した痴漢「タコ男」のエロチックでナンセンスな小噺。
・「普通じゃない」 ウザいだけで特に恨みもない老人の殺害計画を練る女のブラックコメディ。
・「クモキリソウ」 一人暮らしの若い女と、料理だけは上手いが不器用で冴えない中年女の切ないファンタジー。
・「エトワール」 「別れた妻」への男の追想に振り回される女の日常的なサスペンス。  

この短編集をミステリというジャンルで括るのは正しくないのかもしれない。内容のほとんどは犯罪・・殺人から迷惑防止条例に至るまで幅広いが・・に関わっているし、謎の解明の趣きもあるのだが、趣旨は表現自体の方にあり、日常ホラー、日常サスペンス、ミステリアスホラー、不思議ショート・・て言った方がよいのか。だが、単に「文学」て言っても、もちろんミステリと呼んでも全然構わない。

No.277 6点 猫と鼠の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2020/02/09 18:16
2回射殺された金持ち色男と容疑者の非情裁判官と目撃者の娘。アリバイ時間トリックの解釈を持ちカードに、娘の証言をサイ目にして、自白心理戦ポーカーを争う探偵二人と容疑者。女の資産が目当ての、いかにもなジゴロ風に見せかけて、実は骨のあるなかなかの資産家だったという被害者人物像返しと、アリバイトリックがちょっと面白い。

No.276 6点 殺人者と恐喝者- カーター・ディクスン 2020/02/07 23:16
左手でトリックを仕込む際には、右手に観客を惹きつけるってのが手品の鉄則と知ってるが、目を凝らして読んでても騙される。あの緊迫の場面での来客闖入が手品の目くらましとは分かるが、ネタバラしには茫然。トリック、〇〇ο〇ハ〇〇って・・・嗚呼!! もう一個の手品の方はオーソドクスにして地味に見事。
ヘンリ・メリヴェール卿の自伝口述に無茶苦茶爆笑。

No.275 4点 満潮に乗って- アガサ・クリスティー 2020/02/04 23:01
アガサ・クリスティー十八番の二大トリック。
➀人間関係トリック・・・「あなたは人間関係に関心をもたれているわけですね?」「さよう・・・私の関心は、つねに、人間関係に向けられております」・・ポアロのセリフに暗示されているトリック。
➁キャラ一捻りトリック・・・プロット上、一番怪しい立場の人物のアクを一旦読者に印象付けて、その後にそれを薄めるか逆に誇張して幻惑させることで陰に隠してしまうトリック。
その十八番が、このいかにもな人々の遺産相続をめぐるいかにもな犯罪のミステリにも見事に展開。

No.274 7点 メルカトルかく語りき- 麻耶雄嵩 2020/02/04 22:00
・「死人を起こす」 ある異常な恐怖症を根拠とした「殺人」のロジック。実は犯人候補が無限大状態である事を隠したとんでもない犯人指摘。5点
・「九州旅行」 殺人者によるアリバイトリック作成中の現場に友人を放り出すとんでもない探偵の話。6点(あの後、美袋どうなったんだ?) 
・「収束」 高さと位置のロジックから、三つの正解候補を挙げて、結論を出さないまま作品のみならず読者も「シュレーディンガーの猫」状態に放り出すとんでもないミステリ。7点
・「答えのない絵本」 閉ざされた舞台で起きた殺人。容疑者は20人。だがメルカトルのロジック(「Aを行った」のは「Bという状況」を利用する為で、その「Bという状況」を知るには「Cという状態」が必要で、「C状態という条件」を満たす人物Xとは・・)の行き着いた果ては・・ああ、げにとんでもない結論。エッシャーの騙し絵の三次元移植の無意味さにも似た・・これやっぱり採点不能
・「密室荘」 密室状態の家に他殺死体と二人の人物AとB。「殺人が行われた」「犯人はAかB以外にあり得ない」「AもBも犯人ではない」「犯人は存在しない」「ゆえに殺人は存在しない」「したがって死体はあってはならない」・・・受け入れるか拒否するしかない、究極のアンチミステリ・・・これも採点不能
※以前「答えのない絵本」単体で採点しましたが、削除して、作品集全体・・平均ではなく・・として採点。7点。

No.273 5点 蠟人形館の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2020/01/29 18:17
バンコランシリーズ第四弾。ミステリには「蝋人形館」「お化け屋敷」「廃墟」「ゲテモノ展示館」等のケレン味は欠かせない。かといってタイトル自体に「蝋人形館」「爬虫類館」謳っちゃうとねえ、ちと鼻白んじゃうかなと。話は面白いんだから、これに不可能犯罪が一つでもあったら満足できたかな。

No.272 5点 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー 2020/01/14 08:54
天才ディクスン・カーの記念すべき長編第二弾! アンリ・バンコランいいなあ。惜しいことに滑稽味には欠けるが。

No.271 7点 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー 2020/01/14 08:47
わがジョン・ディクスン・カーの記念すべき長編デビュー。当然に点数にはオマケが付く。
「真の恐怖は~滑稽とは無縁でなく・・」カーの方法論は既にこの作で確立していた。

No.270 6点 死との約束- アガサ・クリスティー 2020/01/12 18:44
コブラの心を持つ毒蜘蛛大ガマ女、知性感性卓越な女精神科医、剛腕女政治家、太鼓持ち饒舌女、赤毛の狂少女・・・怪物女たちのメルヘン。
「殺されて当然」て以上に「殺されなければ読者の気が済まない」て程のヒールの被害者出しちゃうと、犯人摘発自体に否定的感情がかかる。こうなると読者にとって探偵は悪役でしかなく、おい、ポアロ、どうすんだ?もう一回「オリエント」やるか?・・と思ってたら一人だけいたわ、「処罰されるのに相応しい加害者」てのが・・見事!

追記。三谷幸喜ドラマ見た。野村萬斎ポアロ(すぐろ!)なかなか。ただ、毒グモ女役は故野村サッチーとかがよく・・

No.269 6点 友達以上探偵未満- 麻耶雄嵩 2020/01/09 21:31
女高生探偵物なので「夏と冬の奏鳴曲」「痾」のヒロイン:舞奈桐璃を期待したが、その魅力はなかった。が、表紙イラストから危惧した劣化ラノベミステリではなく、麻耶はあくまで麻耶であった。麻耶ではあったが作品集全体としては3~4点。
だが、「世界は、観察者である探偵と、観察される群衆と、ワトソン役でできている。」・・この言葉、探偵が己の孤独を癒す媚薬としての「ワトソン君」ではなく、「第一人称」「第三人称」による完結幻想を批判する他者=「第二人称」としてのワトソン役を要請した麻耶雄嵩の「ミステリ哲学」と過大評価して、2~3点オマケ付けちゃう。

キーワードから探す
レッドキングさん
ひとこと
ミステリは戦前の乱歩の様に 子供が親に隠れてコッソリ読むような、恥ずかしい存在でありたい。 ミステリ書きという驚異的な作業に神経を減らし 結果報われることの無いミステリ作家たちに心から崇敬を捧げます。 ...
好きな作家
ジョン・ディクスン・カー  PD・ジェイムズ  トマスH・クック  沼田まほかる
採点傾向
平均点: 5.27点   採点数: 888件
採点の多い作家(TOP10)
アガサ・クリスティー(88)
ジョン・ディクスン・カー(55)
エラリイ・クイーン(51)
F・W・クロフツ(34)
二階堂黎人(30)
アーサー・コナン・ドイル(26)
カーター・ディクスン(25)
トマス・H・クック(23)
麻耶雄嵩(21)
ジェフリー・ディーヴァー(21)